輝きの復活   作:@naru

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間違えて消しちゃったので再投稿です。
申し訳ありません‥‥‥。




六話 姉と弟

「はい、弟からの了承は得ました。‥‥‥明日、ですか。分かりました。‥‥‥はい、失礼します」

 

 

 パスパレの皆の練習も終わり、時刻は夕方を過ぎる間近。

 千聖姉さんは僕の復帰に対する件でマネージャーとの電話を終え、僕の方へ振り向いた。

 

 

「明日、可能なら事務所に来て欲しいってマネージャーさんが言ってたけど、明日は大丈夫かしら」

 

「うん、特に何も無いから大丈夫だよ」

 

「そう。じゃあ明日は私も行くから、今日みたいに学校が終わったら校門の前で集合で良いかしら」

 

「おっけー。‥‥‥っと外も暗くなって来たね〜」

 

 

 時計を見ると、時刻はもう6時半を回ろうとしていた。日も沈み、辺りは暗くなり始め、夜へと時間は進んでいく。

 

 

「そうね。それじゃあ、帰りましょうか」

 

「うん」

 

 

 そう言葉を交わし、僕達は帰路に向けてスタジオを出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「手、寒くない?」

 

「ん、大丈夫だよ」

 

 

 僕達が家へと帰る道中、千聖姉さんが唐突に言葉を切り出した。確かに季節は冬へと近づき始める晩秋。肌寒い風が身体を刺す。

 僕の手は冷えて赤くなっていたが、僕はちょっとした意地からそれを口にはしない。

 まあ、言わなかったとしても、千聖姉さんの事だし直ぐバレるのだろうけど。

 

 

「‥‥‥嘘をつくなんて褒められた事じゃないわね。悪い弟にはこの状態で家まで帰ってもらうわよ♪」

 

 

 そう言いながら、僕の手を取る千聖姉さん。

 僕は溜息を吐きながらも、その手を握り返した。今日はいつも咎めている千聖姉さんの行動も許容できる。自然と頬が緩んだ。

 

 

「はいはい‥‥‥。今日は流石に何も言わないよ」

 

「ふふっ。こうしおらしい一楓も久し振りね。千聖姉って呼んでくれた昔を思い出すわ」

 

「僕の記憶にはございませんね」

 

「今も十分可愛いけど、昔はもっと可愛かったもの。記憶がないなら思い出すまで話してあげるわよ?」

 

「‥‥‥遠慮します」

 

 

 やはりいつになろうと千聖姉さんの僕弄りは止まる事を知らないようだ。僕はこのまま姉にいつまでも勝てないのだろうか‥‥‥。

 

 何か千聖姉さんにダメージを与えられるものが近くに一つでも————。

 

 

「おや、ここに迷える子羊が二人。これも運命という物なのか‥‥‥実に儚い‥‥‥」

 

 

 突如、前方から聞き覚えのある声。その主は紫髪の中世的な容姿に長身の女性。特徴的な口振りが故に、僕と千聖姉さんは瞬時に誰かを理解してしまった。

 

 

「別に僕達は迷っている訳じゃないんですけどね。"薫さん"」

 

 

 そう、その正体は僕達と幼馴染である瀬田薫。小さい頃から親同士の親交があり、昔からの付き合いで遊んだりもしている一人。

 今はバンドに所属してるらしく、それも美咲さんと同じバンドらしい。確か、『ハロー、ハッピーワールド!』って言ってたかな。

 まあ、そんな幼馴染である薫さんはこんな夜遅くに一人で何しているんですかね。

 

 

「なに、私は部活の帰りさ。少し長引いてしまってね」

 

「僕、まだ何も言っていないんですが‥‥‥。さらっと心を読むのやめてくれませんか?」

 

「それは‥‥つまりそういうことさ」

 

「意味が分からないのだけど」

 

 

 何とも冷たい一言を薫さんにかける千聖姉さんは、何処か不機嫌そうな表情を露わにしていた。言葉にもそれは表れている。

 確かに薫さんって特徴的だし、ちょっと掴みにくいところがあって接しにくい部分もあるけど、普通に優しいからね。この前道に迷っていたら助けてくれたし。

 ‥‥‥変な所があるのは否定しない。

 

 

「それで、薫は私達に何か用?」

 

「いや、特にこれと言った事はないよ。ただ偶然目にしたから声をかけたまでさ」

 

「そう。じゃあ失礼するわ」

 

 

 淡々と言葉を告げて会話を切り、繋いでいた手をグッと前に千聖姉さんに引っ張られる。

 僕は薫さんを横切ると同時に、引っ張られながらも言葉を残した。

 

