GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! 平安大魔境   作:混沌の魔法使い

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その14

GS芦蛍外伝平安大魔境 その14

 

~琉璃視点~

 

横島君が魔に堕ちる……それはきっと何よりも避けなければならない事だ。横島君の才覚はどの何れもガープの手に渡ってはいけない物だ。私達はそうならないように尽力して来たつもりだ。

 

【横島殿は狂神石に飲まれ、シェイドなる姿を用いて、月軍、そして私を退けた。今でも、その時の傷は我が霊体を蝕んでいる】

 

道真公が僅かに着物をはだけるとそこにはまるで獣に噛み付かれたような鋭い傷跡が痛々しく残っていた。

 

「うっ……」

 

「ぐっぐう……」

 

「シロ、タマモッ!?どうしたのッ!?」

 

急に頭を抑えて蹲ったシロとタマモの口からは涎が垂れ、その目からは正気が失われそうになっていた。

 

【失礼、これは我が神力で押さえ込んでいるが……やはり毒だな】

 

道真公が着物を元に戻すとシロとタマモは荒い呼吸を肩で整えていた。

 

「いやいや、これ駄目でござるよ」

 

「……横島でも発狂するわよ……下手したら」

 

九尾の狐であるタマモでさえも発狂するという桁違いの負の霊力。私にはあまり影響がなかったけど、かなり不味い物なのは間違いない。

だがそれも当然と言えば当然だ、英霊を操り、神魔さえも支配する。そんな狂神石を人間が取り込めばどうなるかなんて言うまでも無いだろう。

 

「くえすは大丈夫?」

 

「……別にこの程度でどうにかなるほど軟弱ではありませんわ。ただ……長時間触れるのは不味いですわね」

 

「だろうな。神魔ならまだしも混ざり物には辛いかもしれん」

 

混ざり者か……それを言うと私もだけど、私の場合は神だから平気だったのかもしれない。

 

(もしかすると横島君も……?)

 

後天的に妖力、神通力、魔力、竜気を手にした横島君だ。だからもしかすると狂神石にもある程度抗えるのかもしれない……だがそれはあくまで客観的な、もっと言えば楽観的な考えで、それを口にする事は出来なかった。

 

「それよりも月軍とは月神族の事ですか?」

 

そんな中躑躅院が月軍について道真公に問いかける。月軍と言えば、月に移住した土着の神魔……「月神族」の戦闘部隊の事だが、地球に残った神魔や人間を穢れていると言うなど選民思想の強い神魔と言うのは私でも知っている。

 

【ああ。横島殿はなよ竹のかぐや姫の元にいてな。丁度そこに迎えに来た月軍の言葉が切っ掛けになったのは間違いない】

 

横島君が何をしているのかと言うのは気になるところだが、あの温厚な横島君を激怒させた月軍の言葉も気になる。

 

「確実に月神族は横島さんと相性が悪いですね」

 

「それは確実ですわね、横島とは余りにも間逆ですしね」

 

「と言うか、そもそもあの連中を好きな奴なんてそうないでしょ?」

 

【そんなにひどいんか?】

 

【主殿が嫌うなんて、正直想像出来ないんですけどね】

 

「拙者もでござるよ」

 

横島君は人外に好かれる。それは間違いないことだが、月神族だけは別だと思う。正直神魔の巫女である私でさえも、月神族には関わりたくないと思うのだから……。

 

「んんっ、話を戻しましょう。月神族が何かしたのは判りますが、道真公。横島さんがそれほどまでに激怒した月神族の言葉はご存じないのですか?」

 

【流石にそこまでは……ただ私の元に現れた時はその瞳は血の様に真紅に染まり、魔力と神通力を同時に扱う、獣のようなおぞましき姿であった】

 

何があったのか、それは私達には想像するしかない。だが、事態は間違いなく悪化しているだろう。

 

【横島の魂が魔により過ぎるのは不味いな】

 

【心眼が何とかしてくれる事を祈るしかないですね】

 

出来る事ならば私達が何とかしたいと思っている。でも横島君は今現代にいない、そして私達には過去に行く術がない。

 

(戻って来た横島君が別人になっていたらどうしよう……)

 

もしも無事に現代に戻ってきても、もう私達の知る横島君ではないかもしれない……そう思うと恐ろしくて、そして悲しくなる。なによりも争い事からほど遠い横島君をこの道に引きこんだのは私達だ。だけどその結果が狂神石に蝕まれ、正気を失うかもしれないなんて余りにも救われない。

 

「道真公。横島さんは完全に暴走してしまっているのですか?」

 

