あれから三週間後……
「ようやく解放されたぁ……」
検査の結果異常なしと診断され、晴れて退院することができた。ずっと病院の中で過ごしていたからか、陽の光がいつもよりも眩しく感じた。
さて、退院したら向かう場所はただ一つ。
「早くブラン様のところへ!!」
クリストは小走りで教会へ向かった。
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「失礼します。クリストです」
仕事部屋の扉をノックする。いつもなら中から返事が返って来るはずだが、今回は返って来ない。代わりに、扉に近付く足音が聞こえてくる。扉が開くと、向こうには見慣れた格好のルウィーの女神、ブランが立っていた。
「クリスト……?」
「はい。お久しぶりです、ブラン様」
入院中は電話でやり取りをした程度。こうやって顔を合わせるのは久しぶりの事だ。
「もうすっかり良さそうね」
「はい。バッチリ治してきました」
「よかった……。皆心配してたのよ?」
「それに関しては……本当に申し訳ありませんでした。あの時も、ブラン様に迷惑かけてしまって……」
ずっと謝ろうとしていたことだ。自分が不注意なばかりにブランの手を煩わせたこと、不安な要素を作ってしまったことに責任を感じていた。
「気にする事はないわ。起きてしまったことは仕方が無いし、あの状況でロムに逃げるよう指示した判断は間違いではなかったわ。」
その言葉で大分救われた気持ちになる。
「……ありがとうございます」
「でも、無理しすぎはダメよ。今回だって生きていたのが奇跡なのだから」
「以後、気を付けます」
深く頭を下げる。また迷惑かけないためにも……。
「さて、あなたも聞きたいことがあるだろうし、私もあなたに話したいことがある。ここで立ち話もなんだし、私の部屋に行きましょうか」
「はい」
クリストはブランの後ろをついて歩く。ブランはすぐ足を止めると、クリストの方を向いた。
「そういえば、まだ言ってなかったわね」
「はい?」
「……おかえりなさい、クリスト」
おかえりなさい。普段何気なく口にする言葉だったが、今はものすごく暖かい言葉に感じる。
「はい……ただいま戻りました、ブラン様……!」
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「まずはこれを渡しておくわ」
クリストが受け取ったのは畳まれた水色の布と紙袋だ。布を広げてみると、前まで羽織っていたのと同じケープであることが分かった。紙袋の中にはスマホやメモ帳等、ポシェットに入れて持ち運んでいた物と、新品の白いポシェットが入っていた。
「これは……」
「あなたの持ち物よ。前のことで壊れたり汚れたりしていたから。気にせず受け取って」
確かに、あれだけの猛攻を受けてポシェットの中身が無事なわけが無い。中にあった物も、携帯しておく必要がある物だった為、正直ものすごくありがたい。
「ありがとうございます」
「えぇ。それで、あなたの刀なのだけど……」
「あれですか……。確か砕けたはず……」
クリストの持っていた刀、『雪華・銀雪』。二本共エンシェントドラゴンの攻撃を受け大きく破損、最終的には刃が砕けしまった。
「そうね。破片が散らばっていたわ」
「あれは替えがきかない物ですし、諦めますよ」
「えっと……一応、回収してもらったのだけど、見る?」
「はい!?」
聞けば、教会の倉庫で保管しているらしい。二人は倉庫向かい、中から砕けた刀の入った箱を取り出した。
「慎重にね……」
「はい……」
ゆっくりと慎重に運び出す。箱の中には砕けた刃と、柄が入っている。刃はパズルのように組み合わせて入れられており、刀のシルエットにはなっている。
「何故ここまで……?」
「大切な物そうだったから、回収できる範囲で回収したわ。それに、あなたが手放すとしても、ここまで魔法伝導の良い武器は珍しいから資料にと思って」
「なるほど……。本当にありがとうございます……」
「感謝の言葉は開発班の職員に送って。彼らがこの状態にしたのだから」
開発班の職員には気の遠くなるような作業をさせてしまったようだ。後で感謝の言葉と差し入れを送らなければ。
二人はまたブランの部屋に戻った。
「じゃあ、あなたから聞きたいことがあれば聞こうかしら。何かある?」
「そうですね……。では、ロム様は大丈夫でしたか?」