 

「ちょっ、あ、か、薫さん。もう暗いですから気をつけてくださいね〜」

 

「ああ、ありがとう。二人も気をつけてくれ」

 

 

 そして、薫さんの姿は暗闇の中へ消えて行く。

 早々と歩を進めていた千聖姉さんも薫さんが見えなくなるや否やスピードを緩めるが、手は力一杯握られていた。

 

 

「ねえ、そんなに急いでどうしたの?」

 

「別に、急いでいる訳じゃないわ。ただ薫との会話を早く切りたかっただけよ」

 

 

 千聖姉さんは口を尖らせ、膨れた表情でそう言った。

 

 

「薫さんと喋るのそんなに嫌?」

 

「嫌って程ではないけど、折角の一楓との二人きりの時間が失われちゃうもの。勿体ないじゃない。それに、薫の話なんて8割何言ってるか分からないし」

 

「辛辣だなぁ‥‥‥。でも、別に二人きりの時間なんて家に帰れば沢山あるじゃん」

 

「一楓が家でも手を繋いでくれるなら薫との会話も考えるけど」

 

 

 あ、それは御免だわ。薫さんすいません。姉にはやっぱり勝てないです。

 

 一瞬で負けを認め、僕は千聖姉さんの言葉に何も言い返さず、手は繋がれたまま家へと歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜。‥‥わっ、レオン。お出迎えありがとうね」

 

 

 漸く暗い夜道も歩き終わり、自宅へ到着。ドアを開けると玄関には愛犬のレオンが居て、僕達を見るや否や飛びついて来た。

 僕の家は実質僕と姉さんの二人暮らし。両親が仕事で海外に赴任しているためだ。そのため、両親は滅多に返ってくる事はない。

 寂しくないのか、と言われれば嘘になるが、もう慣れてしまったというのが本音。それに僕には千聖姉さんとレオンがいる。寂しさも二人の存在によって薄れていた。

 

 

「ん、そうだ。千聖姉さん、今日買い物行くの忘れてたから簡単な物しかないんだけど‥‥‥」

 

「別に構わないわよ。あ、でも、納豆だけはやめてちょうだい」

 

「ふふっ、分かってるよ」

 

「それなら良いのだけど‥‥‥。じゃあ私はちょっと部屋に戻るわ。出来たら呼んでくれるかしら」

 

「うん、了解」

 

 

 そうして、千聖姉さんは自室の方へと向かう。

 対して、僕は一度腕を捲り、今日の晩ご飯はどうしようかと悩みながら台所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥さてさて、冷蔵庫には何が入ってるのか」

 

 

 冷蔵庫を確認すると、そこには人参やジャガイモといった野菜。後は昼のお弁当に使った残りの豚肉。予想はしていたけど、ここまですっからかんだとは思わなかった。

 

 

「これで何を作るかね‥‥‥‥あっ、カレールーあるじゃん。じゃあ、カレーにしようかな。というか、カレーしか作れそうな料理がないけども」

 

 

 幸いにも奥に隠れていたカレールーを見つけ、晩ご飯は決まり。時間も時間だし、なるべく手早く作ろう。千聖姉さんもお腹すいているだろうし。

 そして、僕はエプロンを付け、早速夕飯作りに取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥これで、一楓は前のように笑ってくれる」

 

 

 辺り一帯が綺麗に整頓された部屋。ストライプ柄の毛布が掛かったベッドに倒れ込みながら、私はぽつりと呟いた。

 そこからは、ふわっと花のような良い香りが漂う。私は弟の匂いを堪能しながら、頭をベッドに押し付けた。

 

 

「ん〜‥‥‥これは合法。私に取っては麻薬のような物だけどね」

 

 

 弟がこれを見たらどう思うのだろうか。怒る?こんな私に引く?はたまた拒絶する?

 多分、この中に正解はない。きっと、弟なら少し文句を言いながらもすんなり許容してくれる。これと言った確証はないが、経験則から言えばそう検討がつくのだ。

 だから、今は弟の優しさに甘える。疲れ切った身体と心を癒して貰う為に。

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

 ふと、一途の不安が心に募る。

 弟の芸能界、バンドへの復帰。それは、一楓にとって本当に最善の道だったのだろうか。

 どう言った感じで一楓がまた音楽に触れるかは分からない。もしかしたらソロでの活動かもしれない。いや、どうせならそっちの方が良いと思う自分もいた。

 

 一楓があの笑顔を出せてたのはラジカルに居たからこそ。新たなメンバーとのバンドは、一楓に取って心に傷を負いながら行う物となってしまうかも知れない。そうなれば一楓の笑顔は更に遠のく。

