追記 会話文等の!?の後にスペースを入れた方が良いと助言を頂いたので全話修正につき投稿遅れるかもしれません。なお既に更新していない作品については修正いたしませんのでご了承下さい。
しかし本当にドラングレイグ城は天気が悪い。如何に時空が捻れていようとも、一向に雨が止む気配は無いし、むしろ雷が近づいているせいで余計に天候が悪くなってきた。不死に風邪も何も無いが、外に出る度に服が濡れるのは勘弁してほしい。猫のブーツがびちょびちょだ。
それに、ここは一応愛情の証ではなかったのか。私がデュナシャンドラだったとして、こんな天候が荒れるような土地にその証の王城を築いて欲しくは無い。
たまたま見つけた隠された篝火で暖まりながらそんな事を考える。愚痴ばかり言っていても仕方が無い。今はリーシュにどうお仕置きしようか考える事が先決だ。王城の攻略は二の次で……
しばらく休憩し、ザイン兵と兵士を蹴散らしながら先へと進む。他の不死なら苦戦するような輩でも、アノール・ロンドの銀騎士達ほど強くはない。奴らはそもそも神の眷属だから比にならないが。
そんな時。何か、広い部屋に出た。広い割には何もなく、敵も配置されていない。
なんの部屋かと辺りを見回してみれば、この部屋から見通せる遠くの間に誰かがいる。それにしてはサイズ感がおかしいが……どうやらここは、その人物に謁見する間であるようだ。
手すりに寄り掛かり、人工の断崖の先にいる誰かを凝視する。
「……なるほど、貴女がデュナシャンドラか」
先程私が見た呪われた絵画。その美貌が遠くにいる。どれだけの
まるで、アノール・ロンドにいたあの女神のように。
「試練を乗り越え、よくぞここまで来られました。呪われた不死よ」
労いの言葉は、遠くにいてもはっきりと聞こえる。そういった魔術なのだろう。きっと音送りに近しいものだ。
私は王妃に対しても動じず、そして頭も下げず。ただ遠眼鏡を取り出して口元を不敵に綻ばせて覗く。ほう、絵画よりもよっぽど美人ではないか。そりゃ王様も言いなりになって巨人の国に攻め入るか。
「我が名は、デュナシャンドラ。このドラングレイグの王妃」
「ご丁寧にどうも。私はリリィだ」
自己紹介している間も、ジッと彼女を覗く。しかし抱くにも抱かれるにも大きすぎるな。プリシラと同じくらいだろうか。しかしそれも中々良いものだ。プリシラの巨体はそれはもう、何というか、包容力の暴力と言っても差し支えのない程に良かったものだ。
しかし王妃は少し痩せ気味だ。せっかく王妃なのだから、もう少しふくよかにした方が良いだろう。女の子はやたらと体重とスリムさを気にするが、私からすれば少しくらい肉付きが良い方が……
「聞いていますか、不死よ」
「ああ、もちろん。聞いているとも」
いかん、見惚れすぎて話をまるで聞いていなかった。彼女は何と言ったんだろうか。
王妃は少しばかり眉間に皺を寄せて、言葉を紡ぐ。
「……王とは、
何やら語っているが、私は如何にして彼女とお近づきになれるかしか頭に無かった。不謹慎だが、ルカティエルが居なくて助かった。きっと王妃の前でとんでもない醜態を晒していただろう。
……帰ったら、ルカティエルの所へ寄ろう。彼女が元気になっているならば良いのだが。
「力を手に入れ、人の王となり……生まれ来る呪い人と対峙するべく……本当に聞いていますか」
「聞いている。美人の言葉を聞かない私ではない」
どうにも呆れたように溜息を零しているデュナシャンドラ。憂いを宿す麗人も美しいが、個人的にはもう少し笑ってもらった方が良いかな。きっと笑顔も美しいに違いない。
「……ヴァンクラッドの元に赴きなさい。王は二人といらぬのですから」
「ほう……なら、私が王となったら是非とも私と愛し合ってほしいな」
彼女の重苦しい言葉に軽口で返す。すると王妃は若干顔を引き攣らせた。そんな顔しなくても良いではないか。今まで墜とせなかった女の子はそんなにいない。きっと彼女もまた、百合に溺れる事だろうさ……
何なのこの人……という呟きが聞こえるも、体裁は保つ王妃は咳払いして言う。
「ならば、王を目指すのです」
「肯定したな、王妃よ。否、未来の嫁よ。ふふ、良い、良い。今はまだ他の男の女止まりだが、それもまた燃える。ハッハッハ、ハァ〜ハッハッハ!」
