暗い魂の乙女   作:Ciels

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メリークリスマス、ミスターローレンス


祭祀場、百合園

 

 

 

 玉座に、「薪」を置く。

 

 それは首。深淵の監視者たる、薪の王の首を、玉座へと置く。

 薪とは、つまりそういうことなのだ。燃え尽きる事すら許されなかった彼らは、死してなおその身体を、(ソウル)を薪として供される。

 神の偽りの儀式のために。死に行く世界のために。燻る篝火のために。

 哀れな最期。これが王たる者たちの、絶望の先。

 

「王を玉座に連れ戻すとは、そういうことなのか……ハハハ、ハハハハハ……」

 

 その光景を見て、脱走者ホーグウッドが唖然としたように笑った。

 乾いた笑いは奴の皮肉的な物言いを強調させている。むしろそれは、ある種の自己防衛。自らが焦がれ、そして逃げ出した使命を否定するための攻撃。

 だが、それこそ人らしい。人は逃げたくなるものなのだから。

 

「お前には礼をしなくてはな……ほら」

 

 そう言って、彼は一つの指輪を投げてくる。

 それは、ファランがファランたるための指輪。彼らの剣技を支えたものだ。

 

「あいつらは死に場所を探していただろうからな……哀れな事だよ……ハッハッハ……」

 

 だが逃げてしまえば、待っているものは後悔だ。例え小さくとも大きくとも、後悔という言葉は変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 祭祀場の一角を図書室としているオーベックにスクロールを手渡す。

 丁度読書も飽きてきた頃合いであった彼は、それを受け取ると子供のように目を輝かせた。

 

「ほう、これは珍しい……古い黄金の魔術の国、ウーラシールとは……」

 

 ぺらりとスクロールを捲り、彼は食い入るように文献を見る。その気持ちは分からなくもない。学問とは、研究とは、そういうものだ。自分だけの世界で、誰にも邪魔されず、没頭できる。

 だが、魔術とは決してそれだけでは得られぬものがある。魔術とは正しく叡智の継承なのだから。

 

「黄衣の探究者が見たら、きっと涎をたらすだろうな……お前には感謝を」

「言葉遣い」

「は?」

 

 魔術師の杖を取り出して、ビシッと足を叩く。

 

「イテっ」

「私は師でありお前は弟子だ。言葉遣いを改めよ。それが師に感謝をする態度か、馬鹿弟子が」

「……」

 

 元々無愛想なオーベックの表情が険しくなる。対して私はいつも通りの無表情。子供はこうやって躾けなければならないのだから、私はおかしなことを言っていない。

 しばらくして、彼はため息をつくと渋々といった様子で言う。

 

「ありがとうございます、師匠」

「うむ。馬鹿弟子はこうでもしなければ成長しないからな」

「ぐぎぎ……」

 

 満足気な私とは違ってオーベックはかなり不満そうだ。

 

「まぁ、そう怒るな。私に魔術を教えてもらえるのだからな」

「……まぁいい。それで、師よ。本当に俺に、あの結晶魔術を教えてもらえるんでしょうね」

 

 うむ、と肯定する。そして、私は彼の(ソウル)を見定める。

 理力は良い。だが、まだ甘い。集中力はある。そして精神力も高い。けれど……今のままではだめだ。このままシースの遺産を手に入れたら、狂気に飲まれる可能性がある。

 

「……貴公、基礎的な魔術と隠密以外は触れてこなかったようだな」

「……」

「沈黙は肯定と受け取るぞ」

 

 触れられたくない歴史がある。それについては構わない。

 

「お前はまだ青い。今、私の知る魔術を全て授けてしまえば狂ってしまうぞ」

「ではどうしろと?」

「そこでそのスクロールだ」

 

 オーベックからスクロールを掻っ攫い、机の上に広げる。そして懐からメモ紙と羽ペンを取り出すと、ペン先をインクで浸しメモに書き込んでいく。

 それは暗号の解読方法。スクロールとは、誰にでも分かるように書かれてはいない。元々魔術とは門外不出、身内以外が分からぬように記されているのだ。おまけに今の時代とは異なる字……私がロードランにいた頃の字で書かれているのだ。ベースは今と変わらないが。

 

「お前には自分でこのスクロールを読み解いてもらう。少しずつ、魔術への狂気に慣れていけ」

「やはりすぐには教えてもらえないか……」

「魔術とは叡智。叡智とは狂気と表裏。ローガンも、そしてその後の魔術師達も。白竜の狂気に耐えられなかった。私以外はな」

 

