少年達と少女は旅をした。
それは険しくも、きっと少年達の人生の中で一番彩られ、充実していたはずだ。
毎日が未知だった。
知らぬ事があれば、師である少女が教えてくれた。
発見があれば、師は彼らを褒め称えた。
それが嬉しくて、何度も何度も彼らは切磋琢磨した。
亜人の少年は、少女から理力の高さを見出され魔術を習得した。同時に剣の腕を、少女から伝授された。
聖職者志望の少年は、遍く神々の奇跡と物語を、嘘偽りなく少女から教授した。同時に闇に対する恐ろしさと、闇というものに対する知恵を得た。
彼らが戦士でありながら学者であろうとするには、然程時間は掛からなかった。
「フンッ!」
少年が剣を振るう。
出会った時と同じく、二刀流を極めようとする彼の獲物はブルーフレイム。かつて栄え、滅びた名も伝わらぬ国にあった魔術剣。
それを器用に、両の手で一刀ずつ扱い少女へと斬り込んでいく。
だが師である少女は、それを剣で受けることすらしない。
ただステップで、軽々と回避していく。
「ちょこまかと……!」
振えば振るうほどにスタミナは減っていく。
ならばと、彼は己の得意とする高速戦へと持ち込む。
背中の羽を巧みに扱い、瞬間的に間合いを詰めると左手の剣を振るう。
「言ったはずだぞ」
だが少女は、それをいとも容易く木刀で完璧に弾くとそのまま少年の腹に一撃入れてみせた。
ぐえっ、と少年は呻き、地面を転がる。少女の華奢な身体から繰り出されたとは思えぬほどの一撃。見守っていた聖職者の少年は思わず手で顔を覆った。
「お前の強攻撃は隙が多過ぎる。如何に速度に優れようが読みやすい」
木刀をくるくると回し少女が指導する。
そうは言うが、最早この時点で少年の力量は英雄のそれに近い。少女があまりにも強過ぎたのだ。
「読めるのはあんただけだよ……クソッ!」
立ち上がり様に魔法剣士の少年は魔術を放つ。
剣先から放たれたのは
刹那、少女の姿が消える。
否、高速過ぎて目が追いつかないだけだ。
いつのまにか肉薄していた少女が少年の腹を蹴り上げる。するとまるでボールのように少年がすっ飛んでいく。
「師匠、やり過ぎですよ」
叫びながら吹っ飛ぶ同期を見て聖職者の少年は苦言を呈した。少女は木刀をローブの腰帯に差すと無表情のままに言う。
「サリーはあれくらいで丁度良い。奴は自分を過信し過ぎだ」
ぼそりと、見ていて昔を思い出す……と少女は呟く。聖職者の少年はあえてその呟きを聞かなかった事にする。
「エル、手当てしてやれ」
師である少女はそれだけ言うと自らの
「師匠も素直じゃない」
空を見れば夕暮れ。背後では少女がテントを広げ、寝床を準備している。彼女が使うものではない。少年達が寝るための準備だ。
そもそも、彼らはあの少女が眠っている所を見た事がない。それどころか、今取り出している鍋で食事したことすらもない。
彼女は、不死だから。
「サリー、大丈夫か?」
「早く回復してくれ。肋が折れて死ぬほど痛い」
仰向けで動けなくなっている亜人の少年に、タリスマンを掲げて奇跡を詠唱する。
「大回復」
それは高位の聖職者が扱える偉大な奇跡。
あまりに膨大な物語であるその奇跡は、聖職者ですらない少年が扱えるようなものではないはずだ。
「クソ……師匠め、いつか超えてやる……」
「師匠の事が大好きなのに何を言ってるのやら」
呆れた様子でエルと呼ばれた少年はタリスマンを
「愛しているさ。同時に、超えたいとも思っている。それはお前も同じじゃないのか?」
「僕は君ほど闘争心に溢れてないよ。師匠は確かに口は悪いし神の事をボロクソ言うけど、その名に恥じぬ清廉さを持っている。良き聖職者だよ」
