GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! 平安大魔境 作:混沌の魔法使い
平安大魔境 おまけ その4
~琉璃視点~
茨木童子と言えば平安時代で酒呑童子と共に平安京を荒らしていた非常に強大な鬼、と言うのが霊能者の常識である。恐らく現代のGSでは勝てないとまで言われる強力な鬼であり、力強い大男等を想像している人が多いと思う。勿論私もそうだと思っていた……だけど事実というのは時に残酷である。
「てやあ!」
「ぬあったあッ!?やるな、紫ッ!」
……今屋敷の庭で童女に紛れてサッカーで戯れている少女が茨木童子なんてきっと誰も夢にも思わないだろうし、茨木童子って言われてもきっと誰も信じないと思う。
「2人とも頑張れー」
横島君の声援に2人とも満面の笑みを浮かべている、信じられるかしら?あの可愛い女の子が2人とも人間じゃないとか絶対誰も信じないと思うのよね。
「ぷぎいッ!」
「よっしッ! てーいッ!」
「なんのお!うりぼー!」
「ぴぐうッ!」
人造神魔と日本の歴史上1・2を争う鬼が日本家屋で猪とサッカーをしている……。
「美神さん。これどういう状況ですかね?」
「私に聞かないで」
歴史研究家とか霊能者が確実に発狂するであろう光景――いや、多分どんな人間が見ても発狂しかねない光景である。正直に言うと私もかなり来ているのを感じている。
【ノッブノッブ♪】
「みむうー♪」
「頑張れ紫ー!」
天魔ちゃんとチビノブ達が2人の応援をする光景を見て私は自分の常識が崩れ落ちそうになるのを感じた。
「横島と一緒にいるのに常識は必要はないわ」
「いつだってせんせーは常識を超えていくでござるからな」
「それ褒めてる?貶してる?」
「「褒めてるわ(ござる)」」
そっか、このレベルになれないと横島君と一緒にいるのって難しいのね……。美神さんと蛍ちゃんが遠い目をしているのってこれが原因なんだって判った。
「それで実際どうするつもりなんですの?」
「もう横島君の家に居候で良くない?」
横島君には懐いているけど基本的に人間が嫌いらしいので、引き離す方が危険だ。となれば、もう横島君に預けてしまえばいいんじゃない?と半分考えるのを放棄してくえすの問いかけに返事を返す。
「琉璃、考えるの放棄しないでくれる?」
「正直私は紫ちゃんの事で手一杯ですよ」
紫ちゃんが自分の能力をコントロール出来るように妙神山に行かせるように説得するだけでも手一杯だったのだ。そこに茨木童子なんて面倒見切れるわけが無い。
「人化でもして貰うつもりですか?」
「まぁそれがベターかな、ベストではないけど」
ベストは神魔に預けることだけど横島君も茨木童子もきっと了承しない。それならばリスクは覚悟で横島君の家に預けるしかない。
「横島の家がどんどん魔窟になるわ……」
「何を言ってるの蛍ちゃん。今更よ」
昨日昼食を食べるだけ食べて帰って行ったルイさん、凜さん、ネロさん。その内の1人でも日本を終わらせる事が簡単に出来る強大な神魔だ。そんな最上級の神魔が入り浸る横島君の家が魔窟でない訳が無い。
「ベルゼブルも入り浸ってるしな」
「ルキフグス様もいますから、下手をすれば日本で1番安全な場所なのではないですかね?」
「……ですねえ……ふう」
ビュレトさん達の話を聞いて私はますます横島君の家が魔窟だとおもった。と言うか、ルキフグスって魔界の重鎮じゃない……なんでそんな人が横島君の家でメイドをやってるのよ……と思わず叫びたくなった。
「大丈夫ですか?小竜姫様」
「はい……なんとか……でも疲れました」
疲労困憊という様子の小竜姫様。その背中には中間管理職の悲哀がこれでもかと滲んでいた。その姿を見て、何と言えば良いのか判らず、美神さん達と困惑していると今この場で1番聞きたくない人物の声が私達の耳に届いた。
「ふふ、可愛いですね」
「本当だよなーあれ?美弥ちゃん何時の間に来たの?」
「ついさっきです」
横島君の隣に当たり前のように座っている躑躅院美弥。その姿に私達は思わず腰を中ほどまで上げていた。
(……何時の間に現れたのか全然判らなかった)
私だけではない、くえすも美神さんも信じられないと言う顔をしている。躑躅院美弥は霊能者としての能力はないはず――躑躅院の妹という事だけだけど……何か秘密があるのかもしれない。でなければ私達の感覚をすり抜けて横島君の隣に座っているなんて事はありえないからだ。
(躑躅院美弥……か、何者かしらね)
