暗い魂の乙女   作:Ciels

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生贄の森、アストラのアンリ

 

 

 数多の時代を生きてきた。

 数えきれない興亡を目にしてきた。

 沢山の人の生き死にを見て、考えてきた。

 

 そして得た答えとは。人とは真、学ばぬ生き物であるということだ。

 富に溢れれば堕落し、貧すれば他人を殺して略奪する。

 病が流行れば衰退し、過ぎ去ればそれを忘れていつかぶり返すその時にまた数を減らしていく。

 

 闘争と疾病。

 人はこの螺旋から逃れることはできない。

 歴史とは、まさに過ちの重ね塗り。

 真っ白なキャンバスもいつかは顔料により濁ってしまう。どす黒く、なにも見えぬほどに。

 

 一度、人は。世界は燃やすべきなのかもしれない。

 或いは火すらも届かぬほどに沈めてしまえば良い。

 

 人は過ちを繰り返すのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました、灰の英雄様」

 

 祭祀場にある隠れ場で、不死街において仕えさせることにしたヨエルが私を歓迎した。

 私は少しソワソワした様子で彼に本題を尋ねる。

 

「それで……ロンドールの若く麗しい少女はいつ来るのかね?」

 

 人は過ちを繰り返す。

 それは私も同じことだ。美少女に釣られる古い闇姫。

 だがヨエルは少し困ったような顔を覗かせて言う。

 

「その……ロンドールからこの祭祀場までは距離があります故……どうかもうしばらくお待ちいただけますと……」

「そうか……」

 

 ガックリと肩を落とす。

 代わりにと言わんばかりにヨエルはとある提案をする。

 

「ダークリングを刻むものは、誰しも力を秘めているものですぞ……」

「……ああ、暗い穴のことか?」

 

 怪しく笑うヨエルに、私は尋ねる。

 ドラングレイグの旅の後、色々と学問などに励んでいたためか闇の穴のことはもう知っていた。

 ダークリングを刻まれた不死。その身に抱く穴の闇を深めることにより、力を得られる……だがそれは、亡者により近くなる事に繋がる。

 

「ご存じで?」

「ああ。だが、闇の穴を開けるつもりはない。そも、私は開けられないんだ」

 

 それは紛れもない事実だった。

 ドラングレイグでの旅以降、私は死んでも亡者になることが無い。それはまるで、不死として落第したかのようである。けれど、こうとも取ることができた。

 私と言う長く古い存在は、既に不死として完結してしまっているのだと。

 

「そうですか……ですが、貴女から溢れる闇はどんなものよりも色濃く、深いものです。ならば暗い穴も必要がないのでしょう」

 

 

 

 

 

 ヨエルとの会話を終え、私は祭祀場の篝火の傍で呆然とその炎を眺めていた。

 篝火を挟んで反対側には火防女がおり、ただ静かに佇んでいる。

 火防女が何を思い、今の人生を選んでいるかなど自由だ。そこに私が口を挟む理由などありはしない。

 ただ、あまりにも喋らない彼女に少し不満がないわけでもない。

 アナスタシアは、打ち解ければ私を受け入れてくれた。

 シャナロットは、不思議ちゃんだった。最後まで百合には染まらなかった。

 二人とも、どうなったのだろうか。

 アナスタシアのその後を知る権利は私にはない。だが、聞くところによると彼女は一国を治める程に大きな宗教を開いたのだという。

 シャナロットは、今も得た自由をその手に放浪しているのだろうか。

 

「灰の御方、御用でしょうか」

 

 そんな事を考えていれば、火防女が真隣に立ち尽くしていた。深く考えてしまうと殺気以外を感じ取れなくなるのは悪い癖だ。

 見上げれば、火防女はきょとんと首を傾げている。

 

「何か……?」

 

