気分が良い。気分が良すぎて鼻歌混じりにスキップしながら石化した獅子族の亜人を斬り刻む程だ。
亜人が落とした牙の鍵を拾い上げ、意気揚々に掌の上で回す。くるくると回る鍵を
気分上々の理由は、たまたま見つけた宝箱から手に入れた武器のお陰だ。その名も黒騎士の斧槍。そう、かつてロードランでの戦いにおいて私が振るい数多の強敵を討ち滅ぼした名高い武器だ。
正確にはそれを模した物かも知れぬ。今手に入れた斧槍にはあの頃には無かった筈の炎の力が宿っているのだ。グウィン王を追った黒騎士が火の炉の炎で焼かれた事に起因する伝承が、武器に宿ったのだろう。
ルカティエルやバンホルトと合流しなくてはならないのに何楽しんでいるんだと我ながら思うも、仕方ないだろう。だって黒騎士の斧槍だぞ。
「後でレニガッツに強化してもらわなくてはならんな」
やや興奮気味にそう呟けば、斧槍を
落とし穴に落ちても機嫌が良い。例え落ちた先に酸溜まりがあり、罠のようにバジリスクが待ち構えていても許してしまえる程には機嫌が良い。
とりあえずバジリスク共は瞬殺し、何やら開かずの扉があったので先程手に入れた牙の鍵を使って解錠する。どうやらここの鍵で合っていたようだ、運が良い。実に運が良い。
「あら」
「おわっ!?」
不意に、落とし穴の洞窟の扉を開けば何処かで見たような鴉人がいた。かつてエレーミアス絵画世界で散々私を追っかけ回してくれたベルカの鴉人と瓜二つ。けれど驚く私と正反対に、その鴉人は可愛らしい黒い瞳を輝かせて言葉を紡ぐ。
「開けてくださったんですね。助けていただきありがとうございました。こんな罠に掛かるとは……恥ずかしいばかりです」
現在、ささやきの指輪は外している。という事は彼女はあの白竜に生み出された存在では無いのだろうか。まぁエレーミアスに居たくらいだし、そもそもがベルカ信仰者の成れの果てであると書物で見たくらいだし、それもそうか。
コホン、と咳払いし、私は対話に応じる。見た目こそアレだが、声色からして女性のようだ。女性には紳士的に。それでこそ百合である。
「リリィだ。旅をしている……君は、ベルカの鴉人か?」
「おや。私の遠い祖先の事を御存知で?私の名はオルニフェクスと申します。以後、お見知り置きを」
ぺこりと長身の身体で一礼する。ふむ、鴉の上半身はともかくとして、肌剥き出しの下半身は中々にスタイルが良い。生殖器等は見当たらないから露出させているのか、そもそもそういった恥ずかしさとかは人と違って持ち合わせていないのだろうか。
彼女の綺麗な下半身を眺めつつ、私も一礼する。礼には礼を、だ。
「何か御礼をせねばとは思うのですが、生憎今は何も持ち合わせておらず……」
「気にするなご婦人。偶然通っただけさ」
「それでは私の気が済みません。この先の輝石街に私の住処がございます。そこまでお越しいただければ御役に立つ事もあるかと思いますので」
「出会ったばかりの乙女を家に誘うとは……貴公、中々攻めてくるな」
「はぁ……」
何を言っているのか分からないという顔は止め給え。言っていて恥ずかしいだろう。
落とし穴の洞窟から出ようとした折、不自然な遺跡とこれまた不自然な老人を見つけた。木製の椅子にゆったりと座り瞳を閉じる老人は、側から見れば死んでいるようにも見えたがどうやら違うようだ。
それに、この老人から闇を感じる。破門のフェルキンとかいう闇術師よりももっと深い。まぁこんな場所に居る時点で怪しさ満点だが。
「おい、貴公」
話し掛ける。けれど老人は何も答えない。もしや寝ているのだろうか。不死ではあるようだから眠りにつけるはずもないが。
「おーいお爺さん、生きてますか〜!」
ユッサユッサと彼の身体を揺らせば、ビクッと驚いたように身体を震わせた。どうやら自らの内にトリップしていたようだ。これは邪魔してしまっただろうか。
老人は私を一瞥すると、大きく深呼吸する。まぁここまでバジリスクは来れないように酸が溜まっていたし、外敵が居ないから安心しきっていたのだろう。
