「クリスト、あなた今日暇?」
食堂への廊下を歩きながらブランが言った。
「ブラン様次第です」
「そう。じゃあ暇ね」
「うん……? 今日って仕事無いんですか?」
「あるけど、プラネテューヌでやる仕事なのよね。だから、今日はここでの仕事は無し」
「そうなんですね。でしたら、私は暇になりますが……」
「なら良かったわ。ロムとラムの世話、頼むわね。今日中に帰って来れるかわからないから」
「わかりました。お任せ下さい」
食堂で朝食を食べると、ブランは身支度を整えてプラネテューヌへ行ってしまった。クリストは指示通り、候補生の二人の世話をするために二人の部屋へと向かった。
「失礼します。クリストです」
扉をノックし、部屋に入る。
「あ、側近さん! 今日は一日一緒に遊んでくれるんでしょ!?」
「たくさん遊ぼうね(わくわく)」
「はい。ですが、あまりハメを外しすぎてはいけませんよ?」
「わかってる!」
「なら良いんです。それで、何をするんですか?」
「まずはねー……」
❅
「側近さん! 逃げるだけじゃつまらないよー!」
「冗談キツイですよ……」
「ラムちゃん……やりすぎだよ」
氷塊の裏に隠れて呼吸を整える。ラムから提案されたのは模擬戦闘だった。二対一な上に、あっちは女神化している。これでも十分不利なのに、女神化した事でSっ気がマシマシになっているラムが容赦なく攻撃をしかけてくるため、防戦一方となってしまっている。
(流石に一方的すぎるよね……何これ、虐め……?)
「どんどんいくわよー!!」
クリストが隠れてる氷塊に接近し、杖に氷を纏わせる。
「『アイスハンマー』!!」
氷で作られたハンマーは氷塊を砕いた。しかし、それが振り切られることは無かった。
「あれ?」
「黙ってやられる人間じゃないので……」
クリストも陣羽織を羽織り、先に左手に篭手を生成すると、それでアイスハンマーを受け止めた。
「えー!? それそんなに硬いの!!?」
「特訓しましたから……!!」
そして右手で抜刀、ラムに向けて突きを放った。ラムは飛び引いて回避したが、それで距離を離す事には成功した。
「ここから本番?」
「ですね。仕切り直しです!」
二人は武器を握り直し、構えた。
「やあっ!」
ラムの杖から氷塊が放たれる。クリストはそれをかわしながらラムに接近する。
「速い!」
「速さには自信がありますからね!」
刀を杖で受け、競り合いに持ち込んだ。
「やるじゃない。側近さん、凄く強くなってるよ」
「ありがとうございます。ですが……何か忘れていませんか?」
「え?」
ラムはクリストを視界から外さないように、小さい周りを見た。
(何か忘れてる……? なんだろう……)
「ラムちゃん、危ない!」
何事か、理解する暇は無かった。ラムの後ろで何かが砕ける音がした。続けて、ロムはクリストの周りに魔法を放った。クリストはラムを押し返し、ロムの魔法の回避に専念した。
ラムの足元には、折れた氷の刀が落ちている。
(なるほど……競り合いしてるうちに氷の刀で攻撃しようとしてたんだ……)
その残骸はやがて砕け、いつの間にかクリストの背後でまた氷の刀になっていた。
「そっちは……休み休みなんてズルいですよ……」
「ご、ごめんなさい……」
クリストの方はだいぶ息が上がってきている。そろそろ体力的に限界だ。
「じゃあもう……終わらせますよ……」
両手の刀を逆さに持ち、腕を後ろに持っていった。
「来る……」
ロムも迎撃のために構えた。
「『飛燕氷牙……【
思いっきり踏み込み、刀を横に振る。体の前で交差した刀から放たれた荒々しい形の二つの氷の刃は、龍の頭を形成し、ロムへ襲いかかった。
「あ……!」
ロムは技に気圧されたために少し行動が遅れた。今から対応しても遅い。避けるのも相殺するのも間に合わない距離まで氷の牙は迫っていた。
(やられる……!)
