かつて、鉄の古王は単なる人であった。弱小国の長に過ぎなかった古王は、しかし周辺国のヴェイン伯国から領土を奪取するとそこから良質な鉄を安定して産出、莫大な富を築いたという。
そしてその頃から、鉄を自在に操り命すらも生み出す業を身に付けたという。けれど誰しもが言うのだ。鉄の古王は、決して王たる器を持つ人物ではなかったのだと。
そんな見栄っ張りの王が富と権力を誇示するために作らせたのが、鉄をふんだんに使った溶鉄城。もう住みやすさとか通行のしやすさとかは二の次であり、ひたすらデカく豪華に作った城である。まぁそんな傲慢さが祟ったのか、溶鉄城はその重さで地面へと埋まり、そして溶岩の中に消えていったのだという。まるでどこかの薪の王だ。ざまぁみろ。
「しかし、どうして土の塔の上にこんな場所が?どう考えてもおかしいだろう」
溶岩に近い場所で篝火に当たる私にルカティエルは言う。そう、問題はそんな城の在り方だ。ミダを降し、その先にあった昇降機を登ればどう言うわけか地中の溶岩に眠る溶鉄城へと辿り着いたのだ。
溜まりの谷から土の塔を見ただけでは、その上にこんな歪な空間は無かったはずだ。
「時空が捩れ曲がっているのだろうな。まぁ、よくある事だ」
「そんなものなのか?」
そう、良くあることだ。ロードランでは見られる光景では無かったが、シースの研究曰く長い年月と強い
そんな考察も程々に、鉄で出来た橋を渡る。この橋を渡り切れば溶鉄城への入り口へと辿り着く。
それにしても暑い。溶岩が海代わりにあるような場所だから当たり前だが、そんな中でも汗ひとつかかないでいられるのは不死の特権だ。もし不死でなかったら汗だくで戦わなければならないのだから。ルカティエルもそんなベストや仮面なんて着ていられないだろう。
さて、そんな私達を待ち構えるのは鉄で出来た傀儡の騎士。騎士と言っても、私が知るようなスタイルの騎士ではない。東の地の刀を模して打った剣だけを手に、これまた東の地を思わせる甲冑を着ている。通称、アーロン騎士。それは不自然にも高速で歩きこちらへと迫ってくる。素早い動きは厄介だ。
それを退ければ、侵入があった。
てっきり武器屋というのだから様々な武器を駆使して戦うのかと思いきや、闇霊は魔術剣士だった。
「人であるならば私だけで十分だ」
そう言ってデニスに対するのはルカティエル。まぁ今までは複数戦とか高所とか化け物とか、およそ人がまともに戦える相手ではなかった。彼女の言う通り、任せてみよう。危なくなったら全力で援護するが。
お互いに構えるルカティエルと闇霊。どうやら名前通り武器屋デニスは女性のようだ。胸に少しの膨らみがある。顔は見えぬが……戦いに生きる乙女というのは闇霊だろうが美しく見えるというものだ。私が戦いたかったなぁ。
その時、闇霊が動いた。先手を取った闇霊は、離れた場所から剣を振るうとそれを触媒にして魔術を出す。放たれた魔術は
「ほう!」
思わず感心する。まさか触媒になる剣があるとは。きっと理力補正は杖に比べ低いのだろうが、あれは浪漫がある。なるほど、故の武器屋か。武器の魅力に取り憑かれた乙女……一人の戦士として是非とも語り明かしたいものだ。
ルカティエルは迫る魔術を、しかし容易く上半身を翻して回避すると瞬間的に肉薄する。流石はミラの正統騎士。まずは対魔術師の基本である密着に徹するようだ。私も密着されたい。
彼女はそのままダッシュ斬りを仕掛ける。だが武器屋デニスも魔術師の弱点は分かっているようだ。すぐにローリングで後方へと下がり距離をとってみせた。
そして起き上がる間も無く、魔術を展開する。それは私も見た事が無い魔術。
「おお!」
感嘆の声をあげる。デニスが放ったのは、なんと
ここぞとばかりに武器屋デニスは隙だらけのルカティエルへと攻め入る。触媒にしていた剣で直接攻撃するようだ。きっとそのまま突き刺せば致命の一撃と化す。
「ふんっ」
だが危機的状況にありながら、ルカティエルはそれを鼻で笑って見せた。振るわれる剣に、流れるように回転をして盾を振るい返せばそれはパリィとなる。
流れるような美しい逆襲。嗚呼、やはりルカティエルは素晴らしい戦士のようだ。そのままルカティエルは大剣を振るってデニスの体幹を崩し、剣を突き刺す。対人慣れしている動きだ。彼女にはこっちの方が合うな。
武器屋デニスの霊体が消滅すれば、ルカティエルは剣を振るい鞘へと戻す。私は称賛の拍手を彼女に送った。
「良い戦いだったぞ、見事なパリィだ」
「お前を真似ただけだ」
そういう割にはどこか誇らしげな彼女は、やはり可愛い。
