輝きの復活   作:@naru

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 お久しぶりです。無事に受験も終わり、引っ越し作業が続いて多忙な時期も乗り越え、やっと執筆再開です。
 これからの新生活も忙しくなり、投稿頻度は遅くなると思いますが、気長に待っていただけると幸いです。


 今回は題名の通り!以上!




十三話 女装

 

 

「ふぁぁ‥‥‥‥‥」

 

 

 寝ぼけ眼を擦り、秋特有の少しの肌寒さを感じる朝。いつもの気怠さが身体を蝕み、自分の朝の弱さを改めて実感する。

 憂鬱さを感じながらも、僕は部屋から出て階段を降り、リビングのドアを開けた。

 

 

「あら、起きたのね」

 

「ぅん‥‥‥おはよう、千聖姉さん」

 

 

 リビングには美味しそうな香りが漂い、千聖姉さんはキッチンの前に立って朝食を作っているようだ。

 いつも料理は僕が担当しているのだが、今日は休日。本人の希望により、休日は千聖姉さんが担当になっているのだ。

 

 

「もう少しで出来るから待っててくれるかしら」

 

「うん‥‥‥‥」

 

 

 時間を潰しがてら僕はソファに座り、テレビの電源を入れる。

 

 

「‥‥‥‥え?」

 

 

 テレビをつけた瞬間、眠気も吹っ飛ぶような驚きが一瞬にして押し寄せた。

 そこに映っていたのは朝に良く目にするニュース番組。それに何ら問題はないのだが、肝心なのは内容。

 

 

 ニュースで取り上げられているのは、"僕"だったのだ。

 

 

「な、何で‥‥‥‥?」

 

 

 頭を埋め尽くす疑問。理解出来ない状況に驚きを隠せなかった。

 

 

「何を驚いているの?」

 

 

 出来上がった料理をテーブルに並べ、驚く僕の姿を面白そうに千聖姉さんは笑みを浮かべていた。

 まるで、僕がニュースに取り上げられている事を知っていたかのように。

 

 

「‥‥‥どうして僕がテレビに取り上げられているのかなと」

 

「一楓がラジカルのホワイトだって知れ渡ったからじゃないかしら」

 

 

 そう言いながら、千聖姉さんは僕の目の前にスマホを突きつける。

 そこに映し出されていたのは○witterのトレンド一覧。何と、一位に位置しているのは僕の名前だった。

 

 

「え!?嘘でしょ!?」

 

 

 二度目の強い驚きに僕の頭はパンク寸前。いきなりの出来事に理解が追いつかなかった。

 

 

「ふふっ、凄い反響ね。まさかあの動画だけでここまで話題になるとは思いもしなかったわ」

 

「あ、あの動画‥‥‥?」

 

 

 僕は昨日の出来事を思い返す。昨日は僕の復帰についての映像を取った。

 そして、夜にその映像が上がって‥‥‥。

 

 

 

 

 

 

 ん?

 

 

 まさか、あの動画がテレビ&トレンド一位(これ)の原因?

 

 

 

「まあ、何はともあれ、こうして一楓の人気が帰って来て良かったわね♪」

 

 

 

 っ〜‥‥‥‥‥‥‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

「良い訳あるかぁーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、こんな事になるとは‥‥‥」

 

 

 テーブルを二人で囲み、溜め息混じりに僕は千聖姉さんが作った朝食に箸を進めていた。

 朝から驚きの連続。気疲れするのも無理はないだろう。

 

 休日の筈が、土曜日の朝から休める気がしない‥‥‥。

 

 

「そんなに気にする事かしら?別に批判を受けている訳でもないし。私は姉として一楓の人気が誇らしいけども」

 

「そ、そりゃあ何も、最悪って訳じゃないよ?ただ‥‥‥こうも反響があるとは思わなくて、驚きが凄いと言うか‥‥‥」

 

 

 だって、あの3分程度の短い動画ですよ?

