暗い魂の乙女   作:Ciels

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不死廟、死者の守り手

 

 長い昇降機を降りてすぐに見つけた篝火に火を灯す。すると、いつしかのように点火と同時に篝火が爆ぜて私の身体が吹き飛ばされる。空中で回転し床に叩きつけられるのを防ぐと私は打刀を構えて警戒するのだが。

 

「……貴公、普通に出てこれないのか」

 

 篝火を覆うように、それはいたのだ。前にジェルドラのはじまりの篝火で出会った謎の木の老人。人間性が変質し、もはや亡者ですらなくなった不死人。

 それの大きな顔はどこか笑むように顔を歪めると言う。

 

 ━━フフフ、見知った顔だ。

 

 敵意は全く無い。それどころか、私とこの場で出会う事が嬉しいと言ったような声だった。相変わらず人が出して良い声質ではないが。

 刀を納めてその異形の前に立つと、そいつは口を開き語り出す。

 

 ━━亡者よ。苦難に挑む者よ。何故そうまで呪いを乗り越えようと望む。

 

「呪いを解こうなどと考えてはいない。ただ行く先々に苦難があるだけだ」

 

 呪いなど、関係が無い。薪の王に敗れ私の抱く願いが打ち砕かれた時から、最早そんなもの望んじゃいないのだ。

 暗闇に咲く百合の大輪も、その美しい様も。夢は夢、儚いものだ。かといって私の方向性は変わらないが。昔よりも現実的になったに過ぎぬ。

 

 それに、知っている。皆が呪いと思い込み、乗り越えようと思っているものこそ。

 人の本質であると。人の根源、人間性そのものであると。であるならば、乗り越えるというのは間違いでは無いだろうか。乗り越えるのではなく、共存しなければならない。いつか訪れる変化まで。目の前の異形のように。

 

 ━━生は眩しく、そして誰もがそれに囚われている。

 

「生きることこそ本能だ。生に囚われぬ者など、ただの亡者に過ぎん」

 

 異形は笑う。嘲笑う。

 

 ━━かつて光の王となった者は、人という名の闇を閉じ込め……そして人は、仮初の姿を得た。それこそが世の理のはじまり。

 ……人は皆、偽りの生の中にある。例え如何に優しく、美しくとも、嘘は所詮、嘘にすぎない。亡者よ、それでも尚、お前は安寧を望むのか?

 

「違うな。嘘も今では真である。どこぞの薪の王が齎したルールも、けれど今では人の縁だ。私は安寧を望むのではない。ただ戦い続けた先に辿り着くだけだ」

 

 前提が違う。こいつは歪んでいる。かつて私が神々についての真実を知った時と同じく。此奴もまた、神に対して思うところがあるのだろう。

 だが、私と異なるのは此奴は人であるまま克服しようとしていることだ。あの時、私は闇の王となり光を閉ざすことで人の時代を築こうとした。こいつはただ、諦めているだけなのだ。何も変わらぬ時代の移り変わりに。ただ醜く、惨いものだけを見続けている。

 

 全てが嘘であると定義し、美しいものに目を向けず。なんと憐れで愚かだろう。

 

 ━━かつて王に近付いた者、ヴァンクラッドはこの地に。王とは何か。生まれ持つ器でもなく、定められた運命でもなく……

 ……お前が何を望むのか。それはお前自身すら未だ知らぬ。またいずれ、亡者よ。

 

「今度は普通に出てこい」

 

 異形は消え去る。まるでそこになど居なかったかのように。

 王ヴァンクラッドはデュナシャンドラが言っていたようにこの不死廟にいるようだ。ならば足を止めるわけにはいくまい。

 篝火に触れ、消耗した武器を復活させると私は薄暗い不死廟へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 不死廟という名の通り、やたらと墓場から出てきましたと言わんばかりの亡者が沢山いる。

 おまけにこの不死廟を護っているのか闇術を扱う魔術師も行く手を阻んで来るので大変邪魔だ。別に一体一体ならば相手にはならないのだが、複数で纏まって相手をするのは骨が折れる。おまけにここはアマナの祭壇と異なり陽の光が一切入らないせいで明かりは備え付けられた松明しかないから薄暗いったらありゃしない。

 

 それでも何とか皆殺しにし、通路を進む。暗さといい地下といい、まるでロードランの巨人墓場だ。

 

