城下不死街下層はまさに掃き溜めだ。上層よりもタチの悪い亡者と
盗賊の存在も、下層の治安の悪さに拍車をかけている。いきなり家々の扉が開いたかと思えば厄介な盗賊共が連携して襲いかかってくるのだ。亡者と化しても尚、他人から奪う事は忘れていないあたり、彼らは職務に忠実なのだろう。こちらからすれば溜まったものではないが。
それらを何とか撃退し、試しに購入した鍵で家々の扉を一軒一軒開けようとしてみれば、彼はいた。
「本当に助かった。一時はどうなるかと……」
「無事で何よりだよ」
オスカーの目の前にいる魔術師の男、名をヴィンハイムのグリッグスと言う。聞けば誰かにこの民家に閉じ込められ途方に暮れていたそうだ。その誰かとは、言うまでも無いだろう。
ともあれ誰かを助けられたという事はオスカーにとっては悪いことではない。彼は生粋の善人だから、人助けとあれば喜んでする。使命に影響がなければ。
何やら魔術師にも使命があるようで、祭祀場に戻るとの事だ。正直助けたのだからこの先の探索に少しでもついて来て欲しかったが、文句は言えないだろう。使命は何よりも優先される事だ。それが不死であるのならば特に。一先ず彼には聖職者の女不死と会ったならば自分の事を伝えてほしいと頼んだ。
そうしてまたもや盗賊と犬の連携をすべて叩き潰せば、濃霧が立ち込めている場所に辿り着いた。きっとこの辺りの主なのだろう。濃霧を発生させるということはそれなりに強大な
意を決して濃霧を潜れば、やはり強敵がいる。山羊頭のデーモン。前に対峙した牛頭のデーモンよりも小さいサイズだが、それでも身体は頑強で両手に握る大鉈は人を殺すのに適している。加えてデーモンの周囲にはまるで配下のように犬が数匹いるではないか。
複数戦は苦手である。特別な力を持たぬ不死にとっては特に。
「クソっ! どうにかして犬からやれないものか……」
迫るデーモンの大鉈を掻い潜れば犬が牙を剥く。犬に集中すればデーモンが回り込んでくる。何とも嫌な組み合わせだ。単体であるならばさほど苦戦はしないだろうに。
「犬の方が厄介だな……!」
大鉈の攻撃を盾で受けながら呟く。すばしっこい犬は鈍重な装備のオスカーには脅威である。一先ず近くの階段を登り、その先で一体ずつ相手取る。一体、また一体と犬を排除すればようやくデーモンとの正々堂々とした戦いに持ち込めるのだ。
デーモンも犬がやられると少し危機を感じたのか、間合いを取ってこちらの出方を伺ってくる。きっとカウンター待ちなのだろう。
ならばと、オスカーは盾を背負ってクロスボウを取り出す。撃ち出されたボルトは的確にデーモンの胸に突き刺さる。卑怯とは言うまいな、そちらもそちらで複数で挑んできたのだから。
その後は御山の大将である山羊頭のデーモンをあっさりと屠れば、オスカーはデーモンから奪った鍵を手に更に下層へと向かう。鎧のおかげか
盗賊をいなし手頃な扉を開けて進めば見覚えのある下水へと出た。火継ぎの祭祀場から不死街へと繋がる下水に違いない。
予想は当たり、内鍵の掛かった扉を開ければやはり見知った下水道。なるほど、ここに繋がっていたのだなと一人納得すれば薄暗い柵の向こうに亡者がいた。一瞬身構え、しかしその亡者から話し掛けられたならばその疑心も杞憂というもの。亡者━━あの心折れた騎士の語っていた小汚い老婆は言う。
「あんたまともかい? ならあたしの苔を買っておくれよ! あんたのソウルが欲しいんだよ!」
何ともまぁがめつい老婆だ。オスカーは剣を納めれば、
「病み村はどこに?」
と尋ねる。
「なんだいあんた、あの肥溜めに行くのかい? なら尚更苔が必要だよ。ほら、買っておくれよ」
