長く、長く。まるで罪を贖いにいくかのように。私は果ての無い大穴を降り続ける。それはここ、ドラングレイグの秘部。目に触れさせたくない、或いは光に晒したくないどこか。誰にでも、見られたく無いものはある。そっとしてほしい事はある。
けれどそれで私を止める事などできない。私は進み続けるのだ。例え何が待っていようと。
この暗く、死の蔓延る木の洞、その底へと。そこにある祭壇へと。絶望を焚べるために。
ドラングレイグ城の地下。そこは、いつかロードランで見たような大樹の洞である。広く、わずかな光しか届かないこの洞は地下水で満ちており、辛うじて歩けるような場所があるだけ。けれどあちらこちらに遺跡のような物があるということは、文明があったのだろう。最早朽ちて久しいその場所に、まともな生命などいるはずもないが。
水死は勘弁願いたい所だ。不死は水との相性が悪すぎるせいか、水に浮くことができない。もし辛うじてある道から足を踏み外せば待つのは苦しい死だ。今の所、ドラングレイグに来てからは死んでいないからこのままノーデスを貫きたい所ではある。
だが、ここにいる敵はなんだ。最早不死となって長く、死すらも許されない亡者。そんな亡者が変質し、動物とも人とも取れない形状になっている。人間性とは可能性であるが、こうなってしまう可能性でもあるのだ。あのウーラシールの住民のように、ただ暴走させてしまったのだろう。
自分がそうならないという確証は無い。けれど、そうはならないという自信がある。ただ美しく、強かでありたいだけなのだから。
不意に、歌声がこの洞に響き渡る。遠くはないようだ。そしてこの歌声が、どうにも
水辺にある近くの建物。そこから歌声が響いている。この美しい歌の歌い手がいるのだろうか。できれば美人が良いな。化け物だけは勘弁してほしい。
建物に近づくと、歌声が止む。どうやら私の存在に気がついたようだ。まぁ水辺は音が出やすいから仕方あるまい。それよりも、歌が止まった事により敵が活性化しないか心配だ。
警戒しながら建物に入れば、見知った姿があった。
「おや。君は……別人のようだ」
緑のドレスに美しい金髪の女性。それは、王の回廊の上層に囚われていた少女と瓜二つ。けれど顔の細部はかなり違う。別人だ。
「あ……近づいてくる気配がして……つい、歌を止めてしまいました……ごめんなさい」
「いや、こちらこそすまない。まさかこんな所に君のような美しい女性がいるとは思わなかったからね」
一礼して礼儀正しく格好良く。けれど女性は首を傾げた。
しばらく、彼女から色々と情報を貰う。するとどうやら彼女達はミルファニトと呼ばれる者達であるとのこと。そして、彼女達ミルファニトは死者達のために歌い続けるだけの存在であり、何も知りはしない。王の事さえも。自らの事さえも。
まるで機械の部品のような存在。それが、ミルファニトなのだ。
貰ったつるすべ石を見上げ、この地の闇について考察する。
どうやら……というよりも、彼女達の言葉から察するにかつて私が滅ぼした“王の器”の者が深く関わっているようだ。ロードランに居た時に奴らの事は書庫で調べ尽くした。私が知らないということは、このアマナの祭壇ができたのは二回目の火継ぎの後だろう。
まぁ、あの時は王の
さて、ミルファニトの少女の頬に別れ際にキスをして先へと進む。ちなみに意味を分かっていないのか、首を傾げているだけだった。罪悪感が凄い。
すると、何やら魔術師のような連中が道を塞いでいる。面倒だ。
どうやら亡者のようではあるが、連携が取れているあたりまだ理性はあるようだ。こちらに刃を向ける時点でアウトであるが。
女性の魔術師と男の僧侶の組み合わせ……何かおかしい。そいつらを返り討ちにし、身包みを調べる。どうやら僧侶の方はリンデルトの出立ちらしい。
「……戒律の厳しいリンデルトの僧が、魔術師といるだと? ふん、随分と二枚舌じゃないか」
リンデルトは聖職と奇跡の国だ。故に、メルヴィア由来の魔術とは相性が悪い。仮にリンデルトで魔術を使おうものならば一発で処刑だろう。
それがいくら亡者となり理性が薄れようとも一緒にいるのはおかしい話だ。むしろ、理性が薄れるからこそ本能的に嫌う魔術には近寄らない。それにこの服装。
古竜院とは、リンデルトにおける暗部である。秘術を伝えると言われる彼らは、しかしその存在は知られていても内部を知られる事はない。ふむ……聖職と奇跡はあくまで国の顔であるだけか。ならばこいつらは何を隠している?
