暗い魂の乙女   作:Ciels

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お休みをもらえたので投稿します。


王城ドラングレイグ、国の歴史と簒奪者

 

 

 輝石街の名前にすらなっているジェルドラ公。彼はこの街から採掘される鉱石や輝石を強みに莫大な利益を生み出し、そして王に近付いたのだという。

 けれど彼は、人を信用しなかった。金持ちにしか分からぬ苦労というのもあるのだろう。故にこそ、彼は蜘蛛を愛した。愛など分からぬ白痴であるというのに、それでも愛し。その偏愛はきっと眠っていた白竜を呼び覚ましたのだろう。

 

 だが彼と同じく、あの白竜も人など信用していない。だからこそ彼は利用されたのだ。愛した蜘蛛共々、白竜の狂気の傀儡となった。

 

 

 

 背後を向けた亡者をメイスで叩き潰す。外に居る炭坑夫や農夫とは異なり、装飾が良い服を着ている事から彼がジェルドラ公なのだろう。名だたる大名が背後致命で一撃で倒れるとは。骨の髄まで利用されたか。

 落とした懐かしい香木を拾い上げ、ジェルドラ公の隠し部屋の更に奥へと足を運ぶ。

 

 ルカティエルにはバンホルトと帰還の骨片で先に帰ってもらった。どうにも体調が悪い彼女を早く休ませてあげたかったから。私に恩義と責任を感じるバンホルトに介抱を頼んである。奴は戦いにしか興味の無い男だ、不死という事を差し引いても彼女に手は出さんだろう。

 

 その篝火は、他の場所と同様に広い部屋の中、孤独に置かれていた。まるでその篝火のためだけにこの部屋があると言わんばかりに。

 これで篝火は四つ。古き王達の残滓に狂わされた者達を屠れば、次はドラングレイグ城に向かう。そして見えるのだろう。この地を統べ、火継ぎに近付いた王に。

 

 篝火に触れる。だが、どういう訳か篝火に火が灯らない。

 

「なんだ? 調子悪いな……オラ、オラッ」

 

 バンバンと灰に突き刺さる捻れた剣を叩く。そして、僅かばかりの火が灯り、ホッとした瞬間。

 篝火が爆ぜた。

 

 爆音と共に爆風が起こり、私の軽い身体が吹き飛ばされる。痛みはほとんど無いほどだが、それでも地面に叩きつけられるのは不快だった。

 一体なんだ、と即座に起き上がり警戒する。もしやミミックのように篝火に擬態する魔物かもしれん。ここはあの白竜の狂気が根付いた場所。何が居ても不思議では無いのだ。

 

「いや本当に何なんだよ」

 

 メイスを構える私は唖然とする。篝火があった場所、そこには……何と形容すれば良いのか。木の根が巻き付いたような、というよりも巨人のように木になってしまったかのような巨大な亡者の顔らしき何かが居たのだ。新手の化け物か。

 だが、その化け物は私とは対照的に敵意を見せない。その植物と化した瞳で、じっと私を眺めているようだった。

 そんな異形を、私は(ソウル)で観察した。どうにもこの異形からは強い人間性を感じるのだ。

 

「……貴公。随分と濃い人間性だ」

 

 そう呟けば、ようやくその異形が口を開く。

 

 

 ━━ここに辿り着く者が現れるのは、いつ以来だろうか。

 

 

 頭に響くような男の老人の声。なるほど、こいつも人の話を聞かないタイプだな。フラムトのように一方的に自分語りをする奴だ。そういうのは女の子に嫌われるぞ。

 

 ━━亡者よ。呪いを超えようと望むのか。

 

 異形がまた語る。その解読困難な語種に、けれど私は理解できる。かつては私も学んだ故に。だからこそ、答える。

 

「人に超えられぬものなどない。人の可能性は神すらも殺すのだぞ」

 

 そう語れば、異形は関心したように息を漏らした。

 

 ━━試練に挑むこと、それこそが亡者に課せられた使命。全てを諦め、心折れた者以外はな。

 

「それは違うな。使命とは強いるものではない。望み、臨むものだ」

 

