GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! 平安大魔境 作:混沌の魔法使い
平安大魔境 その2
~美神視点~
黒い穴に吸い込まれた美神達はどこまでも続くような漆黒の穴を上下左右に複雑に回転しながら落ちていた。目を閉じているのか、開いているのか、吸い込まれる寸前まで手を掴んでいた蛍とシズクの手の感覚すらもあやふやだ。それでも手放してはいけないと身体が闇の中に溶けるような感覚を味わいながらも必死にその手を掴む、自分が手を掴む事で蛍もまた横島の手を放さないと信じて、そして永遠とも思える暗闇を抜ける瞬間に何か揺れる様な感覚を感じると同時に5人の悲鳴が重なった。
「「「「「きゃっ!?」」」」」
お尻から落ちたので全員お尻か腰を押さえて呻いている。と、とりあえず全員無事……全員?
「横島君ッ!?」
「横島ッ!?」
横島君の声や、うりぼー達の声が聞こえないので、慌てて横島君の名を呼ぶが横島君からの返事は無く、横島君の姿もない。
「ちょっとヒャクメ!貴女横島君と手を繋いでたわよねッ!?なんで横島君がいないの!?」
「そ、そんなの判らないのね~わ、私はちゃんと手を繋いでいたのね!」
ヒャクメが半分逆切れで叫ぶが、その様子では掴んでいた感覚はあったのだろう。だからヒャクメ自身も混乱している……1度深呼吸をしてごめんと謝って周囲を確認する。
「蛍ちゃん……」
「はい、判ってます。これ……「濃い」ですね」
流石蛍ちゃんだ、少し意識を集中しただけで私が何を言いたいのかを理解してくれたようだ。森の中だが、その中に満ちている霊力の1つ1つの濃度が桁違いだ、それこそうりぼーがいた森の様に、高密度の神通力で満たされた神域の中にいるようだ。
「シズク、清姫。どうなってるか……シズク?清姫?」
声を掛けても返事を返さない2人を怪訝そうに見つめていると2人が同時に弾かれたように走り出す。
「ちょっ!?急に……まさか横島君を見つけたの!?」
横島君に対して非常に過保護なシズクと横島君に病的な愛情を向けている清姫だ。もしかしたらと言う一縷の望みを抱いて私達も後を追って走り出し、森を抜けると同時に目の前に広がった光景に絶句した。そこにはとても現代とは思えない、古風な街並みが広がっていたからだ。
「え?嘘……」
「これって……まさか、またなの!?」
1度中世に時空間移動したことはあった。だがまさか2回目が起きるなんて思って見なかった……しかもこれは、平安時代。日本の歴史の中で霊力が満ち、魔界への通路や神隠しが最も多発していたと言う魔境の時代である平安時代だ。下手をすれば魔界なんかよりもよっぽど危険な場所と言える。
「……高島の屋敷がある。間違いない、ここに「私」がいる」
「ええ、そして私もいますわ」
1000年前のシズクと清姫がいると断言した。平安時代の高島の屋敷と現代の高島の屋敷……平安時代で何かが起きて、現代にも何か影響を齎したのかもしれない。それがあの漆黒の穴だったと思うと、辻褄は合う。
「シズク、高島と接触とか出来る?」
「……出来ないことはないが……今は少し様子を見よう。横島の事も心配だ、気配が判らないからな。この山のどこかで気絶しているかもしれない」
「そ、それはありえるのね~平安京に入る前に情報集めをするべき……おえ、急に走ったから気持ち悪いのね……」
この駄女神と心の中で怒鳴り、今にも山を下って行きそうな蛍ちゃんの肩を掴む。
「この格好で出歩く訳にはいかないわ、それに明らかに物々しい雰囲気だわ」
都の中を明らかに武装した兵士と陰陽師が歩いている、そんな中を現代の服装で行けば捕えられて、弁解の余地も無く処刑されかねない。
「……はい」
「ええ、横島君は心配だけど……今は私達の心配をしましょう。それに横島君なら心眼が着いているから、きっと助言してくれる筈」
心眼が横島君を守るべく動く筈だ。だから横島君と合流する為にも、今は情報を集めましょうと声を掛ける。
「シズク、着物とかお願いできるわよね?」
「……ああ。全員分何とかしてくる。それまでは森の中にいてくれ」
言うが早く、地面に溶けていくシズクを見送り、私達は巡回している陰陽師に見つからないように森の中に身を潜める事にするのだった……。
~横島視点~
美神達が横島の事を心配している頃。横島はと言うと……美神達の予想に反して、京の近くで鬼の群れと必死に戦っていた。
「でいっ!せやあッ!!だあああーーーッ!数が多い!地味に強い!何だこれッ!なんだこれッ!!!!」
