芽吹「薬師氏典膳は何者かって?ただの幼馴染よ」   作:ቻンቻンቺቻቺቻ

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帰り道……ヨシ!

 

 三度目と四度目の結界外調査も負傷者は発生してしまったが、誰一人として犠牲を出さずに完遂する事ができた。

 そのどちらもお役目を終えてゴールドタワーに帰還すると典膳が待ち構えていて、負傷者の誰にも有無を言わせずに丁寧かつ迅速な手当てが施されていた。そして、それぞれ翌日にはもう一度ゴールドタワーを訪れた典膳によって誰もが予後を確認されている。

 

 いつの間にか典膳の出現がゴールドタワーの日常になっていた。

 防人達の誰もが診察以外の時にも唐突に現れる典膳を受け入れていたのだ。

 

 ゴールドタワーに詰めている大赦の職員が典膳を丁寧に接して大赦から信用を得ている姿を見ていたり、防人隊にとって癒しの存在である亜耶が典膳を信頼している姿を見ているのもあるだろうが、なによりも、任務の度に負傷者が発生する防人達はそれらに対して全力で真摯に手当てを施す典膳のその姿勢と腕前を見ていたからこそ信用が築かれたのだと思う。

 

 典膳が防人達全員からの信用を確かな物にした事の要因として一番大きな事、真摯な姿勢と腕前。それを皆が解りやすく目にしたのはやはり、三度目の出撃の後のとある出来事だろう。

 

 当時、サンプルの回収に成功して帰還途中だった私達防人は運が悪かったのか大規模な星屑の集団に遭遇して後を追われながらの撤退を試みていた。結論から言えば撤退は成功、しかし、その過程で一人の防人が星屑の攻撃に大きく防人装束を破損させながら転倒、灼熱の大地によって顔を含めた多数の箇所に火傷を負ってしまっていた。

 私達防人達は危険な地に赴いて任務を果たす時、誰もが無傷ではいられない事を身を以て知っているし、それぞれが負傷を大なり小なり覚悟している。そんな私達が目を背けたくなるような火傷を顔に負ってしまった彼女は半ば混乱、半ば自失の状態で静かに涙を流しながら身体を他の隊員に支えられながらの帰還だった。

 彼女は同姓の私から見ても綺麗だと感想を抱くような白く透き通った肌をしていて、防人の厳しい訓練を受けていてもその白さを保とうと美容によくよく気を使う女子だった。

 それなのに、誰もが痕が残るかもしれないと想像してしまうような負傷を顔に負ってしまったのだ。その心中はどれだけ悲しく辛く絶望的だったのだろうか。

 

──貴女の肌はまだ死んでいません、治せます

 

 たった一言。多数の負傷者の中から最も心を痛めていたであろう彼女を一目で見抜いた典膳が小柄な身体で駆け寄り、力無い彼女の両手を強く握りながら告げた言葉だ。

 

 瞬間、空気が変わった。

 根拠なんて何も解らない。なのに、きっとあの瞬間に誰もが安心した。

 

──生きてるのなら、誰が諦めようとも僕が治します。僕を信じて僕の薬を貴女に使わせてください

 

 彼女はただ、小さく頷いた。

 即座に典膳はその場で調薬しながら手当てを施した。

 

 顔の火傷が癒えていく過程は丁寧に巻かれた包帯で見ることはできなかったが、日を追う毎に暗い雰囲気だった彼女が明るい雰囲気に変わっていく事で誰もが順調な回復を察していた。

 そして、数週間を経た現在、彼女の顔は元の白く透き通る肌を取り戻してる。

 

 素人目で見ても痕が残るだろうと察してしまうような負傷を仲間が負い、それを痕なんて残さず綺麗に治してみせた。

 そんな典膳を信用しない方が難しいだろう。

 他の職人やお客さんからの信用を腕前一つで勝ち取っていた私の父、それと同じ事を典膳は成し遂げてみせたのだ。

 

 だが、それはそれとして。

 

「ふぎぃぃぃ……」

 

「防人に今怪我人はいないわ、典膳が今ここにいるのはただ学校をサボってるだけでしょう」

 

 不必要なサボりをしている典膳の頬はつねるべきだと私は思う。

 

「うわ、痛そう。ってか見てるだけで頬っぺた痛いよ」

 

「痛いぃぃ、死ぬぅぅ……」

 

「痛いだけじゃ死なないわ、貴方自身の言葉じゃない」

 

「ブーメランが薬師氏に刺さった」

 

