GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!! 平安大魔境 作:混沌の魔法使い
平安大魔境 その5
~横島視点~
闇を切り裂く白い白刃……それは尾を引く白い光りにしか俺の目には見えなかった。
(早い……早すぎるッ!)
俺の反射神経では対応出来ない神速の刃。辛うじて致命傷を防ぐ事が出来ていたのは沖田ちゃんや牛若丸との訓練で刀を持つ相手の間合い、そして攻撃に関してある程度学ぶことが出来ていたからだ。そうでなければ、最初に切り捨てられた陰陽師同様俺も切り捨てられて地面に倒れていたに違いない。
【ふふふ、貴方は中々強いですね。久しぶりに骨のある相手と見える事が出来てとても楽しいです】
「そいつはどうもッ!!」
鍔迫り合いになり両手と両足に力を込めるが徐々に後ろに押し込まれる。
(くそっ!岩と力比べでもしてるみたいだッ!)
背こそ高いが普通……いや、ちょっと尋常じゃなく胸がでかいけど……穏やかな笑みを浮かべた女性だ。だがその力は凄まじい、ガンガンブレードが軋む音なんて初めて聞いた。
【ですが、まだまだと言った所でしょうか?】
「ぐっ!?」
前蹴りを腹に叩き込まれサッカーボールのように蹴り飛ばされる。それでも何とか受身を取って転がりながら態勢を立て直し、前を見て俺は驚いた。
「い、居ない!?」
俺を蹴り飛ばした女武者の姿が何処にも見えない。すぐに体勢を立て直したから視線から見失ったのはほんの数秒ほど……その一瞬で俺は目の前の相手を完全に見失っていた。
【気配が完全に無い……集中しろ】
心眼でさえ把握出来ないのかよ……直接的な戦闘能力だけじゃなくて姿を隠す能力も一級かよ……ガンガンブレードを構え必死に辺りをうかがうが、月夜に照らされた薄暗い都と虫の鳴き声しか聞こえてこない。
「ッ!!」
【あら、避けましたか】
空を切る音に身体を捻った直後何かが俺のいた場所を通り過ぎて行った。そして口元を押さえてころころと笑う女武者の手には弓矢が握られていた……
「……マジかよ」
着弾した場所が蜘蛛の巣状に抉れている。しかも地面の凹んでいる面積が半端ではない……
【ふふ、狩事は結構好きなのですよ?】
女武者が左手に弓矢を多数持ったのを見て血の気が引いた。
【ふふふ……遊びましょう?】
「そんな物騒な遊びはお断りだッ!!」
空を裂いて飛来する矢を飛び退いてかわすが、即座に2の矢、3の矢が飛んでくる。
(ちいっ!早すぎる!)
眼魂を交換する隙も考えを纏める時間すらも与えられない、狩事が好きと言っていたが理知的にまるで将棋かチェスに理詰めで追詰めてくる。
【あまり逃げると……判っていますよね?】
距離を取りすぎれば鏃は輝夜ちゃん達がいる牛車に向けてくる。つまり俺は人質3人を背負ったまま、圧倒的格上に挑まざるを得ない状況に追い込まれてしまった。
【勿論変な動きをしても同じですよ】
決まりだな……この女武者の英霊も紛れも無くガープに操られた1人だろう。ゴーストチェンジも封じられ、人質もいる。そして相手は英霊……その絶望的な状況に俺は背中に冷たい汗が流れるのを感じるのだった……。
~狂化英霊視点~
異能者を殺せという命令を遂行している最中で出会った若い男……それは最重要といわれていた相手だった。たかが人間と侮っていたが、それは間違いだった。
「はっ……はっ……」
【お見事、貴方はとても強いですね】
私の放つ矢は決して甘くない、だがそれを喰らい何度も吹き飛ばされながらあの男は徐々に徐々に対応しだした。そして今では4連射の内3射を手にした剣で打ち落とし、残りの一矢は今素手で受け止めて見せた。
(天賦の才……恐ろしいですね)
最重要で遭遇したら捕獲しろと言われた意味を理解した。この短時間で私に喰らいついてくる……その成長速度に驚愕すると同時に、何処まで痛めつけても平気なのかと言う歪んだ興奮が芽生えるのを感じた。
【弓矢も飽きましたね。ではそろそろ貴方の首を刈り取らせてもらいましょうか】
屋根の上から飛び降り、氷を纏った長巻を手にする。
「飽きたなら帰ってくれたら良いじゃないですか」
【ふふふ、駄目ですよ。こんなに楽しいのに、引くなんて勿体無いじゃないですか】
雪の花を散らしながら長巻で切り込む、すると男は手にした奇妙な剣で受け止め受け流す。
(そうですか、そうですか……槍は慣れているのですね)
私の射の速度に慣れていたのだ、直接切り込んでくるのは男にとっては喜ばしいものなのだろう。遠距離では逃げと防御に徹するしかないが、近接ならば男にも反撃する機会が訪れるからだ。
「せいっ!」
【そう簡単には折れませんよ】
足で長巻の刃を押さえへし折りに来るが、これは私の■■■■の武器であり魂だ。そう簡単に……
(誰?)