 その時、明かりが一歳ない部屋へと辿り着いた。あまりにも暗過ぎるので、周囲が一切確認できない。所々の松明のせいで暗順応が間に合っていないのだ。

 周囲の確認も含めて松明を取り出し、火を灯そうとする。しかしそんな私を誰かが言葉で引き止める。

 

 

「止まれ」

 

 

 部屋の中から響いてきた声に、私は警戒を深める。

 

「人間よ。決して明かりはつけるな。これは警告だ、ここに光を齎す者は、誰であろうと許さん」

 

「墓守か?」

 

 尋ねれば、上から気配がした。どうやらこの部屋はそれなりに広く、上の階があるようだ。

 敵ではなさそうだが、まだ安全と決まったわけではない。用心しながら段々と慣れてきた目と空気感を頼りに上階へと向かえば、そいつはいる。

 

 死者のように青い肌。それを隠す黒衣。声と同じく見た目は男のようだ。

 

「我はアガドゥラン。この廟の守り手。ここは無数の死者の安息の場所。闇という安息に包まれている。光は何もかもを暴き立てる。そんな無遠慮なものは、ここには不要だ」

 

「……貴公、最初の死者の使徒か」

 

 そう尋ねれば、アガドゥランと名乗った墓守は感心したように声を鳴らした。

 

「ほう……貴様、古いな。神々の地があった頃からの生き残りか」

 

 察しが良い。まぁ最初の死者の配下の者ならばそれくらいは知っているだろう。目の前の男は顔色は悪いが、第二の故郷であるロードランの事を知っているせいで妙に警戒が解けてしまう。まるで地元を知る人に会ったかのようだ。それに、彼は単なる墓守で敵意は無さそうだ。周りにいる墓守共も含め。

 

「我はファニト。死を紡ぎ、護る者」

 

「さっきアガドゥランって言ってなかったか?」

 

「……ファニトは役職だ」

 

「ああ。あ、続けて」

 

 水を刺されて何とも言えない顔をする自称ファニト。最初の死者の配下とあって、ミルファニトと名が被っている。ややこしい。

 

「かつてこの世界に死を齎した者から、この役目を授かった」

 

「最初の死者であるニトか」

 

 脳裏に浮かぶは巨人墓地の最奥に潜んでいたあの骨の集合体のような死者。当時の私は弱かったこともあって苦戦した。今なら簡単に殺せるだろうか。

 と、いうかやはり死者だけあって殺し切れていなかったか。まぁ良い、あの時の目的は王の(ソウル)の回収だったし。

 アガドゥランは然り、と肯定してから話を進める。

 

「この地はあらゆる者が眠っている。遥か遠い遠い昔から。富める者も貧しい者も、賢者も愚者も、死の前には皆同じよ。貴様もあの男に会いにきたのか?あの、ヴァンクラッドとかいう者に」

 

 頷き肯定する。奴に会えというのがスレンダー美人王女様の命令だ。

 

「あの者なら、この奥にいる。これまでにも城の使いとやらが何度かあの者を連れ帰ろうとしたが……今は皆、ここの土の下に眠っている」

 

「王直々に殺したのか?」

 

「否。あの者が仕掛けた守り手に殺されたのだ。よほど誰にも会いたくないと見える」

 

 鼻で笑うアガドゥラン。守り手か、骨のある奴ならば良いが。ここ最近、(ソウル)の割には全員あまり強くなくて歯応えがない。順調に私が強くなっているのも原因だが。戦いと強さ以外ならば百合しか楽しみがないのが悪い。

 

 それから少しばかり彼と話せば、どうやらアガドゥランはロードランに関する知識はあっても彼の地には行ったことが無いらしい。目の前に闇の王になりかけた女がいるというのに人間は闇を見ようとしないだとか何だと講釈垂れている。若造を見るのは微笑ましい。

 ふと、彼が腰に下げる刀に目が行く。刀身はもちろん鞘に納められているので見えないが、どうにも力のある業物らしく私の(ソウル)が反応している。敵ならば殺して奪い取れば良いが、そうもいかないので諦めよう。

 おまけに礼儀を弁えていれば取引にも応じてくれるようなので、彼から品物を幾つか買ってから先へと進む。まさかエリザベスの秘薬を持っているとは思っていなかったが。

 

 

 

 

