暗い魂の乙女   作:Ciels

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クレイジーサイコレズ


輝石街ジェルドラ、公のフレイディア

 

 

 狂気、というものの定義は人によって異なる。正確には人が定義するものではない。時と場合、そして目に見えぬ常識が合わさって初めて狂気というものが定義される。

 人殺しの狂気というものがあったとして。それが狂気の内に定義、分類されるのはきっと穏やかかつ平和な場所でのみであろう。平和を乱す、つまりは唐突な生の与奪や死の付与という事は平時では起こり得ない事象だ。それを故意に起こせば、それは狂い。狂気である。

 

 だが、このドラングレイグであるならばどうだろう。最早まともな者などありはせず、血と(ソウル)に飢えた者達が闊歩し死ねぬ闘争に明け暮れるこの地であるのならば。

 きっと、平時の狂気は狂気で無くなる。むしろその平和こそが、狂気となり得るに違いない。

 

 長く、その狂気に身を置いてきた。美しい自然や壮大な遺跡、威厳のある神々の住処や禍々しい病に溢れた土地。だがそれは、あの時代とあの土地では当たり前の事であった。小鳥が囀り、川のせせらぎが穏やかさを醸すすぐそばで血みどろの殺し合いが起きていたなんて当たり前だった。

 

 だから所詮は、殺人鬼なんてもの、狂った内に入らないのだ。ただ人を殺したいからというのは、ダークレイスであった私ならば当然の感情だから。殺すために世界を跨いでまで侵入するのだから。

 ミラから逃げるようにして訪れた殺人鬼も、それを嵌めてただ愉悦に浸る親切な異常者も、あの時代と空気を知っている私からすれば狂気などでは無い。単なる児戯に等しい。

 

 狂気とは、正しく狂気の内に入る者が定義などできはしない。それはただの苔おどしにしかならない。

 

 

 

 

 

 輝石街ジェルドラ、その市街地。雑魚の群れを蹴散らしてそこへと至れば、まるで今まさに一つの遺跡の終焉を目の当たりにした。

 大部分を砂地と岩が占めるこの遺跡は、既にその殆どが流砂に消えつつある。まるで渦潮のように砂が大きく巻かれ、砕けた家財や家屋の破片などが飲み込まれていっているのだ。あと数百年の内に、ここは跡形も無く消え去るだろう。きっと、あの白竜の探究の果てに生命を吸い過ぎたのだろうか。

 

 異形の骨を被る魔術師どもが其処彼処に存在しており、まるでこの先へと至るのを阻止しているかのように攻撃してくる。(ソウル)の魔術のみを扱うその様は、確実に白竜の手先なのだろう。厳密にはその狂気に魅入られたジェルドラ公の。

 それら全てを滅ぼし、岩を掘削して作ったであろう家々を飛び、時に張り巡らされたロープで移動しながら進めば、その時は来た。

 

 とある岩製の家屋から、喧騒が響いている。斧と盾、そして槍がぶつかり合う物騒な物音。それは二人の男の死闘のサイン。

 

「死ねクソ野郎がッ……!」

 

 一方は放浪のクレイトン。竜断の三日月斧を振るい、呪詛を垂れ流しながら嬉々と顔を歪めている。

 

「ちっ……死ねば良いのに」

 

 対するは軽装の鎧に身を固め、扱い易い槍と地味であるが改修の加えられた大盾でクレイトンの猛攻を防ぐ親切なペイト。

 ようやく彼らにその時が来たようだ。この場では小手先や騙しでどうにか出し抜く事はできぬ。ただぶつかり合い、互いを削って殺すしかない。

 

 私とバンホルトは家屋に入るとその不毛な闘いを前に足を止めた。きっと背後の勇ましい騎士は混乱している事だろう。彼はクレイトンを知らぬ。

 私はというと、爆発する怒りを潜ませながらもまずは傍観することにした。児戯にも等しい争いなど、私が介入したら一瞬で終わってしまう。それではあの親切な屑が苦しまない。

 

「一体何だというのだ……?」

 

 バンホルトが疑問を呈せば、闘い合う二人はこちらに気がつく。どうやら技量的にはお互いに拮抗しているようだ。

 最初に声を上げたのはクレイトンだった。

 

「おい、手を貸してくれ!こいつ、思ったよりもやりやがる!」

 

 言われて、レイピアを鞘から抜く。次に声を上げたのはペイト。

 

「い、いきなり襲いかかってきて……手を貸してください!」

 

