なり損ないを相手にしなければならぬ理由が出来てしまった。それは彼らが死に際に落とす物体に原因がある。
一つは言わずと知れた竜のウロコ。仮にも竜種の末裔であるらしい彼らなり損ないは、上質なウロコを落とす時があるのだ。今の所使い道はないが、かつてロードランの竜信仰においては献上品として持て囃されていた。何やら古竜にウロコを捧げることで凄まじい力を手にする事ができるのだとか。そんな事をしなくても我が師ローガンは竜へと至ったが。
もう一つは竜の骨の化石。今さっきまで生きていたなり損ないから化石が取れるというのもおかしな話だ。この化石は前に助けたオルフェニクス曰く特殊な武器の強化に使えるのだとか。この前尋ねたらそんな事を言っていた。
なり損ないは確かに強いが、一体ずつならばなんとかなる。そうして手近な篝火で休息しつつなり損ない共を狩り尽くせば、サルヴァの地からなり損ないが絶滅した。
相当数化石やウロコが手に入ったので良しとする。もしこれ以上欲するならば篝火の探求者を使用すれば良い。これを篝火に焚べると狩り尽くした敵や取ったアイテムがまた現れるのだが、一体どういう仕組みなのだろう。因果を強制的に収束しているようだが。
さて、個人的な収集を終えた後、再度探索に移行する。湖の先に洒落た大剣が落ちていたり、何かが嵌められそうな石の台座があるだけだが……待てよ、この台座の窪みはもしや。
「これ鍵だったのか……」
先程亡霊の亡者兵士達から逃亡する際にたまたま拾った石がぴったり収まり、違うフロアに橋が掛かる。投げ付けなくて良かった、元々陽動のために手頃な石を拾っただけだったんだが。
ひょんなミラクルを起こし、とりあえず近場に現れた昇降機を起動させる。どうやら竜の聖壁にあった辿り着けない建物に繋がっているらしい。もう一度聞くが、ここに住んでる奴らは本当に不便じゃなかったのか?
歌声はこの橋の先から聞こえて来る。どうせなら美少女がいて欲しいものだが、きっとそうはならないんだろうなぁ。
橋を渡り終え、新たな建物に到着する。先程の建物よりも装飾がしっかりしているあたり、きっとここに竜の棲家があったのかもしれない。
また亡者兵士がいるのかと警戒しながら進む。と、言っても最早私の敵ではない。一度見た敵や技は通じぬのだから。
けれど、私を待ち受けていたのは崩れた階段と珍妙な騎士団だった。
階段はまぁ、古い建造物だろうから崩れているのは分かる。パルクールしながら建物を降る必要があるせいで落下死の危険性があるが、銀猫の指輪を嵌めているし猫のブーツのおかげで落下の衝撃も無いようなものだ。
けれど、この騎士達はなんだ?
かなり豪華な黒い甲冑はまるで古竜である。最早亡者と化しているようだが、それにしては剣技もそこらの亡者と比べ物にならない程優れているし、何より連携して複数で襲って来るでは無いか。魔術や奇跡を使わないのが救いだ。
もしや、こいつらが古竜を打ち倒した騎士団とやらか?リンデルトの原型になったと言われる、名前はなんだっか、確か……
「竜血か!」
全てが繋がった。名に表れている竜血。これは古竜信仰の一つである。確か偽りの飛竜ではなく真に尊き古竜の血を戴く事で、人智を超越し偉大な力を得ようとするカルト信仰だ。
なるほど、このサルヴァは邪悪な古竜によって滅ぼされたのでは無い。サルヴァの民が崇めていた古竜の血を浴びるべく、竜血騎士団が攻め入ったのだ。故にサルヴァの民は護らざるを得なかった。自らの肉体を捨ててでも。
そういえば、リンデルトには古竜院と呼ばれる輩がいるな。信仰の国における暗部。グウィン系列の宗教だと思っていたが、なるほど。それは隠れ蓑か。
そもそも古竜と太陽の神々は敵同士。太陽を崇める者達の組織に、竜の名を冠する者がいるというのがおかしい。まったく、いつの時代も人間の欲というのは変わらぬな。
まぁまだ明かされぬ謎もあるが、サルヴァに竜血騎士団が攻め入ったのは明らかだろう。リンデルトの恥部を晒さぬために古竜院が必死になる理由だ。シャラゴアが呆れる理由もよく分かる。
襲い来る竜血騎士共を狩りながら下へと降る。歌声がどんどん強くなるにつれ、想像も掻き立てられるというものだ。
唄うデーモンみたいなのは論外であるが、私はまともに話せる者であるならば多少異形でも構わない。オルフェニクスのように忌人であろうとも、私は愛することができる。
それにだ。下へと降る度に、歌声だけでなく闇の鼓動も強くなっていく。きっと竜の爪に残っていた闇の残滓はこの歌声の主のものだ。
前にグランダルとドラングレイグ城で語らった際に言っていた闇の父の破片。この先から来たる闇は、あのマヌスそっくりだ。まぁ、この現状を見るにここに至った娘は嫁ぐのに失敗したようだが。
ようやく最下層へと辿り着けば、どういうわけか見知った者がいた。
なんとウーゴのバンホルトである。彼は私を見るや否や、満面の笑みで手を振って来る。暑苦しい奴だが、腕は本物だ。よく見れば連れがいるようで、ぼろ布のような衣装で顔を隠し、両手にセスタスを嵌めている……修行でもしているのか?
