TS転生系Vtuber、時々ダークヒーロー【第一部完結】 作:ムーンフォックス
『ブルーネヴィルが放出したエネルギーを受け止め、それを即座に彼女の体内へ還元する。そうすれば理論上、エネルギーが還元され、死という結果を回避できる可能性が高い』
「その返す方法は!?」
『互いの口腔を通してのエネルギーの直接注入、及び循環接続だ』
「……はぁっ?」
『こいつ』が提示してきた条件に、俺は戸惑うしか無かった。
つまりこいつはこう言っているのだ。
──救いたければ、キスをしろ。
冗談かと疑ったが、『こいつ』はそんな冗談を言う奴なんかじゃないのは俺が一番理解している。
それに『こいつ』が理論上可能と言ったのにも頷ける。これを成功させるためにはブルーネヴィルが放出する全てのエネルギーを受け止める必要がある。
そんな攻撃を受け止めることなんて普通はできることじゃない。
「にわかには信じがたいけど……やるっきゃねえか」
──そう、普通ならね。
思い出せ、俺は何だ?
『───承知した。私は、君を信じよう』
そう、俺の名前は
受け止めてやるよ、そんな想いなんて。
「……勝負だ。ブルーネヴィル」
「ッ! やっとマトモに戦ってくれるのねェッ!! ──じゃあ殺してやる」
ブルーネヴィルの──青藍葵の攻撃を必死で避ける。今は避けに徹するべきだ。待つべきは彼女の全てを出し切る必殺の一撃。
やがて両者の距離が離れた。
──やるのは、今しか無い。
防御の構えを解き、両手を広げる。
『来い』
そしてそれは予想通りに来た。
「ふざけないでッ!!」
青藍葵の持つ刀へ激しく光りだす。
──間違いない。正真正銘、あれが彼女の『全部』だ。
俺は鎌を捨て、漆黒の霧を全身に纏う。『こいつ』が用意してくれた彼女の全てを喰らうための吸収形態らしい。
「がああああああぁぁぁぁッッッ!!!」
放出されたエネルギーが俺へとぶつかる、そして俺はそれをひたすらに吸収する。
始めの数秒こそ身体中が潤うような幸福感に包まれたが、やがてそれは全身の細胞が悲鳴を上げるほどの痛みに変貌した。
彼女の燃え尽きることの無い想いが、俺の中へ雪崩れ込んでくる。気を抜けば一瞬で飲み込まれてしまうほどのエネルギー量だ。だがこの形態ならば耐えられる、耐えてみせる。
視界が警告表示で真っ赤に染まる。吸収したエネルギーが体内で暴れまわり、内側から破裂しそうだ。
このままだと、俺は死ぬ。
それが、どうした?
あの時の彼女が受けた悲しみは、流した涙は、感じた絶望は、こんなものじゃない。
断言できる。
それに比べれば、この程度の痛みなんて大したものじゃない。
「う……うぁあああああッッ!!」
彼女の想いよりも大したことの無い悲鳴をあげて、彼女の心情よりも大したことの無い苦しみを感じて、彼女の気持ちよりも大したことの無い痛みを受ける。
いつまで、そうしただろうか。
無限に感じる時間は唐突に終わりを迎えた。
視界を覆っていた眩い光が消失する。
「……私の……負けね……」
喋りながらもその場に崩れ落ちる青藍葵。
俺のやることは決まっていた。
彼女の元に向かうため一歩を踏み出す。
「ッ!?」
激痛が身体を支配する。余すことなく吸収した膨大なエネルギーが宿主すら襲ってきたのだ。だが、ここで気を失うわけにはいかない。今すぐにでも気絶したくなるような痛みをこらえて、彼女の元へ駆け寄る。
近づくにつれて、彼女がどんな表情をしているかがわかった。
「……全部……無駄……」
──うつろで、ぼんやりとした顔。
生きるのがつまらなくて、くだらなくて、虚しくて、苦しく、辛くて、だから生きる意味がわからない、そんな顔を、彼女はしていた。
「……青藍葵」
俺が今から吐くセリフは、最悪で最低で、新たに消えない俺の罪になるのだろう。
だけど──
決意と共に、腕を掴んで、引き寄せる。
「だけど、生きていくんだ」
俺は震える唇を塞いだ。
始めは血の味がして、次に鉄の味。そして、仄かに涙の味がした。
……あ、これ、ファーストキスだ。
ぼんやりと浮かんだくだらない考えをすぐに消して、俺の中に吸収されたエネルギーを放出することに集中する。
誰からも教わって無いはずなのに、流し方が自然と理解できていた。最初は少しだけ流して、どんどん量を増やしてく。
すると冷たくなっていた青藍葵の体温が、か細くなっていた心臓の鼓動が燃え尽きかけた命が、増していく。
「───ッ!? んグッ───!!」
意識が戻ってきたのだろう。これ以降はバレないように彼女の視界を手で塞ぐ。
始めこそ抵抗しようと暴れ俺を叩いたり蹴ったりしていたが、やがてはなすがままにキスを受け入れてしまっていた。
俺は構わず、エネルギーを送り続けた。
これが俺の罪滅ぼしだなんて決して言わない。
ただ、二年前のあの時に救えなかった命。
その続きを、今度こそ守り抜く。
俺はゆっくりと、唇を離した。
手を離し、バイザーを展開する。
青藍葵は目を開くと混乱と虚脱が入り混じる表情をしながら呆然と俺を見つめていた。俺の行動に驚いているように見えるし、俺の行いに怒っているようにも見えた。
少しの時間、沈黙が場を支配する。
「なんで……」
だがやがて、その瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
堰を切ったよう、感情が溢れ出した。
「なんでよぉ……! そんなに強いなら……そんなに力があるなら……!」
変身すらせず近づいて、彼女は俺の胸を、弱々しく叩いた。
それはもう、攻撃ではなかった。
「なんであの時、ママとパパ助けてくれなかったのぉぉぉぉッッ!!!」
子どものように泣きじゃくる。
「会いたいよおおぉぉッ!!!!」
それは、怪人への怒りではなく。
ただ救いを求めていた、二年前の少女の悲痛な叫びだった。
「うあぁぁぁぁぁぁん!!」
泣き声だけが、崩壊する塔に木霊する。
当然か
ただの少女にできることなど、もはや泣くことしか無いのだから。
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