その後、城内へと侵入し多数のアーロン騎士や火を吐く鉄像を相手にする。道中ラル・カナルという国の出のマグヘラルドという珍品売りと商売をし、先へと進めばまた開けた場所へと出た。おまけに下は溶岩であり、落ちれば確実に苦しみながら死ぬ。あちらこちらから大矢が飛んで来ては嫌がらせもされるという、アノール・ロンドの梁渡りのような場所だ。
「この配置は頭に来るな」
アーロン騎士よりも一回り大きいアーロン騎士長を屠ると、ルカティエルは言う。
「だが防御を固めるという事はそれだけ拠点として重要だということだ。何かあるぞ」
広場を探索し、仕掛けを解いたり橋を渡したりすれば、私の言う通りだった。ハズレの通路に濃霧が掛かっていた。
中からは尋常ではない
二人で霧を潜る。すると、円形の部屋に出た。中央には、まるでデーモンのような鉄製の何かが鎮座している。
そしてその心臓部には火が燻っており、一眼でそれが鉄の古王が造りし魔物であると理解できた。なるほど、こいつがこの通路を守る本当の番人か。
そのデーモンを称されたゴーレムは、地面に突き刺していた剣を抜くと吠えてこちらへと向かってくる。デーモンと名乗るからには滅さなければなるまい。
「またデカブツか!」
ルカティエルが悪態を吐きながらも大振りの一撃を避ける。サイズ的にはアイアンゴーレムよりも一回り小さいが、その分機動力に勝るようでかなり動きが機敏だ。
であるならば、魔術を用いる。火を用いているならば魔術耐性はあまり無いはずだ。だが大きさや同伴者の事を考え、持ち得る最大火力を出そうじゃないか。
「追う者たち」
仮初の生命が私の周囲に展開する。そしてそれは、生命、延いては火への憧れ。火を灯すデーモンは彼らにとって最大の情景と憎しみ。
勢い良く突っ込む追う者たちは、溶鉄デーモンの脇腹を損壊させる。思わずデーモンがよろめく。
ここぞとばかりにルカティエルが斬りかかる。正面ではなく、背後から行くあたり段々と戦い方が分かってきたようだ。
しかし溶鉄デーモンの様子が何かおかしい。怯んだにしてはうずくまる時間が長い……まさか、熱を溜めているのか?
「ルカティエル、離れろ」
私が彼女に指示し、ルカティエルが即座に距離を取る。すると、溶鉄デーモンから熱が迸った。どうやら今までは準備運動だったようだ。なるほど、身体が温まったか。
吠える溶鉄デーモンは、しかし周囲に異常な熱を放っている。あれでは近付いただけでダメージを食らうぞ。ルカティエルと相性が悪いな。
「離れていろ!」
ならばもう魔術で対処するしかあるまい。
見上げれば、デーモンが剣を私目掛けて振り下ろそうとしているではないか。
「少しは頭が回るか、傀儡め」
言いながら転がって回避する。刹那、先程まで経っていた金網の床に剣が突き刺さった。
「待て、何か来るぞ!」
ルカティエルが言えば、確かに溶鉄デーモンの様子がおかしい。剣を刺したまま震え、まるで爆発するような様子だ。というか、多分爆発する。
第六感が働き、すぐに駆けて溶鉄デーモンから離れる。するとやはり溶鉄デーモンが爆ぜる。それは火の魔術に近い。少なくとも呪術では無いようだ。なるほど、あの溶鉄デーモンの心臓は本場イザリス産のデーモンの
「殺す理由が増えたぞ」
このままでは我が師クラーナとの約束に反する。師との約束通り、魔女達の罪は私が終わらせなければなるまい。
武器を変え、両手ともメイスにする。剣ではあまりダメージソースにはならんだろうからだ。
「援護しろ!」
ルカティエルにそう告げると、彼女よりも先に溶鉄デーモンへと迫る。暑苦しいが、仕方あるまいさ。
デーモンが剣を引き抜くと同時に、その足を攻める。あれだけの巨体を支えているのだ、足には相当の負担がかかるはずだ。
両手のメイスが爪先を砕く。どうやら一丁前に痛みという感覚があるらしく、砕かれたデーモンは足を押さえて滅茶苦茶痛がっている。
下がる頭を前に、ルカティエルが致命の一撃を入れる。その巨人のように穴が空いた頭部に剣を突き入れた。
「どうだ巨人め!」
グリグリと剣を抉れば、デーモンはもがき苦しむ。同時に心臓部からより一層炎が迸った。これ以上は流石に私達不死でもキツい。決着をつけるか。
左手に杖を取り出し、右手をレイピアにする。そして久しぶりのエンチャント。
「結晶魔法の武器」
刀身にこれでもかと結晶が塗られ、禍々しいほどに狂気を帯びる。そして未だに痛みに暴れ狂う溶鉄デーモンの膝へと飛び乗り、そのまま跳躍すると頭部へと手を掛けた。
「