 私を見るや否や、あからさまに苦戦しているような表情をし出す。奴のいる場所と角度的に、バンホルトは見えていないようだった。

 

「良いとも。手を貸そう」

 

 両者に聞こえるように呟けば、バンホルトに言う。

 

「手を出すなよ」

 

 そして一歩目を踏み締めた瞬間、私は全速力で二人の戦いへと割って入った。

 

 ペイトの盾へと飛び蹴りを喰らわせる形で。

 

 

「なっ!?」

 

 大盾の防御を蹴りで崩され、ペイトの体勢が大きく崩れる。そして彼は、開けた視界の中で確かに見たのだ。

 深い、深い闇を。冷たく、どこまでも冷酷な深淵の一端。愛を穢され、奪われ、理性などとうに消え去った先にある本当の殺意。

 

 後悔など、させる時間は与えぬ。不死であろうとただ死に、何も思わせない。それを慈悲と取るか悍ましいと取るかは人次第であるが。

 無になるという事の真意は、残酷であると私は思う。だからこそ此奴にふさわしい。

 

 反射的にペイトが槍を突き出す。それを予期していた私は予め足を上げてそれを踏みつけた。

 鉄製である長槍が、たかが少女の身体の踏み付けで真っ二つに折れる。味方に回られたはずのクレイトンも、ゾッとしてただその光景を見続けていた。

 

 左手を握り込み兜ごとその顔面へと拳を打ち込む。全力の一撃は、鉄板で作られた兜と整った顔面を歪ませ、衝撃で白目を剥かせるに至る。

 そのまま思い切りレイピアを下腹部に突き刺せば、申し訳程度の刃を用いて真上へと引き裂いた。鎧など、意味が無い。本来の使い方ではない。かち上げられたレイピアがペイトの頭蓋すらも斬り裂いて宙へと飛び出れば、ペイトの身体が二つに割れて崩れる。

 臓物が飛び散り、血飛沫を浴びようとも構わぬ。ただ一瞬で致命的に、私は完全に殺し切った。

 

「死ね、下郎」

 

 吐き捨てるように呟けば、(ソウル)を吸収する。その量は多少そこらの亡者よりも多い程度であるが、そんな事はどうでも良い。その魂の全てを、私の闇が喰らい尽くしたのだから。如何に不死とてもう生き返れぬ。

 灰と化し、霧散する骸に目もくれずに振り返れば、クレイトンが絶句していた。

 

「貴様は私に刃を向けるなよ。殺すぞ」

 

 いつも通りの声色でそう諭せば、殺人鬼はうんうんと頷いて見せた。本来であれば、ここで感謝の証として隠れ家の鍵を渡す予定であったクレイトンだが。そんな事をすればどうなるかなんて分かり切ってしまったからそうはしない。出来るはずもない。

 真っ赤に血で染まった白肌と白髪は、最早鬼である。人がこうまでなれるのかと、バンホルトは畏怖する。

 

「行くぞ。時間がない」

 

「う、うむ」

 

 誉も何もありはしない。そんな闘いに、けれどバンホルトは何も言えぬ。ひょっとすれば、次にああなるのは自分かもしれない。今はただ気まぐれで生かされているだけで、いつかちょっとした理由で殺されるかもしれないなどと考えながら。

 クレイトンは、しばらく放心していた。放心し、その場を後にする。最早この地に彼の居場所はなかったからだ。

 

 殺人鬼などと、片腹痛い。この地にはもっと悍ましい人間がいる。それを前に武器など振れるはずもない。そんなそぶりを見せれば、それこそ死ぬのは自分なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何やら大層な遺跡でもあるのか、しばらくジェルドラの内部を探索していれば大きな門のような場所にたどり着いた。

 農夫のような侵入者の頭蓋からダガーを引き抜き、その大扉とでも言えば良い門を一瞥する。一層巨大な岩を大きくくり抜いて作られているのだろう、その遺跡はあの大蜘蛛が居着くのにはちょうど良さそうだ。

 

 霧と化して消えていく侵入者を背に、その内部へと至れば蜘蛛に囲まれる。おまけに背中に蜘蛛の手脚を宿した実験体の成れの果てまで出迎えてくるではないか。

 

「数だけは立派だな。やはり公爵の書庫を思い出す」

 

 あそこにいたのは結晶まみれの亡者どもだったが。数だけは多かった。左手に呪術の炎を宿し、バンホルトに離れるように諭して地面へと打ち付ければ周囲に炎と溶岩が吹き荒れた。

