良き世紀末を目指して   作:ミツバチ

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第二話 GUMPを造ろう

 まずビデオカメラとモデルガンを用意する。

 

 ドライバーを使ってハンディタイプのカメラを分解し、中身を確認。使えるものと不要なものを選り分けた後、パソコンと有線接続。内部のプログラムを書き換えた。

 

 ……やはり、そのままでは容量が少な過ぎるな。

 

 メモリを増設し、データの移動を開始。その間、ビデオカメラのフレームとモデルガンの加工に移る。

 この時期のビデオカメラは小型を謳った物でもそれなりに大きい。そのままでは携行に支障を来たすため、幅を二センチばかり切り詰めて接着する。側面のディスプレイはそのまま使えるが、操作ボタンの類は不要なので丸ごと四角くくり抜いた。

 ジャンクパーツから切り出した小型のボタン類を、即席のキーボードとしてくり抜いた穴に埋め込む。

 最後にフレームの後方に四か所ばかり穴を開けた。

 リボルバータイプのモデルガンは、バレルとシリンダー部分を切除。グリップの内部をくり抜いてバッテリーを挿入。その状態でビデオカメラのフレームにくっつける。

 トリガーとハンマー、そしてシリンダーを回転させる機構、そしてバッテリーのコードをビデオカメラに予め開けて置いた穴に嵌め込んで接着した。それから埋め込んだキーボードやモデルガンの機構に、センサー類を取り付けていく。

 

 ―――データの移動が完了したようだ。

 

 コードを外し、半田鏝などの道具を使用してメモリと電子基盤、それからビデオカメラに取り付けたセンサー類とを繋げていく。そしてそれらをまとめてフレームの中に収めた。

 

 これで大丈夫かどうか何度も確認を繰り返してから、電源を入れる。

 

 呆気ないほど異常なくディスプレイに明かりが灯り、悪魔召喚プログラムが起動した。きちんとプログラムが立ち上がったのを確認してから、俺はキーボードを叩く。

 

《SUMMON SYSTEM

 SUMMON OK――GO》

 

 簡素なメッセージが表示されると同時、俺の体から少しだけ力が抜ける。

 生体マグネタイトを消費し、悪魔をこの世に実体化させるのだ。

 

「やっほー、サマナー。さっき別れたばかりなのに呼び出すなんて、どうしたの?」

 

 召喚されたのは妖精ピクシー。

 どうやら先程仲魔にした個体と相違ないようだ。……実験は成功。自作(ガン)(タイプ)ハンディ・コンピュータ――通称『GUMP』はひとまずこれで完成だ。

 

「はぁぁあ……―――」

 

 肩から脱力し、その場に座り込む。

 

 右手に握ったGUMPが重い。急ごしらえの粗雑な造りの上見た目は不格好極まりないが、当面はこれでなんとかするしかない。

 

 すべては自衛のためだ。

 

 ここは真・女神転生の世界。そして今は1994年――あと五年以内に世紀末だ。仮にICBMが落ちなかったとしても、待ち受けているのは悪魔が街を跋扈する地獄である。その中を生き抜くためにはCOMPが必要不可欠だった。

 悪魔召喚プログラムが入った端末がなければ、悪魔と会話することすらできないのだ。極端な話、先程のような命乞いが通用しない。

 交渉の可不可は生存率に大きく関わる。だから急遽、有り合わせのジャンクパーツを使ってGUMPを作成した訳だ。

 

 後は武器だが……モンキーレンチでも持っておくしかない。

 

 ああ、銃が欲しい。

 

「さっきから溜息ばっかりねぇ。疲れてるの? それとも心配ごと? そんなに肩肘張んないでもなんとかなるわよ。あたしもサマナーに力を貸すから、ほら、ガンバって!」

 

「……ありがとな、ピクシー」

 

 ピクシーの小さな掌が俺の頭を撫でる。彼女のこちらを気遣う心がじんわりと温かく胸に染み渡った。

 しかし、不安は拭えない。

 