「ロム? ロムならちゃんとあなたの事を知らせてくれたわよ?」
「あぁ、そうではなくて。なんと言うか……ショック受けてたりとかしてませんでしたか?」
「あぁ……」
ブランは気まずそうに目を逸らした。
「正直に言うと……かなり責任を感じていたわ。瀕死のあなたを運んできた時も、泣きながら謝っていたし……」
「……」
「しばらくは本当に元気が無かったし自信もなくしていたわ。今はもう立ち直ったみたいだけど……」
「……そうでしたか」
見た目は幼くても女神であることに変わりはない。女神として、人を救えなかったことに責任を感じていたのだろう。
「とにかく、二人にも元気な姿を見せててあげなさいよ? 今は二人でクエストに行ってるから、帰ってきたら出迎えてあげて」
「分かりました」
「他に聞きたいことはある?」
「そうですね……他は特に無いです。ここも変わりないみたいですし」
「そう。じゃあ、私は仕事に戻るわよ」
「手伝いますよ?」
「やっぱりそう言うのね。ありがとう。お願いするわ」
「はい!」
ブランは嬉しそうに微笑んでいた。釣られてクリストも笑顔で返事をした。
❅
時計の針は五時二十分を指している。黄昏時の陽の光が仕事部屋の中を橙に染める。仕事も終わり、二人で部屋を出ようとした時だった。
「ただいまーー!!」
「ラムちゃんここお仕事の部屋……」
仕事部屋の扉が勢いよく開き、見慣れた格好の幼女二人が入ってくる。
「ラム……ドアを開ける時は優しく開けなさいって……」
「あっ!? 側近さんだ!」
「あ……側近さん……」
ラムはクリストに駆け寄っていった。ブランの事は気にもとめてない様子。
「側近さん、おかえりなさい!」
「はい。ただいまです!」
「もうすっかり元気そうね! 心配してたんだからね?」
「お気遣いありがとうございます。ラム様も変わらず元気そうで何よりです」
ラムはとても嬉しそうに話している。一方ロムはというと、まだ扉のところに立っている。
「ロム?」
ブランが声をかけても、不安そうな目で見るだけで動こうとしない。
「……ラム、帰ってきてすぐで悪いけど、ちょっと手伝って欲しいことがあるの」
「えーまだ側近さんとお話したいよ」
「夕飯の時に出来るでしょ? だから……ね?」
「そっか! そうだね。じゃあ、側近さん! またご飯の時にお話しようね!」
「はい!」
ブランはラムを連れて部屋を出た。部屋を出る直前にブランはクリストを一瞥した。クリストは小さく頭を下げて感謝を伝える。
仕事部屋にはロムとクリスト、二人きりになった。
「わ、私もお姉ちゃんのお手伝いしてくるね……」
居心地が悪いのか、ロムも部屋を出ようとした。
「ロム様、久しぶりに会えたのに挨拶もないなんて、少し冷たくないですか?」
「……だって」
「だって?」
「だって……私が逃げたから……側近さんは…………」
今にも泣き出しそうな震えた声だった。
「あれは……私が逃げろと言ったから逃げたのでしょう? ですからそこまで自分を責めなくてもいいんですよ」
「でも……私も女神様なのに……」
相当責任を感じていたようだ。ここまでネガティブなロムは見たことがない。
「そんなに責任感じなくてもいいんですよ。あれは私の判断が招いた事態です」
「でも……」
「ロム様はあの時やるべき行動をしたのですから。それに、私の応急手当はロム様がしてくれたと聞いています。ロム様のおかげで今生きているようなものなんですよ!」
精一杯励ましてみる。実際、ロムの回復があったから手術も成功したと言っても過言ではない筈だ。
「そうなの?」
「そうなんです。ですから、落ち込まないでください。ロム様は立派に自分の役目を果たしたのですから」
「……うん!」
ロムの表情が少し明るくなる。
「ありがとう側近さん」
「いえいえ。私も落ち込んでるロム様は見たくなかったので」
「もう大丈夫! でも、側近さんも無理しないでね?」
「はい。それはもう……心にしかと刻んでおきます……!」
これでロムも完全に立ち直れたはず。心に引っかかっていたものが解消されたからか、どこか安心したような表情をしている。
「そうだ、側近さん」
「はい、なんでしょう?」
「……おかえりなさい!」
「……はい! ただいま、です!」
ルウィーの医療は回復魔法が大いに普及してると思います。だから時間をかければ瀕死の人間でも完治に持っていける……そう思ってます。魔法の力ってすげー