「これでいて薬学において四国で一番と大赦が認める人物なのだから不思議ですわね」

 

 午前の訓練を終えて昼食を摂りに訪れた食堂、そこで呑気に味噌汁を啜っていた典膳の頬をつねって引っ張って捻っているといつもの顔触れが集まってくる。

 

「あの、芽吹先輩……」

 

「どうかしたの亜耶ちゃん?」

 

 いつもの顔触れがいつもの騒々しい雰囲気を作っている中、おずおずと声を掛けてきた亜耶に視線を向ける。目に映る亜耶は案ずるような困ったような顔で私と典膳の間に視線を往復させていた。

 

「典膳先輩を見つけるなり芽吹先輩は訳も聞かずに頬っぺたをつねったように見えたのですけど、ここにいる理由を聞いてからでも良かったんじゃないでしょうか……? もしかしたら、何か用事があって学校をお休みしてここに来ていたかもしれませんし」

 

 たしかにそうだ、失敗した。と、自分の過ちに気付きながら典膳の頬を放す。

 亜耶の言う通りに何か理由があって典膳が来ていた可能性を考えていなかった、理由も聞かずにいつもの徘徊癖でここまで来ていたと勝手に決めつけて折檻していた自分が恥ずかしくなる。

 もしもそうだったのならば、私はとても酷い仕打ちを典膳にしていたことになる。そうだとしたら、誠心誠意謝罪をしなければならない。

 

「その……今更だけど典膳はどうしてここに……?」

 

「散歩してたらお腹が空いたので」

 

「へぇ、そう」

 

「んごぉぉぉ……!」

 

 鼻をおもいっきり摘まんで上に引っ張った。

 

 

 

 

「そういえばさ、メブと典膳くんが最初に会ったのはいきなり典膳くんがメブの家の庭に生えたからって聞いてたけど、あややと典膳くんは最初にどうやって会ったの?」

 

 来てしまってるからにはもう仕方ない、まずは昼食を済ませてしまおうと皆で同じテーブルを囲んでいると、いつの間にか典膳への呼称の距離感が縮まっている雀が好奇心の伺える表情で亜耶と典膳の二人に問い掛けた。

 

「えぇと、まだ小さな頃に前にちょっと言った交流会の時が初めてでしたね」

 

「あの時はたしか皆で百人一首してましたので」

 

「途中からは保護者として参加していた大人の神官さん達の方が熱中してたのを覚えてます」

 

「頭の中で仮面な人達が激しく札を取り合ってる姿を想像してしまいましたわ」

 

「すごく、シュール」

 

 未だに鼻と頬を仄かに赤くしている典膳を中心に和気藹々と言葉が交わされる。典膳はなんて事ないことを語るように、亜耶はとても楽し気に、聞き手側もそれぞれ性格が現れている反応をしながら会話が弾む。

 

「それで、その場の皆さんがそれぞれ熱中している時にふらっと典膳先輩が一人でどこかに行こうとしてるのにたまたま気付いて私がなんとなく追いかけたんです」

 

「出た、噂の脱走癖!」

 

 雀が囃し立てるような相槌を打つ声を聞きながら私は少し、いや、けっこう驚いてしまった。

 典膳の脱走癖は基本的にその場の誰もが気付かない内に発揮されるもので、私も今までその瞬間に気付く事は中々にできていないものだ。それなのに、当時初対面だった亜耶が脱走に気付けたらしい。

 巫女としての直感みたいなものなのだろうか?

 

「それで、典膳先輩と少し歩いた先で怪我をして動けなくなってる小さな黒猫さんを見付けました」

 

「怪我した仔猫が一匹、親猫とはぐれてしまったのでしょうね」

 

「当時の私は怪我をしている猫さんがかわいそうで助けたいと思って、ども、どうすればいいのかわからなくて泣く事しかできなかったんです。だけど……」

 

「だけど?」

 

 華奢な眉を寄せて悲し気に話していた亜耶に小さく首を傾げたしずくを含めた全員が視線で話の続きを促す。すると、表情を一転、ふわりと破顔した亜耶が言葉を連ねた。

 

「典膳先輩が『かんぜんに理解したので、友達になってもらいますので』って言いながらササっと黒猫さんを抱っこしたと思ったら交流会の会場に連れ帰ってパパっと手当てしちゃったんです」

 

「へー! ……あれ? 典膳くんって当時何歳だったの?」

 

「メヴキに会った次の年だから六つの頃ですので」

 