どうやら何が何でも買わせたいらしい。どちらにせよ苔は買うつもりであったから、オスカーは仕方なくこの会話の一方通行を行う老婆の商売に応じる。
買うのはもちろん老婆の言う苔玉。紫毒の苔玉と呼ばれるそれは毒を打ち消す薬草のようなものだが……これを食すのは勇気がいる。綺麗な花が生えているものもあるが、それはより強い効力を持った猛毒を解毒するのに必要なのだそう。
そして老婆曰く病み村には猛毒を扱う者達も多くいるのだとか。なんと恐ろしいことか。
老婆との商売を終え、オスカーは先へと進む。例え死んでも祭祀場から最下層への道が拓けた今、苦労も少ない。そうしてデーモンから奪った鍵が合う扉を見つければ、彼はこの城下不死街の最下層へと足を踏み入れる。
最初に感じたものは、酷い腐臭と血の匂い。まるで臓物がそのあたりにぶちまけられてるのではないかと思うほどに臭う室内は、しかし正しく最下層である。
最下層とは単純に、城下不死街の下水や死体の捨て場を指している。そこが病み村に繋がると言うのだから、かの村は一体どれほど腐れ切っているのだろうか。
狭い室内で亡者や犬を屠りながら進めば、それは唐突にやって来た。大きな躯体を持った亡者……まるで解体人のようなその敵は、オスカーを見つけるや否や手にする大きな肉断ち包丁で迫り来る。
彼も武器をクレイモアへと切り替えれば、解体人の一撃を避けつつ大剣をふくよかな腹へと突き立てる。
なんて事はない。ただ大きくて体力が多少あるだけで、鈍重で頭も良い訳ではない。ならば筋力と適度な持久力を持ったオスカーの敵ではないのだ。
そうして敵を滅すれば、大樽が大量に置かれている部屋へと辿り着いた。先の部屋とは比べ物にならぬほどの腐臭。その中で、声が聞こえる。
「おい、おいあんた……」
最初は幻聴かと思った。不死となり戦い続けて来たのだ、疲れからか幻聴まで聴こえるようになってしまったかと自嘲気味にその不気味な部屋を後にしようとしたのだが。
「待ってくれ、頼む……こっちだよ」
懇願する声に立ち止まり目を凝らせば、部屋の最奥の樽から頭だけが見えるではないか。それは紛れもなく人だった。
「君は……一体どうしてそんなところに?」
「好き好んで居るんじゃないさ、なぁ頼むよ……! 死ねねぇのに生きたまま食われるなんざ堪ったもんじゃない、助けてくれ……!」
どうやらあの解体人達に捕まってしまった哀れな不死のようだ。これが連れの聖職者ならば躊躇ったかもしれないが、幸いこの上級騎士はお人好しだ。ならば助けない道理も無い。
邪魔な樽をクレイモアで叩き潰し、時折中身の得体の知れないものを鎧に浴びながら捕まっている男の下へ辿り着けば、慎重に彼が入れられている樽を破壊する。なんというサイズ感だろうか、よくもまぁこんな人がすっぽりと入る樽があるものだ。
「助かったよ……おかげであいつらに食われずに済んだ」
どうにも珍妙だが実用的な服装に身を包む男は、見ただけで呪術師であると理解できる。特段オスカーは異端であるとされる呪術に思う所は無いが、それでも生の呪術師を見るのは初めてだ。
「俺は大沼のラレンティウス。助かったぜ、この借りは必ず返すよ」
「それはいいが……しかし君も大変だな、あんな奴らに捕まるなんて」
そう同情すれば彼は自嘲気味に笑ってみせた。
「まったくだね。生きたまま料理しようなんざ……ここの亡者共はイカれてる」
しばらく情報を交換し、呪術師は一度祭祀場に戻るとの事なのでオスカーは再び探索を進める。どうやらこの遥か先に病み村の入り口があるようだが、大分困難な道のりだそうだ。もちろん彼にも聖職者の女不死と出会ったのであれば自身の事を知らせて欲しいと頼んである。
