暗い魂の乙女   作:Ciels

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ファランの城塞、監視者

 

 

 

 木漏れ日に照らされた青年は、いつものように聖書を読み思考に耽る。

 神が嫌いな私が、そんなもの読んでどうするのだと問えば。高い感受性を持つ彼はただ言うのだ。

 いつか、今とは違う形態の信仰を説いて、皆でわかり合いたいのだと。

 夢物語だと、彼は自分で言っていた。そして私も、そう思うが。

 その心は、捨てるなよと。私は彼に助言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 点字が刻まれた聖書を手にする。これは先程、深みの聖堂内部で拾ったものだ。

 中には文字の代わりに、盲目であろうと読める点字で神々の物語が綴られており、それ自体は珍しいものではない。聖職者の中には身体が不自由な人間だっているものだ。かつて聖職者であった私もまた、それを読むことができる。

 

 だが、その中身は。

 とても私の教え子が綴ったものとは思えないものだった。

 

「どうかされたのですか?」

 

 不意に、私の横にいたアンリが尋ねてくる。

 聖書を閉じ、それを(ソウル)へと格納すれば私は首を横に振った。

 ジークバルトを助けた後、私達は聖堂内の小教会にある篝火で休止していた。

 パッチは反省して祭祀場に戻ると言っていたが、あの男がそう易々と反省するならば苦労しない。

 

 パッチが守っていたあの一本橋の先に何があるのかは、一先ず置いて今はエルドリッチがいるであろう場所へと向かうのが先決だ。パッチの一件で時間を潰し過ぎたし、アンリ達は宝物には興味がないらしい。

 

「休憩はもう十分だろう。先を急ごう」

「ええ、そうですね」

 

 篝火から離れると、私は古い記憶に眠る弟子であった聖職者のことを思い出していた。やはり、彼は歪んでしまったのだ。

 しかし、点字聖書を見つけた時はイリーナに良い土産ができたものだと喜んでいたのだが。まさか深淵関連の聖書とは思わなんだ。

 

 泥の間を抜けて聖堂の最深部へと向かう。

 道中、エルドリッチを信奉する僧侶達が邪魔をしてきたが、アンリ達と撃退する。

 彼女達だけでは険しい道のりだったかもしれないが、私にとって大した問題にはならない。

 例え複数来られようとも、一人ずつ相手をして討ち倒すだけなのだから。

 

 奥へ奥へと進めば、濃霧を見つけた。この先に何らかの力を持った者がいるのだろう。

 

「この先に、エルドリッチが……」

 

 息を呑むアンリ。

 

「いや。奴の気配ではない。ここにはいないだろう……何かはあるようだが」

 

 これは直感ではない。明確に、エルドリッチの(ソウル)ではないのだ。私の(ソウル)がそう告げている。

 (ソウル)とは、例え大きくなろうとも本質は変わらぬものだ。悍ましくなろうとも、気高くなろうとも。それは変わらない。

 だが、大きな(ソウル)の中に、懐かしい何かを感じた。それを確認せずに立ち去れはしない。

 

 私を先頭に、濃霧を潜る。

 すると、そこは巨大な円形の墓場だった。

 大きな棺桶が中心部にあり、その周辺に奴を信奉する聖職者達が沢山いる。

 

 

 否。この聖職者たちは、元はこの場を封印していたのだろう。

 けれど、そのどれもがエルドリッチから溢れ出すおぞみに飲まれ、信奉者と化してしまったのだ。

 本質を理解しないまま、彼らは深淵に触れてしまった。恐れを抱くこともなく。

 

 

 

深みの主教たち

 

 

 

 私達の存在に気が付いた主教たちは、揃ってこちらを指差せばゆっくりと近づいて来る。

 

「来ます! ホレイス!」

 

 アンリが叫び、二人が構える。

 私はただ鞘に納めたロングソードに手を掛けると、彼らの戦いを見守った。

 不死は如何に強くとも数の暴力には弱い。

 だがそれ故に不死は一対多を強いられることも多い。

 ならば、これは彼らにとって試練だ。

 ただ(ソウル)を鍛えても得られぬ境地がある。

 

「気をつけて! 呪術を使ってきます!」

 

 主教たちの数人は火球を放ってくるようで、いくつかは私目掛けて飛んできている。

 生憎そんなものに当たるほど初心者ではない。ひらりと身をかわしてそれらを避ければ、しかしアンリ達は大苦戦していた。

 

「くっ……数が多すぎる……!」

「……!」

 