そう言って私は意気揚々に先へと進んでいく。あくまで私は私の人生を楽しんでいるだけだ。王など興味が無い。
デュナシャンドラは響く高笑いを聞きながら、去って行く私を眺める。その瞳は呆れと恐れが滲み出ており。だが、それも無理は無いのだろう。もし仮説が当たっていれば私は彼女の親の仇だ。恐れるのも当然。
あの化け物が、娘というものに拘っていたのはよく知っている。その死の間際まで娘に縋り付き、そして殺された。
少し疲れたようにデュナシャンドラは肘掛けにもたれる。その様は見た目通りの年齢らしい仕草で、どうにも色っぽい。
「……人選、間違えたかしら」
そうして一人呟いた。私を良く知る者達であればきっと頷いてくれるだろう。
すぐ先に濃霧が掛かった部屋を見つけたので勇ましく突撃する。すると、どこかで見た鎧を着た騎士が二人、驚いたようにこちらを見た。椅子に座って足を組んでいた辺り、休憩していたかサボっていたか。
私を見るなり慌てて側に置いていた大盾と斧槍を取る騎士と、大弓を手に跳躍し上階へと移動する騎士……ああ、こいつら竜騎兵か。
メイスを取り出し斧槍持ちへと肉薄すると、奴の体勢が整う前に膝へと攻撃する。流石の鎧も膝を打たれ、竜騎兵は痛がるように片膝をついた。
刹那、私は左手に叡智の杖を取り出し上階で私を射ろうとする黒い竜騎兵へと魔術を撃ち出す。
「
結晶化した
膝の痛みを無理矢理抑え込み、斧槍持ちのノーマル竜騎兵が斧槍を横に振るう。それをステップで回避すると、一度距離を取った。
「二対一とは感心しないな」
左手の杖をジェルドラの蜘蛛から手に入れたパリングダガーに切り替え、両手を広げて挑発する。だが挑発に怒る余裕も無いようで、ノーマルの竜騎兵が倒れている黒い竜騎兵に肩を貸して介抱している。騎士がそれで良いのか。
どうやら大弓は落下の衝撃で弦が切れてしまったらしく、黒い竜騎兵は
さて、お互いに近接武器に持ち替えての戦闘。数の暴力は不死の天敵だが、今の私は無敵である。なにせあの美しい王妃から言質を取ったのだから。
早くこいつらを葬ってヴァンクラッドを殺さなければならない。その時が楽しみだ。
まず黒い竜騎兵が攻めて来る。大振りの一撃は、しかし簡単にかわせる。だがその直後にノーマル竜騎兵が突きを見舞ってきた。
それを、パリングダガーで弾いて体幹を崩す。その隙にノーマル竜騎兵へと攻撃しようとするも、黒い竜騎兵がそれを阻止するように斧槍で突きをしてきた。
だがそれこそ私の目論み通りだ。低めの突きを、片足で踏み付けて押さえ込む。
「やはり、お前は接近戦が苦手だな」
そのまま斧槍の上で跳躍し、くるりと空中で回って黒い竜騎兵の背後へと移動しつつ、奴の頭上でその後頭部をメイスで叩く。
脳震盪は起こさなかったようだが、思わぬ一撃に身体がぐらつく黒い竜騎兵。こいつが接近戦が苦手だと思った理由だが、それは斧槍の振り方だ。力の入れ方や振り方、その全てがノーマル竜騎兵よりも劣っていた。両手で斧槍を握る様が、力んでいるのだ。
着地すると、ぐるりと回転しながらメイスをフルスイングで背中に打ち込む。致命の一撃とはいかないが、かなりのダメージを与えたようでそのまま前のめりに倒れ込んでしまった。
「そうら、仲間が危機だぞ!」
パリィから復帰したノーマル竜騎兵がその大盾で私を潰そうとするが、あまりにも鈍重過ぎる。重さは良い。だが、速さも伴わなければデメリットにしかならない。だから私は特大剣や大槌を使わないのだ。
ステップでシールドバッシュを回避し、盾の内側に入り込む。そしてパリングダガーの刃先を兜のバイザーへと突き刺した。
ノーマル竜騎兵の低い悲鳴と血飛沫が無情にも散らばる。パリングダガーを捻り、引き抜けば竜騎兵は大きくよろめいた。
「大発火」
瞬間的に左手に呪術の炎を灯す。そしてその炎を目の前の竜騎兵に向けて爆ぜさせた。爆風と炎に焼かれ吹き飛ぶ竜騎兵。炎上する身体は起き上がる事なく霧と化す。
「一人」
カウントする。残った黒い竜騎兵がようやく斧槍を振るって来るが、それをローリングで回避する。そしてまた突きを放とうとし、私は左腕を動かす。
