最近感想をいただけていないので、何でもいいから感想ください、何でもしますから!
聖人墓所。マデューラの中央にあるゴミ捨て場のような大穴を死なずに降れば、それはある。
一体どの時代の聖人を奉ったのかは分からぬが、とにかく名も伝わらぬような聖人が眠っているのだろう。寂れた集落の穴の下にある洞窟に似合わぬ程の遺跡が地下に広がる。松明が所々に設置されて灯されている所を見るに、今でも信奉者がいるのだろうか。或いは盗掘者か。
ここに来るまでに酷い目にあった。大穴には所々に木製の足場が掛けられており、多分私以外にも降りようとした者が居たのだろう。ならばと私も飛び降りれば、細い足場は折れて落下死しかけ、丈夫そうな足場に降りれば足を折る。
おかしいな、かつてのロードランであればこれくらいの高さは足を多少痛める程度だったのだが。太った?否、否々否。私が太るなんてことがあるはずがない。きっと、そうだ。装備している物が多いからだ。
シャラゴアを頼り、銀猫の指輪を購入して落下のダメージを減らして辿り着いたのがこの聖人墓所。おかしいな、シャラゴアと緑衣の巡礼曰く大穴の下は死体だまりのクズ底であると聞いたのだが。まだ下があったのだろうか。
まぁ良い。来たからには冒険しなくては。幸い入ってすぐに篝火もあったために休憩や転送には事欠かない。
篝火から離れて心機一転、冒険心を燃やす私はすぐ横で項垂れて動かない亡者くんに行ってきますを告げると聖人墓所を探索する。
聖人墓所ではなくファロス・ネズミーランドに改名すべきだ。探索し、中程まで進んだ私はそんな感想を抱く。
てっきり強そうな墓守や恥知らずの盗掘者辺りが出てくるのかと思いきや、居るのは大きいネズミだけ。しかも毒を体内に持っているせいで迂闊に攻撃を受けられん。生憎と毒を消す苔玉は持っていないんだ。
ネズミと同様にファロスの仕掛けも多い。
数えるのも億劫になるほどのファロスの仕掛けがあり、その殆どが罠である。そんなにファロスの石を持っていないので試してはいないが、どうやら大橋を動かす仕掛け以外は全部酸が流れる仕掛けのようだ。不死は酸程度では溶けぬが、着ている衣服や指輪は溶けたり破損したりするから厄介極まりない。橋だけ動かして後は触れぬ方が良いだろう。
そうして探索をし、遺跡も終盤になった頃合いだろうか。急に侵入者が現れる。
現れた闇霊は……裸?
恥部だけを隠す布と兜だけを身に纏っている変態が現れた。女性ならば大歓迎だが男は帰って欲しい。だが何か様子が変だ。手には何かを握る仕草。もしかすると武器や装備を透明化しているのだろうか。
警戒するに越したことは無い。思えばロードランで侵入した際もウーラシール由来の見えない武器なんかを用いる輩も居た。稀に女騎士が武器を隠してエクスなんちゃらと叫んでいたが何だったんだろうか。
そんな風に考えていると、探索者ロイがこっちに左手を向けた。刹那、唐突に矢がこちらに飛んでくる。どうやらクロスボウを左手に隠し持っていたようだ。
「おっと」
それをレイピアで弾く。確かに素早いが、弾道は直線的かつ物理攻撃であるために分かりやすくて剣でも弾きやすい。
私が矢を弾くと、探索者ロイはこちらに向かって走る。どこからか現れたネズミと共に。そう言うことか。こいつが墓守なのか。
多勢に無勢。一対一ならば負ける事は殆ど無いが、亡者と違ってネズミはチョロチョロと素早いから厄介だ。背を向け、私も逃げ出す。一旦こっちの有利な状況に持ち込もう。
大橋を渡り下の階まで逃げると、私は振り返る。どうやら見えぬ鎧を着込む探索者よりもネズミの方が早かったらしい。ゾロゾロと階段を降り、こちらへと一列で向かってくる。
魔術師の杖を取り出し、脳内で詠唱する。唱えるはソウルの結晶槍。結晶化する程に濃縮されたソウルは敵を貫くためのものだ。
一直線に並んでくれていたことが幸いした。ソウルの結晶槍は次々にネズミを貫くと大群を一網打尽にする。
「後はお前だけだぞ」