 混沌の嵐。かつてのイザリスの野心が生み出した混沌、その具現。蜘蛛などではどうする事もできない。炎の柱から逃れた者も、飛び散る溶岩に焼け爛れて死んでいく。まさかあの白竜も混沌の呪術を使う輩が来るとは思っても見なかっただろう。

 

 更に遺跡を進めば、どうにも巨大蜘蛛が糸を張り巡らせたらしい大きな空間へと辿り着いた。歩くたびに足元がねちょねちょして気持ちが悪い。腹が立つ。

 

「気味の悪い場所だ、まったく」

 

 バンホルトが亡者どもを駆逐しながら苦言を呈する。まったくもってその通りだ。

 そうして進んでいけば、濃霧が現れる。強大な(ソウル)を感じるに、やはりあの大蜘蛛がいるのだろう。となればルカティエルもこの先だろうか。

 

 絶対に救ってみせる。今度は必ず。もう、二度とあんな後悔はしたくはない。だから。

 

 レイピアへと黄金松脂を即座に塗り、濃霧を潜る。左手には呪術の炎を携えて。

 

 

 

 

 

 

 その部屋は、先程と変わらず蜘蛛の巣塗れであったが。まるでここに住んでいると言わんばかりに、中央の広場のみ何もない。

 周囲は岩壁が……というより、結晶が壁のようになっており、まるで公爵の書庫の先にある結晶洞穴のようである。天井は遥か遠く、けれども光があまり入ってこないせいで見通しが利かぬ。

 

 だがそれよりも、気になるものが奥に見える。あれは、竜の亡骸だろうか。

 

「なんと! あれは竜か!?」

 

 バンホルトが驚く。確かに普通に生きているだけでは、竜など死体すらも見ることはないだろう。

 

「いや。あれは古竜の……」

 

 言いかけて、気がつく。部屋の奥、古竜の亡骸の前に何かがある。否、誰かが居る。

 手脚を糸に巻かれ、けれどもその姿形ははっきりと分かる。意識は無いけれど分かる、あれは、ルカティエルだ……!彼女が亡骸の前に吊るされている!

 

「ルカティエル! 嗚呼、ルカティエル!」

 

 喜びと心配に駆られて叫び、遠くの彼女へと駆け寄る。その時だった。

 

「待たれい! 大蜘蛛だ!」

 

 バンホルトが私を呼び止め、自ずと私も足を止めて上を見上げれば憎き大蜘蛛が頭上から壁伝いにこちらへと降りてきていた。

 怒りが再度私を支配する。それに呼応するように呪術の炎がより一層猛った。魔術が効かぬならば燃やし尽くしてやる。

 

 地上へと降り立った大蜘蛛は、ルカティエルと私の間へと割って入ると大きく咆哮する。その複眼からは、少しの畏れと多大な憎しみが見て取れた。やはりあの蜘蛛を支配しているのは白竜の狂気か。ならば良い、もう一度殺して今度こそ無に帰してくれよう。

 

 

公のフレイディア

 

 

 無数の蜘蛛がどこからともなく湧き出す。面倒だ、纏めて塵にしてくれよう。

 

「混沌の大火球」

 

 左手に混沌を生み出し、それを何度も蜘蛛の群れに投げつける。蜘蛛に当たった混沌の大火球は弾けては蜘蛛どもを焼き、地面に残った溶岩は新たに迫る蜘蛛を足止めする。けれどそれでも蜘蛛の大群を半分ほどしか殺せていない。

 

「お主はあの大蜘蛛を! 雑魚どもは某に御任せあれぃ! ウリャアアアア!!!!!!」

 

 と、バンホルトが蒼の大剣を担ぎ蜘蛛の群れへと勇ましく突っ込んでいく。その無謀さは何たるや。けれども今はその愚かさが頼もしい。真に英雄とはそういうものだ。

 バンホルトに引き付けられた蜘蛛どもを無視し、大蜘蛛……フレイディアへと突撃する。

 

「嫁を返してもらうぞ!」

 

 そう叫び、迎撃してくる前脚の攻撃を回避する。そしてその大きな頭部へとレイピアを突き立てた。

 肉を抉る感触。身体や脚は堅そうだが、頭は人のそれと何ら変わりない。殺せる。

 

