暗い魂の乙女   作:Ciels

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仕事の関係で家に帰れませんでした。GWはしっかりと書きたいと思います。お待たせしました。


土の塔、毒の妃

 

 

 土の塔。毒の妃と呼ばれる女性が美を求めるあまりに作った狂気の象徴。それは別に良い。この時代の狂気など高が知れている。私が見たシースの狂気の一端に比べれば生温いものだろう。

 だがその内部はなんともまぁ不死人に対するトラップまみれというか何というか。欠陥住宅と言っても差し支えないくらいの足場や敵の配置と言い、余程毒の妃は生み出した美を奪われたくなかったのか。

 

「高所は本当に苦手だ」

 

 私の背後を歩くルカティエルがやや声を震わせて言う。事実、私達が歩く道の左右には足場など無く、落ちれば毒溜まりへと真っ逆さまだろう。そうなれば毒で死ぬよりもまず落下死する。

 

「クズ底や黒渓谷も苦労したんじゃないか?」

 

 道を塞ぐ蛮族のような守人を魔術で排除しながら問えば、彼女は頷いた。

 

「何度も死にかけたよ」

 

 むしろよく死ななかったと思う。彼女は案外ドジっ子だ。目を離せばデーモンに喰われて素っ裸にされるし。まぁあの件は私も得るものが多大にあったから良かったのだが。

 ちなみに、今の彼女との関係は超絶親愛なる友達、というような感じである。彼女も俗世で常識を学び生きてきた身だ、いくら私を愛してくれていても中々百合を肯定するわけにはいかんのだろう。仮にも騎士だし。私はいつでも受け入れるが。閨での彼女はとてもとても少女であった。私もロードラン以来の秘め事だったが、興奮してしまったよ。良いものだな、百合とは……

 

 まぁそれは置いておいて、今は土の塔攻略だ。首のない傀儡は待ち伏せや高機動での襲撃を好むので腹が立つのだが、ルカティエルと対処すれば何とかなる。それよりもルカティエルが罠を踏みまくるからあちらこちらから矢が飛んでくるのだ。そっちが問題だ。

 今もまた、敵を倒して休憩がてら柵に寄り掛かり景色を眺めていたら柵が壊れて落ちかけている。

 

「君は本当に手がかかって可愛いなぁ……!オラァ!」

 

 掴んだ手を引っ張って彼女を引き上げれば、あまりの恐怖に腰を抜かしたルカティエルが壁に寄り掛かって無理やり立ち上がる。

 

「す、すまない……迷惑をかける」

 

 生まれたての子鹿みたいに震える脚に鞭を打ち、歩こうとする彼女の尻が目に映る。嗚呼、さっきまであんなに私の眼の前で動いていたんだぞ……

 百合を貪る欲求を抑え、彼女に肩を貸す。しっとりとした柑橘系の香水の匂いが鼻をくすぐった。思わず肩を貸していただけなのにちょっとだけ抱き着いてしまう。

 

「ん、リリィ……ちょっと痛い」

 

「痛くしてるのさ」

 

 困ったように溜息を吐きながらも、お返しとばかりに彼女も私を強く抱きしめる。加えて私の脇腹をくすぐってきた。

 

「あ、ちょっ、あはは、やめなさいって!あはは!」

 

「ふふふ、強いお前にも弱点はあったんだな?」

 

 嗚呼、素晴らしきかな百合の花。こういうのだよ私がしたかった百合っていうのは。確かに欲にかまけて互いを貪るのも良い事だが、青春を楽しんでいるようなこの感じも堪らないものだろう?

