「……みんなおはよう!」
2020年の12月31日。世間的に言われる"大晦日"に、香澄は蔵にやってきた。
1年前と何ら変わらない様子で蔵の扉を叩き、ちょっと忙しなく階段をおりてくる音に、たえ、りみ、有咲、沙綾は安心感さえ覚えていたのは秘密だ。
「おはよう香澄。……はい、今日の差し入れだよ」
「ありがとうさーや! ……ん~! 今日もさーやんちのパンは美味しい!」
今日香澄が選んだのは、メロンパンだった。中になにか入っている訳でもないシンプルなメロンパンだが、最高に美味しい。香澄は、貰った直後、あっという間にメロンパンを食べきっていた。
「ふふっ、ありがと、香澄」
香澄の褒め言葉を、沙綾が楽しそうに受けとり笑う。ほのぼのとした光景だったが、有咲からのツッコミがそこに突き刺さってくる。
「……って、おい! いつの間に食べてたんだよ!」
「ええー、食べてないの有咲だけだよ!」
「なっ! りみとおたえ、いつの間に……」
驚いている有咲を他所に、うさぎのしっぽパンとチョココロネを頬張る2人。その光景を嬉しそうに眺めながら、沙綾もベーグルを1口口にしていた。
先にパンを食べ終わっていた香澄は、四人がパンを食べている光景を眺めていた。
各々が雑談しながら、幸せそうに笑い合っている。その何気ない日常が、なんとも言い難い星の鼓動感じて……。
「あっ!」
香澄が唐突に声を上げる。
こういう時、香澄が急に声を上げる時は、何かしらイベント事が起きるという事が決まっている。現に、Poppin’Partyの面々がなにかしら行動を起こすときというのは、香澄がきっかけのことが多いのだ。
「どうしたの、香澄ちゃん?」
りみが、慣れた様子で香澄に聞いてきた。
香澄は、それに若干興奮気味に答える。
「りみりん! "今年最後"なんだよ!」
「……えと、今年最後?」
「うん! 2020年も、今日で最後でしょ? だから、今日やることすることぜーんぶ今年最後なんだよ!」
心の底から楽しそうに言う。香澄の思いつきの意図がわかったのか、たえも香澄と同じように声を上げた。
「そっか! 私がオッちゃんとモフモフするのも、今日で今年最後なんだ!」
「そうなんだよ! ギター弾くのも、パン食べるのも、ぜーんぶ全部!」
目をキラキラさせながら、香澄と頷き合うたえ。一緒にはしゃぎ合っているその二人を見て、有咲はため息をついた。
「それ、何やるのも今日で最後になるじゃねーか」
「うん、そうだねぇ。みんなで集まるのも、今年最後ってことになるのかな」
沙綾が、ちょっとだけ寂しそうに言う。明日も明後日も、初詣などで会う予定のポピパだったが、"最後"ということもあり、少しだけ寂しさを感じていた。
「……だったらさ! ぜーんぶやっちゃおうよ!」
「全部って?」
りみが不思議そうに首を傾げる。
「ぜんぶはぜんぶだよー!」
「だから、全部ってなんだよ!」
「わっ、今年最後の有咲のツッコミだー」
「う、うるせー!」
有咲が、ワナワナとしながらたえにツッコミを入れる。
後ろでにこにこと笑っている沙綾が、笑みを浮かべたままフォローを入れた。
「ふふっ。香澄、全部って本当に全部なの?」
「うん! ご飯食べたり、お話したり! ライブしたり……あっ! 有咲のうちでお泊まりとかも!」
「いやいや。ご飯とかはまだしも、ライブとか泊まりは出来ないだろ……」
有咲が溜息をついた。しかし、"全部をやる"ということ自体は、全くもって否定していなかった。
「んー、どうすればいいかな。やり残しはしたくないし……」
5人で、"今年最後に全部をやる"ことについて考える。あれをやった方がいいだとか、これをやった方がいいだとか。時にお菓子を食べながら、ジュースを飲みながら香澄達はガールズトークを続けていく。
そんな時、りみから意見が挙がった。
「……演奏、したらどうかな?」
「演奏? 確かに、"全部やる"ことには、入ってるけど……」
沙綾が首を傾げる。りみは、4人に向き直り続けた。
「えっと。私のオリジナル曲って、何かあった時とか楽しいことがあった時とかに作ってるでしょ? だから、ポピパの全部ってこの歌達になるんじゃないかな」
りみが微笑む。ポピパの4人もその言葉を聞いて、今までの"
大好きな歌、約束の歌、永遠の歌。大切な歌、はじまりの歌、青春のうた。それから収束し、同調し、内なる力を秘めて六芒星のように輝いていく。
「……それ、最高だよりみりん!」
うっきゃあ! と言った感じに弾けつつ、香澄はりみに抱きつく。りみが、恥ずかしそうにしつつも、香澄を優しく受け止める。
「……うん! 私も、本気で向き合ってきた歌達を、最後にやりたいな」
「だね。……あ、どうせなら作った順にやっていこうよ。それを写真とか動画に撮っておいたりするのはどうかな!」
「いいねいいね! 全部悔いないようにやっちゃおう!」
香澄と、沙綾と、りみとたえがノリノリだ。そんな4人が、また声を出していない有咲の方を見る。
「え、全部やるんだろ? ちょっと忘れてるのもあるから、楽譜出さないと……」
有咲が背を向けて、近くの棚をガサゴソと探し始めた。そんな自然な有咲の態度に、香澄が「素直になったなぁ……」などと思ったのは秘密である。
「よーし! じゃあみんな! 準備はいい?」
ランダスターを傍らに携え、香澄は4人を見る。
私と一緒に
それは、"今年最後"なんて関係ない。今日も、明日も明後日も。1年後も10年後も、何時まで続いていく。
「よし、いくよ! "Yes! BanG_Dream!"」
Deliver the starbeat!
意志と勇気をその胸に、Poppin’Partyは何時までも歩いていく。