遅れてやって来た探索者ロイは、屠られた仲間を見て足を止めた。どうやら物量ではどうにもならぬと感じたのだろう。一対一で正々堂々と戦うつもりのようだ。稀に見る良闇霊だ。
左手の杖をカイトシールドに変え、私も対峙するために構える。相手の武器が見えぬ以上、こちらも慎重にならねばなるまい。魔術も鎧に耐性があるならば有効打にはならん。こういう時斧槍があればアウトレンジから攻撃できたのだが。
と、痺れを切らしたロイが右手の武器を振るいこちらに突っ込む。私は盾でそれを受けた。
が、
「ぬっ!?」
盾を持つ左肩が鋭利な何かに抉られる。盾は完全に武器を受け止めていた。なのに、まるで回り込まれるように攻撃を受けるとは……なるほど、ショーテルか。
分かれば話は早い。私は肩に突き刺さる見えないショーテルを強引に引き抜き、素早くしゃがみ込みながら回転蹴りを奴の足元へと食らわせる。すると足払いされたロイはあっさりと転げた。
「手が甘いんだよっ!」
仰向けに転がるロイに、レイピアを突き刺す。だが鎧のせいで刃が少ししか刺さらなかった。面倒だな。
バックステップで距離を取り、右手のレイピアをメイスへと替える。鎧を着ているならば鎧ごと破砕するまでよ。
立ち上がる探索者ロイはまたしてもショーテルを叩き込もうとしてくる。しかし一度身をもってその武器の長さを理解できた。ならば二度目はない。
左手の盾をファルシオンに変え、相手の攻撃に合わせてパリィする。三日月状のショーテルをパリィするのは難易度が高いが、ショーテル如き何度もパリィしてきた。それに、ショーテルを見ると何処かの金ピカ騎士を思い出すから嫌なんだ。腹が立つ。
完璧にパリィされ仰け反る探索者ロイ。そのまま私は顔面目掛けて二度メイスを殴打し、兜を破壊しかける。
脳震盪を起こす探索者ロイに残された道は無い。蹴飛ばして転ばし、ロイの右腕を踏みつけた。こうすればショーテルで攻撃はされまい。
「相手が悪いな」
と、一言語ってから渾身の振り下ろしを顔面に打ち込む。
左肩が抉られたが、それだけだ。ロードランの時は一撃で死ぬ事も多かったからこれしきは傷にならん。エスト瓶を飲み、傷を癒す。
そしてどうやら、探索者ロイは何かを落としたようだ。ふむ、これは鎧か。しかも透明スケスケの。軽いし丈夫だが、変態みたいなので着る事は無いだろう。
どうだろう、見えるだろうかって?うるさいな。
さて、侵入者も倒したし遺跡最奥の濃霧を潜る。多少は強い
「ネズミばかりだな、もう飽きたぞ」
狭い墓所に現れたのはネズミの大群。確かにこんな狭い部屋で物量攻撃されれば並大抵の不死はなす術も無いだろうが。
追尾する
迫るネズミ共が
投げナイフや魔術で距離を取りながら攻撃していくと、ある程度数を減らす事ができる。変な魔術とか奇跡を撃ってこないだけマシだ。
と、そんな時だ。数あるネズミの中に、一体だけ立髪が立派な個体がいるではないか。あれがこいつらのリーダーなのかもしれない。
だが、ネズミはネズミだ。いや本当にそれ以上でもそれ以下でも無い。大きさも変わらなければ危険度も変わらぬし、魔術とかを発してくるわけでもない。
となればやり方は変わらないわけで。容赦無く左手をタリスマンに変えて雷の槍を放つ。
投げ槍と化した雷が尖兵を穿てば、ついでに周囲に居たネズミも感電した。たったそれだけのこと。しかしネズミの王とやらが繰り出した尖兵は呆気なく石化して砕ける。
「親玉が死ねば逃げるのか、えぇ?お前ら恥ずかしく無いのか!」
尖兵が死んだ途端、マズイと思ったのかネズミたちが逃げていく。全く酷い忠誠心だな。主君に仕えた事の無い私が言うのもなんだが。
「人間よ、それはネズミの尻尾だな」
ネズミの王の尖兵を倒し、先へと進んだ途端。通路の穴に潜んでいたネズミに話しかけられた。見た目は他のネズミと変わらないが、どうやら彼がネズミの王とやらだそうだ。
最初こそ素っ気ない態度を取っていたが、私が尖兵から得たネズミの尻尾を持っていると知ると態度を変える。ちなみに声は高くない。
「これか」
千切れた尻尾を見せると、ネズミの王は少し微笑んだ気がした。いや錯覚か?