「貴公、久しいな! こんな所で出会うとは思っておらんかったぞ!」
「こちらの台詞だな。いつでも元気そうで何よりだ……そっちは?」
バンホルトの隣でこちらにお辞儀をする苦行僧の事を尋ねる。背丈や身体つきを見るに、女性であるようだ。ふむ、バンホルトよりも彼女に興味がある。
「うむ。彼女とはそこで知り合ってな。何やら落ちぶれた騎士相手に苦戦していたから、手を貸したまでよ。名は……エリーだったか」
彼もまだ出会って間も無いようだ。私は笑みを浮かべてエリーという拳闘士に一礼する。どうやらかなりシャイな女性らしい。
「リリィだ。是非とも私も君の手助けをしたいのだが、良いかな?」
私ならではの良い声でそう尋ねれば、彼女はモジモジしながらも頷いた。うーん、シャイな女の子って可愛いよね。百合に堕とした時が堪らなく興奮するのだ。
私は彼女の手を取りニッコリと笑えば、
「よく鍛えられた拳だ。でも私はセスタス越しではなく、生の君の肌と触れ合いたいな」
唐突に口説けばあっ、あっ、と小さな声が耳に入る。隣でバンホルトが相変わらずよの、と呆れているが関係無い。
セスタス越しでも分かるが、かなり鍛えられているしゴツゴツした手だ。けれどその努力と苦労含めてこの拳が良い。美しいと思う。舐めてしまいたい。
流石に舐めるのはアレなので、ちゅっと拳に口付けをすればわなわなと彼女は震えた。どうやら気味悪がっているようでは無いので、この子はもう一押しすればすぐに落ちるだろう。ちょろい。
「リリィ殿、そろそろ良いかな?」
呆れ果てたのかバンホルトが遮って来る。仕方ない、今はこの先を攻略しようか。
ふと、バンホルトが担ぐ贋作を見遣る。人の百合を中断してくれたので、嫌味の一つでも言ってやろうと思って気がついた。
「貴公……大剣を代えたのか?」
バンホルトが担ぐ大剣に微力な魔力が迸っている。私の記憶では、彼が担ぐ蒼の大剣は単なる贋作だった。彼は気付いたか、と感心して言う。
「否、そんな事はしておらんさ。長く辛い戦いであったが、ようやっとこの大剣が真の力を発揮し始めたのよ」
なるほど、と思わず感心してしまう。様々な武器を見て来たが、私の知り合いで、成長して魔力を宿したという剣を見るのは初めてだ。
それにしては、おかしな魔力の宿り方だ。純粋な魔力剣というわけでも無いし……そもそも、なんか刃が細くなってないか? まぁ本人が満足しているからそれで良いか。
さて、引き続き最下層の探索へと戻る。恥ずかしがるエリーちゃんの腰を抱きながら、我々は濃霧へと至った。どうやら歌声はこの濃霧の先にある部屋らしい。
名残惜しいがエリーちゃんを離して私を先頭に濃霧を潜る。すると現れたのはちょうど強敵が暴れられそうな広い部屋であり。
「ふん……穢れに相応しい者達じゃないか」
誰かが、部屋の奥にいた。
女性の声。けれど身の丈は大きく、人のそれではない。何よりも振り返った彼女は、衣装と肉体が一体化したような体をしており。顔は爛れたか、或いは皮を剥がれたように赤く酷く。
そして何より、醸し出す深淵が純粋に人では無いのだと伝えてくる。それは正しく、深淵の落とし子。殺した父から割れて産まれた穢れ。
悍ましい深淵を前に、バンホルトが息を呑んだ。私の方はと言えば、久しぶりの濃厚な深淵にむしろ心地良さを感じていた。
嗚呼、思えばそれこそ私が一番輝いていた時なのかもしれない。深淵に挑み、闇に魅入られ、そして燃え尽きるまでの戦いが。謂わば、青春だ。
と、そんなノスタルジーに浸っているとエリーちゃんが突っ込んでいく。先程までの乙女っぷりは何処へやら、セスタスを振り上げる彼女は拳闘士そのものだ。
「貧弱な者に用は無い」
けれど、そんなエリーちゃんを意に介さずといった様子でエレナは斧槍のような杖を振るった。刹那、エリーちゃんが爆発する。正確には彼女のいた空間が爆ぜたのだ。あれは、先程トーマスが使っていたような呪術だろうか。
それを見て私も突撃する。恐らく闇術は効果が薄いと判断し、左手に叡智の杖、右手に闇朧を携えて。
転がるエリーちゃんの横を通過し、一直線にエレナへと進めば彼女が手を翳す。瞬間、私は跳躍した。