 すぐそこに篝火を見つけ、点火するまで私達は互いに擽り合う。飛び出してきた傀儡は瞬殺した。何人も百合を穢してはならぬのだ。殺すぞ。

 

 

 

 

 

 腰を抜かしたルカティエルを残し、先程彼女が堕ちかけた柵の外を見下ろす。どうやらすぐ下に足場があるようでどこかに繋がっているようだ。

 ルカティエル曰く、どうやら下に足場があると言うので彼女が復活するまでそちらを探索することにしたのだ。最初はあんまり信じてはいなかったが、確かに降りられそうだな……ふむ、帰還の骨片もまだまだ沢山ある事だし、行ってみるか。

 

 意を決し、数メートル下の足場へと降りる。だがなんて事は無い、足を痛める事も無く楽に着地できた。これもシャラゴアから買い取った猫のブーツのお陰だ。可愛いし落下の衝撃を抑えてくれるし、良い事しかない。ルカティエルからは少々幼過ぎると言われたが。

 

 着地した場所から土の塔の壁沿いを歩き、梯子が掛かった場所へと出る。どうやら敵はいないようで気配は無い。警戒しながらも梯子を登れば、何やら太々しい中年の男が疲れたように休憩していた。まともな人間のようだ。

 

「おい貴公、何者だ」

 

 背後からそう問い掛ければ、男は驚いたようにこちらを見て、次に周囲を確認した。どうやら土の塔の護衛共を気にしているようだが、道中は全て殺してきたから杞憂というものだ。

 

「バカ野郎、静かにしろよ!せっかく逃げてきたってのに、見つかっちまうだろうが!」

 

「バカだと馬鹿野郎、それにそっちのが煩いぞ、馬鹿野郎」

 

 バカに馬鹿で反撃する。まったく失礼な奴だ、私ほど境地に至った者などいないぞ。百合で、という意味だが。だがどうやらこの男、私も同じく逃げてきたと思い込んだのか同情するような事を言い出す。次第にはこの土の塔に向けて呪詛を吐き出す始末だ。嗚呼ルカティエルの下へ戻りたい。

 

「俺は渡し屋でよ。あんたが使った梯子も俺が掛けたんだ」

 

 渡し屋ギリガン。そう男は名乗る。確かに今登ってきた梯子も手作り感満載だったが、悪くはなかった。こいつの力を借りれば落下死してしまうような場所でも難なく降りられるだろう。ふむ、利用価値はありそうだ。

 まぁこいつの場合、土の塔に盗みに入って逆に追い詰められたんだろうが。

 

「あんたも下に降りたいのか?ハシゴあるぜ、掛けてやるよ」

 

「この下には何が?」

 

「知らねぇよそんなこと。で、幾ら出す?」

 

「あ、金取るのか?」

 

 会話の流れで情けをかけてくれるのかと思ったんだが。まぁ見るからに守銭奴だし、そもそもハシゴに使う材料代や技術代もあるから多少は払ってもいいかもしれない。そもそも下に降りるとは言っていないが。

 

「あんだよ、人に世話になろうってんだろうが!気持ちってもんがあんだろ?常識ねぇのかよ……」

 

「守銭奴に常識を問われるとは……」

 

 なんか腹が立つし納得がいかないが、まともな不死だ。今回は多目に見てやろう。それにこいつが今後マデューラに来てくれればあの大穴に隠された他の秘密も見つけられるかもしれん。

 仕方あるまい。どうせなら能力強化という名の緑衣の巡礼との会話に使いたかったが、今回ばかりはこいつにくれてやろう。渋々(ソウル)を少し取り出す。

 

「ほら、これでいいか?」

 

「ま、俺も鬼じゃねぇからよ。こんな時くらい安くしといてやるよ」

 

 あくまでも上であるということを主張したいらしい。なんともまぁ恩着せがましいが、仕方あるまい。実際に梯子を掛けてもらわなければ行けない場所なのだろうから。

 渡し屋ギリガンは、(ソウル)より組み立て式の木製梯子を取り出すとそれを重ねるようにして形成していく。そして梯子を掛ける……無駄に壮大だな。

 

「ほら、行くんなら行けよ。今回はまけといてやるからよ」

 