「ボロクソ言うのにか……?」
まぁいいや、とサリーが吐き捨て少女が待つテントへと二人で戻ろうとする。
だが、その時。
陽も暮れた空から、突然何かがやって来た。
それは彼らの前に降り立つと、両腕の翼を広げて咆哮する。
飛竜。
古竜の末裔が、夕飯を求めて彼らの前に降り立ったのだ。
「りゅ、竜!?」
「どけ! 俺が……」
硬直するエルに代わり、サリーが剣を飛竜に向ける。
だがその瞬間。
ばっくりと、飛竜の胸が穿たれた。
胸から飛び出すのは、余りにも太い
あまりの凄惨な光景に、二人は唖然とするしかなかった。
突然胸に穴を空けられた飛竜はもがく間も無く、突然やって来た来訪者に首を斬り落とされる。
それは、彼らの師である少女。
見えぬ一振りの刀で、その首を斬り落としたのだ。
圧倒的な技量。切断面は綺麗過ぎて、きっと飛竜も殺された事に気が付かなかっただろう。
圧倒的な速度。テントからここまで、100メートルはあったはずだ。まるで瞬間移動でもしたのかと言わんばかりの素早さ。
圧倒的な理力。見たこともない魔術は、
圧倒的な殺意。先程まで訓練をしていたとは思えぬスイッチの切り替えの速さ。
今のままでは永遠に勝てないと、二人は悟る。彼らと少女の間には、絶対的な壁があった。そもそも、彼女に勝てる者がこの世界にいるのだろうかと。
少女は刀を振って血を払うと、竜の血で全身を染めた弟子達に言った。
「今日は竜の心臓で英気を養うか」
「冗談でしょ?」
面白くもない冗談を言う師匠に、サリーは言った。
血塗れの広場で、私はとあるものを観察していた。
ちなみに広場が血塗れなのは襲ってきた亡者共を斬り伏せたからだ。私は悪くない。
観察しているのは、木だ。
正確には、人の身体から伸びた樹木。それは立派な木ではないにせよ、枝というには太い。
「人間性の変質……火の陰り……」
火が陰るということは、人の本来の姿を取り戻すということだ。神々が封じた人の可能性。
故に人から不死が現れる。闇というものが溢れる。
けれど、人の膿と言い目の前の木といい、私がかつて旅をしたロードランやドラングレイグでは見たこともないものだ。
理由は分かっている。
今と過去では火の陰りの度合いが違うのだ。
かつてのロードラン、そしてドラングレイグ。
あの時代の火には、まだ勢いがあった。
薪を焚べれば弱まった炎は勢いを取り戻し、また世界に完璧な封を施す。
けれど今の時代。火の勢いは、最早風前の灯火とでも言えば良いか。
どれだけ良質な薪を焚べようとも、そもそもの火が弱過ぎる。故に王達は目を覚まし、故郷へと帰っていった。
もう、限界なのだ。グウィンが見出した原初の火の寿命とでも言えば良いか。何事も劣化し、終わりが来る。終われないのは、私くらいなものだ。
「人と竜。竜と大樹。大樹と岩々。やはりシースはここまで予見していたか」
かつて公爵の書庫で見たシースの研究。そこには人と竜の関係性などが示されていた。狂う前は奴もやはり偉大な学者だったということか。
飛竜が道を塞いでいる。
亡者達には見向きもしないのに、私を見た瞬間炎を吐いてくるとは何と罰当たりか。
流石に炎で焼かれて死ぬというのは嫌なので、遠距離から魔術を撃ち込む。
生憎と私がドラングレイグで手に入れたものはほとんど無くしてしまった。眠りについている中で劣化してしまったのだろうか。
祭祀場の侍女から購入した魔術師の杖で、
「護り竜よりはマシ程度か」
今戦えば、あのドラングレイグ産の飛竜など相手にならぬだろう。そういえばあの偽りの古竜はどうなっただろうか。敵対することはなかったが、糧となるなら殺しておくべきだったか。