「余の配下たるネズミの領域を征したということか。見かけによらずやるものよ……喜ぶが良い、汝は余に仕える資格を有した」
ああ、誓約だろうか。かつてロードランでも私はあの胡散臭い世界蛇と誓約を交わしダークレイスとして名を馳せた。その結果、闇姫とかいう恥ずかしい名前が広まったのだが。
「されど汝は所詮人間に過ぎぬ。汝よ、問おう。人の魂を捨て余に忠誠を誓うか。何よりも温かく優しい地の汚泥に懸けて、忠誠を誓うか」
ネズミがヘッドハンティングとは。時代は変わったものだ。こちらに提案しながらも自らの誇りを一切落とさぬ姿勢は素晴らしいものだ。
「……貴公、闇に触れたな」
だがそれよりも。王の表現は、私の中に眠るダークレイスとしての欲に触れた。
優しく温かい汚泥に潜む何か。それは、深淵に他ならぬ。かつて神々の地で目にし、感じたそれは。侵されてはならぬもの。それらを美しく想い守ろうとするのは、素晴らしいことだ。
ダークレイスとは、人の内に潜む温かい人間性を求める哀れな者の事なのだから。
「人としての魂は捨てられぬ。私が忠誠を誓うのは、少女への愛のみよ」
けれど。そう前置きし、言う。
「貴公らの思想、共感した。私は私でしかない。それで良ければ、力を貸そうじゃ無いか。同胞としてな」
そう言えば、ネズミの王は鼻を鳴らした。
「人の分際で余に提案するとは……まぁ良い。この指輪を授けよう」
ネズミの王の可愛い小ちゃなおててが差し出すは、一つの指輪。それを左手の小指に嵌める。
かつての狩猟団のように、ここに攻め入る輩を殺すのが役割である。ふむ、不死とのマトモな闘いは侵入される以外最近は無かったから、丁度良い。勘を戻そうか。
数回ほど、他世界で聖人墓所への侵入があった。人との駆け引きは久しぶりで愉しいものだ。それが殺し合いであるのならば尚更よ。
その全てを討ち滅ぼし、ネズミの王がやたらと私を褒めてくれたので気分が良い。だが私の目的はあくまでこの地を探索することだ。あまり副業ばかりやっていたら緑衣の巡礼に怒られてしまう。それはそれで、良いのだが。普段クールな彼女が怒った姿もまた美しいのだろうから。
聖人墓所の奥深くを降る。ここからでも例の場所へと繋がっていたのは幸運と言えよう。
聖人墓所とは打って変わり、そこは本当に真っ暗な地底の底。打ち捨てられ、絶望し、それでも死ねぬ者達が最期に行き着くこの世の終わり。
けれどそここそが、本当は安寧の地なのかもしれない。形だけとはいえ、広がる深淵は全て包み込み、人を眠らせるのだから。
クズ底。不死を禁忌した者達は、そこをそう呼んだ。
それらしいことを羅列したが、暗いものは暗い。それはかつてダークレイスであり、深淵にも挑んだ私という戦士ですら思う。故に見つけた篝火の火を松明に灯す。
人の住めるような場所ではない。木で仮組みされただけの建物や足場。そこらに溢れる毒を吐く石像は、かつての病み村を彷彿とさせる。毒の足場が無いだけマシだが、まるで待ち伏せするように潜む爆発亡者と闇松脂を塗った直剣を持った亡者のせいで病み村よりも厄介だ。おまけに足を踏み外せば落下死するのだから、溜まったもんじゃない。
「酷いな、ここは」
