良き世紀末を目指して   作:ミツバチ

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第一話 悪魔召喚

 気がついたら第二の人生始まってた。

 

 なにを言ってるのか分からないと思うが、俺自身にもよく分からない状況だ。大人だった身体は小さな子供のものへと縮んでいて、名前も変わっている。今住んでいる家も、以前の俺とは縁も所縁もない土地にあった。

 

 どうやら俺は別人に転生したらしい。

 

 あるいは死んでから魂が憑依したか。まあどちらでも同じことだと思う。できることはなにもないだろうから。

 

 まあともかく、そんなこんなで心機一転。

 新しい人生を謳歌しよう――と、言いたいところだったのだが。

 

 どうやらこの人生、結構なハードモードらしい。

 

 時は1994年。

 

 現在――小学校に通う俺は、いじめの標的にされていた。

 

 理由は単純で、親がいないから。捨て子だからと差別され、罵られ、机は落書き塗れ。上履きと教科書に至っては使用不能な状態になっている。そして買い直す金も気力もなかった。

 

 親のいない奴はまともではない。

 

 そういった差別や風潮は珍しいものではないし、そもそも今の時代ではそれほどいじめ自体が問題視されていないのだ。俺がやられたことをどれほど切実に訴えたところで、警察どころか教師すらもが子供の喧嘩として取り合わないのが実情である。

 孤児院の職員方も同様、我関せずといった態度だ。

 

 あの小沢(オザワ)とその取り巻き共め。やり返してやりたいが、そんな力はない。実に無情な世の中だ。

 百合子(ユリコ)先生は何かと俺を気に掛けてくれていたが、事態の収束までは望めそうもない。まあ隣のクラスの担任なのだから、仕方がないといえば仕方がないのだが。

 

 俺は汚れたランドセルを片付けてから、日々の習慣に従って机に向かった。

 

 習慣。そう、習慣だ。

 放課後――いつも通り俺は孤児院の自室に引き篭もって、独りインターネットに明け暮れていた。

 

 ……断っておくが、ネットサーフィンにうつつを抜かしている訳じゃない。いや、そういう時間もあったのは事実だけれど、大体はプログラミングの勉強に時間を費やしているのだ。

 

 無論、将来を見据えてのことである。

 

 まだ世に出たばかりということもあって、パソコンや携帯電話は富裕層の持ち物という面が強く、一般的ではない。しかし知っての通りこれらは近い内に広く世界中に普及し、こぞって新技術の開発が行われ、結果としてシステムエンジニアが重用されるようになる。

 

 プログラムができれば将来的に大きく役立つだろう。

 

 そう思い至った俺は捨てられたゴミを解体して使えるパーツを回収したり、ジャンク屋で安く買ったりしてパソコンを組み上げた。この頃は電話回線を通じてインターネットに接続するので、その辺りは孤児院に元々あった設備を拝借している。そして現在に至るという訳だ。

 元より小学校で学び直すことなどない。いじめの被害で教科書やノートが使い物にならないこともあって、俺はあっという間にインターネットの世界にのめり込んでいた。

 

 そして、気が付いた時にはもう引き返せないところまで来ていた。

 

「―――よし、突破した。あとはデータを抜いて終わりだな」

 

 指先でキーボードを叩き、データのダウンロードを開始する。

 今ダウンロードしているのはとある企業の顧客リストとその個人情報だ。名前と生年月日、住所なんかは当然として、所有している株やキャッシュカードの番号まで全て載っている。

 これを依頼してきた相手に送ればこの()()は達成だ。

 

 ハッキング――言うまでもなく犯罪行為である。

 

 一応弁解しておくと、こちらも相手は選んでやっている。ターゲットはあくどい商売をやっている会社に絞っているし、逆に悪徳企業からの依頼は断っている。

 

 …………どちらにせよ犯罪なので、警察にバレれば捕まるが。

 一応、今のところは尻尾を掴まれるようなヘマはしていない。

 

 これでも名うてのハッカー『グレムリン』として通っているのだ。自慢じゃないが、同業者の間では期待の新星としてそこそこ注目を集めている。コンピュータやインターネット自体できたばかりということもあって、セキュリティはどこも穴だらけだ。

 そもそも俺が使っているパソコンのインターネット使用に掛かる諸費用も、孤児院が契約している電気通信事業者の端末をハッキングし、データを書き換えて誤魔化したりしているのだ。その甲斐もあって今は快適なインターネットライフを謳歌している。ああ、設備の無断使用がバレやしないかと肝を潰しながら使用時間を絞ってパソコンを使っていた時期が懐かしい。

 総じて、今のところ俺の仕事は笑いたくなるほど順調だった。我ながら最低だな!

 

 そんなリアルに友達はいない俺だが、ネット上には親しい者も多い。

 

 特に『スプーキー』や『レッドマン』とはよくメールやチャットでやり取りをしている。ハッカー仲間ということでお互いにアドバイスを送りあったりもするし、結構仲が良い。

 

 ―――ん?

 

 オザワにユリコ、スプーキー、それからレッドマンだって?