一瞬誰かの悲しそうな顔が脳裏を過ぎったが、それがすぐに赤黒い何かで塗りつぶされた。
【っ!】
「とっと……」
へし折られないはずなのに不安に思い、男を振り払い長巻を虚空に戻し腰に携えた刀を抜き放った。
【槍は慣れているようですから、こちらでお相手しましょう】
決して誰かの姿を見たからではない、ただ相手が対処に慣れている武器で戦う事も無いと思った。ただそれだけだ……。
【はっ!】
「ちえいッ!」
私の刀と男の刀がぶつかり火花を散らす、即座に刀を引いて突きを繰り出すがそれを横薙ぎの一撃に切り払われる。
(早い……まさかここまでとは)
さっきまでは直撃していた剣が防がれ、そして迎撃されるようになっていた。恐ろしい成長速度だ、このまま切り結んでいては私の技術をいくつも盗まれてしまうかもしれない。
(ああ……でも楽しい……ッ!)
自分よりも幼い子供が自分の技術を盗み、そしてそれを昇華させていく姿を見るのが楽しい。
「おあああああッ!!」
【ふふふ、良いですよ、でも足の踏み込みが足りませんね】
音を立てて弾け飛ぶ男、だけどすぐに着地して踏み込んでくる。それは先ほどの踏み込みよりも更に鋭く、より洗練されている。その姿に言いようの無い興奮が込み上げてくる……。
【良いですよ。私の……私の?】
今何かを思い出しかけた。何か、そう何かとても大事な事だった筈なのに……それがどうしても思い出せない。
【うっくう……】
「当たった?」
突き出された拳が胴を捕え殴り飛ばされる。すぐに体勢を立て直したが、痛みではない、怒りでもない。抑えきれない興奮が私を埋め尽くした。
【ああ。そう、そうです。貴方は私の子供、母を、私を越えてください】
母……そうだ、私は母になりたいはずだった。いやきっと私は母なのだ、私を越えようと打倒しようとする男は……きっと愛しい我が子なのだ。
「え、なんかやべぇ」
【変なスイッチを入れてしまったようだな】
「何のスイッチですか!?心眼先生ッ!」
心眼?誰かと話をしていると言うことですね、そうですかそうですか……。
【母がいるのに誰に師事しているんですか、私はそんなの許しません】
「やばいよ!?なんか赤黒いオーラ増してるッ!?」
駄目駄目駄目……私の子、そうだ。あの子は私の子……私のものッ!!
【少しお仕置きです、そしたら大丈夫。貴方は私の子供ですから、大丈夫ですよ。手足をもぐだけ、ほら大丈夫でしょう?】
「!」
踏み込むと同時に虚空から取り出した斧を両手で握り締める。この一撃で動けなくする、そしてその後に連れて帰ればいい。ああ、それななんと喜ばしい事なのか……。その一瞬を夢想して斧を振り下ろそうとした瞬間、何かが私と子の間に割り込んできた。
【これは?】
赤黒く染まった私の手の中にある斧と瓜二つの斧。それを見た瞬間脳裏にノイズが走った……何か大事な事を忘れている気がした。
【頼光の大将……あんたにこれ以上人は殺させねえ!その為に俺っちが来たッ!!!】
雷電を待とう金髪の男の姿を見て私は何かを呟いたのだが、それを音として認識できず……それが何かとても寂しかった、だけどその寂しさは一瞬で消え、激しい怒りが私を埋め尽くした。
【私の邪魔をするなら、殺す!】
【やってみやがれッ!】
この男を見ていると胸が騒ぐ、この男を殺さなければならない、それだけを考えて私は再び斧を手にするのだった……。
~横島視点~
どこかおかしくなった英霊に殺されると思った瞬間に割り込んできた金髪の男……目の前の女武者と同じ斧を手にしている男が俺をその背中に庇っていた。
「あんたは?」
【俺か、俺は坂田金時……頼光の大将を止めにきた】
英霊ではあることは判る。だけどその力は弱い、初めて会った時のノッブちゃんに良く似ている。
【頼光……源頼光か!怪異殺しの将だッ!】
心眼が俺達が対峙していた英霊の名前を看破した……頼光の名前は俺だって知ってる。だけど……。
「え?女の人だぞ?」
男の筈じゃん?なんで女なの……命の危機だったはずなのに、凄い間抜けな声が出た。
【牛若丸と信長と言う前例を忘れるな】
「……なんだろう、凄い説得力」
そうだよな、俺知ってるな……男って伝説なのに女になってる英霊知ってるわ……。
「味方ってことで良いんだよな?」
【おう、お前まだ戦えるか?】
正直体力と霊力はそろそろ限界だが……まだ戦える。まだ拳は握れる……だから大丈夫だ。
「問題なし!」
【うしっ!俺ッチは左から行く、お前は右からだ。宝具を抜かせるな、宝具を使われたら駄目だ】
英霊の必殺技である、牛若丸とかは近づいてどーんだったり、ノッブちゃんは一斉射撃だけど……。
「ちなみにどんなの?」
【分身で攻撃した後雷が地上を焼き払う】
「あかんやつや……」
殺意に満ちている今まで出会ったどんな英霊よりも殺意に満ちている……ッ!
