使役されたデーモン達が私を運んで行く。
眼前に広がるのは城下町。
人はそこに全てを押し込む。
理不尽という名の暴力。
不死という名の人の変化。
見たくもないものに蓋をして、何になるというのか。
元より人とは闇であるというのに。
人の本質とは、不死であるというのに。
可能性に目を瞑り、人は歴史を繰り返す。
そこは呼ばれる。
不死街と。
長く生きていても、達成できないことなど沢山ある。
その一つが空を飛ぶという事だろう。
「随分と久しい光景だ」
一人、呟いては音が風に消えていく。
いくら理力を上げようとも空を飛ぶことなどできぬ。
人は竜になれるかもしれないが、それは最早人ではないように。
人は人の領分で生きている。
……そういえば一度
不死街が近付き、ゆっくりとデーモン達は降下していく。
どうやら私が降ろされるのは不死街と高壁の境目らしい。まぁ冒険には丁度良いスタートであろうか。
だが、何やら風が強い。
私は飛べないのでわからないが、これだけ風が強いと飛ぶのも一苦労なのだろう。デーモン達は何やら焦るようにギャアギャアと叫んで必死に飛んでいる。
「おい、大丈夫かこれ」
純粋に疑問を呈すると、どうやら大丈夫ではないらしい。デーモンの一匹が首を横に振っている。
参ったな、流石にこの距離から降ろされたら私でも死ぬ。ならばあれを使うか。
「おい、適当な足場で良いから降ろしてくれ。あとはこっちで何とかする」
そもそも私にセクハラした奴がいないせいで揚力が足りないのだろう。デーモン達は一番近くにある分断された橋の上へと私を運ぶと、かなりの高さから手を離す。
同時に、強烈な浮遊感。落下死の時によく味わうあれだ。
冷静に杖を取り出し脳内で魔術を詠唱する。
「隠密」
それはヴィンハイムの隠密達に与えられた、暗殺のための魔術。音を消し、高所からの落下ダメージを抑えるものだ。
全身に、特殊な
それと同時に私は橋の上へと着地する。
片膝を突き、衝撃を吸収するとゆっくりと立ち上がって頭上を見た。デーモン達が帰っていく。
埃を払いながら後ろを振り返れば、どうやら分断された橋ギリギリだったようだ。杖を
「……蓋被り」
橋の上に、沢山の死体が並んでいる。
修道士の様なローブに、しかし背中には亀の甲羅のようなものを背負っている死体達。
幾人かの死体は立ったまま死んでいる。皆、ロスリックに向かおうとしていたのだろう。
「ロンドールの者達か」
ロンドール。
それは老人と亡者達の国。
カリムの一部を主体として、追放された不死達が建国した国。いや、世界蛇の片割れに唆されて造らされた国。
少しばかりの私の遺志を汲んではいるが。ロンドールでは私は聖女らしい、迷惑な。
だが、それがどうしてロスリックへと向かっているのだろうか。
火継ぎは彼らにとっては忌むべきものだと認識していたのだが。或いは、彼らの理想とする火の簒奪が関係しているのだろうか。
「オオ……どうか私に死を……私の枷を……外したまえ……」
不意に、声が近くで聞こえる。
どうやらこの死体の山の中に生きている者がいるようだ。
他の死体と似ているからわからないが、少しだけ動いている者がいる。
「……貴公。ロンドールの巡礼者か」
同じように蓋を被る老人に声をかける。すると、彼は驚いたようにこちらへと振り返り声を上げた。
「……おお。おお、貴女は……灰の英雄様……否、深淵の闇姫様ですな……!」
「今はこう語り継がれているのか……」
頭が痛くなる。
古い闇姫から深淵の闇姫か。流石に色々と痛すぎる。かつての私の悪行がこうも巡って来るとは。
ちなみに地方によっては私は原罪の探究者とか百合姫などと呼ばれているらしい。百合姫は個人的に好みだが。
