輝きの復活   作:@naru

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 今回は短め。
 千聖さんの暴走は止まりません。タイトルでバレそう。





九話 ファーストキス

 

 

 時刻は午後5時。一楓の復帰についての話し合いはおよそ30分ぐらいだろうか。その話し合いは意外と早く終わり、一室で待っていた私を一楓は迎えに来た。

 

 

「お待たせ、話は終わったよ」

 

「そう。今後の方針は決まったのかしら」

 

「うん。取り敢えずこれからはソロで活動していくつもり。バンドはメンバーが集まるまでは保留かな。

 ‥‥‥でも、一人でステージに立つ事もあるかもしれないし、音楽からは離れないよ」

 

「別に心配はしていないわ。一楓の事だし、きっと上手くやってくれると思ってるから」

 

「ありがと。まあ、これから頑張るよ。お芝居もやらなきゃいけない訳だしね」

 

「それなら私と練習しましょうか。どんなシーンでも構わないわよ?勿論キスシーンでもね♪」

 

「‥‥‥絶対しないからね?練習は兎も角、そういうシーンは千聖姉さんに相談しません」

 

「待ちなさい姉さんは一楓が他の人とキスするなんて許さないわよ何処の馬の骨とも分からない奴と恋愛する作品とかもオファーされたら絶対私に言いなさい」

 

 

 息継ぎもなしに早口で捲し立てる千聖姉さん。そんな姉に僕はニヤリとしたり顔で言葉を返す。

 

 

「さぁね〜。僕の初キスは撮影された状態でかもしれないなぁ〜」

 

「っ‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

 僕の言葉を聞いて千聖姉さんは顔を引き攣らせ、苦い顔をする。

 

 はっはっはっ。してやったりだ。いつもやられっぱなしだから偶には僕が仕返す事があっても良いですよね。

 

 千聖姉さんの表情に対して、僕は愉悦した感情を募らせた。

 

 

 

 

 

 

「それなら実力行使ね‥‥‥‥」

 

 

 何やら不穏な言葉と共に、千聖姉さんが此方へ寄ってくる。

 

 

「な、何‥‥‥?いきなり近づいて来てさ」

 

 

 僕の言葉には目も暮れず、千聖姉さんはどんどん距離を詰める。千聖姉さんの周りから黒いオーラが感じられ、身体に悪寒が走った。

 

 

「ちょ、ちょっと?聞いてます?」

 

 

 そう問いかけても千聖姉さんは歩を止めず、僕は狼狽えながら後ろへ後ずさる。

 そして、遂には壁へと追いやられた。虚な瞳で近寄る千聖姉さんに悍ましさを感じながら、僕は思わず声を漏らす。

 

 

「ひっ‥‥‥‥‥」

 

 

 瞬間、千聖姉さんの右手が壁を叩く。所謂壁ドン。

 だが、それはトキメキなんて言う良い物は感じない。感じるのは恐怖。怯えた自分の声がそれを明確に表していた。

 

 

「ふふっ」

 

 

 漸く口から出た千聖姉さんの言葉は小さな微笑。恍惚とした表情を浮かべ、僕を見据えた瞳は先程と違って光を帯びていた。

 それに安堵しながら、恐怖が少しずつ薄れていく。

 

 

「‥‥‥お、脅かさないでよ。てっきり千聖姉さんが本気で怒ったのかと思ったんだから」

 

 

 しかし、それも今だけと言う事を姉の言葉によって思い知らされる。

 

 

「何を言っているのかしら」

 

「っ‥‥‥‥‥」

 

 

 安堵した気持ちは一瞬にして打ち砕かれ、もう一つの手によって僕は逃げ道を失う。

 千聖姉さんの表情を見ると、光を帯びていた筈の瞳がまた虚ろな物へと変わり、再び恐怖が僕を襲った。

 

 

「私は元々怒ってなんていないわ。ただ、一楓が知らない女と最初にキスする事を防ごうとしているだけ。例えお芝居と言えども、一楓のファーストキスを他の女に渡すぐらいなら私が貰う」

 

「ほ、本気‥‥‥?」

 

 

 悠長にも姉としての在り方を超えているような言葉を口にする千聖姉さんに衝撃を受けながら、僕は問いかける。

 今の千聖姉さんにこの質問は野暮だ。そう分かっていても、否定して欲しい気持ちがあったからこそそれに縋ってしまう。

 

 

「ええ、勿論」

 

 

 だが、その思いはいとも簡単に粉砕された。

 

 

「意味分かってるの!?ここは事務所!誰か見てるかもしれないんだよ!?」

 

 

 精一杯の反論。身体に募る恐怖を押し黙らせ、何とか正常な思考に戻らせようと言葉をかける。

 

 

 

 

 

 

 ここで、僕は気づいてしまう。

 

 

 姉のネジは既に壊れてしまっているのだと。

 

 

 ブラコンという物を拗らせ、弟の事となると暴走列車のように突き進んでくる。

 

 難儀な物だと何年悩んだのだろうか。それ程悩みの種でもあった事、いつしか悩む事すらも諦めていた事。全てを改めて実感してしまう。

 

 

「それがどうしたと言うの?」

 

 

 この姉は、極度のブラコンなのだと—————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、僕の初めては姉に奪われる。

 

 初めてのそれは、ふんわりと紅茶の匂いが感じられるのであった。

 

 

 





 
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