マリィという少女を連れて、夕方には無事にスパイクタウンに到着。
早速街の中に入ると時間帯も相まってそこは薄暗い感じの街で、路地裏のような空気を醸し出している。
「ジムに行くならこっちね」
ここから先は街中を知るマリィに道を委ね、大通りを歩いていく。
……………なんだろうか。
さっきからすごく視線を感じるのだが………。
「「「お嬢!」」」
歩みを進めるにつれて視線を感じるようになってきたかと思えば、目の前には三人のおかしなフェイスペイントをしたであろう男女がやってきた。
誰?
ってか、お嬢?
マリィってまさかこのおかしな連中のトップとか?
あるいはその親族か何かか?
「怪しいやつめ! マッスグマ、バークアウト!」
「クスネ、たいあたり!」
「ズルッグ、ずつき!」
怪しいのはお前らの方だろう、というツッコミは野暮ってもんなんだろうか。
どう考えても今の状況、俺が少女を守っている構図だよな?
「まもる」
黒いのに合図を送り、全てを弾いていく。
「マッスグマ!?」
「クスネ?!」
「ズルッグーッ!?」
うるさいな。
「ダークホール」
そしてそのまま黒い穴で三体を呑み込み、眠らせてから再度戻す。
「なあ、お前ら。ポケモンたちには単に眠ってもらっただけだが、こっちは永遠の眠りにつかせることも出来るんだわ。賢いお前らなら、俺が何を言いたいのかくらい理解出来るよな?」
そう言いながらニヒルに笑みを浮かべてやる。
「「「ひぃっ?!」」」
すると一気に顔を蒼白させて、ガタガタと震え出した。
別に嘘は言っていない。俺が出来ないだけで、召喚に応じるかはともかくギラティナさんなら可能だろう。実際そういう役割らしいし。
「別にお前らの大事なマリィを取って食おうってわけじゃない。単にジムまで案内してもらってるだけなんだわ。だから」
ゆらりと、ゆっくりと、三人に近づく。
「邪魔するようなら…………」
「「「ごごごごめんなさぁぁぁいいいいっっ!!」」」
そして右手をにぎにぎと今から何かしますよアピールをすると、一目散に逃げていった。
ああ、ちゃんとポケモンたちは回収していったぞ。
「あいつら知り合いか?」
「うん、アニキのとこのやつらやけん。あたしにとっても家族みたいなもんたい」
「…………一応聞いておくが、大丈夫なのか? その、いろいろと」
「普段は街の見回りとかしてるんよ。ばってん、何故かあたしが絡むと度が過ぎよるばいうか………」
「ああ、お前も苦労してるんだな」
なるほど、何となくだがどういう感じの奴らなのかは見えてきたわ。
多分、そう悪い奴らでもないのだろう。
本当に大事なマリィが知らない男と歩いてきたのに驚いて、攻撃的になっていたと見て間違いなさそうだ。
「ここでこうなんやけん、ジムに着くまでにもまだまだいるとよ」
「やってもいいんだよな?」
「うん、悪いのはあいつら。ちょっとくらいなら痛い目に遭っても文句は言わせんね」
「流石お嬢」
身内にも容赦ない少女だな。
まあでも、行いの良し悪しの判断が出来ている辺り、しっかりと育てられているのだろう。
…………というかこの子、俺がポケモンの技を使っているように見えているはずなのに、全く動じてないのな。
マリィに案内されるまま着いていくとまたもやフェイスペイント団がいた。しかも五人に増えている。
「いたぞ、お嬢を返せ!」
なんだろう、この懐かしい感覚。
チンピラ擬きとなっているフェイスペイント団を見ていると、どこぞのチンピラたちを思い出す。
このおバカで残念な感じがすごく似ているような気がするのだ。それにマリィに対しての異様な執着心。
ああ、そうそう。アローラのスカル団とか言ったっけ? グズマのところの。
「ダークホール」
一斉に襲いかかってきたので、黒い穴に落として眠らせていくと、それだけで目が点になっている。
そして一気に顔を青ざめさせて退散していった。
うん、もっとやりようはあるだろうに。しかも集団でいけば勝てると思っている辺りがすごく残念である。
そんなのがその後二回あったところでようやく開けたところに出てきた。
「ここったい」
「ジム………?」
そこは俺の想像していたジムとは全く異なる様相をしていた。
いや、だって、今までの傾向からしてガラルのジムってスタジアム風になってるじゃん?
「最早屋外のライブハウスなのでは………?」
それが奥はステージになっており、楽器も置いてある上に、周りの鉄骨柱にはスピーカーまで取り付けられているんだからな?