躑躅院に関しては余りにも謎が多すぎる――しかしそれは容易に踏み込めばこちらの首を取りかねない魔境だ。1000年前から暗躍を続け、そして日本の政財界等にも手を回している。ある意味では六道家に匹敵する力を持っていると言っても過言ではない、陰陽寮を解体し、GS協会の傘下に入ると聞いてもやはり警戒を緩める事は出来ないだろう。
「今度東京に遊びに行きますね」
「うん、その時は訪ねてきてくれると嬉しいな」
「はい!必ずお伺いしますね」
横島君と楽しそうに話している躑躅院美弥は歳相応の少女に見える。だけど私達に加え、神魔であるビュレトさん達にも気付かれないで横島君の隣に座っていた事を考えると普通の少女と考えるのは余りにも危険だ。その何も判らないと言う様子自体が擬態の可能性もあり、私達は躑躅院に対する警戒を強める事を決めるのだった。
~くえす視点~
【そろそろ移動しても大丈夫ですね。ですが、東京に帰ったら詳しい診察を受けて貰います。では私はこれで】
ナイチンゲールの了承も得た事で明日の夜には東京に帰ることが決まり、今までゆっくり観光も出来なかったので京都の街を散策することになったのですが……。
【きゅう……きゅううーん……】
背後から付き纏う悲壮感さえも伴う動物の声。しかしここで振り返ってはいけない……振り返ってしまえば、そこであの神獣の赤子である神鹿は絶対に横島から離れなくなるからだ。ここは非情でもいい突き放すしかないのだ。
「美神さん」
「駄目よ。これ以上ペットを増やさないで」
「琉璃さん」
「流石の私も怒るわよ?」
美神と琉璃に頼もうとした横島が最後までいう事無く叱られて沈黙する。今私達の後ろには白い毛並みの子鹿が付き纏っていた。勿論横島に拾われたくて付き纏っているのだが、東京で鹿を飼うなんて不可能である。しかもこうしているだけで神通力を放っている神獣なんて飼える訳が無い。だから、こうして無視をして諦めてもらうしかないと思っていたのですが……。
「お父様から許可を得ました!私が飼います!」
「天魔ちゃーん!ありがとーッ!」
ふんすっと胸を張る天魔を抱き上げ、横島が子鹿の元へと走った。
【きゅう!】
「あんな、俺の家じゃ。お前は面倒見れないんだよ」
【きゅーん……】
「だけど天魔ちゃんの所にいたら、今度遊びに行けるんだ」
【きゅう!】
「と言う訳で、子鹿さん。私の友達になりませんか?」
【きゅうきゅーん♪】
天魔と横島の回りをくるくると回る子鹿。どうも天魔の使い魔になることで子鹿は横島に会えると認識して、天魔の使い魔になることを了承したようだ。
「良いんですの?」
「横島君の家に来なければ良いわ」
「正直乙事主に進化したうりぼーだけで私達は手一杯なのよ……」
横島を慕う小動物は見た目は可愛いが、その強さは桁違いだ。これ以上増えたら困ると美神と琉璃は言いますが、大事な事を忘れていると思うんですのよね。
「モグラちゃん忘れてませんか?」
「絶対人化習得したら帰って来ますよ」
忘れていたと言うか思い出したくなかったんでしょうね。今妙神山で修行しているモグラ、あの規格外の龍族の赤子。人化出来ないと言う理由で横島の手元を離れているが、あれも絶対横島の家に帰ってくるでしょう。
「それに紫ってあれでしょ?妙神山で修行するのは認めたけど、昼は横島の家にいるって言ったじゃん」
「せんせーは人気者でござるなあ!」
人気者とかそういう言葉で片付けて良い問題ではないんですけどね……。人造神魔の紫は妙神山での修行を認めたが横島が高校から帰宅する時間には横島の家に行くと言って聞かなかった。それを認めてくれないならば、妙神山に行かないと言われれば小竜姫も折れるしかなかった訳だ。
「だが俺はそれで良いと思う」
「私も同じ意見ですね」
ビュレト様とブリュンヒルデがそれで良いと了承した。確かに琉璃や美神には迷惑や負担をかける事になるだろう……だがそれは今の横島には必要な物だ。
「……精神安定になる」
「横島様は子供や小さい動物が好きですからね」
今も天魔や紫、そして茨木童子と戯れているが、その顔には笑顔が満ちている。美神達の言う平安京での狂神石に飲まれたというのが嘘のように思えるが、確実に横島の中に狂神石の狂気は眠っている。
「むむ?これは菓子か!」
「御菓子?私も食べる♪」
「私もー♪」
「じゃあ皆で買おうか、美神さん達も食べますかー?」
笑顔で私達に食べるかと尋ねてくる横島。怒りや憎悪に囚われれば再び狂神石は簡単に姿を見せるだろう、そうならないために横島が心穏やかに笑顔で過ごせる為に紫達の存在は必要不可欠だ。
「ただなぁ、アリスの奴が横島を魔界に誘っているんだよな」
