GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! 平安大魔境 作:混沌の魔法使い
GS芦蛍外伝平安大魔境 その15
~横島視点~
輝夜ちゃんと約束した次の日に一気に事態は急転した。帝の下に再び書状が届けられたというのだ。その内容は勿論――輝夜ちゃんの引き渡し要求。それを見た帝は直ぐに屋敷の警備体制を強くし、西郷さんを始めとする優秀な陰陽師が屋敷に留まることになった。
「……大丈夫?」
「え、ええ……大丈夫、大丈夫よ」
もこちゃんが輝夜ちゃんと一緒にいるが、彼女の顔色は悪くとても大丈夫には見えなかった。
「隠れておれば大丈夫だろうに、少しは落ち着け」
「……う、うん。判ってる」
茨木ちゃんも喧嘩して過ごしていた輝夜ちゃんが弱っているのを見て、可哀想に思ったのか励ましている。
(そんなにも怖いのか……)
月軍が怖いと言っていたが、まさかここまで怯えるとは思ってもいなかった……。
(チビ達もいるから大丈夫だよな)
チビ達に目配せして、1度西郷さん達と話をしようと思い気配を殺しながら立ち上がろうとしたその時。
「待って、行かないで……」
俺が腰を上げようとすると直ぐに行かないでと声を掛けられた。
「ちょっと厠。直ぐ戻るよ」
不安そうに見ている輝夜ちゃんに大丈夫だよと声を掛けてから俺はその部屋を後にして、庭で待機している西郷さんのほうに足を向けた。
「横島か……輝夜様達を頼んだろう、こんな所で何をしている」
厳しい口調の西郷さんにすいませんと謝罪して、庭に詰めている兵士を見る。
「……陰陽師少なくないですか?」
「……ああ、そうだな。8人ほどしかここには詰めていない」
殆どが帝の兵士で陰陽師の姿は無い。西郷さんは肩を落として、深く溜め息を吐いた。
「アスモデウスとやらのせいでな……実戦派を除いた陰陽師は逃げ出したよ」
「……あれだけ偉そうにしていたのにですか?」
「ああ、貴族だからな。命を賭ける理由は無いって事さ、ついでに言うと……輝夜様に求婚していた五貴族からは何の支援も応援も無い」
吐き捨てるような西郷さんの言葉を聞いて、俺でもその心境を理解してしまった。
「大丈夫ですか?」
「いらない心配をするな、お前は輝夜様の側にいてやれ、そのほうがあの方も安心する」
だから部屋に戻れと言われれば俺には出来る事は何も無い。
(横島。どうするつもりだ?)
「どうするも何もやる事は決まってる、輝夜ちゃんを守るのさ」
金時の言葉に俺は拳を握りながら返事を返す。正直言ったら悪いが西郷さん達で護れるとは思っていない――正直俺でも出来る事はないと思う。それでも彼女が逃げるくらいの時間は稼いでみせると言って歩き出そうとしたその時
【横島!】
「ふおっ!?」
心眼の警告と同時に空を切る音を聞いて、俺は殆ど反射的に腕を動かした。
「あ、あぶねえ……」
目の前の柱に当たる前の弓矢を見て背中に冷たい汗が流れた。これもう少し前だったら、俺の頭石榴だったんじゃと恐怖するレベルだ。
【大丈夫か?】
【おいおい……闇討ちか?いや、今は朝だから朝討ちか?】
心配してくれる心眼と訳の判らないことを言っている金時。俺自身も混乱しているし……
「ん?手紙?」
矢の真ん中に手紙が括りつけられている。それを解いて広げると手紙の表面に名前が書かれていた。
「八意 永琳……心眼、これなんて読むんだろ?」
【知らん】
名前の読み方が判らん……だけど明らかに俺を狙っていたし……俺は少し考えてから便箋を引っくり返したりしほかに手掛かりがないかと見つめていると月のマークが刻まれていることに気付いた。
「輝夜ちゃん、これ矢文が来たんだけど……知り合い?」
「えーりん……えーりんだ」
もしかしたら帝に手紙を送った同一人物かもしれない、そう思うと輝夜ちゃんに見せるのは不安だったが、それは俺の考えすぎだった。手紙の主は知り合いなのか、安堵した様子の輝夜ちゃんは手紙を広げ、中身に目を通す。
「……横島お願いがあるの、手紙の返事を書くから永琳に届けてくれないかな?」
「別に良いけど……俺、その人判らないよ?」
「大丈夫、待ち合わせの場所が書いてあるから……お願い」