「ご親切にどうも」

 

 皮肉混じりにそう言うと、梯子を降っていく。ふむ、急拵えにしては強度はしっかりとしているようだ。当分の間は保つだろう。

 まぁ、梯子を降りた先にあったのは光る楔石とファロスの石だけだったのだが……来なくても良かったじゃないか。

 

 ルカティエルと合流するために篝火へと戻ったのだが、彼女の姿が見当たらない。どう言う事だ、あの子また天然を発動させてなんか変な事になっていなければいいんだが。

 周囲をキョロキョロと見渡せば、彼女は案外近くにいた。先程外柵に寄りかかって落ち掛けたというのに、どういうわけか柵を乗り越えて何かをしている。見ていてヒヤヒヤする光景だ。ただでさえドジっ子属性があるのだからもう少し身の振る舞いを考えてほしい。

 

「ルカティエル、やめなさい」

 

 柵の外、断崖スレスレで何かをしているルカティエルに駆け寄り彼女の手を引く。これじゃ保護者だ。

 

「あぁ、リリィ。大丈夫だ、ちょっとした発見をしてな」

 

 塔の内部に引き摺り込まれるルカティエルが悪びれもせずに言う。手には剣の代わりに松明が握られていた。なんだ、儀式でもしていたのだろうか。

 呆れながらも彼女の言い分を聞くことにする。まったく、最初の出来る女剣士みたいなイメージはどこに行ったんだ。

 

「それで?あんな危ない場所で松明片手に何をしていたんだ?そもそも高所は苦手じゃなかったのか?」

 

「うむ。暇過ぎて辺りを彷徨いていたら何やら風車を見つけてな。少し観察していたんだが……」

 

 暇過ぎてって……君が腰を抜かして回復するのを待っていたのはこっちだぞ。これはお仕置きが必要かもしれない。彼女の閨での弱点は知っているから、ずっと良い声で鳴かせてやれる。

 

「あの風車の根本の柱に、油が塗ってあるんだ」

 

「……まぁ、風車を円滑に動かすためには油くらい塗ってあるだろうさ」

 

 というか、油が塗ってあると言うことはここの住人がしっかりと整備しているということか。見た目によらずマメだな。それとも毒の妃がそう命じているのだろうか。どちらでも良いが。

 そこでだ、と目の前のドジっ子騎士が松明を掲げる。

 

「これで火をつけようと思う」

 

「なんで?」

 

 どうしてそういう発想に至ったのか本当に謎だった。思わずアホ面こいて尋ねてしまったではないか。

 

「いや何、この塔の内部には至る所に機械仕掛けのものがあるだろう?」

 

 確かにここに至るまでに色々と自動化された仕掛けを見てきた。毒を掬い上げる壺や大きな殺人換気扇……まぁ、もしあれの動力が風車であるのならそれを止めてしまえば動かなくはなる。だがそうなったらこの先どう影響するのかは分からぬ。

 まぁ、やってみて損はないだろう。もしかすれば毒も減るやもしれん。

 

 ルカティエルの言葉に騙されたと思って燃やしてみる。彼女がやると危なそうだから篝火に待機させ、私が松明片手に風車の軸を燃やしに掛かる。しかし木製の軸ならともかくとして、いくら油が塗ってあっても鉄製の軸が燃えるだろうか。

 半信半疑で松明の炎を風車の軸に触れさせれば、しかし勢い良く燃えていく。炎はどんどんと風車へと登り、風をうけていた風車も燃え盛る。まさか彼女の言っていたことが本当になるとは……

 

「ほら、どうだ!本当に燃えたじゃないか!」

 

 嬉しそうにはしゃぐルカティエル。可愛いが、なんか腑に落ちない。どうして鉄の塊を燃やせると思ったんだ彼女は……普通は燃やそうなんて思わないんだが。いや、固定観念は良くないか。戦士たる者柔軟に物事を考えなくては。

