ギムの東へ約20km、ある名も無き小さなエルフの村、外界からの交流は少なく、ギムでの出来事の報が来るのが遅れた。
にわかに信じがたい話ではあるが、ギムの住民達が異形の化け物と化して、ロウリア軍を飲み込んだらしい。
彼らはむやみに動くのは得策では無いと判断し、村に留まっていた。
その村に、ロウリア軍の残党、100人がやってきた。
彼らはギムでの戦いの生き残りだ。しかし誰もが発狂状態で、まともに会話が成立する様な状況じゃ無い。
「この村の住人を生贄として捧げます‼︎ あはははあぁ‼︎」
「この村の人間からしたら俺ら助かるんだ‼︎」
「あ? あぁ...」
彼らは、村人たちを殺そうと突っ込んでいった。
何故自分達だけが、こんな目に遭わなければいけないのだと。微かに残った理性が怒りを増幅させた。
村人たちは元から警戒していたのもあって、速やかに避難できたが逃げ遅れた50人ほどが切り殺された。
村人たちは次々にロウリア兵に捕まり、殺されていく。彼らは狂気的な高揚に包まれた。
村人たちはもうダメかーーーーそう思った時だった。
地面から突き破って姿を現した触手に身体を掴まれ、ロウリア兵達は地面に引きずり込まれていく。
100人ほどのロウリア兵は瞬く間に全滅した。
「これで最後だと良いんだけど......」
カルキスト・ザァラはそう呟いた。
ギムでの戦いで、殺しきれなかった集団はこれで最後の筈である。ひとりひとり、ばらばらに逃げ出した者は相当量いるだろうが、そこまではカバーは仕切れない。
ザァラは村の家屋へと目を向ける。
窓の隙間から、此方を怯えた表情でじっと見ているエルフ達の姿があった。彼らの瞳には恐怖の色が宿っていたが、まぁ仕方が無い。
エルフと言う種族は、ダエーワと同じ様な見た目をしている。ザァラはダエーワの血を4分の3を引いている訳で、外見は彼らとかなり似通っていた。
しかし、エルフはダエーバイト由来の魔術や植物操作術が使える訳でも無いらしい。見た目は似ているが根本的に種族としては別の存在なのだろう。
村人達はザァラが同族だと勘違いしたのか、少し恐怖が薄まるのを感じた。
やがて、暫くすると村長らしき人物が此方に歩み寄ってきた。
「助けて頂きありがとうございます......それで何が対価でしょうか? やはり生贄ですか?」
村長はかなり怯えた様子だった。
彼女の権能ーーーーサーキックの異常能力を見れば、そうなるのも理解はできる。
とは言え、対価としては求めるものは何も無い。自分がギムの住民をハルコストに変えた事実が仮に広まっていれば、そう言う考えにもなるだろう。
「特に私が貴方達に求める事はありません。私はただ任務できただけです」
村長は何処か安堵した表情を浮かべた。とは言えザァラを完全に信用した様子でも無かった。
「私はこれで帰りますので、そう怯えなさらないでください」
ザァラはそう言い残し、その場から去ろうとする。
「少しお待ちください! 助けてくださった恩人を礼もせずに返すわけには行きません」
村長はそう言ってザァラを引き止めた。
そうして、後にエルフの村とアディウム帝国は交友を深める事のきっかけとなった。