【それは問題ないと思います。私を倒した後は元に戻っている様子でしたから】

 

「つまり今すぐは問題では無いと言うことか……確か横島達と一緒にヒャクメも消えていたな?」

 

「え、ええ!確かそうです!」

 

魂の専門家のヒャクメが一緒にいるのなら本当に最悪の展開になる事は避けれるかもしれない。いや、ヒャクメが何とかしてくれると祈るしかないのが事実だが、それでも無事に私達の知る横島君が戻ってきてくれることを祈るしかないのだ。

 

「雷……近いな」

 

ビュレトさんがそう口にする。ふと窓の外を見ると先ほどの晴天が嘘のように曇り空になっている。それを見て、私は慌てて座布団から腰を上げた。

 

「これって……間違いないわ!美神よ!」

 

「私もそう思う!道真公、そうですよね!?」

 

【間違いないでしょう、参りましょう。それで私達が何をするべきなのか、そして何が起きようとしているのか……それを知る事が出来るはずです】

 

美神さんが戻ってくると道真公は言っていた。この雷がその予兆である事は間違いない。道真公もそれを認めた、正直躑躅院がいるので美神さんの時空転移の事は言いたくなかったが、それ所ではない。私達は横島君の今の状況を知るためにも、そして平安時代に美神さんが戻るのならば、私達も一緒に行けるかもしれない……不安なまま待っているのはもう耐え切れない、それは私やくえすだけではなく、小竜姫様やビュレトさん達も同じで、誰が言い出すでもなく、雷にうたれるかも知れないという危険性も承知したうえで私達は雷の元へ走り出すのだった……。

 

 

 

 

~高島視点~

 

俺は美神達を幸華に庇うように頼み、姿を隠して西郷の屋敷を訪れていた。……と言うか、西郷の屋敷も警護が増えていたので姿隠をしたまま、西郷の私室に直接侵入した。

 

「……普通に門から入って来い」

 

「今そんなことが出来るか、馬鹿」

 

あきれたと言わんばかりに溜め息を吐く西郷とその隣にいる姫を見て目を細めた。

 

「これはこれは躑躅院の姫君にこのような場所でお会いするとは、このような来訪どうかお許し願いたい」

 

「許すも何も、貴方は私の夫になるお方だ。そのような人に目くじらを立てるほど、私は器量の狭い女ではない」

 

……女傑と言われるだけはあると肩を竦めた。霊能者としての格は中~上と言うくらいだが、潜在的な霊力は帝にさえも匹敵すると言っても良い、不幸なのは躑躅院は自分達で霊力を扱う術が余りにも弱いと言うところか……。

 

「して高島様は何ようか?」

 

「……躑躅院様。私の客なのですが?」

 

「別に構わないだろう?」

 

くすくすと笑う躑躅院に西郷が連れて帰れという視線を向けるがそれを無視して、どっかりとその場に腰を下ろした。

 

「帝は何故横島に拘る。その理由を知りたい」

 

「……月の使者が訪れた。輝夜様を連れて帰ると……」

 

その言葉で何を言いたいのかは理解した。理解したが、同意できるかどうかは別問題だ。

 

「横島を戦力にするつもりか」

 

「……悔しいが、横島の能力は私よりも上だ。それは認めざるを得ない」

 

正直俺は横島の戦いを目の当たりにしたわけではないが、西郷がそこまで言うのならそれは間違いないだろう。

 

「言っとくが、今回の件は俺はどちらにも与しない。それが俺に出来る最大限の譲歩だ」

 

「……すまん」

 

「別にお前が悪い訳じゃない」

 

帝と美神達、横島を取り合っているわけだが、それに対して俺はどちらにも協力しない。

 

平民の生まれの俺をここまで取り立ててくれた帝にも恩がある。

 

しかし美神達の気持ちも判らない訳ではない、だけど帝への恩があるから美神にも協力しない。

 

「あの最後に現れた赤髪の男、あいつに気をつけるんだな。どうも外つ国の神魔らしいが……強さの桁が違う」

 

「それは見ただけで理解したよ。忠告感謝する」

 

その後西郷と月の使者についての話を聞いて、当たり障りが無いように躑躅院の姫とも話をして、夕暮れ時に俺は西郷の屋敷を後にした。

 

(月の使者……か)

 

判らない訳ではない、輝夜様の魔性の美を考えれば神の国の姫と言われても俺は納得するだろう。

 

「本当なら帰すのが正解なんだろうな」

 

迎えに来るというのならそれを帰すのが1番の正解だ。だが、帝と爺さん達の事を考えるとそんなことを言える訳が無い。

 