 思わず彼女の暴力的なボディに見惚れてしまう。

 前にも語ったが、ピッタリとした衣服はなんというか、色んな欲を掻き立てる。

 ていうかこのデザインをした奴、分かってるじゃ無いか。うーむ、実に良い。素足なのも分かっている。

 

 ふと、私の手が彼女の剥き出しの足先に伸びる。

 

「ん……灰の御方?」

「寒くないか。いくら篝火があるとはいえ、ロスリック近辺の気候は肌に堪えるだろう」

 

 さする。

 さすって、撫でる。

 

「いえ……でも、なんだか暖かいです」

「そうだろう……ふふ」

 

 嗚呼、玉座に座りながらニヤつくルドレスや唖然としている心折れた騎士さえいなければ口説いているのに。

 

 

 

 

 

 

 

「貴様最低だな」

 

 本を閉じ、目の前で真っ赤になっている白百合の騎士を軽蔑した目で見る。

 だが分かるよ。百合とは甘いものだ。だからこそ恐ろしい軽蔑が必要なのだ。

 

「貴様ァ……」

 

 白百合の騎士は今にも斬りかかりそうな狂気的な表情を朱に染めた。

 けれど、工房の……特にこのティータイム中に剣を抜く事はいくら上位者であろうと許されない。

 私も彼女を止めるために、テーブルの下で膝の上に置いた手に銃を握り締める。

 

「騎士様。騎士様は、人肌が好きなのですか?」

 

 だが、そんな火薬庫のような現状を打破する言葉が人形から投げかけられる。

 人形は騎士の手を取ると、自らの頬に当てた。

 

「どうでしょう。私は人形ですが……暖かいですか?」

 

 惚けたような表情をして頷く白百合の騎士。

 白く長い睫毛が艶やかに光る。

 

「嗚呼……良い、良い。君の肌こそ、私が求めていたものだ」

「ねぇ人形ちゃん! 私! 私は!?」

 

 まるで浮気された者のように私は人形の服の袖を引いて縋る。

 

「お前はなめくじとよろしくやっていろ」

「貴様ァ! 神秘を愚弄するかァ!」

 

 勝ち誇った顔をして人形の頬をさする騎士と激昂する私。

 それはともかくとして、話を進めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 火防女との触れ合いは良きものだ。

 イリーナは……なんだかイーゴンが遠目に護っているために近づきづらい。あいつめ、そんなに好きならさっさと彼女を攫ったら良いものを。ぐずぐずしていると私が攫うぞ。

 若者達のボーイミーツガールに興味はさほどないが、これも長い不死人生での思い出と考えてとりあえず不死街の先を進む。

 不気味な暗さと偽りの太陽の明るさ。それらがミスマッチしたその道は、不死街に隣接するだけあってまともではない。

 

 

 

生贄の道

 

 

 ここは虐げられた亜人達の逃げ場所なのだろうか。

 あちらこちらにいる亜人達は、私を見るや否や襲いかかってくる。

 まともな理性などないはずなのに、時折語り部らしい亜人の話を熱心に聞く様は人と変わらない。

 神共の誇張された奇跡を盲信し、異教徒へ敵意を向けるというのは知的生物の共通点のようだ。

 

 そしてそういう場所には、大概彼女の意志を継いだ者がいる。

 

「肉断ち包丁に狂った女。何事も歴史は繰り返す」

 

 狂女イザベラ。

 脳の中の何かが、目の前にいる不死の名を告げてくる。

 生贄の道半ば、それは突如現れた。

 肉断ち包丁を手に携え、身に纏うはボロ切れ。

 いつか病み村で出会った人食いミルドレッド。彼女を彷彿とさせる姿だ。

 

「だが……貴様に私の愛は届かないだろう」

 

 愛を享受するには、彼女は狂い過ぎている。

 (ソウル)が摩耗し過ぎている。

 振るわれる大きな包丁を弾く。何度も叩きつけるように包丁を薙ぎ払うイザベラは、しかし懲りることはない。

 