それにしても、ここは広い。虚ろの大樹の中も広かったが、ここはもっと広過ぎる。
魔術師がそこらに配置されていて狙撃してくるし、遮蔽も少ない。おまけに竜騎兵やら何やらが邪魔してくる。
腹が立つのでこちらも魔術で狙撃し、時には回避しながら接近してこの手で引き裂いてやれば粗方敵は居なくなる。それに収穫もあった。水没しかけている宝箱を探れば、奇跡のスクロールを見つけたのだ。
太陽の光の剣。かつて私が神を殺して奪い、そして薪の王にあげたものだ。あれは原典であるが、これはその写しのようだ。懐かしいものだ。今の私には信仰が足りないから扱えないだろう。もう少し信仰に
その後は厄介な魔術師やなぜか潜んでいたサイクロプスを屠りながら進んで行く。土の塔で見かけた変なキノコのような生き物も全部殺す。気持ち悪いし酸を吐くから良いことはまるでない。なんであんな生き物がいるんだ。
そしてまた、歌が聞こえ出す。ミルファニトの歌のようだが、それにしては響すぎじゃないだろうか。声的には一人のようだが、声量がおかしい。なんだ、巨人のミルファニトでもいるのだろうか。
厄介な事に今いる水没地帯にも魔術師と古竜院の僧侶共がいるのだが、配置がどう考えても私を食い止めようとしているものだ。参ったな、いくら私でも少しは手こずりそうだ。
「そんな時にはフェリーシアちゃん!」
私が拍手すると、すぐ手前で召喚した協力霊が槍を掲げるポーズを決める。
勇猛なるフェリーシア。全身に鎧を着込み、大盾と突撃槍を手にする勇ましい女性騎士だ。バイザーから覗く顔は端正で実に美しい。強い女性は大好きだ。二人ならばこの死地も切り抜けられるだろう。……本当は、ルカティエルがいれば良いのだが。
「じゃ、頼むよ! 期待してるからね!」
フェリーシアの尻を触りながらそう激励すれば、彼女は割と満更でもないのか頷いてみせる。かわいいなぁ、全身鎧だから尻も鉄の感触しかしないけど。
さて、そんなこんなで二人で洞窟を飛び出し奴らが待ち構える水辺へと進む。すると案の定魔術師が魔術を放ち、古竜院がメイスを持って近付いてくる。
一度柱に隠れ魔術をやり過ごし、ちらりとそちらを覗けばなんとフェリーシアは魔術なんて見向きもしないで突撃していた。二つ名の通り勇ましいが、ボコスカ魔術とメイスでリンチされている。良いのかそれで。
仕方なくポンコツな白霊を助ける事にする。魔術師を手早く弓で狙撃し、こちらに迫る古竜院の一団へと
着ているローブに多少は魔術耐性があるのだろう、だが私はビッグハットすらも超えた魔術師だ。私の
「大丈夫かフェリーシアちゃん! フェリーシアちゃん大丈夫か!?」
最早死にかけているフェリーシアちゃんをタコ殴りにしていた古竜院を片付け、彼女に回復の奇跡を施す。ルカティエルよりもポンコツだぞこの子。
だが彼女の災難はそれだけでは終わらない。突如、脳が震えて見知った警告をされる。
名前から奇妙な魔術師が侵入してきた。水場は足が取られて走り辛く、戦いにも支障が出る。おまけにフェリーシアちゃんは全身鎧のせいでただでさえ動くのが遅い。ここはもう速攻片付けてしまおう。
ふと、すぐそばに宝箱があったので蹴り開ける。すると何やら赤く錆びた両刃剣があったのでそれを拾い上げ、侵入してきて早々ポーズを取っているキンドロへと駆けた。
キンドロは魔術師らしく、駆け寄る私を見て焦り杖を掲げているがもう遅い。
重厚な両刃剣を回し魔術を放とうとするキンドロを真っ二つに両断すれば、この水場から敵は消え失せた。いちいち格好つけるから即殺されるんだぞ。