 かつて、私はあの神の地で。一人の騎士と旅をした。最初はただの成り行きで。けれど他人の使命はいつか呪いとなり。私の敵となった。

 あの子がいなかったら、きっと闇の王など目指さなかった。だからこそ分かる。押し付けられた使命ではなく、臨んだ使命こそ果たすべきもの。きっと、この亡者の成れの果ては気が付いていない。

 

 或いは、気が付いていてもどうにも出来ぬのだと。此奴こそが、心折れた亡者なのだと。

 

 ━━亡者よ、道は二つ。世の理を継ぐか、或いは壊すか。そしてそれを導くのは、真の王のみ。

 

「王に興味などない。ましてや火と闇など。そんな物語、とうの昔に捨ててきた」

 

 瞳の奥に暗い炎が宿る。ダークリングが黒い炎に揺らめく様は、闇の王。けれどそんなものもう興味が無い。今ならば分かる。結局は、王になど意味は無いのだから。闇こそが人の有り様だとすれば、いつかその時は来る。火を継ごうが、闇の王になろうが、いつかは深淵に消えて行く。

 カァスは分かっていなかった。王となれば、世は停滞する。そうなれば進化などあり得ない。闇という玉座に居座り、腐り行くのを待つだけなのだと。私は自由に百合を紡ぎたいだけだ。

 

 ━━幾多の者がこの場にすら辿り着けず。そしてここですら、道半ばに過ぎない。 ……古い亡者よ、お前はそれに足る者かな。

 

「見透かしたつもりか。不快だ、消えろ」

 

 そう言うと、亡者の成れの果ては地面へと潜っていく。気味の悪い笑い声と共に。

 最早(ソウル)は枯れ果て、けれど未だ消え切れず。そこまでして呪いを克服したいのだろうか。あんな醜い異形となっても尚。

 

 

━━Primal Bonfire Lit━━

 

 

 篝火を灯す。暖かな炎は、マデューラへと繋がる帰路の明かり。

 呪いは消えはしない。ただ、誰かに押し付けるだけだ。何かの使命が如く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多少は良くなったのだが、ルカティエルは相変わらず体調が悪いらしい。私達の(ケイルのでもある)隠れ家のベッドで横になっている。

 そんな病人である彼女の額を、優しく撫でてやればルカティエルは呟いた。

 

「すまないリリィ」

 

「お互い様さ。早く元気になっておくれよ、溜まった愛をぶつけたいんだ」

 

 笑みながらそう言ってやれば、彼女もまた笑みを見せた。彼女にはしばらく休んで貰わなくてはならない。きっと、良い機会だ。戦い以外の事をして欲しい。

 

 

 

 ルカティエルは、もしかすると限界かもしれない。それは長く不死であり、亡者であった私の所見であり確信に近い何かであった。

 (ソウル)の強さは変わらない。だが、私の中の闇が深く、呪いを感じていたのだ。彼女の身体から、触れる度に、亡者を感じている。

 

 白竜のせいだけではない。こういう言い方は嫌いだが……きっと彼女という(ソウル)の器が限界なのだ。そもそも、生者でありながら呪いの一部が肌に出てしまっているではないか。治らぬ傷のように。

 きっと。きっと、既に彼女の心は折れているのだろう。不死となり、国を、立場を追われたその日から。見つからぬ兄の行く末を、想像したその時から。

 

 できれば、私がその心を、根底から照らしたかった。けれどそんなこと、ぽっと出の私ができる事ではないんだ。

 

「呪いを纏う方」

 

 気がつけば、私は緑衣の巡礼の下へ来ていたようだった。彼女は相変わらずのツンっぷりで私を見ている。

 

「貴女の下には、多くの(ソウル)が集まっている。王の城へと向かいなさい、呪いを纏う方」

 

 いつもと変わらぬ。つまらぬ言葉。それが無性に腹が立って、けれど八つ当たりなどするはずもない。

 

「君の使命はなんだ?」

 

 問わずにはいられない。

 

「忘却と永遠の狭間で、数多の不死をその目にして。誘い、死なせ、奪わせて。果てに亡者となっても尚。君の果たしたい使命とはなんだ?」

 