あ、でもちゃんと地面はコートになってるわ。広さも充分ある。でもメインの使い方はライブの観客席なんだろうな。
「うるせーですよ、細けーことは」
「アニキ」
すると一人の………タチフサグマ? がステージ上にいた。
「ずっと聞いてましたよ、うちのもんがすみませんね」
「えっと、マリィの兄貴がジムリーダーってことでいいのか?」
なんか色白でほっそりとした頭がタチフサグマのようにツートンカラーになっている男がステージから降りてきた。
これがマリィの兄貴…………。
似てるような似てないような…………?
「ええ、間違いねーですよ。おれはネズ。巷では哀愁のネズとか言われてるスパイクジムのジムリーダーです。ようこそ、仮面のハチさん」
………おっと?
なんか既にバレてるみたいなんだが?
「………付けてねぇのに分かるんだな」
「ええ、声で分かりますよ。おまえたちが街に入ってきたのも音で分かるくらいには耳がいいんでね」
「耳がいいとかのレベルじゃなくないか?」
今この場で会話して声で分かったっていうならまだしも、街に入った時点で分かったって、人間の耳じゃなくね?
やっぱりタチフサグマなんじゃ………。
「聞こえ過ぎってのも大変なんですよ。聞きたくもねー言葉が嫌でも聞こえてきたり、実にノイジーだ」
まあ、本人としては大変なんだろうけどな。俺にはそんな症状がないためどんな感じなのか具体的に感じることは無理だが、想像以上に辛いものではあるだろう。
「………客は?」
「いねーですよ。七番目のジムとはいえど、ここはスパイクタウン。パワースポットがなく、ダイマックスが出来ない街で有名なんですけどね。………ああ、そういえばおまえはアローラ出身でしたっけ? そりゃ知らなくても当然か」
いや、まあ、アローラ出身なんて一言も言った覚えはないんだが、ガラル出身じゃないのは本当だからな。
元シャドーの奴らのアジトを突き止めるために飛び回っていた時に一度立ち寄ったが、怪しさ満点なのにそういう面ではクリーンな街だったのを覚えている。下手したらエンジンシティの路地裏の方が危険なのではないかと思えるレベルなのだから、さっきのフェイスペイント団が街を見回っていて治安がそこまで悪くないのは確かなのだろう。
「まあ、おまえが何を気にしているのかは想像つくんでね。先に言っておくと、今から始めるジム戦はドローンロトムに撮影してもらってライブ配信って形になります。それも任意のタイミングで始められるんで、おまえの素顔が大衆に醸されることはねーですよ」
他のジムのようなスタジアムもない。さらに不人気と名高い街ともなれば、いくらジムチャレンジの七番目の要所といえど、客足は遠のくらしい。おかけで俺には好都合な状況なわけだが、流れて的に今にもジム戦が始まろうって感じの雰囲気に反して、俺の任意で始められるときた。
ここまで俺に都合が良すぎると事前に誰かの指示で用意していたのかと疑ってしまう。
「嫌に詳しいじゃねぇか。ダンデからの指示か?」
「あのバトルバカから度々おまえの話を聞かされていたのは事実ですが、これくらいはこれまでのおまえのジム戦を見ていれば分かりますよ。そもそもうちは不人気な街で名高く、チャレンジャーたちも街に入るのを怖がるくらいなんでね。それを逆手に取って街に入ってくるのが第一ミッション、うちのもんに絡まれるのが第二ミッション、それを乗り越えておれのところにまで辿り着ければミッションクリアってことにしてるんですよ。だからミッション内容も公開していないし、配信もしていない。見せるのはバトルのみ」
なるほど。
要するにあのフェイスペイント団を倒すのがこのジムのミッション内容だったわけだ。
撮影されてなくて本当よかった。
あんな姿が公衆に晒されたら、変な疑いの目を向けられかねない。多分、仮面のハチだからって理由ではマスコミも流してくれないだろう。
「そうだったん? それにしちょーば、一斉に取り囲んできよったんよ?」
「それはマリィも一緒だったからですよ。どうせ誘拐か何かと勘違いしたんじゃねーですか」
「連れてきちょーもらったんに、しぇからしか」
どうやらマリィもジムミッションの実態を知らなかったらしい。
「ああ、それと。おまえの素顔についてはうちのもんにしっかりと箝口令を出しておきますよ。まあ、それ以前に恐怖で顔を合わせられねーみたいですが」
「一応、マリィには許可は取ったんだがな。やり過ぎたか?」
「いえ、こちらが儲けたルールから逸脱していた部分もあって、迷惑をかけたのはこちらなんでね。温情も与えられたようだし、文句はねーですよ。最も妹に手を出していたら、その限りではねーですが」