 ラジカルの事をずっと隠してる中で、役者として活動してたからこその反響もあったのかもしれないけど、ここまで事が大きくなるとは思わないじゃん。

 

 批判されていないが故に、期待が大きくのしかかりそう‥‥‥。

 

 

「‥‥‥確かにこの反響だと気軽に外出も出来なくなりそうね」

 

「そこ心配するとこ?」

 

 

 言わば楽観的とも言える懸念を示す姉にツッコミを入れると、千聖姉さんは強い口調で言い返す。

 

 

「当たり前じゃない!一楓とのデートが出来ないのよ!?」

 

「デートじゃなくてただの買い物でしょうに‥‥‥‥」

 

 

 デートはさておき、千聖姉さんの言う通り確かに外出の面では不便を被るかもしれない。

 まあでも、変装すればバレないでしょ。うん。バレないバレない。

 

 

「一楓。貴方、ラジカルに入ってた時はマスクがデフォルトだから、普段は役者の顔で大事にはなっていなかったけど、正体をバラしたんだからマスクをした簡単な変装だと秒でバレるわよ」

 

「うぐっ‥‥‥‥」

 

 

 僕の心を読んだかのように穴をついてくる千聖姉さん。

 確かに前はホワイトとしての僕がバレなきゃたいして騒がれなかった。

 

 考えればマスクや帽子じゃバレる。サングラスやメガネをつけたところでどうにかなるか‥‥‥。 いや、ならなそうですね。はい。

 

 

「どうしたもんか‥‥‥」

 

 

 正直、もうバレる覚悟で外出するしかないかもしれない。変に変装したところで直ぐにバレるだろうし、何なら開き直るしかない。

 

 そう僕が考えているのを横に、千聖姉さんは何か悪巧みを思いついたように口角を上げた。

 

 

「そうだわ。一楓ならあれが出来るじゃない♪」

 

「えっ?あれ‥‥‥‥?」

 

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる千聖姉さんに悪寒を覚えながら、僕は席を立ち、少し後ろへ後退る。

 そんな僕を追い詰めるかのように千聖姉さんも同様にして立ち上がった。

 

 

「ちょ、ちょっと?また嫌な予感がするんですけど?」

 

「安心しなさい。私に任せておけば万事解決よ」

 

 

 いやいや、手をわきわきとさせて近づいてくる姉を目の前にしてどう安心しろと?

 これを目の前にして安心できる人は未来永劫現れないんじゃないですかね。

 

 

「‥‥‥だから、私にその身体をよこしなさいっ!」

 

「え、ちょ、やめてって!あ、か、勝手にパジャマ脱がすな!う、や、もう‥‥‥‥本当何なのこの姉は〜!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拝啓、海外のお父さん、お母さん。

 貴方達の息子はもうお婿に行けません。

 

 

 

 貴方達の娘の所為で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううっ‥‥‥もうお婿に行けない‥‥‥」

 

「安心なさい。私が娶るわ」

 

「僕は女じゃないんですけど‥‥‥」

 

「何を言っているのかしら。一楓が女じゃなければこの可愛さは説明出来ないわ」

 

 馬鹿らしい会話を交わしながら、僕は恥ずかしさからその場に蹲っていた。

 一度も経験したことのない下半身の風通し。肩より下にかかる髪の毛。どこからともない嫌悪感に蔑まれながら、僕は犯人である姉を睨んだ。

 

 

「ふふっ、その格好で睨まれても可愛いとしか思わないわよ。‥‥‥屈服させたくなっちゃうわ」

 

「うっさい!何で僕がこんな格好をっ‥‥‥‥!」

 

 

 最後の言葉は聞こえなかったですね。はい。聞こえない聞こえない。

 

 

「別に良いじゃない。似合ってるわよ。一楓の"女装"♪」

 

 

 そう、僕が千聖姉さんに憤りを感じているのは、無理矢理女装させられたからである。

 そんな僕の気持ちなんていざ知らず、千聖姉さんは楽しそうに恍惚とした表情でこちらを見ていた。

 

 

「うんうん。白のフリルブラウスと黄色のフレアスカートが絶妙に合わさっていて可愛いわね。ウィッグも問題なさそうだし。その慣れないスカートを掴んで恥ずかしがる所も可愛い。ああ、もう全てが可愛いわ!」

 

「ううっ‥‥‥本当何で僕がこんな格好を‥‥‥」

 

 

 僕は羞恥心から顔を上げられなかった。千聖姉さんには怒りたい気持ちで一杯だが、いかんせん恥ずかしさが勝って怒るにも怒れない。

 無理矢理着させた本人からは申し訳なさのかけらもないのが見て取れるけど。

 

 

「さて、折角その格好になった訳だし、買い物に行きましょうか」

 

「え!?こ、この格好で!?」

 

「当たり前じゃない。変装も兼ねて女装してもらったんだから」

 

 

 た、確かにこの格好なら絶対と言って良いほどバレる事はないだろう。バレた時の反動が凄く大きそうだけども。

 一応解決策(?)にはなっているのか‥‥‥。

 

 

「さっ、行きましょう!時間は有限よ!」

 

 