道中、亡者と化したロスリックの騎士を屠りながら高壁の内部へと侵入する。
これまた亡者になった盗賊が群れをなして襲ってきたが、返り討ちにする。
スローイングナイフを投げられたのであればそれをキャッチし、投げ返す。
バックスタブしようとするのであれば後ろ蹴りでいなしてから斬り捨てる。
すると、牢屋のような場所にやって来た。どうにも亡者ではない盗賊が捕えられているらしい。
「……ああ、どうやらあんたは牢番ではないようだ」
小人のように見えるその盗賊は、奴隷の頭巾を被っていて顔は見えない。だが
牢屋の鍵をピッキングして開けば、彼はとあるお願いをしてくる。どうやら高壁の下にある不死街に、探している女性がいるようだ。
「そいつに、この指輪を渡してはくれんかね。ああ、もちろんただとは言わん。儂の願いを聞いてくれるのならあんたに協力するよ。ケチな盗人だが、育ちの良いバカよりは余程役に立つ」
確かに、とは思う。頭の硬いボンボンよりは彼らのような盗賊……或いは義賊の方が義理堅いし仕事もする。
私が了承すれば、彼は帰還の骨片を用いて祭祀場へと避難する。あれで帰れるということは、彼もまた火の無い灰なのだろう。
そんな出会いを経て、更に先へと進む。
すると戦場にでもなったのか、高壁の内側の広場は凄惨な事になっていた。
かつては美しかった噴水の広場は、死体処理のために火が焚かれ、そこには死体が焚べられている。
ロスリックの騎士や兵士達の鎧だけが散乱しているあたり、きっとそれなりに長い年月ここでは争いがあったのだろう。中身が
「何だお前は」
そんな広場に、デブの騎士がいる。
そいつは大きな斧を手にし、背中には小さな羽が生えている。
……羽?
「天使信仰だと……? 太陽ではなく……?」
襲いかかってくるデブを、斬り捨てる。見た目に反して割と軽快な動きだったが、ドラングレイグの竜騎兵程度の強さだ、相手にならない。
だが、これはおかしなことになっている。
ロスリックは最古の火継ぎを再現するための国家。
私に頭を下げてまでフラムトが作ったのだから、間違い無い。それがどうして、天使などという深淵に近いものを信仰するような者を置いている?
私が放浪し、眠っている間にこの国は随分とおかしなことになっていたようだ。今となっては後の祭りだが。
次にやって来たのは、庭園だった。
ここはよく覚えている。確かここからロスリック王城へと繋がっていたはずだ。あの頃は私の趣味で百合の花なんかも備えさせていた。
だが今では花は枯れ果て、ただ草が伸びて垣根となっているだけ。
「風情が無いな、貴様ら」
そこを闊歩するロスリック騎士の群れに呆れたように言う。
言葉すらも解せぬほどに落ちぶれた彼らは、ただ私へと襲い掛かる。
先頭の騎士が振るう剣をロングソードで完璧に弾くと、前蹴りで体勢を崩す。そして一気にそいつの口へと剣を突き刺す。
今度は槍持ちが突きを放って来る。
それを、完全に見切って踏み付けた。
「ぬるいな。私が直々に鍛えるべきだったか」
たまらず騎士は槍を引き抜くと、こちらの攻撃を予想したのか大盾を構えた。
だがそんなものでこの私の攻撃を防げるとでも思ったのだろうか。
基本、長剣や片手剣で大盾の防御を崩すことは難しい。けれど、それは撃力が足りないからだ。
私は一歩踏み出し、肩にロングソードを担ぐとそのまま回転して大きく振り回す。
まるでハンマーのような打撃力が乗った一撃は、大盾兵の体幹を大きく崩した。
そして仰け反る騎士の胸を剣で穿つ。鎧など、私の筋力と技量の前では意味が無い。ただ紙のように薄い。