 さて、アガドゥランから買い物を済ませて先へと進む。その道中で何やら懐かしい潰れた瞳のオーブを拾った。もちろんこれが恨みを向ける矛先はあの金ピカの裏切り者では無い。潰れた瞳のオーブ自体は極度の恨みがあれば現れるものだ。

 

 無縁墓地のような、墓石が乱立した場所へと出る。すぐそばに篝火があったので一度休息してから先へと進もうとすれば、何やら無縁墓地内で鐘が鳴った。

 なんだなんだと見てみれば、地面から這い出た亡者が鐘を鳴らしたらしい。それ自体は別にどうでもいいのだが、どうやらその音色は古い魂を呼び起こすものらしく、大きめの墓石から青いローブを纏った亡霊が襲いかかってきた。

 

 珍しいことに、その亡霊が持つ剣は魔法の触媒にもなるらしくやたらと剣先から魔術を放ってくる。しかも(ソウル)の槍だ。

 あんなものを見たら物欲が止まらなくなるじゃないか。剣にも杖にもなる武器とは、まさに私ピッタリ。

 

 と、不死の悪い所が出てしまい数時間ほどその場で亡霊を狩ってしまった。結果的に亡霊が持っていた服や武具を全て手に入れることが出来たので良しとしよう。

 

 内心良い物を手に入れたと喜び、亡者共を蹴散らしながら進んでいくと、脳が揺れる。この感覚は闇霊か。面白い、ならば手に入れたこの剣を試そうではないか。

 

 亡霊から奪った剣、ブルーフレイムを手に闇霊を待つ。すると、

 

 

━━闇霊 無名の簒奪者 に侵入されました!━━

 

 

「……ほう?」

 

 なんとあれだけ百合に溺れさせられたリーシュが侵入してきたようだ。ふむ、まだ調教が甘かったのだろうか。

 だが角の向こうからリーシュがやって来ると、私は自分がとんだ勘違いをしているのだと思い知らされる。相変わらず奇跡のカケラもない短剣を手に現れた彼女は、ニタリと笑うと荒い息で舌舐めずりし始めた。

 両手で頬を押さえ、まるで感極まったと言わんばかりの表情で……

 

「……まさかとは思うが」

 

 こっちが話しかけようとして、彼女が何かを口にする。霊体は声が出せない。故に、はっきりと口を動かし……

 

 

 み つ け た ♡

 

 

 見つかっちゃった。

 どうやら私の調教が未熟だった訳では無いようだ。むしろ、百合に溺れ過ぎ、私という百合の華にゾッコンであり、それを手に入れるためにやって来たのだと。彼女の顔はそう言っている。病んでいる。百合の狂気に侵されたようだ。

 

「……リーシュ、まったく」

 

 ため息混じりに迫るリーシュを相手取る。壁から襲い掛かる亡霊を屠りながら、彼女の短剣を弾き。そして彼女の体幹を崩して押し倒した。

 

 馬乗りになり、肩を押さえて身動きを取れなくすればその唇に私の唇を重ねる。ねっとりと濃厚に、お互いの唾液が混じり合い、舌を重ね合えば引き離した。

 

「そんなにお仕置きしてほしいのかなァリーシュちゃぁん?」

 

 思わず私の顔も狂気の笑みへと変貌する。嗚呼、これもまた愛だ。狂い、どす黒く、けれど愛であることには変わりない。刃を交えようとも良い。むしろ新たなアプローチだ。ただ愛でるのではなく、殺し合い、奪い合い、貪り合う。なんて素晴らしい!

 

 リーシュはうっとりとした表情で口付けの催促をしている。まるで構ってと悪戯する子猫のよう。

 ならばと私も構うことにする。口付けし、身体を弄り合い、背後で潜んでいた闇術士がドン引きして立ち去ろうが気にしない。

 

「お、ごッ」

 

 ふと、吐血した。脇腹に鋭い痛みを感じて口付けしたまま目だけでそちらを見れば、リーシュが短剣を突き刺している。困った子だ。

 私も彼女の腹部にブルーフレイムを突き立てる。まさかレディアの亡霊もこんな事に剣が使われるとは思うまい。互いに吐血し、けれど唇は離さぬ。ザクザクと刺されようともこの程度で死ぬ程ヤワではない。