「動物相手とはいえ六つの頃には既に通り魔的医療行為をしていた薬師氏」

 

「何を完全に理解したんですの?」

 

「っス。あの時は不思議で綺麗な青い鳥を追いかけて助けが必要な仔猫を見付けましたっス」

 

「青い、鳥さん……ですか? あの時に黒猫さん以外の動物がいたのに私も気付いてませんでした」

 

「また情報が増えた、薬師氏のエピソードは情報量が多い」

 

 呆れたように、理解に苦労しているようなしずく。雀も弥勒も頭上に疑問符を浮かべたような顔をしているし、私自身も新たな情報に戸惑う。

 

「青い鳥はきっと仔猫を助けるために手当てできる人間を呼ぼうとした幸せの青い鳥で、幸せの青い鳥に助けられた仔猫はこれから幸せになる運命なんだと理解しましたっス」

 

「あら、ロマンチックな事をおっしゃいますわね、そういうのは素敵だと思いますわ」

 

「手当てされた黒猫さんも今では大赦の巫女達が寝泊まりする宿舎に入り浸って毎日機嫌良さそうにのんびりとしているので、幸せになる運命だというのは間違ってなんじゃないかって思います」

 

 亜耶が言うには保護されて宿舎に居着くようになった黒猫は幼い巫女達の善き遊び相手、つまりは典膳の言うとおり『巫女達の友達』になっているらしい。亜耶自身もゴールドタワーに来る前はよく撫でさせて貰ったり猫じゃらしで一緒に遊んでいたとの事。

 大切な思い出としてそれらを嬉しそうに語る亜耶につられてこの場の全員がほっこりと頬を弛ませた。

 

「そういえば、少し気になったのだけど」

 

 間隙なく転がる話題が一段落した所で典膳に向けて口を開く。皆の視線が集まったのを肌で感じた。

 

「青い鳥を追い掛けて脱走したらしいけど、そもそもその青い鳥っていったい何なの?」

 

 典膳の話を聞いただけではただ仔猫を助けさせるためだけに現れ、典膳を追いかけた亜耶を含む典膳以外の誰にも目撃されないまま典膳を先導し、気付けば話の中心から外れていた"幸せの青い鳥"なる不思議な存在。そんな存在を典膳は何故追い掛けたのだろうか。

 

「ただ青いだけの鳥なら野山に入って探せば見付けられなくもない位には珍しくないじゃない。何が"不思議な"だったのかしら」

 

 なんとなく。と、言われてしまえばそれまでの問い掛けでしかないが、自分でも妙に思えるほどにその青い鳥というのが胸の内の何処かに引っ掛かっていた。

 

「メブはロマンが足りないなぁ、仔猫を助けようとした素敵な鳥がいたって事にしたら面白いじゃん」

 

「でも、たしかに青い鳥が何者なのかは気になりますわね。青い鳥なんて目立つでしょうに、近くにいた亜耶さんが気付いてなかったのは不思議ですわ」

 

「言われてみれば、私も青い鳥が少し気になる」

 

 私に集まっていた視線が典膳へと移される。私が問い掛けるまで青い鳥の不思議さを皆が気にしていなかったのは、典膳の言動がいちいち摩訶不思議だからそれの不思議さが相対的に薄く感じられていたからかもしれない。

 集まった視線に典膳が少しだけ考え込むように虚空を見て沈黙。やがて、開き直ったように口を開いた。

 

「僕はそれらに遭遇する時はそういうモノだとそのまま受け入れてるから確かな言葉では説明できませんので、それでも良いならちょっと話せます」

 

「えぇ、メルヘンな話から急にオカルトな話になりそう。でも、やっぱりちょっと気になるかも」

 

「そんな匂わせ方をしておいて何も話して貰えなかったら余計に気になって夜も眠れませんわ!」

 

 どう説明しても胡散臭いので、と、典膳にしては珍しい勿体ぶったような前置きに対して皆が話の続きを催促する。

 

「七つまでは神の内、僕は七つの誕生日を迎えるまで他の人には見えないし聞こえない不思議なモノを見たり聞いたりしてましたので」

 

 初耳だ。

 しかし、思い返せば五つの頃に出会った典膳は当初何も無い所をぼんやり見ている事などが間々あった。そんな仕草もあってか私は典膳の事を当時から野良猫のようだとの印象を抱いていたのだ。

 まぁ、納得できなくもない。

 

「例の神童だのっていうのと関係してるのかしら」

 

