暗い魂の乙女   作:Ciels

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不死教会、ロートレク

 

 

 亡者とは基本的には理性の無い獣のようなものだ。それでいて亡者同士には仲間意識でもあるのか、外敵を排除しソウルを貪ろうとしてくるものだ。理屈は分からないが、そういうものなのだ。

 そういう意味で言えば、今まで私達がロードランで対峙してきた亡者達は戦術というものはまるでなかった。配置に関して言えば嫌らしいものもあったが、それは亡者になる前の記憶や習慣がそうさせているのだろう。故に彼らは敵を見つけ次第わらわらと群がってくる。

 

 だがここに来て、私達は初めて戦術というものに苦戦させられていた。強化した武器を携え、バルデル兵とバーニス騎士を各個撃破しようとしていた矢先の事だった。教会内の二階から、唐突に魔術が我々に牙を向いたのだ。

 近接戦ではバーニス騎士を相手にし、その隙に撃ち込まれるソウルの矢は私達を数度死に追いやってみせた。そして苦し紛れにバーニス騎士を打ち倒し、魔術師の姿を初めて見てみれば……

 

 六目。そう、目が六つある。否、それはきっと本物の瞳では無い。魔術師が被る被り物の模様がそう見えるだけ。だがその不気味な見た目の魔術師は、環境を利用し私達に襲いかかってきた。

 こちらには遠距離武器はクロスボウしか無い。おまけに何らかの魔術なのだろう、周辺の亡者共を活性化させる踊りをしてみせ間接的にも私達を苦しませる。直情的なデーモンよりもよっぽど脅威だ。

 おまけにどうやら理性や目的もあるらしく、二階へと侵入した私達に亡者共をけしかけるという知略も行って見せた。通常よりも攻撃的かつ筋力と耐久力の増した亡者共は数で私達を蹂躙しにかかった。

 

 だが悲しいかな、所詮は理性を持たぬ亡者共だ。火炎壺の前にはその全てが無に帰した。最後は奇跡でも魔術でも無く文明の力が勝つ。

 後は一方的に長槍を持つ魔術師……六目の伝導者とでも言えば良いのか。そいつを嬲り殺す。防具のせいで多少時間は掛かったが、それでも二対一だ。数の力には勝てまい。呆気なく六目の伝導者は散っていった。

 

 鐘楼まではあともう少し。だが屋根に出る手前には……やはりと言うべきか濃霧がある。そして濃霧がある場所では大概強敵が出てくると言うものだ。一先ず私達は一度引き返し、亡者共から奪い取ったソウルを自らの糧とする。能力の強化は大切なのだ。

 

 

 

 金ピカの鎧が、そこにはいた。

 

 鐘楼への霧を抜ける前に探索していた私達が出会ったのは、牢屋に閉じ込められた金色の鎧を着た男だった。私の見立てでは、恐らく彼はカリムの騎士なのだろう。盾を携えず、左手には短剣と右手には恐ろしいショーテル……そして特徴的な鎧。これはカリムの騎士に由来するものだ。

 そして、目の前の騎士から発せられるソウルは何やら暗いものである。きっと数人は殺してきたような、そんなものか。それも利己的な理由で……

 

 声を掛けようとしたオスカーを手で制し、私が彼に話し掛ける。幸い牢には鍵が掛かっているし、何か問題があっても攻撃はされない。

 

「ん? 貴公、まだ人だな?」

 

 重く響くような声色が鼓膜を刺激した。声だけで分かる、此奴は危険な男なのだろう。

 

「では話は早い、助けてはくれないか?」

 

 だがそんな男はプライドの高そうな見た目に反してあっさりと私達に助けを乞う。

 

「見ての通り閉じ込められて、どうしようもないんだ」

 

 声色から多少なりとも焦燥感が見て取れた。どうやら困っているのは本当らしい。問題はどうしてこんなところに閉じ込められたのか、だが。

 そしてどうやらこの隣にいる上級騎士様はどこで拾ったのかここの鍵を持っているらしい。悪びれもせずに無垢な彼は鍵を取り出す。この純情坊やめ、これでこの得体の知れない騎士を放っておく事が難しくなったぞ。下手に放置すれば後々復讐されるかもしれないんだぞ。

 

「貴公、カリムの騎士よ。どうしてここに閉じ込められたのかしら?」

 

 私がそう問えば、彼は鼻で笑った。

 

「ほう、貴公……まぁ良い。それなんだが、私も分からぬ。道中出会った輩に唆されてな、貴重な宝があると牢に入ってみれば……この有様よ」

 

 半信半疑だ。この騎士は信用に値しない。だが鍵を目の前に提示してしまった以上、開けないわけにもいかなかった。故に私はオスカーに命じて鍵を開けさせる。いつでも手にしたメイスを振るえるように隠し。

 そうして牢を開けてやれば、彼はまだ座ったまま多少なりとも喜んで見せた。

 