さて、フェリーシアちゃんに回復の奇跡を用いて回復させてやると先へと進む。どうやらこの祭壇の主が近いらしく、やや強い
私を先頭に洞窟の扉を開けると、不意に視界に誰かが入った。
「ミルファニトか」
それは、先程出会った古き死者の歌い手であるミルファニトの内の一人。けれど今目の前に居る彼女は歌の代わりに啜り泣くだけである。てっきり姿を見た瞬間彼女の歌声が響いていたのかとも思ったが、違うようだ。一体どうしたのだろうか。
話し掛けようとして手を伸ばすも、ミルファニトは泣き腫らした顔でこちらを見るとどこかに転送されてしまった。いや、もしや今のは霊体だったのだろうか。
フェリーシアちゃんが泣かした〜、みたいなジェスチャーをしてきたので首を横に振ってそれを否定する。私は断じて少女を泣かしていない。泣かされた事しかない。多分。
とにかく、気を取り直して先へと進めばいつも通りの濃霧が現れた。
二人で濃霧を潜る。例え濃霧の拒絶が強かろうと私はサッと抜けられるのだが、この時代に生まれた者たちはどうにも霧を抜けるのが苦手らしくフェリーシアちゃんは少し時間が掛かっていた。
さて、我々が出た場所は随分と広い場所であった。そして歌声の主はその水に塗れた広場の中央に陣取っている……
「うっわ」
思わず声を漏らす。美しい歌声の主は美しい巨人なんかじゃない。まるで巨大なガマガエル。その口部分に巨大な亡者のような顔がある。グロテスク過ぎる。
唄うデーモンはこちらを認識すると歌うのをやめて口を閉じて顔を隠す。ふむ、見るからにあの顔は弱点なのだろう。それにカエルの身体は案外堅そうでダメージが通らなそうだ。
下は水浸し、相手も両生類の出来損ない。ならば雷を使うのが良いかもしれない。これはあの奇跡の出番だろう。
「太陽の光の剣」
左手で聖鈴を鳴らし、先程拾った赤鉄の両刃剣を掲げる。すると地中にいようがお構い無しに空から雷が降って来て両刃剣に纏わりついた。
その間にフェリーシアちゃんが突撃し、防御態勢に入っている唄うデーモンに突撃槍を突いている。しかしやはりあのカエルの身体は物理耐性に長けているらしく、まったく効いているようには見えない。
両刃剣へのエンチャントが終わり私も駆け出すと、いよいよ唄うデーモンが動き出す。口から顔をひょっこり出すと、なんと両腕も口から飛び出てきた。びっくり箱みたいだな。
デーモンは巨大な両腕を広げると、せっせと突いているフェリーシアちゃんを抱き上げる。わーわーっと暴れる女騎士。私も抱きしめたい。
デーモンがフェリーシアちゃんを地面へと叩き付ける。細い見た目に削ぐわぬ破壊力は全身に鎧を纏おうとも無視できるものではない。
「気色の悪い化け物がッ!」
フェリーシアちゃんに気を取られている隙に両刃剣でデーモンの下顎を削る。ロードラン式整形術を食らうと良い。
だが流石に下顎をボロボロにされてはデーモンもたまったもんじゃないらしく、ポイッとフェリーシアちゃんを投げ捨ててその無駄に長い腕を振るって攻撃してくる。
剣で受けられるほど両刃剣の扱いに長けていないから、一度離れて攻撃をやり過ごす。あのリーチの長さは厄介だ。
「大丈夫かい? 随分ボロボロだけど」
突撃槍を杖代わりに立ち上がるフェリーシアちゃんを心配すれば、彼女はガッツポーズをして健在であることを示す。その割には鎧はひび割れているが。
と、その時急に唄うデーモンが立ち上がった。二本足で伸びるように立ち上がれば、両手を伸ばしてその巨体でこちらを押し潰そうとしている。それは不味いな。