「お目にかかれて光栄です。私はロンドールのヨエル。見ての通り巡礼者ですが、一人死に損なってしまいましてな」
「そのようだな。他の者も、『蝶』にはなれなんだ」
蝶。それは、歪んだ人間性の慣れ果て。
今は説明を割愛するが、あれこそ悍ましい人間性の可能性だ。私も見たことはほとんどない。
その蝶を再現しようとしていた古竜は知っているが。
「……しかし、これも運命かもしれません」
「嫌な予感がするが、言ってみ給え」
「闇姫様、私を従者とする気はありませんか?」
従者か。
私は誰かを仕えさせるつもりはないし、自由にやりたいものだが……まぁ、祭祀場という拠点がある以上そういうのがあっても良いかもしれない。
だが折角ならば少女が良いのだがな……
「ロンドールの知り合いには若い女子もいます故……お取次もできます」
「貴公、今から私の従者だ」
長く生きても欲求には抗えない。
それは昔からなにも変わらぬものだ。我ながら哀れになってくる。
「おお……ありがとうございます。このヨエルに最後の使命を与えてくださって……」
「最後……」
彼の
逆に言えば、それこそ蝶となる条件に近しいのだろう。けれど、このままいけば彼は死に絶える。長く辛い旅の果てに、全てを失い動かぬ骸となる。
それはある種、不死にとっての望み。
私には、絶対にできない芸当だ。
私のような、ただ生きているだけの不死には。
不死街の門扉には、中に入ろうとする亡者が沢山いた。皆が皆、私を見向きもせずに中に入ろうと必死である。
例え見捨てられた街であろうと、そこは彼らの故郷。帰るべき場所。ならば人は帰りたくなるものだ。
人は言語に帰属するという話も聞いたことがあるが、それだけではない。土地と、そして家。それらが揃って初めて帰るべき所なのだ。
「歓迎はされていないようだがな」
門が開くや否や、不死街から亡者犬が飛び出して亡者達を喰らう。その背後には何やら教導師のような巨漢の女が歪な笑みを溢しながら指示をしていた。
いつの世も変わらぬものだ。例えロスリックが火継ぎを繰り返そうとも。
弾圧される者はいて、圧する者がいる。
こちらに迫る亡者犬を切り捨て、門で邪魔をする巨漢の教導師と対峙する。えらく厳つくて長い棍棒と分厚い何かの本、そしてやたらと身なりの良さそうな服と帽子に身を包んでいる。
「ハァッハハハハッ!」
奴が笑いながら横に振るわれる棍棒を屈んで回避し、懐に潜り込む。私の背後では棍棒の一撃で千切れ飛んだ亡者達が絶命しているが、気にはしない。
ロングソードで膨らんだ腹部を穿ち、そのまま横に斬り裂く。けれど教導師は存外タフで、怯みながらも右手の本を掲げて呪術を詠唱しようとした。こいつこんな身なりで呪術師か。
「大発火」
その前に、私の呪術が炸裂する。
穿った傷跡に左手を突っ込み、呪術で教導師を燃やしたのだ。
身体の内側から燃やされた教導師は叫ぶ間もなく、そして呪術を繰り出す間もなく死んでいく。得られたのは、最早売買にしか使わぬ
普通の不死相手ならば油断を突いて殺せたであろう。けれど相手は私である。数多の戦いを経て、王の証を掴み取り、そして王にならなんだ者。
相手が、悪い。
やはり何処でも、この光景は見られるものだ。
不死街を進み、広場に出れば中央では亡者達が何かを燃やしていた。
言わずもがな、死体である。正しくは、動かなくなった亡者達。それらを集めて燃やし、処分している。
彼らにとってそれは火葬なのだろうか。けれど側から見ればあれは単なる処分。そして、指揮するのは教導師。
数は多かったが、魔術や呪術でそれらを簡易に一掃すれば。
