白の女神の新たな従者   作:よっしー希少種

14 / 24
最近熱いので涼し気なお話です


訓練……?

 マーリョランド、ルウィーの北にある島にあるエリア。クリストはクエストの為にここを訪れていた。

 

「ちょ……待てーー!」

 

 内容は海王イカの討伐。マーリョランドに居る青いイカ型のモンスターだ。残り討伐数は二匹。そして今、全力で逃走をしている二匹の海王イカを追いかけている。

 

「待てってーー! なんでイカのくせに陸上でこんな動けんだよ!」

(くそっ……SP温存しとけば今頃スキルでぱぱっと倒して帰れてたのに……!)

 

 道中無駄な戦闘もあった為にSPももう無い。だが、あの二匹にも痛手は与えてる。普通に斬るだけで倒せるはずだ。

 追いかけっこの末、たどり着いたのは川だった。二匹は迷わず川に飛び込んだ。

 

「なっ……!? こいつら!」

 

 クリストは川の前で足を止める。流れは緩やかだが、そこそこ深い。

 

「…………他のやつで数合わせるか」

 

 大きくため息をついて河に背を向けたその時、クリストの腰に青い触手が巻きついた。そしてそのまま川の中に引きずり込んだ。

 完全に虚をつかれた。咄嗟に息を止めたが、そう長くは持ちそうにない。そして何より……

 

(やばい……泳げないのに水中戦は無理だって!)

 

 泳げない。そして息を止めるのも苦手。そう、クリストは水中での活動が大の苦手だ。海王イカは一匹が触手で川底に押し付け、もう一匹がクリストの上にのしかかった。溺死させようとしてるらしい。

 

(馬鹿やめろどけどけどけどけ!)

 

 クリストは必死にもがいたが、全くどかせる気配がない。それどころか、巻きついた触手の締め付けがさらにキツくなる。

 

「あ……がっ……」

(まずい……結構思いっきり息吐いちゃった。死ぬ……ここで……? ヤダ……)

 

 ふと、視界の右端に光る何かが見えた。もしやと思い視線を向けると、落とした刀が一本、転がっていた。

 クリストは手を伸ばし、刀を手に取ると、逆手に持ってまずは自分に乗っている海王イカを一刺し、そして無理やり刀を引き抜き、もう一匹の方にも深く刃を刺した。二匹は一撃で消滅。クリストは川底を蹴って僅かに浮き、川から手を出すと地面を掴み、体を引きあげた。

 

「っはあ! はぁ……はぁ……。し、死ぬかと思った……」

 

 陸に上がり、仰向けになって呼吸を整えた。幼少期に川で溺れかけて以来、水中がトラウマになっている。

 

「まさかこうなるとは……。でもクエストは達成だ。帰ろう……」

 

 横に落ちてる刀を拾い、鞘に収めた……ところであることに気付く。

 

「あ……もう一本……」

 

 さっき海王イカにトドメを指すのに使った刀、あれを水中に置いてきてしまった。川を覗く。水が透き通ってるおかげで、刀がどこにあるかはわかる。だが、さっき潜ってみてわかった。この川、深い。ここから見れば肩くらいの深さに見えるが、実際潜ればクリストの身長なら余裕で頭の先まで浸かる深さだ。

 

「…………仕方ない。この刀だって安くないんだ」

 

 クリストは恐る恐る入水した。顎の下まで浸かってもまだ足が付かない。

 

「…………やっぱ無理」

 

 陸に上がり、ポシェットの中から携帯電話を取り出した。防水機能があるため、普通に動く。

 

「もしもし……はい、目標数討伐できましたが、ちょっとアクシデントが……はい、お願いします……」

 

 

「で、ギルドの方に来てもらって刀拾ってもらったと」

「はい……」

「なるほど、災難でしたね……」

 

 フィナンシェが淹れたココアを飲みながらクリストは話した。冷えた体に温かいココアが染み渡る。

 

「でも、今後もあるんですかね……水中戦になること」

「どうでしょうね……無くはないと思いますが」

「そうですか……やっぱりそうですよね」

 

 大きくため息をつく。心底嫌がっていることがわかる。

 

「……フィナンシェさん」

「はい」

「フィナンシェさんって泳げますか?」

「私は……」

「遠慮しなくていいです」

「……泳げます」

「なら……泳ぎ方教えてくれませんか? せめて潜る時の恐怖心は克服したいので……」

「……わかりました。私で良ければお手伝いしますよ!」

「ありがとうございます……!」

 

 クリストはフィナンシェに向かって深々と頭を下げた。

 