 彼女は、じっと私を見る。冷たいようで、興味が無いようで、けれど分かるのだ。その瞳には熱がある。確かな使命を、彼女は持っているのだ。

 故に問わねばならぬ。私を、私達を導き破滅に追い遣っても尚、叶えたい望みを。女の子だから何でも言うことを聞くと思ったら大間違いだ。

 

 ふと、緑衣の巡礼は懐から何かを取り出す。それは擦り切れ、色も黒ずんだ鳥の羽。何かをそこから感じた。

 

「因果の終わりを。その先を。私は、見たいのです」

 

 自由。言い換えれば、それこそ彼女が求めるもの。まるで世捨て人のように、傍観者のように。彼女はそう言ってみせた。

 

「それは本当に、君の意志か?」

 

「私達の……意志です」

 

 確かに、彼女はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王城ドラングレイグ。かつて(ソウル)の業を極め、この地を征した男が興した国。文字通りその王城。最早亡国となり、まともな者など居ないとしても。その王城はしっかりと聳えている。不死達の試練となって。その心を折るために。

 

 虚の影の森、その分岐路をジェルドラとは真逆へと進めばとある祠がある。

 透明なドラングレイグ兵と流罪の執行者が守るその場所は、冬の祠。強き(ソウル)を持つ者のみが通れる門。そこを超えねばドラングレイグ城へとは至れぬ。

 

 まるで私の持つ四つの(ソウル)に呼応するように、ゆっくりと、その祠の扉は開いて行く。

 

「早く開けこの」

 

 あまりにも開くのが遅いので、無理矢理押し通る。力に負けたかのように祠の扉はそれなりの速さで開いてみせた。

 ちょっとイライラしているのかもしれない。ルカティエルの事もそうだし、昔の悪い思い出を思い出すのは辛いものだ。

 呪いを克服する。それは、神ですらなし得なかった偉業。だからこそ信用していない。そんな世迷言、ある筈がないのだ。

 

 冬の祠を抜け、王城へと至る為のトンネルを潜る。そこまで長いトンネルではなかったのに、潜り終えた先の天候は荒れていた。

 山を一つ越えたら天気がガラリと変わるということはよくあるが、これはそういう次元じゃない。文字通り、次元と時間が捩じれかけているのだ。

 

 

王城ドラングレイグ

 

 

 肌と衣服を濡らし、私は王城へ至る道を進む。道中の亡者兵士達を尽く退け、けれど不意に足を止めた。

 

 

「この城は、既に閉ざされた場所」

 

 

 いつの間にか先回りしていた緑衣の巡礼がそこにはいた。雨を受け、その緑衣を深く染めながら。きめ細かな胸元と肌に水を滴らせながら。

 普段ならば、その情景はさぞかし色情を誘うに違いなかった。マデューラにいるピエロ姿のロザベナもまた、私に甘い言葉を投げかけられているに違いない。

 

 けれど、今はそんな感情が湧かぬ。何よりもルカティエルに対する贖罪と焦燥が。私を無力と嘲笑うようで。

 

「しかし私の進むべき道はこの先にある」

 

 遠く城を見ていた彼女は、ちらりとこちらを見遣る。

 

「……そして貴女の。私の旅に終わりを」

 

 旅の終わり。それこそ、彼女の解放。けれどまだ解らぬ。解らぬ事だらけ。

 

「否。旅は、続いていく。一つの旅が終われば新たな旅が始まるまで」

 

 人生とは、そういうものだ。旅が終わる時、それは本当に死んだ時。或いは心を喪い亡者になった時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷雨が降り注ぎ、影が差す王城は魑魅魍魎の巣と化している。

 ファロスの扉道に居た像の騎士。王城へ挑む愚か者を狩る為の任に着く闇霊。未だ死に切れず門を守る亡者兵士。死して尚、その身を変質させられ守り手として門を開ける巨人のゴーレム。

 まるでアノール・ロンドである。だが幸いなのは、神がいない事であろう。神さえいなければ殺すのは容易い。神が居ても殺せばいいが、その労力は多大になる。奴らは無駄にタフだから。

 

 殺した亡者兵士の首根っこを掴み、引き摺って扉を開ける仕掛けと化したゴーレムの下へ連れて行く。

 一眼見て、王城の門扉の仕掛けは理解できた。大扉の左右に配置された巨大なゴーレム。石像が如く動かぬ彼らだが、(ソウル)を宿せば作動する仕掛けである。

 引き摺ってきた兵士の死体をゴーレムの足元に投げ入れれば、ゴーレムはその(ソウル)を吸って動き出す。手元の大きな器を回し、扉を開けてみせた。

 

