GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! 平安大魔境 作:混沌の魔法使い
GS芦蛍外伝平安大魔境 その30
~蛍視点~
横島はヒャクメの診察通り、翌朝目を覚ましてくれた。正直霊力が枯渇している筈だから、最後の戦いには参加出来ないと私も美神さんも考えていた。だがそれは私達が横島が起きたと知った時に簡単に覆されてしまった。
「っとと、ふふ、横島様。調子が良さそうですね?」
「おお、寝たのが良かったのかなあ……バリバリ元気ッ!」
庭で清姫と霊力の循環をさせながら組み手をしている横島に私も美神さんも驚きに目を見開いた。そして縁側に腰掛けているシズクも目を細めて、信じられ無いと言う顔をして、清姫と横島を見ていた。
「ちょっとどういうこと?大丈夫なの?」
横島に聞かせるわけにはいかないと判断したのか、美神さんが小声で尋ねる。
「……横島の霊力の許容量が凄まじい勢いで跳ね上がっている」
【……恐らく狂神石の影響だ】
シズクの膝元から心眼がそう告げた。狂神石の影響と聞いて、私も美神さんも思わず眉を細めた。
【霊力の最大値が今は上がっているだけだが……警戒は緩めれないな】
「そうね……心眼。横島君をお願いね」
判っていると返事を返す心眼を見ながら縁側に腰掛ける。
(……早い、私なら押し潰されている)
清姫は外見こそ可憐な少女だが、その実日本を焼き野原に出来るほどの竜気を持つ龍神だ。そんな龍神と霊力を巡回させる組み手が出来るとは思えない。
「もしかしてヒャクメと協力してるのが関係している?」
昨日ヒャクメが言っていた事を思い出して、それで竜気が低下してるから霊力組み手をしているのか?と尋ねるとシズクは首を左右に振った。
「……私達の霊力も神通力も既に回復してる、横島はベストな状態の清姫と霊力組み手をしている。小竜姫ほど、竜気のコントロールが上手くない清姫とな……」
その話を聞いて私も美神さんも改めて信じられないと思うのと同時に、横島の伸び代の凄まじさを知った。私達が1つずつ成長しているのに対して、横島は一足飛びで凄まじい勢いで成長している。経験と知識の差で今はまだ私達の方が上だけど、横島が私達を追い抜くのも時間の問題かもしれない。
「はい、お疲れ様でした」
「ありがとな。清姫ちゃん」
「いえいえ、私も楽しかったですよ」
しっとりと汗を浮かべている清姫と、けろりとしている横島。その姿を見ると龍神よりも霊力が多くなっているのかと正直怖くなってくる。
(多分あれじゃないかしら。竜気のコントロールの問題)
(……そうだといいですね。本当に)
(ええ……そうね)
清姫が竜気のコントロールが下手だから、横島にダメージを与えない為に慎重にコントロールしていて、その影響で清姫が息を切らしている。私も美神さんもそうであって欲しいと思った、それは横島が自分達よりも強くなる事を恐れたのでは無い。龍族で神族の清姫を上回るほどの霊力を発揮する……それは危惧していた「魔人化」をどうしても思い出させたからだ。今まで現れたどの魔人にも未熟な同胞と呼ばれていた横島が本当に「魔人」になってしまうかもしれないと思うのが恐ろしかったからだ。
「悪い、全員。大広間に集まってくれ、今……道真公からの使いが来た」
今まで見たことがないほどに真剣な顔をしている高島の声に、平安時代での最後の戦いがもうすぐ側に迫っていると悟り、私達は縁側から立ち上がり、大広間へと足を向けるのだった……。
~美神視点~
大広間には帝、躑躅院、幸華、西郷さんを始めとして、鬼道の失脚後勢いを失った陰陽寮、そして平安京の重鎮や、霊能者のトップが集まっていた。そして全員が全員この世の終わりだと言わんばかりの青い顔をしていた。
「良く来てくれた、今から道真公からの使いの言葉を改めて告げる」
帝が手にしていた書状を広げると空中にアスモデウスと道真公の姿が映し出された。
『人間達よ、我はお前達の戦いを存分に楽しんだ。英霊長尾景虎、英霊源頼光、そして酒呑童子を下し、そして我と道真公を相手にして全員が生き残った。その強さに我は素直に驚き、そして賞賛したい。人間も神魔に牙を剥くほどに力をつけたのだと、その傲慢にして不遜の