飛んだ私の足の下を、闇の飛沫が駆け抜ける。やはり深淵の落とし子、私と同じく古い闇術を使うか。
落下しながら闇朧を振るえば、彼女はその杖で刃を防いだ。鍔迫り合いがおき、私と彼女の顔面が近くなる。ふむ、皮膚があればさぞかし美しいのだろう。
「貴様……その人間性、識っているぞ……!」
「奇遇だな。私も君を知っている。まぁ、君の父であるが」
互いに飛び退き、距離を取るとエレナは激昂したようにこちらを睨んだ。
「貴様さえいなければ……! 私は憤怒に塗れず済んだのだっ!」
そう叫べば、彼女は杖を地面に叩きつけた。それと同時に、彼女の周囲にスケルトンが複数召喚される。
エリーを介抱していたバンホルトが大剣を構えながら私の横に立つと、呆れたように言ってくる。
「貴公、今度は何をやらかしたのだ」
「失礼な。ただ単に、古く彼女の父と因縁があるだけだ」
断じて私は女泣かせな乙女では無い。そう、信じたい。
だが複数戦は厄介だ。バンホルトとエリーちゃんが居てくれて助かったかもしれない。
まずはスケルトンをやりたいが、ブチ切れたエレナがそれを易々と許してくれるとは思えぬ。するとバンホルトが提案した。
「貴公といると露払いばかりだな。まぁ、女性を立てるのも騎士の役目よ」
一歩前に出た彼は蒼の大剣を空へと翳す。するとガラス細工のような大剣が、眩い光を放つ。まるでシースから手に入れた月光の大剣のようだが、それにしては色がやや蒼い。それに、信仰を感じる。シース由来の武器はその殆どが理力に依存していたはずだ。
ああ、これは凄い事だぞ。蒼の大剣は戦いの果てに力を得たのではない。ただバンホルトが剣を信じ続けた結果、魂を得たのだ。単なる物質の
青白く透き通る刀身に見惚れていると、彼は遠くからそれを振るう。すると刀身から月光の刃が放出され、スケルトン達を一掃した。
「見惚れるのは後にしてくれぬか。貴公、あやつが動き出すぞ」
我に返りエレナを見れば、杖を振るって何かをしてくる所であった。
「追う者たち」
すると彼女の背後に見慣れた仮初の生命達が現れる。闇術の極みである、追う者たちだ。
アレの厄介さは十分承知している。故に私も、魔術で対抗する。流石に闇術勝負は分が悪いだろう。
「追尾する
杖を掲げ、私の周囲にも同じく
轟音と爆発。私の理力が高くて助かった。互いの浮遊が衝突し、打ち消しあう。その粉塵に隠れるように私はエレナへと突貫する。
「ちぃ!」
闇朧の見えぬ刀身がエレナを浅く切り裂く。けれど寸でのところで彼女は身を捩り、真っ二つにされるのを回避してみせた。伊達に深淵の主の娘では無いようだ。
そのまま追撃しようとして、エレナの姿が消える。次の瞬間、背後から気配。
「ふんっ!」
危険を感じステップして横へズレれば、彼女の杖が今まで居た場所を叩き潰していた。生命力が低い私が今の一撃を喰らえばそのまま死ぬに違いない。
反撃と闇朧を振るえば、彼女はまた瞬間移動して距離を取った。あの移動は厄介だな。
だが、ここでエリーちゃんが動く。たまたま近かったエレナに向け、オラオラと言わんばかりの拳のラッシュを叩き込んだのだ。
「いきなり何なんだお前は!」
怒りながらステップで距離を取ろうとするエレナ。流石にダメージはあまりなさそうだが、エリーちゃんに気が向いたことでチャンスが生まれた。
咄嗟に黄金松脂を刀身に塗り、ダッシュ斬りを叩き込む。
ズバッとエレナの身体を斬ったが、案外硬い。一撃で倒すことはできないようだ。
「うぐっ!? この!」
ステップで距離を取ろうとするエレナへ追撃する。
回転斬りからの左右二連斬り、また回転を交えながら大振りの蹴りなど、とにかく相手を翻弄する。
その連撃がかなり効いたのだろう、どんどん彼女の身体に傷ができていく。肉弾戦はあまり得意では無いらしい。
その内、防御に徹していたせいでエレナが斧槍を弾かれ無防備を晒す。
すかさず私は飛び掛かり、必殺の一撃を決めるべく彼女の胸に闇朧を突き立て━━
「ふんっ!」
刀身の七割ほどを突き刺した。闇が混ざった血が彼女の胸から噴き出るが、どうにもそれではまだ死なないらしく、顔を歪めながらも抵抗している。
「綺麗な顔が台無しだぞ」
