「あ、ブラン様……。ただいま戻りました」
「おかえ……って、な……何があったの!?」
ブランの前に現れたのは全身びしょ濡れのクリストだった。よく見ると、服や髪、頬などに少し泥が付いている。
「クエスト先で雨に降られた上に滑って転んでしまって……」
「らしくないわね」
「油断してました……」
「気を付けなさいよ。怪我はない?」
「怪我はないです」
一応クリストの体を眺める。と言っても肌の露出は少ない格好だから本当に怪我してないのかはわからない。そして気付いたことが一つ、何故か着装が乱れている。いつもは袴の下にある道着の裾が、今は袴の上に出ている。
「とにかく、その格好じゃ風邪引くわよ。大浴場が使えるから、早く入っちゃいなさい」
「ありがとうございます……」
クリストは小さくお辞儀をしてからその場を後にした。
「……あ、今大浴場使用中だったわね。…………多分クリストなら大丈夫でしょ」
❅
大浴場を使うのは今日が初めてだ。大浴場というだけあって、脱衣場から既に広い。
袴を脱ぎ、持ってきた袋にドサッと入れる。水を吸った袴はかなり重くなっている。
「いくらか絞ったんだけどなぁ……袴は履いたままやったからあまり絞れなかったか」
濡れたままルウィー近郊に近付けばかなり冷える上に、水を滴らせたまま教会に入るのも迷惑だと思い、事前に小さな洞窟で雨宿りしながら服を絞っておいたのだ。急いで絞って着た為、道着の着装が乱れたままになっていた……ということだ。
さっさと服を脱ぎ、部屋から持ってきたシャンプーなどを持って大浴場に入る。想像通り、かなり広い。
雨とルウィー近郊の寒さで冷えきった体を温めるために早くお湯に浸かりたかったが、まずは体を洗うのが先。シャワーの前の椅子に座り、髪を解きながらシャワーを浴びた。
「あ"ぁ"ーー温かい〜」
思わず声が漏れてしまった。それくらいこの温かいシャワーが身に染みるのだ。
「おや、誰か入ってきたと思ったら、随分可愛い娘が入ってきたね」
「はっ!? え!? 誰!!?」
声のした方を向くと、やたらスタイルの良い女性が立っていた。
「驚かせてしまったかい? 悪いね。そんなつもりはなかったんだが」
「い、いえ……他に人がいると思わなかったので……」
(でっか……ルウィー以外なら男がわんさか寄って来そうなスタイルだなぁ)
「あぁ、そういうことか」
お隣失礼、と言ってクリストの隣の椅子に座った。
「キミ、ここの職員さん?」
「職員と言うか……側近です。女神の」
クリストは髪を洗いながら答えた。泥が付いてるから念入りに……。
「女神のってことは……ブランちゃんの側近さんか」
「え……?」
クリストの手が一瞬止まる。
(え、今なんて言った? ブラン『ちゃん』……? え、え、不敬では???)
「ブランちゃんたらいつの間にか側近なんてつけちゃって。アタシにも教えてくれたっていいのに」
「あ……あぁ……」
(オイオイオイなんだよお前。ブラン様の友達のつもりか???)
「ねえねえ、キミ名前は?」
「クリスト……です」
「クリストちゃんか。私はシーシャ」
「シーシャ……ん? シーシャ……って、ゴールドサァドの?」
「お、知ってたんだ。流石ブランちゃんの側近だね」
ブランから聞いた話によると、コンビを組んでクエストをこなしていたとかなんとか……。そんな人ならブランと親しい関係でも何もおかしくない。
(なんだ、本当に友達みたいな人だったか)
「こんなところで会うとは思ってもいませんでしたが……。というか、何故教会の大浴場に?」
「ブランちゃんと模擬戦闘したんだよね。それで汗かいちゃったからさ」
「……結果は?」
「割といいとこまでいったんだけど、負けちゃったよ」
「そうでしたか……」
(女神相手にいいとこまでいくって……流石)
クリストは髪を洗い終え、またポニーテールにすると、今度は体を洗い始めた。
「背中流そうか?」
「え?」
「せっかくだからさ。どうかな?」
「では……お願いします」
シーシャはクリストからボディタオルを受け取り、それを使ってクリストの背中を洗い始めた。
「仕事はデスクワークだけなのかい?」
「いえ、クエストにも同行したりしますよ」
「それにしては綺麗な体だね。傷痕ひとつ無い」
「毎回手当してますから」
「なるほど、ちゃんと自分の体を大切にするタイプか。それが一番だよ」
「ありがとうございます」
体を洗い終え、二人は並んでお湯に浸かりながら会話を続けた。
「側近なら、ブランちゃんのそばに居ることも多いんでしょ?」
「勿論です」
「だったらさ、やっぱりブランちゃんのこと好きなんでしょ?」
「す……!!?」
わかりやすく動揺した様子を見せた。
「あぁ……違うくて、恋人としてとかそっちじゃなくてさ。なんというか……人として?」
「あ、あぁ……そっちですか……。そっちならはい、好きですよ」
「…………もしかして恋愛対象としても好きだったりする?」
「ち、違いますよ!?」
またわかりやすく動揺した様子を見せた。顔が赤いようにも見えるが、照れてるのか、お湯で暖まったからか、どっちなのかはわからない。
「何か、惚れるきっかけみたいなのはあったの?」
「な、何で私がブラン様に惚れてる前提で話進めてんですか!?」
「だってさっきの反応……」
「違いますって! でも、前とはちょっと違う感情を抱くようになったのは確かです……」
「なになに? 何があったの?」
「あれは……」
クリストは前にとあるクエストに同行した時のことを話した。その時に行ったある洞窟の調査、そこで起きた出来事をシーシャに話した。
「……なるほど。つまりキミはブランちゃんが助けに来た時に惚れた、と」
「ですから、惚れたとは違うんですって。その時に……強い憧れを抱いたというか、ああなりたいって思うようになったんですよ」
「それは……」
「誰かを守れるくらい強くて、勇敢になりたい……」
「なるほど。簡単な目標ではないけど、それが良い。目標は高い方がいいからね」
「……ですが、ブラン様のあの強さ、どこから来るんでしょうね……」
「一度手合わせしてみたらどうだい?」
「手合わせ……ですか?」
「そう。戦いの中に答えはあるって言うじゃん?」
「……見つけれますかね、答え」
「それはキミ次第だよ。ま、頑張ることだね」
シーシャは立ち上がり、浴場を後にした。
一人になったクリストはどこを見るでもなく、ぼーっとどこかを眺めていた。
「わかるのかなぁ……でもやってみる価値はあるか」
それに、ブランとの模擬戦闘もまだしたことがない。女神と手合わせすれば自分の課題も見つかるはず。今度暇そうな時にお願いしてみることにした。自分の課題と、ブランの強さの秘訣を見つけるために……。
シーシャさんは出したかったので出しました。多分今後もいつか出てくると思います。
あと、クリストはシーシャを知ってるのに初見で気付かなかったのは、裸だったからです。いつものあの格好してればちゃんと気付けてましたよ