 

 そんな事になるなら、いっその事パスパレのメンバーとして参加出来ればどれほど良かっただろう。パスパレなら、一楓にとっても快く活動出来る場所な筈。

 

 私も一楓の近くにいる事が出来て正に一石二鳥だ。それに、一楓の容姿はそこいらの女性と比べてかけ離れている。ビジュアルは一級品。世の女性が一楓の容姿を羨んでも可笑しくない程一楓は可愛い。

 

 

「‥‥‥まあ、無理よねぇ‥‥‥‥‥」

 

 

 そんな幻想を頭の中で考えながら、私は溜息を一つ溢した。

 第一、事務所がそれを認めはしないだろうし、一楓自身が承諾する可能性も低い。

 私の考えは本当に幻想にしか過ぎなかった。

 

 

「‥‥‥どんな方法であれ、一楓が前みたいに戻ってくれる事を願うしかないわね」

 

 

 私はストライプ柄の毛布を握りしめ、弟の笑顔が戻る事を願い続ける。

 大切な存在が、もう二度と傷つかないよう信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千聖姉さーん。晩ご飯できたよー」

 

 

 晩ご飯のカレーも作り終わり、僕は千聖姉さんを呼ぶが、降りてくる気配は一向になかった。もしかして寝てしまったのだろうか。

 そんな事を考えながら、僕は姉の部屋の前まで移動し、ドアをノックする。

 

 

「千聖姉さん、起きてる?晩ご飯出来たよ」

 

 

 しかし、返事は返って来ず、僕は頭にハテナマークを浮かべた。疑問に思いながらも、ドアノブを引き、部屋の中へと進んでいく。恐る恐る歩きながら辺りを見回すが、姉は何処にも居なかった。

 

 

「う〜ん‥‥‥一体何処に行ったのか‥‥‥」

 

 

 考えられるのは二つ。トイレに行っているか、僕の部屋にいるかだ。

 だが、前者は部屋に向かうまでに通りかかった際、明かりはついていなかった。よって除外。

 じゃあ、残りは一つ。

 

 僕は自分の部屋の前に移動し、自分の部屋にも関わらず用心しながらドアノブを引いた。

 

 

「千聖姉さん————って、やっぱり居た。‥‥何してるの?」

 

 

 そこには、僕のベッドにうつ伏せで倒れていた千聖姉さんがいた。頭をベッドにぐりぐり押し付け、何やら不穏な事をしている状況を目にし、思わず顔を顰めたのは言うまでもない。

 

 

「ん‥‥‥一楓。今は一楓の匂いを堪能している最中よ」

 

「はいはい、弟の部屋で勝手に何してるんですか。ブラコンだからってして良い事と悪い事はあるんですよー」

 

「それなら、これはして良い事の部類に入るわね。私に取って必要不可欠の癒しの時なんだから」

 

「‥‥‥‥っはぁ。今は置いといて、晩ご飯出来たから早く食べようよ。それで呼びに来たんだから」

 

「ん〜‥‥‥ぁ〜、疲れて起きれないわー。誰かに起こして貰わないとー」

 

 

 態とらしく手を出してアピールする千聖姉さん。

 全く、どうして仕事ではきちっとしているのに、家ではこんなだらけているんですかね。

 僕は二度目の溜息を吐きながらも、千聖姉さんの手を掴んで起こそうと力を入れる。

 

 

 

 その瞬間——————。

 

 

「へっ‥‥‥?」

 

 

 僕の視界は突然反転し、掴んだ手から逆に引っ張られてベッドに倒れ込んだ。視界には天井が映ると思いきや、そこには桃色の綺麗な瞳が映る。顔の横には二つの手が僕を逃すまいと置かれ、悪戯っ子のような微笑みを浮かべている千聖姉さん。

 この状況に、僕は驚きを隠せなかった。

 

 

「い、いきなり何‥‥‥?」

 

「ふふっ。その表情、凄く良いわ」

 

 

 倒れ込んで乱れた僕の髪を千聖姉さんは耳にかけ、顔は蒸気したように艶やかな表情を浮かべていた。顔と顔の距離は近く、体温が上がるのが自分でも分かる。

 

 じっと僕の目を見つめる千聖姉さんから思わず視線を逸らしたく顔を背けるが、顔の横に置かれていた手がそれを良しとはしない。無理矢理正面まで持っていかれ、千聖姉さんの視線は僕に刺さり続ける。

 

 

「や、やめてって。こんな事‥‥‥。僕達、姉弟だしさ‥‥‥」

 