二人倒せば、今度は騎士長らしき青いロスリック騎士が待ち構えていた。
そいつは悠長に剣へと奇跡をエンチャントすると、こちらへと走って来る。
「そろそろ飽きたぞ」
だから私は、一気に距離を詰めた。
まるで瞬間移動のようにステップし、通り過ぎ様に胴を両断する。
便宜上、加速と呼んでいるこのステップは、圧倒的な速度で移動距離、速度を追求したものだ。ドラングレイグの旅を終えた後、愛するルカティエルと編み出した。
死体を背に血を払って納刀すると、目の前にある大きな建物へと進入する。ここからロスリック城へと至れるからだ。
「久しいですな、白百合様……否、今は火の無い灰でしょうか」
だが、そこには通路はない。ただ椅子に座った老婆がいるだけだった。
祭祀場の侍女にも似たその老婆に見覚えはない……はずだ。いや。
「……エンマ? あの修道女の?」
そう尋ねれば、彼女はにっこりと笑って見せた。
嗚呼、時の流れとはなんと残酷か。建国の際にやたらと私を慕ってくれたあのうら若き修道女が、こうも歳をとるものなのだな……思えば、あの侍女も昔は美人な乙女だった。
だが、歳をとるならば不死ではないはずだ。否、歳をとってから不死となったのか。
「今となってはこのロスリックの祭儀長です。貴女に、お伝えすることが」
「……聞きたくはないが、述べたまえ」
そうして語る祭儀長エンマ曰く、このロスリックには王達はいないとのことだ。
彼らは皆、ロスリックの麓に流れ着いた彼らの故郷へと帰っていったのだと。これは長旅になりそうだ。
「高壁の下に向かいなさい、白百合様。大城門の先、この小環旗が貴女を導くでしょう」
彼女が
私はそれを手にすると、
「ロスリック城へは至れぬのか?」
「時が来れば。それまでは、王達を追うことです」
「あの優しい子が随分と厳しくなったものだ……時の流れは残酷だな」
私の小言にふぇっふぇっふぇ、と笑うエンマ。
「貴女はいつでも美しいままです」
「……ありがとう、エンマ。一つ聞きたいのだが」
この広間に来てから、ずっと気になっていた事を尋ねる。
「アレは、無視しておいて良いのか?」
見えぬ何かがいる空間を指差す。
すると彼女は頷き、
「今はまだ、奴もこちらを見張るだけ。さぁ、貴女は高壁の下へと向かいなさい。そして、注意なさい。大城門には番犬がおります。忌々しい、冷たい谷の番犬が……」
それを聞いて、私は表情を変えずに呟く。
「冷たい、谷」
想いを馳せる。
かつて出会った、鍛えた若造の事を。
「瞬間凍結」
サリーがブルーフレイムから冷気を放つ。
放たれた冷気は果物に当たると、それらを一瞬で凍らせてみせた。
ブルーフレイムでそれらを切ると、なんと不思議。凍らせたスイーツの出来上がりだ。
「師匠、食後のデザートができましたよ」
「私に食事は……甘い物ならいただこう」
凍ったフルーツが載ったお皿を少女に手渡す。すると少女は真っ赤な苺に手をつけ、そのまま頬張った。
一瞬、まるで頬が蕩けたように笑顔を見せる。けれどすぐにいつもの凍ったような無表情と化した。
面白いものだ。氷づけの果物が、少女の表情を溶かすなどと。
「サリー、この魔術ってどこで覚えたんだい?」
不意に、隣で同じくデザートを食すエルが尋ねる。
だがサリーは、亜人特有の顔を歪めた。同時にエルは、サリーが自らの出生などを答えたことがない事に気がつく。タブーだったか、と後悔したが。
「何もない辺鄙な場所さ。でっかい塔と教会があるだけの冷たい場所」
サリーが説明した瞬間。
師の手が止まった。だがすぐにまた果物を食す。
「そういうお前はどうなんだよ」
「田舎の修道院だよ。親はいない」
「そうか」