先に向かったルカティエルは無事突破できたろうか。あのドジっ子が落下死したり毒で苦しんでいないか心配だ。それよりも私が苦しむ事になるかもしれないが。
見つけた灯台に火を灯しながら進んでいく。これだけ暗いと方向感覚も失われていく。灯した火を見ながらゆっくり進んでいこう。
亡者共の猛攻を退けながら下へと降って行く。その頃には大分目も慣れて探索と索敵に困らなくなっていた。
攻撃どころか何もしてこない大きな虫を無視し、ようやく濃霧の掛かる最下層までやって来る。酸が詰まった壺を置いた奴は見つけ次第殺す。
濃霧を潜り先へと進めば、そこは地続きの洞窟だった。暗さはあるものの、何やら毒が結晶化したのか緑の怪しい光を放つ鉱石が所々にあるお陰で松明が無くとも進むのに支障は無い。
それよりも、石像の数が問題だ。一本道だが至る所に石像があるせいで進むのに時間が掛かる。おまけにここの石像が吐き出すのはただの毒では無い。猛毒だ。きっとここへ流れた者達の人間性が石像に宿ったのだろう。変化、又は腐り果てた人間性は毒となる。病み村の毒沼が元は死体溜まりであったように。人を犯す毒は、人自身なのだ。
「それにしても多いなぁ、邪魔くさいっ!」
行商人から大量に買った火炎壺を石像へと投げまくる。案外脆い石像は、火炎壺に当たるとあっさり崩れるのだが数が多すぎる。おまけに横に空いた大穴からはいつかイザリスで見たような大きな虫が出てくるし、地面に溜まった黒い油にはおかしな一つ目の化物まで潜んでいる。
本当にルカティエルは大丈夫か?
だが本当に心配すべきは自分自身だ。火炎壺投げ大会と化した私は、横から這い出た虫に気付かず吹っ飛ばされる。幸い最近少しずつ生命力を上げていたから死にはしなかったが、大きく吹き飛ばされて崖下へと転落した。落ちた先にも岩の足場があってよかった、落下死するところだったぞ。
「クッソ〜!居るだけで腹が立つなここはァ!」
ムカつきながら、たまたま見つけた横穴に入り元の道へ戻れないか模索する。
あれ、ルカティエルがいる。
「……」
ボーッと、壁に寄り掛かり何かを模索するルカティエルは、私に気がついていない。声を掛けようと思ったが、悪戯心に火がついた私はニヤリと笑って悟られぬように彼女の側面へと回る。仮面を付けているせいで視界が悪いのも幸いした。あっさりと私は彼女の側面を取った。
ワキワキと手をそわつかせ、ゆっくりと静かに忍び寄る。そして、
「るかてぃ〜ん!!!!!!」
「おわッ!?なんだ!?きゃっ!?」
思い切り抱き着き、胸を触る。とんでもないセクハラだが、あくまでスキンシップだ。それに嘘偽りは無い。下心はあるが、女同士だから許される。そう信じたい。
驚き少女のような声を出すルカティエルの胸に顔を埋める。嗚呼、ネズミだ亡者だ毒だとストレスしかなかったが、ようやく癒しに巡り会えた。やはり少女とは良いものだ。年齢的に彼女は少女ではないが、私からすれば少女のようなものだ。ベストで隠れて分からぬが案外胸も大きい。暴れるルカティエルを筋力で押さえつけて深呼吸する。彼女の甘くも凛々しい匂いが鼻を擽る。良いものだ、騎士であろうとも、顔を呪いに侵されようとも美しさと凛々しさを欠かさず持ち続けるとは。む、香水を使っているのか。一体こんな場所で誰に向かって香水を付けたんだい?私か?私なのかァ〜??????