「うーん、そういうモノだと受け入れてたので確固たる原因はわからないので、でも、たぶんそうかも」

 

「薬師氏は不思議なモノが見えてたから他の人には見えてない青い鳥も見えた?」

 

「それもたぶんそう。あの青い鳥は鳥だけどお姉さんで凛々しくて優しくて、でも今は非力なそんな不思議さんでした」

 

「説明まで不思議になってきましたわね」

 

 またも頭上に疑問符を浮かべる弥勒。私や弥勒もしずく理解が追い付かずに小首を傾げていた。

 

「で、結局その不思議な青い鳥は何者なのよ」

 

「たぶんだけど、通りすがりの神様や精霊とかの霊的なサムシングだと思いますので。自己紹介をし合ってないし今の僕には何も見えないし聞こえないのでホントの事はもうわかりません」

 

 前置きで話が脱線して当初の答えが未だあやふやだったのであらためて問い直してみたが、結局の答えもあやふやなものだった。

 

「霊的な何かかぁ……。それじゃあさ、不思議系な典膳くんには見えたけどなんかそういうのが見えそうなイメージのある巫女のあややにはなんで見えなかったの?」

 

 頭上に疑問符を浮かべながらも好奇心は尽きないのか質問を重ねる雀。それに対して典膳は感覚的な事を伝えために言葉を考えているのか難しい表情をしながら口を開く。

 

「あの時の亜耶も見ようと思えばたぶん見えたかも」

 

「え、そうなんですか?」

 

「でも、あの時の亜耶はお家から離れたばっかりで寂しい気持ちがたくさんだっただろうから不思議に気付けるだけの心の余裕が無かったかも」

 

「精神状態で見えるかどうかが変わるんですの?」

 

「っス。勇者のシステムも防人のシステムも精神状態で起動の可否が変わるし、心の状態次第でそういう事もあるかもって感じっス」

 

「曖昧で感覚的ですわね」

 

「でも、たしかにあの時の私は周りに年の離れた人ばかりだったのがちょっと不安で寂しくて、交流会でとても仲良くしてくれた典膳先輩がフラっと何処かに行こうとしてたのでもっと寂しい気持ちになってしまってましたね」

 

 あ、お父さんとお母さんに会えなくてちょっぴり寂しかった気持ちが強かっただけで、周りの人達はとても良くしてくれてました。と、慌てたように補足する亜耶。交流会が終わった後はよくよく懐いてくれた黒猫がいたから全然寂しくなくなったとも嬉しそうに補足していた。

 そんな亜耶の言葉にもしやと思いつつ典膳へと視線を向ける。

 

「友達は寂しさや退屈への特効薬ですので」

 

 自信満々に胸を張る姿。なるほど、猫に対した放った『友達になってもらう』とは亜耶のための言葉だったらしい。典膳なのに随分と洒落た事をしたものだ。

 

「それにしても綺麗な青い鳥かぁ、私も見てみたいなぁ」

 

「探せばこの四国の何処かにはいると思いますので、本気で探せば逢えるかもしれません。僕は仔猫の時を含めて三回逢えました」

 

「意外と遭遇してる」

 

 珍しいもの見たさなのか、好奇心の感じ取れる雀の呟きになんて事無いように典膳が答え、それにしずくが少し驚いた表情を見せる。

 

「二回目は他の霊的なサムシングに呼ばれたから追い掛けてみたらそれがちょっとイジワルだったみたいで、行き着いた先で迷子になって帰れなくなってた時に顕れて人のいるところまで先導してくれました」

 

「仔猫を助けた薬師氏への恩返し……?」

 

「やっぱりオカルトよりもメルヘンっぽいかも」

 

「呼ばれたから追ったのに迷わされるのはかなりオカルトでホラーですわよ」

 

「三回目は風で倒れた公園のゴミ箱を戻して散らばったゴミを集めてるのを見つけたのでお手伝いしました」

 

「神秘的な何かから急にボランティア感が出てきた!」

 

「猫さんを助けたりゴミ拾いをしたり、とっても善い鳥さんなんですね」

 

 ほっこりと笑う亜耶につられて全員が同じようにほっこりと笑う。

 話題の一区切りでそれぞれが手元の飲み物を口に含んで喉を潤していると、いつも通りの声色で典膳が新たに口を開く。

 

「それにしても驚きました」

 

「私は十年近い付き合いのある幼馴染みが実はお化け的な何かを見てましたと打ち明けられて驚いてるっていうのに打ち明けた本人が何を驚いてるって言うのよ」

 