 

 

 

 

 

 

 先へ進む。どうやら本当に土の塔の動力が落ちたらしい、人を殺すに十分な大きさの換気扇が止まっている。首無しの傀儡がそれを復旧しようとして四苦八苦している辺り、彼らにはかなりの損害だったようだ。

 墓守の奴らも何やら慌てて指示を飛ばしている。現場作業は大変だな。止めてしまったのは私たちだが。

 

 そんな折、見知った顔と出会う。とある一室に考え込むように座り込む親切なペイトだ。クレイトン曰くとんでもない奴だと言うことだが。

 ルカティエルを私の背後に回し、私が奴と会話をする。私ならばこの男相手にも立ち回れるが、もしクレイトンの話が本当であるならば目の前の親切ぶったペイトは手練れということになる。そんな相手をさせるわけにはいかない。

 

「お久しぶりです、また会いましたね」

 

「ペイト。どうした、こんな所で」

 

 ええ、と彼は落ち着いた様子で語る。

 

「いつものように趣味で宝探しを。この先に宝箱があるようなのですが……嫌な予感がするので進むか決めかねています」

 

 言っていることは何もおかしな事はなかった。こう言った場所に進んで足を運ぶ以上、勘というものは案外馬鹿にならない。しかしまたお宝か……まるであのパッチのやり口のようにも感じるが、直接何かされた訳じゃないからあの時のように尋問できない。

 まぁ、良いだろう。もし罠であればあえてハマってやる。ルカティエルは……待たせるわけにもいかない。仮にこいつが殺人鬼ならば彼女が危ないだろう。

 

「いいのか?」

 

「ペイトの事か?心配無い、罠程度ならば噛み砕いて仕舞えば良い」

 

 進みながらルカティエルの心配を振り払う。

 

 そうしてすぐに、ペイトの言うお宝が見つかった。道が途切れていたが、ジャンプしてなんとか辿り着く。しかし中身は魔法のスクロール一つだけ。しかも強いソウルの太矢……ソウルの槍が扱える私にとってはあまり有用ではない。まったく、嫌がらせの方向性が好ましくないな。

 

 その後、ペイトと話したが。どうやら誰かしらが彼を追っているというのは知っているらしい。彼曰く誤解があるとの事だが。まぁ勝手にやっていてくれ。仮にペイトが美少女ならば助けてやったのだが。いや、ルカティエルが呆れそうだ。

 今も目の前に現れた砂の魔術師に鼻を伸ばす私の尻を蹴飛ばしている。痛いが、これもまた良し。女の子に蹴られるのはご褒美なのだ。それが嫉妬ならば尚更。

 

 

「道化師……?なんだこいつは」

 

 そろそろ土の塔の最上階と言う所で、白サインを見つけた。白サインとは前にも最後の巨人の時に用いたように、協力霊を呼ぶためのものだ。

 別にそれは大して珍しくもない。事実、今までかなりの白サインを無視してきた。だって私一人でどうにでもなってしまう敵しかいないんだもの。

 

 だが興味本位でルカティエルとそのサインに触れてみれば、出てきたのは両手に呪術の火を携えたピエロだった。名を、道化のトーマスと言うらしい。何が悲しくてこんな狂った土地で道化などしているのだろうか。むしろ、狂っているから道化などしているのか。

 

 トーマスは召喚されるや否や、両手に呪術の火の玉をいくつも生み出す。そしてそれを宙に投げると器用にジャグリングしてみせた。

 

「「おお〜!」」

 

 乙女二人で思わず拍手しその演芸を賞賛する。しかし呪術をそう使われるのは、イザリスの魔女の弟子としては少し複雑だ……まぁ、火をしっかりと理解しないとこんな芸当はできないだろうからなぁ。

 

「出征した時以来だ、あんな芸を見るのは」

 

「子供の頃に、遠くの街のお祭りで見たっきりだ。もう数百、いや千年前だが……」

 