淡々と話していたかと思うと、不意に『マリィ』という単語とともに殺気が込められてくる。
「うっわ、目がマジだ………」
こいつ、既に何人やってるんじゃなかろうか。
そんな目をしているぞ。
「ハッ、何言ってんだ。うちの世界一可愛いマリィに手を出そうって輩は徹底的に排除するに決まってんだろ」
「そりゃそうだ。俺も妹がいるからな。その気持ちはよく分かる。どこの誰かも知らない輩に指先の一つでも触れさせて堪るかよ」
ただ、言いたいことは理解出来る。
俺もこいつの立場なら同じようなことをしているだろう。というかこいつアレだわ。同類だ。
「ああ、おまえも同類でしたか」
間髪入れずに返した言葉でようやく素に戻ったらしい。
まあ、妹たるもの、世界一可愛い存在だからな。どこの誰とも知らない男の手垢が付いたら、そりゃ徹底的に潰すに決まってる。
「それで、どうします? 着替えます?」
「着替えなくてもいいなら覆面被るだけにしたいんだけど」
さっさとジム戦を終わらせてしまいたいというのが正直なところ。
それに観客もいないのなら、そんな派手にパフォーマンスする必要もないのだし、俺が仮面のハチだと分かればそれで充分だと思う。
「なら、試しにそうしてみたらどうです?」
……………こいつ、今『試しに』って言ったか?
つまり、こいつは今の俺の格好にガオガエンの覆面を被るとダサいと言いたいんだな?
嫌な予感はするが言われるがままにガオガエンの覆面を頭から被っていく。
「くくくくくっ、ダセェ………」
ほら、やっぱり。
必死で声を抑えているものの、腹を抱えている時点でアウトなんだよなー。
ダサいのはこっちも承知の上なんだよ。
「うるせーよ。チッ、どこで着替えればいい」
「そこの部屋で着替えなさいな。くくくっ」
ずっと笑っていそうなため、渋々だが全身着替えることにした。
ライブハウスの受付って感じのところに入れられたが、人が誰もいない。受付としても使われてないのだろうか。それとも人払いしてるとか?
まあ、何せよ人がいないのなら着替えてしまおう。
俺は全身ガオガエンになりつつある、ユニフォームに着替えていく。
「どうよ」
「くくくっ、おれを笑い殺す気ですか、くくっ」
全身ユニフォームに着替えて出てくるとネズは腹を抱えて膝を叩きながら笑い始めた。
対して、その横にいるマリィは目を輝かせてこちらを見てくる。
「どこぞのバトルバカのせいでこうなったんだよ。言いたいことがあるなら、あのバカに言ってくれ」
というか仮にもジムリーダーなら俺の格好の理由くらい知ってるだろうに。リーグ委員会と期間限定でスポンサー契約を結び、その証として従来のチャレンジャー用ユニフォームから赤黒いユニフォームへと変更しているんだし。
「ふぅ………いえ、文句はねーですよ。現におまえはそれで人気を博しているんですからね」
一頻り笑うとようやく言葉を紡いだ。
ツボに入りすぎではなかろうか。
「さて、マリィよ。おまえは脇で見ていきなさい。必ずいい刺激になるはずです」
「言われんでもそのつもりたい」
うん、まあそうだろうな。マリィの目の輝きが異常だもん。
まさかこの格好が子供心をくすぐるとか?
「んじゃ、始めましょうかね。ロトム、配信開始を」
ネズがそう言うと、どこからかドローンが飛んできて、フィールドの上空に位置付けた。それも二機。
そしてどこからか駆けつけたフェイスペイント団の面々。面々とは言っても皆同じペイントをしているから、同じ顔なんだよな。だから街の雰囲気もあって超不気味だ。
さらにマリィはその一人から飲み物を受け取っている。何気ないそのやり取りが余計にマリィの身内なのだと感じさせてくる。
本当に大丈夫なのかね…………。絵面だけ見ると結構ヤバいぞ?
『マズハ、ルールノカクニンヲオコナイマス。シヨウポケモンハ、ヨンタイ。ソノタノルールハ、コウシキセンノモノニジュンジマス。ソレデハ、バトルハジメ』
「ふぅ………おれは! スパイクタウンジムリーダー! あくタイプポケモンの天才、人呼んで哀愁のネズ!! 負けるとわかっていても挑む愚かなおまえのために、ウキウキな仲間とともに行くぜー! スパイクタウン!!」
「「「おおーっ!!!」」」
…………なーに、このパフォーマンス。
今までのジム戦と違ってアウェイ感が半端ないんだけど。
しかもいつの間にスタンドマイクが設置されてるんだよ。つか、鉄骨柱のスピーカーからも聞こえるし、アレ現役だったよかよ。
…………スパイクタウンの人気がない理由ってこれだったりしない?