フェリーシアちゃんの手を引いて横に走る。離れるように走っては押し潰しに巻き込まれてしまうだろう。ギリギリ私達は押し潰されずに済んだが、いくら頑丈な鎧であろうともあの巨体に押し潰されたら死ぬだろう。
長期戦はこちらも望まない。ならば一挙に殺してしまいたいのが本音である。
どうやら唄うデーモンは顔を隠している際は視界が奪われるせいで何もできないらしい。
私は踵を返すように唄うデーモンの隠れた顔前へと迫る。硬い皮膚だ、流石に魔術も通らないか。ならば。
両刃剣の切っ先を閉じた口に突っ込む。刃は半ば程までしか突き刺せなかったが、それで良い。先端くらいは唄うデーモンの顔に触れている。
左手に聖鈴を取り出し、奇跡の物語を脳内で詠唱する。
「雷の槍」
聖鈴に太陽の力が集まる。それは大王グウィンを象徴する雷。最早名すら残らぬ、哀れで偉大な王。
雷は槍状になり、いつでも投げられるであろう。けれど、今回はその槍を応用する。利用するのは雷の力だ。
突っ込んだ両刃剣目掛けて雷の槍を放つ。すると元から太陽の光をエンチャントされた両刃剣が、より一層眩い雷の光を放つ。
そしてその雷は、カエルの中に潜むデーモンにも伝わり。当然の如く水辺に棲むであろうこのデーモンには毒となる。
閉じた口の中から焦げるような臭いと煙が漏れ出す。感電しているようだ。
「もう一発!」
更に雷の槍を両刃剣に撃ち込む。ちなみに術者である私にこの雷は迸らない。安全装置の一つである。
何度も何度も雷の槍を打ち付ければ、その度に煙と臭いが強くなる。バチバチと漏れ出る雷は、フェリーシアちゃんですら近付けない程にえげつない。
数十発、雷の槍を撃ち込むと私は口に突き刺した両刃剣を引き抜いた。すると次第に閉じていた口が開いていく。
完全に開き切れば、雷で焼け焦げた唄うデーモンがその醜い顔を苦悶の表情で歪めている。だが意外にもまだ死んでいないようだ。
「
ならばとどめだ。太陽の光の剣によって雷を纏っていた両刃剣は、雷の槍を撃ち込まれた事によって更なる光を纏っている。跳躍し、一気に剥き出しの眉間へと両刃剣を突き刺す。
バチバチと迸る電撃は、デーモンの脳を焼き切る程だ。感電してビクビクと震えるデーモン。私は両刃剣を引き抜きながらその額を切り裂いた。
「気色の悪い貴様らにはお似合いの最期だ」
両刃剣にこびりついた血を払うと、唄うデーモンが倒れて
祭壇は、あくまで祈りを捧げる場でしか無い。
長く、暗い昇降機を降りた先。そこにこそ祈りを捧げる者達の安寧の地がある。
汝、眠りを妨げる事なかれ。死者はただ、眠り、泥に浸かり、そして消えゆくのみ。
死とは誰にでも平等に与えられる安息。ならばそれを冒すは人でなし。安らぐ場すらも与えられぬ。
私に良く似合う。死すら与えられず、殺し奪い続けるだけの化け物。それは私、不死である。
ここから先は死者の臥所。不死などと、存在自体が冒涜であると、そんな場所。
そこは最初の死者により与えられた、死者達の安息の地。
大変遅くなりました。また投稿が遅れます。
百合ばかりの番外編を
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見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
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いやぁそうでもないっすよ