直撃を覚悟し、目を瞑る。が、聞こえてきたのは氷が砕ける音。恐る恐る目を開けると、眼前まで迫っていた龍の頭は、氷の聖剣によって砕かれていた。
「かわりばんこが嫌なら、二人一緒に相手してあげる!」
ラムはそのまま、氷の刃をクリスト目掛けて振り下ろした。
「『氷剣・アイスカリバー』!!」
「くっ……」
技を即座に出す体力は残っていない。地面を強く踏み、刀を交差して受け止めた。
「ロムちゃん!」
「うん! 覚悟してね、側近さん!」
直後、クリストの周りに水色の魔力の塊が四つ、落ちてきた。
「なっ……!?」
「いくよ……『ノーザンクロス』!!」
交差する氷の魔法がクリストに襲いかかった。
❅
「それは……大変な思いしましたね」
「お二人に悪気がないのは十分承知しているんですけどね。でも加減はして欲しかった……」
昼食後の食堂でクリストは皿を洗いながらフィナンシェと話していた。
「……話は変わりますが、クリストさん」
「はい」
「今眠いでしょう」
クリストの手が止まる。
「……なんでわかるんですか?」
「さっきから欠伸してますし、眠そうな目してますから」
「わかるんですね……」
「わかりますよ」
最後の皿を洗い終え、布巾で手を拭く。
「お二人には話しておきますので、少し休んではいかがですか?」
「ですが……」
「疲れたままでは何もかも上手くいきませんよ」
「……わかりました。少し休みます」
フィナンシェに小さくお辞儀をして食堂を出た。
自室に戻り、ベッドに寝転がる。すると驚くくらい強い眠気が襲ってきた。目を開けてるのも辛いくらいだ。
(疲れてたんだな……。さっきの模擬戦闘でさらに疲れたってのもありそうだが……。とりあえず、寝よ)
目を閉じる。意識はすぐさま睡魔にのまれていった。
「側近さん……側近さん……」
「ん……はい……」
声をかけられ、目を覚ます。ベッドの横にはロムが居た。
「おはようございます……」
「おはよう側近さん。ご飯の時間だよ」
「…………え?」
時計はちょうど夕飯の時間を示していた。それを見てクリストの表情が固まる。
「ね、寝すぎた…………」
「だ、大丈夫だよ。側近さん疲れてたんだもんね……」
「ですが……いくらなんでも休みすぎた気がします」
「気にしなくてもいいよ……ってフィナンシェさんが言ってたよ」
「……そうですか」
「うん。さ、ご飯食べに行こ? ラムちゃん達待ってるよ」
「はい。すぐ行きます」
ロムに先に行ってるように促し、自分は身なりを整えてから食堂へ向かった。
❅
食後、候補生にお風呂に誘われたクリストは、教会の大浴場に来ていた。前までは何日かに一回だったが、最近はほぼ毎日一緒に入っている。
「側近さん、背中流してー」
「お任せ下さい」
優しくラムの背中を洗う。何度も一緒に入ってるからだろう、大分手馴れてきている。
「流しますよ」
「はーい。ありがとう」
「側近さん、次私も……」
「はい。すぐにいきますよ」
ロムの背中も優しく洗う。クリストが体を洗うのは二人が洗い終わってから。二人を湯船に入れ、自分も体を洗い始めた。
「側近さん、気になることがあるんだけど」
「なんですか?」
「今日の模擬戦闘の時、私のアイスハンマーを片手で不正だでしょ?」
「そうですね、防ぎました」
「あの鎧……そんなに硬いの?」
「……使い方次第では」
泡を流し、二人の横に並んで浸かった。
「どういうこと?」
「あれは普通の状態では、プロセッサユニットには遥かに劣る防御力ですが、魔力を集中する事で、プロセッサユニット並か、それ以上の硬度にする事は可能です。ですが、攻撃に転じることはできませんし、魔力を集中する関係上、その場から動けません」
「へぇー、そうなんだ」
「そういうの自在に調節できるの……すごい」
「ありがとうございます。…………少しは近付けましたかね?」
「近付けた? 誰に?」
「あなた達に……。少しは、隣で戦えるくらいは強くなってましたか?」
「うーんと……私はなってたと思うよ」
「私も……ラムちゃんが居なかったら負けてたもん」
「……ありがとうございます。励みになります」
クリストは柔らかく微笑んだ。
「さ、のぼせる前に上がりましょうか」
「「はーい」」
三人は風呂場を後にし、脱衣場で着替えてから、各自の部屋に戻った。
(近付けてた……か。言われると嬉しいものだな……)
二人から認められたのは確かに嬉しいかったが、まだゴールではない。今後も女神の側近として精進を怠らない、そう誓った。
(…………そういや、結局ブラン様帰ってこなかったな。何してんだろ)
❅
一方同じ頃、プラネテューヌの教会にて。
「泊まっていきなよー!」
「しつこいぞ! 帰るったら帰る!!」
教会内を歩くブランと、ブランの腰にしがみつくネプテューヌの姿があった
「夕飯もお風呂も済ませたんだよ!? 普通泊まる流れでしょ!?」
「一国の女神が丸一日国を空けるわけにはいかないんだよ!」
「そんなこと言わずに!」
「お前も女神ならわかるだろ!!」
その後現れたイストワールによってネプテューヌは引き剥がされ、ブランはなんとかルウィーの教会に帰ることが出来たとか……