ジムチャレンジで勇気を振り絞って行ったけど、こんなアウェイ感の中でやるのが怖いっていうのが広まって、みたいな。
今までとの毛色が違い過ぎて子供は泣くぞ。
「まずはおまえだ! カラマネロ! 特性あまのじゃくの真髄を見せてやれ!」
おい、待て。
出して早々特性を暴露とか、バトルの駆け引きはどうしたよ。
それともこんな紹介をしておいて、実は特性はあまのじゃくじゃありませんでしたー、ってオチにならない?
「ウルガモス」
ネズの意図が読めないまま、最初のポケモンとしてウルガモスを出した。あくタイプということで王道のむしタイプを携えるウルガモスは刺さってくれるだろう。それにあっちはカラマネロ。あく・エスパータイプなため、当たれば効果は抜群だ。
「いとをはくでカラマネロを捕えろ」
とはいえ、一応七番目に配置されるだけの実力者であろうジムリーダーだ。真正面からいったのでは躱されるだけに違いない。
「カラマネロ、おまえの自慢の触手からサイコカッターを飛ばして叩き切れ!」
カラマネロを拘束しようと白い糸を大量に吐き出すも、カラマネロが触手を広げてピンク色の刃を次々と飛ばしてくる。
「おいおいおいおい! ちょうのまいは使わねぇのか! 日和ってんじゃねぇぞ!」
スイッチが入ったネズは口が悪い。これもパフォーマンスの一瞬なのだろうか。
さっきまでの^_^ダウナーな感じの方が親近感が湧いてよかったんだけどな。
どうにもやりにくい。
「使うわけねぇだろ。使ったらひっくりかえすだろうが」
「当たり前だ! ほら、さっさと使いやがれ!」
本当に何を意図してのやり取りなのだろうか。
挑発してきたかと思えば、手の内をすぐに晒してくるし、それに乗っかる程、頭に血が昇りやすい体質でもないため、ただただ困惑するだけである。
「ねっぷう」
カラマネロが糸と格闘してる間に背後に回ったウルガモスが、六枚羽を羽ばたき、熱風を起こす。
振り返ったカラマネロが触手を伸ばして、同時にピンク色の刃も飛ばしてくるが、その全てを押し返し熱風を浴びせていく。
「カラマネロ、お礼参りだ! いわなだれ!」
飛ばされながらもウルガモスの頭上から次々と岩を落としてくるのは流石と言えよう。
「躱せ」
だが、正確に狙いを定められていたわけでもないようで、ちょうのまいを使っていないウルガモスでもひょいひょいと躱せてしまった。
「いとをはく」
さらに距離を詰めて再度白い糸を吐いてカラマネロを拘束していく。
「まだまだァ! いわなだれェ!」
今度は拘束されるのも厭わず、再度ウルガモスの頭上から次々と岩を落としてきた。
肉を切らせて骨を断つ、ってか?