栄光の手を両手に発生させ、飛び掛ってくる紫色の鬼を殴り飛ばし、蹴り飛ばし必死に自分の背後にある物を守っていた。
「みーむうううッ!!!」
「ぷぎーーッ!!!」
チビの電撃とうりぼーのビームが際限なく襲ってくる鬼を消し飛ばし、ほんの少しだけ鬼の勢いが止んだが、あちこちの物陰から鬼が既に顔を見せている。
「大丈夫ですか?」
泡を吹いて倒れている牛が引いていた牛車から顔を見せた黒髪の美少女。その姿を見ると鬼の勢いが増した、明らかに鬼の狙いはこの少女だと馬鹿な俺でも判った。
「大丈夫だから隠れててッ!チビノブ、その子を頼んだ!それとおっさん!お前良い加減に動けやあッ!!」
隠れているように叫び、牛車の上でチビノブ銃を構えているチビノブに女の子を守ってくれるように頼む。
【ノッブウッ!】
屋根の上で任せておけと言わんばかりに勇ましく鳴いたチビノブ。鬼の動きは激しいが、牛車を狙ってきているのでその前に俺とチビとうりぼーがいれば突破される事はない、だが念の為にと護衛だったと思われる今では牛車の影で頭を抱えて震えているおっさんに叫ぶが、俺が怒鳴る以上の声で怒鳴り返された。
「う、うう、五月蝿い!検非違使に偉そうに言われるいわれはない!わ、私は陰陽寮の陰陽師だぞ!」
「なら余計に戦えやあッ!!!」
陰陽師だというなら戦えと叫ぶが、怯えて役に立たないことに余計に苛立ちを覚えながら、懐の眼魂に手を伸ばそうとした。
【止めろ横島。周囲の霊力の流れがおかしいし、何よりもここは現代じゃない、動けなくなるリスクは避けろ】
「だけど、心眼。このままッ!じゃッ!本当に不味いッ!!」
「ギギャァッ!?」
「ギィッ!?」
茂みの中から飛び掛ってきた鬼の顔面を殴りつけ、回し蹴りで鬼を蹴り倒しそのまま頭を踏み砕いた。だが砕いた感触などは無く、霊力になって霧散していった。
【何者かに使役されている、見かけは鬼だが中身は人型だ。恐れずに、冷静に対処しろ。今のお前なら変身しなとも対処できる】
心眼の言葉に本当かよと叫びそうになりながらも、必死に鬼と戦う。美神さんや蛍も近くにいるのか、いないのか、それすらも判らないが、心眼が何も言わないという事は近くには居ないという事なのだろう。もし近くに居れば、もう少しで応援が来るとか心眼なら言ってくれる筈だからだ。
「チビ、うりぼー!少し頼むッ!」
「みむッ!」
「ぷぎッ!」
しかしこのままでは焼け石に水だ。使役されていると言うことは陰陽術、陰陽術と言うことは俺でも何とか出来る可能性は充分にある。
「心眼、サポートを頼むッ!」
【判った、無茶をするなよ】
地面に手をおいて意識を集中させる。後ろで喚いているおっさんの声や、チビ達の声も耳に入らない。この周辺に満ちている霊力とその霊力の乗せられている声だけに意識を向けろ、出来る、出来るはずだ。
【……せ……せ……】
(遠いな……もっと意識を集中させるんだ……)
相手の霊力を道しるべにして、術を使役している相手の所にまで辿り着けばいい。これだけ同じ鬼がいるんだ、共通している霊力のパターンが必ずある。心眼の助言を聞いて、更に意識を集中させて、かなり遠くから伸びている霊力の糸を手繰り寄せる。
【殺……せ……殺せ……あの……女を……殺せ】
殺意に満ちた小さな声……だが確かにこちらに向けられている殺意の霊力を捉えた。
「掴まえたぁッ!急急如律令ッ!破邪一閃ッ!」
親指を噛み切り空中に文字を刻むと同時に地面に右手を叩きつける。それと同時に雷が落ちたような音が響き、無尽蔵に押し寄せていた鬼はその姿を消した。
「ふいーーー、疲れたぁ」
その場に座り込んで大きく息を吐いた。鬼と戦っていたのもそうだが、なによりもあれだけの殺意が込められた霊力を手繰るのは精神的にも疲れた。
「みぎゃああッ!!」
「ふぎいいいいいいーーーッ!?」
チビの威嚇の声とおっさんの悲鳴、全然気付いてなかったけど、俺今襲われる所だったのか……。
【大方お前を犯人に仕立て上げようとでもしたのだろう】
「どこにでもいるんだな、狡賢い奴って」
美味しい所だけ掻っ攫おうとしたおっさんをとりあえず縛り上げる。また襲われたらかなわないしな……おっさんを縛り上げながら思うけど、この服装……それにあの牛車。どこからどう見ても平安時代って感じだよな。
「またタイムスリップした?」
【その可能性はゼロではないな、美神達もどこかにいればいいんだが……】
時間を移動した時にはぐれた美神さん達の事を考えていると、馬の嘶きが響いた。
「心眼、これ不味くない?」
【不味いだろうな】
「みむう?」
「ぴぎい?」
