良き世紀末を目指して 作:ミツバチ
造魔メアリ―――
メアリー・プロトのステータスをGUMPで確認する。
どうやらピクシーとガキが覚えていた魔法を色濃く継承したらしい。俺は目尻を擦り、頬を叩いた。いつまでジメジメしているつもりだ。そろそろ切り替えろよ、俺!
さて――メアリー・プロトについてだ。
名前の由来は言わずもがな。メアリーは『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』の著者メアリー・シェリーから拝借した。プロト、というのはプロトタイプとプロメテウスを掛けたダブルミーニングである。……ちょっと綴りが怪しいが、そこは勘弁して欲しい。
少女型の造魔でメアリといえば、誰もがソウルハッカーズの彼女を思い浮かべることだろう。
しかし今の彼女はその外観だけでいえば、顔以外のパーツはペルソナ3フェスに登場したメティスに近いように見える。随分とメカメカしい仕様で尚且つ小学生並みに小柄なのは、ヴィクトルに曰く彼女が試作段階の代物だからだ。
生まれたばかりの造魔は小柄だ。しかし彼女達は、合体を繰り返すことで成長し大きく強くなっていく。
「長い研究の末――私は神が如何様にして悪魔と、そして人の身体を造りたもうたのかおおよその察しがついた。だが如何にして心を造り上げたのか、未だ解らぬのだ」
生命を探求する異端の科学者――ヴィクトルが独白する。
魔の集う業深き館、業魔殿。錬金術や邪教の秘儀を元に悪魔合体を実現した彼は、一説によると悪魔召喚プログラムの開発に大きく寄与していると噂されている。実際、彼はソウルハッカーズの劇中で「COMPを修復できるのは私だけだ」とまで豪語した。
そんな彼の足跡は、最低でも百年前――大正の時代まで遡ることができる。
吸血鬼の血液を基に自らの肉体を改造し半吸血鬼化しているヴィクトルは、事実上の不老不死だ。彼は永い時の中――己が探求心に従い、生命の神秘を解き明かすべく研究に暮れている。
今回の試み――造魔誕生合体もその一環だという話だ。
「先程、お前の仲魔は言ったな。合体しても尚心は受け継がれると。それが事実か、私は確かめてみたい。機械の身体を持って生まれた造魔が、どのような成長を遂げるのか知りたいのだ。今の彼女に秘められた心は無垢で、それ故に閉ざされている。その彼女が――人と接し、悪魔と接し、その果てになにを考えなにを想うのか。……これは、その経過を探るための実験だ」
「……言いたいことは分かるつもりだよ」
つまり俺の造魔メアリー・プロトは、図らずしもソウルハッカーズに登場した造魔メアリの試作品になる、ということか。プロトだけに。
なんだかあとあと歴史が変わりそうで気が引ける。
まあ、良くも悪くもメアリの存在は直接ストーリーに関わるものでもなし。今はスプーキーズの活躍と健闘を祈るしかないか。……とは言ったものの。それもこれも、この国が無事に2000年を迎えることができるかに掛かっているのだが。
それはさておき。
「彼女を俺に渡す条件として、定期的にここに連れてきて経過観察をさせろ、ってこと?」
「概ねその通りだ。お前は理解が早くて助かる」
それはどうも。
「だけど俺が今住んでるところは東京の郊外だ。それに小学生だから、平日には学校に行かなきゃならない。この平崎市までマメに足を運べるかどうかっていうと、ちょっと無理があると思うんだが……」
「ならばこれをやろう」
そう言って、ヴィクトルは懐から円筒形の物体を出した。
見た目は仏具に近いだろうか。その表面には艶がなく、材質が鉄なのか石なのかすら判別がつかない。三つの臼が重なったような形をしていて、表面にはびっしりとお経みたいなものが書いてある。大きさは丁度掌に収まるくらいだ。
……なんか見覚えがあるな、これ。
「
差し出された装置を渋面で受け取る。
察するに、これはアバドン王でヴィクトルがライドウに渡していた代物だろう。その節はどうもお世話になりました。でも俺には別のものに見えてしょうがないんだが……いや、気のせいだということにしておこう。
アマラ宇宙? ボルテクス界? 知らない世界線ですね……。
転輪鼓をショルダーポーチに仕舞ってから、俺は意図して話題を変えた。
「ところでヴィクトル。一つ、聞きたいことがあるんだが」
「なんだ。言ってみるがいい」
「COMP……っていうか、悪魔召喚プログラムを造ったのが誰か知っているか? 俺、いきなりそのプログラムを『STEVEN』って奴から送り付けられたせいでサマナーになってしまったんですけど」
「…………」
俺の言葉を聞くや否や、ヴィクトルは意味深に目を細めた。
なにか気に障ったとかこちらを疑っているとか、そういう雰囲気ではない。むしろ懐かしむような仕草で、長命の科学者は顎を撫でた。
「ああ。あれを造ったのは――私と、スティーブンという名の物理学者だ。