「あの時は魔術で倒したのだったか。今となっては、使う集中力も勿体無い」

 

 振るわれる包丁を、完璧なタイミングで弾けば彼女は体勢を崩した。

 だがそれでもがむしゃらに彼女は包丁を突き刺そうとしてくる。

 それを、淡々と踏み付けて無力化する。そのまま刃の上で跳躍すると、回転し蹴り付ける。

 

 ドンっと蹴られた彼女はそのまま脇の谷底へと落ちていく。

 

「あの頃の私ならともかく、今の私からすれば貴様など斬りつけるだけ無駄なのだ。理性さえ失っていなければ愛してやったものを」

 

 流れ込んでくる僅かな(ソウル)を奪い、剣を納める。今の時代、まともな人間は少ない。どれもこれも、尽き掛けるような火をあてにした神と人間のせいだ。

 

 

 

 

 襲ってくる亜人達を斬り伏せ、先へと進む。

 ロスリックはドラングレイグとは違って陰気臭い場所が多い。観光気分にもなりやしない。

 ふと、生贄の道を進んでいると篝火が見えた。どうやら何かの遺跡の跡に誰かが篝火を焚いたのだろう。

 とにかく一旦休憩しよう。消耗はないが、陰気臭くて疲れる。

 

「む……」

 

 遺跡へ入る直前、気配に気がつく。

 (ソウル)を辿れば、それはどうやら不死のものであるようで。

 警戒し、遺跡へと入れば、彼らはいた。

 

 

「ああ、貴女は。初めまして」

「……」

 

 甲冑に身を包んだ騎士の二人組。

 一人は処刑人のような見た目。そして、今話しかけてきた少女は。

 

 

 

 時が止まる。音が消え、風は止み、舞い散る木の葉は落下を拒む。

 私はただ、挨拶をしてきた騎士を呆然と見詰めていた。

 

 

「まるで、いつかの自分を見ているかのようだ」

 

 

 まるで篝火のように燃え上がる上級騎士が背後から私の側を通り過ぎる。

 燃えていること以外は確かに、彼にそっくりだった。

 同じ甲冑。アストラの長剣。見た目は確かに奴の生き写し。けれどその(ソウル)は。

 否、その(ソウル)もまた、気高く清い、出会った頃のようなもの。

 

「アストラはとうに滅びた。けれど、使命をもった者は火のない灰として蘇る。僕が次の世代に紡いだ芽が、しっかりと芽吹いていることを目にすることができた。君のおかげでね」

「それは違う。お前はもう存在しない。彼女もまた、ただ姿が似ているだけだ」

 

 薪の王は時の止まった上級騎士の前まで歩めば、そっと彼女の腰の鞘に刺さる剣を撫でる。

 

「……彼女もまた、使命を背負っている。かつての僕らのように」

「だから、なんだというのだ」

 

 薪の王はこちらを見て、ただ口を開いた。

 

「君は人を助けずにいられない。ましてや乙女のこととなれば。さぁ、彼女の使命を聞くがよい」

「知ったような口を……」

 

 時が、動き出す。

 目の前の乙女が首を傾げていて、その横で壁に寄り掛かる無愛想な騎士が小さく唸り声をあげていた。

 

「……君は、アストラの出の者か」

 

 小さく尋ねれば、彼女は頷いた。

 

「はい、私はアストラのアンリ。おそらく貴女と同じ火のない灰です」

 

 結局、薪の王が言った通りになってしまった。

 彼女はアストラの出の者らしい。

 

「そして、隣の彼はホレイス。旅を共にする、私の友です」

「……」

 

 相変わらずホレイスという男は低く唸っているが、どうやら喋れないらしい。

 

「貴女も、薪の王を探しているのでしょう」

「……どうかな。やることもなく、ただふらついているだけかもしれんぞ」

 

 軽口を叩いて言ってみれば、アンリはクスッと笑った。

 