もう1度お願いと言う輝夜ちゃんに判ったと返事を返し、彼女の手紙を携えて警護の兵士達に見つからないように屋敷を抜け出した俺は落ち合う場所に書かれていた竹林に来ていた。
「えっと、貴女が永琳さんでしょうか?」
赤と青の服に身を包んだ三つ編みの女性が浮き出るように現れ、ビクッとしながらも永琳さんですか?と問いかける。
「はい、私が八意 永琳です。姫様の手紙は受け取っていますか?」
挨拶もそこそこに手紙をと言う永琳さんに手紙を渡し、俺は永琳さんが手紙を読み終わるのをジッと待つのだった……。
~永琳視点~
ここ数日姫様の回りを見ていて、姫様と一緒にいたのはアルビノの少女と、妖怪の少女、そしてもう1人……人間でも、神でも、妖怪でも、悪魔でもない……全てが混然となった奇妙な青年だった。
(……そう、そうなんですね。姫様)
姫様からの手紙にはアルビノの少女……「藤原妹紅」と全てが混ざり合った奇妙な青年「横島忠夫」と一緒に逃げようと言ったが、横島はそれを拒否して、逃げれるように護ると姫様と約束したと……それがとても嬉しかったと書いてあった。
「ありがとうございます。姫様を護ってくれたのですね」
「……いや、その俺はそんなに大したことが出来た訳じゃないですよ?」
おろおろしている横島を見て思う、最初は警戒したがこの青年はどこまで行っても善人なのだろう。感謝されるのも、礼を言われるのも慣れていない……見ていて微笑ましくなるようなそんな好青年だ。
「えっと永琳さんは月の人で良いんですか?」
「月神族……そう言われております」
姫様が見初めたと言うのならば、それは私に取っても主に近い、敬語で喋ると横島はもっと楽で良いですよと笑った。
「姫様に見初められたのでしょう?」
「……えっとすいません。何の話でしょう?」
……姫様の好意に気づいていないのか……いや、これは気付きたくないのか……それとも心に決めた女性がいるのか……何にせよ、これはあまり触れないほうが良さそうだ。
「いえ、私の気のせいのようですね。すいません」
「は、はぁ……そうですか、それなら良いんですけど……その月神族って神魔とは違うんですか?」
「地球のしがらみから逃れた種族と言いましょうか……選ばれた存在と驕る神とでも思ってください」
正直私も月神族ではあるが、決して月神族であることに誇りを持っているわけではない。むしろその名に怒りと恨みを持っていると言ってもいい、蓬莱の薬を飲んだ姫様は追放され、私は月に軟禁された……同じ罪人と言うのなら私も地上に流刑にしてくれれば良かったのだ。
「姫様の事は何処まで?」
「えっと不老不死って言う事と……地上が好きだから、もっと地上を見たいって言う話は聞いています」
姫様がそこまで話したという事は相当心を許したと言うことなのね……。
「でも月の人なんですよね?輝夜ちゃんを捕まえに来た……って訳じゃないですよね?」
「ええ、そうね。私は姫様の教育係りだった、そんな私が姫様を捕まえると思う?」
「……思いません。助けに来た……んですか?」
「正確には一緒に逃げに来たかしらね」
今の月の情勢には正直うんざりしている。第一自分達で流刑にして、次の姫が見つからないからって姫様を連れ戻し、子を産ませる為だけに使おうなんて許せる訳が無い。
「今日の夜、月軍は動くわ。姫様を逃がす準備をしてくれるかしら?」
「……はい。判りました」
「それと……貴方も来る?」
一応駄目元で尋ねてみると横島は首を左右に振った。
「俺……戻らないといけない場所があるんですよ。1000年……後の未来に」
その言葉に私は眉を顰め、そしてそれと同時に疑問が解決したのを理解した。
「そう、時空転移者がいるのね?」
極めて稀少な能力だが、神魔に関係のある人間なら開眼してもおかしくない能力ではある。
「はい、だから……俺は一緒に行けないんです。だけど……そうですね、本当に輝夜ちゃんが不老不死なら……1000年後にまた会いに行きます」
「ふふ、姫様にちゃんと伝えておくわね」
ここで別れてもまた会える……そう信じている横島。そして姫様もそんな横島を信用しているから使いとして送り出したというのが良く判った。