「問題は、どうするかだよな。これから」

 

 胡坐をかき、膝に頬杖を突いて思考する。

 ゲームならレベルを上げに手近なダンジョンへ潜るのが定石だが、そもそもレベルという概念は実在するのか? GUMPの機能でステータスの確認は可能だが、その辺りの情報はない。

 機能は必要最低限、悪魔召喚プログラムに由来するもののみ。エネミーソナーに通訳とマグネタイトの管理、アナライズ、そして仲魔の召喚や返還と基礎的なものだけだ。新しくプログラムを組めば他にも機能は増やせるだろうが、どこまでやれるかは今のところ俺の力量次第なので当てにしていいものではない。

 

「で、どうするの?」

 

「……とりあえず、手近なところで情報を集める」

 

 俺と同じく孤児院に預けられた子供達や、管理する職員達。あとは近所の人にも最近なにか奇妙な事件がなかったか手当たり次第に聞いてみよう。

 

 俺は腰を上げ、外出の用意をする。今は三月の中頃だ。温かくなってきたが、まだ上着は手放せない。

 上着に袖を通し、ショルダーポーチにGUMPとモンキーレンチを突っ込む。

 直ぐに取り出しができることを確認してから、俺は自室の扉へ向かった。

 

「どこに行くの?」

 

「聞き込み。着いて来てくれるな、ピクシー」

 

「もっちろん!」

 

 待ってました、とばかりに喜色を浮かべてピクシーが飛んでくる。

 彼女は俺の上着のポケットに入り込んだ。

 

 自室を後にする。

 すると程なくして、孤児院の廊下で幼馴染の少女と顔を合わせることになった。

 

「あっ、司朗君。おでかけ?」

 

 淡い色の髪を三つ編みにした、清楚な雰囲気の可愛らしい女の子。

 彼女の名前は久世(クゼ)真莉愛(マリア)。俺と同い年で、同じ学校の同じクラスに在籍している。数少ない友人の一人だ。

 

「ああ、まあそんなとこ」

 

「そうなんだ。気をつけてね、最近は危ないから。孤児院の門限は守らなきゃだめだよ?」

 

「ああ、分かってるよ。……ん? 危ないって、なんで?」

 

「えぇっとね、この辺りで行方不明になった人とか、マンホールの下から呻き声みたいな変な音が聞こえるとか。……それから、その、殺人事件があったりしたから。遅くまで出歩いちゃいけませんって、学校で先生が言ってた……よ?」

 

 きっと俺があんまりにも平然と尋ねたからだろう。自分の記憶が正しいのかどうか曖昧になってしまったようで、おずおずと、自信なさげに真莉愛が言った。

 そういえば、学校でそんな話を聞いたかもしれない。

 たぶん正しいのは彼女の方だ。いじめのこともあって学校での出来事はほぼ全て右から左に流していたので、聞いていなくて耳に残らなかったとしても不思議ではない。

 

「そっか。分かった、六時までには帰るようにするよ。ありがとな、真莉愛」

 

「ううん、どういたしまして。……あの。それで、司朗君はどこに行くの……?」

 

「え? あー……その辺を散歩とか、まあ、いろいろ?」

 

「えっと、それじゃあ私もついっていって……いい?」

 

 もじもじと指先を擦り合わせながら、頬を赤らめ上目遣いで真莉愛が言った。

 くりくりとした大きな瞳が俺を見上げてくる。

 

「んー……」

 

「あっ、無理にとは言わないよ!? 邪魔なら断ってくれてもいいし。あっ、それに男の子が女の子と一緒だとヘンな風に言われちゃうかもだし……やっぱり、今日はいいや! ごめんね、ヘンなこと言っちゃって! それじゃ私、行くね!」

 

 羞恥によるものか。顔を真っ赤にして、慌ただしく真莉愛が去っていく。その後ろ姿を俺は無言で見送った。

 

 なにかのフラグが立っているのかもしれない。

 