 歳をとったものだ。けれど美しさは変わらぬ。そう信じている。

 

 

 そうして珍妙な協力者を引き連れて、この塔の支配者が居ると思われる霧を抜ける。ひしひしと強い(ソウル)が伝わってくるが……腐れほどでは無い。

 

 大きな蛇が、そこにはいた。

 

 否、本来大きな頭があるはずの場所には、毒と同じく深い緑の肌を持つ女性が君臨している。なるほど、あれが毒の妃であろう。

 首は無く、しかしその手にしているのは彼女の首。しかもしっかりと意思があるようだ。自ら首を落としたか。なんともまぁ、想像以上に異形と化していてガッカリだが……せっかく蛇の鱗のようになっているとは言え、トップレスなのだ。締め付けられ、求愛されたら私とて受けないわけにはいかなかったから。

 

 

毒の妃ミダ

 

 

「う〜む……個人的にはあまりポイントは高く無いなぁ。顔も少し表情がキツすぎるしなぁ」

 

「言ってる場合か!行くぞほら!」

 

 腕を組んで悩んでいれば、ルカティエルに腕を引かれて無理矢理戦いに赴く。トーマスは一足先に駆けている。近接武器はなく呪術のみなのに良くやるものだ。

 トーマスが牽制とばかりに呪術を用いる。大火球だ。しかし案外ミダは素早く、身を翻すと簡単に避けてみせた。逆に仕返しとばかりに蛇の尾がトーマスを吹き飛ばす。

 

「じゃあ次は私が行こうか」

 

 レイピアと杖を片手に突っ込む。考えてみたが、奴が手にした顔を奪ったらどうなるのだろうか。好き放題顔にできそうだが。

 ミダが手にした槍を突き刺そうとする。それを見切り、踏みつければ左手の顔が一層顰めっ面になった。

 

「おいおい、美人が台無しだぞ」

 

 軽口を叩くと槍を駆け上がりそのまま跳躍。私の左手の杖で(ソウル)の結晶槍を放つ。

 蛇ではなくミダ本人の身体に結晶槍が突き刺さり、流石の彼女も怯む。その隙にルカティエルが突撃した。

 

「せい!」

 

 いつも通り、技量の高い剣戟。それは確かにダメージを与えたようだが、怯ませるには至らぬ。ターゲットを私からルカティエルに切り替えたミダは素早くその蛇の尾を彼女の身体に絡ませようとする。

 

「待て待て待て!私も混ぜろ!」

 

 だがそんな百合天国の見本のような攻撃、私を抜きにするなんて冒涜だ。急いで駆けてルカティエルに抱きつけば、驚くルカティエルごと私を蛇の尾が締め付けた。私とルカティエルの身体が蛇の剛力にミシミシと歪む。

 

「う、ぐああ、ああああ!」

 

「あああ良いよ!良いよルカティエル!可愛い!もっと、もっと締め付けろッ!」

 

 目の前で苦痛の声をあげるルカティエルと痛みに興奮が止まない。彼女は苦しそうだがベッドの上で抱きしめるよりも余程強く彼女を感じられる。思わず彼女の首元を舐めてしまった。吐血しながらだが。

 その光景に、ミダとトーマスが引く。敵でありながら理解できないというように顔を歪め追撃をやめてしまったミダと、攻撃しようとする手を思わず止めてしまったトーマス。大丈夫だ、ルカティエルは叫んでいるが見た目程締め付けは強く無い。だって私がある程度押さえているから。

 

「うぐおおおルカティエルゥウウもっともっと楽しませてぇえええ!!!!!!」

 

「おま、お前、この変態がッ、うぐ」

 

 だがそんな状況も長くは続かぬ。トーマスが床に呪術の炎を打ち付ければ、ミダの真下から炎柱が上がる。これは……混沌の嵐だと?一体どこで習ったのだろうか。混沌の魔術を収めるとは中々にセンスがあると見える。