「ふんっ!」
ゴチン、と頭に激痛が走る。ルカティエルの鉄拳が背の低い私の頭頂部を叩きつけた。
「痛いっ!」
「何をする馬鹿者!」
息を切らすルカティエルから涙目で離れる。
「いやこっちに気がついてなかったから……ちょっと悪戯しようと思って」
「だからと言って……まったくお前って奴は!」
プンプンと怒るルカティエルは、いつも通りだ。そんな姿を見て私は雫石を砕きながら笑った。案外頭が痛い。
「やはり君はそうしていた方が良い。何かに悩むよりもね」
そう言われ、ルカティエルの怒りがすっと収まり彼女が俯く。やはり何かに悩んでいたのは確かであるようだ。見当は付くが。
私は彼女の横で同じように壁にもたれ掛かり、そっと手を繋ぐ。彼女は珍しく拒絶しなかった。それほどまでに追い詰められているのだろう。仕方の無い事だ、私も嘗ては悩み、抱え込み過ぎて壊れたのだから。その果てに嘗ての友と刃を交えたのだから。
「気がつくと、ぼんやりしていることが増えたんだ」
私の手をしっかりと握り、彼女は打ち明ける。
「少しずつ昔の事が薄れて行くような……これが呪いの力なのか……」
仮面の下で彼女は打ち拉がれる。
「恐ろしいんだ私は……何もかもが消えてしまったら、私は……」
彼女の前に立ち、私はその貌を隠す仮面に手を掛ける。ゆっくりと、傷付かぬように仮面を脱がせば私はジッと彼女を見詰めた。
「何を……」
「ルカティエル。私は、かつて様々な絶望を見て来た。そして、己の愚かさ故に道を誤った」
自分の役割が、分かってきたかも知れない。嘗てあの地で少女達が私の導きとなってくれたように。今度は私が、悩める不死の百合達の導き手となるのだと。
「今でも悩む。過去を悔い、苦しむ。けれど……もう、過去は過去なのだ。過ぎてしまった過去を、どうすることも出来ない」
過去を遡った事もあった。けれど、それで結果は変わったであろうか。否、結果は変わらない。運命とは、自ら切り開くもの。けれど定められたものでもある。故に不変。まるで不死の如く。
「だから私達は、未来を見なければならない。今は曇っていても。いつかは晴れると信じて」
だからルカティエル。
「もし、懐かしい思い出を失うのが怖ければ。今の想い出を作るのよ。私は、いつだってそうしてきた。貴女が自分を失わない為に、私は貴女を愛しましょう」
言い切って、私は少し背伸びする。困惑する彼女の貌をそっと両手で包み、その唇に、私の唇を重ねた。
優しい、少女の温もりが魂に伝わる。嗚呼、彼女は戦士になるには優しすぎる。非情になり切れぬ。守らなければあっさりと絶望する程に、脆すぎる。
瞳を開き驚く彼女は、しかし次第に私を受け入れた。そしてその両腕を広げ私を抱き締める。
何も、私は欲望のままに白百合がどうと語っていた訳では無い。この暖かさこそ、人間性の極地。愛という名の欲望。白百合とはその変質。少女同士の、暖かい育み。
しばらくそうして私の熱を彼女に与える。奪うだけが、私ではない。私でも何かを与える事はできる。愛だけは。
そんな私に、ルカティエルの
ようやく離れれば、この暖かみを何度も知り馴染ませている私と対比するように、ルカティエルは顔を恍惚とさせて瞳と唇を艶やかな色に輝かせていた。
「はぁ……はぁ……リリィ」
どこか、依存するように彼女が私を呼ぶ。そんな彼女の唇に、人差し指を置く。
「だーめ。今はこれだけでお終い。……本当に私を求めるのであれば、貴公。心折れるなよ。そのためであれば私も肩を貸そう」