 俺の中の下衆な部分がそう囁いた。

 

「ひゅぅ、サマナーってモテるんだ」

 

 ポケットの中のピクシーが顔を出して、からかい交じりに口笛を吹く。それをも黙殺して、俺は歩き出した。

 

 ひとまず欲しい情報は手に入った。

 

 行方不明者に地下水道の異音。それに殺人事件。

 

 行方不明者と殺人は俺の手には負えなさそうだし、ただの人の手による事件である可能性の方が高い。こちらの調査は後回しでいいだろう。という訳で、まずは地下水道に行ってみるとしよう。

 

 ……となれば懐中電灯とマスクがいるか。

 

 俺は自室へと引き返した。

 俺に宛がわれた部屋は元は物置き代わりに使われていた部屋だ。狭い室内には二つの二段ベッドと大きな机があり、隅には雑多な備品が置かれている。しかし今のところ同居人はいないので、空いているスペースは勝手に使わせて貰っていた。

 

 備品に混ぜて隠しておいたジャンクパーツの山の中から、L字型の懐中電灯とガスマスクを取り出す。どちらも子供のおもちゃみたいなものだが、ないよりはマシだろう。

 

 懐中電灯を胸ポケットに入れ、ガスマスクはショルダーポーチに捻じ込んでおく。

 あとは傷薬を少々持って行っておくか。ヒットポイントを回復するならやはりこれだろう。現実の傷薬(コレ)にどれだけの効果があるかは分からないが。

 

 ―――という訳で、いざ地下水道へ出発!

 

 といきたい所だったのだが。

 

「待ちなさい、川渡(カワタリ)司朗(シロウ)君」

 

 孤児院の院長に呼び止められてしまった。

 

「こっちへ来なさい」

 

 有無を言わさぬ強い語調で告げた後、院長はさっさと踵を返して院長室の方へ足早に向かう。不承不承、俺はその後を追った。

 それにしても一体なんの用だろうか。

 怒られるようなことは……―――してるな。ハッキングは言うに及ばず、日常的にパソコンを使っていれば電気代もかさむだろう。枚挙に暇がない。

 

 院長室に入る。

 

 室内にいるのは俺と院長の二人だけだ。

 

 院長は部屋の外の様子を気にする素振りを見せた後、声を潜めて言う。

 

「司朗君――君は悪魔と契約を結んでいるね?」

 

 口から心臓が飛び出すかと思った。

 

「なぁんだ、バレちゃってたか」

 

 俺がなんの反応も示せずにいると、ピクシーがポケットの中から飛び出す。悪戯がバレた子供のようなあまり詫びれのない態度で妖精はくすくすと笑った。

 

「……司朗君。君は自分がどれだけ危険なことをしたか分かっているのですか?」

 

「いや、待ってくれ。そもそもなんで院長先生が悪魔のことを知ってるんですか」

 

 尋ねつつも、脳は答えを出していた。

 

 この孤児院は教会でもある。日曜にはミサを開いているし、院長をはじめとして職員はみんな修道服を着ている。そんな彼が悪魔のことを知っている、ということは……―――

 

「私はメシア教徒です。そしてこの孤児院もまた、本来はメシア教を支援するための施設なのです。……いえ、急に言われても君には分からないでしょうね。さて、どこから話したものか……」

 

「いえ、大体のことは知っているのでいいです」

 

 ―――神の名の下に悪魔と人間を虐殺しディストピアを創ろうとするカルト教団でしょ?