そうして調理場のような解体場を漁れば、鍛冶用の種火を入手する。ここを出たのであればアンドレイに渡せるだろう。
肉食のスライムやネズミを掻い潜り、とうとうオスカーは下水らしい場所へ出ることができた。城下不死街のそれとは異なりこの下水はかなり大規模なものだ。恐らくロードラン全体の居住区の下水が流れ込んでいるのだろう。そしてその汚水が行き着く先は……言わずもがな。
「どこにでもいるのだな、虐げられる人々というのは……」
見つけた篝火に座り、彼は一人呟く。いかに貴族の国として名高いアストラと言えども綺麗事だらけではない。貴族がいると言うことは奴隷がいる。金持ちがいれば貧困に喘ぐ人々がいる。確かにオスカーは世間知らずの坊ちゃんかもしれないが。そんな彼でも見て来たものがある。知っていることがある。
このロードランは、そんな世界の縮図。華やかな神々がいたこの地は、言い換えれば神々のために人々が犠牲になる場所。なんと世界とは悲劇に満ち溢れていることか。
いいや、ダメだ。こんなネガティブな考えになっていては。自分には、それを差し置いてでも成し遂げなければならない使命がある。その使命が一体どんな意味を持つのかも分からぬが、それでも不死となり追放されたとしても。
むしろ、そうなってしまったからこそこの使命に縋らなければなるまい。でなければいつか自分も理性なき亡者のようになってしまうだろう。
休憩を終えオスカーは下水道の探索を再開する。汚水で濡れて不快な足元を気にもせず、鼠を屠り奇怪な煙を吐く大目玉を持つ蜥蜴のような生き物を斬り殺す。まさかこの蜥蜴のような生き物が呪いを振りまいているなどと、彼が思うはずもない。
その時だった。不意に脳が揺れる感覚。それは自らの世界に他世界の者がやって来るサイン。
そんな楔文字が脳裏に浮かぶ。初めての事だった。明確な殺意を持ち、この上級騎士を屠る為に誰かがやって来るなど。
そうして通路の奥から禍々しい程の赤黒い光に包まれた霊体がやってくる。なるほど、トゲの騎士と称される程のことはある。鎧から盾、そして剣までトゲのような意匠があり、事実あれは戦闘にも使われるのだろう。戦士としての直感が、出血を予期させる。
オスカーは気高いアストラの直剣と紋章の盾を手に侵入者と対峙する。ここで撃退しなければあの闇霊は死ぬまで追って来ることだろう。別に一度の死は気にすることではないが、それでも騎士として戦いに負けるようなことは許される事ではない。それは意地だ。
一直線に闇霊はオスカーに向け走り込む。そしてその禍々しい直剣を振り上げてみせる。
「っ!」
間一髪その攻撃を避ければ、オスカーは闇霊の側面へ回り込んで剣を振るう。ガンっという金属が弾け合う音が響く。オスカーの反撃は刺々しい盾により弾かれたのだ。
一度互いに距離を置き、出方を窺う。侵入するだけあって対人戦は慣れているのだろう、トゲの騎士はじっとこちらの隙を狙っているようにも見えた。
正直神聖な武器を作るつもりなどありはしない。ただ拾ってしまった種火がたまたま神聖なものだっただけだ。仮にこの場で神聖な武器を作ったとしても、自身が持つ信仰では大した威力にはならないだろう。どうせ私は名前だけの聖職者だ。今更神に祈る事なんてありはしないのだ。
聖職の種火をアンドレイに預け、月光蝶から得たソウルを全て筋力に注げばようやく黒騎士の斧槍が両手で扱えるようになる。しかし何とも大きくて重い武器だ、片手では未だ保持するのがやっとでまともに扱えないだろう。
一先ずは不死教会の敵を殲滅してみることにした。重く長い斧槍相手ではいかにバーニス騎士であろうと攻撃は届かない。一方的に突いたり叩いたりを繰り返し蹂躙すれば、呆気なく大きな騎士様は死んでみせた。どうやらバーニス騎士は祭壇に斃れた火防女の魂を眺めていたようだった。理性無き亡者が何を思いそれを見ていたのかは今ではもう分からないが、今ではその魂も私の手にある。