 混沌の嵐のおかげでミダの拘束から解かれる。二人で抱き合いながらゴロゴロと床を転がれば、ルカティエルに怒られながらポコポコと胸を殴られる。

 

「お前は本当に、お前は〜!」

 

「ごめん、ごめんルカティエル!ほらミダを倒してからにしようじゃないか!」

 

 痴話喧嘩と言ってくれ。お互いボロボロだが本当に心が充実しているんだ。

 さて、仕切り直しとばかりにミダと私達3人がまた向き合う。ミダも何やら私に対して若干の嫌悪感があるらしく、攻撃を躊躇っているようだ。その隙にトーマスが若干呆れたような仕草をして呪術を行使する。何やら小さな太陽を背後に出現させたが、そのぬくもりを浴びると傷が癒えていく。こんな呪術もあるのか。ロードランにいる時には見たこともないから、新しく生まれたのだろう。

 

 さて、そんな支援をされながらまた戦いが始まる。先手はミダだ。

 彼女は自らの頭部をこちらへと投げてきた。投げられた頭部には理力が溜まっており……

 

「爆発するぞ!」

 

 私がそう叫び横へ転がった瞬間、ミダの頭部から魔力の爆風が迸った。危ない危ない、先程の締め付けの傷はまだ癒えていないから喰らったら流石にマズイ。

 だが、これは良い。わざわざ相手が頭を投げてきてくれたのだ、利用させて貰おう。

 

 ミダの身体が頭部を回収しようと迫る。だがそれよりも先に私が頭部を拾い上げた。無駄に素早く無いのだ。

 

「はっはー!ミダちゃんゲット!」

 

 げげっ、とミダの顔が歪む。首を斬られているせいで声は出ないようだが、言っていることはしっかりと理解しているようだ。ならば好都合だ。

 ミダの身体が狼狽えているのを良い事に、私は頭部を掲げてから部屋を走り回る。

 

「お、お前何してるんだ!そんなものさっさと離せ!」

 

「妬いているのかい?もっと妬いて!ルカティエルの愛をもっと感じたいから!」

 

 そう煽り、私は胸にミダの頭を思い切り抱いてから自分の顔の前に頭部を持ってくる。シャーっと、ミダが出来る限り威嚇してきたが次に私に何をされるか分かってしまったのだろう。

 愛を求め、美に狂い、毒と化した彼女の顔は乙女のそれになる。そしてその毒満載の唇に思い切りキスをした。

 

「お゛お゛おおーいッ!!!!!!」

 

 ルカティエルの怒号が飛ぶ。トーマスは暴れる彼女を全力で制していた。ミダの身体はモジモジしている。

 気を張らなければ、彼女はとても美しい女性だった。唾液が絡み合い、舌を入れ合えば火照った彼女の緑の肌が熱を持つ。嗚呼、君はただ孤独だっただけだったのだ。ただ一人に愛して欲しくて、どうしようもなくて、狂って。けれど報われなくて。一人の白百合として君を歓迎しよう。私は乙女の騎士である。そして今、彼女の孤独を理解し(ソウル)が共鳴仕掛け、その想いを受け取ってみせた。常人ならば発狂するだろうが、私は公爵の書庫でも狂わぬ強靭な心を持つ。そんな彼女の狂気は、ただの小娘の嫉妬程度にしか思えない。

 

 唇を離せば、ミダは蕩けた瞳で私を見ていた。それは確かに、彼女も百合を理解している目。けれど違うのだ。彼女が愛するのは……鉄の古王ただ一人。だから百合にはなれぬと。そう、物語っている。

 

「君は、そのままでも美しいよ」

 

 だから、それで終わり。哀れで悪名高い毒の妃を葬らなければならない。

 ミダの頭部を床に置けば、ゆっくりと彼女の身体が頭部を回収する。そしてしばらく、私と彼女は向き合い。

 

