輝きの復活   作:@naru

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二話 Radical Sound

 

 

 Radical Sound(ラジカルサウンド)

 

 愛称をラジカルと呼ばれていた男性バンドグループ。

 革命的な音楽を皆に届ける事を目標として結成し、このグループの一員として僕は参加していた。

 

 僕は小さい頃から姉と一緒に子役を演じ、一時期は演技派の子役として人気を博していた。

 しかし、歳を重ねるに連れて芸能界への出演を僕は控え、逆に姉は更に芸能界での活躍を選んだ。その後の生活は順調で、極々普通の学校生活を送ることができた。

 そして、中学生として学校生活を送っていた僕に、突如一つの転機が訪れる。

 

 

 それはバンドグループへの誘いだった。

 子役時代の活躍を見て、僕の顔を知るある事務所からバンドをしてみないかという誘い。言わば芸能界に復帰しないかという事だ。当時の僕は芸能界への復帰など考えていなかった。

 しかし、音楽への関心は少なからずあったのだ。ギターやピアノ、ボーカルなど人を惹きつける魅力を持った代物。それに憧れを覚え、いつしか僕は音楽の道へ興味を示していた。

 

 そんな所に突如訪れたデビューのチャンス。これを逃す訳には行かなかった。

 そんなこんなで僕はバンドに参加する事を決めたのだった。少なからず両親や姉からの心配はあったが、自分の決めた道へ進む事を簡単には諦められない。そう告げると、家族は皆応援してくれた。

 

 

 そして、メンバーとの顔合わせ。

 そこには高校生や大学生といった、(いず)れも僕より年上の人達ばかりだった。それもその筈、当時の僕はまだ中学二年生。

 だが、メンバーの皆はとても優しく、僕を気遣うように接してくれた。

 

 

『君がこのバンドのベースを担当する一楓君だよな。俺はボーカル、そしてリーダーを務める赤宮優希(あかみやゆうき)。呼び方はどう読んでもらっても構わないぞ。よろしく頼む』

 

『ギター担当の緑樹晃(みどりぎあきら)だ』

 

『ドラム担当の蒼井大地(あおいだいち)っす!』

 

『キーボード担当の黒崎輝斗(くろさききらと)だよ。これからよろしくね』

 

 

 各々が特徴的な挨拶を告げ、次は僕の番だと促すように視線が一気に集まる。

 僕は緊張して畏まりながらも、何とか言葉を発した。

 

 

『ぼ、僕は白鷺一楓です。こ、こちらこそよろしくお願いします』

 

 

 その時の緊張は今でも覚えてる。同時に、メンバーの優しさが一番大きく心に残った。この人達となら最高のバンドが出来るかもしれない。そう感じさせる何かが、僕の心に期待を芽生えさせるのだった。

 

 そして顔合わせから数週間が経ち、遂にラジカルの初公演。これが予想以上にヒットした。

 初公演から三日で取材のオファー。トレンド、オリコン共に一位。恐ろしい程に人気を博し、二回目の公演ではまさかのドームが満席。チケットも2時間ほどで完売と、名前通り革命的な出来事となる。

 

 僕はバンドの中でも年齢が低く、中学生ということもあった為、顔をマスクで隠すなどの配慮が認められて心置きなくバンドに取り組むことができた。自分のコンプレックスだった容姿も隠す事ができ、凄く精神的にも楽だったのだ。

 

 しかも、顔を隠しながらやっている筈なのに異様に人気がすごかった。差し入れ、手紙などどれも受け取れる範疇を超えていたし。

 そんな順風満帆とも言えるバンド生活を過ごす事が出来て正に僕は幸せだった。

 でも、そんな生活も長くは続かない。

 

 

 

 

 そして、ラジカル史上、最も最悪な出来事が起こってしまう。

 

 

『えっ‥‥‥リーダーが事故にあった‥‥?』

 

 