妖しく笑って彼女を制する。今の彼女はただ依存したいだけだ。それではいけない。単なる依存は逆に身を滅ぼす。互いを知り尽くし、両依存してこそ花が咲く。だからルカティエル。私に依存させてくれ。もっともっと強くなって、頼れるくらいに偉大になってくれ。
例え末路が、亡者であっても。強くなろうとする君を、白百合たる私は支えよう。
森の子ガリーとかいう邪魔な侵入者をルカティエルと共同で殺し、篝火で身体を癒す。互いに愛を深めあったがそれはそれ。相変わらず黒渓谷は毒塗れで嫌らしい。
「そういえば、どうして君はあんな所にいたんだ?」
どこか距離が近付いた彼女に問い掛ければ、
「足を滑らせたんだ。恥ずかしいからあまり聞かないでくれ」
とのこと。まぁ私も突き飛ばされて落ちたから人の事は言えないのだがね……
篝火の最奥はこの地を支配する者がいるらしく、霧が掛かっている。きっと四つの偉大な
そいつの所へ行きたいのは山々だったが、一先ず探索もしたかった。先程別の崖下に、何やら行けそうな場所があったのだ。
ルカティエルと共に道中の敵を屠り、七色石で崖下を照らしながら慎重に飛び降りる。やはり、この場所には何かがあった。
「大扉?なんだ、ここは……」
隣のルカティエルが呟く。崖下の足場にあったのは、古い大扉だった。それも石造の。私は開かぬその扉に、手を掛ける。びくともしないが、それ以上に何かを感じるのだ。
「闇を、感じる」
「闇……まぁ、周りは真っ暗だからな」
「ああいや……そうではない」
深淵に近い、何かをこの先から感じた。開かなくて良かった、彼女にそんなものを見せるわけにはいかん。深淵とは、人の手に負えるものでは無いから。例え人がそれを生み出したとしても、だ。
更にその下に行けるようだ。どちらにせよ帰還の骨片が無ければ帰れないから、二人して下へと降りる。すると今度は洞窟になっていた。洞窟の中に洞窟とは、ややこしい。
「人工的なものだ。あまりにも整地されて開けている」
そんな感想を述べる。そう思えるくらいにはここは広すぎる。だが、次の瞬間にはそんな感想どうでも良くなった。
ドシン、ドシンと。
何か、大きなものが。この空間にいる。
この暗闇に。捨てられたように。
巨人が、憎き人の
「おい、どうする」
「戦うしか無いだろう。片方は任せたぞ」
そう言って、二体もいる巨人を相手取る事を決める。最後の巨人以来の巨人は、やはりこの地で見られる顔に大穴が空いた者達だ。
情けなく捕まっていたあの雑魚と違い、目の前の巨人達はその両手に原始的な石造の槌を持っている。
一人目の巨人が叫び、先頭にいる私に突っ込んでくる。知性があるのかもう一体はルカティエルと対峙するようだ。
「面倒だな、即殺す」
左手に魔術師の杖を握る。盾など巨人相手には通用しないだろう。
振るわれる大槌をローリングして回避すれば、私は手始めに闇術を放つ。
「闇の玉」
大きな塊の闇が巨人へと突き進む。巨人は迫る闇術を、両腕をクロスさせて防御する。
「耐性があるようだ。やはりその顔の大穴は人間性由来のものか」
まるで効かないと言わんばかりに巨人が吼える。ならば魔術で対抗しよう。
乱れる
「右足」
踏みつけられる瞬間ステップして回避する。そしてカウンターでレイピアを突き刺す。正確には、右足の腱。如何に巨人といえどここを抉られれば辛いに決まっている。
案の定巨人は腱を抉られ膝をつく。大槌を杖代わりに巨体を支えているが、私の前で隙を晒すということがどういう意味か。
