二人の誕生を祝して、ちょっとした短編を作りました。
人気があれば、エリス様バージョンも作るかもです。
あとがきにお知らせがあるので、そちらも読んでやってください
轍
うっすらと白く染まった街中を転ばないようゆっくりと、だけど気持ち早足に歩いていく。
曲がり角を右に左に折れて行き。
パラパラと露店が出された広場へと辿り着いた。
その中心にある噴水周りへ視線をやれば……いた。
「ごめん、遅くなって!」
駆け寄りながら、石造りの縁に腰かけ手を組んでいたその人に手を合わせる。
「よ、ようクリス! 久しぶり」
ビクッと体を震わせた彼は顔を上げ、声の主があたしだと分かると笑顔を向けてくれた。
この人の名前はサトウカズマくん。
あたしの……その……恋人だったりする。
「本当はもっと早く来られる予定だったんだけど、急な仕事が入っちゃってさ」
「気にすんなよ。クリスが忙しいのはいつもの事じゃないか」
そう、いつもの事だ。
あたしの業務は定時制ではない。
突然、新しい仕事が入るのは日常茶飯事。
偶の休暇を取ったとしても、緊急時はすぐに駆け付けなければならない。
だから、こんな風に待ち合わせに遅れてしまったり、そもそも来られなくなってしまったり。
今までにもそんな事が何度もあった。
その度に彼は笑って許してくれる。
でも、だからこそ不安に思う。
もし彼の恋人がめぐみんだったら、こんな事にはならないはずだ。
仮にダクネスだったとしても、もっと時間を作れていたはず。
やはりあたしの存在は、彼にとって重荷なのではなかろうか。
ふとした時にそんな事を考えてしまう。
だけど、それでもやっぱりあたしはカズマ君が好きなのだ。
誰にも取られたくないし、あたしだけを見ていて欲しい。
どうすればいいんだろうか。
「クリス?」
あたしの顔を覗き込むカズマ君の声ではっとする。
「ううん、なんでもない。そろそろいこっか」
慌ててニコッと笑みを返したあたしを、カズマ君は訝し気に眺め、
「……なんかあったらすぐ言えよ。よし、それじゃあいってみようか!」
「カズマ君がどんなところに連れて行ってくれるのか、期待してるよ」
「お、おう。それじゃあ……いってみよう」
力なく拳を上げる締まらないカズマ君の様子に、あたしはクスッとした。
「――うーん、やっぱライブっていいよね。アクセルハーツが歌って踊るのを見ていたら何だかこっちまで元気になるよ」
「だろ、なんせ俺がプロデュースしてるからな!」
ぞろぞろ流れる人の波。
興奮冷めやらぬ群衆に混じり、あたし達は満足げに小劇場を後にした。
「確かに、カズマ君ってビジネスとか商品開発とかうまいよね。前に呪いの指輪の件であたし達がアイドルをやらされた時も、しっかりとお客さんを呼び込んでたし」
「あの時はクリスに塩対応キャラをやってもらったんだよな」
言われてみればそうだった。
「あれで良かったのかは今でも疑問だよ。せっかく来てくれた人に素っ気ない対応するのって、なんだか申し訳ないし」
「喜んでる奴も多かったからあれで正解だろ。実際、俺もなかなか良かったと思ってるし」
「あー、はいはい、どうもね」
「……やっぱ微妙かも」
複雑そうに呻くカズマ君。
そんな彼の反応を楽しんでいると、近くから軽快な笛の音が聞こえて来た。
方角からして街の中央の方だろうか。
「カズマ君、この音ってなにか分かる?」
「いや、さっぱり」
彼も知らないのか。
となればとるべき選択肢は一つしかない。
「ねえねえカズマ君、何をやってるのか見にいってみようよ」
「えっ、今からクレープ食べに行くんじゃ?」
「いいからいいから!」
予定が狂い動揺しているカズマ君の手をギュッと握る。
変に抵抗される前にと、あたしは先立って音源に向けて駆け出した。
徐々に近づく笛の音。
それに合わせて、待ち行く人の数も増加する。
数分ほど歩き続け、目的の場所へと辿り着いた。