 新たな百合の模索。これこそ啓蒙。後の世の神々はきっとこの行為に引くかもしれないが、構いはしない。お前らも大概だぞ。

 

 そのうち血塗れで互いを貪れば、リーシュが根を上げた。失血死のようだ。

 満足気な表情でサクッと(ソウル)が砕け、彼女が消えて行く。それを見て私も仰向けにその場に寝転がり、エスト瓶の中身を飲んでみせる。

 

「……ちょっとハードかな」

 

 感想。本音を言えばこの戯れはたまにで良い。だって痛いもの。

 

 

━━Invader Banished━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「狩人様……」

 

 私の愛しい彼女が瞳に憐れみを抱いてこちらを見てくる。それに耐え切れず、私はテーブルの上に突っ伏した。

 分かっている。これは私の黒歴史だ。最高に尖っていた頃の自分なんてみたいはずがない。居るとすれば最高にナルシストだぞそいつは。

 

「そんな目で、見ないでくれ。いくら私でも傷付く」

 

「ごめんなさい……けれど、何と言えば良いのか、分からなくて……」

 

 何も言わなくて良い。慰められるとむしろ惨めになる。私は溜め息混じりに紅茶を飲み干す。苦味のあるアールグレイが舌に染みる。

 正直、ドラングレイグ時代の私は一番恥ずかしい。無駄に強かったせいで敵は居らず、天狗になってひたすらに百合を求めていた。生きる快感を望んでいた。

 

 まぁこの少し後にそれも落ち着くのだが。自分が書いた自分の伝記を愛娘であり恋人でもある彼女に聞かせるなど、すべきじゃなかったかもしれない。けれど、そうしなくてはならない理由もある。だから今更止めるわけにもいかないのだ。

 

 気を紛らわすように腰に下げていた装飾の入った短銃を弄る。クルクルと回る短銃は、しかしむしろ私を煽っているようにも思える。

 

「……続けていい?」

 

「どうぞ。私は、貴女が好きですから。どんな性癖があっても、それは変わりません」

 

 無垢な言い方はしかし私の心を底に落とすだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アガドゥランが見たら発狂して襲いかかってきそうな行為を終えて不死廟を探索すれば、何やら広い通路が出てきた。通路の先から強大な(ソウル)を感じる……王がいるのだろうか。

 道中の事はあまり覚えていない。色々と疲れていたからだろう。

 通路の終わりにはドラングレイグの親衛隊が、王へと至る道を護っているようだ。竜騎兵までいる。

 

 とりあえずため息まじりに通路のど真ん中を歩けば、鐘が鳴り出す。すると左右の柱からレディアの魔術師の亡霊が現れて攻撃を仕掛けてきた。どうでもいいが、やってくるなら相手をする。

 

 取り出したのは先ほど奪った小盾であるマジックシールド。魔術師が放つ魔術をすべてパリィすれば、魔術師達に魔術が跳ね返って行く。便利な代物だ。

 それだけだと殺し切れないので、ブルーフレイムで魔術を使用する。敵の数が多いため、強力な槍は使わず(ソウル)の太矢で殺し切る。

 何だ何だとやって来た王国兵士共は左手の盾を呪術の火へと切り替え、混沌の嵐で蹂躙する。

 

「退け。雑魚に興味は無い」

 

 燃え盛る竜騎兵の首を黒騎士の斧槍で跳ね、敵を殲滅するといよいよ通路を渡り終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 イカ。

 

 最初に見た時、そんな感想を抱いた。

 

 (ソウル)を溜め込んだのだろう、その守り手の身体は私の二倍以上もある。

 黄金の鎧に身を包み、イカのように特徴的な兜を被る騎士。手にするのは巨大なメイス。しかしただのメイスではない。先端が大きな鐘になっているようだ。趣味悪いな。

 その騎士は立ち上がれば、こちらへと振り向き鐘を鳴らしながら武器を構える。

 

 彼こそヴァンクラッド王が信頼を置く騎士。ドラングレイグ最強の男。かつて仲間であった反逆者を打ち倒し、その力を見せつけた守り手。

 

王盾ヴェルスタッド

 

「イカのデーモンかと思ったぞ」

 

 私の挑発など聞く耳持たず。彼はただ討ち滅ぼすために対峙する。

 

 

 




会社の夏休みなので登校します。

百合ばかりの番外編を

  • 見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
  • いやぁそうでもないっすよ
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