 そう元気よく言葉にし、千聖姉さんは僕の手を掴んで引っ張っていく。

 

 

「あ、ま、まだ朝ご飯食べ終わってないんですけど!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子、めっちゃ可愛くね?」

 

「確かに。おい、お前声かけてこいよ」

 

「は!?絶対無理だろ。あんな可愛い子に声なんてかけても絶対相手にされないって」

 

 

 

「あの子何!?モデルさん!?」

 

「ね!本当可愛いよね!」

 

 

 

 

 

「っ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

 遂に来た。いや、無理矢理連れてこられてしまったと言うべきか。

 僕は今、女装して街の中を歩いています‥‥‥。

 それも、大勢の人がいる中で。

 

 

「ほら、言ったでしょう?一楓は可愛いって」

 

「別に僕は可愛くなる事なんて望んでいないの!」

 

 

 家から出て5分しか経っていないが、もう視線が刺さる刺さる。すれ違う人は皆此方を見るのだ。

 可愛い可愛い言っている中申し訳ないけど、僕は男なんです。その言葉はただの羞恥にしかなりません。

 

 

「というか、何で千聖姉さんは帽子とマスクしているのに僕はしちゃダメなの!?」

 

「だって、私がバレたら人が集まって面倒になるじゃない。今の一楓はマスクとかしなくたってバレないし、何より可愛いもの♪」

 

 

 ちっ。それが本音か。

 

 

「別にマスクぐらい良いでしょ。それに、こんな状態で知り合いにでも会ったら‥‥‥」

 

「あ、千聖じゃん。おはよー!」

 

 

 ‥‥‥ああ、噂をすればなんとやらって奴ですか。

 

 

「あら、リサちゃん。奇遇ね。お買い物かしら」

 

「うん、ちょっと服を買いにと思ってね。‥‥‥あれ、そっちの子は?」

 

「そう言えばこれが初めてね。改めて紹介させてもらうわ。こちら、私の弟の一楓よ」

 

「え!?一楓って、あの昨日の子!?」

 

「は、はぃ‥‥‥昨日振りですね。リサ先輩‥‥‥」

 

 

 リサ先輩との偶然の出会い。嬉しく思うべきか、悲観するべきか、何とも複雑な感情だ。

 だって、この格好ですもん‥‥‥。

 

 

「リサちゃん、もしかして一楓と知り合いだったの?」

 

「うん。実は昨日知り合ってね。一楓は急いでいるようだったからあまりお話は出来なかったけど」

 

「あ、その時はどうもすいませんでした」

 

「ううん。気にしないでよ。一楓も用事があったんだろうからね」

 

「リサ先輩‥‥‥‥ありがとうございます」

 

 

 本当にリサ先輩は親切で優しい人だと思う。どっかの姉にも見習って欲しいくらいだ。

 

 

「‥‥‥っと、凄く気になるんだけど‥‥‥その格好は?」

 

「ああ、この格好は一楓の変装も兼ねての女装よ。まあ、一番は可愛い一楓が見たかっただけなのだけど」

 

 

 本音がっつり漏らしてるよ。この姉。

 

 

「あ、そっか。そう言えば一楓ってラジカルのホワイトなんだよね!アタシ昨日見たよ、あの動画!本当びっくりしちゃった。実はアタシもラジカルのファンなんだ〜!」

 

「あら、そうだったのね。良かったじゃない、一楓。

 

「ま、まあ‥‥‥うん。ありがとうございます」

 

 

 ラジカルの現状から素直に喜べないが故に、言葉の歯切れがどうも悪くなってしまう。

 こうしてラジカルのファンでいる人を何人も目にし、その度に心でざらつきを感じる。こればかりはどうにも出来なかった。

 

 

「‥‥‥‥‥そうだわ。私達もお買い物に行くつもりなんだけど、リサちゃんも一緒にどうかしら」

 

「え、良いの?」

 

「ええ。良いわよね、一楓」

 

「あ、も、勿論。僕は全然構わないよ。寧ろ大歓迎」

 

 

 急に問いかけられた事に少し驚きを感じ、僕は詰まりながらも言葉を返した。

 

 

「そ、そっか。じゃあ、お言葉に甘えようかな」

 

「ふふっ、そうと決まれば早速行きましょうか。折角の休日なんだからね♪」

 

「そうだね!よーし、めいいっぱい楽しむぞー!」

 

「‥‥‥元気な事で」

 

 

 走り出す二人の姿を見て笑みを溢し、慣れない格好ながらもその後を僕は追いかける。

 千聖姉さんの言う通り折角の休日だ。楽しまなきゃ損だよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった‥‥‥」