 化け物かよ、という呟きに杖の一振りでお返しする。

 失礼な、私はどこからどう見ても美少女だろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「嗚呼、王よ! お戻りで」

 

 かつてヨエルがいた、祭祀場の外れ。そこに、仮面を被った女剣士ユリアがいた。

 彼女は両手を合わせて、意気揚々と私を出迎える。かつて彼女の腰に差してあった闇朧は今や元の持ち主である私のものとなったが、それでも彼女は刀使いらしく、どこから手に入れたのか混沌の刃を携えている。

 

「ユリア、出迎えご苦労」

「いえいえ、我が王よ。さぁこちらへ」

 

 どこから持ってきたのか分からぬ椅子を引いて、彼女は私をそこへ座らせる。闇朧を鞘ごと抜いて、これまたどこから持ってきたかも分からぬ机に立てかけた。

 ユリアは私の対面に座って、用意していたであろう紅茶を差し出してくる。

 

「お口に合えば良いのですが」

「ありがとう、美少女からいただいたものは何でも大好きさ」

「まぁ……!」

 

 うふふ、と最初に出会った時のツンケンさはどこへいったのやら。彼女は恋する乙女のように悶えている。

 紅茶は、美味しい。どこで私の好みを知ったのかは知らないが、砂糖多めだ。

 

「さて。君には質問したいことが色々とあってね」

「何なりと、我が王よ」

「ああ、うん……」

 

 女の子に慕われて気分は良いが、どうにもやりづらい。いつから私はロンドールの民の王となったのだ。

 

「私の闇朧、どこで手に入れたのだ? 私の記憶では、私が眠る祭壇に置いてあったはずだが」

「ロンドールの闇姫信徒が貴女の墓を暴いたことがありまして。これは聖遺物として持ち帰られたものを、私が買い取ったものです」

「闇姫信徒? なんだそれは……」

 

 どうやらロンドールには、かつて闇の王に一番近づいた私を神格化する輩が沢山いるらしい。

 ちなみに私が眠っていた棺桶は、厳重な呪いが掛けられていて手がつけられなかったとの事だ。厄介なオタクがいっぱいいるのかロンドールには……

 

「君も、私の信徒なのか?」

 

 恐る恐るそう尋ねると、彼女は大きく頷いた。

 

「はい! 私が闇姫会を設立しましたから!」

「君が発端か……」

 

 頭が痛くなる。私の黒歴史をまるで神話のように語り継いでいるなどと。

 とにかく、過ぎてしまった事を言ったって仕方がない。それにロスリックに辿り着けるような猛者など一握りだ。

 

「それでユリア。君は私に何を望むのだ」

 

 それを知りたい。ちなみに私は彼女の仮面の下を見てみたい。

 仮面からはみ出る銀髪は美しい。黒いドレスのような鎧は、彼女のボディラインを強調しながらロングスカートであり、乙女らしさも窺える。しかも私を最初から崇拝してくれている。

 手、出していいかな……

 

 ユリアは突然姿勢を正す。私はただ、紅茶を飲む。

 

「貴女に、火を奪ってほしいのです」

 

 そして、紅茶を飲む手を止めた。

 

「……貴公、自分が何を言っているのか分かっているのか?」

 

 火の簒奪。

 それは、火を消す以上の狂気。

 神々が起こした火を奪い、人……否、亡者のために用いるということ。

 ヨエルの口ぶりから察してはいたが、ロンドールはやはりあの世界蛇が作った国らしい。ならば合点がいく。

 最早火は陰り、人間性は変質し。当初の闇の時代の到来はありえない。ならば、火を奪ってその力で人の時代を齎すということだ。

 

 愚かな。火は所詮、火である。

 ならばいつかは陰る。そうなれば、人の時代とやらも神々の時代と同じことを繰り返すだろう。そこに未来はない。一時的な安堵のみだ。

 

「承知しています。しかしそれこそ、人の世にふさわしい。神々に裏切られ、利用され、虐げられ。けれどその神々に一矢報いるのです」

「その悪夢は、巡り巡るぞ。そして終わらぬ悪夢は自らも蝕むのだ」

「そうでしょうか? 確かに今や人間性は変質し、虫となり、かつて貴女が夢見た世界とは程遠いものになるでしょう。しかし、私たちには確証がある」

 