ある種、これは略奪だが……いつまでも放置されているよりは良いんじゃ無いだろうか。少なくともその遺志は私に継承されるのだから。それに実用的な事を言ってしまえば、これでエスト瓶の効果を増大させられるはずだ。
一体エスト瓶の材料が何なのかは知らないし知りたくもない。しかし一つ重要なのはエスト瓶があれば死から遠ざかると言う事。今はそれだけで良い。
教会の敵を殺し終え、祭祀場に帰れば寂しいはずの祭祀場は賑やかなことになっていた。エレベーターを降りて直ぐ、何やら聖職者らしき一団がいるではないか。
あのペトルスとかいうキノコ頭に話しかけてみれば、どうやら此奴らが彼の待ち人だったようだ。いかにも話しかけないでくださいと言わんばかりの聖女様とその付き人達。まぁ良い。同じ聖職者とは言え、彼らはしっかりと信仰を抱いているようだから。好きにすれば良いのだ。
「おい、あんたもしかして聖職者か?」
ふと、呪術師のような見た目の男に話しかけられる。こんな奴さっきまでいなかったのにどこから来たのやら。
「残念だけど懺悔は聞いてやれないよ」
警戒しつつそう突き放してやれば、男は笑う。
「ああ、やっぱり。その太々しさ、あの騎士の連れだな」
「オスカーを知ってるの?」
思わず私は男に迫る。少しばかり驚いた男は、しかし私の美しさに見惚れたのか口許を綻ばせた。男というのはどうしてこうも……
「ああ。ついさっき助けられてな。奴さん、今頃最下層から病み村に向かってる最中だよ」
私は内心安心した。やはりオスカーは亡者にならず、病み村へと向かっていたらしい。世界線はどうなっているのかは分からないが、この男に干渉できると言うことは同じ世界か近い世界にいるはずだ。合流できる可能性もある。
一先ず私は男から距離を取り、話に興じる。少しばかり彼の持つ火に興味を持ったのだ。
「あんた、呪術師?」
「ん? ああ、そうだぜ。なんだ、あんた呪術は気色悪い口か?まぁ聖職者だしな……」
「いや。むしろ奇跡の方が気色が悪いわ」
「え、あぁ、そうか……珍しいな、聖職者なのに」
その偏見はどうかと思うが、まぁ確かに聖職者なのに一つしか奇跡を覚えていないのはおかしいかもしれない。と、目の前の呪術師が何かを閃いたかのように語り出す。
「そうだ、ここで会ったのも何かの縁だ。何より奴さんの知り合いだしな。どうだ、あんたも呪術を学ばないか?」
願ってもない提案だった。今の所物理的な手段しか攻撃方法がない私にとって呪術は魅力的だ。聞けば呪術は魔術のように才能が無くとも扱えるそうだし、相手は勝手に教える気満々だし、悪くない。
しかし呪術か……本来異端とされるその業は、私達聖職者が扱うべきではない。でも、そんなよく分からない掟など犬にでも食わせれば良い。
「ソウルならあるわ。全部教えて」
「ほう! やる気だな。俺はラレンティウスってんだ。あんたは俺の教え子第一号だから、特別に御師匠って呼ばせてやるよ」
「ぶっ殺すわよ」
調子の良い男だ。だが、悪い気はしない。先生など、気味の悪い聖職者しかいなかったのだから。
正直、六目の伝導者にとってこの最下層は最悪の勤務地に他ならなかった。
流れる下水がそばにあり、汚らしい鼠共が流れてくる死体を漁るような場所だ。臭いは凄いし汚いし、歩くだけで長い丈の衣装は汚れるというもの。それに仕事といってもただこの高台から下の階にたまに現れる「竜」を眺めてその行動を記録するだけ。いくら尊敬する主人からの命であろうとも鬱になる。