タイミングとしてはバッチリだったし、実際に六枚羽の一枚に直撃したからな。ただ、少しでもタイミングを逃すとウルガモスは全て躱せただろうし、逆に拘束されたまま大きな隙になっていた。
その辺のリスクヘッジは相当上手いトレーナーなのがよく分かる。
「むしのさざめき」
とは言え、羽の一枚に岩が直撃しただけで戦闘不能になる程、ウルガモスは弱くはない。
低空でバランスを取り戻し、カラマネロに接近すると至近距離でさざめき音を上げた。
「いいねいいね! あまのじゃくが発動してんじゃん! カラマネロ、おまえの触手は何のためにある?! 今こそぶった斬るためだろ! アクアブレイク!」
どうやらむしのさざめきの追加効果が発動していたようで、遠隔防御力が下がるところ、特性あまのじゃくの効果により逆に上がってしまった。
そしてそれを知覚したネズは一気に攻勢に出てきた。恐らく一撃くらいなら耐えられるだろうという算段で。
回転しているカラマネロに糸は通用しないだろう。つまり、拘束は不可。となると打つ手はこれだな。
「ねっぷう」
六枚羽を思いっきりはためかせて、熱風を扇ぐ。
風の勢いでギリギリのところでカラマネロの勢いを殺し、水の刃を振り回されても届かない位置取りとなった。ついでに水の刃が蒸発していっている。
「むしのさざめき」
そして、後へ引きずられないように踏ん張る力が強くなったところで技を切り替え、前方からの急激な失力により前のめりになっていく。
そこへ再びさざめき音が走った。
『カラマネロ、セントウフノウ!』
そのまま意識を飛ばしたカラマネロが地面にボトリと倒れていく。
…………今気づいたけど、審判ってドローンの中にいるロトムがやっているのかよ。確かに言われてみれば審判がどこにもいねぇわ。
「痺れる一撃だったぜ、カラマネロ! おまえのその働き、無駄にはしない! なあ、おまえたち!!」
「「「おおーっ!!!」」」
…………いや、もう本当。
こっちが一体倒したってのに、全然そんな気になれない。
絶対このアウェイ感がスパイクタウンを毛嫌いする原因の一つだと思うわ。
「みんなにおうけどいいよな! ふいうちでじゃれつくだ、スカタンク!!」
カラマネロをボールに戻して二体目として出てきたのはスカタンク。
やはりあくタイプの弱点を突けないあくタイプを出してきたか。
「ウルガモス、躱せ」
しかも今のは技の暴露かと思いきや、そのまま攻撃の指示でもあったらしく、一瞬気付くのに遅れた。
ウルガモスがギリギリ躱してくれたからよかったものの、どうやらただただ暴露するだけのパフォーマンスとは思わない方が良さそうだ。
爺やカブさんらベテラン勢の匠なバトルでもなく、ダンデのようなゴリ押しタイプやソニアのような計算した立ち回りというタイプでもない。多分、大体のトレーナーが一番嫌がるタイプであろう、トレーナー自身を思考の波で揺さぶってくるタイプだ。この暴露パフォーマンスも思考の波に落とし込む一種の罠なのだろう。
こりゃ、とんでもない奴がジムリーダーになったもんだ。七番目というのも頷けるわ。
「とんぼがえり」
だからここは無理する必要はない。
ウルガモスはまだ戦えると言っても、岩が直撃しているんだ。それにスカタンクはどくタイプを持ち合わせている。下手に毒状態にされてしまうと厄介だからな。毒に耐性のある奴に交代するのが無難だろう。
「おいおい、逃げるのか!! このアマちゃんが!!」
スカタンクに体当たりしたウルガモスが俺が構えたボールに戻っていく。
「ドラミドロ、りゅうのはどう」
そして、交代でドラミドロを出し、すかさず攻撃させた。
「スカタンク、ふいうち!」
だが、これにも反応できるようで、スカタンクは一瞬で距離を詰めてくる。
「そのままじゃれつく!」
かくとうタイプ対策にでも覚えさせているのだろう。
暴露通りじゃれつくを使ってきた。
「とける」
まあ、それもチートな技である、とけるを前にしては意味を成さないのだが。『ふいうち』と言われた瞬間にはこれで躱すことになると判断していたため、突進される前にドラミドロは液体状になり、スカタンクを躱した。
「マッドショット」
再度姿を戻して振り返り様に泥を撃ち放つ。
そんな高威力の技というわけではないが、スカタンクの唯一の弱点タイプであるじめんタイプの技なため、偶に攻撃に挟むと接近戦への牽制になると考えての選択である。
「チッ、スカタンク! あなをほるで目眩しだ!」
「地面に潜ったか………」
見事に嫌がってくれたネズはスカタンクを一旦地中へと移動させた。
地中か…………。
「ドラミドロ、フィールド一帯にねっとう」
掘った穴から熱湯が入り込めば、潜ったスカタンクにも届くだろうが、逃げられる可能性の方が高い。それよりは地面全体を熱湯で熱し、地熱の温度を高めて潜っていられなくする方が得策と考えた次第だ。
上手くいくかは分からないが、これで火傷でもしてくれたら御の字とでも思っておこう。
「スカタンク、長居は無用だ! 一気に仕掛けろ!」
ネズはいち早く危険を察知し、スカタンクに出てくるように指示を出す。
するとゴボッと穴が空き、中からスカタンクが飛び出してきた。勢いをそのままにジャンプしたことでドラミドロの目の前に現れる形になり、狙いを定めた獣のような目をしている。
「そのままじゃれつく!」
直接が次の技でか。
長く潜っていられなくなったスカタンクが攻撃に繋げないで出てくるとは考えられなかったので、割と想定通りの動きをしてくれてつい口角が上がってしまった。
「とける」
身体を液体状にしてスカタンクを躱す。
さあ、一度見せた戦法にネズはどう対処してくる?