「別に邪魔をしようとしているわけではありません。私達も、薪の王を探しているのですから」

 

 そう言うと彼女は道の先を指差す。

 

「ここは生贄の森の半ば、ここを降りれば磔の森です」

「物騒な名前だ」

 

 どうやらこの先には湖を伴った森があるらしく、そこから二つの道に分岐するようだ。

 一つは深みの聖堂。そしてもう一つは、ファランの城塞。

 ファランの城塞は、薪の王であるファランの不死隊の故郷。そして深みの聖堂は……

 

「私たちは聖堂を。あの悍ましいエルドリッチの故郷を、目指しています」

「違う」

「え?」

 

 突然、私は言葉を否定した。

 

「エルドリッチの故郷は聖堂ではない。片田舎の修道院だ」

 

 脳裏に、少年達が浮かぶ。

 そして私が対峙するであろう残酷な運命に、神を呪った。呪って呪って、やめた。

 彼をそうしたのは、自分なのだから。呪うのであれば自分を呪うべきだ。

 

「……なんでもない。続けてくれ」

「……深くは聞きません。けれど、お互い王を探す身ならば、いつか交わる時が来るかもしれません。その時は、助け合えるといいですね」

 

 無垢な願いに、幻視した。

 まだ幼子のように若かったあの頃を。そして、あの頃に得た感情と、相棒を。

 けれど、その歴史を繰り返す事などしない。私は計画を変更して早々にその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女と少年達は、例の都を目指した。

 道中聞こえてくる羽振りの良い話。堕落した貴族達の話。よくある話を聞き流しながら、旅をする。

 その道半ばの森で彼女達はいつものように休止し、食事を囲む。

 例の都へ行くと決めてから、師である少女はとんと口を効かなくなった。出会った時のように口をつぐみ、食事に手も出さない。

 黙々と、気まずそうに少年達は食事をする。それが、ストレスであったことは言うまでもない。

 サリーはいつも持っている手彫りの人形を弄りながら、その貌を師へ向ける。

 

「なんでそんなに怒ってるんです」

 

 不意に、サリーが尋ねた。

 空の食器を手に、彼は直球に不満をぶつけたのだ。

 

「おいサリー……」

「エルは黙ってろ。答えてください、これじゃ飯が不味くてかなわない」

 

 本心は、きっと師を心配していたのだろう。

 だが心配し寄り添うには、あまりにも彼らは師のことを知らな過ぎた。

 知るには、彼女は長く生き過ぎた。

 

「……古い約束だ」

 

 数分して、ようやく師は口を開く。

 薪の炎に照らされる瞳が、少しばかりの潤みを持っていた。

 

「約束?」

 

 師は頷く。

 そして、淡々と語り出した。

 

「私の愛した人との、約束なんだ」

 

 それ以上は言わなかった。

 そして尋ねもできなかった。彼女に纏わりつく悲壮感がそうさせたのかもしれない。

 少年達はただ、薪を囲んだ。

 そして、もうすぐその都へと辿り着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほう、驚いたな。こんなところに訪問者とは」

 

 一人の魔術師が、一人の少女と対峙していた。

 ここは磔の森、その遺跡跡。

 崩れた建物と外の湖には亡者や異形の蟹共が魑魅魍魎と蠢いているが、その魔術師がいる二階部分には興味がないのか来ることはない。

 おまけにここには古い魔術の文献が山ほどあった。

 魔術とは識り、知る事。ならば魔術師がここで本を読まぬ理由はなく。

 彼は、ヴィンハイムのオーベックは、そんな魔術師ライフを堪能していた。

 

「それでお前、何用だ? 見ての通りここは俺の書斎でね、何も無ければ静かな読書に戻りたいのだよ」

「太陽の光は紙を傷める。そんな場所を書斎とするとは、魔術師の名が泣くぞ」

 