「……愛した女が骨になっているなど、どう伝えれば良いのか」
死体袋から感じるグレイラットに似た
感じるのは、ロレッタという女性の母性。その母性は、確かにグレイラットに向けられている。嗚呼、私に親はいないが。きっと、辛いのだろう。
一つの骨を、きっと大腿部だろう。それを拾い上げ、
「消えた婆がまたひとり。だから孫はずっと籠を背負ったまま」
不死街を探索していると、何やらおかしなものを見つけた。
円柱の籠に亡者達がぶち込まれていて、その中でただ一人唄う者がいる。何かの童謡だろうか。
「誰か籠にお入りよ。婆の替わりにお入りよ」
これでも学者の端くれとして、その土地の民謡や童謡なんかは興味がある。羊皮紙のメモを取り出して、それを書き連ねる。
籠……空いた籠なんてあっただろうか。いやあるなぁ。ちょうど入ってくれと言わんばかりの籠があそこにあるんだよなぁ……
「……」
すぐ近くに、赤い布に身を包んだ大柄の亡者が片膝をついている。その背には、誰かを待ち望むかのように開いた籠が背負われており。
絶対あれだよなぁ……嫌だなぁ、臭そうだし。でも探求したいなぁ。入ったら何処へ連れて行かれるのだろうか。強い者でもいるのだろうか。
「……わかった、入る」
しばらく悩み、根負けした私は大男の背後の籠に足を踏み入れる。すると入り口の扉が勝手に閉まる。
こいつは攻撃してこないから良いかもしれないが、他の亡者に見つかろうものなら袋叩きにされそうだ。身動きが取れない。
すると大男は立ち上がり、歩き出す。一体何処へ連れて行かれるのか。ワクワクは……少しはしている。
少年達は旅をした。
師はほとんど自分の事は語らなかったが、時折季節や時期、場所の特質を踏まえながら自らの経験を語った。
竜は飛ばせるな、頭を狙え。
犬は優先的に排除しろ、全人類の敵だ。
魔術、奇跡の一辺倒は避けよ。不死相手ならばその強みは弱点になる。
的確な指導により、たった数年で彼らは英雄とまではいかなくとも強者となった。
師、曰くこの時代にかつてのような強者はほとんどいないから調子には乗るなと言っていたが、それでも彼らを相手にまともに戦えるものは殆どいない。
師を除いて。
サリーが振るう双剣を、師は弾く。
長く、恐ろしいほどに疾い連撃さえも師は木刀で弾く。
化け物すらも殺せる双剣。古い英霊ですら傷付ける技。
けれど、師はただの木刀だけで対処している。その光景があまりにも意味がわからない。
「サリー、避けろ!」
不意に、サリーの背後から黄金の槍が飛んで来る。
咄嗟に若き魔術師はそれを回避すれば、槍は対峙していた師へと飛んで行く。
師はそれを避けようとはしなかった。ただ、木刀でそれを受けてみせたのだ。
その光景は、見る者が見れば愚かであろう。
槍は、奇跡である雷の槍。触れれば痺れ、否、その雷に身を焼かれる。
けれど師は、雷を木刀に受けて回転し跳躍するとそれを放ち返してくる。
その技は、長きに渡る戦いの末に磨き上げた奥義。武器は問わぬ、獲物さえあれば戦士とは何でさえも殺してしまうのだから。
「私の奇跡でなくて幸運だな」
鼻で笑うと、木刀から雷が打ち返される。
その矛先は、前衛であるサリーへと。雷を撃ち返す術など知らぬ彼は、そのまま味方が放ったはずの槍を一身に受ける。
「ぎえ〜!!!!!!」
プスプスと焦げながら倒れるサリー。痛そうだが、あれでは死なないだろう。
「サリー……!?」
「他人を気遣うのは強者のみができる特権だと、教えたはずだ」
気が付けば、目の前に師が立っている。
木刀をエルの目の前に突きつけ、けれど吸い込まれそうなほどに美しい貌を冷徹なまでに凍らせて。