「巨人との戦争はこれが原因か」

 

 かつてドラングレイグは、北の大地に攻め入り巨人から何かを奪ったのだという。そしてその復讐のため巨人はこの地に攻め入り、ドラングレイグは滅んだ。恐らくだが、ドラングレイグが奪ったものは巨人の(ソウル)。ただ殺して得られるものではない。もっと根源の、悍ましいものだろうか。その業は、こういったゴーレムや異形を生み出したに違いない。異形を生み出すにも特別な(ソウル)がいるのだから。

 

 開いた扉から王城へと入れば、そこは外とは打って変わって荒らされても居なければ朽ちてもいない豪奢な建物だった。来客用の玄関であろう。

 外の喧騒や雷雨の音は一切聞こえない。まるでこの内部が切り取られているような、そんな錯覚に陥る。

 

「そなた……何者だ」

 

 不意に。階段の踊り場からそんな声が聞こえてくる。目を凝らせば、そこに誰かが居た。透明の、(ソウル)だけの身体。酷く弱い霊体が、そこにいる。初老の男性のようだ。

 

「霊体か。見るに、貴族のようだが」

 

 近づいて私が問えば、虚ろな声色で男性の霊は言う。

 

「誰の許可を得てここに立ち入っておる……我が主、ヴァンクラッド王の居城である……それを知っての狼藉か……」

 

 それは、未だ死んだ事を理解出来ぬ霊特有の問答だ。今や王国は滅び、その王すらもどこにいるのか解らぬ。まともでない場所なのに。

 男の霊はしばらく俯くと、ある時こちらへ向き直った。まるで今までの会話など覚えておらぬと言わんばかりに。

 

「客人よ、我らが城へようこそ……」

 

 霊とは都合が良いものだ。自ら望んだ場面でしか存在出来ぬ。ならばこちらも乗ってやろう。無用な争いは要らぬ。

 

「うむ。噂に聞く王城へ至れて光栄である。して、貴公は?」

 

「私はこの国の宰相、ベラガーと申す者……我が主……ヴァンクラッド王への謁見をお望みか……?」

 

 今の所の目的、ヴァンクラッド王。謁見どころか殺害を目指しているのだが、それを馬鹿正直に伝えるわけにもいかない。私は頷いた。

 

「生憎と、陛下はここにはおられぬ……我が主、陛下は……あのお方、妃殿下の手に……」

 

「何? それはどう言う事だ?」

 

 妃。確か、デュナシャンドラだったか。昔聞いた噂だととんでもない美人であったらしいが。今のベラガーの言い方だと、ヴァンクラッド王が妃に殺されたような感じだが。

 だが(ソウル)の業を極めたらしい王が、ただの妃に殺されるものか?情報が少ない。とにかく、彼の話を聞く。

 

 彼はドラングレイグの歴史を語り出す。ヴァンクラッド王は聞いていた通り(ソウル)の業を極め、私同様四つの強敵を討ち滅ぼし、その力を用いてこの国を築いたのだそうだ。

 そして、ある時異国から美しい娘がやってきた。たった一人、彼女は王に海の向こうの危機を伝えた。

 巨人の国、迫り来るその危機を。

 

 そして王は海を渡り、巨人を成敗し、妃と凱旋。その勝利、妃への感謝、そして愛情の証として、持ち帰った巨人のゴーレムの力を用いてこの城を建てたのだ。

 そういえばアノール・ロンドも巨人が多く居たな。きっと同じように神々もあの城を作ったのだろう。歴史は繰り返す。そして滅んでいく。

 

「あのお方はこの国に……陛下に、安らぎを齎された……まるで……そう……」

 

「闇のように、か」

 

 ベラガーは頷いた。

 どこからともなく現れた美しい娘。王の全てを受け入れ、甘い、闇のような妃。それに心当たりが無い訳ではなかったが、確信がない。どうやら私が求めるのは王だけでは無いようだ。