 私と薪の王もかつてはこうだったのだろうか。

 今にして思えば、鐘のガーゴイルに苦戦していた。

 仕方ない、少しは手を貸すとしよう。

 

「アンリ、ホレイス。離れなさい」

 

 二人に忠告し、跳躍する。

 群がる主教たちの中心に降り立てば、近くに居た主教の一人をロングソードで突き刺す。そして突き刺したまま、思い切り周りへと振り回す。

 

「フンっ!」

 

 振り子のように振り回される主教の亡骸。それに当たって周辺の主教たちが吹っ飛んでいく。

 ロングソードを死体から引き抜き、少しだけ跳躍する。

 

「渦雲渡り」

 

 それは刃の暴風。

 宙に浮きながら、二回、三回と剣を振るう。

 だがそれは見かけだけの刃。真に恐れるのは、見えぬ刃だ。

 私が振るった以上の刃が真空となって周囲に無差別に振るわれる。

 千切れ飛んで行く主教たち。たった一つの奥義で弱い主教たちは半数近く死んでいく。

 

「すごい……剣の腕も、私達とは別格だ……!」

 

 それをアンリとホレイスは見ていた。

 私の戦いはそもそも団体戦に向いていない。

 一人、孤独に戦い続けてきた者の戦い方だ。

 

 剣を振り終え、納刀するとアンリ達に告げる。

 

「あとは任せるぞ」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝になって、少女と青年達はその街を離れようとした。

 けれど悲劇は、彼女達を離さなかった。

 街の中心、王宮から突如として漏れ出した炎と溶岩は、容易に街を飲み込んで行ったのだ。

 そして、青年達は混沌を知る。

 始まりの火の、歪んだ形を知る。

 その悍ましさを。そして力を。暖かさを。

 

 嗚呼、きっとその時に違えてしまったのだろう。

 きっとその時、彼らの心に暗い欲望を植え付けてしまったのだろう。

 

 都の外れから、三人はその惨状をただ眺めていた。

 

「よく見ておけ。あれが欲に駆られた者の末路だ」

 

 少女が言うまでもなく、二人はその光景をただ眺めていた。

 溶岩から生み出された異形を、飲み込まれ死に絶える人々を、眺めていた。

 かつてのイザリスと何も変わらぬ。

 人は驕り、かつての大罪を再現し。

 異なるのは、その溶岩が人間性を含んだだけ。

 

 二人は、どう思ったのだろう。

 少女は、何を考えたのだろう。

 それは遥か昔の話。もう、今は都の名すら残っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現実に戻る。

 脳裏に浮かぶあの頃の思い出を振り払う。

 気が付けば、主教のボスのような奴が取り巻き達と共にアンリ達と戦っている。

 その生命は澱みによって繋がり、きっとボスを倒せば連動して周りの主教達も息絶えるだろう。

 不意に、そのボスが錫杖と腕を掲げた。同じように取り巻き達も両腕を掲げ始める。

 

「呪いか。面倒な」

 

 呟くのは呪詛。深みとは、呪いそのものだ。

 呪詛を完成させれば、二人はおろか私ですら巻き込まれるだろう。

 魔術師の杖を取り出す。呪われる前にもう滅するべきだろう。

 

「降り注ぐ結晶」

 

 空中に結晶の球体を生み出す。

 それは主教達の頭上へと向かうと、地上へ結晶化した(ソウル)を無数に降り注いだ。

 雨のように放たれる(ソウル)になす術なく斃れる主教達。それはボスの主教も例外ではなかった。

 魔術の範囲外にいたアンリ達は、ただその光景を呆然と眺めていた。

 

「なんでもありだぁ……」

 

 そこまで至るまでに、何百と死んでいる。故に今がある。

 ミイラ取りがミイラになった哀れな主教達は、それで消え去った。

 

 

 

━━HEIR OF FIRE DESTORYED━━

 

 

 

「エルドリッチは……いませんね」

 

 空になった大きな棺桶を見て、アンリは呟いた。

 あるのは、見知った人形のみだ。

 私はそれを拾うと、そっと(ソウル)へとしまい込む。

 

「これからどうする?」

 

 そうアンリに尋ねれば、彼女は言う。

 

「一度、祭祀場へと戻ります。リリィさんは?」

「……ファランの城塞へと向かう」

 