「そういえば、魔界の子供達が自分の使い魔を捕まえる時期が近いですね……多分、その次期に横島を呼び寄せるつもりでしょうね」
ただ必要不可欠なのは判りますけど、魔界の凶暴な使い魔をアリスの所に行った時に連れて帰ってくるかもしれない。そう聞いて、美神と琉璃の目から光が消えた。
「まぁ頑張ってくださいな」
「私じゃどうにも出来ないんで」
「鯛焼きはクリームにしてよ」
「拙者は漉し餡でござるよー♪」
アリスの所に遊びに行かせるのは了承したが、魔界の獣を連れて帰ってくるかもしれないと言う事に冷や汗を流している美神達に頑張れと声を掛け、鯛焼きを注文している横島の所に足を向けるのだった……。
~心眼視点~
平安時代から戻って来てから沈黙を続けている心眼は横島達が笑い合う中でも戦いを続けていた。
【言っただろう?闇は消えない、芽生えた憎悪は消えることはない。未来永劫横島の魂の中で燻り続ける】
心眼の努力を嘲笑うかのように、水の中に黒インクを垂らしたように、滲み出るように黒い影が心眼の前に現れる。
「だろうな。横島とて人間だ、憎悪や殺意を消し去る事は出来ないだろう……だがそれに横島を支配させないのが、私の役目だ」
黒い影を拘束するように多角形の結界が展開され黒い影を覆い隠した。
【ほう?俺を封じれるとでも?】
「別に封じれるなんて思っていないさ。現にお前は私よりも強い」
小竜姫様の竜気で構成されている私よりも狂神石によって構成された闇の人格の方が力が強い。こうして結界で封印しても、そこから抜け出るのは時間の問題だし、何よりも横島の中に憎悪と殺意が芽生えたらその瞬間に結界は砕けるだろう。
【時間の無駄は止めたらどうだ?】
「それを決めるのは私だ」
月神族のせいで生まれた憎悪と殺意は消える事はない。仮に月神族を見ればその瞬間に横島は切れ、再び闇に堕ちるだろう。それ程までに横島の月神族への憎悪は深い、今まで綺麗な部分しか見ていなかっただけに、その闇に――いうならばその現実を横島は受け入れられない。ならば少しでもいい、狂神石に抵抗出来るようにするのが私の役目だ。
「少しずつでいい、闇を横島に馴染ませればいい」
結界の中から少しずつ零れる闇――それを少しずつ、少しずつ横島の魂に混ぜ合わせる。こうする事で、少しは狂神石の力に耐えれる様になる筈だ。
【はっ、お前が手綱を引けると思っているのか?】
「やり遂げる、私は横島を狂わせない。絶対にだ」
私の竜気で相殺出来る量になるから一気に馴染むことは無いが、時間を掛ければ私でもコントロールが可能になる筈だ。
【はっははっ!良いぞ。お前に俺が御せるか見届けてやろうじゃないかッ!お前が1番判っている筈だ。憎悪と愛情は紙一重、お前も狂う、狂うぞ!俺が狂わせてやるッ!ははははッ!!!!見物だな、高潔な竜の魂が闇に染まるのを近くで見れるとは、これほどの喜劇はないッ!!】
横島の姿をした闇が溶け、液状になり結界の中で沈黙する。結界の中から少しずつ、少しずつ零れる闇を私は呆然と見つめた。
「違う、私は……私は……私は横島を守るんだ。闇になんか……染まらない、染まる筈がないんだ……」
私は横島の心を守り、魂を安定させる者……そこに己の感情などない。だから闇に染まる訳がない……そう思っても、闇が残した嘲笑が私の耳から離れる事はなかった。それは自分で見ないようにしていた、己の感情を指摘されているような、言い様のない不快感が私の中に残り続けるのだった……。
~柩視点~
心配そうに見つめているゴモリーを背後にしてボクは首に巻いているチョーカーを外した。
「うっぎいッ!?」
「柩ちゃん!?」
その瞬間に脳を圧迫する凄まじい量の情報の数々に苦悶の呻き声を上げる。ゴモリーが近づいてくる気配を感じて、手を向けて来るなと合図を出す。ゴモリーが近づいてくれば、ゴモリーにひかれて更に情報が増えてしまう。あんな性格でも最上級の神魔だ、チョーカーを外している時に近づかれる訳にはいかない。浮かんでは消える様々な光景の数々、しかし普段とは違う物をボクは感じていた。
(なんだこれ……)
1つの光景が2つも3つも枝分かれをして、その先で消えていく……未来が分岐する光景は何度も見てきた。しかし、その道中が消えているなんて言う光景は初めて見た。今までと違う何かが起きている……普段の半分も未来を確認出来ない中。ボクは殆ど無意識でチョーカーを首に巻いていた。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない。今回は異常だよ、こんな事があるなんて……クヒヒ……どうなっているんだい」