 もし、私の仮説が正しければ。その妃はどこまでも危険であり、そして人らしいはずだ。

 

 

 

 その後、ベラガーは痴呆と接客を繰り返すようになってしまった。何やら客人をもてなさなければと言う事で、色々と品物を売ってもらえたのは有難い。

 

 王城を進んで行く。どうやら上にはもう何も無いようで、裏の通路を抜けていかねば王城の先へは進めないようだ。

 ザイン兵と呼ばれる近衛の亡者達を退けながら、地下通路らしき梯子を下って行く。下れば、何やら石像の兵士達が私を待ち構えていたがどうやら本当に石像のようで動きはしない。少し身構えてしまった。

 

 

━━Bonfire Lit━━

 

 

 地下室の一室に篝火を見つけたので点火する。不死に風邪も何もないが、雨でべとついた衣服をしばらく篝火で乾かす。

 

「闇のような王の妃……」

 

 ふと、ベラガーの話を思い出す。妃デュナシャンドラ。どうにもその存在がチラついていた。

 別にとても美人であるから下心がある訳ではない、多分……本当は少しあるが。だがそれ以上に、どうにもきな臭い。

 突然異国から現れた美女。そもそも、巨人の国の危機とはなんだ? 他国への侵略か? 本当に巨人はそんな事を企んでいたのか?

 

 私の知る巨人と、この地を襲った巨人がルーツを等しくしているとは考えないが。それでも、巨人は基本は温厚だ。彼らは職人気質の者が多く、多少気は荒いが、国というのだから統治はされていたはずだし理性もあったはずだ。全員が全員鷹の目やあの鍛冶屋のような性格とは思えないが……それでも、わざわざ海を越えての遠征は巨人といえどメリットがあるとは思えない。

 ダークソウルに釣られたか。だが、巨人の寿命は長い。故にその脅威を知る者達も居たはずだ。

 伝承にある輪の都の事や、小ロンドの事。どれを聞いても、まともであれば欲しがるはずもなく。欲しがるとすれば、それはやはり人間であり。

 

「……やはり、唆されたのか。あの時の私のように」

 

 そこで、あの世界蛇を思い出す。かつて私に世界の真理とやらを教え、闇の王へと誘った口の臭い蛇の一匹。

 もしかすれば、デュナシャンドラも王を唆し力を手に入れたかったのかもしれない。女ほど強欲な生き物も珍しいのだから。

 

 

 

 しばらく篝火で休み、身体を乾かすと先へ進む。そこは広い地下室……所狭しと兵士の石像が並び、まるで侵入者を待ち受けるかの如く。

 部屋には扉が幾つもあるが、どれも頑丈に閉まっている。部屋の奥にはゴーレムが二体、手にしているのは松明か。となれば、あれに(ソウル)を捧げればこの薄暗い部屋も明るくなるか。

 

「扉も(ソウル)仕掛けか……しかし敵が居なければ開かないか」

 

 問題は、捧げるための(ソウル)が無い。居るのは石像だけ……だが。

 

「……まぁ、そんな気はしていた」

 

 突然、兵士の石像が何体か動き出す。それに意志は無いだろう。あれもまた、ゴーレムの亜種故に。だが(ソウル)はしっかりと持っているようだ。

 ならば丁度良い。その(ソウル)、頂いていく。私はメイスを取り出し石像の兵士達と対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇潜りのグランダルは、王城の地下深くに文字通り潜んでいた。

 一人椅子に座り、岩を削った部屋の中、何かの仕掛けの前でただ瞑想にふけている。それは闇を理解するための学び。彼はその泥濘に身を委ねていた。

 

 そんな彼の背後に立つは、一人の少女。

 

「わッ!!!!!!」

 

「ア゛ッ!!!!!!」

 

 突然、少女の甲高くも凛々しい声がグランダルを襲った。いくら不死といえども老人、その驚愕に心臓が痛くなる。思わず椅子から転げ落ちそうになる彼は、けれどグッと堪えて椅子にしがみついた。

 振り返れば、少女が笑っている。闇を理解し、その微睡を受け入れる老人は心の底から殺意を覚えたが、闇はそれすらも受け入れる。

 

 という事にして、心を落ち着かせた。

 

「そんなに驚くとは思わなかったぞ」

 