 あの場所は、心当たりがある故に。

 懐かしい、神話の時代の思い出が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 処刑人の片方を屠る。

 なんて事はない、攻撃の合間に攻め込んで不死斬りをお見舞いしただけだ。

 大曲剣持ちを殺すと、大きなクラブを持った処刑人が迫る。横に振るわれるクラブをスライディングで掻い潜ると、すれ違いざまに脚を斬りつける。

 前のめりに転がる処刑人。私は立ち上がり、すぐに処刑人の背中にロングソードを突き刺す。

 そしてそのまま、頭部方向へと斬り裂く。

 身体を中心から裂かれた処刑人は言葉を残すこともなく死んで霧散する。

 

「アンリ達には荷が重いな」

 

 あの子達ならば良くて苦戦、悪ければ死んでいただろう。剣を鞘に納め、先へと進む。

 

 ここは生贄の道、ファランの城砦方向。

 処刑人が二人ほど守っていたため、やむなく戦闘し今に至る。

 先へ進もうとして、ふと懐かしい奴がいる事に気がつく。

 

「……随分と久しぶりに見たものだ」

 

 ファランの城塞手前、そこに何かを守るように徘徊する黒騎士がいた。ロードラン振りだろうか。

 グウィンの名残りが消えて久しいが、ここは王達の故郷が流れ着くロスリック。ならば最初の薪の王であるグウィンに近しい者達もここへ辿り着くというもの。

 とりあえず、すぐに黒騎士を殺して彼が守っていた種火を拾うと城砦へと急いだ。

 

 しかしまぁ……事前に心折れた脱走者、ホークウッドが言っていた通りの場所だ。

 ファランの城砦は、辿り着くまでに森があり。今や森は毒に塗れている。

 人間性の毒……変質した人間性。これでまだつい最近変質したというのだから、なんと悍ましいことか。

 

 ファランの城塞には異形が渦巻いていた。

 そのほとんどは亜人だが、どれも毒で狂っている。

 おまけに巨大な亜人もいて探索には時間を要するものだ。

 

 だが、収穫もあった。

 この城砦の正体だ。

 

 私が感じていた心当たり。

 それは、この地が元々は黒い森の庭であったということ。

 かつてはただ薄暗く深淵に近いだけの森であった土地は、いつしか毒まみれの哀れな場所へと変貌し。名すらも取り上げられた。

 

 そしてそうなれば、悲劇も起きる。

 

 

 

 

 目の前に横たわる亡骸。

 一見すると巨大なキノコのようなそれは、確かに彼女である。

 聖女エリザベス。

 既にこの時代、彼女の正確な姿は伝わっていない。

 ウーラシール亡き後、彼女は病める人々のために尽くし、そして伝説となった。

 美しい人として。だがその美しさは、心ではなく美貌として。

 

「お疲れ様、エリザベス。ゆっくりと眠りなさい」

 

 彼女の開いたままの瞼を閉ざすと、そう投げかける。

 彼女がいると言うことは、そう言う事だろう。

 もう一人、いなくてはならない人がいる。

 

 

 

 

 

 彼女を見つけた瞬間。時間が、止まる。

 見覚えのある純白のドレスは泥に塗れ。儚い美貌は土塊のように腐り、最早人であったかも分からぬほど。

 けれど、それは確かにウーラシールの宵闇だった。

 かつて私たちが深淵の主から救い出した、御伽話の王女様だった。

 

 薪の王は、ただ立ち尽くしていた。

 呆然と、何もする事なく、亡骸を眺めていた。

 かつて彼を想った少女の最期は、どんなものだったのだろう。せめて苦しまずに死ねたのだろうか。

 

 私は彼女の額を撫で、その胸に抱くスクロールを取ると問う。

 

「貴様は、彼女の想いに答えたのか? 彼女の想いに決着をつけてやったのか?」

 

 彼は答えなかった。

 それが、答えだ。

 

「後悔は既に過ぎ去り。最早触れられもしない貴様が。今更何を思う。それが答えだ」

 

 隣を過ぎ去り、奴を置いていく。

 死人に後悔など意味がない。

 火を継ぎ、最早私にしか見えぬ此奴にそんな価値などありはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファランには試練がある。

 城塞内の祭壇に火を灯すことだ。

 道中は毒に塗れ、異形が蠢いているがさして苦でもない。そんな場所が多過ぎてもうどうでもいい。

 祭壇の全てに火を灯し、開かれた門を潜る。

 