「ままならんぁ」

 

俺は自由な立場で立ち回ってきたつもりだが、今回の件は本当に参った。どちらに与しても、俺の立ち位置を悪くする。

 

「何がままならないのさ?」

 

「……メフィストか、いや、なんでもないよ」

 

いつの間にか俺の隣にいたメフィストになんでもないと言うと、メフィストは目を細めて俺を見つめる。

 

「ま、あたしはあんたが何をしても構わないけどさ。契約は護ってもらうよ」

 

「……判ってる。俺が死んだらな」

 

正直今の俺はメフィストのお陰で生きているといっても過言ではない。あのアスモデウスとか言う神魔の一撃で魂が傷ついた、そこをメフィストとの契約で死ぬまでは最善の状態を維持しているだけで、恐らく寿命を全うするまでは生きれないだろう。これでは俺が折角泰山父君の祭に挑戦した意味も無くなった。

 

(……だけどまぁ、納得だな)

 

横島が俺の転生者と言う割には顔以外はあまり俺に似ていないと感じていたが、その原因が元になる俺の魂が損傷していては本来継承できる物も中途半端になったのも納得だ。

 

「簡単に死なないでよ」

 

「おう、俺も簡単に死ぬつもりは無い」

 

それなら良いけどと黙り込んだメフィストと六道の屋敷に足を向ける。死ぬつもりはないと言ったが、恐らく俺の命は持って数日だろう……

 

(道真公か、それともあの魔神か……どっちにせよ、俺は死ぬな)

 

泰山父君の試練のせいか、死期が近い人間が判るようになった。だからその死相が自分の顔に浮かんでいることには気付いていた……だがそれも天命だ。それならば仕方ないともう一歩踏み出そうとして足を止めた。

 

「……何者だ」

 

メフィストの動きが止まっている……いや、それだけではない、周囲の時全てが止まっている。

 

「いや、素晴らしい。流石天才陰陽師高島と言うべきか」

 

浮かびでるように姿を見せた顔を隠した漆黒の男……姿形は人間だが、この男……人間所か神魔ですらないぞ。背中に冷たい汗が流れるのを感じていると、その男は丸い球体を投げ渡してきた。

 

「っと!」

 

咄嗟にそれを受け止めてしまった。手の中には白と黒の奇妙な球体があった、しかも何だこれ……霊力と魔力と神通力を感じる。

 

「それは君の物だ、だから返しておくよ。ではまた会おう、どうか後悔無き選択を……」

 

男の姿は現れたときと同じ様に消えていき、思わず待てと叫んだがその姿は殆ど一瞬で消えていた。

 

「待てってどうかした?」

 

「あ、いや、なんでもない。それより早く帰ろう、夜になると不味いからな」

 

怪訝そうにしているメフィストを促して少し早足で歩き出す。一瞬の邂逅だったから夢のように思えたが、俺の着物の中にはあの男から投げ渡された球体がある。それがあの男との出会いが確かにあったという証拠なのであった……。

 

 

 

 

 

~横島視点~

 

アスモデウスの出現から数日経ったが、向こう側からのアプローチは一切無く、警戒はしているが穏やかな日々を過ごしていた。

 

「吾のだぞ!?」

 

「横島は物じゃないわ!」

 

「うーっ!」

 

……平和で穏やかな日々である。茨木ちゃんも元気になったのは本当に喜ばしいことだと思う、ただ人間の体は3方向から引っ張られたら千切れます

 

「……」

 

声も出ないって多分この事だなと思った。もこちゃん自身は非力だけど、後の2人の力が凄まじい。本当に千切れるんじゃないかとか、意識が飛び掛けた時に助けは現れた。

 

【ノッブァーッ!!】

 

チビノブの一喝に3人がびくんっと身を竦めると同時に、俺はその場に崩れ落ちた。

 

「あわわわああ」

 

「た、大変大変ッ!おじいさん、おばあさーんッ!!」

 

「おろおろおろ……」

 

薄れいく意識の中。お姫様って実は結構力が強いんだなと言うそんな的外れのことを考えているのだった。

 

「めっさ痛い」

 

【茨木はともかく、輝夜の力にも驚いたな】

 

こう子供に好かれるって言うのは自覚していたけど、俺の知ってる子供の3倍は力が……。

 

「アリスちゃんと同じ位だったかな?」

 

【あの突撃は普通は死んでる】

 

だと思う。でもまあ、慕われていると思うとそう邪険にも出来ないのも現実なんだよなと思いながら月を見つめながら、ぼんやりと考え事をする。

 

(考えることが沢山あるな)

 