 結成一年目の年。それは、ラジカルをどん底に落とす最悪の凶報だった。リーダーの赤宮さんが車と接触事故を起こし、意識不明の重体。救急車に運ばれ病院で治療が行われたが、意識は戻らなかった。

 

 メンバーはそれを聞き、絶句した。優しくて、頼り甲斐があって、皆を纏めてくれたリーダーが突然ラジカルから姿を消した。

 

 そんな事認めたくない。嘘だと言って欲しい。

 だが、現実は非情だ。リーダーがラジカルに戻ってくることはなかった。

 

 暫く僕達メンバーの間の口数は少なくなり、会う機会も減った。リーダーが未だ意識不明になっている事をメディアには明かされていない。

 そして、その事件と同時にラジカルの解散が決まった。どうやら事務所はリーダーが意識不明の状態である事を明かしたく無いのだろう。

 僕達は解散が決まった事に反論をすることはなかった。

 

 そして、月日はバンド解散が報じられる一日前。僕はバンド内で一番交流のある黒崎さんと会話の機会を得る。

 待ち合わせの場所である喫茶店で会った黒崎さんは、この現状に悲しさを覚え、表情に落ち込みようが表れていた。

 

 

『一楓君はこれからはどうするつもりなのかな』

 

『そうですね‥‥‥一旦芸能界からはまた手を引こうかなと』

 

『へぇ‥‥‥。そう言えば、一楓君って小さい頃人気子役だったよね。一楓君のお姉さんと一緒に出てたやつとか、僕結構見てたよ』

 

『あ、あれは忘れてください‥‥。昔の事を話されると恥ずかしいんですから‥‥‥』

 

『あはは、ごめんごめん。でもね、バンドを結成するってなった時、僕は驚いたし凄く緊張したよ。まさか芸能人の千聖さんの弟さんとバンドを組むなんて思いもしなかったからね。それに自分でも言うのも何だけど、僕って無名だったし』

 

『その時は僕も凄い緊張してましたよ。何せ僕よりも結構年上の方達でしたし、久しぶりに芸能界に復帰するんですから』

 

『でも、また芸能界からは手を引くんでしょ?それって少し勿体無い気がするけど』

 

『いやー‥‥‥まあ、確かにそうですけど、一旦活動休止って事にしときたいんですよね。学業の方も疎かに出来ませんし』

 

『そっかぁ。確かに勉強の方も大切だろうからね』

 

 

 そう言い、黒崎さんはコーヒーを口に入れる。

 ふうっと息を吐きながら、黒崎さんは満足したように席を立ち上がった。

 

 

『さて、時間も時間だし、そろそろお暇しようかな。今日はありがとうね。いや、今までと言った方が良いかな?』

 

『や、やめてくださいよ。そんなこれから先ずっと離れ離れになるみたいな言い草‥‥‥』

 

『ふふっ、冗談だよ。まあ、ラジカルは解散になっちゃったけど、僕達はいつでも会えるしね。それじゃあ、また"今度"』

 

『はい、またお会いできる事を楽しみにしています』

 

 

 そして、黒崎さんは此方に手を振りながら喫茶店を後にしたのだった。

 

 僕は黒崎さんが飲んだコーヒーカップを見つめ、一つ言葉を溢す。

 

 

『また"今度"、か。‥‥‥今度はラジカルの皆で集まりたいな‥‥‥』

 

 

 

 その呟きは、本心から願った強い想いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———き。—————ぶき。」

 

「いーぶーきー」

 

「んっ‥‥‥‥‥‥」

 

 

 聞き慣れた声が僕の耳を通り、視界が開ける。

 その声の主は美咲さんだと分かったが、意識がぼんやりとしていて何をしていたか記憶がない。

 

「はいはい、おはよう一楓。随分お休みのようだったけど、もうお昼ですよー」

 

「えっ?う、嘘でしょ。僕寝てた?」

 

「うん。それはもうぐっすりと。一楓が授業中に寝るなんて珍しいけど、どうかした?」

 