縛り上げられたおっさんと死んでいる牛とチビ達を連れている俺、これ明らかに俺が犯人にされる奴だと気付いた時にはもう囲まれていた。
「怪しい服をしているな、こいつが鬼を召喚していた術師だな」
「捕えろ!抵抗するなら切り殺しても構わんッ!」
「鬼道様!己よくも!!」
ああああ……これ絶対誤解とか解けない奴!!うりぼーを巨大化させて逃げようかと思い始めたその時、男の人の鋭い声が響いた。
「待て!確かにその童は怪しいが、行き成り下手人と決め付けるなッ!」
「……西条さん?」
服装は違うが、顔付きが西条さんに凄く似ていて、思わずそう呟いた。そして馬の上の男性も俺を見て驚いた表情をしていた。
「高島……いや、良く似ているが違う……?」
高島って……それって俺の前世って言われてる陰陽師の名前じゃ、俺と馬の上の男性が困惑していると牛車の扉が開いた。
「西郷殿。お疲れ様です、それよりも、そこの少年は私を助け、式神と共に私を守り続けてくれました。私の恩人に刃を向けるとは何事でしょうか?」
十二単を来た黒髪の少女の凛とした声が響いた。それを聞くなり俺を囲んでいた陰陽師は全員が膝を付いた。
「輝夜(かぐや)様。ご無事で何よりです、それよりも……「私の言葉を疑うのですか?」いえ、輝夜様の恩人ならば我らはすることは何もありません」
「そう、鬼道は鬼が出るなり隠れ全くに役に立たず、それに加え、そこの少年を殺して犯人に仕立て上げようとしました。私はそんな恥知らずの陰陽寮に守られるつもりはございません」
キッと西郷と言う陰陽師達を睨んだ輝夜と言う少女は俺に向けて笑いかけながら駆け寄ってくる。
「助けていただきありがとうございます。おじいさん達の屋敷でお礼を言いたいので、一緒に来てくれますか?」
「あ、はい。判りました」
「それは良かったです。丁度新しい牛車も来ましたし、参りましょう」
あれよ、あれと言ううちに俺は牛車に押し込まれ、輝夜と言う少女に連れられて、その場を後にしているのだった……。
(あれ?輝夜……)
さきほど西郷と言う人に呼ばれていた目の前の少女の名前を思い返し、真向かいに座っている少女に視線を向ける。
「どうかなさいましたか?」
「え、いえ、なんでも……」
もしかして竹取物語の輝夜姫とか言わないよな……いや、まさか……でも、明らかに気品とか凄いし……マジで輝夜姫なのかな。俺の想像を超える事が続き、俺は霊力の消耗もあった事もあり、完全に思考が停止してしまうのだった……。
~ガープ視点~
「アスモデウス、面白いことになったぞ」
「なにがだ?」
「横島達が私が作り出した箱庭に迷い込んだ」
実験的に作り出した箱庭。ありえたかもしれない、IFを測定する場所に横島達が迷い込んだ。本来ならば、過去を変えて現代にどんな影響を与えるかの実験のつもりだったが、横島達が迷い込んだと言うのは余りにも好都合だ。
「英霊を何体か配置していたな」
「ああ、あの時代よりも未来の者をな。それに道真にも術を掛けている」
「いいじゃないか、ここで決着をつけてしまっても良いんじゃないか?」
「それもありと言えばありだが……もう少し様子を見たい気もする……が」
平安時代は霊力が満ちている、天界や魔界と比べても大差ない。横島の成長の上限を見極めるには絶好の機会か……。
「良いだろう、横島の上限を見たらここで回収してしまおう」
「ああ、天界も魔界も浮き足立っている。ここで一気に片を付けるのも悪くあるまい」
人間界と天界や魔界での成長具合の把握と言うのをメインにすれば問題なかろう。アスモデウスは勝負に出たいと感じているようだから口では同意したが、今はまだその時ではない。
(楽しみだよ)
ありえないIF、存在してはいけない者、ありえてはいけない結末が用意された箱庭。だがそれは決して現代に影響を与えないものではない、例え箱庭であり、現在と道が繋がっていないとしても、この時代で何かが起きたという事実さえあれば歴史改変はなされるのだ。
(どうなるか楽しみだ)
平安時代で成長の限界を見せてアスモデウスに捕えられるのか、それともそれを潜り抜けるのか、そして横島達がおこした何かが現在を変えるのか……今は何が起きるのは判らない、だが1つだけ言えるのは間違いなく、私を楽しませてくれるという事だけは決して変わる事のない1つの答えだという事だ。
平安大魔境 その3へ続く
今回も導入回なのでやや短めです。次回も導入回に近い感じなので、次回も少し短い感じとなります。本格始動はその4からになりますね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。