斧槍の切っ先を、パリングダガーが捕らえる。グルンと回し、横へと弾けば竜騎兵はその無防備さを晒してくれた。
呪術の炎を激らせて、唱える。
「黒炎」
それは、私の知る呪術の中で唯一闇を薪とする。黒い炎は地味であるが、その黒い炎は凄まじい重さを持ち、竜騎兵如き簡単に吹き飛ばしてみせた。
そのまま倒れる竜騎兵に向け、とどめの一発。
「火炎噴流」
私の呪術の炎から、火炎が噴き出る。まるで溶鉄城の仕掛けのように勢い良く吹き荒れる炎は、ダメージこそ少ないが今の竜騎兵を葬るには丁度良い。
炎に焼かれ苦しみながらもがく竜騎兵は、そのうちその動きを止めると霧へと還っていく。もちろん、その
ルカティエルが、居なくなっている。
マデューラに戻り、彼女の調子を確認しようと隠れ家へと赴けば彼女の姿はどこにも無かった。代わりに蝋で書かれたメッセージがあるだけ。そこに触れれば、短いながらも彼女の意志が見てとれた。
━━私は、私の道を往く。だから心配するな。また会おう。
それだけだが。彼女の私に対する配慮が見てとれた。彼女は優しく、そしてどこまでも孤独なのだ。私はどこか自惚れていたのだろう。彼女と愛し合い、互いを求め、けれど彼女は彼女で他に求めるものがある。
長く不死であり、亡者にすらなれぬ私とは違い、使命がある。その使命を理解してやれなかった。
こんな苦しいことがあるだろうか。私はただ、少女達のために存在したいだけなのに。だがそれが如何に利己的か、本当は分かっていただろう? 嗚呼、本当に私は愚かであると思い知る。
ベッドの上には何も無い。彼女の温もりでさえも。私はただ、白いシーツを抱き締めた。彼女にもっと頼ってほしかった。けれど、彼女は違ったんだと。彼女も頼られたかったんだと。
失って初めてその事に気がつく。そうして人はまた賢くなっていくのなら、なんて世の中は残酷なのだろうか。
━━追記。 あまり女を作り過ぎるなよ。許さんぞ。
残酷だ。
マデューラ近くの分岐路で、彼女は一人身震いする。
聖職者を騙る追い剥ぎ。リンデルトのリーシュとはそんな存在だ。彼女が着ている聖女の服装も、その意味も、彼女は知らない。ただ仕立てが良く騙しやすいから。そんな理由だ。
そんな追い剥ぎが、唯一何も出来なかった。王城へと忍び込み、侵入し。けれど相手が悪過ぎた。あの悪魔のような美少女が待ち受けていた。名を偽っているのにあっさりと見破られ、獰猛に追い立てられ。貞操の危機を感じて自ら死を選んだ。その選択は正しいと彼女は思う。
けれど、見破られたのだからのんびりとしていられないのも確かである。絶対あの女はここに来る。そして彼女を貪るであろう。
だから、早く逃げるべきなのだ。だけど、逃げてどうなる。このドラングレイグは外の世界と隔絶されている。脱出は容易ではない。それに、ここは宝の山だ。危険はあれどその価値は絶大、見逃すなんて彼女には出来ない。
そんな葛藤が、彼女を絶望の淵に追い遣った。
「リーシュ」
「ひぃッ!?」
まったくもって追い剥ぎらしくないリーシュの叫び声。ギギギッと固まりながら声の掛かった方を見てみれば、奴はいる。
王城でも見たが、前に出会った時はもっとまともな格好をしていた。猫をモチーフにしたブーツのようなニーハイソックスとパンツ。そして擦り切れたポンチョのような黒い衣服。セミロングの灰のような銀髪は、薄汚れた布で片側に束ねている。
リリィ。その界隈では古い闇姫と呼ばれる百合の救世主が、そこにいた。
取り繕う暇すらもない。闇姫はスッとリーシュの目の前まで来ると、尻餅をついている彼女に目線を合わせるが如くしゃがみ込む。そしてジッと、緑の瞳がリーシュを見つめた。
おっかない。けれどその中に、美しさと幼さが両立する奇跡的な美貌。リーシュは息を呑んだ。
「……よく逃げなかったな」
どうにも、機嫌が悪いらしい。いつもよりも低い声色でそう呟く闇姫。
「な、何のことでしょう……」
「芝居はもう良い。無名の簒奪者、まさか直接侵入して来るとはな」
最早これまで。リーシュは懐から聖鈴を取り出す。そして、あっさりと闇姫の白い手がそれを奪い取った。
「そして生意気だ」
短刀は