 痛みにもがき叫ぶフレイディア。脚を大きく伸ばして頭を高くに上げる。そんなに弱点を突かれるのが嫌か、と思ったのだが。

 突然、私を押し潰すように伏せ出した。危険を感じて後方へと転がっていた私は潰されずに済んだが、前脚による叩き付けが迫る。

 

 だがデカいだけの相手ならば幾度も戦った。そして私は強くなり続ける存在、人間である。細いレイピアで前脚を受けつつ、折れぬように衝撃を和らげ後方へと下がる。

 

「図体だけは一流か」

 

 ダメージは無い。けれどもその巨体から繰り出される一撃は重く、踏ん張っていても、そして和らげても身体が後ろへ押しやられる。

 むしろ、私の華奢な身体で受け止められていることが異常なのだ。

 

 どうやら近付かれるのがそんなにも嫌らしい。フレイディアは糸を吐いたり脚を振り上げたりして私を近付かせまいとしている。だが所詮は虫の浅知恵だ。近付けぬのならば遠くから焼く。

 

「大火球」

 

 隙の少ない大火球を生じさせ、投げる。フレイディアの身体がそれに当たり燃え出すも、あまり効果が無いようだ。やはり頭部を攻撃しないとダメか。

 レイピアをメイスと交換する。今度は叩き潰してみよう。そう思い接近しようとして、フレイディアが構える。

 口に(ソウル)を溜め、身震いしているのを見て……私は口が向いている方向とは逆に走った。あれは光線を出すに違いない。

 

「バンホルト! 光線が来るぞ!」

 

「ぬぅっ!」

 

 蜘蛛の群れを相手に大立ち回りを見せているバンホルトも、私の忠告を聞いて逃げに移る。

 刹那、光線が水平に薙ぎ払われる。丁度人の身体の胴体を狙った高さだ。それに太さもあるせいで転がって避けるのは難しい。

 

 バンホルトは焦り、だが蜘蛛を利用することにした。群れる蜘蛛ごと光線は焼き払う。彼に光線が当たる瞬間、目の前にいた蜘蛛を踏み台に高く舞う。それでも高さが足りないので、彼は空中で身体を何とか翻して姿勢を変えることで難を逃れた。中々良い戦闘スキルだ。伊達に武者修行しているわけではないな。

 

 私は全力で跳躍し、初撃を飛び越える。けれどそれで終わりではなかった。フレイディアは脚を巧みに動かし回転し出したのだ。

 

「前後の頭から同時にだと!」

 

 バンホルトが驚く。コマのようにくるくると回るフレイディアは、前と後ろの頭から光線を出し続けている。一撃回避してもダメだ。しかも頭を上下させて高い位置にも低い位置にも光線を浴びさせようとしているではないか。

 着地すると、私は迫るニ撃目を見遣る。幸い頭の上下運動は速くない。であれば上下どちらに光線が来るのか予測できる。次は胸より上だ。

 

 スライディングしてすぐ上を通り過ぎる光線を回避する。そしてまた、光線が迫る。今度は中段。

 

 突然、太い光線が分裂した。細く、しかし糸のように枝分かれした光線が私達をバラバラにしようと迫る。

 

「なんと!」

 

 バンホルトは驚く。最早配下の蜘蛛は消し飛んでいる。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちし、迫る光線を観察する。ルカティエルは殺す気は無いようで、彼女の高さには絶対に当たらないようになっている……概ね、彼女は研究に使うのだろう。

 ならば生き残ることを優先する。

 

 まずは頭部を狙った光線が来るようだ。そしてその直ぐ後に足を切断するための光線が数本見える。

 私は仰け反り頭を狙った光線を回避すると、そのままバク宙した。まるで大都市の競技会で繰り広げられる棒高跳びの選手のように。そうすることで足も浮き、二段目の光線も回避する。

 バンホルトはと言うと、南無三、と覚悟して光線へと飛び込む。そして潜り抜けるようにして光線を回避してみせた。

 

 だが、まだまだ回転と光線は終わらぬ。やはり大元を叩くしかない。

 

 私は着地するとフレイディアへと走り出す。いくら白竜の手の者だろうがあれだけの規模の光線だ、せいぜい回転するだけで精一杯だろう。集中力を多分に使うせいだ。

 だが奴へとあと一歩というところで光線もやって来る。今度は胸から下、そして跳躍したら当たるように頭よりも高い位置に光線が張り巡らされる。

 