 

 今ふと思ったのだが。

 もしかしてここって、女神転生の世界だったりするのか?

 

 そういえば、教科書に載っていた年表では大正時代が妙に長かったような……。

 

 ……いや、待て、止そう。そんなこと考えてたら頭がおかしくなる。

 仮にそうだったとしても、俺如きに出来ることはなにもないだろう。ここで世界を救おうなどと発起したところで、悪魔はおろか外道ヤクザにすら勝てまい。気にするだけ無駄というものだ。

 

 そういう訳で頼んだぜヒーロー、世界の命運はお前達にかかってる。だからICBMとカテドラル建造と洪水と三天使の暴走とあと東京受胎とかはそっちでなんとかしてください、お願いします! なんでもしますから!

 ……あれ?

 デビルサマナーシリーズの設定を鑑みるなら頼むべきは葛葉やヤタガラスなのか? うーん、どうも記憶が曖昧だ……―――

 

「―――ん? なんだ、メールか」

 

 モニターの片隅がチカチカと明滅し、報せを告げる。

 どうやら新規のメールが届いたようだ。

 新しい依頼だろうか。とりあえずチェックを……ん?

 

《NAME:STEVEN》

 

 ひっ、開きたくねェ~~~~~~~~~ッ!

 

 最悪だ、この世で最も洒落にならない不幸の手紙を受信してしまった! ここはメガテン世界で確定なのか!? いや待て、まだだ、まだ慌てるような時間じゃない。もしかしたらメガテンファンの手によるただの悪戯である可能性が微粒子レベルで……―――

 

《―――悪魔召喚プログラムをインストールしています》

 

 って、勝手にメールが開かれてる!?

 こっちのセキュリティやらなにやらを完全にスルーした挙動だ。どういう仕組みなのかは知らないが、今はそんなことどうでもいい。ウイルスにしろそうでないにしろ、そんなプログラムを勝手にインストールされてたまるか……!

 慌ててキーボードを叩くが、なぜかまったく反応しない。

 ソフトを閉じるどころか、インストールの中断すらできない有り様だった。

 

「クソッ、それなら!」

 

 タワー型のターミナルPC本体に手を伸ばす。電源を落としてしまえばなんともなるまい――って、あれ? 反応しない!? なんでだ!? クソ、仕方がない。こうなったらコンセントを引っこ抜いてや……―――

 

《―――インストール完了

 ―――プログラムを起動します》

 

 その瞬間、モニターが強烈な光を発した。

 視界が白一色に焼ける。なにも見えない。

 

 やがて光が治まり、眼球が機能を取り戻す。ゆっくりと視界が開ける。

 

 果たして――俺の目の前には、本物の悪魔がいた。

 

「ふぅ、やっとこっちの世界に出てこられたわ! それじゃあ早速、人間のマグネタイトをいただきに行こうっと」

 

 小さな子供の姿をした悪魔だ。

 

 青いレオタードのような衣装を着た赤髪の少女。といってもその大きさは俺の頭ほどもない。耳は尖っていて、背中からは虫の羽が生えている。ともすれば子供(オレ)の手でも容易く一捻りできそうだが、そうはいかないのが世の常だ。

 

 なにはともあれ、ジオハメだけは勘弁してください。

 

「ん? あら、ちょうどいいところに人間が―――」

「―――殺さないでください!」

 

 俺は土下座した。

 

「マグネタイトが欲しいならあるだけ出す! 全部持って行ってくれて構わない! だからどうか、命だけは……!」

「ふぅん、ずいぶん話が早い人間ね。じゃあちょーっとだけ味見を……っと」

 

 悪戯っぽく微笑んでから、悪魔は俺の額に口付けた。

 柔らかな唇が肌に触れると同時に、全身から力が抜ける。凄まじい脱力感と倦怠感に眩暈がした。まるで魂を抜かれてるみたいだ。そしておそらく、その比喩もそう的外れなものではない。

 

 マグネタイト。

 

 それは生体磁気とも呼ばれる、生き物が持つ非実体の精神活動エネルギーである。いわゆる気やオドなどといった魔力の類であり、これを抜かれることは精神を削られることに等しい。

 

 というかこいつ――ちょっと、なんて言いつつ俺のマグネタイトを根こそぎ持っていきやがった!

 

「ん~、ごちそうさま! なかなか美味しかったわよ、貴方のMAG」

 

 薄い唇を舌で舐め、悪魔は蠱惑的に微笑んだ。

 

「そうね。それじゃあお礼に、あたし、貴方の仲魔になってあげる。

 あたしは妖精ピクシー。コンゴトモヨロシク、ね」

 

 >妖精ピクシーが

 仲魔になった。




名 前:川渡 司朗(カワタリ シロウ)
種 族:人間
属 性:NEUTRAL-NEUTRAL
レベル:1
能力値:力3 魔3 体5 知11 速11 運1(-15)

【特 性】
『■■■』
 運が大幅に減少。
 自身の呪殺・破魔耐性を無効にする。

【スキル】
・食いしばり


 ※ステータスにあまり意味はありません。
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