ラブライブ!~夢を諦めた者とスクールアイドル~   作:TRcrant

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ここからオカルト要素が出てきます。


第1話 新たな学生生活の幕開け

(はぁ……)

 

僕は、心の中でこの日何度目になるか分からないため息を漏らす。

今いる場所は高月家の旧邸の自室だ。

洋風の邸宅が本邸で、そこからやや離れた場所にある和風の家が旧邸だ。

旧邸で暮らしているのは僕ぐらいだろう。

それにはある理由がある。

それは……

 

『坊ちゃま、それは化粧道具かい?』

「ああ。そうだな」

 

どこからともなくかけられたやや高齢の女性の声に、僕は顔を動かさずに応える。

ふと視線を動かせば僕の左斜め上に恒例の老婆が立っている。

違うのは、その女性は宙に浮いていることと、半透明であることくらいだ。

そう、この女性はもう既に亡くなっており、ここにいるのは所謂幽霊という存在なのだ。

両親がここに住まない理由は、ここが幽霊屋敷化してしまったからだ。

まあ、昼夜問わずに怪奇現象が起き続ければ生活に支障が出るのは、言うまでも無い。

ポルターガイスト現象を起こしたり声をかけてきたりするくらいで、害はないので本邸に来るように言ってくる両親の誘いを断って住み続けているのだ。

おかげでここは僕にとっての別荘みたいな感じになってしまっていた。

 

『あらあらぁ、ついに主様もそっちの世界に行くのね』

「変なこと言わないで。別に好きでするわけじゃないから」

 

テーブルの上に置いてある化粧道具一式に、先ほどとはまた別の女性がどこか嬉しそうに言うので訂正するように言い返す。

 

『これって、化粧水とクリーム、ファンデーションにアイシャドウ、口紅……それにこれはつけまつげかい?』

「ああ。さすが、よく分かるな」

『そりゃあこの歳だもの。昔はこの化粧道具で旦那様に気に入ってもらおうとしたものだよ』

「……そっか」

 

化粧道具を見てどこか懐かしむ女性の声を他所に、僕は化粧道具一式の奥に置いた卓上ミラーで、自分の顔を見る。

 

(さてと……)

 

僕は化粧道具を手に取る。

化粧の仕方は色々と調べて知っているが、実際にするのはこれが初めてだ。

まず始めに顔全体に化粧水を塗る。

次にファンデーションを塗っていく。

 

「こんな感じかな?」

 

完成した自分の顔を見てみるが、そこに映っていたのは別人かと思えるほどに変わった自分の姿だった。

鏡の中の自分はベースメイクで整えた肌に、滑らかで均一な白色陶器のような質感に変わっている。

 

(……うん。本当に僕なのか疑いたくなるな、これ)

 

僕が首を傾げると、鏡の中の自分も微かに首を傾げる。

普段の自分よりも明らかに小さく見える輪郭は、女性的な丸みを帯びていて、どこか他人の顔を覗き込んでいるような奇妙な感覚があった。

 

『ええ、素敵な仕上がりですよ。どこから見ても女性に見えます』

『坊ちゃまは元々面立ちが綺麗だからな』

『ほんとほんと。私たちが若い頃なら放っておかなかったわよ』

 

周囲に漂う幽霊たちが口々に褒め言葉を投げかけてくる。

中には手を叩いたり拍手のような仕草をしている者までいた。

 

(まさかここまで変わるなんて)

 

内心で驚愕しながらも、鏡の中の自分との距離を感じる。

それは単なるメイクによる変化を超えて、まるで自分の中に眠っていた未知の一面が引き出されたような感覚だった。

髪型は変えていないものの、メイクだけでここまで変われるのかという発見に少し困惑さえ覚える。

 

「ありがとう」

 

感謝の言葉を述べながらも、僕は同じくテーブルの上に置いておいた扇子を手にすると、それを自分の顔を覆い隠すようにすっと開いた。

 

「――――」

 

(僕は、どこにでもいる普通の女子)

 

僕は瞼を閉じて、見せたい自分の姿を想像する。

すると全身に熱が体中に行き渡る感覚を感じる。

 

「……」

 

感覚的に終わったことを感じた僕がゆっくりと瞼を開けると、そこにはさっきと何だ変わりの無い自分の姿が映っていた。

でも、僕が鏡を扇子で軽くコツンと叩くと

 

「おっ」

 

そこにはまるで別人が映っていた。

黒色のショートヘアーで、色白の美少女がそこにはいたのだ。

そして極めつけは顔だ。

普段の僕からは想像もできないような可愛らしい顔立ちをしている。

 

『……おおっ』

『こりゃあいいねぇ。まるで別人みたいだわ』

『ほんとにあの坊ちゃんか? 信じられんな』

 

幽霊たちが騒ぎ出す中、僕は自分の両手を見つめる。

指先まで細くしなやかな指先が見える。

 

(これが……今の僕)

 