「じゃあ、俺は戻ります」
「ええ、姫様に宜しくって、ちゃんと迎えに行きますって伝えてくれる?」
判りましたと笑顔で去っていく横島を見送りながら思う、月軍は決して甘い相手ではない。横島が護ると言っているからそれを信じたいという姫様の気持ちも判る……だけど横島がどれだけ優れた相手だとしても、人間である以上月軍には勝てない。
「それが姫様の考えなのですか?」
横島を瀕死にさせて、蓬莱の薬を飲ませることが目的なのだろうか……それとも……。
「本当に月軍と戦えると思っている?」
横島を見極めるには時間が足りなかった……人となりは判ったが、戦力としては不明だ。姫様が何故そこまで横島を信用しているのか……その理由が判らない永琳は首を傾げる。だが何時までも悩んでいる時間は無い、姫様とその友人である妹紅、そして最悪の場合横島を回収して逃げるための準備を進める為に永琳もその場を後にするのだった……。
~横島視点~
静まり返った屋敷の中を俺の走る音だけが響いていた。太陽が落ち、そして月が登り始めれば、輝夜ちゃんは朝以上におびえ始めた。
「……もこ」
「大丈夫、大丈夫だよ」
「う……うん」
震えて立ち上がることも出来ない様子を見れば尋常じゃない恐怖を感じているのは明らかだった。
「今の音はッ!?」
月が上空を差した時、乾いた音が響き渡り屋敷の中の雰囲気が変わった。
「……き、来た……」
その声を聞くと同時に俺は輝夜ちゃんの居た部屋を飛び出し庭へと走った。
「心眼、今のは!?」
【指向性の精神攻撃だ。恐らく月軍の攻撃だろう】
あの乾いた音は結界にその指向性の精神攻撃とやらが弾かれた音だったのだろう。今屋敷中に静寂が広がっているのはその精神攻撃で全員意識を失っているか……眠っていると見て間違いないだろう。
【相手の目的はあくまでお姫様を連れ帰る事だろ。これは人払いなんじゃないのか?】
金時の言葉も判る、自分達の目的を達成する為に人払いをする。それは美神さん達も何度もやっていたし、その手伝いをしたこともある。
(だけど何なんだ。この胸騒ぎは……)
金時の言うことも判る。俺自身もそうであると思っている……それなのにそれ強烈に嫌な予感がした……そしてその予感は的中していた……。
【……これが神魔のやる事か……】
【……信じらんねえ……嘘だろ】
心眼と金時の言葉が遠くに聞こえた。庭で待機していた兵士と陰陽師の詰め所……それは跡形も無く吹き飛ばされ、そして今も静かに炎上を続けている……それだけならば威嚇で吹き飛ばしたと思えなくもなかった。何よりも、俺もそうであって欲しいと思っていた……だが静まり返った庭から聞こえてくる鈴のような声に俺は自分の願いが裏切られたことを知った。
「ああ、穢らわしい」
「本当ね。見るに耐えないわ」
そこにあったのは地獄だった。仮面を付け、鎧を身に纏った女の兵士……それが倒れている兵士達に刀をつき立て、蹴りを入れ、まるで子供が蟲を嬲る様な残虐な有様が繰り広げられていた。15人ほどの兵士の中に永琳さんの姿はあるが、顔を背けその顔を悲壮そうにしていた。輝夜ちゃんが恐れ、そして永琳さんが顔を顰めていた理由を俺は知った……月神族と言う神魔の一種であれ神魔だと、敬うべき存在だと思っていた。そう、小竜姫様やブリュンヒルデさんのように、厳しくはあるが優しい人であると俺は思いたかった。だが現実は……非常だった。
「……これが月人……なんとおぞましく、醜悪かッ!」
「口を慎め、人間」
西郷さんだけが立っていたが、リーダーと思わしき女の一閃で吹き飛ばされてきたのを受け止める。
「ぐっ……何故来たッ!」
「無理に動かないでください!」
俺が来ている事に気付き声を荒げる西郷さん以上の声を出して、屋敷の中に西郷さんを横にして代わりに前に出る。
「今度は子供か」
「良いじゃないか、子供は泣き叫ぶ。穢らわしいが……痛めつけるには丁度良い」
死んでもなお切り刻まれている兵士、陰陽師を見て顔を歪める。
「穢れ人よ、姫を反すが良い、そうすれば苦しみ無く殺してやろう」
にやにやと笑う女達に初めて、女性に対して明確な敵意と殺意を抱いた。
「穢れ人って何だよ」