「マッドショット」
再構成とともに泥を撃ち放ち、スカタンクの背後を狙う。
「同じ手が通用すると思ってんじゃねぇぞ! スカタンク、ふいうちだ!」
するとスカタンクは空気を蹴って反転し、一気に距離を詰めてきた。
なるほど、ふいうちの技の軌道を見抜く力を使って躱してきたか。それと同時に距離も詰めて次の攻撃に繋げると。
「とける」
「だいばくはつ!」
ッ!?
突如、スカタンクの身体から相当数のエネルギーが拡散され、大爆発を起こした。
いや、うん……………流石にこれは予想してなかったわ。
そうか、スカタンクってだいばくはつを覚えられるんだったっけか。とはいえ自分も戦闘不能になってしまう技だ。使うとしてもガオガエンやネット上では妙に評価の高いサーナイト相手に使ってくると思うのだが、それだけドラミドロに対して攻めあぐねていたと見るべきか。
『ドラミドロ、スカタンク、トモニセントウフノウ』
超至近距離で大爆発に巻き込まれたのだ。とけるで液体状になっていてとしても、あの量のエネルギーの拡散に巻き込まれれば、大ダメージは必至。良くてかろうじてまだ戦闘不能になっていないというところだろう。
とけるはチートな技とは言え、あの使い方は直線的に攻撃してくる、いわゆる『点』での攻撃に対しては無類の強さを発揮するが、範囲一帯を巻き込む『面』での攻撃に対しては躱しようがない。
だからこそ、ネズも攻めあぐねていたドラミドロに対して確実に倒せる技を選択したというわけだ。
全く以って侮れないジムリーダーだわ。
「スカタンク、骨に響くナンバーだったぜ」
「お疲れさん。毎度貧乏くじ引かせて悪いな」
いや、本当。
ルリナのグソクムシャも玉砕覚悟で突っ込んできたし、ドラミドロが相手するポケモンって割と相討ち覚悟で最後仕掛けてくるやつらばかりなんだよな。それで相討ちにされたり、相討ちに持っていくしかなかったり。ドラミドロが耐えてくれた場面もあるが、それも含めて貧乏くじもいいところだと思う。
多分、それだけドラミドロの戦い方に苦戦しているのだろうと思いたい。もう少し、俺がその辺まで見極めて采配出来ればいいんだけどな。俺もまだまだということだ。
「パンクロックな音楽を聞かせてやれ! ストリンダー!」
ストリンダー………。
ネズの三体目がこれか。
ソニアの手持ちにいたな。
けど、こっちのは鶏冠が青い。なんか姿が二種類あるんだっけ? 使える技が若干違うとか、それくらいの差しかないって話だったが、まあ取り敢えず言えるのは、こいつあくタイプじゃないんだよな。でんき・どくタイプなんだよ。
というかだ。ジムリーダーの手持ちにどくタイプがよくいるのは気のせいか?
ルリナもカブさんも婆さんも手持ちにいて、ネズに関しては二体もなんて。七人中四人だからな? これでキバナまでどくタイプを連れていたらと思うと想像したくもない。
そりゃ、バッジを全て集められる挑戦者は絞られてくるわな。他のポケモンたちで隠れがちなのだろうが、毒でじわじわと体力を削ってくるのだ。そして、恐らくはジムチャレンジ中にそのことに気付いているチャレンジャーはいない。
いやー、恐ろしい地方だわ。
「特性パンクロックのストリンダーか」
はてさて、ソニアのストリンダーを思い出すと音系の技を使ってきてたイメージがある。特性のパンクロックも音系の技の威力が上がるとかそんなのだったはずだし。
仕方ない。
ヤドランでとも思ったが、ここはハイパーボイスを持っているサーナイトでさっさと片付けるか。
「サーナイト」
「サナ!」
ボールからサーナイトを出すと俺に抱きついてきた。
うん、偶にやるよね、君。
超可愛いじゃなかった抱きつかれるのには慣れたんだけど、今はジム戦の最中なんだし、敬礼くらいにしておいた方がいいんじゃない?
「イチャついてんじゃねぇぞ! ストリンダー、まずはご挨拶だ! ばくおんぱ!」
どうやらネズにはイチャついてるように見えたらしい。
ポケモン同士ならともかく、人間とポケモンだぞ?