美神さんや蛍の事……。

 

帝の事……。

 

取り込んでしまった狂神石の事……。

 

茨木ちゃんの事……。

 

そしてもこちゃんや輝夜ちゃんの事……。

 

俺は考え無しだと良く叱られていたけど……ここまで話が入り組んでくると大変なことをしてしまったのではと思う。だけど、まぁやってしまったのはしょうがないと割り切ろう。人間諦めが肝心だ。

 

「横島」

 

「んー?輝夜ちゃんどうした?」

 

ちょこんっと俺の隣に座った輝夜ちゃんは月を見つめて目を細めた。

 

「私ね、あそこから迎えが来るの」

 

「お姫様だから?」

 

「……ちょっと違うかな、罪人だから裁きに来るの」

 

裁きと聞いて今度は俺が目を細めた。それを見て輝夜ちゃんはその雪のように白い肌を俺に向けた。

 

「見てて」

 

止める間もなく懐に持っていた小太刀で腕を切った輝夜ちゃんに俺は目を見開いた。

 

「な、何をして「良いから、見てて」見てて……て……え?」

 

確かに俺は小太刀が輝夜ちゃんの腕に刺さる瞬間を見た。だが、傷は無く元通りの白い肌がそこにあった。

 

「私ね。不老不死なの」

 

「……マジ?」

 

「馬路?」

 

「ああ、ごめん。本当?」

 

「うん、本当よ。死んでも生き返るし、怪我も治る。見たでしょ?」

 

確かに目の前で傷を治る瞬間を見たので信じるしかない。輝夜ちゃんは俺を見て少しだけ驚いたような顔をした。

 

「化け物って顔で見ないんだ」

 

「輝夜ちゃんは輝夜ちゃんだし、俺別にそういうの気にしてないし」

 

と言うか、そんなの気にしてたらチビとかと暮らせないしと言うと今度は輝夜ちゃんが目を見開いた。

 

「あはははッ!本当横島は面白いわ。貴方に会えたのは地上で良かった事だわ」

 

「どういたしまして?」

 

多分褒められていると思い礼を言うと輝夜ちゃんはお腹を押さえて更に笑い出した。

 

「私月になんか帰りたくない、私ね……地上が見たいの、楽しい物、面白い物……そんな物がたくさん見たいの。だから……ね。横島、一緒に逃げましょう。もこも連れて行ってもいい、あの子は……あの子は私に凄く似てる。月にいた時の私に良く似てるの……だから、3人で逃げましょう」

 

「ごめん、それは出来ない」

 

迷う事無く無理だと言った。俺には帰らないといけない場所がある。だから逃げる事が出来ないと言うと輝夜ちゃんは酷く悲しそうな顔をした。

 

「女に恥をかかせるなんて酷いわ」

 

「……ごめん、それでも……俺には逃げる事は出来ない、だけど約束する」

 

「約束?」

 

「うん。月から輝夜ちゃんを捕まえに来るって言うのなら、俺が護るよ。輝夜ちゃんが逃げ切れるまで」

 

「……月軍は凄く強いわ、負けちゃうかも」

 

「絶対に負けない、輝夜ちゃんを絶対に護るよ。だから約束」

 

小指を出すと輝夜ちゃんは小さく笑い小指を出した。月明かりの下、俺は輝夜ちゃんと約束した。何があっても、彼女を護るって、彼女が見たいって言う物を見れるように、ちょっと不器用だけど優しいこの子を護りたいと俺は思ったのだ。

 

「約束よ、絶対に……嘘をついたら許さない」

 

「大丈夫、絶対に護るよ」

 

例えそれが……許されないことだったとしても……俺は彼女を助けてあげたいと思ってしまったのだから……。

 

「……お前らを……俺は許さないッ!」

 

【止めろ! その力を使うなッ!!】

 

【ギガン、シェイドッ!!OK!レッツゴー!イ・ツ・ワ・リッ!ゴースト!】

 

「……殺してやるッ!」

 

世界とたった1人。知らない1000人と知っている1人……それを秤に掛け、その結果が世界の命運を分ける最初の出来事であると言う事を俺が知ったのは何もかも手遅れになったその後なのだった……。

 

 

 

GS芦蛍外伝平安大魔境 その15へ続く

 

 




不信なフラグを置いておきます、横島の意志で狂神石を使った眼魂「シェイド」の使用。これによりガープ達の計画の第一段階は完了、この後は適度に横島にストレスを与えて闇落ちさせようとする戦略が主になると思います。次回はVS月軍。正し、作者の東方知識は非常にふわふわしているのでそこだけはご容赦願います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

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