 刹那、互いに武器を構える。そしてミダが振るう槍を完全にパリィすると。

 

I’m invincible(私は無敵故),I’m unavoidable(逃げる事は叶わぬ),I’m undebatable.(その余地すらない)

 

 その頭部にレイピアを突き刺す。一瞬で、即死させた。もう苦しめる事はしたくなかった。ほんの少しでも心を通わせた乙女を、これ以上苦しめて何になる?そんなものが百合の騎士であるはずもなし。

 斃れ、(ソウル)の霧と化す彼女の貌は美しかった。嗚呼、何と罪深い男なのだ鉄の古王とは。その報いを受けさせねばならぬ。

 

━━Victory Achieved━━

 

 

 トーマスが拍手しながら消えていく。レイピアに着いた血を払い、鞘に納めれば私は片膝を着いた。実はキスをした瞬間毒になったのだ。苔玉を取り出し貪れば、苦さと同時に身体が楽になる。ふぅっと息を吐いて見上げれば、仁王立ちのルカティエルがいた。

 

「……怒ってる?」

 

「ああ」

 

 こわい。ルカちゃんこわい。けど、彼女は私を殴る事も怒る事もしなかった。代わりに優しく私を抱きしめ、翁の仮面を取ると優しく口付けをしてくる。

 まるで、独占欲の塊だ。けれどそれが救いになっているのも確かだ。戦いと百合だけは、やめられぬ。私は愚かで強く、そして百合なのだ。

 

「もう、無茶はしないでくれ。お前がどう思おうが、傷つくのを見てるのは辛いぞ。あと浮気するな」

 

「ごめん」

 

 私が悪かったけど、絶対最後のだけは本音だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恋多き方なのですね」

 

 彼女の前で私の黒歴史を読んでいれば、不意にそう呟いた。言われた私も顔を赤らめて俯き小さくなる。

 彼女は私の娘であり、恋人であり、愛しい人形だ。そんな相手に私のそういう、なんだ……アレな過去を話すのは心苦しい。本当に勘弁してほしい。どうして彼女に読み聞かせをしてほしいと言われた時に気が付かなかったんだ私は。啓蒙高くも愚かな人間だ、私は。

 

「その、色々あったんだよ。うん」

 

 言い訳にすらならぬ世迷言を言えば、私は立ち上がって両膝を着きながら、椅子に座り紅茶を啜る彼女に弁明した。

 

「だってしょうがないじゃないか!皆可愛いんだもの!美しいんだもの!ね?私は悪くない!ノーカウント!ノーカウントだから!」

 

 どこかの禿頭のようなことを喚き散らす。恥ずかしく無いのか私。恥ずかしいよ。恥ずかしいけど、しょうがない。

 私の弁明を聞いてか、彼女は紅茶のカップをソーサーに置いてこちらを振り向いた。その肌はどこまでも白く、そして人形である。次に彼女はその剥き出しの球体関節の指先を私の肌に添わせる。

 

「おかしな方ですね。私が、こんなお話で貴女を嫌いになるはずがないのに……クスクス」

 

「怒ってる……」

 

 よく分かる。感情が希薄だった頃からずっと一緒にいるのだから、尚更だ。

 さぁ、と彼女は本を指差すと命じた。

 

「続きをお願いしますね、古い闇姫様」

 

「はぃ……」

 

 やはり私は自分の娘であり恋人に弱い。けれど、それも悪く無いと思えるあたりルカティエルが言っていた変態というのは間違っていないようだ。

 

 

 

 

 




ミダのくだりはやるつもりはなかったのですが、濃厚な百合がもっと書きたかったのでブチ込みました。

エルデンリングで百合の花が咲くのを

  • 見たい。リリィの百合蹂躙
  • もう見たくない。ブラボで終わらせるべき
  • どうでもいいわ(レ)
  • むしろR-18で今までの百合が見たい
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