だが人は、闇にこそ惹かれる。
師の顔は、太陽ではない。闇の具現にこそ思える。
「ていっ」
「いたっ!」
エルのおでこを木刀の先端が小突く。勝敗はそれでついてしまった。
こてん、と尻餅をつくエルの目の前で、背の低い少女は見事な作法で木刀を左脇の帯にさす。すると表情を一つ変えずにただ言った。
「反省会だ、馬鹿弟子達」
夜の帳が下りる中、ゆらりと燃える薪を囲う。
ドンっと大きな鍋が中心に焚べられ、中には猪や山菜が煮込まれている。
初っ端に倒れたサリーがそれらに味付けをし、使い古されたお玉で掻き混ぜる。最初に負けた者が飯を作る。それが彼らの掟だ。
「師匠、できましたよ」
「うむ」
お椀に注がれた汁と猪肉、そして山菜を受け取り、マイ箸を
「いただきます」
一口猪肉と山菜を小さな口に含めば、よく咀嚼して師は味を確かめる。
すると一瞬、無表情の極みのような師の表情が見た目相応に和らいだ。けれどすぐにいつものようにキリリとした冷徹さを取り戻す。
「美味い。サリー、お前は剣術よりも料理人の方が似合うぞ」
「冗談だろ……」
ここ数年、師はよく食べるようになった。
出会った当初は一口も何も食べなかったのに、今では我先にと食にありつく。自称美食家は、不死であろうと関係が無いらしい。
食こそ、生の実感の一つなのだと。
「さて、貴様ら馬鹿弟子の戦いだが」
不意に、師のお椀の中身が無くなった瞬間に反省会が始まる。なおまだ二人のお椀には料理が入っている。
「まずサリー。お前の連撃は軽過ぎる。重さが無い」
「またそれか……」
前にも言われたな、と呟くサリーに師は言った。
「身体をデカくすることだ。質量と速度はそのまま破壊に繋がる」
「師匠さんは小さくて軽いのにバカみたいに攻撃は重いだろ……あだっ」
コツンとサリーの頭をオタマが叩く。
「乙女に重いだのと言うのは失礼だぞ、馬鹿弟子。私の強さは
超えさせるつもりはないがな、と付け加えて。
「エル、お前は近寄られると何もできなくなるのをどうにかしなさい。状況判断だ」
「はい……」
「男がしょぼくれるな。お前の奇跡の強さは私が保証するさ」
反省会は、大抵そのままお互いに軽口を言い合う場となる。
そもそも、この緩やかに死に行く時代に生きるだけなら、最早師の導きなど要らぬくらいには彼らは強いのだ。
けど、戦いだけでは得られぬ見地がある。
「少し、話をしよう」
それは、彼等が寝床につく少し前の事だった。
突然、静かな夜の森の中で師が語りだす。
それこそ、今の彼等の楽しみ。戦いだけでは得られぬ、生きた神話。最早、エルの崇拝するものは神ではなく。サリーの到達点は世界ではなく。
目の前の、一人の少女なのだから。
「私は……私は、ただの哀れで弱い不死だった」
だから。
だから、師の口から、直接的に自らの事を語られたら、驚きを隠せなかった。
けれど二人はじっとその話を聞いた。いつものように壮大な物語ではない。それは、一人の不死が、泥臭く、身勝手で、そしてどこまでも愛に生きようとした物語。
あれだけ強く、隙のない、けれど時折見せる少女らしさに人間味を感じる師が、今日は弱々しく感じた。
ロードランでの物語。
一人の女が、何度も死にながら、けれど決して心折れず、交わした約束と愛のために奔走し。最後には、守られなかった悲劇。
ドラングレイグでの物語。
全てを失い、けれどそれ以上のものを得て、新しい愛に生きた英雄譚。
最後は、玉座を捨てて探究を目指した猛々しい少女の話。
「私は、お前達が思っている程強くはない。ただ人より長く生きて、殺して、奪ってきただけに過ぎない」
仮面の女騎士との別れを語り、彼女は全てを否定した。