「い、いや、特にこれと言った事はないけど‥‥‥疲れてるのかな」

 

 

 朝に見た夢と言い、ラジカルの事が凄く夢に現れる。それほど僕にとって大事な居場所だったからか、頭の中に刻み込まれるよう印象深くその記憶は残っていた。

 

 

「確かにお疲れなのかな?朝から少し暗かったしね。それと、ノート写して無いでしょ?貸してあげるから明日返してね」

 

「‥‥‥ありがとう、美咲さん。助かるよ」

 

 

 こういう時に美咲さんが居てくれて本当に良かったと思う。ちゃんと相手の事を考えて気遣ってくれるし、凄く今は美咲さんの優しさが心に浸透して来ます。本当にありがたい限りです、はい。

 

 

「え、えっと‥‥‥まあ、そういう事で‥‥お、お昼だしさ。い、一緒にどうかな〜って‥‥‥」

 

 

 口をモゴモゴさせながらはっきりしない語調で言葉を並べる美咲さん。

 別に昼食を一緒に食べる事に嫌な要素はないが故に、美咲さんの言動が少し疑問に思ってしまう。

 

 

「別に僕は構わな——————」

 

 

 ピロンっ。

 

 

 突如、着信音と共に僕のスマホに一通のメールが届いた。僕はポケットからスマホを取り出す。

 送り主は千聖姉さん。内容は『お昼一緒に食べるわよね?彩ちゃんとイヴちゃんも居るわ。屋上にいるから早めに来てね。あ、それと拒否権はないから♪」とのこと。

 

 そのメールを目にし、僕と美咲さんの間には何とも気まずい空気が流れる。

 何か凄く申し訳なさを感じてしまうけど、千聖姉さんの言う事を断ると後々めんどくさいんだよね。美咲さんには悪いけど、ここは断るしか無い。

 

 

「‥‥‥ごめん。申し訳ないけど、また今度で良いかな。この埋め合わせは必ずするから」

 

「う、うん。お、お気になさらずー‥‥‥それじゃあまた今度で‥‥」

 

 

 と言いますけど、滅茶苦茶残念な表情をしていますよ美咲さん。何だか非常に申し訳ない。空気の読めない姉がすいません。

 そう心で謝りながら、僕は弁当箱を片手に屋上に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、来たみたいね」

 

「イブキさんこんにちは♪」

 

「ささ、一楓君。早く座って座って」

 

「イヴさんこんにちは。それじゃあ、お言葉に甘えて」

 

 

 気持ちの良い日差しがさし、今日は気分が晴れるような快晴だ。レジャーシートの上に腰を下ろす三人の表情も、心なしか明るく見えた。

 

 そして、各々が自分のお弁当を開ける。今日は僕がお弁当を担当したので、自分は大好きな和食オンリー。姉さんも同様だ。覗いてみると、彩さんもイヴさんも凄く彩りの良い美味しそうなお弁当だ。

 

 

「あれ、千聖ちゃんのお弁当今日は何か少し違うね。和食かな‥‥?綺麗に盛り付けされてて美味しそう!」

 

「今日は一楓が作ってくれたのよ」

 

「そうなんですか!イブキさんもお料理は上手で?」

 

「ええ、そうよ。夕飯はほとんど一楓が作ってくれているもの」

 

「へえ〜。料理も出来ちゃうなんて本当に女の子みたいだね」

 

「やめてくださいよ‥‥‥別に料理なんて男の人でも出来るでしょうに‥‥‥」

 

「そうでしょうか?でも、イブキさんは可愛いですし問題ないと思います!」

 

「はぁ‥‥‥僕の味方は居ないんですかね」

 

 

 相変わらず僕は女子扱い。

 僕を味方してくれる人もいないこの現状は正に詰みですね。泣きそうです。

 もう開き直って気にしないようにするしか無いのかな‥‥‥。

 

 

「それは心外ね。私はいつでも一楓の味方よ?」

 

「こっちの方が心外だよ。千聖姉さんはいつも僕を弄ってくる癖に」

 