というか、とっても馴染みのある場所だった。
「そういえばアイツ、今日の昼にイベントを開くからってここ最近ずっと忙しそうにしてたな」
今更のようにカズマ君がポツリと呟く。
あたし達がいるのは、この街の領主の屋敷。
要するにダクネスの家だ。
普段は規制されている入口が、今日は解放されており、住人達が続々と庭の方へと向かっている。
そこには元気にはしゃぐ子供達とそれを優しく見守る大人の姿が。
子供は手に持ったスプーンを使い、雪玉を慎重に転がしていく。
方向は定まらないし、雪玉はどんどん大きくなるし、見るからに大変そうだ。
それでも頑張れるのは、レースの優勝者には豪華賞品が待っているから。
会場前にあるテントの下でダクネスが微笑んでいるのも見て取れる。
「そっか、今年はやることにしたんだ」
「やるってなにを?」
ダクネスからまったく聞いていないのか、カズマ君の頭に疑問符が湧く。
いや、関心が無くて聞き流してるだけかもしれないけど。
「これは雪精転がしって言って、春の訪れを祝うための行事だよ。子供達が転がした雪玉を最後に皆で壊すことで、雪精討伐の真似事をしているのさ」
「なんて過激なイベントなんだ」
あたしの解説を聞いたカズマ君が眉を顰める。
彼は昔、雪精の討伐時に一度死んじゃってるから無理もない。
「ん、でも去年までこんな事やってたか? 俺は基本、冬は屋敷に籠ってるから見逃しただけかもしれないけど」
「ううん、アクセルではずっとやって無かったよ。ブレーキとか王都とか、毎年開催するとこもあるし」
「……アクセルではやってはいけない呪いでもかかってるのか?」
当然の疑問にあたしは首を横に振り、
「このイベントって、基本的にはその土地の領主が払うんだよ。で、ここの前の領主と言えば」
「あー、完全に把握した」
そう、元アクセル領主のアルダープは、とにかくお金に汚い人だった。
デストロイヤー襲来の時にさえ、助けを求める農民達の声を一蹴する程に。
そんな人が、春を迎えるという純粋なイベントなどに出資してくれるはずがない。
「にしても、すごい賑わいだな。春ってそんなに恋しいもんなのかね」
「キミって冬が好きなんだっけ?」
「これと言って好きな季節はないな。ただ、こんな寒い中集まってまでやることなのかなと思ってさ」
言いながらカズマ君は会場を見渡した。
習ってあたしも前を見る。
「でもさ」
キラキラと瞬く光が降り注ぎ、辺りは一面銀世界だ。
必死の吐息と温かな声援。
咲き誇るのは、人々の朗らかな笑顔。
幾百とした慈しみが、この場には溢れていた。
「みんなでイベントに参加している。それだけいいんだよ、きっと」
会場からじっと眼を放さないまま。
この冬のひだまりで、じっと立ち尽くしていた。
楽しい時間というものは、なぜこうもすぐに終わるのだろう。
イベント終わりにダクネスをからかったり、街をのんびり散策したり。
さっきは、カズマ君が事前に予約してくれた高級レストランで夕食を摂り、とても美味しい思いをさせてもらえた。
いまはその帰り道。
屋敷までの道のりを二人並んで歩いていた。
またチラチラと軽い雪が降り始めた。
左手を返してみれば音もなく、ふわりと綿毛が舞い降りて、しばらく経つと消えてしまう。
陽はとっくに陰りをみせて、働いていた人々も家路に向かうに違いない。
「カズマ君、今日もありがとうね。とっても楽しかったよ」
「お、おう、こちらこそ」
彼の横顔をチラッと見遣りお礼を告げる。
それに対し、上擦ったような声で返すカズマ君。
一瞬、視線が合ったのに、さっと右へと流してしまった。
「……ねえカズマ君。あたしになにか言いたい事があるんじゃないかな?」
あたしの言葉に、カズマ君がビクリッと体を震えさせる。
「な、なななぜそんな風にお、おおも、お思いに⁉」
しどろもどろな彼とは対照的に、あたしはゆっくりと言葉を選んでいく。