「地上にいる者は皆穢れていて、そしておぞましい。同じ空気を吸うのも不快だ」
顔に付けている仮面は酸素マスクって事か、おぞましい、穢れていると聞いて頭に血が昇るのを感じた。それでも冷静に、対応しようとする。
「輝夜ちゃんをどうするつもりだ」
「流刑はすんだ、ならば月に戻すのが道理だろう?そこで子を生ませ処刑する。我らに必要なのは姫ではない、その血だけだ」
蟲や何かを見る感情も何も無い冷酷な瞳……それがガープ達を連想させ、面白半分に切り刻まれた人達の死体と人間を見下している月神族の態度に激しい怒りを抱いた。
「ぐっつ!?」
胸の中で何かが脈動した気がした。その痛みと苦しみに胸を押さえて蹲る、胸に手を当てると胸を突き破るのではないかと思わんばかりに心臓が鼓動している。
(横島!大丈夫か!よ……し……)
心眼の声がノイズ交じりに遠くなっていき、その代りに気が狂いそうな怒りが心臓が鼓動する度に全身に駆け巡るのを感じた。
「不老不死なんだろう……どうやって処刑するんだよ」
「獣に食わせればよかろう、蘇っても死に、死んでも蘇る。後は顔と身体は良いから蘇らせた後は男に与えればいい、ああ、だが子供は孕まないようにしなければならないか」
それは彼女を人間とも思わない言動だった。月神族は神魔であるが……俺の中ではもう敵にしか過ぎなかった。
「隊長話しすぎですよ」
「くすくす、どうせ殺すのに」
「良いんじゃない?この屋敷にいるって事はあの姫様の男でしょ?」
「自分の愛した女がどうなるか位は穢れ人でも情けとして教えてやるべきだろう?」
それは自分達以外を見下したあまりも冷酷で、そして余りにも人を馬鹿にした言葉だった。そしてそれと同時に輝夜ちゃんが月神族を恐れて……いや、嫌悪していた理由が判った。
(ごめん、俺は全然理解してなかった)
輝夜ちゃんの事も、永琳さんの事も俺は全然理解してなかったのだ。そして何よりも人の善性……正しさと言う物を信じすぎていたのだ。
「ぐっ!?」
肩に衝撃が走り吹き飛ばされるが、地面に足を叩き付け無理やりに立ち止まる。
「倒れなかったわね、失敗だわ」
「じゃあ次は私」
「その次は私だからね、いきなり頭を撃つなんて止めなさいよ。盛り下がるんだからさ」
「穢れ人を殺すのは最高の遊戯だからね」
「これが本当に楽しいのよね」
怒りが、憎悪が押さえられない……人を殺す事が楽しい……そんな理由でこの人達は殺された、家族や大切な人達がいただろう。それなのに、神魔のおぞましい趣味の為に殺された。そして遺体も原型が判らないほどに切り刻まれた……。
(そんなにもこの人達は悪いことをしたのか)
いいや、そんな訳が無い。広い世界を、景色を、そこに生きる人を見たいと願った輝夜ちゃんを護ろうとしただけだ。それが悪な訳が無い……
「てめえら……何様のつもりだッ!こんな事をして良いと思っているのかッ!!」
【おい!横島駄目だッ!戻れッ!戻ってこい!!】
【おいおい!やべえぞこれ!!!】
俺の言葉に月神族は一瞬きょとんとした表情になったが、俺を指差して笑い始めた。頭の中で心眼と金時の声が聞こえたがそれ以上の声でその言葉は掻き消された
【殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せッ!】
殺せと言い続ける何かの声、そして俺を指差して笑う。だがそれは嘲笑と言うべき、侮蔑に満ちたおぞましい声だった。
「穢れ人が何か言ってるわよ」
「はいはい、虫が何を言っても私達は気にしないわよ」
「それよりさー、次のやつ撃ちなさいよ。私が撃てないじゃない」
「じゃ行くわよ」
俺に向けられた銃から放たれた銃弾が命中する寸前、懐から飛び出した漆黒の眼魂がそれを弾き飛ばす。
「「「!?」」」
驚愕に顔を歪める月神族を睨み、空中に浮かぶ眼魂を握り締めてゴーストドライバーに押し込む。
「……お前らを……俺は許さないッ!」
ここにいる人達に罪など無かったッ!
永琳さんだってこんな光景を見たかったわけじゃない。
あの優しい輝夜ちゃんが生きながらに食われ、慰み者になる理由なんて何て無いッ!
(全部全部全部ッ!悪いのは月神族だッ!!)