「誰のせいだと……!」
刀を引き抜き飛んで離れれば、彼女はかなりのダメージを受けて膝をついている。その頃にはバンホルトもスケルトンの群れを葬り終えていたようで、エリーと共に私の横に並んだ。なんかヒーロー感あっていいな、この並び。
だが、エレナは血を吐きながらもその怒りを抑えきれていない。彼女は杖を叩きつけると心の底から憎悪と憤怒を垂れ流し、言うのだ。
「お前達は……穢れ続けるのさ……!」
瞬間的に彼女が抱く闇が強くなる。渦巻くような深淵が爆ぜ、私達を吹き飛ばす。
空中で回転しながらバランスを取り、闇朧を地面へと突き立ててこれ以上飛ばされるを押さえつけるが、バンホルトとエリーちゃんはそのまま壁へと叩きつけられているようだ。
闇の嵐とでも呼べば良いその闇術は、確かに強力だ。けれど、その真価は威力ではない。
突然、何かがエレナの前に現れる。不快な鐘のような音を出しながら現れたそれは、つい先日私にねじ伏せられた者と同じ姿をしていた。
王盾ヴェルスタッド。闇の混じる色合いのそれが、本人ではない事を確信させる。けれど、その力は同程度らしい。
「王盾だと……!?」
背後のバンホルトが驚く。口振りから彼も王盾と戦ったらしい。それは驚くだろうな。
だが、やることは変わらない。ただ戦い、相手を殺すのみ。そしてその闇を私に寄越すが良い。闇こそ、人の本質であるならば。その闇を増し力をつけてやるのだ。
ヴェルスタッドが動く。同時にエレナも闇術を放つ。
闇術を転がって避けると、ヴェルスタッドの大鐘が私を叩き潰そうとしていた。だが、その動きはもう見切っている。
一歩だけ横へ避ければ、ドンっと大鐘がすぐ横に打ち付けられる。すぐさまヴェルスタッドに肉薄し、闇朧で片足を斬り落とす。防ぎ得ぬ刃は、鎧を着ていても関係がない。
「バンホルトッ!」
彼の名を呼ぶと同時にエレナへと駆ける。背後で片足のまま私を追おうとするヴェルスタッドの前に、月光を携えた騎士が立ちはだかった。
「任されたぞ!」
エリーと共にバンホルトがヴェルスタッドと交戦する。これで一対一。対するは穢れのエレナ。
彼女は斧槍を突き刺そうとしてくるも、私はそれを踏みつけて無力化する。そしてそのまま跳躍し、片腕を斬り落とした。
噴き出る血と地に落ちる腕。エレナは驚きのあまり口を開いて何も出来ずにいる。着地と同時に連撃を決め、彼女の体幹を崩すと口にした。
「
両手でしっかりと闇朧を握り、雷が宿る刃で彼女の胴を斬り裂いた。仰け反る彼女に突っ込み、押し倒す。
「知っているはずだ」
返り血を浴びながら、彼女の胸へと再度刃を突き刺す。
「不死に二度同じ手は通用しない。王盾を出した時点で、貴様の詰みだ」
「私は、まだ……!」
治らぬ怒りをぶつけるエレナ。けれど、それも終わりである。
彼女に突き刺した刃を、そのままに彼女の足元まで引き摺る。すると胸から下半身が縦に分離し、ようやく
怨嗟が私に募る。憤怒として産まれた彼女の想いが、私の
「受け入れよう。私は少女達の白百合。君の怨嗟も怒りも全て、喰らってやる」
深淵など、見飽きている。故に彼女の怒りは私を乗り越えることなどできなかった。死にたくなるほどの絶望も、私を亡者にすることはできなかったのだから。
血を払って納刀し、背後を見遣れば消え行くヴェルスタッドにエリーちゃんが馬乗りになってタコ殴りにしていた。兜はイカだが。そんな凶暴性を見せる彼女を押さえようとするバンホルト。
だが、強敵はまだいるようだ。部屋の壁が動き、道が開けた。そしてその先にいるのは。きっと、あの古竜だろう。
段々主人公がおっさん化しているとの御意見をいただき、その通りだなと思って笑ってしまいましたがダクソのキャラが魅力的なのがいけないのです。
百合ばかりの番外編を
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見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
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いやぁそうでもないっすよ