 

 

 立ち鏡に映る自分の姿。明らかに自分とは思えない程の様変わりさに、落胆と共に驚きを実感しながら思わず言葉を溢した。

 手元に渡された一枚のワンピースを片手に、僕は溜息を吐く。

 

 現在、僕は今試着室の中。千聖姉さんとリサ先輩にやいのやいのとワンピースと一緒に無理矢理押し込まれ、当の二人は外で待っている。

 ここに入った以上腹を括るしかない。そう分かっているが、どうしてもこれを自分で着るという勇気が出ないのだ。

 

 だって女物ですよ?似合う似合わないは兎も角、僕は男なんです。本当分かっているのかね。

 いっその事、着ないでこのまま閉じこもっていれば‥‥‥。

 

 

『まだかしらー?もし、そのまま閉じこもっているなら私達が無理矢理着せてあげるわよ♪』

 

 

「ぜ、絶対ダメだから!」

 

 

 ‥‥‥どうやら逃げ道はないらしい。

 もはや万事休す。腹を括るしかない。

 

 僕は嫌々手に持ったワンピースを身につけ、試着室のカーテンを開けた。

 

 

「わー!すっごい似合ってるよ!」

 

「そうね。流石は私の一楓よ」

 

 

 出るや否や二人から飛び出したのは賛辞の言葉。

 素直に喜べないが、少しむず痒く感じてしまう。

 

 

「も、もう良いでしょ‥‥‥?早く着替えたいんだけど」

 

 

 結局着替えても女物の訳だが、これ以上着せ替え人形としているよりはマシだ。

 だが、僕の気持ちとは相反して、二人の手には大量の衣服があった。

 

 

「何を言っているのかしら。これ全て着てもらうまで帰らないわよ」

 

「あはは、ごめんねー。一楓があまりにも可愛いからもっと見たいんだよね」

 

「‥‥‥‥‥厄日だ」

 

 

 逃れられない二人の呪縛に縛り付けられ、ここから僕の着せ替え人形としてのスタートを切ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、一楓には何着せても似合うね〜♪」

 

「ふふっ、変装用の服も沢山買えて大収穫ね。カメラにも収めたし、これは後でデータに残しておきましょうか♪」

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

  

 楽しそうに声を弾ませる二人を尻目に、僕は気疲れから重い足取りで歩を進めていた。

 そして、僕の手には大量の紙袋が提げられており、その中身は言わずもがな先程の衣服。勿論女物だ。

 

 一体何種類の衣服を着せられたのか。それすらも記憶に残っていない程、精神的にも肉体的にも疲労が沢山だった。

 そんな僕とは相反して、二人はまだまだ余力があるように見える。

 

 こんな風に陥れた二人に恨めしい視線を送りながら、僕は前方に休憩スペース用のベンチを見つけ、すぐ様に言葉を発した。

 

 

「ねえ、二人とも。ここで少し休んで行かない?‥‥‥僕、大分疲れちゃってさ」

 

「ええ、別に構わないわよ。ちょうど私達も足を休めようと思っていたからね」

 

 

 僕の提案に快諾してくれる千聖姉さん。それに随して、リサさんもうんうんと首を縦に振る。

 

 

「ありがと。‥‥‥‥‥‥はぁ〜」

 

 

 両手に提げていた紙袋を置いて、僕は腰を下ろした。

 座るや否や溜息が溢れ、疲れがどっと押し寄せる。

 

 

「一楓、私ちょっとお手洗いに行ってくるわね」

 

「あ、アタシも〜」

 

「了解。ここで待ってるよ」

 

 

 そうして二人はお手洗いへと向かい、僕は二人を待ちながら身体を休めていた。

 よくもまあ、姉さん達は疲れないものだ。女子だからなのか、ショッピングに疲れを見せない二人が少し羨ましく思える。

 

 

「ねえ、君。今一人?良かったらこれから俺らと遊ばない?」

 

「はい‥‥‥‥?」

 

「安心してよ。お金は俺らが払うからさ」

 

「えっと‥‥‥‥」

 

 

 僕が休憩していたところに現れたのは二人の男性。俗に言うナンパか。

 悪いけど、僕男なんです。ご愁傷様としか言いようがない。

 

 

「あのー‥‥‥すいません。僕は————」

 

「大丈夫だって!いいから来なよ」

 

「っ‥‥‥‥」

 

 

 僕が言葉を発する前に、男性は僕の腕を掴んで引っ張る。

 その行動にとてつもない嫌悪感を覚え、僕は勢い余って男性の手を振り解いた。

 