 オーベックは警戒した。

 杖は出していない。それに彼の装束は、通常のヴィンハイムの魔術師のそれとは異なる。

 故に、一撃で魔術師と看破した目の前の妖しげな少女が恐ろしい。得体が知れない。

 

「やめておけ。魔術でも剣でも、貴様では私には敵わん。魔術師は相手の力量を測るものだぞ」

「お前……何者だ?」

 

 そう尋ねれば、彼女は杖を取り出す。

 それは何の変哲もない魔術師の杖。

 

「魔術師の端くれだ」

 

 そう言って、空いた左手に炎を灯す。

 

「呪術師でもある」

 

 右手に持った杖を消し、聖鈴を取り出す。

 

「奇跡も扱える」

 

 最後に、炎の消えた左手で腰の鞘に手を掛けた。

 

「そして、戦士である」

 

 結局どれなんだと思いながらも、オーベックは彼女の出方を見る。

 魔術師の杖から読み取れた理力と、呪術の炎から感じた熱量、そして聖鈴から漏れ出た悍ましさから、只者ではないことはわかった。

 おまけに剣を取った手付き。剣を齧った者であれば分かる、彼女は剣士としても類稀なる強さなのだろう。

 

「貴様、ヴィンハイムの隠密だろう」

「……どうして分かる」

「私に魔術を教えてくれた人も隠密だった。もう死んだが」

 

 無表情な顔に、多少の悲しみが見て取れた。親しかったのだろうか。

 彼女は机に広げられた本を手に取ると、ペラペラと捲って中身を見た。

 

「おい、勝手に」

「貴様、シースの魔術に興味があるのか」

 

 その本を見て、少女はただ言った。

 古い文献だった。魔術の祖とされる伝説の白竜シースについて書かれたものだ。

 

「ふむ……貴様、案外理力が高い」

 

 少女は値踏みするように彼を見詰める。それが(ソウル)を覗かれているのだと分かるのに、時間は掛からなかった。

 

「探究心もある。野望もある。そして根性もある」

「なにを……」

 

 彼女は本を置き、杖を取り出す。

 

「貴様、私から魔術を学びたくはないか?」

「は?」

 

 意外な提案にオーベックは素っ頓狂な声を出した。

 少女は背後へと振り向くと、杖を翳す。

 

「白竜の息吹」

 

 突然、少女が魔術を唱える。

 すると杖からとんでもない量の理力と青白いブレスが放出され、床を穿ちながらそのまま壁へと走り、外の生い茂った木々さえも両断して空へと伸びた。

 そしてブレスは結晶化し、建物に爪痕を残す。

 それは紛れも無く伝説に残るシースの魔術。オーベックは年甲斐もなく興奮した。

 

「シースの魔術なら知っている。貴公、一端の魔術師になりたいのだろう。どうする?」

 

 その提案に、男はただ頷いた。

 突然できた師に、興奮して震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、アストラのアンリと沈黙の騎士ホレイスは苦戦していた。

 磔の森、その最深部。続く道は正しく深みの聖堂に繋がっている。けれど、そこを守るように強大な敵が立ち塞がった。

 

 

結晶の古老

 

 それは、ファランの不死隊の同盟者となった魔術師。

 年老いた魔女は、この地を護るように二人の前に立ち塞がったのだ。

 最初こそ、動きの遅い魔術師に善戦していた彼らだったが、傷を負わせた瞬間に分裂し、四方八方から魔術を放ってきたのだ。

 いくら二人でも、無数の魔術師相手には分が悪い。

 

「ホレイス、背中は任せましたよ!」

「……!」

 

 背中合わせで二人は自分達を取り囲む古老達と対峙する。

 不気味な笑みを浮かべながら杖を翳す古老達。

 奇跡は多少は使えるが、専門ではない。故に、魔術の達人である古老からすれば赤子の手を捻るが如く容易くねじ伏せられるだろう。

 

「どうすれば……!」

 

 万事休すとはこの事。アンリは思索する。

 