【邪魔をするなあぁッ!】
【ぐっ!ぬ、ぬうううううッ!】
嘘だろ金時の方が体格に優れているのに押し潰されかけている。助けに入ろうとすると金時に向けている憎悪に満ちた視線と違い、蕩けた甘い視線が向けられる。
【母が恋しいのですね、私も恋しいですよ】
やばい、何がやばいって説明出来ないけど……この人はやばすぎる。どうかガープに狂わされているだけで普段はもっと普通であって欲しい。凄い美人な分だけ、今の状態が怖くて仕方ない。
【大将!良い加減に目覚ませッ!】
【五月蝿いッ!】
左手に斧、右手に刀……いつの間にか抜刀されていた刀に切り裂かれ金時がよろめきながら下がってくる。それを庇うように前に出るとまた表情が変わる……この人には俺が一体何に見えているんだ……。
「せいっ!」
【踏み込みが甘いですよ?それに刀の握りも】
「いっつっ!?」
万力みたいな力で手を締め上げられ、手からガンガンブレードが零れ落ちた。
【駄目ですよ?すぐに刀を放しては、返してあげましょう】
【避けろッ!】
心眼の言葉に言われるまでも無く頭を抱えてその場に転がる。その瞬間隕石でも落ちたかのような音を立ててガンガンブレードが地面に突き刺さっていた……あれ直撃してたら身体吹っ飛んでいたと思うんだけど……。
【大丈夫か?】
「いやもう無理、死ぬって……」
獲物もない、眼魂も交換できない。心眼と相談してたらぶち切れる……やばいって、今までこんなやばい相手と対峙した事ないって……。
【俺が何とか隙を作る、でかいの1発叩き込めるか?】
「……大丈夫なのか?」
俺の見立てでは霊力は限界ギリギリの筈……恐らく宝具は使えないに違いない。
【俺は育ての親が人間を殺してるのを我慢できねえ】
「判った、無いよりましだと思うけど……火精将来!かの者に力を急急如意令ッ!」
空中に刻んだ文字が紅い光となって男を包み込んだ。
【あんた陰陽師か、助かる。行くぜぇ大将!!】
斧を振りかざし突撃する金時の姿を見て、腰のベルトに手を伸ばす。
【ダイカイガン!ウィスプオメガドライブッ!!】
腰を落として右足に霊力が込められていくのが判る。本当ならゴーストチェンジをして大技を叩き込めばいいと思うんだが、下手にゴーストチェンジすれば怒りに油を注ぐだけになりかねない。このままで押し切るしかないッ!