 目の前のユリアという乙女は、政治屋だ。

 

「貴女という確証が。死しても亡者とならず、既にただの不死ではない闇姫が」

「……誰もが私になれる訳ではない」

 

 記憶を巡る。

 数多の不死を見てきた。その中で、私だけが今残っている。

 変わらず、けれど心は折れず。だけど絶望している。そんなものに、なりたいものか。

 

「ええ。ですが、貴女がいる以上、何が起きるかなど分からないのです」

「博打だぞ」

「博打でない人生などありますでしょうか。決められた道を辿るだけの人生など、神に跪くのと変わりありません」

 

 困ったものだ。

 勝手に希望にされて、勝手に持ち上げられている。

 私は久しく吸っていなかった煙草を取り出し、火をつける。火は、ユリアがマッチでつけてくれた。

 紫煙が宙を舞う。苦味が、甘味で染まる舌を刺激した。

 

「くだらぬ。君達は神の代わりに、あの世界蛇の口に唆されているだけだ。あの時の私のように」

「しかし神にいいようにされるよりはマシでしょう」

「竜のなり損ないも信用できん。最早この世界で私が興味あるのは少女達と闘争だけだ」

 

 ユリアは静かに黙り、けれど納得はいっていないようだった。

 けれど、無論。

 

「君も、その興味に値する」

 

 吸い終わった煙草を呪術で燃やし切り、机を押し除け彼女を攫う。

 壁に彼女を押し付けると、太腿の間に私の脚を押し付けた。右腕を押さえ、空いた手で仮面を触る。

 

「っ……」

「君もまた、私の世界の一部だ。どうだね、このまま私の手に。快楽に身を委ねてみないか?」

 

 仮面を、取り外す。

 金具を外し、鳥の嘴のようなそれを剥ぎ取れば、そこにはこちらを睨む美少女がいた。

 白い肌に、ペイルブルーの瞳。綺麗な肌は、けれど剣士として戦ったであろう細かい傷。

 

「使命など、なんだのと。捨ててしまえよ。報われないのだから。最後は、闇に沈むのだから」

「……嫌です」

 

 震える唇で、彼女は呟く。

 キッと睨む少女は、やはり美しい。

 

「私は、ロンドールの民を裏切れない。貴公のような堕落した者など……王などと、慕うかよ」

「ほう……逆らうか。死ぬぞ?」

「ロンドールの黒教会として、私は殉ずる」

「……うむ。良い」

 

 パッと、私は手を離して遠ざかる。

 及第点とでもするか。

 

「よく言い切った。やはり乙女は意志がなければならん」

 

 思えばアナスタシアも、そしてルカティエルも。私が好きになった子達は皆、意志が強かった。

 このまま彼女が快楽に堕ちればそれで良し。もし反抗すれば、少しくらいは手伝ってやろうとは思っていたのだ。

 だって私は、少女のための白百合なのだから。

 

「え……え?」

「ロンドールのユリアよ。君の想いはよく伝わった。ロンドールだの黒教会だのは知らないが、私は君を支えよう」

 

 椅子に座る。ああ、机を押し除けたせいで紅茶が……

 

「まっ、君らのやり方に口は出させてもらうがね」

「っ! ……王よ、ありがとうございます」

 

 良い良い、とぺこぺこ頭を下げる彼女を諭す。

 

「それよりも、ほら。君の椅子は私が壊してしまったから、私の膝の上に座りなさい」

「え? 椅子は別に」

 

 転がっているだけの椅子を指差すユリア。

 

「フンっ」

 

 そんな椅子へと闇朧を一閃。そしてすぐに座れば、自分の膝を叩いた。

 

「……失礼します」

 

 諦めたように私の膝へと座るユリア。

 おお。おお……尻の感触が、良い。柔らか過ぎず硬過ぎず。なんと心地よいことか。

 

「あ゛〜……かわいいね、触っていい?」

「え、あ、はい……」

「んふふ……」

 

 許可を取り、容赦無く背中から抱き付く。そして弄る。

 良い匂いだ。死の匂いだけではない、乙女特有の柔らかい匂い。

 嗚呼、まだこの時代にも希望はあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様、本当に最低だな」

「騎士様……」

 

 蔑み、哀れんだ瞳で私と人形は机に突っ伏す騎士を見た。だがしばらく震えた後に、突然起き上がり私を指差す。

 

