side 善逸
俺はあの時萌ちゃんに崖から落とされた後、
「ぐわぁっ‼︎」ドシャッ
奇跡的に下に生い茂ってた木々に衝突した。正直めちゃくちゃ痛かった。でも今叫んだら萌ちゃんに追撃されるかもしれない。せっかく生き延びたのに、ここで死んだら勿体ない。そう思って、痛みで叫びたくなるのを堪えた。
それにしても、萌ちゃんのあの優しい音は何だったんだ?どこが優しいんだ?俺のことを騙して突き落としたのに。鬼の禍々しい音だけなら分かる。むしろそうするのが妥当だし、俺だって警戒した。でもあれは何だったんだ?彼女の血鬼術か?それとも俺が間違ってたのか?人から聞こえるこの音は、感情とは一切無縁のものだったのか?
太陽が昇り、怪我で意識が遠のく中、
「だ、大丈夫か、お前?」
隠の人が俺を発見してくれた。彼からは純粋に優しい音だけが聞こえていた。優しい人から聞こえてくる音と
「く、来るなぁ‼︎こっち来るなぁ‼︎」
「ちょ、どうした⁉︎俺は隠だ‼︎隠の後藤だ‼︎落ち着け‼︎」
「チュン、チュン‼︎」
「そうだ、このスズメが教えてくれたんだ‼︎」
そばにいたチュン太郎。相変わらず優しい音を出してくれる。でもそれは萌ちゃんにもあった。チュン太郎だってずっと騙してたのかもしれない。それに、俺はいつだって女に騙されてきた。借金も沢山作ってきた。その女たちからは優しい音はしなかったが、今思うとその音も感情とは無関係なものなのだろう。俺は何も信じられなくなった。人間不信になった。
「知るかぁ、知るかぁ‼︎こっちに来るなぁぁぁぁ‼︎」
「チュン、チュン!」
「分かった。とりあえず無理矢理連れてくぞ!」
「やめ、やめろぉぉぉぉ‼︎」
何をされるか分からない。だから俺は必死に抵抗した。でも俺は全身、特に脚を怪我してたから、ほぼ何も出来ずに後藤さんとチュン太郎に連れてかれた。本当に怖かった。鬼殺隊の人たちですら俺を騙そうとしているように思えた。自分の死を覚悟しながら、それでも必死に抗った。
そして連れていかれた先で、俺はある女の人に会った。
「もしも〜し、大丈夫ですかぁ〜?」
噂だけなら聞いたことがある。顔だけで食っていけるくらいの美人で、柱でありながら医者もやっている人、胡蝶しのぶさん。
「コイツ、かなり重症な上に、精神もやられてるみたいで………」
「チュン、チュン!」
「やめろ、やめろぉぉぉぉ‼︎」
「大丈夫………ではないですね………しばらくは私の屋敷で治療しましょう!」
「お願いします………」
誰からも優しいとの評判で、実際の対応も評判通りのものだった。しかし、心からはずっと怒りの音が聞こえていた。やはり音と感情は関係ないじゃないか!そして、俺はこの人に何をされるのだろう?やり場のない不安と恐怖が大きく膨らみながらも、怪我が酷かった俺は抵抗できず、相手に身を任せるしかなかった。
蝶屋敷に入院してからしばらく経ったある日のことだった。身体の怪我はだいぶ治ってきたとき、
「栗花落カナヲ、死亡‼︎栗花落カナヲ、死亡‼︎」
蝶屋敷に訃報が入った。栗花落カナヲ。話したことは全くなかったけど、蝶屋敷にいたしのぶさんの継子で、俺と同期の鬼殺隊士だった。
「えっ?今なんて…………?」
「栗花落カナヲ、死亡‼︎鬼殺隊士ニ化ケル鬼ト戦ッテ、栗花落カナヲ死亡‼︎」
そして殺され方も俺と同じだった。まあ俺は死んでないけど。アイツめ、またやりやがったな‼︎萌ちゃんに対する怒りが増した時、
「そ、そんな………なんで、なんでいつも鬼は私の大切な人たちの命を奪うの⁉︎ふざけんなよ‼︎」
