聖壁の都、毒の古竜
久しぶりに戻ったマデューラの隠れ家にて、ケイルと共に地図を眺める。
隠れ家の地下。ひっそりと備え付けられている地下室に、誰が遺したのかドラングレイグ全体の模型がある。精巧に造られたこの模型。余程金と技術が注ぎ込まれているのだろう、地形はもちろんのこと町の建物にいたるまで再現されている。ミニチュアで、だが。
「知らないうちに火が灯っているんです。一体何がきっかけなのか……」
私を探していたらしいケイル曰く、このミニチュアの至る所にいつの間にか灯りが燈ったのだという。よく見てみれば、明かりがついているのは始まりの篝火があった場所と一致している。
と、いうことはこのミニチュアを造ったのは継ぎ火の関係者かヴァンクラッドの手の者なのだろうか。
「ふむ……しかしよく出来ているな、この地図は」
「はい。誰が何の目的で造ったのかは分かりませんが……」
じっくりと地図を見る。先程緑衣の巡礼と話したが、彼女が言うには東の果てに居る誰かに会いに行けと言うことらしい。地図を見るに、虚の影の森とドラングレイグ城の分岐路から東に行くということか。
彼女の言う誰か、というのが未だに分からぬ。いくら聞いてもあの子は答えてくれないのだ。肩を抱き寄せても何の反応もしてくれないし、そのうちロザベナやクロアーナからの視線がキツくなってきたからやめた。
今すぐ行ってもいいが、その前に少しやりたい事がある。
ケイルに礼と別れを告げ、私はマデューラを後にする。まずは、そうだな。黒渓谷に行こうじゃないか。
「それで、ここに来たと言うわけか。お前さん、相変わらずワシと縁があるのぅ」
何度もドラングレイグの地で出会っている闇潜りのジジイが笑う。前に黒渓谷で見た謎の祭壇、そこへと至ろうとしたらたまたま足を滑らせて崖下へ転落し、閉ざされた扉の内に彼を見つけた。前に巨人を倒して手に入れた鍵が役立ってよかったが……
私は
「この扉と同じように、マデューラにも閉ざされた場所があってな。しかも使う鍵は同じと来た。そこで手に入れたこの爪、貴公なら何か知っているのではないか?」
そう尋ねればジジイはふむ、と顎に手をやって態とらしく考え込む。腹が立つジジイだ。何だって賢そうな爺さんらはこうやって態とらしい態度をするんだろうか。まぁいいが。
「闇を、感じるぞ。ふむ……」
だが、そう言うと彼は真面目に爪を眺めて改めて何かを考え出した。
「私もそれは理解している。だがその割にはあまりにも……」
「うむ。人に近くて、人でない。うぅむ……」
どうやら彼も知らぬようだった。仕方なく、私は竜の爪を
邪魔したなと、私は帰還の骨片を砕いて帰ろうとするが。ふと、ジジイが私を引き止めた。
「お、待たんか。お前さん、せっかく闇を追うに足る資格があるんじゃ。ワシは闇潜りのグランダル。お前さんが真に闇を欲するならば与えよう。どうじゃ?」
「どうじゃって言われてもな……ふむ」
少し考える。これでも私は深淵の主を倒し闇の時代を築こうとした女だ。しかしそれも随分昔の事だ。今や人の闇は薄れ、私もまた骨董品のような闇術を使うだけに留まっている。まぁその骨董品みたいな闇術が未だに強いのだが。
もし、このジジイが言うように闇を得られるのであれば。少しくらいは話に乗ってやっても良いかも知れない。
ため息混じりに分かったと告げれば、グランダルは満足そうに頷いて手を差し出した。
「よろしい、では今からお前さんは闇の巡礼者だ。と、言うわけでほれ。人の像をよこさんか」
「金取るのかジジイ!」
「金ではない、闇はいつでも開いているわけではないのだ。あとジジイと呼ぶなこの〜」
ジジイと呼ばれたのが相当頭にきているのか、結構怒っている。仕方なく人の像を取り出し、皺くちゃの手に乗せる。
すると、部屋の中央にある謎の祭壇が光り出す。何やら闇の穴、というものらしい。その名に恥じぬ通り、かなり濃い闇を感じる。下手をすればウーラシールの深淵と同等か。だがよくこんな全てを飲み込むような深淵への入り口を人の像一つで呼び出せるものだ。
言われるがままに穴の前に立ち、その闇に手を触れる。
結論を言おう。闇の穴というのは、どうやら私自身に眠る闇への入り口らしい。つまりは深層心理に近い。