「……不死よ、久しいな。相変わらずの呪われっぷりよ」

 

 その少女は私。虚の影の森で出会った古い闇姫。

 

「なんだ、皮肉のつもりか?それとも仕返しか?」

 

「あまり老人を虐めるでない……まったく」

 

 呆れてため息を零す老人の前に、少女はガサツに座る。

 

「ここで会えたのも何かの縁だ。闇を理解する者よ、知恵を借りたい」

 

 ふと、悪戯っ子の顔が凛々しくも真剣になる。それに興味を惹かれ、老人はなんだと尋ねた。

 

「闇の落とし子というのを知っているだろうか?」

 

「……ほう。お前さん、どうやらただの古い不死という訳では無いようだ。流石は古い闇姫という事か」

 

 やはりこの老人は私を知っていた。会った事は無いが、闇を語っているのだ。闇の王に近付いた私を知らぬとは思えなかったのだ。

 

「恥ずかしいからその名前はやめろ。というか、やはり知っていたか……あの黒歴史の呼び名が残っているとは……」

 

 あの調子に乗っていた時代ですら、闇姫という名は恥ずかしいと思っていたのに。

 

「ホッホッホ……ようやく一本取れたな、不死よ。それで、闇の落とし子か……」

 

 ふむ、と言って彼は顎髭を触る。

 

「お前さんが知っていることと大差はない。私は落とし子には興味が無くてな」

 

「あくまで人の闇にしか興味が無いか?」

 

「そういう訳でもないが。まぁ、詳しくは知らんが。奴らは、そうさな。深淵の父の破片、とでもいえば良いか。そっちはお前さんの方がよく知っているだろう?」

 

 知っているも何も。戦っている。そして打ち砕いている。あの憎き薪の王と共に。

 

「厄介なものだ、闇というのは」

 

「ホッホッホ……そう悲観するものでもない。闇は全てを受け入れる。よく知っているじゃろう」

 

「ああ。しかも無理矢理な」

 

 ウーラシールが良い例だ。辟易とする私に、しかし老人は思い付いたように言う。

 

「朗報を与えよう。落とし子はこの城の妃だけではない。幾人かが、未だどこかにいるはずだ。そしてそのどれもが、美人であるという……お前さんにとっては一番大切であろう?」

 

「一体どこまで私の事が伝わっているんだ……」

 

 まさか百合であることまで知られているとは。一体どこの誰が伝えたかは知らんが、恥ずかしいからやめて欲しい。女好きのど変態とかで伝わってなければ良いが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、私は篝火に戻り先へと進む。あの老人との出会いは偶然だった。偶々開いた扉の先に落とし穴があり、あの老人の巣穴が繋がっていただけだ。

 ちなみにあの石像がひしめく部屋だが、殆どの扉はハズレで開けたら虚ろの衛兵が待ち構えていた。どうやら彼らもまさか出番が来るとは思っていなかったらしく私を見た瞬間驚いたようなジェスチャーをしていた。

 

 当たりの扉から先へと進み、色々と宝箱があったので略奪する。奇跡や魔法があったり思わぬ収穫を得たが。

 その中でも、この花の作り物は特別だ。

 

「凍った花……なんだ、この力は」

 

 その花は、まるで熱を奪うかのように冷たい。何かの力を感じる辺り、特別な(ソウル)が作り出したのだろう。

 それにしても、冷たいのにどうにも暖かさも感じる。矛盾であるが、この矛盾は闇に近い。また闇か……

 

 その部屋から出れば、どうやら外へと出たようだ。外というかここもまた王城内部なのだが、見晴らし優先のこの通路及び階段は屋外で、見栄えばかり気にしているせいで雨晒しだ。

 足元は滑るし乾かした服はまた濡れるし……嫌がらせか。設計はどうなってんだ設計は。

 

 酸が敷き詰められた通路や、酸を吐く機械などがある辺り侵入者対策もされていたようだ。勝利と感謝と愛の証じゃ無いのかこの城は。

 

 兵士を殺し、階段を登ればおかしな部屋に辿り着く。屋内に入れたのは良いのだが、部屋は狭いし怪しい宝箱はあるし、どう考えても罠のような仮面が部屋の壁に敷き詰められている。