しのぶさんが声を荒げた。普段丁寧な物腰のしのぶさんが。それはそれは今までからは信じられないくらいに。
そしてその瞬間、この人から聞こえていた音の理由が分かった。怒ってる音がしたのは、実際に怒ってたからだ。今まで大切な人を鬼に奪われ続けた彼女。具体的に誰が亡くなったかは知らないけど、多分相当な人を殺されたのだろう。だからずっと怒りが溜まってた。表面こそ穏やかで優しい人を演じてただけで、ずっと内面では怒ってた。その人から聞こえてくる音と実際の感情が一致する。それはとても久しぶりな感覚だった。
「チュン、チュン………」
そしてそばを飛んでたチュン太郎も悲しそうにしていた。そして悲しそうな音が聞こえていた。音と感情の一致。そして優しい音も聞こえる。
そういえばコイツは俺が寝てる間にも、ずっとそばに居たな。人間不信になってた俺は怖くて毎回追い返してたけど。それでも今まで通り俺のことを気にかけてくれる。酷い扱いをしてくる俺を心配してくれる。今思うと、チュン太郎の優しさと音も一致してたんだな。
「いつもありがとう、チュン太郎。冷たく当たってごめんね。」
「チュン………っ!」
俺がそう言った瞬間、嬉しい音を奏でるチュン太郎。カナヲちゃんが死んだ時の悲しい音も残ってるけど。やっぱり俺の感情が音となって聞こえる能力は間違ってなかったんだ!後藤さんだってそう。人間不信になった俺を文句を言わずにここまで運んでくれた。それは紛れもない優しさであり、あの時聞いた音と同じだった。その後もしばらく他の人の音と感情を照らし合わせてたけど、全部一致してた。
だから萌ちゃんのあの鬼の禍々しい音の中にあった優しい音は、ただの俺の聞き間違いだと思った。多分あの時は初任務で緊張してて、たまたま聞き間違えたんだ。よくよく考えたら鬼がそんな音を出すはずないのに。
そして今俺は久しぶりに萌ちゃんに会った。どうせあの時聞こえた優しい音は嘘なんだろう。そう思って近づいたのに……………なんで優しい音が聞こえるんだよ?前と同じく、鬼の禍々しい音と同時に。意味分かんねえよ。お前のどこに優しさがあるんだよ!気持ち悪いんだよ‼︎その優しさは何だ⁉︎鬼同士に向ける優しさか⁉︎鬼舞辻無惨を慕う優しさか⁉︎意味分かんねえだろ、あんなのに従うなんて‼︎
もういい!これ以上萌ちゃんの音を聞いてると頭がおかしくなりそうだ!だからさっさと殺してしまおう‼︎
「さようなら、萌ちゃん。」
「月の………」
「雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃」
「くっそ…………っ!」
そうして俺は弱ってた萌ちゃんの首を落とした。
side 萌
くそっ、貧血の時に襲われるなんて…………しかも殺したと思ってた善逸に………まずい、首を斬られた………回復しなきゃ、回復しなきゃ………周りが………黒くなっていく…………
「「…………ちゃん……」」
ん………あれは………?
「「萌ちゃん!」」
お父さん………お母さん?
ということで、善逸が突き落とされてから萌と再会するまででした。萌が持つ優しさや無惨への尊敬意識も、善逸からしてみたら人間不信を招く原因でしたね。鬼から聞こえるのはずのない優しい音がするのだから。
そして、貧血で弱ってた萌はあっさりと善逸に首を斬られてしまいます。そして死別した両親との再会。今後どうなるのかは、次回のお楽しみに!
最後に、評価・感想をお願いします。