覆い被さるように馬乗りになられ、まるで獰猛な獣のような吐息がリーシュの鼻をくすぐった。甘く、そして血の匂い。それが闇姫の香りに対する印象。
「お仕置きが必要だな、リーシュよ」
ヤられる。そう思った時には、目の前の少女喰らいはその柔らかな唇をリーシュに押し付けていた。唇と唇がぶつかり合い、リーシュはもがくも嫌な感じはしなかった。
それどころか、どうにも身体が熱い。それは宝を暴いた時や他人から簒奪した時のような快感とは異なる……何とも言えぬ快楽。
今まで男に身体を許した事は無い。舐められぬよう、荒く、男勝りに生きてきた。恋なんてする余裕も無い。ただ生き残るために。楽をするために。自分勝手に生きるために。
暴れるリーシュを、けれど優しく少女は押さえつける。包み込むように、抱きしめるように。
分岐路に嬌声が響く。そこから割と近い場所で闇の探求に勤しむ破門のフェルキン曰く、集中できないから迷惑だとの事。リーシュはこの日、散々闇姫が言っていた百合というものを身を持って思い知り、そして呑まれた。
「……あんた、どうしたの?タバコなんて吸っちゃってさ」
マデューラの広場で、何かの骨を弄るクロアーナが尋ねてくる。私は艶々の肌で夕陽を映しながら煙草の煙を吐き出すと、答えた。
「……慰めとは、正にその通りであるな」
「はぁ?ねぇ、煙いんだけど」
「あ、ごめん」
苦情を聞き入れすぐに煙草を呪術の炎で消し去る。久しぶりに吸ったが、あんまり美味しく無いな。もう吸うことは無いだろう。女の子からの印象も良く無いし。
クロアーナを口説き、けれどあっさりと遇らわれ、石だけ買ってロザベナの所へ行く。彼女は相変わらずピエロの格好だ。
リーシュは、堕ちた。あれだけ嫌がっていたのに、けれど
百合に堕ちる。これこそ愛の極み。去り際に、彼女の方から口付けしてくれるくらいには私にゾッコンである。
「元気かな、ロザベナ」
そう問い掛ければ彼女は笑顔で私を迎えてくれる。リーシュのようにお姉様と呼ばせるのも良いが、彼女にはお姉ちゃんと妹のように呼ばせてみたいな。
いかん、下心が抑えきれていない。
「お久しぶりです、お元気でしたか?」
「お陰様でね。君も元気そうだ」
その後、しばらく会話を楽しむ。彼女に呪術を教えたり、逆に知らぬ呪術を教えられたり。
ルカティエルの事は、諦めてはいない。彼女は強い。時折天然が出るが、それでも実力は本物だ。私との旅でその剣に磨きが掛かっている。だから、容易に死ぬことは無いはずだ。
だから、きっと会える。どこかで必ず。その時はいっぱい抱き締めて、愛し合いたい。だって私と彼女は通じ合っているのだから。
女の子とは仲良くするけど……
余談だが、晦冥のカリオンはロザベナの師であるらしい。すっごくどうでもいい。しかもなぜかマデューラにいるし。だが、やや亡者化が進んでいるのかロザベナに無関心らしい。なんて罰当たりな。
「君の姉妹に会ったよ」
シャラゴアを抱き抱えながらその毛並みを撫でる。その一言は彼女にどう聞こえたのだろうか。シャラゴアは振り向くこともせず、ただ撫でられる。
「感想は?」
「君の姉妹だけあって美しいが、少し押し付けがましいな」
「あらあら、よく分かってるじゃない」
多分、そんなに思うところは無いのだろう。彼女は猫のままただ撫でられる。嗚呼、この毛並み本当に気持ちが良い。癒される……犬はダメだが。あいつら死ぬまで追いかけてくる。
くるりと彼女がこちらに振り返れば、シャラゴアは言った。
「それで?王様を探していたのに、どうしてこんな所で油を売ってるのかしら?」
「手厳しいな。心の疲れを取りに来ただけだ」
「あら、嘘ばっかり。女の子を貪りに来たの間違いでしょう?」
「ふふふ、君も貪りたいけどね」
いやらしい手つきで背中を撫でるも、彼女はどこ吹く風。そもそも猫は相手にできるのだろうか。
「怖いわ、この姿じゃなかったら私まで襲われちゃう。 ……そう考えると姉妹達が哀れで仕方ないわね」
「傷付くからそういう事言うのはやめないか?」
猫はどこまでもマイペースだ。私も人のことは言えないが。
リーシュ、陥落!
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