「ふとした時に、なにか考え事をしてたし、空返事が多かったし。食事中なんてずっとソワソワしてたじゃない」
右手が段々強張っていくのを感じる。
同時にあたしの気持ちも喚き出す。
「……やっぱり」
喉の奥がギュッと締め付けられる。
それをグッと飲み込み、無理やり声に乗せた。
「あたしは……キミの負担になり過ぎたのかな?」
「…………は?」
「……え?」
虚をつかれたような声を上げるカズマ君に、つい素で返してしまう。
……あれ、これって。
「……違うの?」
「当たり前だろッ⁉ なんでクリスみたいな非の打ちどころのない彼女を捕まえて文句があると思うんだよ⁉」
「だ、だって、あたしの都合でよくデートの計画がとん挫しちゃうし。この前だって、カーラさんの仕事に巻き込んじゃって」
呆気に取られ固まっていたカズマ君は頭に手を当てると、はあーっと盛大に溜息を吐き出し、
「あのな、前にも言ったけど、そんなもん俺にとっては厄介事の内にも入んないんだって。アクア達みたいな我儘なんかじゃないんだしさ。あの女には恩義があるのを盾に脅迫まがいの事をされてるだけだ。クリスのせいじゃない。そもそも……」
ガシッとあたしの肩を掴み、
「クリスが皆の知らない所でずっと頑張り続けてくれてるのを俺は知ってる。そのお陰で、俺はこうしてクリスと一緒にいられるんだ。だから、あんまり自分を卑下しないでくださいよ。あなたは俺がこの世界で、唯一尊敬してる人なんですから」
真っ直ぐ目を見て言ってくれた。
しかし、段々と自分の振舞いが恥ずかしくなったのだろう。
ゆっくりと両肩から手を放し、さっと後ろを向いてしまった。
後ろから見えるその耳は真っ赤になっている。
……まったく、この人はまったく。
どうして彼の言葉はこんなにも胸に深く、温かく刺さるんだろう。
ずっと悩んでいたのが嘘みたい。
今はこんなにも晴れやかな気持ちになれている。
「ありがと、カズマ君。これからもよろしく!」
右手を差し出すと、チラッとこちらをみたカズマ君がおずおずと握って来た。
男性にしては傷のない綺麗な手。
だけど、あたしよりかはちゃんと大きな優しい手。
その温もりがじんわりと伝わってくる。
「あれ、だったらキミは何を悩んでたの?」
ふと思い出した疑問に、再び彼の時間が止ってしまう。
「……怒らないって約束してくれるか?」
まったく。
さっきはあんなに格好良かったのに、一転して凄い臆病さだ。
まあ、こんな所も可愛いんだけどね。
「怒らない怒らない」
「幻滅しない?」
「しないしない」
「俺の事嫌いになったり……」
「しないから早く言いなよ」
「はい、すいません」
ほんと、こういう面倒な所は直した方がいいと思う。
「その……二人で会うのも久しぶりだし……今日は……夜も一緒にいたいなーっ……と」
………………。
……………………えーっと。
「あの、それって……二人でって……ことだよね?」
「……それ以外にあるとでも」
「「…………」」
静寂が間を埋める。
二人して顔をそらしているので、視線は交じり合い様がない。
キンとした冷気の中。
ここだけ真夏なのではないかと思うぐらい体が熱くなっている。
「でも……」
「っ! や、やっぱ今のな……っ⁉」
彼が言い切る前にぼそりと、
「…………あたし、胸ちいさいよ」
「……それはそれでありだから、全然気にしなくて大丈夫、です」
「……そ、そう、なんだ」
再び黙り込んでしまう。
「……と、とりあえず歩こうぜ」
「……うん」
小さく首を縦に振り、彼の服の裾をちょこんとつまむ。
それから徐に歩き出した。
いつの間にか雪は止み、上空を月明かりが照らしていた。
雄大な丸い月の下、ゆっくりと歩を進めていく。
シンシンと積もった雪の上。
二人の足跡だけが残されていく。
yotubeはじめました。
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