心構えを我は賞賛しよう』
……何が賞賛だ。思いっきり挑発してくれているじゃない……アスモデウスはガープと違って武人気質だと思っていたけど、やっぱり最上級神魔。その言葉の節々に人間を見下している響きが隠されている。
『我に膝をつけさせた横島忠夫、高島忠助に至っては今一度戦い。その首を奪ってやろうとも思ったが、我はこの様。しかれば再戦の時はまたいずれとしよう』
胸元を肌蹴させたアスモデウスの胸板には2つの足跡がくっきりと刻まれていた。あの跡の深さから見れば、間違いなく肋骨を損傷している。神魔の回復力は人間を越えているが、変身していたのが効いていたのか回復が阻害されているのかもしれない。
『故に神魔としてここに宣言しよう。本日正午……道真と人間達の決闘を申し出る。これで道真が敗れれば我は今回の戦で敗北を認め下がろう、そして神魔として誓う、この戦いに「我」は決して関与しない』
映像でも判る、アスモデウスは今ここに神魔として、道真公との戦いに関与せず、道真公が敗れれば撤退する事を神魔として誓ったのだ。
『では本日正午までに返答を待つ』
その言葉を最後にして書状は再び折り畳まれ、帝の手に収まった。
「この件に関しては私の一存で承諾した。道真公を調伏すれば、神魔が下がるというのならば、この取引は受けざるをえない」
英断ではある。負傷しているとは言えアスモデウスは最上級神魔――人間を殺すには十分に力を持っている。最初から私達にはアスモデウスの申し出を受け入れるしか道は無かったのだ。
「都からの避難を始めている。高島、西郷。お前達のみ残り、美神達へと協力せよ」
「「御意ッ!!」」
「そう言う訳だ。私達に戦力は殆ど無い、お前達に全てを任せる事を許せ。生き残れば、京にある物は全て持ち去っても構わない。よろしく頼むぞ」
完全に逃げ道を断たれているが、どっちにせよ。私達はアスモデウスを倒さなければ生き残る術などないし、これから道真公クラスの悪霊や神魔と戦う事もざらになるだろう。それならば、ここで経験を積んでおく事も悪くない。
「必ずや、成し遂げます」
「うむ、頼んだぞ。では我らも京より逃げる。更地にしてくれても構わんぞ、どうせ建て直すからな」
からかうように笑う帝を先頭に広間を出て行く人間を見送ると、大広間が一気にがらんとする。
「じゃあ、正午までに作戦を決めよう。倒すのは道真公だ、確かに道真公は強いが……勝てない相手じゃない」
「そうね。前ので戦い方のコツは掴んだわ」
シズク達に純水を精製してもらい、それを盾にして道真公の雷を防ぐ。これが一番確実でそして堅実な戦い方になるだろう。
「しかし、1度通用しなかったのだ。相手が対策を立ててくるのでは無いか?」
「それは勿論あると思うわ。刀や弓矢も扱っているしね……でも最大の攻撃パターンを防げるってだけで安心感は全然違うわ」
パターン?西郷と高島には通じていないけど、蛍ちゃん達が判っていてくれれば良い。
「狂神石で根本的な能力が上がっていても、相手は雷神。雷を扱う事が存在意義みたいなところはあるわ」
通用しないと判っていても、神魔として、雷神として雷を使わないわけにはいかないのだ。そこを否定してしまえば、道真公の神としての格に関わってくるからだ。
「……なるほど、神魔であるからこその不自由さをつくか、悪辣だな」
「……このずる賢さがあるから、神魔と戦って生き残ってきたんだよ」
同じ声なのに馬鹿にする声と褒めている声がするから正直困惑するわね……でも正直、そういう所を突かなければ私達が道真公に勝てる勝率は殆ど0に等しいと言っても良い。ほんの僅かな勝率を工夫と罠で埋める事で、私達はやっと神魔と互角に戦うことが出来るのだから。
「ヒャクメは霊脈の流れのコントロールと結界の構築をお願いね」
「OKなのね。私にどーんッと任せるのね」
「頼りにしてるわよ、横島君。金時の様子は?」
【俺ッチなら問題ないぜ、戦える】
「だ、そうです」
「OK、良かったわ。今回の道真公との戦いの主軸は金時をメインにするわ、横島君と高島は極力変身しない方向で行きましょう」