 

 必死に何とか懇願するように言葉をかけるが、千聖姉さんには届かない。

 

 

「姉弟だからと言って、事に及んじゃダメという決まりはないでしょう?」

 

「そ、そういう問題じゃないってば。普通に考えて可笑しいじゃん。それに、千聖姉さんだってアイドルとしての立場が‥‥‥」

 

 

 その言葉に、千聖姉さんは考える素振りを一度見せる。

 僕の心には一途の期待が現れ、やっと解放してもらえるという安堵感が覆った。

 だが、非情にもそれはいとも簡単に打ち砕かれる。

 

 

「‥‥‥そうね。確かにファンの皆にも申し訳ない。でも、バレなきゃ関係ないわ。今は気持ちを抑えきれそうにないもの」

 

 

「もう、何言ってん—————っ‥‥‥」

 

 

 言葉を言い終える前に、僕の腕は二つの手によってがっちりと拘束される。振り解こうと力を入れるが、それはびくともしない。女である千聖姉さんに力で勝てないと言う自分の非力さが、今はとても恨めしかった。

 

 

「‥‥‥軽いわね。少し予想はしていたけど、まさかここまで非力だとは思わなかったわ」

 

 

 軽く微笑みを浮かべながら告げる千聖姉さんの言葉が僕に刺さる。楽しそうに表情を作る千聖姉さんに対して、僕は少し憤りを覚えた。自分でも気にしていた事実を口にされて、良い気分になる筈がない。

 

 

「うるさい‥‥‥‥」

 

 

 だからこそ、僕は素っ気ない言葉を千聖姉さんに返した。

 

 

「ふふっ、ごめんなさい。でも、この状況で反抗的な態度を取るのは悪手としか思えないわよ?」

 

 

 確かに、現状主導権は千聖姉さんにある。僕がこれ以上反抗の意思を示せば何を仕出かすか分かったものじゃない。

 じゃあ、僕はどうすれば良い。力で負けている今、残された手段はほぼ無かった。

 

 

「‥‥‥私とするのは、そんなに嫌かしら」

 

 

 先程の表情から一転、千聖姉さんが心悲しげな表情を浮かべた。

 

 

「‥‥‥別に、千聖姉さんが嫌いってわけじゃない。寧ろ、す、好き‥‥‥。でも、だからって姉弟がこんな事をするのは間違ってる。好きだからこそ、僕はこの行為を否定する」

 

 

 間に一呼吸を入れ、僕は姉への想いを伝える。

 

 

「"千聖姉"は僕にとって大切な人だから」

 

 

 僕の言葉が告げられた瞬間、腕を掴んでいた手が自分から離れる。

 そして、その手は僕の背中へと回された。

 

 

「ありがとう、嬉しいわ‥‥‥‥」

 

 

 千聖姉さんの体温が伝わり、心地良い暖かさが身体を包む。

 僕は先程の危機的状況から抜け出した事に安堵感を覚えながら、姉の頭に手を添える。

 

 

「‥‥‥今日は甘えさせてくれないかしら。いろいろ考えて、不安がいっぱいあって‥‥‥疲れたから‥‥‥」

 

「うん、良いよ」

 

 

 少し涙ぐんだような声音で言葉を発した千聖姉さんは、僕の言葉を耳にして安心したのか、背中に回していた手の力を強める。

 そして、この瞬間を噛み締めるようにその後は沈黙を続けた。

 

 僕は優しく姉の頭に触れながら、微笑みを浮かべる。一時はどうなるかと思っていたが、考えてみれば千聖姉さんは僕の事を懸命に想っていてくれたのだろう。

 マネージャーさんと僕の復帰について考えてくれて、そんな中で学校での勉学に努めて、更にパスパレでの練習も行った。

 

 考えられないほどの苦労が、身体的、精神的にも掛かっていたのだろう。改めて、姉の存在が僕に取ってどれほど大きいものなのかをまた理解した。

 

 割りに合わないかもしれないけど、感謝の意も込めて今は最大限千聖姉さんの支えになろう。感謝しても仕切れないほどの恩を受けた僕が返すにはまだ足りなくても、心の拠り所として側にいよう。

 

 そんな思いを抱きながら、僕はそんな最愛の姉に対し、言葉を告げた。

 

 

「本当にありがとう、千聖姉さん。これからもずっと‥‥‥‥大好き、だよ」

 

 

 その夜は、僕らを照らしくれるかのように綺麗な三日月が浮かんでいた————。

 

 

 

 

 




三日月には『成長の時』という意味があったりなかったり‥‥‥‥?
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