ふと、チュチュっと鼠の一匹が彼の足元にやって来る。背の高い伝導者はしゃがみ込み、これまた大きな鼠に餌代わりの苔玉をやる。それを嬉しそうに食べる鼠……別に伝導者は飼っているつもりはないが、いつからかここの鼠達にも懐かれてしまった。今ではこの餌やりが彼の日課の一部と化している。汚らしくとも愛らしいものはあるものだな、と考えつつも何か真新しい発見でも無いものかとも思ってしまう。
ならば喜ぶが良い。その真新しいなにかはすぐそこにあるのだから。
完全に無警戒だった伝導者は突如として転がって来た何かに弾き飛ばされた。声を上げる間もなく、彼は眼下に広がる竜の住処と化した下水に投げ出され、落下していく。彼が最期に見たもの、それは闇霊のトゲの騎士が無様に転がされ、上級騎士の鎧を着た不死がそれに剣を突き刺す瞬間だった。
そして、伝導者はとうとう真新しい発見をするのだ。死という、最期に成し得る発見を。それは不死の誰もが忌み嫌う落下死だが。
蹴り飛ばしたトゲの騎士が倒れれば、すぐにオスカーはその胴にアストラの直剣を突き刺した。いかに鎧と言えども楔石で強化された剣の刺突は耐えられまい。案の定、オスカーを苦しめたトゲの騎士は返り討ちに遭い赤い
強敵だったが、何とか倒した。やはり道中殆ど死なず、かつ余った
さて、何やら鼠が騒いでいるが駆除して階段を下る。何やらあのトゲの騎士を蹴飛ばした時に下に落ちた気がしたが何だったのだろうか。まぁ良い。
見晴らしの良い場所から階段を降りれば、何やら見慣れたサインがある。これはあの太陽の騎士ソラールと金ピカ鎧のロートレクのサインだ。彼らもまた異なる世界の同じ場所で使命に勤しんでいるのだろうか。
有り難くそのサインに触れ、二人を召喚する。そして現れるのはあの太陽賛美のポーズをしたソラールと、どこか太々しいロートレク。霊体になるとソラールの方が金ピカ具合が増す。
彼らに敬意を表し一礼すれば、階段を更に下る。するとあるのはやはり……濃霧。やはり彼らは強敵を前にサインを出していたようだ。親切なことだ。
「よし……では、行こうか二人とも」
鬼が出るか蛇が出るか。三人は霧を潜る。まさかとんでもない生物が出てくるとも知らずに。
手の内で燻る火を目の前に投げる。ぼうっという音と共に、生み出した炎はしっかりと球体と化して壁に激突した。まるで球技をしているような、しかしそれでいてこの火の球は命を燃やすための業だ。
「おお! もうそこまで覚えたか、飲み込みが早いな……まぁソウルをふんだんに注ぎ込んだからな」
隣でラレンティウスが手を鳴らして賞賛する。未だ呪術の火は私の手の中で燻り更に燃えるその時を待っているようだ。これは凄いものだ、思わず見惚れてしまう。
そんな私にラレンティウスは賞賛も程々に警告する。それは呪術師ならば誰もが知っている事であり、誰も抗えない事。
「呪術ってのは、つまるところ火の業だ」
警句と言っても良い。気の良い男は真剣な面持ちでそれを語る。それだけ彼にとってこの呪術というものは真剣になるものなのだ。
「火を織し、利用する原初の命の業だ。だから呪術師は自然であろうとする」
思い返すように彼は自らの手に生んだ火を眺める。まるで不死が篝火の炎に憧憬を見出すように。
「俺のいた大沼もそういう場所だった。いつかあんたにもわかってもらえるさ……だから、そうだな。火を恐れろよ。かつて呪術の祖であるイザリスは、自らが生んだ炎に飲まれてしまったんだからな」
炎とは。人とは、炎を操っているのではない。ただ利用しているだけ。その恩恵を得ているに過ぎない。それを克服し、我が物とするなどもっての外。この警句はそういう事なのだろうか。