お決まりの言葉を言いながら、レイピアを突き刺す。一度、そして二度。深々と突き刺せば今度は位置を変えて燃える心臓部へとレイピアを突き刺した。
いや熱い。熱すぎて流石に死ぬ。程良いところで溶鉄デーモンから飛び降りれば、腕が火傷している。
「大丈夫か?」
「ああ。勝負もついたしね」
レイピアを鞘へと収めれば、溶鉄デーモンが
そのすぐ先に篝火を見つけたので一度マデューラへと帰る。何やら大穴の所でこちらへと来ていたギリガンが梯子を掛けようとしていたので後で使わせてもらおう。
「やあクロアーナ、また会ったね」
隣にルカティエルがいるというのに、篝火の近くに座るセクシーなクロアーナに話しかけてしまう。これはもう性だ。仕方ない。
美人に話しかけ、しかも知り合いと知ってムッとするルカティエル。嫉妬すると彼女は子供っぽい束縛心を向けてくるが、それもまた可愛いから良しとしよう。
「ああ、アンタも来てたんだ。隣の騎士様は彼女かな?」
誰にも臆さない彼女が冗談混じりに言えば、ルカティエルが言葉に詰まった。きっと顔を赤らめているに違いない。
「そんなところさ。君もどうかな?私達と愛を痛ッ」
「帰るぞ!」
首根っこ掴まれて引き摺られながら私はクロアーナに手を振る。彼女も笑ってこちらに手を振りかえしていた。嗚呼、もう少し寛容になってくれていいじゃないか。もっと色々な少女達と愛を深めたいのだ、私は。
緑衣の巡礼からの視線が辛いから大人しく帰るか……
「……変わらないですね」
不意に、本で顔を隠しながら音読させられている私の耳にそんな言葉が入ってきた。ぎくり、と心臓を握られたような気分になって彼女の顔を見てみれば、いつも通りの凜とした表情を浮かべてはいるものの、どこか呆れているようにも見えた。
咳払いし、何も言わない。私から何か喋ればボロが出てしまうに違いない。特に彼女のとの会話はいつだってそうだ。世の中の父親も、娘と話すときは誰であれそうなるだろうから。
「良いのです。創造主は被造物を愛しませんから」
「それは違う。私は君を愛している。愛さなければ、こうして自分の恥ずかしい時代の物語を読み聞かせたりなどするものか」
キッパリ、即座に彼女の言葉を否定すれば、少しだけ彼女の瞳が驚いたような気がした。きっと今までの恥晒しの幼年期明けの愚かな乙女のような声色と表情では無かったからだろう。現に今の私は、しっかりと彼女を見据えて話している。
「何か勘違いしているかもしれないから一つだけはっきり言っておこう。人は言葉にするしか想いを伝えられないのだから。私は、君を、愛している。君に全てを捧げたい。君とずっと、愛を交わしていたい。これは私の本心だ。そのためならば何度だって死んでみせようじゃないか。今までそうしてきたように、神すらも殺してみせようじゃないか。ただ君を愛するために」
言っていて恥ずかしくなりそうな言葉だが、その言葉に嘘偽りなどあるはずがない。
だって、彼女が大切だから。誰かの模造品として造られたから何だというのだ。そんなもの関係が無い。ただ私は彼女を愛し、愛され、百合を咲かせる。
彼女は少し唖然としながらも、その頬を赤らめた……ような気がした。ビスクドールの肌が紅潮する事など無いが、その心は分かる。
「……すみません。少し、意地悪してしまいました」
そして、彼女は純粋だ。その愛を一心に向けてくれる。故に嫉妬する。だから愛したいと思える。私は微笑みながら、彼女の長くて大きな手を取る。
「マリー。それだけ君が私を愛してくれているという事だ。嫉妬とは、愛が拗れているだけなのだ。可愛い」
最後に素が出た。けれど彼女はそんな私の手を握り返してくれた。球体関節の指が私の手を包む。そこに熱は無く、血は通っていない。けれど愛だけは実感できる。他の世界の血に狂った者どもでは分かるまい。地底に潜りひたすら石を掘る狂人どもには。私もその内の一人だったが。
「そういえば」
不意に。彼女の口が動く。なんだい、と聞き返せば言うのだ。
「この間、御不在だった間に星の娘様から伝言を賜っております。また、激しく愛してほしいと」
みしりと私の手が歪む。強烈に彼女の球体関節の掌が私の拳を握り潰さんとし、顔面から血の気が引く。
「……怒ってる?」
「いいえ。けれど、モヤモヤします」
それを、嫉妬というのだと。私は娘にして愛人である彼女に教えるべきだろうか。
恋多き女、リリィ。
それはさておき、ブラボを終わらせたらエルデンも見たいですかね?
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いやぁそうでもないっすよ