それ以上の会話はなかった。
ただ皆が、黙々とデザートを食している。
だがこの日だけは、それ以上師である少女がデザートを食べて笑みを見せることはなかった。
高壁の下。
そこに至るための大城門の扉へと近づけば、気配を感じた。
殺意、敵意、闘争本能。まるで獣のようなそれは、確実に私へと向けられている。
闇を感じる。けれど、ただの闇ではない。深淵に近い、けれど冷たい闇。背後にそれが現れると、そこから何かが這い出て来る。
「エンマの言っていた番犬か」
それは、獣だった。
そして騎士でもあった。
甲冑に身を包み、手にした大きなメイスは確かに騎士である証。
けれど巨大化し、四つん這いになって躙り寄る姿はまるで獣。
人とは、やはり可能性の生き物だ。けれど、こうまで尊厳のない可能性は否定したいものだ。ましてや、それが弟子の所業であるかもしれないなどと。
ただ棒立ちで、視線をそちらに向ける。
青く光る目は、やはり人ではない。獣そのものだ。
獣は大きく咆哮すると、手にしたメイスを石畳に突き立てる。
震え、砕ける石畳。こいつはここで殺さなければならないようだった。
刹那、ボルドが大きくメイスを振り上げる。
瞬時に私は加速してキルゾーンから奴の足元へと退避すると、ロングソードで踵を斬りつける。
「硬いな。凍ってもいるのか」
浅く斬りつけるのみに留まる攻撃。
どうやら鎧と、肉体が凍り付いていることによる防御力のせいでやたらと硬いようだ。
ならばと私が左手に呪術の炎を呼び寄せれば、ボルドは振り向き様にメイスを振るう。
バック宙でそれを回避し、呪術を詠唱する。
「混沌の大火球」
溶岩を伴う大きな火の玉を投げ付ける。
胴体に着弾したそれは、効果があったのかボルドを大きく怯ませた。
凍った反面、火には弱いようだ。呪術は丁度良いだろう。
叫び、しかしボルドは大きく跳躍する。
メイスを振り上げながら迫る巨体に、私は冷静に対処する。加速して加害範囲から逃れると、すぐに呪術を放つ。
「なぎ払う炎」
その名の通り、鞭のように生み出した炎を振るう。
ボルドの顔面にベチベチとぶつけられた炎は確かに彼を苦しませているようだ。
続け様に、左手の呪術の炎を消して杖を取り出す。
「
杖から生み出した実体を持たぬ大剣を振るう。
それはボルドの顔面に当たると、例え兜越しであろうともダメージを与えてみせた。
だが、その瞬間ボルドが大きく吠えてバックステップでこちらから距離を取り出す。
第二段階といったところだ。こういう
ボルドが動き出す。
まるで猪のように。四足歩行でこちらへ向けて突進してきた。
「おっと」
それを加速で回避する。
だが避けられたボルドは反転するとまた突っ込んでくる。
動きは直線的だ。回避も容易い。だが当たれば弾き飛ばされることは目に見えている。痛いだろう。
数回それを繰り返し、こちらもそれを全て避ければとうとうボルドは振り返っての突進を止めた。
代わりに口から冷気のブレスを吐き出す。
「やはり、そうか。お前は奴の手先だな」
そのブレスを見て確信できた。
ならばもう用はない。それに今の突進からの振り返りブレスは流用できそうだ。
走ってブレスから逃れれば、私は脳内で動きを構築する。
ボルドがこちらへ躙り寄れば、今度は私から動く。
ロングソードを相手に真っ直ぐ構え、両脇を締めて固定する。
そして脚力に任せて一気に突進する。
あまりの速度にボルドの動きでは私を捉えることはできない。
通過しながら斬り裂き、そして通り過ぎたら反転し、また突進する。
それを繰り返す。
「その技、貰ったぞ」
OBTAINED ENEMY ARTS
数多の強者と戦った。