さて、彼から呪術を学んだところでもう一人話すべき人物を見つけてしまった。祭祀場の裏にひっそりといる魔術師だ。まるで見つけて欲しくないとばかりにおかしなところにいるものだ、この魔術師は。
どうやら彼もオスカーに助けてもらった口らしい。ラレンティウスと同じような反応をされて笑われた。あいつはいったいどういう紹介をしたんだ、まったく。ともあれ、魔術は私も使ってみたい。最初は素質がないと言われて教えてもらえなかったので篝火で理力を上げてから再び門を叩いたのだ。
「そう、頭の中でスクロールの内容を唱えて……」
だが呪術とは異なり魔術とは扱いが別の意味で難しい。呪術が直感で為す業であるのならば、魔術は論理と知識で織りなす業だ。なるほど、魔術師は素質がないとなれないと聞いていた理由がよく分かる。
貰った杖を掲げて集中し、頭の中で詠唱する。言葉に出しても良いらしいが、それだと邪念が混じるとのことだ。そしてようやく私の杖からソウルの光が漏れ出し、矢となって手近の壺を砕く。
「ふむ、悪くない。初心者でここまでできれば上出来だ」
「効率が悪いわね」
「慣れればそうでもなくなるよ」
魔術の鍛錬を終えて彼と会話をすれば、あの聖職者一同の話題に。
「どうやらペトルス殿曰く彼らは注ぎ火を求めて地下墓地に向かうらしい」
「注ぎ火?」
「なんでも篝火を育てる術だとか……同じ聖職者でも知らないのだな」
「悪かったわね不真面目で」
何度目かも分からない聖職者のくだりを終え、私は篝火でしばし休息をする。休憩がてらちらりとあの聖職者の一団を一瞥すれば、あの聖女様は相変わらず祈りを唱えていた。
何とも健気な事だ。不死となり、追放にも等しい使命を与えられたにも関わらず、ああも真摯に神に祈りを捧げられるとは。祈ったところで不死から戻れる訳でもないのに。ああ、聖職者のああいうところが嫌いなのだ。何をしてくれるでもない神に祈りと人生を捧げ、何を為すでもなく死んでいく。
私は聖職者だが、なりたくてなった訳じゃない。だから、絶対彼女とは分かり合えないだろう。神など……本当の意味での神などいないのだ。
……嫉妬しているのか、年甲斐もなく。腹立たしい。
「……って思ったんだけど、どう思う?」
あの聖女様を見て思った事を、下にいる火防女に話す。彼女は相変わらず牢の中で俯いたまま何も語らないが、それで良い。別に会話をしたい訳ではないのだから。ただ、鬱憤を吐き出しているだけだ。相手からしたら迷惑この上ないが。
話しかけて何だが、何も反応を示さない彼女に私はため息を吐いてしまった。そして
……女が女に魅惑的、か。別にそういう趣味がある訳でもあるまいに。だが、どうしてかこの火防女には惹かれる何かがある。それは不死として、火に焦がれる運命を背負っているからか。
エスト瓶を増幅して貰えば、私はこの場を去ろうとして。不意に金ピカ鎧から話しかけられた。
「……貴公、おかしな事をするものだ」
「うっさい金ピカ」
「き……」
金ピカと言われて黙るロートレク。だが彼はその衝撃と怒りを抑えて語る。
「まぁ良い。それはそうと貴公、あの騎士は最下層を抜けて病み村へと向かったぞ」
足を止めて、私はロートレクに向き直る。
「……どうしてわかるの?」
「召喚されて共に戦ったからな」
どうやら彼はまたサインを出していたらしい。なるほど、となるとあの上級騎士様は少しズレた世界にいるのだろうか。
私も病み村に向かわなくては。会えずとも、痕跡を探すくらいはできるはずだ。
百合ばかりの番外編を
-
見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
-
いやぁそうでもないっすよ