「おう、感謝するぞ貴公ら……私はカリムの騎士であるロートレク。生憎持ち合わせが無くてな、礼は後程……そうさな、この下にある祭祀場でさせてもらおう」

 

 私達の去り際に、彼は一人使命が何たらと呟いて不気味に笑っていた。やはり彼を出してしまったのは誤りだったのかもしれないが……今はとにかく、鐘を鳴らすのが先決だ。後悔ならばその後でも良いだろう。

 それに、自ら騎士と名乗る人物なのだ。それなりに騎士としてのプライドも持ち合わせていると見た。恩を仇で返すような事はすまい。

 

 再び濃霧の前までやってくれば、その手前には見慣れぬサインがあった。白いサインろう石で書かれたそれは、よく見れば知った名前が書かれている。

 太陽の騎士ソラール。ちょっと前に出会ったあの変わり者の善人だった。どうやら彼との世界がズレたらしく、こうして霊体として助けてくれるようだった。

 そしてもう一つのサイン……それは今さっき助けた騎士、カリムのロートレク。と言う事は彼とも世界がズレたか。まぁ良い、使えるものは何でも使うのが私の流儀だ。

 

「ちょっと不気味だったが、やはり助けて良かった」

 

 純情な騎士様はそんな事を言う。だがそれに関しては同意だ。どうせこの先にはデーモンやら何やらがいるのだろうから、人数は多い方が良い。死ぬ確率も下がるものだ。

 両方のサインに触れ、霊体を召喚する。しばらく世界同士の干渉を待てば、それはやって来る。

 

 Y。相変わらず派手なものだ。太陽を賛美するポーズを取りながらソラールはやって来た。白く半透明なのは霊体だからであろう。そして霊体とは、口が利けぬものだ。あの朗らかな笑いも、今の彼は発しない。ただ私達に手を振り、召喚された事を歓迎してみせた。

 オスカーが一礼すれば、その横でもう一人も召喚された。カリムの騎士ロートレクだ。

 金ピカな鎧は白く半透明になったせいで妙に神々しい。彼は無愛想に何もせず、ただ私達が霧に入るのを待っているようだ。

 

 濃霧に入れば、そこには何もいなかった。ただ教会の屋根が広がり、行手には鐘楼があるばかり。石造りのガーゴイルの像が目に付くだけ。

 警戒は緩めず、オスカーを先頭に進んで行く。このまま何も無ければ苦労も減るのだが。

 

 しかし人生とは上手くはいかないようだ。特に不死になるくらいには運が悪い私達には、幸運の女神は微笑まない。突然、石造りのガーゴイルの像が動き出す。一体どういうカラクリなのだろうか、まるで生き物のように咆哮し、飛び、私達の前に立ちはだかったではないか!

 見た事もない生物の前に私とオスカーは一瞬面食らって怯んでしまった。だが助っ人である二人は。

 

 刹那、雷の矢が飛ぶ。それはソラールが放った奇跡。雷の槍と呼べば良いのだろうか、きっと大王グウィンを信仰する彼だからこそ扱えるであろうその槍は、飛んでいけばこちらへ斧槍を振るおうとしていたガーゴイルを止めるほどの威力を誇った。流石変わり者の騎士、その威力も並々ならぬ。

 そしてロートレクも走り込む。大振りのショーテルを勢い良く叩きつける様は歴戦の勇士。

 

 問題は、石でできた身体に刃が通らない事だ。

 

 カンっという音ともにショーテルが弾かれる。だが少しばかりは効いているようで、ガーゴイルの表面を少しばかり削ってみせた。

 

「剣は通り辛いようだ! 君のメイスが役に立ちそうだぞ!」

 

「同じ事思ってたわ!」

 

 言いながら、私達はガーゴイルに突っ込む。暴れる斧槍を掻い潜り、メイスの重い一撃を脚に打ち込んだ。バキンと鈍い音を発てて表面の皮膚が砕ける。これは良い、一撃でこれなのだから数発頭に打ち込めばあっさり死んでくれるに違いない。

 だがガーゴイルも愚かではない。飛び退けば、距離を取ってリーチの分を生かそうとしてくる。斧槍を掲げ、私達の届かぬ間合いから一気に振り下ろした。

 間一髪それを避ける。屋上の瓦が容易く割られたのを見るに、あれに当たれば死は免れない。

 

「囲むんだ!」

 

 私が叫べば各々が四方からガーゴイルを囲んで行く。いくら大きい巨体でも全方向から攻められれば対処もし辛いはずだ。

 

 

 

 突如、轟音が鳴り響いた。それはガーゴイルの咆哮に酷く似ている。勿論、目の前で囲まれてタコ殴りにされている巨体が叫んだのではない。分からないが、とにかく目の前の脅威に全力で対処していると。

 

 突然身体を襲った衝撃に意識が飛びかける。

 