【おあああああああッ!!】
【舐めるなッ!!】
紅い斧と金の斧が鍔迫り合いになるが、金時の方が押されていると思った。そして事実押されていた金時は足を振り上げ、斧の柄に足を押し当てて体重をかけて押し込み始めた。
【だらああああッ!!】
【ぁあっ!?】
押し込まれ金の斧が頼光に命中した瞬間。俺は地面を蹴り霊力を纏いながら飛び蹴りを叩き込んだ……筈だった。
「外した!?」
【違う、連れ去られたんだ。回収の為に転移術を刻んでいたか……】
地面を削りながら着地するが当たった手応えは無かった。心眼がすぐに教えてくれたがどうも転移で逃げられてしまったようだ。
【くそ、しくじった……】
全身から光を放ち消え去ろうとしている金時を見て、慌ててブランクの眼魂を作り出す。
「この中に入ってくれ、そうすれば消えないですむ」
【……判った、信じるぜ】
金時にブランク眼魂が触れると白い眼魂は赤と金に染まり金時の姿がその中に消えていった。正直美神さんと合流出来なければ俺1人ではあの英霊……源頼光には勝てない、ここで味方を失うわけには行かないと言う打算があったが眼魂に入ってくれて良かった。
【まだ一息はつけないぞ】
「ですよねー」
牛車から手招きしている輝夜ちゃん達を見て変身の反動でもう寝てしまいたいんだけど、そんな事も言ってられない。今の姿の事、そして俺の事も話をしなければならない。まだまだ俺の長い夜は開けそうに無い……。
~美神視点~
高島から話を聞いたんだけど、横島君は帝と藤原の姫と輝夜を助けて自分の立場を確立させたらしい。
「あの馬鹿弟子は何をしてるのかしら?」
「……乗りと勢いですかね」
横島君はあんまり深く物を考えない性質だ、その中で帝達を助ける事になったみたいだけど……そのせいで高島でも中々横島君に会わせるのは難しくなってしまったようだ。
「英霊を退治しないと帝に会うのは無理だなあ。それっぽい功績があれば何とかなるんだが……帝の恩人となるとな……」
最初はある程度鬼を討伐して見所のある相手として紹介する予定だったという高島は頭を抱えている。
「……何か問題が?」
「帝が気に入りすぎると帝の妹や従兄妹を宛がわれるかもしれない」
……それ笑えないにも程があるんだけど……蛍ちゃんの目が死んでいる。まさか過去に連れて来られたと思ったら、自分の知らない所で横島君が結婚するとか笑えないにも程がある。
「私なら侵入できますわよ?」
「……いや、止めてくれよ?俺が帝暗殺を目論んでるとかなったら一気に追われる身だぞ?」
そうなったら弟子にも会えなくなるぞと言われるが、そんなことは言われなくても判っている。横島君と早く合流したいけど、今のままでは合流出来ないって言うのが辛いわよね……。
「それで英霊は特定出来てるの?」
「いんや、横島が戦ったのが異能殺しの英霊だ、つまりすぐには動き回らない。俺達が探すのは人間狩りをしている方だ」
それはつまり手当たり次第歩き回って英霊を見つけるしかないと……。ヒャクメも尽力しているが、相手の霊力のパターンが判らないので最初に遭遇しない事には正確な捜査が出来ないらしい
「別れるのはやめましょうか」
「だな、各個撃破は洒落にならん」
ただでさえ平安時代は悪霊が強いのに、それらが活発になる夜に英霊を探して歩くとか冗談じゃないけど、横島君と合流する為には仕方ないと深く肩を落とし、高島と共に夜の京に繰り出す。
「まぁ楽にやってくれ、危ないと思えば割り込むからよ」
そう言って目の前に現れた大量の餓鬼を見て下がる高島。シズクと清姫はおらず、英霊を探しているヒャクメも居ない。私と蛍ちゃんだけでA-~A++の鬼を20体近く退治する……。
「泣きそうです」
「横島君に会う為よ。頑張りなさい」
横島君はマスコット達は一緒だが、英霊眼魂にノッブ達は居ない。心眼こそいるが、平安時代の人間に囲まれているので確実に心労は私達よりも上だ。そんな状況で横島君は自分1人で立ち位置を確立させて、そして自分の身の安全を確保している。それよりも甘い条件の私達が泣き言を言う訳には行かない。
「それに今後の事を考えれば良い修行になるわ」
「……そうですね、そう思う事にします」
今後はもっと敵の動きが激しくなるだろう。下手をすれば現代でもこのクラスの鬼が大量に発生するかもしれない、その前哨戦とでも思えば良いわと言って私は神通棍を油断無く構え、涎を垂らす餓鬼を睨みつける。まず大事なのは気持ちで負けないこと、霊力は魂の力だ。つまり気持ちで負けなければ一気に不利になることは無い。
「過度に緊張せずにいつも通りよ」
「はい、頑張ります!」
絶対無事に横島君と合流して現代に帰る。そう心に誓い、私達は餓鬼との戦いに身を投じるのだった……。平安時代の長い夜はまだ明けない……。
平安大魔境 その6へ続く
久しぶりに眼魂の追加です。でもこの段階の金時さんはゴールデンではないのであしからず、次回は日常回と美神サイドのボス戦開始まで書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。