「ハイパーボイス」
ストリンダーが腹の突起を弾いて、爆音を鳴らしてくる。それに負けじと轟音を発し、相殺していく。
「サイコキネシス」
そして次の技に移行しようとしたストリンダーを超念力で拘束。そのまま地面に叩きつけ、重力がかかったかのように這いつくばらせた。
「怯むんじゃねぇぞ! もっと奏でろ! オーバードライブ!」
だが、それで折れる相手でもなく、ストリンダーはかろうじて仰向けになると、胸の突起を激しく弾いていく。
「テレポート」
サーナイトがその場を離れた直後、ストリンダーの周辺に激しい電気の波が起こった。
こいつのオーバードライブは津波のようだな………。
「みらいよちからのテレポートで近づけ」
電気の津波が収まるのを見計らって仕掛けを施した後、再度接近させることにする。
「ハイパーボイス」
そして、背後から轟音を発した。
「背後を取るとはいい度胸だ! ストリンダー、どくづき!」
「躱せ」
振り向き様に紫色の拳を振り上げてくるのを難なく躱していく。
「サイコキネシス」
そしてそのまま超念力で動きを固定。
「まだまだァ! もっと激しく! もっと荒々しく! ロックにオーバードライブ!!」
それでもストリンダーは超念力に争い、胸の突起を激しく弾ーーー。
「ダァァンンンッッ!?!」
ーーーこうとした瞬間に、何もないところから撃ち抜かれて地面に倒れていく。
うん、見事に刺さったな。みらいよち。
『ストリンダー、セントウフノウ』
諸に受けたストリンダーは口から泡を吹いて白目を剥いていた。
可哀想に。
「「「ストリンダー!?」」」
うおっ!?
まさかのネズじゃなくて外野が叫ぶという。
「サンキュー、マイロックハート」
いや、うん………言葉のチョイスがちょいちょい分からん。
でも外野は泣いてる奴までいるんだよなぁ。
「お疲れさん、サーナイト。次が最後だろうし交代な」
「サナ!」
よしよしと頭を撫でてからボールに戻す。
実はこの子が仮面のハチの最強の切り札です、なんて知れ渡った日にはどうなることやら。
「ネーズ!」
「「ネーズ!」」
「「「ネーズ! ネーズ! ネーズ!!」」」
遂にはネズコールまで始まったか。
これ、本当にチャレンジャー殺しもいいところだろ。複数回目とかの大人組はまだ耐えられるだろうが、マジで初参加の子供は泣くレベルだわ。
アウェイの洗礼ってやつを嫌でも魂に刻みつけられている気分だ。
「ネズにはアンコールはないのだ! 歌も! 技も!ポケモンも!! だからいくぜ! ネズのラストソング! 耳に! ハートに! きざみつけな!」
右腕を上げて指パッチン。
それだけでネズコールは瞬時に止み、代わりにネズのシャウトが響く。
「メンバー紹介! 甲高いうなり声が自慢のタチフサグマ!」
最後のポケモンはネズ……じゃなかったタチフサグマだった。
こうして並んで見るとそれなりに似ている気がする。特に頭。あと猫背な感じのところもか。
にしてもアレだな。マッスグマが立つとこんな感じになるんだな。
「ガオガエン、ニトロチャージ」
気を取り直してガオガエンをボールから出し、先手でそのまま突っ込ませる。
「うちのボーカルは受け止めるのも上手いぜ! タチフサグマ、ブロッキング!」
しかし、タチフサグマは両腕をクロスさせて炎を纏ったガオガエンを受け止めた。そして腕を広げて押し返してくる。
「おまえの存在をきざみ付けてやれ! クロスチョップ!」
さらに弾かれて後退するガオガエンの懐へ飛び込むようにして、タチフサグマが両腕を交錯するように振り下ろしてきた。
「アクロバットで躱せ」
それを空気を蹴ることでくるくると回転しながら後退し距離を取っていく。
さらに空気を蹴って踏み込むと一気にタチフサグマとの距離を縮めていった。
「何度だって受け止めてやるさ! ブロッキング!」
受け止めるのが上手いと豪語するだけのことはあり、タチフサグマは勢いの付いたアクロバットですら、難なく受け止めていく。
それでも威力が高まっているためか、ぶつかった衝撃で少し後ろへ滑っていたが。
「受け止めたからにはお返しも必要だね! カウンター!!」
再度両腕を広げたかと思うと、今度は両腕を重ねてガオガエンの鳩尾辺りを狙って飛び込んできた。
んー………意外とブロッキングが強いな。攻撃するに当たって、あの受け止める技はなかなかに厄介である。他の防御する系の技と比べると次の攻撃に繋がりやすい動作をしており、ネズもそれを利用して反撃に繋げている。