全ての始まりは、スティーブンが開発したターミナルシステムによって現界と魔界が繋がったことだった。それ自体は偶発的な事故だったのだが、悪魔の脅威を目の当たりにしたあやつは、同じ力で対抗すべく私に悪魔召喚の秘術を教えるよう乞うてきた。そして儀式の工程をプログラミングすることで完成したのが件の悪魔召喚プログラムだ。これがお前達デビルサマナーの間に普及したのは、比較的最近の出来事だと言える」
「……で、スティーブンはその後どうなったんだ?」
「悪いが、私はそれを知らない。こうしてあやつの名を口にするのも久方振りのことなのだ。そのメールの送り主があやつ本人なのか、あるいは名を騙っている何者かの仕業なのか……いずれにせよ、私には判断しかねる」
淡々と語るヴィクトルの姿は、メアリよりもよほど機械じみているように見えた。
それにしても……予測の範疇内ではあるが、なかなか事情が込み入ってる。
正史の真・女神転生世界とそのパラレルワールドであるデビルサマナー世界では悪魔召喚プログラムの作成者は違うものと思っていた。前者はスティーブンで、後者はヴィクトルだろうと。だがまさか共同開発だったとは……。
あるいは、これはこの世界だけの
もしそうなら今後――
「―――あの。シロウ様、ヴィクトル様。お話し中のところ失礼します。準備が整いました。遅くなってしまい、申し訳ありません」
不意に聞こえた少女の声によって思考が断たれる。
つい、と視線を横に向けると、洋服に身を包んだメアリの姿が視界に入った。丈の長い黒い質素なワンピースドレスの上に白いエプロンを纏い、頭にはフリル状のカチューシャを着けている。
非の打ちどころのない、完璧なメイドだった。
「よく似合ってるよ、メアリ」
「はあ、ありがとうございます。シロウ様」
親指を立てて称賛する。メアリも実に可愛らしいが、給仕服を用意したヴィクトルの手腕にこそグッジョブと言いたい。流石は大正時代からTSイッポンダタラにメイドコスさせてた男、やはり格が違った。
ロボ+ロリ+メイド……いかん、俺の性癖がこわれる。
「それじゃあ、そろそろ俺はお暇するよ。世話になったな。ありがとう、ヴィクトル」
心からの感謝を告げて、俺は手に持ったGUMPを掲げた。
このGUMPは俺が今まで使っていた急ごしらえの自作GUMPではない。葛葉キョウジのスペアGUMPだ。実験に付き合う対価として譲って貰ったものなのだが、こちらにも御多分に漏れず試作段階の機能が搭載されているという。
COMP内悪魔合体――文字通り、COMPの機能だけで悪魔合体が可能なのだ。
もちろん業魔殿での合体と比べれば大きく精度は落ちる。素材悪魔の魔法や特技が合体悪魔に引き継がれることはないし、造魔の合体もできない。それに事故などで合体そのものが失敗する危険性が多分にあるという。
察するにこれはソウルハッカーズに登場したCOMP合体の試作品版だろう。あちらよりもロストの可能性が高い以上、そうそう多用はできないな。
ちなみに今GUMP内には造魔メアリと妖魔イソラ、そして地霊スダマのデータが入っている。
イソラは悪魔全書で再召喚したもので、スダマは合体で造った新しい仲魔だ。
まずカハクとコダマを悪魔全書で再召喚。合体し、精霊アーシーズを作成。その後再びカハクを再召喚。アーシーズと合体させることでワンランクアップさせ、スダマを仲魔にすることに成功したという訳だ。
これで手持ちの仲魔の平均レベルが大きく上がった……筈だ。戦力については、ひとまずはこれでいいだろう。あとは会話で仲魔を増やしていく方向で行きたい。
それにしても……レベルが事実上のマスクデータになっているため、判断が難しい。
しかし察するに、俺のレベルは上がっている。その実感がある。その一方で悪魔のレベルは基本的に一定なようだ。
ただヴィクトルに曰く
「さらばだ。また来るがいい、名も知らぬ若きサマナーよ」
メアリを伴い工房から出ようというところで、そういえばまだ名乗っていなかったことを気付かされた。
……ひどい失態だ。我ながら急ぎ過ぎた。こんな礼儀を欠いたクソガキによく付き合ってくれたものだと、ヴィクトルには感心と感謝の念が尽きない。
猛省しつつ、俺は振り返った。
「すまない、名乗るのが遅れてしまった。俺は司朗――川渡司朗だ。今後ともよろしく」
今度こそ業魔殿を後にする。
矢来区の歯車堂本舗ときんた――金王屋で買い物を済ませてから駅に向かった。
……本当なら丸瀬不動産とセルフディフェンスで武器と防具も買っておきたかったのだが、前者は子供相手に銃なんて売ってくれないだろうし、後者はそもそも子供にぴったりなサイズの防具なんて取り扱っていないだろう。なので今回は泣く泣く見送った。
十年……いや、五年後にまた来るからな。
決意を新たにしつつ帰路を行く。電車を乗り継ぎ、いよいよ平崎市ともお別れか――というところで。乗り換えの駅で奇妙なものを見つけた。
―――うん?
「なんだい、見せもんじゃないよ。用がないならさっさと他所へ行っとくれ」
四本の腕全てに剣を持ち、頭部に四つの髑髏を飾った異形。簡素な腰蓑と胸当てだけを身に着けて黄色い肌を剝き出しにした、長い黒髪のおばちゃん。
彼女はさも邪険そうに眉根を寄せて、俺とメアリに向けて手を払う動作をする。
悪魔――鬼女ターラカが駅にいた。