ある日の朝。クリストはいつも通り候補生の二人を起こして、ブランを起こしに向かった。
「失礼します。ブラン様、朝ですよ」
部屋に入るが、ブランの姿はない。
「……! ゆ、誘拐!?」
腰に差した刀に手をかけながら部屋の中を歩く。しかし、本当にどこにもブランの姿はない。
「お、落ち着け。こういう時は報告、連絡、相談だ!」
クリストはブランの部屋を飛び出すと、フィナンシェが居る食堂へ向かった。
「フィナンシェさん! ブラン様の姿がありません!」
「え? ブラン様なら既に出かけましたが……」
「え?」
❅
「イベント……?」
「はい。毎年開催されるコミックなマーケットへ向かわれました」
食後の珈琲を飲みながら話した。クリストは相変わらず砂糖をダバダバ入れているが。
「コミックなマーケット……数多のサークルが同人誌を出し、多くのコスプレイヤーが様々なコスプレをする大型イベント……ですよね?」
「まぁ、大体あってますね」
「何故そこに向かわれたんでしょうか」
「……ここだけの話ですよ」
「え、なんですか……」
フィナンシェは口の横に手を添えた。本当に内緒の話なんだと察しつつ、耳を近付ける。
「実は、ブラン様も参加されてるんですよ」
「……えっ!?」
驚いた表情でフィナンシェの顔を見る。
「毎年参加しているんですよ。今年も色んな物入ったキャリーケース持って出かけていきましたよ」
「そうなんですね……」
砂糖たっぷりの珈琲を一口飲む。イベントの存在自体は知っていたが、まさか一国を守護する女神が参加しているとは思ってもいなかった。
「……ちょっと様子を見てみたいですね」
「絶対言うと思いました」
「おや、大分私のことわかるようになってきましたね」
「クリストさんがここに来て結構経ちますからね。参加したいなら、行っても良いですよ。ロム様とラム様の世話は私がやりますから」
「ありがとうございます。……なんか、フィナンシェさんなら許可してくれるんだろうなぁって思ってました」
「クリストさんも私のこと大分わかるようになってきましたね」
「結構な時間一緒に過ごしてますからね」
クリストはフィナンシェを見てニッと笑った。フィナンシェも微笑んで応えた。
「さて、私も出かける準備しようかな」
「あ、だったら私にも手伝わせてください!」
「良いですけど……手伝うことありますかね?」
「ありますよ。クリストさんは初参加でしょう? 色々と必要な物があるんですよ」
「そうなんですか?」
「そうなんです」
「じゃあ、お手伝いお願いします」
「任せてください!」
二人は食器を片付けると、クリストの部屋へ向かった。
❅
「よし、これで大丈夫です」
「なるほど……」
少し大きめのリュックに色々な物を詰めた。
「これは?」
「ブラン様のサークルの情報です。現地でカタログを買ったら、照らし合わせてサークルの場所を探し当ててください」
「なるほど……。スケッチブックはなんで持っていくんですか?」
「これに好きな絵師さんの絵を描いてもらう用です」
「はぁ……。この、焼肉屋の割引券は?」
「コミックなマーケット終了後、打ち上げとして焼肉屋に行く文化があるんです。そこまでブラン様を追うなら、割引券はあると良いかと」
「なるほど……」
「持ち物はこれくらいでいいですね……。じゃあ、あとは格好ですね」
「え」
「ブラン様にバレない方が色々やりやすいと思いますし。大丈夫です、ちゃんと似合いそうなのチョイスしましたから」
「は、はぁ……」
フィナンシェは後ろに置いてあった紙袋を傍に寄せた。
「じゃあ着替えさせますね〜」
慣れた手つきで袴の紐を解いていく。
「ちょっと! 着替えくらい自分で出来ますから!」
「そうですか? ちゃんと着てくださいね?」
「わかってますよ……」
渋々着替えた。半袖のパーカーに膝下くらいの長さのズボン、おまけにキャップ。
「おぉ……悪くないのでは?」
「そうでしょう?」
「はい。これなら多分バレませんね。ありがとうございます」
「いえいえ。さ、混む前に行った方がいいですよ」
「わかりました。では、行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい!」
クリストは荷物を持って教会を後にした。
❅
会場までは公共交通機関を使って向かう。電車に揺られながら、目的地を目指す。ギリギリ座れたが、結構な人数乗っている。
しばらくして、目的の駅に着いた。荷物を持って降りる準備をする。そして電車のドアが開いた瞬間……
「は!? 何!?」
乗っていた人のほとんどが、走って電車を降りた。なんというか、圧巻な光景だ。そして走ったまま改札を過ぎていく
(あーこれ、改札ダッシュってやつ? 言ってたな……なんか、すごい)
人々が去った後、クリストは歩いて改札を抜けた。流石に初参加であの文化には乗れなかった。
駅を出てからは会場を探す。駅の近くで、かなり目立つ建物、という情報から探していく。
「お、ここかな?」
会場はすぐに見つかった。駅近で目立つ建物で、尚且つ建物。その上、入り口には人集りができている。
「うん、間違いないな。100%ここだ」
場所は把握した。見た感じ、既に開場しているようだ。会場入りする前に、近くのコンビニに寄った。そこで水や軽食を買い、かつ大きいお金を崩した。小銭は多く持っておいた方が良い……らしい。
準備は整った。期待と緊張を胸に、クリストは会場へ足を踏み入れた。
長くなる予感がしたので分けました。もしかしたら分ける必要ないかもなんて……