 しかしまさかこの城塞にデーモンがいるとは思わなかった。 

 探索中に見つけた上層に、はぐれたであろうデーモンがいたのだ。きっと行き場をなくしロスリックに門番として拾われたのだろうが、薪の王達の故郷が流れつき高壁が生じた今、奴に仕事はないらしく途方に暮れていた。

 襲ってきたので倒してしまったが、なんだか後味が悪い。

 

 とにかく、毒地帯から解放されたので深淵の監視者という薪の王がいる場所へと向かう。

 しかし、その道中見たくもない者達が異形と戦いを繰り広げていた。

 

「ダークレイス。まだ、いややはり存在していたか」

 

 異形どもと戦いを繰り広げる二人のダークレイス。

 なんだか昔に比べて鎧がくたびれているが、確かに深淵に飲まれたものの末裔だ。

 あれがまだいるということは、あの世界蛇もどこかで暗躍しているのだろう。面倒な。最早奴が思い描く闇の時代などありはしないというのに。

 

 ダークレイスが二人いようと変わらぬ。

 剣で私に敵うものなど、果たしてこの世界にいるのだろうか。慢心ではなく本心で。

 

 さて、ようやく城塞を抜けて何かの建物へと辿り着く。

 中からは剣技の音が響いている……ここに深淵の監視者がいるのだろうか。

 

 中へと入り、目を開けば。

 

 そこは、戦場。

 

 短剣と大剣を手にした者達が、ひたすら互いに殺し合っている。

 あれが、深淵の監視者。確かに(ソウル)は大きいが、一人一人が薪の王足りえるものではない。

 なるほど、複数の者が合わさって王の資格を得たか。というかそんなのが許されるのか。最早なんでもありだ。

 

 死体の山の中、一人だけが残る。

 なるほど。深淵を覗くあまり狂気にやられたのだろう。今や深淵の監視者は、深淵に飲まれたものと使命を果たすものとで殺し合っているということだ。

 悲劇としか言いようがない。

 

「さて。貴様は、楽しませてくれるのだろう」

 

 剣の鞘に手をかける。同時に、一人残った深淵の監視者がこちらに剣を向けた。

 左手の短剣をクロスさせる独特な構え。トリッキーなタイプだろう。

 

 

 

深淵の監視者

 

 

 瞬間、深淵の監視者が動く。

 とてつもない速度で迫り、ローリングしながら大剣を叩きつけてくる。

 それを、剣で弾く。弾いて、監視者を蹴飛ばす。私は舌打ちした。

 

「ちっ。深淵とは実に面倒だな」

 

 手にした剣を背に翳せば、背後からの一撃を防ぐ。咄嗟に後ろ蹴りで突然の襲撃者を追い払う。

 どうやら、死体の山から深淵によって復活してくる監視者がいるようだ。どうにも狂っているようで、目は赤く煌めき、所構わず攻撃している。他に復活した監視者にも剣を向けているあたり、どうしようもないな。

 

 だが王としての主導権は最初に戦っていた監視者に宿っているらしく、蹴り飛ばした者の(ソウル)は一際大きい。

 奴は立ち上がると、一気に跳躍。剣を振り下ろしてくる。

 

「その剣技……」

 

 加速してステップして回避し、連続して振るわれる独特な剣技を弾く。

 どうにも動きがアルトリウスに似ている。奴ほど強烈でもなければ獰猛ではないが、確かに深淵の監視者はアルトリウスの流派を組んでいるのだろう。

 なるほど、深淵の監視者とはそういうことか。

 

 監視者が左手の短剣を石畳に突き付ける。するとそれを基点に、まるで回るように剣を振ってきた。

 

「ほう……良い技だ」

 

 何度もそれを繰り返し、とどめと言わんばかりに叩きつけ。だが見切りやすい。

 大きな技というものは、それだけで危険なものだ。

 お互いに。もう、見極めてしまった。

 

 再度監視者が石畳に短剣を突き刺し、回る。

 それに合わせて、片脚を大きく振り上げた。

 

 そして大剣を、タイミングよく踏みつける。

 見極めの極意。

 動きを止められた監視者に、次の手はない。

 

「奥義、不死斬り」

 

 左手をロングソードに這わせ、私の血を持って不死を斬る。ドス黒い一閃が監視者を斬り裂いた。

 血を噴き出し、斃れる監視者。同時に、所構わず斬りかかっていた深淵に飲まれた者達も死に絶えた。

 

「弱い。まさかこれで終わりではあるまいな」

 

 血をぬぐい、目の前の亡骸に投げ掛ける。

 すると、すぐに変化は起こる。

 辺りに転がる死体から、血が伸びていく。

 それは私が斬り捨てた監視者へと流れつき、輸血する。

 