「まだまだこれからさ! クロスチョップ!」
距離が離れたと思ったらあっちの方から近づいてきてくれた。
それならこの好機を利用しない手はないな。
「タチフサグマの腕を掴め」
タチフサグマの両脚が振り下ろされる前に、ガオガエンがタチフサグマの手首を掴んで二人して万歳状態で立ち往生。
蹴りを入れるにも片脚状態になれば、力で押し負けることを思うと選べる技は限られてくる。
「きゅうけつ」
そう、口だ。
ガブッとタチフサグマの首筋に噛みつき、体力を吸い上げていく。
あく・ノーマルタイプのタチフサグマには効果抜群。
必死にガオガエンを振り解こうとするも両腕を捕まれ、首筋を噛まれていては脚しか使えない。
となると四つ目の技を切ってくるしかないと思うのだが、その気配は見えない。
「タチフサグマ、魂のシャウト!!」
「サァァァグァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
耳元で叫ばれたのではガオガエンも顔を顰めてタチフサグマを投げ飛ばし距離を取った。
なるほど、特に技というわけでもなくただ大声を荒げることで距離を取らさせたってことか。
「やるね! やるね! それじゃ、最後にとっておきのナンバーだよ! みんなに自慢してくれよな!」
「「「ネーズ! ネーズ! ネーズ!!」」」
最後に一際大きいのが来そうだな。
「ガオガエン、こっちもトドメだ」
とは言え、こっちは体力を吸い取ったため万全の状態である。
強いて言えば、もうかが発動していて欲しかったが、それはそれで一撃重たいのを受ければこちらが戦闘不能に成りかねないので、今回に限ってはそこまでの欲を掻いてはいけないだろう。
ガオガエンが右脚から炎を地面に走らせ、周りに広げていく。さながら何かの陣紋様みたいに。
そしてその炎の全てを右脚に凝縮し、走り出した。
「特性すてみのすてみタックル!!」
「ブレイズキック」
ガオガエンが地面を蹴り上げジャンプするのと同時にタチフサグマも一気に走り込んでくる。
そのままガオガエンが右脚を伸ばして急降下し始めると、その到達地点からタチフサグマもジャンプし、下から上り詰めてきた。
交錯した二体は一瞬空中で止まるも即座にタチフサグマの身体に炎が駆け巡り火傷状態にしてしまったようで、忽ちタチフサグマの勢いが衰え、遂にはガオガエンに蹴り落とされてしまった。
『タチフサグマ、セントウフノウ。ヨッテショウシャ、ハチセンシュ』
「熱いライブだったぜ………」
いや、何でタイミング良く水ネズにスポットライトが当たるんだよ。誰だ、スポットライトを操作してるの。
そして外野。
何故泣く。
そんな感動的シーンでもないだろうに。
「リーダーぁぁぁ!」
「オレたちは一生アンタに着いていくぜぇぇ!!」
ネズは外野からの声援のアーチを潜りながらセンターラインへとやってくる。
俺も仕方なくセンターラインへ向かうが、なんだこれ。
もう訳がわからず、テンションの差に言葉が出てこなくなる。
「取り敢えず、おれに勝ったんであくバッジを」
「お、おう………」
何でバトルが終わるとこんなダウナーな感じに戻るんだよ。しかも淡々としてるし。
「何となくおまえとはまた近い内にバトル出来そうな予感がします。その時は楽しみにしてますよ」
「俺としては腹一杯なんだがな………」
ダンデとはまた違うレベルで二度とバトルしたくない奴だわ。特にこのジムでは。
「くくく。まあ、次はキバナですからね。精々頑張ってください」
「ここまで来たんだから、負ける気はねぇよ」
とは言え、次が最後のジムリーダーとなる。
ここまで来たからには負ける気もないし、サーナイトとガオガエンがいる以上、相当な何かが起きらない限り、負けるところが想像出来ない。
「えっと、ハチさん。マリィも応援するけん、がんばるんよ!」
「おう、マリィも元気でな。迷子になるなよ」
うん。
ふんすとマリィに応援されてしまってからには負けるわけにはいかないな。
「妹よ、兄を応援してはくれないのですか?」
「もうろん応援するたい。ばってん、ハチさんが無事に全部のバッジを集められるように応援するのはまた別なんよ」
「ああ、ジムバッジの方でしたか。てっきりトーナメントの方でかと思ってました」
「アニキ、既にハチさんがトーナメントに上がってくると信じてるんね」
「ええ、キバナをギャフンと言わせて上がってくると信じてますよ」
何だこの兄妹。最後に妙なプレッシャーを掛けてくるんじゃねぇよ。