「それです」

 

「は?」

 

 何が"それ"なのか、または斜め上な発言をしようとしているのではとあるかもしれない混乱に備えるつもりで典膳の眼を真っ直ぐに見据えて耳を傾ける。

 

「人には見えない聞こえないものを僕だけが見て聞いていた、そんな証明しようの無いことを全然疑わないでそのままそっくり受け入れてる事です」

 

 何を考えているのか何も考えてないのか、丸い眼を瞬きさせながらの真顔で言いのける典膳。

 きっと、微妙な浅さで考えての発言なのだろう。

 

「やっぱり、典膳はどうあっても典膳ね」

 

「え?」

 

 薬学に精通してようが寂しさを抱えている小さな女の子のために洒落た事ができようが、やはり、典膳は典膳なのだ。

 言葉を飾らずに率直な表現をするならば、典膳はちょっとお馬鹿なのだと私は幼い頃から知っている。

 

「私達は神樹の結界の外で星屑だなんて化物相手に戦ってるのよ、ちょっとよく分からない物が見えてるだけの人間程度なんて驚きはするけど疑う方が難しいわ」

 

「……!」

 

 丸い眼を更に丸くする典膳。

 どうにも間抜けな表情に見える。

 

 私達は不思議な力で不思議な相手に命懸けの戦闘を何度も繰り返している。

 自分達だってある意味では不思議な存在に片足を突っ込んでいるし、亜耶のような巫女達は神樹からお告げを授かったりしているというのに、ちょっと何か見えてる程度の不思議を何故疑うのか、それに気付かない典膳は少々考えが浅いと思わざるを得ない。

 

「たかだか不思議なモノが見える程度よりも眼を離したらすぐに迷子になる典膳の迷子癖の方がよっぽど摩訶不思議だわ、なんで毎回誰も気付かない内に消えてるのよ」

 

 私が思うに一番不思議なのは典膳の普段の言動そのものだ。

 しかし、不思議だけど疑う事は無い。

 

「話せない事は話さない、嘘や誤魔化しをするくらいなら沈黙する、言葉にする時は必ず正直。この十年近くで典膳自身が培った信用じゃない。なんで私がそんな典膳の言葉を疑うのよ」

 

「……えへへ」

 

「なんで笑ってるのよ……」

 

 問われた事への答えを返せばへらへらと笑い始める典膳。

 何がそんなに楽しくて面白いのか、典膳の笑いのツボはやはりまったくもってわからない。

 

「楠、男前」

 

「え?」

 

「要約すると典膳くんだから信じるって事でしょ、メブの発言がイケメン過ぎるよ」

 

「信じてない相手に怪我の処置なんてさせないでしょう、今更過ぎるわ」

 

「世の中の幼馴染み関係というのはこうも信用し合うものなのでしょうかね……?」

 

 曖昧な表情で首を傾げる弥勒に対し、幼馴染みだから信用するのではなく信用を培った典膳だから信用している。と、単純な説明をするとなにやら生暖かい視線を返された。

 

「芽吹さんと典膳さんだからこそ、という事ですわね」

 

 その通りではあるが、なにかニュアンスが違う気がする弥勒の言葉。

 どうにもよく分からないが、へらへらと笑い続ける典膳以外の全員から表現し難い生ぬるくて得体の知れない視線を貼り付けられた。

 




 
 
 
 
 
 
 
幸せの青い鳥さん(どうにもこの孤独な黒猫を見捨てるは忍びないが肉の身体無き私にはどうする事もできん……)

鳥さん(む? 目が合ったな。この少年、私が見えるのか……ふむ、上手くいくか解らんが少し頼まれて貰おうか)

鳥さん(……あぁ、よかった。もう心配は無いだろう)

鳥さん(くくく。誰に面影を重ねたのやら猫一匹、思いの外喜びと安堵の気持ちが強いな)

鳥さん(何事にも報いを。聡い少年よ、この報いはきっと返そう)


鳥さん(少年!私が言うのもなんだがよく解らない相手にホイホイと着いてくのは危ないぞ!?親御さんに知らない人に着いていってはいけないと教わってないのか!!)

鳥さん(あーっ!!言わんことではない!変な領域に迷わされてるではないか!!多くの地の神が神樹に合流したこの御時世に何故そうも簡単に神隠しに遇うんだ!!)


黒猫の報いは歩いても飛んでも泳いでも行けない場所からの帰り道を案内される事で返されました
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