「顔面。一体目」
即座に目の前に回ってレイピアを顔の大穴に突き刺す。痛がり暴れる巨人を無視し、グリグリとレイピアを掻き回す。
闇が、大穴から漏れるが大したことはない。所詮は変質した人間性。人間性ならば私の中に沢山あるさ。
レイピアを引き抜けば、巨人はそのまま後ろへと倒れて
ルカティエルの方を見れば、彼女もやる気十分だったせいかもう巨人を倒しかけていた。彼女の大剣が巨人の心臓を穿ち、殺す。
「何なんだ、こいつらは……この時代に巨人などと」
血振りして納刀するルカティエルが言葉を吐き捨てる。
「人間の愚かさの象徴だ。……ん、何か落としたな」
ルカティエルが倒した巨人が何かを落としている。鍵のようだ。
ともあれ、探索は済んだ。その後、広場の奥に設置されていた昇降機で黒渓谷に戻る。
黒渓谷の濃霧をルカティエルと潜る。足を踏み入れたのは、周囲に火を放たれた天然の大部屋。
その中央に、それはいる。
打ち捨てられた亡者達の成れの果て。
居場所もなく、縋るものから見捨てられ。けれど死ぬ事すらも許されなかった哀れな者達。
けれど、受け入れた者がいた。
私が嘗て屠った最初の死者。
その遺志が、きっとそうさせたのだろう。
寄り添い、慰め合い、そして亡者達は集合体となった。
幾人もの亡者達が集まり形を成したそれは、出来損ないの偶像だが。
その思念だけははっきりとしている。
怨み、羨み。
だから、やって来る者達を殺し。
その怨嗟を撒き散らす。
投げ掛けるのだ。お前も、一つになろうと。遍く死の一つとなろうと。
ゆっくりと、腐っていこうと。
その姿はまるで、腐敗した肉人形だ。
足はなく、代わりに一体化した亡者達が蠢いてその足と成り果てている。手と呼べるのか分からぬが、右腕には血錆に塗れた大鉈を握り、来訪者を狩らんとしている。
どことなくシルエットはあの古き死者に似ているから、きっとそういう事なのだろう。今度はニトの尻拭いか。
左肩にはまるで司令塔とばかりに上半身だけ出た亡者がこちらを指差している。
「醜いな……これが亡者の成れの果てとは」
「そんなものさ。むしろ幸せな方だ。一人寂しく朽ち果てず、皆と共に理性を捨てられるのだから」
レイピアに黄金松脂を塗る。あれが亡者の集合体と言うのであれば、大量の人間性を腐らせているに違いない。となれば闇術は大して効かんだろう。
離れた位置から腐れが大鉈を振り上げる。見かけよりも大分腕が長い。私達は完全にリーチ内だ。
「避けろ!」
そう言って左右に転がれば、先程まで私達が立っていた地面を大鉈が抉った。あれを喰らえばもちろん死ぬ。
自然と目の前に迫った腐れの巨体に、レイピアを突き刺す。嫌なものだ、集合した亡者共が蠢きながら私を見ている。見せ物じゃ無いんだぞ。
「気味が悪いな」
言いながら左腕にも刺突する。亡者の集合体であれば、きっと強度は高くはない。幾らか攻撃すればその部分の亡者が死んで取れるはずだ。
二人で左右から腐れを攻撃すれば、頭が弱いのか腐れはどちらに攻撃するのか悩んでいるようだった。司令塔である亡者も私とルカティエルを忙しなく指差している。
このままどんどん攻撃しようと思ったが、不意に腐れが力を溜めた。同時に暗い力が腐れに宿っていく。これは闇術か。
「ルカティエル、離れろ!」
「ッ!」
彼女も何かを察したのだろう。サッと二人して転がって離れれば、刹那腐れが爆ぜた。
正確には、周囲に闇術を放ったのだ。差し詰めアサルトアーマーか。ニトもあんな事をしていたな。