「おお、不死がおる。こんなところにな。これまた、よく出来た不死だ」
「ボケてるのか」
そう言えば、老人はホッホッホと笑う。
「些か闇が薄れているが……なるほど。良い闇だ。懐かしく、温かい。だが薄れてきている」
「おいジジィ」
いくら機嫌が良くても、琴線に触れる事もある。特に私は、心を覗かれるという行為が大嫌いだ。
レイピアの鋒を老人の眼先に突きつけると、冷酷な声色で言った。
「貴様程度の闇が知った風な口を聴くなよ。本来ならば貴様が謁見して良い存在では無いのだ、この私は」
そう拒絶すると、しかし老人の燻んだ瞳に闇が迸る。まるで今でも若いように。けれど闇とは、熟成してこそだ。此奴のように歳を取った不死というものは、闇が深いのかもしれん。
「……すまないな、不死よ。しかしお前さんが更なる闇を求めるならば、また会う事もあるだろう」
スッと、彼の瞳から深い闇が消え見た目相応の老人らしさが戻る。剣呑なジジィだ。だがまぁ、嫌いではない。闇を理解しているのだろう。闇とは、ダダ漏れにする物では無いのだから。
「ヒヒ……待ってろよクソ野郎……絶対にとっ捕まえて生皮剥いでやる……」
一人、虚の影の森にある遺跡の塔でクレイトンは呟く。虚ろな瞳でそう呟く彼は、どこからどう見ても異常者である。
「随分と物騒な事を呟いているな」
すぐ横でそう語りかければ、クレイトンは声をあげて驚く。いくら復讐に夢中になっていたとしてもここまで接近を許すとは。
「お、おい!驚かすなよ!奴が来たと思って驚いちまったぜ!」
せせら嗤う。確かに此奴もまともでは無いようだが、それにしては抜けているところもある。それとも殺意には強く反応するのだろうか。ここまで一人で来れたということは腕は立つという事に他ならないのだから。傷も負ってはいないようだ。
警戒は解かずに何をしているのか尋ねる。すると彼は、
「この先の輝石街って所に奴がいるらしい。恥をかかされたままじゃいられねぇ、アイツには痛い目にあってもらうのさ……」
復讐は甘いものだ。その復讐劇に巻き込まれたくは無いものだが。何だかこの先、嫌な予感もする。
さて、どうやらこの虚の影の森も終わりが近いようだ。
遺跡群を抜けた先の坂、それを登り終えれば大きな洞窟があり強敵を知らせる濃霧が立ち込めている。感じる
濃霧を潜る。洞窟の中は明るく広い。空洞部分が広いし、おまけに天井は穴が空いていて太陽の光が差している。地面は砂地であり、なんとも神秘的にも感じる。
その中央に、誰かが居た。どうやら女性のようだ。その女性は上半身だけを砂の上に出し、青白い肌を惜しげもなく露出させている。手には何やら無骨な槍……なるほど、かなりワイルドでキツめな性格をしていそうだ。タークを尻に敷いていたに違いない。
と、そんな連れ合いの女性が槍を振るう。するとそこから
近寄ると中々に美人である。目は真っ赤で殺意に満ちているが。ささやきの指輪を嵌めていても、言葉は何も聞こえてこない。
二発目の
「これは良くないな」
地面が揺れる。きっと蠍の身体でもって砂の中から突き上げてくるに違いない。私が後方へと転がった瞬間、やはり蠍は地中から飛び上がってきた。
思っていた以上にデカい。タークの二倍以上はあるだろうか。その割には上半身は私よりも少し大きい程度だ。人間性が身体の内で暴走したか。
凶悪な二本の尾は、その先端が毒々しい色になっている。毒か、苔玉には余裕があるが。
可愛らしい名前だ。けれどあまりにも暴力的すぎるぞ。ナジカは正面の私に蠍の鋏を振るってくる。速く無いのが救いだ。
それをステップで避けて反撃すれば、弾かれる。あのハサミは相当硬い。生身の女性を痛ぶる趣味は無いが、仕方あるまい。
ハサミに飛び乗り、そこからまた飛び上がってナジカの上半身をレイピアで貫く。しかし刃が刺さる瞬間に僅かに身体を捻ったせいで心臓を貫けなかった。どうやら戦闘のセンスはあったらしい。
すぐに大きな影が私とナジカの上半身を包む。上を見上げるよりも早く飛び降りれば、大きな尾が叩き落とすように振るわれた。