 

「やめてください!僕は着いて行く気なんてありませんから!」

 

 

 そう言い、僕は男性を睨みつける。

 僕の言動に怒りを覚えたのか、二人は憤りを感じさせる表情でこちらを視線で捉えていた。

 

 

「はぁ?何その目。女の癖に生意気だな」

 

「はは、別に良いじゃんか。これからそんな態度取れなくなるくらいヒィヒィ言わせてやるからさ」

 

「ははは!そうだな!ほら、来いよ。これからホテルでその態度へし折ってやるからな」

 

 

 本性を現したように下衆た笑いと共に僕の全身を嬲るように見る二人。

 一体あの二人の頭の中で僕がどんな辱めを受けているのかは知らないが、募るのはとてつもない嫌悪と拒絶。

 

 対処しようにも、僕の力じゃ到底成人男性には敵わない。おまけに二人だ。力の差は圧倒的。

 じゃあ、僕はこいつらに従うしかないのか。

 

 嫌だ。と心で叫びながらも、この場じゃどうしようもなかった。

 休憩スペースにいる人は僕達だけだし、叫んだところで誰かが来るか分からない。

 

 だが、唯一の幸運だった事は、丁度千聖姉さん達がお手洗いに行っていることだろう。

 あの二人を巻き込まなくて良かった。それが救い。

 

 

「おら、行くぞ」

 

 

 そう考えていないと、僕は思わず泣いてしまいそうだったから。

 二人を助けたヒーローの気分にでもなっていないと、怖くて、辛くて、どうしようもなかったから。

 

 

 だから、僕はこれで良いんだ————。

 

 

 

「みーちゃった♪」

 

「ぇ‥‥‥‥‥‥」

 

 

 僕が男性二人に連れて行かれる瞬間、聞き覚えのある声が後方から聞こえて来た。

 

 

「あ?誰だよ」

 

 

 怪訝そうな顔で男性二人は声の主へと振り返り、邪魔されたことによる不機嫌さを露呈する。

 そこには、いつものツインテールとは違う、ピンク色の髪を下ろした女性。彩先輩だった。

 

 

「だから見ちゃったんだよ。そこのクズ二人が一楓君を連れ去ろうとして行くところを」

 

「はぁ?何だよ。お前も一緒に俺らにやられたいのか?」

 

「はは、俺は大歓迎だぜ。一人ずつやれるしな」

 

「うーん、私は絶対に歓迎されたくないなぁ。まあ、君達を歓迎してくれる人が私の後ろにいるけどね」

 

 

 そう言い、彩先輩の後ろに立っていたのは警備員さん。

 予期せぬ人物が現れた事により、男性二人は驚きを露わにしていた。

 

 

「な、何で警備員が‥‥‥」

 

「いやぁ、巡回中の警備員さんに偶然会ってね。嫌がる子を無理矢理連れて行くナンパする男性がいたから、呼ばない訳にはいかないよね♪」

 

「く、クソが!」

 

「お、おい。逃げるぞ!」

 

「あ、警備員さん。後はお願いします」

 

「はい、ご報告有難うございます」

 

 

 そして、そそくさと男性は二人は逃げていき、それを警備員さんは追って行った。

 目まぐるしい展開が終わり、急に脱力感が押し寄せ、僕はその場にへたり込んだ。

 

 恐怖と辛さに解放された感覚が、我慢していた筈の涙を誘い、頬を伝う。

 それと同時に、暖かな温もりをを感じた。

 

 

「大丈夫、もう安心して。私が来たから。怖かったよね」

 

 

 彩先輩が僕を包み込むように抱きしめ、その中で僕は更に涙を流す。

 僕の偽物のヒーローとは違う、本当のヒーローとして助けてくれた彩先輩がとても格好良く見えて、安心感を強く感じた。

 

 

「どう、してっ‥‥‥僕の事が‥‥分かったんですかっ」

 

 

 今更ながら、僕の格好は女装したままだ。

 なのに、彩先輩は僕だと気づいてくれた。

 

 

「だって、一楓くんの事、今までいっぱい見てきたから。それに、その服千聖ちゃんのでしょ?何度も見たことがあるもん」

 

「そう‥‥‥ですかっ」

 

 

 僕の事をしっかりみてくれている。その事が凄く嬉しくて、彩先輩の温もりと共に喜びを感じさせる。

 

 震えた声音を何とか平常時に戻し、僕は彩先輩の行動へ感謝を告げる。

 

 

「本当に‥‥助けてくれてありがとうございますっ!」

 

 

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