【止めろ! その力を使うなッ!!】
【殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せッ!!!】
心眼の制止の声も殺せという声に掻き消される。目の前が真紅に染まるのを感じているとベルトから漆黒の禍々しいパーカーが飛び出した。
【アーイッ!ユガンデミナー、ニクンデミナーッ!】
「きゃっ!?なによこれ!」
「ぎっ!?」
「ああああーーッ!」
パーカーゴーストに襲われ血を撒き散らし、混乱している月神族を睨みながらレバーを強く握り締める。
「変……身ッ!!!」
【ギガン、シェイドッ!!OK!レッツゴー!イ・ツ・ワ・リッ!ゴースト!】
全身を包み込む怒りと憎悪……目の前が真紅に染まり、1つの事しか考えられなかった。死ぬ理由の無い人達が死んだ、悲しむ必要の無い人達が涙した……その全ては月神族のせいだ。こいつらさえいなければ……こんな事にはならなかったのだ!
「……殺してやるッ!」
月神族は存在してはいけない、ここで全て全て殺してやるッ!!そしてお前達が殺した人達の分まで痛めつけて、傷付けて殺してやるッ!!!
「【■■■ーーーーーッ!!!】」
平安京に響き渡る横島の絶叫。だがそれは最早人の者ではなく、血に飢えた獣の咆哮なのだった……。そしてその全ての引き金を引いた月神族が怯え、身を寄せ合う中永琳が駆け出し、横島の横を通って屋敷の中へ向かう。
「……」
「任せて」
一瞬シェイドに睨まれたと感じた永琳だが、そう言うとシェイドは小さく頷き、永琳を屋敷の奥へと通した。そしてその後を追って1人の月神族がシェイドの横を通ろうとした瞬間。水が湧き出すような音が屋敷の中に響いた……勿論それは水の音などではない、そして雨の音でもない……。
「ごぷ……ッ」
素手の横殴りの一撃、それでその月神族の上半身と下半身は泣き別れし、下半身から吹き出た血が屋敷の庭を濡らす音だった……無造作に地面に落ちた月神族の頭目掛けシェイドが足を振り上げ、何の躊躇いも躊躇も無く月神族の顔面を踏み砕いた。
「■■ッ!!!!」
「「「「ひっ!?」」」
頭が潰された月神族は大きく1度痙攣すると動かなくなるが、シェイドはそんなことなど関係ないと言わんばかりに何度も何度も足を振り上げ執拗にその顔を踏み砕き、そしてその足ですりつぶした。シェイドの全身から溢れる憎悪と殺意、そして惨たらしいまでの攻撃に月神族は悲鳴を上げるが、それは全て自分達が穢れ人と呼んだ地球人に行ったのと同じ行い……自らの暴虐、そして悪逆の全てが自分達に跳ね返ってくると初めて月神族は知った。
「退却だッ!八意 永琳に反逆の意図あり、月へ……「■■ッ!」……ごぽ……ば……化け物……」
退却命令を出している女もまたシェイドの腕から伸びた真紅の霊波刃に無慈悲に下半身と上半身を両断され、血を吐きながら地面に落ちる。それを見た月神族は悲鳴を上げて逃げ出すが、余りにもそれは遅く、そして許されないことだった。
「■■■■ーーーーーッ!!!」
輝夜の屋敷から逃げ出す月神族をにがさないと言わんばかりに響いた咆哮。それと同時に屋敷は結界で覆われ、逃げようとした月神族の退路は全て立たれ。半狂乱になる月神族を睨みながらシェイドは拳を地面に叩きつける、地面から引き抜かれた漆黒の斧「ガンガンアックス」とベルトから飛び出したガンガンブレードがぶつかり合う火花は周囲に散る中、ゆっくりとシェイドは月神族に向かって歩き出した。走るのではない、ゆっくりと肉食獣が獲物を貪るような……そんな異様な雰囲気がシェイドの全身から放たれていたのだった。
「み、美神さん!今の声は!」
「横島君しかないでしょ! 行くわよッ!」
そして美神達もまた六道の屋敷を後にする。今響いた獣の咆哮……それが横島の声であると気付いていたから、だが美神達を待つのは信じられない光景であった……横島の中に眠る獣性の開眼。鮮血に染まる両拳と逃げ惑う月神族、そして陽炎の様に立ち上る殺気と魔力に美神達は声を失うこととなるのだった……。
「世界の終焉は今この時より始まる、さぁ、この世界、この時代に生きる者達よ。悔いなく選択をする時が来たぞ」
そしてこうなる事を知っていた1人の男の楽しげな声が、闇夜の中に消えていくのだった……。
GS芦蛍外伝平安大魔境 その16
月神族をおもっいきり嫌な存在にしました、選民思想と傲慢ってこんな感じかなって思ったので、その結果がシェイドの誕生と暴走と言う形になりました、次回はシェイドの暴走を止める話ですが、どんな結果になるのかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。