相手の最大の攻撃さえ防げると判っているのだ。それならばリスクを背負う必要は無い、もっとも安全策で、そして堅実に理詰めに戦いを進める為に私は正午までの時間を徹底して作戦会議に費やしたのだが……それらが全て裏目に出るとはこの時の私は思いもしないのだった……。
~西郷視点~
京を守る為に戦う事に私には何のためらいも恐怖も無かった。その為の力であり、そして研磨し続けてきた術である。京を守るために死ぬのならば、本望とさえ思っていた。
「では約束通り、道真とお前達の決闘を始めよう。我はお前達の戦いには介入しない、道真が倒れれば撤退する事を誓おう」
「良いわ、神魔として宣言したのだもの、その誓いに嘘は無いと信じるわ」
「では始めよう、道真。そう簡単に敗れるなよ、我の期待を裏切るな」
【……お任せください。アスモデウス様】
あの道真公があんな風に操られてしまう……狂神石の恐ろしさ、そして西洋の神魔の恐ろしさを知った。今よりももっと己を鍛え上げなければと心から思った。
【ガアアアアアーーッ!!!】
道真公の突き出した右手から放たれた稲妻。それは人間に当たれば一瞬で消し炭になるような恐ろしい威力を秘めている……だが私に恐れは無かった。
「……それは無駄だ」
「……届かない」
雷の先に現れた水の壁が稲妻を完全に無効化する。そしてその隙に私と高島は同時に指に挟んだ陰陽札を投げつける。
「「急急如意令ッ!かの者を蝕む邪を払えッ!!!」」
【ぬ、ヌガアアアアアーーッ!?】
正直に言えば道真公を蝕んでいる狂神石とやらの邪念を払う事は私にも高島にも出来ないだろう。それでもこの攻撃は決して無意味では無い、大きな意味を持っている。
「道真公!貴方は神魔なんでしょう!操られていて恥ずかしくないのッ!」
「学問の神!そして雷神なのでしょうッ!!」
「負けるなッ!自分を取り戻せッ!!」
狂神石と言っても完全に神魔を支配出来る訳では無い。封じられた自我を取り戻せば、道真公ほどに高位の神魔ならば狂神石の呪縛を跳ね除ける可能性もあるのだ。僅かでも邪気を逸らせば、僅かでも隙が生まれる可能性は十分にある。
【ちっと痛いが歯を食いしばってくれよなあッ!!】
「行くわよッ! 道真ッ!」
英霊坂田金時とメフィストの攻撃に道真公の身体が吹き飛び、鎧が砕けるのが見える。
「せい、やっ!はっ!!」
「燃えなさい」
薙刀と炎を打ち出し、道真公を追詰める1000年後の清姫様と清姫様。確かに道真公は強い、だが頭数が多ければ得手、不得手を組み合わせて強大な敵を打ち倒す事も出来る。協力し合う事……それこそが人間の強みであり、そして最大の武器なのである。
「いい加減、正気に戻れッ!この馬鹿ッ!!」
「いっけえッ!!」
美神達の打ち込んだ矢が道真公の胸部を撃ち抜いた。それは致命傷には程遠い一撃、だがそこを最初から狙っていて、私達の攻撃は全てこの一瞬の為の物だった。
【が、がががきあがえあげあぱあーーーーッ!?】
言葉にならない叫び声をあげて道真公が暴れ回るのを見て、後ろに控えていたヒャクメ様に視線を向けた。
「やったのね!そこが狂神石が溜まっている場所だったのね!」
狂神石はその名の通り、石を連想するかもしれないが液状の物質である。液体としてどこかの蓄積している可能性が高く、そしてそれが道真公の場合は右胸に狂神石が集中しているそこを打ち抜けば、狂神石が身体の外に出て、道真公が正気に戻る。もしくは行動不能になる可能性が高い、それが私達が道真公へ勝利する為の唯一の道しるべだった。
「よっしゃあ! これで……」
パンっと言う乾いた音が響いたと思った瞬間。高島の頭が吹き飛んだ……目の前で起きた光景が私には受け入れられなかった。
「……た……高島?」
思わずその名を呼んで倒れた身体を抱き起こす……額の中心が打ち抜かれていて、血液と脳髄が溢れている。即死だった……誰がどう見ても即死だった。
「高島がどうし……高島ぁッ!!!」
「……貴様ッ!お前は戦いに関与しないのではなかったのかッ!!!」
メフィストの叫び声とシズク様の怒声がやけに遠くに聞こえた。目の前にいた、今まで一緒に戦っていた……それなのに私は何も出来なかった。目の前で高島が死んだのを見ている事しか出来なかった。