 何が何だか分からなかった。いきなり何かに弾き飛ばされた。まるで牛頭のデーモンに打ち飛ばされた時のような衝撃。こちらに叫ぶオスカーが何を言っているのかも分からないまま、私は何とか立ち上がり顔をあげた。

 

 ガーゴイルが、もう一体いる。

 

 尻尾が無く、それでいて身軽なガーゴイルが私に迫っていた。何という事だ、敵も複数だったとは思わなかった。勝手に強敵は一体だけだと思い込んだツケが回ったのだ。

 突進してくるガーゴイルを、転がって避ける。身体の痛みは酷いが回復している暇などない。そして三人も私を助ける隙が無いようで、健在である最初のガーゴイルに苦戦していた。何ということか、石造りの生物が炎を吐いているのだ。

 

「クソ……!」

 

 とにかく二体目の薙ぎ払い攻撃を屈んで回避し、メイスを顔面に打ち付ける。どうやら一体目ほどの耐久性は無いらしく、顔面を砕かれたガーゴイルは怯めば両手を地につけてダウンした。

 すかさず両手でメイスを持って脳天を打ち砕く。まさに致命の一撃。メイスはガーゴイルの頭を粉々に砕いてみせた。これで一体。

 

「まだ終わってないぞ!」

 

 倒れたガーゴイルに背を向けて一体目に向かおうとした私に、オスカーは忠告する。私を覆った影に気が付き、背後を振り返れば倒したはずのガーゴイルは立ち上がり、健在だった口を大きく開けて炎を放とうとしていたのだ。

 燃える一撃を覚悟し木盾を構える私を、誰かが突き飛ばす。それはまさかのロートレク。彼は騎士として役目を果たそうと私を命懸けで護ったのだ。

 

 突き飛ばされた私が見たのは炎に呑まれ消滅していくロートレクの霊体。最初に疑った私は自身を恨む。そして多少なりとも申し訳なくなってしまうものだ。いくら死なぬ不死の霊体とは言え。

 

 私は仰向けに寝転びながら火炎壺を取り出し、それをガーゴイルに投げ付ける。炸裂した火薬はとうとうガーゴイルに引導を渡してみせた。流石にもうガーゴイルは起き上がらず、そのままソウルと化して消えていく。何と後味の悪い事か。

 

 最初のガーゴイルもまた、最早騎士二人の前には無力と化していた。ソラールが中距離で雷の槍を放てばオスカーが近接して剣で斬りつける。どちらかに対処すればどちらかがガーゴイルを痛めつけるのだから、やり辛い事この上ないだろう。

 私が向かう頃にはガーゴイルは膝を突き、息も絶え絶えと言った様子だった。止めの一撃を与えるべく、オスカーはクレイモアを左手に召喚し打ち付ける。

 

 砕ける石頭。強化されたクレイモアはその重みも相まって容易く手負いのガーゴイルを屠ってみせた。

 

 

━━Victory Achieved━━

 

 

 最後の最後に、ガーゴイルが暴れるという結末を伴って。

 

 

「ぐあっ!」

 

 

 死に瀕し暴れるガーゴイルの尾がオスカーを打ち付ける。死ぬような攻撃ではなかったが、問題はこの地にある。屋根とは傾斜しているのが常だ。そして鎧とは重く、故に傾斜を転がっていくオスカーは自らを制御できずに落下しかける。

 彼の名を叫び私は転がっていく上級騎士を追う。必死に止まろうとする彼は、しかし重み故に止まらず屋根から転げ落ちた。その刹那に手だけでぶら下がったのは、ある意味根性だろう。

 

「オスカー!」

 

 必死に片手でぶら下がるオスカーに駆け寄り、その手を取ろうとする。背後ではソラールの雷の槍がガーゴイルの核を撃ち破り始末していたが、そんな事気にしている余裕はなかった。

 急いで手を伸ばせば、ズルッと彼の手は瓦から滑り落ちていく。

 

 あと少しだった。指先はほんの少し彼の手甲に触った。でも、掴めなかった。

 

「リリィ! うわああああ!!」

 

 屋根から落ちていくオスカー。不死であるならば死なないが、人間性を補充しなければ死ぬ度に亡者へと近づいて行く。だから私は助けようとしたのだが。

 それすらも叶わず、彼の姿は眼下に消えて行った。空虚を掴む私の手だけが目の前に広がる。強敵を打ち倒し、しかし私にはソウルだけしか残らない。そんなもの、本当は必要ないのに。

 

 しばし私は彼の消えた底を見詰めた。あの下は火継ぎの祭祀場だ。もし運良く生きていれば、あの昇降機で降れば彼を見つけられるだろうか。それともアンドレイの所の篝火で復活しているだろうか。

 それは分からない。背後で申し訳なさそうにしているソラールが役目を果たして消えて行く。

 

 彼の代わりに、鐘を鳴らす。今の私にできることはそれしかない。

 




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