 

 仮面の前を通れば予想通りそれは罠。口から矢を撃ち出すのだ。

 

「設計者出て来いッ!」

 

 腕に刺さった矢を引き抜き、そう叫ぶ。通っただけで作動するんじゃ客人すらも殺してしまうぞ。おまけに宝箱の中もシケている。

 

 雫石を砕きながら次の部屋へ。何やら多少広く、ザイン兵の石像と大きな絵画が飾られていた。

 ザイン兵は一時的に石化されているだけのようで、近付くと襲いかかってきたからサクッと倒す。鎧は立派だが動きが単調だ。

 

 そしてその後、絵画を眺める。それは美しい金髪の女性の絵画である。これが、デュナシャンドラ。

 

「ううむ、美しい……」

 

 この頃には、幾分か気分が晴れていた。闇潜りの爺さんと話したり、罠に掛かって怒りが込み上げたり、そのストレスを兵士達にぶつけたおかげだろう。

 やはり、私は悩むよりも突き進んだ方が良い。例え問題を抱えようとも、それに気を取られるのは愚かだ。

 

「もっと下から……いや絵だから下着は覗けぬか……うわ呪い!」

 

 下心を絵画相手に曝け出し、それに近寄れば呪われかける。どうやらこの絵画も罠であるようだ。愛はどこへいった愛は。

 文句を言いながらも部屋を後にし、階段を登る。ここ階段ばっかりじゃないか。客が疲れるぞ。

 

 と、その時だった。突然、(ソウル)がざわつく。この感覚は闇霊だ。

 

 

━━闇霊 無名の簒奪者 に侵入されました!━━

 

 

 本当にこの城は忙しないな。罠やゴーレムや闇霊……まったく、落ち着いて絵画を眺める事もできやしない。

 闇霊は私の退路を塞ぐようにやって来た。どうにも軽装で、しかも女の聖職者らしい。聖職者のローブを見に纏い、その手には短剣を持っている。舐められたものだ。

 

 それにしても、なんだか見覚えがある。あの尻とボディライン……もしや。

 

「まさかリーシュか?」

 

 こちらに殺意を持って迫る簒奪者に、そう問い掛ければ彼女は足を止めた。止めて、何やらこちらを窺っている。

 そして私に気がついたようで、ゲゲッと後退りした。どうやら本当にリーシュのようだ。ようやく正体を表したか。

 

「ほう、私相手に侵入か。良いのかい?この後君の本体を襲いに行くぞ」

 

 文字通り、百合に塗れさせてやるぞと。そう脅せば、彼女は明らかに動揺していた。嗚呼、闇霊も言葉を話せれば良いのに。彼女の釈明や言い分を聞いてみたい。

 まぁ良い、向かってこようが逃げようが、私の世界に侵入した時点で彼女は罪人だ。罰を与える事は確定した。ルカティエルには悪いが、これは仕方のない事だ。罪人は罰せなければならないだろう。

 

「どうした、来ないのか?ふふ、なら私から行くぞ!」

 

 ソッと背を向ける彼女を追う。どうやら本当に逃げるつもりのようで、彼女は全力で逃げ出した。

 待て待て〜、と私も淑女の尻を追いかける。あの尻に追いついたら何をしてやろうかと興奮しながら駆ければ、彼女は先ほどの仮面の部屋の前で立ち止まった。どうやら罠は彼女にも作動するらしい。

 自ら追い詰められるとは。余程愛されたいと見える。

 

「怖がらないで……大丈夫。私は女の子だから。優しく、温かく、君を愛してあげよう」

 

 顔を引き攣らせるリーシュは、もう無理だと思ったのか仮面の部屋へと転がり込む。そして、その全身に矢を浴びせられた。

 凄惨たる光景だ。だがどうにも彼女の表情は安堵に包まれていた。まさか私に抱かれるよりも死を選ぶとは……

 

「絶対に百合に堕としてみせるぞ……」

 

 暗い野望を抱く。どちらにしろ免罪符は手に入れた。サクッとこの城を攻略した後、リーシュの所へ行ってみよう。その時の表情が楽しみだ……

 

 

 

 

 

百合ばかりの番外編を

  • 見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
  • いやぁそうでもないっすよ
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