 ならばと私は忙しなく動く脚を利用する。脚が地についた瞬間、私はその脚を垂直に駆け上がった。跳躍で足りぬならば登れば良い。

 光線の遥か彼方上を通り過ぎ、危機を回避すれば頭目掛けて飛び降りる。一瞬の出来事だ。バンホルトを気にしている暇は無いが死んでいないようだった。

 

「オラァッ!!!!!!」

 

 そして、回転する身体へと肉薄すれば光線を吐き身体ごと回る頭部を力づくで止める。あまりの巨体と質量のせいで身体が悲鳴を上げるがそれがどうした。例え後退りさせられようとも殺してやる。

 ズサーッと踏ん張る足が軌跡を描くも、これにはフレイディアも想定外だったのかようやく動きが止まる。そして慌てふためき光線を吐くその頭を片腕で押さえながら、メイスで殴りまくる。

 

 ボコボコと殴る度に頭部が歪んでいく。そして弱った瞬間、メイスを手放して頭をもぎ取った。だが相も変わらず光線が出ている。

 

「消し飛べッ!」

 

 もぎ取った頭をそのままフレイディアへと向ける。最早奴の頭は私の武器となった。

 悲痛に叫びながらも回転を始めたフレイディアの身体に、光線が浴びせられる。如何に巨大で硬い身体であろうとも、光線を防ぎ切る事はできない。焼かれ、身を貫かれるフレイディアはついでにもう一つの頭部も光線で破壊されると動きを止めて霧散し出す。

 

「やったぞ! ハハハァ、お主こそ勇猛なる戦士よ!」

 

 喜ぶバンホルトに、しかし私は言う。

 

「まだだ」

 

 そう、あくまで大蜘蛛を殺したにすぎない。あの巨体が霧になり、消えるのを見届けると私は何かを探す。

 

 いた。醜く、哀れでちっぽけな地を這う小虫。あれこそが真の敵だ。

 私は跳躍するとレイピアを取り出し小虫目掛けて刃を突き立てる。その切っ先が虫を貫けば、黄金松脂による雷が虫を焼いた。

 

「腐っても古竜だ。雷は痛かろう?」 

 

 虫から怨嗟が漏れ出す。けれど最早こんなちっぽけな身体では何も出来ぬ。虫はあっさりと焼け死に、白竜の意志はどこかへ消え去る。殺しきれなかったか……けれど、当分は悪さ出来ぬはずだ。

 

 

━━Victory Achieved━━

 

 

 

 

 

 

 

 ルカティエルを縛る蜘蛛の糸を呪術で焼き切ると、彼女の身体が解放されて落ちてくる。それを私は両腕でしっかりと受け止めた。

 フレイディアとの戦いで大分身体を痛めたが、これくらいは何て事ない。それよりも今は彼女の安否が心配だ。バンホルトが見守る中、私は彼女を抱き抱えながら地面へと寝かし揺さぶる。

 

「ルカティエル、しっかりして! ルカティエル!」

 

 呼吸はしているし、(ソウル)もしっかりとしている。しばらく彼女に問い掛ければ。

 

「……ああ、リリィ。なんだ、ここは……」

 

 ルカティエルが目を覚ます。私は安堵して息を漏らした。

 

「そうか、あの蜘蛛に襲われて……」

 

「ああ、もう心配いらん。あの蜘蛛もペイトも葬ったよ。身体は大丈夫か?」

 

 ああ、と肯定して彼女は立ちあがろうとするも、フラついてしまう。咄嗟に肩を貸せば、彼女は謝罪した。

 

「すまない、ドジを踏んだ」

 

「いや、謝るのは私の方だ。何かされたのか?」

 

「分からないが……どうにも気分が優れない。きっと気絶させられていたからだろうが……うわ!これは、竜か!?」

 

 化石化した古竜の亡骸を見て驚くルカティエル。これだけ驚ければ大丈夫だと思いたいが……何せ相手が相手だ。

 

「奴め……身体を失っても尚竜のウロコに固執するか」

 

 古竜の亡骸を睨む。偉大な(ソウル)が宿っていたのは古竜の亡骸だった。あの大蜘蛛はそれを守っていたに過ぎない。(ソウル)もしっかりと回収はしたが。

 

「一先ず、篝火を探そう。一度お互い休みたいしな」

 

 その意見に二人は賛同する。

 一難去ってまた一難。大事には至らなくて良かったが。

 

 けれどこの先、私は今後の人生を大きく左右する出会いをする事になる。

 

百合ばかりの番外編を

  • 見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
  • いやぁそうでもないっすよ
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