「嘘は言っていない、我はこの戦いには関与しない。それに嘘偽りは無い」
【だが、私は違う。私は関与させてもらうぞ、美神令子、芦蛍】
アスモデウスの肩の上から飛び立った蝙蝠から発せられた嘲笑う声……全て、そう最初から全てガープの手中だったのだと今気付いた。
「うっ、うああああああああーーーーーッ!!!!!!」
「横島君ッ!」
「横島ぁッ!?」
【ギギィッ!?】
横島の苦悶の声に振り返ると、空中から急に浮かび上がったかのような金色の蝙蝠がその首筋に噛み付いていた。それを見て美神達が駆け寄り、首筋に噛み付いていた蝙蝠を振り払うが横島の目は開いていて、呼吸が浅い……確実に致命傷だ。地面に叩きつけられた蝙蝠の口から溢れている血液を見て、私はそれを悟ってしまった。
「最初から横島君が狙いだったのね!」
【当たり前だろう?特異点の力を得たいのは何も人間だけではない、神魔とてその力は欲しい。まぁ……私の狙いはそれでは無いがね。立ち上がれ、横島】
蝙蝠から発せられる言葉に反応するように横島の身体が跳ね起き、凄まじい勢いでこっちに向かってきた。
「ぐっ!?」
回し蹴りを喰らい高島の遺体から引き離される。だがすぐに体勢を立て直し、横島を見ると高島の着物の中から巨大な球体を取り出しているのが見えた。
「我は約束通り、手を出さぬ。契約としてそれは変わらぬ」
【だから私が動く、喜ぶが良い。我らはもう手を出さぬさ。道真も倒れた所だしな】
道真公が動き止めて地面に横たわっているが喜べる訳が無い。道真公に変わる敵が……味方だった筈の横島がその目を真紅に輝かせてこちらを睨んでいるのだから……。
【ああ、そうだ逃げられるのは詰まらんな】
金色の蝙蝠の身体が弾けたと思った瞬間。今まで私達の味方をしてくれていたヒャクメ様が作った魔法陣が牙を剥いた……まさかこれはッ!?
「わ、私の術式を乗っ取ったのね!?」
【何を驚く、貴様程度の術式を奪う事など訳は無い。見届けてから消えろ、美神令子】
乾いた音を立てて、美神とメフィストの身体が結界の中に閉じ込めれた。
【アーイ!ユガンデミナーッ!ユガンデミナーッ!!!】
そしてそれと同時に響く、聞いているだけで寒気と恐怖を誘う不気味な歌声。横島の周りを13のパーカーが踊っているのが見える、それを見た瞬間咄嗟に陰陽札を投げつけたが……それは横島に当たる前に消し炭になって消えた。
「なんという霊力だ!?桁が違う!」
道真公ですら当たる前に無力化するなんて真似は出来なかった。だが横島はそれを平然とやってのけた……それは今の横島の霊力が道真公を越えていると言う事を現していた。
「蛍ちゃん!私は良いから横島君の変身を阻止しなさいッ!」
「美神さん……でも!」
「「……ちいっ!!!」」
高島の死、横島の洗脳、そして美神達が結界による封印……私達が勝利の為に準備した全てが無碍になった。最初から道真公は捨て駒だったのだ……それを倒せば終わる、神魔が己の名を使った契約をしたから大丈夫と思った……それら全てが罠であったなんて、誰も予想など出来る訳が無い。
「……変……ッ!身ッ!!!」
【ジャゼンカイガン!ジュウマシンショオーッ!!ネズミウシトラウサギリュウヘビニウマヒツジサルトリイヌニイノシシッ!ダイヘンゲーッ!!!】
【「う、ウォおオオオオオオオオオーーーーーーーッ!!!」】
「ははははッ!さぁ、抗って見せろ人間よ。この戦いでは約束通り、我は手を出さぬ。仲間内で戦うがいい」
【はははははッ!最高のショーだッ!私とアスモデウスを楽しませてくれよ、人間達よ】
どす黒い霊力と赤黒いオーラを纏った漆黒の仮面の戦士が私達の前に立ち塞がり、メフィストと美神が消えた……。自分達が有利だと思った戦いは全て演出されたものであり、仲間も何もかも失った状況で絶望的な戦いの幕が今開かれたのだった……。
GS芦蛍外伝平安大魔境 その31へ続く
今回は戦闘開始まで書いてみました。高島、死亡。美神とメフィストは未来へ、横島が暴走してヒロイン勢のメンタル最低値と劣勢状況での暴走横島戦開始です。ここで未来から平安に来た小竜姫達も出して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。