「どうして、今それを?」
探究心に満ちたサリーは尋ねる。
「お前達と旅をして、もう五年になる。私からすれば五年など、瞬きにも満たぬ。満たぬが。満たぬのだが……」
手にしていたカップに注がれているコーヒーの湯気が、彼女の瞳を潤す。
「きっと、情が湧いたのだろう。そして、知ったのだろう。弟子ができるという意味を。かつて出会った私の師が、何を思ったのかを」
少女は、何も変わっていない。
実は寂しがりやで、強情で、強そうに見えて、けれど脆い。根はロードランの時から何も変わっていない。
それが、目の前にいるリリィという無敵の不死。
きっと、きっと彼女はこれから先の未来、変わらない。
つまり、弟子達がいなくなったら。
また、彼女は一人に戻る。
それは、変わらない。
「……らしくないですね」
「ああ。らしくない。らしくないな……」
夜は耽る。
きっと、この時からなのだろう。
彼女の弟子達に、新たな野心が芽生えたのは。
その芽生えが、きっといつか暗く燃え滾る。
目が、覚める。
冷たい水に顔を埋めているのだと、すぐに理解した。
立ち上がり、私の身体に覆い被さる籠の破片を払うとついでに身体についた埃も払う。
「あの籠男め……」
先程入った籠。それを背負っていた亡者が、突然谷底に籠を落としたのだ。
絶叫する私はいくらかのスリルと浮遊感を感じながら、不死街の底に突き落とされた。まさか意識を失うほどとは思わなかったが。
「……懐かしい夢を見た」
在りし日の記憶。
長きに渡る眠りでさえも、夢を見なかったのに。
ここにきて、また夢を見るようになったか。
眠らぬ不死が夢を見るなどとおかしな話だが、最早慣れた。
しかしここはどこだろうか。
不死街の底だとは分かるが。
見渡せば、何やら明かりがある。あれは……祭壇か。
何やら禍々しさを感じる祭壇に、数々の蝋燭が建てられている。そしてそのすぐ横には。
「ほう。珍しいこともあるものじゃ。亡者の穴倉にまともな奴は落ちてくるとは。それとも貴公、そういうふりがうまいだけかね?」
一人の騎士がいた。
フランベルジェを担いだ老年の騎士。彼の言葉は、正直私の台詞だ。
「かもしれぬな。貴様こそ……まともな振りをして、何が望みだ?」
騎士の足元に散らばる、或いは積み上げられたもの。あれは骨だ。それも……椎骨。枷の、椎骨。
老騎士はつぎはぎだらけの兜の中で、少しだけ瞳を細めた。
「ほう……そうかそうか、そうだろうな。狂人も皆、そう言うものじゃよ」
「狂人。自らを狂っていると自覚している狂人など、ありはしない。それは狂おうとしているだけだ。そんなに人の形に拘るか、積む者よ」
「まるで、貴公は狂っているかのような言い振りよの……良い、良い。貴公こそ人の形に拘るのではないか?」
「知ったようなことを」
飄々とした狂人に苛立つ。
こういう輩には何を言っても無駄だ。こちらが疲れるだけなのだから。
「貴公も家族となるか?」
「否。私の家族はもういない」
「積めば、誰もが家族となる。狂うとは、そういうことだ」
「ならば、やはり私は狂っていない」
帰還の骨片を砕く。
最早この場所に何もなし。このまま話せば、そのうち殺し合いが起こる。
その騎士を見送り、私は去る。手にした懐かしい盾を見て、少しばかりセンチになりながら。
太陽の騎士。
それは、いつの世にも伝わる伝承。
彼等は弱き者、そして同盟者の危機に現れ、共に戦い、そしてメダルを渡し去っていく。
不死は、一人ではないのだと。
世界が異なっても、同志はいるのだと鼓舞するように。
「ソラール。貴公の努力、無駄ではなかったな」