「次の休みの時にやりましょうか。水着の用意しておいて下さいね」

「わかりました。後……すっごい我儘なのですが」

「なんでしょう?」

「なるべく人に見られないようなとこがいいです……。本当に、軽くパニックになるかもしれないので……」

「わかりました。探しておきますね」

「ありがとうございます」

 

 

 後日、二人はプールを訪れた。

 

「まさかあるとは思いませんでした……」

「あんまり無いと思いますけどね、個人で予約取れるプール。でも無いと話進まないので、ここはご都合展開ということで……」

「? 最後何か言いました?」

「いえ、何も」

 

 更衣室を出て、準備体操をして、いざ開始。

 

「具体的にどうすれば克服できますかね?」

「自分でやってみるか、無理矢理やるか……どうしますか?」

「無理矢理ってどんな感じなんですか?」

「プールサイドから蹴落とします」

「自分の力でやります」

 

 クリストは恐る恐る入水した。

 

「足付きますか?」

「はい……大丈夫です」

 

 フィナンシェはクリストの前に立った。

 

「じゃあ潜ってみましょうか」

「はい……」

 

 クリストは水面を見て深呼吸している。そして息を大きく吸い、潜った。

 十秒後、水中から顔を出した。

 

「……止めませんか?」

「まだ一回潜っただけですよ……?」

「やっぱり無理です……」

 

 クリストは怯えた目でフィナンシェを見ている。声も微かに震えている。

 

「怖いですか?」

「はい……」

「やはりそうですか……。うーん、怖いのに無理矢理やらせるのは逆効果ですし……」

 

 フィナンシェは悩んだ末に

 

「じゃあ、少しだけ恐怖を和らげるやり方でやりますか……?」

 

 と、クリストをチラッと見ながら言った。

 

「できるんですか?」

「はい。それで和らぐかはクリストさん次第ですが」

「やってみましょう。物は試しです」

「わかりました。では……」

 

 フィナンシェは一度大きく深呼吸をしてから、クリストを……抱きしめた。

 

「……!!!!??? フィナンシェさん、これは……」

「わ、私だって少し恥ずかしいですよ! ですが、こうすれば少しは安心感もあるかな、と……」

「な、なるほど?」

 

 納得はしたが、やはり水着でくっつくのは少し恥ずかしい。

 

(これは訓練……そうだ、私が水に慣れるための訓練だ。これは訓練……これは訓練……!)

 

 自分に言い聞かせて心を落ち着かせる。

 

「では、このまま三つ数えたら潜りますね。苦しくなったら……手で伝えてください」

「わかりました……」

「ではいきますよ。三……二……一……!」

 

 二人は大きく息を吸って止め、潜った。

 確かに、一人で潜るより全然安心感がある。これなら徐々に慣れていける……かもしれない。

 

(さっきより全然安心できる。よし……息止めるのに集中しよ)

 

 恐怖心が和らいだからか、さっきより長く潜っていられた。そろそろ限界、というところでフィナンシェの背中を軽く叩き、限界だということを伝える。察したのか、フィナンシェはクリストを抱きしめたまま立ち上がった。

 

「はぁ……どうでした? いくらか平気でしたか?」

「はい……ありがとうございます」

「それは良かったです。さっきよりも長い時間潜ってられましたし、頑張りましたね」

 

 フィナンシェはクリストの頭を撫でた。

 

(あ……なんだろうこの感じ。なんか……懐かしい感じがする)

「あ、ごめんなさい! つい……」

 

 フィナンシェはパッと手を引いた。

 

「え、いや全然……むしろなんか、好きです……この感じ」

「え、あ、そうでしたか? で、ですが今はとりあえずやりましょうか、訓練」

「あぁ、そうですね」

 

 その後、数回潜って出てを繰り返し、時間が来たため、今日のところは終了となった。

 

 

「どうですか? いくらか慣れましたか?」

 

 更衣室で着替えながらフィナンシェが聞いてきた。

 

「少し、ほんっっっとに少しだけ慣れました」

「一人で潜れそうですか?」

「それは……多分まだ無理です……」

「そうですか。でも、時間かけて慣れていけばいいんですよ」

「そうですね。ありがとうございます」

 

 二人はプールを後にした。

 

「さて、この後どうします?」

「そうですね……どこかでお茶していきません?」

「お、良いですね。お店は……フィナンシェさんに任せます」

「えぇ、任せてください!」




自分もカナヅチなので、今後水中戦する描写はないと思います。泳ぐ感覚が分からないので

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。