「ふふっ、そうかしら?気の所為だと思うけど」

 

「‥‥‥もう知らない。どうせ僕はずっと弄られる運命なんですよーだ。これから千聖姉さんのお弁当には納豆しか入れないから」

 

「ご、ごめんなさい。そ、それだけは許して‥‥?」

 

「ふん」

 

 

 屋上で昼下がりの中、人目も憚らずに僕達は姉弟ならではのちょっとした口喧嘩。慣れたものだけど、やはり千聖姉さんの僕弄りは止まるところを知らない。

 

 

「あはは、やっぱり千聖ちゃんと一楓君って仲良しだよね」

 

「私もそう思います!お二人は凄くお似合いです」

 

「やめてください。こんな姉とは真っ平ごめんです」

 

「あら、ツンデレかしら」

 

「こんなんだから嫌なんだよ‥‥‥」

 

 

 にこやかに表情を作る千聖姉さんに対し、僕は顔を顰めながら溜息を落とした。

 いつも通りの姉に呆れながらも、その後は最近の事について会話をしながら、各々が箸を進め、昼食を食べていく。

 

 それからあっという間に時間は過ぎ、昼食も食べ終わって昼休みも終了間近。未だ僕達はシートの上で談笑を交わしながらのんびりとしていた。

 

 

「あ、そう言えば、今日の放課後パスパレで練習あるんだけど一楓君も見に来ない?」

 

 

 パスパレとは千聖姉さん含め、僕以外のこの場の全員が所属しているアイドルバンドグループだ。

 彩先輩達の他に、別の学校に後二人いる。

 

 

「えっと‥‥‥僕お邪魔になりませんか?練習って大切ですし‥‥‥」

 

「ううん、全然大丈夫だよ。寧ろ大歓迎!」

 

「はい!私も歓迎します!」

 

「そ、そうですか‥‥?それなら構いませんけど‥‥」

 

「じゃあ決まりね!放課後に校門の前で集合しよっか。っと、そろそろ昼休みも終わるし教室に戻らないと」

 

 

 急展開で僕はパスパレの練習を見学することが決まった。

 そして、彩先輩とイヴさんはそそくさとシートを片付け教室へと向かっていく。

 そんな中、千聖姉さんが突然僕の制服の袖を引いた。

 

 

「ごめんなさい。さっきは少し揶揄い過ぎたわ」

 

 

 申し訳なさを纏った表情と声音が僕に向けられる。

 僕はそんな千聖姉さんに対して、気にしていないとの意を伝えた。

 

 

「大丈夫だよ。別にそんなに気にしてないからさ」

 

「そう、それなら良いのだけど‥‥‥。でも、さっき言った通り私はいつでも一楓の味方よ。困った事があったら直ぐに私に言いなさい」

 

「過保護だなぁ‥‥‥」

 

「ふふっ、そうかしら?確かに私に取って弟は大好きで大切な存在だもの」

 

「‥‥‥‥あ、ありがとう」

 

 

 不意に姉さんの言葉に思わず顔を赤くしてしまう。

 よくもまあそんなに恥ずかしい事をすんなり言えますね‥‥‥。少し恨めしいです。

 

 

「あらあら、照れちゃって。あーあ、今カメラを持ってない事が一番悔やまれるわ。永久保存版として後世までに伝えたかったのに」

 

「や、やっぱり今の取り消すから!嬉しい事言ってくれたと思ったら最低だよ最低!」

 

 

 

 僕は恥ずかしさと少しの怒りが混ざった複雑な感情を拗らせながら、逃げるようにこの場を後にしたのだった。

 

 ちょっと嬉しかったのは内緒。未来永劫この感情を言葉にする気はさらさらない。

 

 

 何でかって?

 

 

 だって、千聖姉さんが調子に乗るからに決まってるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、本当に一楓は可愛いわね♪

‥‥‥‥‥‥私の大切な一楓。絶対、私から離れさせないわ」

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