かつてのウーラシールで見たような暗い洞窟に、まるで霊体のような敵が待ち受ける場所。こんな陰鬱な場所が私の闇かと自問自答したいが、よく敵を見たらロードランで戦った者達を模した姿をしていた。ハベルとかリカールっぽい王子とか。その他諸々。個人的に女の子で溢れていると思っていたのだが、そうでもない。
何度か闇の穴に潜り、その度に踏破していく。難しい事は何もない。ただ現れた敵を滅するだけだ。するとそれは現れた。
四つの腕を持った、フードを被る何者か。深淵に潜み、けれどその存在を主張する事はしない。むしろ、闇に潜み続けていただけの存在だ。
それは、腕を組み私を見下ろす。足はなく、代わりに浮かんでいる。
自分の闇、それに根付く何者か。ふむ、此奴がグランダルの言っていた欲する闇だろうか。ならば良い、
竜を象った聖鈴を掲げて、マジマジと見遣る。闇潜みを完膚なきまでに叩き潰した成果としてグランダルから贈られた聖鈴だ。叩き潰したと言っても、それなりには苦労した。分裂したりビーム撃ってきたりと面倒だったし。
併せて幾つか闇術も習得したが、果たしてあれだけ時間を掛けて得たリターンが釣り合っているかと言われたら微妙だ。おまけに、グランダルが言うような闇というのもよく分からず終い。
彼曰く、私の中に新たな闇が芽生えているというが……あの手のジジイが何を言っていても信用ならん。
竜の聖鈴を収納し、改めて目の前の祭壇を見る。これはかつて、黒渓谷にて火を灯した始まりの篝火の場所にあったものだ。当時は調べる必要性も感じなかったから放置していたが、先程マデューラに帰った時に話したシャラゴア曰くこの先に古い王の成り損ないがいるらしい。
ならば行くしかあるまい。このまま馬鹿正直に東の地とやらに行ってしまったら、何も達成できずにいつのまにか玉座に座っていた、なんて事になりかねないからな。どうにもその玉座は薪であるらしいし。私は火なんて継ぎたくない。そんなもの、あの馬鹿がもう一度やれば良いのだ。
祭壇に竜の爪を翳す。すると祭壇の中心が光だし、私を包み込む。どうやらうまく行ったようだ。この爪は今から向かう場所に縁があったらしい。
「こんなゴミ捨て場の最奥にまだ神秘があるとは、案外ドラングレイグも捨てたもんじゃないな」
そう言いながら私は遠眼鏡を収納し、遠目に地下に造られた国を見た。
黒渓谷の遥か彼方、そこに転移してきた私。まだまだ地下の渓谷は続いているようで、僅かながらも太陽の火が入り込み反射させているせいで明るい。
そこに造られた建造物は、まるで巨大な祭壇群だ。宗教的な色が濃すぎる、ピラミッドのようなものが多く並んでいる。
リンデルトにこんな昔話がある。かつて一人の英雄が、騎士団を率いて人々を苦しめる竜を討伐した。だがその竜は凄まじい毒を秘めており、英雄と騎士団、そして地下の国を毒をもって滅ぼしたという。
そしてその国こそ、眼前に広がる古代都市。
ちなみにこの伝承はシャラゴアから教えてもらったものだ。彼女曰く、リンデルトに都合が良いように改変された
伝承が正しければこの地は毒に塗れているという事になる。まぁシャラゴアが沢山苔玉を売ってくれたおかげで困ることは無さそうだが。
懐に差した刀に肘を乗せながら歩く。この刀もようやくマックダフに強化して貰ったので、初陣を飾れる。
闇朧。アガドゥランから貰ったこの打刀は古来より死を守る者から与えられた逸品である。
恐らく、最初の死者であるニトから彼らファニトに与えられたのだろう。それを私に託して良いのかと思うが、最早私のものだから返せと言われても困るな。
この刀身はかなり不思議なもので、存在そのものが少しズレた世界にある。故にガラスのように透明であり、ズレた場所からの攻撃は盾すらも貫通してしまう。素晴らしいじゃないか。
マックダフ曰く、まだこの刀には隠された価値があるようだが、それが何なのかは未だ分からぬ。きっとアガドゥランも知らないのだろう。そのうち分かると良いのだが。
「おっとぉ、早速凄いのがいるじゃないか!」
都への道である断崖を歩いていると、なんと白い古竜が目の前で眠っていたのだ。スヤスヤと眠る竜は出来損ないの飛竜なんかではない。確かに古竜である。
意気揚々と鞘から抜刀し、見えぬ刀身の切れ味を確かめるべく竜へと駆け込む。これは良い初陣になるぞ!