不死街の室内、そこにひっそりと儲けられた祭壇を見て私はどこかにいるかも知れぬ友人へと呟く。
あの頃のように祭壇は崩れ、奉っていた者の石像は足しか残っていないが。
けれど、しっかりと手入れはされていて。
ドラングレイグにも、彼ら太陽の戦士はいた。不死の味方であり続けた。
そして今、この時代でさえ。彼等は戦っている。
私は太陽の戦士ではない。むしろかつては敵であった。
だが、その在り方は少しだけ羨ましく思う。
互いを思いやり、戦い、励まし。
嗚呼、懐かしい。
ルカティエル。君と、かつてあの土地を駆け巡った時の如く。
「人の感傷中にさえも、邪魔は入るものだな」
何者かが侵入してくる。
それは、闇霊。
否、狂人。
不死街の通路を駆け巡る者がいる。
殺せ殺せと、家族を増やせと。
耳に、脳に、その声が入ってくる。
啓示のようで、もっと悍ましいその声は、いつからだろう。聞こえている何かの声。
でも、その声は事実。
太陽の祭壇にやってきた闇霊は、狂っている。
敵も味方も須く殺し、家族となる。積み上げる。
「やはり、狂っているか」
その闇霊は、先程の老騎士。
私の椎骨を狙いにきた、狂った闇霊。
血走った目で、フォドリックはフランベルジュを振り上げる。
大剣のそれは長身で、かつ波打つ様な刃が特徴的だ。その刀身は傷を広げるのに適しており、食らえば出血を強いられる。
それを、弾く。
短いロングソードで完璧に弾けば、それに怯まず連続して振るってくる。
「狂人とは面倒だな」
太刀筋からかなりの練度であると見て取れる。
沢山不死を殺して来たのだろう。
ならば、その
連続攻撃を全て弾く。
弾く中で、蹴りで反撃して体幹の崩れを狙う。
そして奴が突きを繰り出した瞬間、いつものようにそれを踏み付けて無効化する。
「っ!」
だがフォドリックは無理矢理フランベルジェを抜いてそのまま回転、大振りの一撃を繰り出してきた。
片足で体勢が崩れた私にそれを避けることなどできない。
花弁が舞う。
私にフランベルジェの刀身が当たった瞬間。
私の身体は白百合の花弁へと変わる。
フォドリックの血走った目が、驚きに染まる。
「霧鴉。最早、鴉の要素などどこにもないがな」
名付けるならば、百合舞踏。
花弁から実体へと変わると、そのまま左手の呪術で大発火を見舞う。
狂っていようとこの発火には耐えられまい。フォドリックは大きく仰け反りすっ飛んで家具を破壊し壁に激突する。
「馬鹿弟子達でさえ、最後はこの技を見切って見せたぞ。所詮は狂人、その程度か」
立ち上がるフォドリックに冷めた言葉を投げ掛ける。
すると彼は左手に呪術を繰り出し、何かを唱える。
それは、ある種懐かしい呪術だ。
ぬくもりの火。ドラングレイグで見出された呪術。まさかこんな所で見るとは。
浮遊する暖かな光は、周囲の者をゆっくりと癒していく。面倒な呪術だ。
「ならば、即死ね」
それすらも飲み込む炎を、貴様に。
繰り出すは、混沌。
歪な命を産み、全てを滅ぼす禁じられた炎。
「混沌の嵐」
呪術の炎を床に打ち付ければ、私の周囲に溶岩が吹き荒れる。
それは周辺の建物や亡者すらも巻き込み、もちろんフォドリックすらも殺していく。
貴様の言った通りかもしれぬ。
長く生き、しかしそんな私は、もう狂っているのかもしれない。
友が築いた、太陽の祭壇すらも溶かしてしまう私の
ダークソウル3のリリィは
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暗い方が良い
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暗くても多少明るい方が良い