信じられない思いで鏡を見るが、そこに映るのはやはり見慣れない女の子の姿だった。

僕が行ったのは霊術と呼ばれる力だ。

僕の家系……高月家は代々神社の神主をしている家系なのだ。

それ故に人ならざる力を扱えたりするのだ。

いまのこれも、その一つ。

行ったのは他人の認知を歪めて、僕を望んだ姿に見えるようにするものだ。

効力は最後に使った時は約15時間ほど。

今は育ち盛りなので、もう少し伸びていると思う。

普通に女装しただけでは、もし服を脱いでいる所を見られれば万事休すだ。

この効力が切れない限り、僕は誰から見ても女性に見えるのだ。

たとえ服を脱いだ姿を見られたとしても。

 

(……いや、見せるつもりもないけど)

 

僕は床に置いてある音ノ木坂学院の制服を手に取る。

 

(部屋に入った時に用意してあったけど……ほんとに用意周到だよな)

 

着替える前に一度深呼吸をする。

 

「……よしっ」

 

自分に気合いを入れ、まずはワイシャツに袖を通した。

ボタンを留めながら鏡に映る自分の姿を確認する。

胸元はわずかに膨らんで見え、腰回りも普段より細くなっていた。

 

『似合うじゃないか!』

『そうそう! 普通の女の子にしか見えないわよ』

 

幽霊たちの歓声が部屋中に響く。

 

(これほどまでに言われて嬉しくない賞賛の声は初めてだよ)

 

普通であれば嬉しいのかもしれないが、今の僕にはある種のダメージになっている。

そしてスカートを履いて制服に着終えた僕は鏡を見ながら、スカートの裾を少し整えた。

こうして、どこからどう見てもどこにでもいそうな女子高校生の誕生である。

 

(こうしてみると意外と悪くない……のか?)

 

「……行くか」

 

複雑な心境のまま、僕はそう告げて扉を開けて部屋を出る。

 

『行ってらっしゃいませ』

 

そんな僕を見送るように見えない人物からの声がする。

その声を背に、僕は家を出た。

ローファーを履いて、足元を確かめるようにゆっくりと歩いていくと、すぐに本邸の裏門に着いた。

そこで待っていたのは父さんと母さんだ。

二人とも見送りのためにここに来てくれたようだ。

しかし、なぜか少し表情が硬いように見えた。

 

「……おはようございます。父さん、母さん」

「ああ、おはよう。浩介」

「おはよう、浩介」

 

まずは挨拶をする。

二人もそれに応えるが、その顔つきは何処かぎこちない印象を受けた。

まあ、気持ちは分からなくもない。

女装した息子相手に平然としていられる親はどこにもいないだろう。

 

「設定の方は大丈夫か?」

 

そんな僕に、父さんが聞いてきた。

 

「大丈夫。全部頭に入ってるよ。名前は佐藤(さとう) 京子(きょうこ)。家庭の事情でこっちに引っ越し、親戚の人の家に下宿。趣味は読書……で合ってますよね?」

「ああ。大丈夫だ」

 

そう言って、僕は確認するように答える。

偽りの姿に変装するのにあたって重要なのは、いかに平凡になるかだ。

奇抜にして目立つのはまさに愚の骨頂。

目立ちにくくなればなるほどに、僕にとって有利に働くのだ。

特に、今回のような場合には。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

僕はそう言い残して二人に背を向ける。

 

「待ちなさい」

 

と声をかけられたので立ち止まる。

振り返ると、母さんが真剣な眼差しを向けてきていた。

 

「ええ。何も問題はありません。別人になるのは慣れてますから」

 

僕は笑顔を作りながらそう答えた。

女装など演技の一種だと割り切れば、そこまで抵抗はない。

むしろ、妙に落ち着いている自分がいた。

 

(そうだ……これはただの任務だ)

 

そう自分に言い聞かせるのが一番楽だった。

 

「……そう」

 

母さんは少し間を置いて、短くそう返した。

その声には安堵と同時に、ほんのわずかな不安のようなものが混じっている気がした。

母さんの目には、今の僕はどう見えているんだろう。

普段通りの僕なのか、それとも全く知らない誰かなのか。

 

(気にしないでおこう)

 

考え始めると余計な荷物が増えるだけだ。

僕は再び歩き出し、裏門へ向かおうとしたその時だった。

 

「気をつけなさい。何かあればすぐに連絡を」

 

父さんが背後から静かに言った。

振り返ると、いつも通りの厳しい表情でこちらを見つめている。

けれど、その眼差しはどこかいつもより柔らかいように感じた。

僕の単なる気のせいかもしれない。

 

「はい。行ってきます」

 

僕は短く返事をし、今度こそしっかりと裏門を抜け出した。

空は雲ひとつない青空で、風が気持ちよく吹いていた。

それによってスカートの裾がひらりと揺れ、一瞬だけ冷たい空気が太ももを撫でる。

 

(やっぱり慣れないな……)

 

任務だなんだと言っていても、女装など初めてだ。

スカートを履いている感覚には、まだ違和感があった。

これからのことを考えるのであれば、慣れていけば良いと(ヤケクソという名の)前向きな気持ちになる。

僕は小さく息を吸い込み、音ノ木坂学院への道を歩き始めるのであった。




大変お待たせしました。
プロローグは旧作の物を投稿していましたが、色々と思う所があったため差し替えを行いました。
書き直したために時間がかかってしまいましたが、なんとか完成しました(汗)

次回から原作キャラが登場する予定です。
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