 

 

 

 

「ほう。兄弟弟子か。否、姉妹弟子と言うべきか」

 

 空から、そんな声がした。

 

 刹那、彼らの前に一人の乙女が舞い降りる。

 

 空から降って来た花びらのように。

 纏う深緑のマントを靡かせ。

 少女は、白百合は降り立つ。

 

「白百合のリリィ。乙女とその騎士に手を貸そう」

 

 結晶の森に、白い花弁が咲き乱れる。

 

 

 

 分裂する敵を相手にするのは初めてではない。

 三人羽織。かつてロードランで対峙した狂った者達もまた分裂した。

 だが共通していえるのは、分裂体はあくまで幻影のようなものだ。本体のようにタフネスも力もない。

 投げナイフを両手に持つ。

 五枚、十枚と、持てるだけ持つ。

 

「フンッ」

 

 踊るように回り、ナイフを無差別に投げまくる。もちろん二人には当てぬように。

 そして放たれたナイフは寸分違わず分裂体に突き刺さり、穿たれた幻影は消えていく。

 

「分身が消えた……!」

 

 ただ一人だけ、腕にナイフを突き刺され痛がる結晶の古老。それが本体だった。

 うぐぐ、と古老が悔しそうにしている。

 

「気をつけて、奴は魔術を……」

「知っている」

 

 杖を取り出し、構える。それを見て結晶の古老は不敵に笑った。きっと小馬鹿にしているのだろう。剣士が魔術などと。

 結晶の古老が杖を構え、理力を溜める。

 同時に私も理力を溜めた。きっと奴はとっておきを放ってくるに違いない。ならば、姉妹弟子として全力で迎え討とう。

 

「キエェエエイ!」

 

 結晶の古老が叫びながら魔術を放つ。

 それは白竜の息吹にも似た魔術。結晶化はしているけれど、その色は紫で、原点には遠く及ばない。否、オリジナリティを出し過ぎている。

 

(ソウル)の結晶奔流」

 

 故に、私は原点を突き詰める。

 杖が軋むほどに溜めた理力で、(ソウル)の奔流を放つ。

 それは流動的でありながら結晶化するほど。

 最早、原点であるシースの息吹と同等の威力を誇る、恐るべき魔術。

 

 結晶の古老の魔術と、私の魔術がぶつかり合う。

 それは爆ぜ、凄じい衝撃波を生む。

 

「わっ!」

「……」

 

 背後にいる二人が余波でよろめく。

 靡く私の銀髪がより一層煌めいた。

 

「弱い。弱すぎる。ガッカリしたぞ、姉妹弟子」

 

 かつてビッグハットから啓蒙された身として、目の前の古老はあまりにも弱過ぎた。

 古老の魔術は完全に私の奔流に敗れ去り、本人もその結晶の中に消えて行く。ただ虚しく、古老の(ソウル)だけが私に吸収されていった。

 

 奔流が消え去れば、古老は完全に消滅していて背後の岩壁や地面も大きく抉れている。残るのは結晶だけだった。

 

「師の下で学び直せ」

 

 

━━HEIR OF FIRE DESTORYED━━

 

 魔術師の杖を(ソウル)へ収納すれば、マントを翻しつつも振り返る。ぽかんとした様子で立ち尽くす二人。

 

「すごい……」

「……」

 

 少女に褒められ承認欲求が昂まった。少女にはもっと褒めてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソウルの結晶奔流

 凄まじいソウルの奔流を放つ。

 ロスリックと大書庫のはじまりにおいて、最初の賢者が扱ったとされる魔術。

 火継ぎの懐疑者である最初の賢者は、ひたすらに強さを求めた。

 愛すべき人を護るために。けれど頂点に至った時、護るべき者は去っていた。

 

 

 

 

 

 

ダークソウル3のリリィは

  • 暗い方が良い
  • 暗くても多少明るい方が良い
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