いつもの様に横島を中心にして事件が起きる事は判った。だけどそのどれもが道中で道が途絶え、どうなっているのかまるで理解出来なかった。
「とにかくだ。早く会長殿達には戻って来て貰わないと困るね」
先の見えない未来は良い、起きる事は判っていてもそれがまだ先の話ならば、そこまで警戒することもない。だけど横島にすぐ起きるかもしれない事で容認できない物があった。
「そんなに不味いの?」
「不味いかどうかは判らないよ……クヒヒ。反転英霊と美神達が対峙している光景だけじゃね」
黒い鎧を纏った色素の薄い女。それが美神達と敵対していた――ガープによって召喚されたのか、それとも横島と何か関係性があるのか?それはボクには判らない。
「横島は?」
「いなかった。いなかったから焦っているのさ」
美神達の側にも、黒い女の側にも横島の姿は無かった。ボクが見る未来は横島を基点にしている、それなのに横島がいなかった。それは一種の焦燥感をボクに与えていた。何かがあって、横島が死んだのか、それとも入院しているのか?それともガープに攫われてしまったのか?何が起きたのかは判らない。だけど黒い女がいるときに横島がボク達の側にいない……それが恐ろしかった。横島に何が起きたのか、これから何が起きるのか?不安ばかりが募っていく。
「くひ、しょうがない。六道家に行こう」
「OK、抱き上げるわよ」
ゴモリーに抱き上げられ、ボクは六道家へと向かった。会長がいないなら、今東京で1番信用出来て、そして横島の為に動いてくれるのは六道冥華しかいない。
(どうなるって言うんだ)
ゴモリーに抱きかかえられ、空の上を移動しながらボクは得た情報を必死に整理していた。余りにも分岐した未来、途絶えた過程……横島の周りの未来がそこでばっさりと途絶え、そして別の未来に繋がる。
(そんな……いや、きっとボクの考えすぎた)
まるでそう……途切れた場所で1度歴史が途絶え、また別の歴史に繋がる――それが意味するのは1つ。文明の消滅……ガープによって世界が滅んだのか、何が起きたのかはわからないがまるでパッチワークのように別々の光景が繋げられる……そんな悪夢のような光景を見た。
「大丈夫?顔色が悪いけど……」
「大丈夫。早く六道家に向かってほしい……」
余りに鮮烈な光景だった、だがそれゆえにボクの脳裏からその光景は消えようとしていた。それはありえない事である、瞬間記憶能力者であるボクが記憶を失う。それは本来ならば、絶対にありえない事だ。
(修正力……の仕業なのかもしれない)
今思うと普段持ち歩いている手帳も無かった。それはボクが見た光景を残させない様にする為の修正力なのかもしれない、もしそうならば、世界は1度滅びる事を承認した事になる。
(冗談じゃない)
世界の終焉なんて認めるわけにも受け入れる訳にも行かない。それが修正力から許されないことであったとしても、ボクはそれを認めない。何をしても世界が定めたそんなクソみたいな結末を受け入れる訳には行かないのだ。
(横島がいない世界なんていらないッ!)
途切れた世界、繋がった歴史。しかし繋がった世界は幾つもあると言うのに、そのいずれにも横島の姿は存在しなかった。ボク達がいるのに、横島だけがいなかった。そんな結末、そんな幸福は必要ない。
(消えるな消えるな……)
だが世界はボクのそんな思いを嘲笑うかのように、ボクが見た光景を消し去っていく……六道家に辿り着き、慌てて受け取った紙とボールペンで書いた1つの光景――空中に浮かぶ時計の前に立ち、蛇が全身に巻きついた横島の姿……だがその目に何時もの穏やかな光は無く、冷酷な光を宿した真紅と翡翠のオッドアイの瞳になった横島が両手に眼魂を持つその姿――もっと見たはずなのに、ボクが覚えていて、そして記録として残す事が出来たのはたった1枚のその殴りかきにも等しい横島の絵だけなのだった……。
平安大魔境 おまけ その5へ続く
次回は東京での話で平安大魔境は終わりにしたいと思います。柩が見た光景、そして書き残された1枚の横島の姿――これがfinalでの大きな分岐になります。後関係ないですけど、仮面ライダークロノスとエボルって良いですよね?いや別に関係のない話なんですけどね、好きだなあって言う話です。どんな結末が待っているのか、そして柩が見た光景とは?もうすぐ最終章にはいるGSシリーズ。どんな結末を迎えるのかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。