 燃える、燃える、燃え滾る。

 

 薪に火が灯され、王を戴く。

 

「その炎が、憎い」

 

 本心が出でる。

 私と彼女を引き裂いた、憎き炎。

 けれど、不死の拠り所たる炎。

 

 仲間の身体を薪とし、燃える監視者が起き上がる。

 薪の王として、再度の覚醒。戦いはまだ終わっていなかった。

 

「気に入らない。奴の遺した炎を預かり、私の前に立ち塞がる。貴様らも、分かっているのだろう? この偽りの火継ぎを」

 

 内側から、闘争心が燃え上がる。

 そしてそれは、(ソウル)を介し身を焦がす。

 暖かくも、忌々しい。瞳が奴らを睨み付ける。

 

 

 

EMBER RESTORED

 

 

 互いに、爆ぜる。

 爆ぜて、剣を交える。

 高速の突き刺しを、踏み付けて無力化する。

 同時に深淵の監視者は身を翻して左手の短剣でカウンターを狙ってくる。

 

「少しは知恵が回るようだ」

 

 身を引き、一度仕切り直し。

 だが爆発するかの如き薪の王は止まらぬ。

 

「身を弁えよ。闇の王の前に、平伏せ」

 

 瞬間的に構える。

 それは奥義。

 

「竜閃」

 

 頭身に宿る風を解き放つ。

 刃は、飛ぶ。

 人はそれを知らぬだけ。

 虚空を斬ったはずの剣は、しかし見えぬ刃となって監視者を襲う。

 

一心(One Mind)

 

 音を超えた速度で剣を振るい、鞘へと納める。

 刹那、監視者が無数の斬撃に斬り裂かれる。

 

「かつて来たりし者である私に。若造が敵うとでも思ったのか」

 

 加速しふらつく監視者を左腕で捉える。

 そして、その胸に剣を突き刺した。

 

 飛び散る狼血。

 深淵歩きの遺志は、そこで潰える。

 

 剣を引き抜き、血を拭えば納刀する。

 

 

 

LORD OF CINDER FALLEN

 

 

「哀れだな。王となり、希望を持ち。そして裏切られるとは」

 

 彼らもまた、神々の嘘の被害者である。

 私はただ、言い捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その女剣士は、祭祀場の隅に斃れた同胞を見て静かに弔った。

 生前のヨエルは敬虔なロンドールの信徒だった。故に、その死は嘆きに値する。

 

 だが悪いことばかりではない。彼が従事していた火のない灰は、曰く王の素質を持つということ。むしろ王だと、文書で断定するように言ってきた。

 仮面を被る女剣士……ロンドールのユリアには分からぬが、彼が言うならばそうなのだろう。であれば、彼の死は無駄ではない。

 

「どのような輩が王となるか……見極めねばならん。カァス、貴方の遺志を継ぐために……」

 

 暗い欲望が彼女を満たす。

 謀略が、彼女を巡る。ロンドールの黒教会、その創始者たる三姉妹の彼女が……

 

 

 

「あの世界蛇がどうかしたのか」

「ひゃんッ!?」

 

 突然、背後から背中を触られた。

 急いで振り返り、腰に下げた秘剣を抜こうとすれば。

 そこには、その刀はない。

 背中を触ってきたその者が、ユリアの刀を手にして訝しむような目で見つめていた。

 

「闇朧……貴公が持っていたのか。探したんだぞ」

 

 見えぬはずの刀身が、まるで喜ぶが如く怪しく光る。

 

「き、貴公! 何者だ!」

「こちらの台詞……と、言いたいが。君が、ヨエルが寄越したロンドールのハーレム要い、ン゛ンッ! 失礼、ロンドールの友か」

 

 それは、灰のように白い長髪の少女だった。

 長い睫毛までも白く、けれどその翡翠の瞳から感じる深淵は、ロンドールでさえも見られぬほどに澱みに満ちている。

 ユリアは察した。

 この少女こそ、ヨエルの主。そして、王たる器を持つ火のない灰。

 

 そして、その者がロンドールの伝説に綴られた古い闇姫。

 

「私はリリィ、闇姫とは呼ぶなよ。君の名を聞こう」

 

 ユリアは一目惚れした。

 幼い頃から憧れた闇姫に。

ダークソウル3のリリィは

  • 暗い方が良い
  • 暗くても多少明るい方が良い
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