「術まで使うのか、厄介だな……!」
ルカティエルが舌打ちする。
「腕を狙え、脆いはずだ!」
私が指示をしながら接近する。刺突は効いているようだから、武器は変えずとも良い。
私達を迎撃するように腐れが両腕をドンドンと振るう。もちろん分かりやすい動きだから当たりはしない。
「せいっ!」
と、そんな時。ルカティエルの上質な大剣が大鉈を持つ腐れの右腕を切断した。やはり断ち切るだけならば斬撃のが良いのか。
だが最大の武器が失った腐れは、仕返しとばかりに左腕を振るう。左側にいる私すら無視して、腐れの手がルカティエルを掴んだ。
「うぐぅあ!」
「ルカ!」
掴まれ、そのまま握られる華奢な身体。ギリギリと締め付ける音と骨が折れる音が伝わってきた。
殺す。彼女をどうにかして良いのは私だけだ。貴様ら如きが神聖な百合の蕾に触れて良いと思うなよ。
完全にブチ切れた私はクズ底で拾ったグレートクラブを取り出し跳躍する。見た目よりも軽いグレートクラブは、振り回すには丁度良い。
一瞬で腐れの頭上を飛び越し、黄金松脂を雑にクラブに塗るとルカティエルを握る左腕を破壊する。大槌であるグレートクラブは、巨体の腕でもお構い無し。左腕を構成する亡者達を挽肉にして叩き切った。
落下するルカティエルを空中で抱き抱え、そっと地面に下ろす。爆ぜた亡者の上半身がルカティエルに執拗に抱きついているのを見て叫ぶ。
「このスケベ亡者がッ!」
首根っこ掴んで握りつぶすと亡者は消えた。
「ゲホッ助かった、クソ!」
かなりのダメージを負ったルカティエルを背に、私は無言で腐れへと迫る。最早腐れにできることは無かった。迎撃のために口から人間性の毒を吐き出すが、それを飛んで避けると脳天にグレートクラブを叩き込む。
それでも死なぬ腐れだが、大きく怯んでいる。今なら簡単に殺せる。
大地を駆け、腐れの身体を走り登る。そして、左肩の指揮官亡者を叩き潰した。
『オ゛オ゛オ゛ォオオオオオ』
叫び苦しむ腐れと亡者共。その左肩に登ったまま、左手の杖を構える。
「白竜の息」
杖から古の古竜、シースの息吹を放つ。それは最早呪いの効果は無いが、細やかな結晶となった
頭が砕け、胴も消し飛ぶ。すると最早腐れとしては何も出来ず、死んでいくしかない。
肩から飛び降りたと同時に、腐れの身体が崩れて
貴様は私を怒らせたのだ。シンプルな、しかし大切な敗因である。
どうやらルカティエルはエスト瓶を切らしているらしい。彼女をお姫様抱っこしエストの欠片の重要性を説きながら、またもや存在しているはじまりの篝火を点火する。
また一つ、偉大な篝火が燃え盛る。最初の火の炉、そこから戴いた火が。
「なぁ、もう降ろしてくれないか。歩くくらいはできる」
「だめ。目を離すとすぐ死にそうになるだろう」
「赤ん坊か私は……」
腕の中で呆れるルカティエルを他所に、部屋の中を見遣る。始まりの篝火とは別に、何かの祭壇があった。
造られたのはきっと古いが。今でも何かの力を持っているその祭壇。……後で調べてみよう。そう思いながら、私はルカティエルを肌で感じつつ果ての篝火へと共に転送される。
感想、評価お待ちしております。マジで。
百合ばかりの番外編を
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見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
-
いやぁそうでもないっすよ