だが、あまりにも殺意満々で近寄ったからか古竜が目覚めてこちらを見遣る。それでも構わぬと笑みを零しながら走れば、まるで変質者から立ち去らんとばかりに竜が飛んでいって逃げてしまった。
「ああクソ! せっかくの古竜だったのに!」
良い刀だから初めてはデッカい奴で試したかった。仕方ないからこっちに駆け寄ってくるサルヴァの亡者兵士相手で我慢しよう。
槍やらメイスを持つ亡者兵士を、持てる技術で斬り捨てる。良い切れ味だ、打刀よりも鋭利である。ただ少し刃毀れしやすそうだが。
さて、そんな感じで始まるサルヴァ攻略だが。ここを設計した奴にどうしても尋ねたいことがある。それはズバリ、どうしてこんなにも住み辛そうに街を造ったんだということだ。
仕掛けを動かし建物ごと上下させて足場を作ったり、下手をすれば落下死しそうな場所を飛んだりさせられるこの街は、きっと事故死が絶えなかったであろう。まぁ伝承によればこの聖壁とやらは侵入者をいれさせないための壁であるらしいから、仕方ないと言えばそれまでだが。
おまけに黒渓谷で散々私を苦しめた毒吐き地蔵を背負った亀のような生き物までいる始末。まぁ腹が立つ。
それでもめげずに休息を取りながら進んでいけば、ようやく断崖から見えていた馬鹿でかい祭壇への橋へと辿り着いた。
兵士が二人ほど護っているようだが、闇朧の錆にしてくれる……と思い。
刀を抜いた瞬間、先ほどの古竜が上空からやって来て橋へとブレスを吐き出した。
「うわうわうわ! この大トカゲめ!」
急いで引き返したおかげで焼かれずに済んだが、兵士二人は虚しく緑の炎で焼き殺されている。どうにもブレスに毒があるらしい。
古竜はそのまま飛び去ったが、よく見れば背中に大きな槍が刺さっているようだった。古くオーンスタインにでも刺されたのだろうか。
いつ竜が来るか分からないので警戒しながら橋を渡れば、案外あっさりと建物の内部へと侵入できた。名前から察するに、先程の古竜のための祭壇なのだろう。と、するとあれか。古い騎士団が討ち取った竜がアレなんだろうか。毒も持っていたし。だが全然ピンピンしていたぞ。
竜の聖壁の奥深くから女性らしい歌声が聞こえてくる。メロディだけだが、子守唄のようだ。あの竜を眠らせるためのものか。起きてるけど。
まぁ良い、ここもどうせまだ道中。必要なものを取って古い王とやらに会いに行こう。まともに会話ができるとは思っていないが。
と、そんな風に思っていた時が私にもあった。
今現在、私は全力で竜の聖壁内を逃げ回っている。まさかこんなにも
外の兵士とは異なり、内部を護る兵士はその肉体を捨て霊体となっている。そのため如何に闇朧が強力であっても傷をつけられないのだ。
しかも一体や二体だけではない。十体ほどが私を追いかけ回して殺そうとしているのだ。私が一体何をした。
「ロードラン以来だぞ、こんなこと!」
ドラングレイグを少し侮っていた。だがそれもすぐに終わってしまったのだが。
何やら棺が密集した部屋を見つけた私は、腹いせと言わんばかりに棺に納められた遺体を片っ端から壊して回ったのだ。するとどうだろう、先ほどまで私を追っていた霊体共が実体を帯びたでは無いか。
なるほど、肉体は捨て去ったが縁までは切れぬというわけだ。肉代が壊され、霊体へと返還されたことで奴らはもう無敵ではなくなった。
と、言うわけで蹂躙を開始する。殺せるならば恐れはない。毒に侵され狂っている巫女共々斬り捨てる。彼女らは闇術使いであり、放置すると厄介だ。せめて理性があって毒に侵されていなければなぁ。
だが、一つの疑問が生まれた。ここの兵士達は肉体を捨ててまで、何と戦ったのだろう?それこそ外を飛び回る毒の古竜だろうか。しかし、彼らの信仰はあの古竜に対してのものである。故に、その結論はおかしいはずだ。
「……リンデルトの騎士団とその英雄。どうにも胡散臭いな」
そもそも信仰の国という時点で色々怪しいが。
さて、ようやく戦士達を倒し終えた私は祭壇を下るため崩れた階段なんかを降っていくのだが。今となっては珍しくもない闇霊に侵入された。
まぁ喪失者なんかも時折侵入してくるしまた倒せばいいか、なんて思っていた私はその姿を見て固まる。
道化師の格好に呪術の火。それは紛れも無く、あのトーマスである。かつて土の塔で私とルカティエルに手を貸したあいつだ。
彼は現れるや否や、自らを両手の親指で差して存在をアピールしだす。俺だよ俺、そんな感じに。
「まぁ、どうでもいいんだが。私の前に立ち塞がるのだから、分かっているんだよな?ええ?」
殺意を表して尋ねれば、トーマスは親指で首を切るジェスチャーをする。良い度胸だなこの野郎。なら全力で殺して見せよう。
納刀したままトーマスに向けて走り出す。対して彼は呪術の火を灯し、大発火のモーションを見せた。