 口から出かかった誹謗中傷を寸でのところで飲み込む。それでも院長は、目を丸くして驚いているようだったが。

 

「メシア教を、知っている? 君は一体……」

 

「…………………………………………………」

 

 失敗したかな。知らない振りをしておいたほうが良かっただろうか。

 まあ何にせよ後の祭りだ。これ以上は下手なことは言わず、黙っておいた方がいいだろう。

 

 暫しの沈黙。

 

 ややって、院長は視線をピクシーに向けた。それから彼は「ああ」と、納得した風に頷く。

 

「そこの悪魔から聞いたのですね。それならば納得できる」

 

「えっ? あたしは別に――むぐっ!?」

 

 俺は無言でピクシーの口を塞いだ。

 

「妖精はメシア教にもガイア教にも属さない中立の種族。その思想は、主であるデビルサマナーに依ると聞いています。見たところ、サマナーである司朗君も操られたり誑かされているという風でもない。……ですが、それだけに解せない。なぜ君はデビルサマナーに?」

 

「不慮の事故、としか」

 

 割とマジで。

 

「そうですか……近頃、悪魔召喚プログラムなるものが無作為にばら撒かれているのは私達も知っています。そのせいで呼び出された悪魔に襲われ、命を落とした者も多い。君もそういったケースなのでしょう」

 

 うんうんと頷く。

 ピクシーがバシバシと俺の指を叩き「放せ」と抗議してくるが、まだ黙っていて欲しいのでそちらは無視した。

 

「司朗君。その悪魔との契約を断ちなさい。そうすれば、あとは我々の方で処理を―――」

 

「―――お断りします。じゃあ、俺はもう行きますから」

 

 ピクシーを開放し、俺は踵を返した。

 小さく舌打ちを零し、我ながら乱暴な足取りで院長室を横断する。実に子供じみた反応だな、と頭の片隅では理解していた。それでも院長の言葉は、俺にとってそれほどまでに腹立たしいものに思えたのだ。

 経緯はどうあれ、ピクシーはもう俺の仲魔だ。

 仲魔を処理? 胸糞悪いにも程がある。

 

「待ちなさい司朗君! どこに行く気ですかッ!」

 

「悪魔退治です。門限は守りますので、ご心配なく」

 

 吐き捨てるように言って、俺は院長室の扉を閉めた。

 院長に向かってべーっと舌を出していたピクシーが、扉が閉まる直前に俺の下へ飛んでくる。そしてニマニマと笑った。

 

「……なんだよ?」

 

「ふふふ。サマナーのこと、ちょっと見直しちゃった」

 

「あっそ」

 

 照れを誤魔化し、素っ気なく顔を背ける。それでも視界の外でピクシーがニマニマと笑っているのが手に取るように分かった。

 

 ピクシーをポケットに戻し、孤児院の玄関口へ向かう。

 

 礼拝堂を潜り、木製の扉の取っ手を掴む。すると、そこで再び声を掛けられた。

 

 院長だ。

 

「……司朗君」

 

「まだなにか?」

 

 さも面倒くさそうに返す。我ながら嫌なガキだなと思うが、勘弁して貰うしかない。

 院長は逡巡するように口を開いては閉じ、視線を彷徨わせた。しかし意を決したのだろう、真っ直ぐにこちらの目を見て院長は告げる。

 

「この教会では、デビルサマナーの支援も行っています。怪我をした時は私のところへ来なさい。治療を施します。……私は君が道を踏み外すことがないよう、信じることしかできない。川渡司朗君。君に、神の御加護があらんことを」

 

 思わず固まってしまう。

 俺を止めないのはメシア教の司祭としての判断だろう。デビルサマナーが悪魔と戦い、敵を倒す。そしてメシア教の役に立つなら御の字。そうでなくとも悪魔と共倒れになれば万々歳。だから「悪魔退治に行く」と言った俺を止めようとはしない。

 その一方で、回復はしてくれるという。その言葉に嘘はなく、彼の眼は真摯だ。心の底から俺の無事を祈っていることが窺えた。

 

 父の目だ。

 子供を案じる、孤児院の父親の目だった。

 

 先程のことを思い出す。

 彼は悪魔を処理すると言った。それはメシア教が天使以外の悪魔を敵視しているが故の言葉だと思ったが、どうやら純粋に俺の身を案じてのことでもあったらしい。

 

「……ありがとうございます。じゃ、行ってきます」

 

 俺はそれだけ告げて、教会の外へと足を踏み出した。

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