追撃と言わんばかりにナジカが
「面倒だな」
回避しながら言えば、離れた隙にナジカが地中へと潜ってしまった。マズイ、地中に潜られればこちらの攻撃手段が無くなる。
おまけにどこへ逃げても真下の振動が離れない。確実に私を追ってきているようだ。
ならば砂でなければ良い。いくらあの巨体でも、地中に埋まった遺跡を貫けはしないはずだ。
思い立ったが吉日、倒壊した遺跡の残骸へと駆ける。滑り込むように遺跡を足場にすれば、どうやらナジカも無駄だと分かったようで離れていった。
地中から出てきたナジカが恨めしいといった表情でこちらを睨む。
「怖い顔だ。笑っていた方が綺麗だぞ」
軽口を叩きながらも闇術を展開する。仮初の生命が私の周囲に現れ、標的を捉えた。
「追う者たち」
放たれた追う者たちが、ナジカへと飛んでいく。地中に潜る時間は無く、強い追尾性のせいで逃げられぬと思ったのだろう。ナジカは尾を目の前に突き立て、まるで盾のようにする。
だが、闇とは全てを包み込む。生も死も、すべてが変わりない。追う者たちを防いだ尾は、どちらも吹き飛んで千切れていく。ナジカの絶叫が空洞に響いた。
あまりにも大きな隙だった。この機会を逃す手はない。悪いが、急いでいるんだ。ルカティエルを探さなくちゃならないし、黒騎士の斧槍を鍛えてもらわなければならない。
痛みで項垂れるナジカの頭を片手で掴む。そして一気にレイピアで口を穿った。
頚椎を、一気に突いてみせるとナジカの瞳がぐるんと上を向く。
「
あまりにも呆気がない。けれど、生命とはそんなもの。強大な
レイピアについた血を払い、納刀する。ふむ、報告は後でも良いだろう。今はルカティエルを探さなければ。
ルカティエルとバンホルトといえば、目的地である輝石街へとたどり着いていた。正確にいえばそこへと至るための門前だ。
騎士として有能な二人のことだ、如何に亡者となった大鷹の騎士団共がいようとも関係が無い。互いに分担し合い、活路を拓けばほぼ無傷で先へと進める。
「しかしリリィめ……私達を置いて先へと進むとは」
「まぁまぁ、早る気持ちも分からんでもないがな!戦士とは戦いに生きてこそよ。きっと彼女もさらなる戦いを欲したのだろう」
だがルカティエルは分かっている。絶対あの白百合のような少女は、見知らぬ森に来たせいで探索に夢中になってしまったのだと。まさか彼女達を置いて先へ進むとは思っていなかったが。
如何に愛を紡いだ仲とは言え、今回ばかりはガツンと言ってやらねばルカティエルは気が済まない。
そんな怒りを察してか、バンホルトは咳払いすると話題を変える。
「しかし、貴公がいなければ我々は永遠とあの森を探していた所よ。親切な御仁もいるものだ」
二人。
ではない。もう一人、彼らの背後に隠れるように男がいる。
軽装の鎧に、大盾と槍。その男は、親切である。
「ええ。こちらとしてもあなた方のような勇ましい騎士が居てくれて助かります。一人では厳しいでしょうから……」
優男のような笑みを浮かべるその男に、ルカティエルは仮面の下で疑いの眼差しをむけている。
土の塔で出会ったその男は、白百合の少女の知り合いであることは知っていた。そして、胡散臭いと少女が言っていた事も。
如何に女にダラシが無いとて、ルカティエルは彼女の事を信じている。戦いと、その感性。それは本物であると。
ペイトはそんな視線を受け、けれど笑みを浮かべてみせた。その笑みにどんな意味が込められているかも知らず、三人は進んでいく。
そして、突然大きな影が彼らを襲った。
二週目基準です
百合ばかりの番外編を
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見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
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いやぁそうでもないっすよ