「貴様にだけは言われたくないッ!!!!!!」

「うわ、急に叫ぶなよ五月蝿いぞ」

 

 ミシミシミシっと騎士が握る拳が音を発てる。哀れだな、火のない灰よ。

 だが人形は優しい。それでこそ私の恋人であり、母である人形だ。私もお尻触りたい。

 

「騎士様……そんなに、女の子のお尻を触りたいのですか?」

「うっ……いや……」

 

 直球な質問をされてたじろぐ騎士。

 

「素直になれよ。貴様の欲を曝け出せ」

 

 そう諭せば、彼女は諦めたように肩の力を抜き、俯く。

 

「触りたい……あの柔らかさを確かめたいのだ……」

「では」

 

 人形ちゃんが立ち上がる。

 影ができるほど長身な彼女が、優しい声色で騎士に言った。

 

「私のお尻を、触っては如何でしょうか」

 

 刹那、私は騎士に斬りかかった。ただ我が家族を守るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は乙女に満ちているな」

 

 ユリアと親睦を深めた後、私は火継ぎの祭祀場を彷徨く。やはり少女とまぐわると気分が良い。なんというか、心の蟠りが溶けるというかなんというか。

 まぁいいじゃないか。グレイラットも立ち直って、私のために盗みを働いてくれたことだし、良い事しかない。

 おまけに祭祀場に新たな乙女がやって来たではないか。

 

「……ああ、貴女は、火の無き灰の方ですね」

「リリィだ。君は?」

 

 一見すると修道女にも見えたが、その佇まいと脇に差した刺剣を見て、彼女が剣士であることが窺える。

 彼女の白い装束と誓約の匂い……これは。

 

「私は薄暮の国のシーリス。かつて神に、仕えたものです」

「……暗月か」

 

 そう尋ねれば、彼女はハッとした表情をした。

 

「……我らの神を、御存じなのですね」

「……腐れ縁だ。隣、失礼するよ」

 

 シーリスの隣に座る。ヴェールのせいで髪型などは分からないが、顔はかなり整っていた。凛々しい感じで、少し儚さもある。

 

「お互いに使命のある身、そして使命とは孤独なものです。おそらく私達は、あまり関わるべきではないでしょう」

「否。独りよがりの使命は、いつか目的を見失う。人は一人では限界があるものだ。かつての私がそうであったように」

 

 燃える薪を眺める。

 陽炎のように在りし日の思い出が蘇った。

 薪の王との傷だらけの旅。ルカティエルとの輝かしい旅。絶望し、けれど死ねず、さすらう中で得た弟子達との旅。

 どれも、私に新しい知見を与えてくれた。

 

「……やはり、貴女は優しい方なのですね。幾人かの人から、お聞きしてます」

「そうか? 私は……どうなのだろうね」

 

 自分のことなどわからない。

 自分の事を客観視できるほど人も出来ていない。

 

「献身は、残り火の道であると聞きました」

 

 儚い笑顔が私を見る。

 

「サインがあれば、どうぞお使いください。それが貴女を助けるのであれば」

 

 献身。私は果たして、大切な人に尽くせただろうか。

 ルカティエルに、闇の落とし子達に。そして、アナスタシアに。

 私は自分勝手ではなかっただろうか。今はもう、分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぺらりと、ページを捲る。

 人形はただ、その硝子細工の瞳でかつての騎士の心情を眺めていた。

 彼女は人形、その心は本物であるはずがなく。けれど、本物でないからこそ、真実に近付こうとする。それでいいのだ。人間とは、肉体の話ではないのだから。

 

「ぜぇ……ぜぇ……クソ……輸血液が無くなるとは……」

 

 そんな彼女のそばに、狩人が転がり込む。

 全身血塗れで、手には刃と短銃。

 

「この……不死斬りまで使うとは……」

 

 同じく血を流した騎士が転がり込む。

 彼女もまた、闇朧を手にボロ切れのようになっている。

 人形は百合の花で作った栞を本へと挟めば、閉じる。

 

「狩人様、騎士様。喉が乾いたでしょう。紅茶をお淹れしますね」

 

 あくまでも彼女はマイペースだ。

 そんな人形に、狩人と騎士はくたばりそうな笑顔で応える。

 

「「頼むよ」」

 

ダークソウル3のリリィは

  • 暗い方が良い
  • 暗くても多少明るい方が良い
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