これでも呪術師の端くれだ。その使い方や利点欠点、全て分かっている。
トーマスが生み出した大発火を避けず、私は抜刀した。居合斬りというやつだ。
産み出される炎を斬り裂き、見えない刃はトーマスを浅く斬り付ける。多少肌に火が付着したが、この程度の熱さは慣れている。むしろよくトーマスはこの程度の傷で済んだものだ。思っている以上にやる。
トーマスはバックステップで距離を取ると、呪術の炎で何かをした。
刹那、私のいる場所に小さな火が現れ、急速に膨れ上がる。これは爆発の前兆だ。
「ちっ……知らない呪術を使うんじゃない」
ステップローリングでその場を離れれば、やはり膨れ上がった炎は爆発を起こす。危ない、あともう少しで巻き込まれるところだった。
なら私も呪術を使うとしよう。左手に呪術の炎を灯し、ピエロに対する。
奴はまた呪術を行使しようとしている。炎を地面に打ち付ける動作……それはよく知っている。
「侮るなよ道化が」
同じく私も呪術の炎を地面に翳す。
用いるは混沌の呪術、その極み。奴もどうやら同じ技を用いるようだが、年季が違うのだ。煮え滾る溶岩が床から溢れ出る。
「混沌の嵐」
狭い通路だろうがお構い無く溶岩が溢れ出る。お互いの溶岩が溶岩を打ち消す様は奇妙だが、呪術師の戦いとはそういうものだ。
私ほどではないがトーマスの技量も中々のものだ。これでは決着がつかん。お互いチキンレースのように溶岩を産み続けていたらキリがないので、私は早々に地面から手を離して闇朧を低く構える。
トーマスに接近しながら、目の前に溜まる溶岩を地面を擦るように切り上げる。跳ね上がる溶岩は、数歩先にいたトーマスへと降りかかった。良い目眩しと攻撃だ。
「残念だな。その
身を焼かれ苦しむトーマスを、腹から横に一閃して両断する。せめてもの慈悲だ。
トーマスとは意外と良い戦いを繰り広げられた。やはり一定の強さを誇る不死人とは定期的に戦わなくては感が鈍るな。
意外な襲撃者を退けやって来た場所は、なんと湖だった。祭壇と湖を繋げるとは粋なことをする。綺麗な場所はいるだけで心が洗われるからな。
そんな感じに少しは休めるかと思って湖を探索しようとしたのだが。
いつしか、溶岩地帯で見た事のある異形がそこかしこに潜んでいた。
その巨体は両生類のようであり、そうではない。まるで竜の下半身のようであり、しかしそれが全体である。
昔、そう、あれはイザリスの溶岩地帯だ。あの時みたその巨体は、まさしく竜の下半身であったが。
長い年月を経て、その下半身は一つの生命となった。胴体の切り口には口が芽生え、動植物の捕食には困らないだろう。
なりそこない。歪な生命の成れの果て。かつてデーモンを産んだ混沌の冒涜の一部である。
「気持ち悪いな……なんでカエルみたいにヌメヌメしているんだ」
あの巨体かつ、竜のなり損ないだ。案外強かったのを覚えている。数も多いし相手にしない方が良いだろう。気持ち悪いのは勘弁だ。
分たれ生まれ出た時、彼女の心にあったのはどうしようもない怒りだけだった。
見たことも、会ったこともない誰かへの怒り。元を辿れば生みの親である父が抱いていた感情であるが、それは産まれたばかりの彼女に継承されている。
ずっとずっと、怒ってばかりだった。姉妹達は皆、怒る彼女を腫物のように扱い、仕舞いにはどこかへと去っていった。強大な
彼女もまた、そのレースに乗り遅れまいと行動した。そうして辿り着いたのは、亡国と化したサルヴァ。彼女の伴侶となる者は既に死に、彼女は婚期を逃したのだ。
とてつもない怒りだった。生まれた時から憤怒に包まれているのに、尚更ストレスを与えられたら怒るに決まっている。
キレにキレて、彼女は憤死寸前だったに違いない。
けれど、そんな怒れる彼女にも救いがあった。
都の最奥に眠る古竜。その存在もまた、傷つきながらも怒りを抱いていたのだ。
自らをも超える怒りを古竜に見出した時、彼女は決意した。
いつか共に燃える復讐心を薪に、全てに報いを与えてやると。そしてそれまで、彼女は怒りを古竜に託し、彼を支える巫女として存在するのだと。
そしてその機会は、もうすぐ訪れようとしている。彼女が真に報復すべき存在。それが、やって来たのだから。
デュナシャンドラだけではなく、他の闇の落とし子達の人間形態も見てみたかった……
百合ばかりの番外編を
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見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
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いやぁそうでもないっすよ