数多の殺しを制してきた。
故の、可能性。敵の技さえも奪い、我がものとする人間性の可変性。
最後に、振り返り様に魔術を繰り出す。
さも先ほどにボルドが冷気を放ったように。
「
かつてドラングレイグで得た禁断の魔術、それを独自に改良した、私だけの魔術。とは言っても、今となってはきっとロスリックでも知られているだろうが、この威力は私にしか出せないだろう。
杖から放たれる極太の青い光線。
まるで全てを消し去るように、前方を光線で薙ぐ。
圧倒的な防御力を誇るボルドは、その光線に全身を埋め尽くすと力無く地に伏した。
だが、獣とは人とは違う。死に瀕した時にこそ、本能が殺しを求める。
突然ボルドが起き上がり、最期の一撃とばかりにメイスを振り被る。
私は咄嗟に頼りないロングソードでその一撃を受け止めた。
「むっ……!」
重い。
きっと筋力を最大まで高めていなければそのまま挽肉にされていた。
お互いに拮抗する力と力。だがこの時、危機に瀕したからか私の中に燻る薪に火が灯る。
漲る活力。溢れる闘争心。それらが、目の前の獣を討ち滅ぼせと叫ぶ。
「ふんっ!!!!!!」
燃え盛る炎を纏い、私はボルドを押し返した。そしてそのまま力尽きて倒れるボルドに、とどめの一撃を見舞うために跳躍する。
ロングソードを振り被り、左手の掌を自ら浅く斬りつける。
刀身に迸る炎と血の怨嗟。
師より受け継いだ、不死を殺す一撃。
「奥義、不死斬り」
赤黒く、そして燃える実体のない一撃は、容易くボルドを両断した。内なる薪が燃えるせいかあの頃よりも一撃の破壊力が凄まじい。
石畳に着地し、剣を振るって血を払うとそのまま納刀する。背後ではボルドが
「ふぅ。久しぶりの強敵だった。楽しめたぞ」
きっとボルドも戦いの中で強者に倒されるのであれば本望だろう。バサリと緑衣のマントを翻し、私は大城門の大扉へと向かう。
両手で踏ん張り、老朽化している扉を押しやる。
開いた門の先。
そこは、断崖。
道などない。
「流石の私も飛べはしないしな……」
飛べれば落下死もしないのだが。
とりあえず、小環旗を石畳に突き刺してみる。
何か、羽音が聞こえる。
それも、なぜか懐かしい羽音が。
刹那、懐かしのレッサーデーモンが崖下から羽を広げて現れる。まさか。
「貴様ら、アノール・ロンドを辞めてロスリックに再就職か」
まるでうるせー! っと言っているかのように叫ぶレッサーデーモン達。
彼らは私を抱えると、そのまま持ち上げようとする。なるほど、彼らが高壁の下へと連れてってくれるのか。
「胸を触るなァ!!!!!!」
どさくさに紛れて胸を掴もうとするレッサーデーモンの一匹の股間を蹴り上げる。
ギャっと言って蹲るレッサーデーモン。他のデーモン達はその光景に引いているが、関わりたくないとばかりに優しく私を抱えて飛び立つ。
蹲って悶えるデーモンを背に、私はしばし城下の不死街を眺めていた。
固有戦技/勇猛なる突撃
武器を携え、突進することで敵を粉砕する。強靭度を一時的に増す。
数回突進し、左手に触媒を装備していれば派生攻撃を繰り出す。
ボルドはその勇猛さ故に外敵から恐れられた。しかし彼が最期に恐れたのは、巨大な敵でも圧倒的な数でもなく、ただ一人の少女だった。
ダクソ3となったことで新たにリリィさんが技を得て行きます。
ダークソウル3のリリィは
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暗い方が良い
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暗くても多少明るい方が良い