何となく居辛い雰囲気のスパイクタウンを後にし、数日ぶりの野宿をすることにした。
まあ、ジム戦も残すところあと一つだし、そのジムがあるナックルシティもここからならかなり近い距離にある。
だから特に急ぐ必要もないだろうし、明日にはナックルシティに着いて、ジム戦にも持っていけるだろうしな。
そもそも最後までジムチャレンジに残っているメンバーって、何人いるんだ? 俺の知る限り、マクワは確実に残っているだろうけど、他の選手のことなんか気にも止めてなかったから、他に誰が残っているのやら。
まあ、それはいいんだ。
今はそれ以上に気を向けないといけない事態が目の前で起きているからな。
さあて、どうしたものか。
「で、お前は何してんの?」
「ん? オレか? オレはそろそろファイナルトーナメントも控えているってことでポケモンたちの調整をしていたところだぞ?」
いつぞやのごとく、野生のダンデが現れたのである。
出会い頭にモンスターボールを投げてみたところ、普通にキャッチされてしまった。
うん、ボールに入ったら入ったで色々とヤバいからね。
「いや、どう見ても道に迷ってた感あったけどな?」
「ワイルドエリアからナックルシティに向かっていたはずなんだがな………。それでハチ、ここはどこなんだ?」
こいつ、意地でも道に迷ったとは認めそうにねぇぞ。
つか、目的地がナックルシティでワイルドエリアから来たって、どう考えてもナックルシティを通り過ぎてないか?
「スパイクタウンからナックルシティに向かう道の途中だ」
「スパイクタウン………」
おっと、ダンデの様子が………なんてこともなく、多分頭の中の地図と照らし合わせているのだろう。
…………流石にどこにどの街があるかはちゃんと頭の中の地図に載っているよな?
「ということはジム戦は終わったんだな?」
「まあ」
違った。
そもそも位置関係なんか全く考えてなかったやつだ。
それよりも俺がジム戦を終えてここにいるってことに気を向けてくるとか、どんだけバトルに飢えてるんだよ。
「なら、ネズに勝ったんだな」
「そうなるな」
こんなんだからバトルバカとか言われるんだぞ。しかもダンデの近辺にいる人物たちからは共通認識になってるからな。どんだけやらかしてんだよ。
「あいつ、強かっただろ?」
「強い………うん、まあ強かったと言えば強かったな。それ以上にあの暴露紹介に驚かされたわ」
「あー、あの気が昂ってる時にやらかす奴な」
「おかげで変に深読みして無駄だったじゃんってなったぞ」
「だろうな。子供たちにはあくタイプなのに優しいって言われてたりするんだが、深読みしちゃうとな………」
何それ。
子供たちからあくタイプなのに優しいって言われてんの?
あのネチネチしたバトルをしてくるシスコンが?
「けど、他のジムリーダーたちがダイマックスを切り札にしている中、一人だけダイマックスを使わず、それでいて七番目のジムを任されているんだから、相当の実力者なんだよな」
まあ、実力があるなは認めるけどな。
じゃなきゃ、他が使うダイマックスを唯一使わずにして七番目のジムリーダーなのだから、相当だろうと思う。
「ああ、なのに本人はバトルのセンスは妹の方が上だと口癖のように言っててな」
なんか俺にも言ってたような気がする。
けど、マリィってまだそんなバトル経験あるようには見えなかったんだけどな。
というかダンデにも妹の話が伝わっているのか。
「妹って、マリィのことか?」
「ん? 知ってるのか?」
「スパイクタウンに行く前に迷子になってたマリィを保護してな。スパイクタウンに家があるって言うから連れて帰ったんだよ。見返りにジムに案内してもらったら、実はジムリーダーの妹でしたってオチだったけどな」
まあ、おかけでジム戦にありつけたのだし、マリィには感謝してるぞ。
「ネズからよく妹自慢されてるから覚えてるぞ」
ただ、シスコンの兄によってチャンピオンにまで知られているのは同情しかないわ。かわいそうに。
「すげぇシスコンだったわ。ただ、気持ちは分かる」
「まあ、オレにも弟がいるからな………。オレもネズの気持ちが分からんでもないが、オレの場合はチャンピオンになってから実家に帰ってる余裕がなくて、ホップには寂しい思いをさせてると思うと、側にいられるネズが羨ましいとは思うぞ」
こいつ、弟いたのか。
ソニアからの話を聞く限り、手のかかる弟を姉のソニアが引っ張っていったって感じなのだが、実のところどうだったんだろうな。
俺としてはソニアの話が実話だと思っているが。だって、ダンデだし。
「お前、弟いたのかよ。ソニアによく面倒見てもらってたって話を聞いてるから、弟がいるとか想像出来ないわ」
「うっ………、それはまあ………昔の話ってことで忘れてくれ」
あ、ダンデも一応覚えてるのね。そして自分の中では黒歴史だと。
これは一つ、手札が降ってきたようなものだな。どこかでこの手札を使ってやることにしよう。
「ん、んん。ハチ、偶然とはいえ、ここで会えたのも何かの縁だ。この際だから、色々ハチに伝えておこうと思う」
恥ずかしかったのか咳払いをして強引に話題を変えてきた。
はいはい、と思ったけど、なんかそんないい話でもなさそうだ。
「………それ、聞いちゃったら面倒なことになったりしないか?」
だから一応聞く前に確認しておくことにする。
「それはお前の捉え方次第だろうな」
おい、それは一番判断に困る言い回しじゃねぇか。
ったく、仕方ない。聞くだけ聞いてやろうじゃないか。
「はぁ………んで? 何を言われるんだ?」
「まずマクワについてだ。お前も知ってるだろ? メロンさんとの親子喧嘩のこと」
「ああ、まあ、触り程度には?」
一応本人にも聞いたからな。
聞いて思ったのはメロンさんが自分の理想を無自覚で押し付けてしまうタイプなんじゃないだろうかってことだな。バトルした後にもマクワのことに言及していたし、その際の発言でもそんな節が見当たった。
「事の発端はメロンさんがマクワを自分の後継者にしようと計画したところからでな。その際にメロンさんはマクワに自分と同じこおりタイプのジムリーダーにしようとしたんだ。それをマクワが拒否をして売り言葉に買い言葉でマクワが俺を倒せたら、とまではいかないが、ファイナルトーナメント優勝が絶対条件となってしまってな。当初は可能性のある話ではあったりで、マクワ自身も乗り気だったんだ。リーグ委員会の方でもその二人の決め事をジムリーダー試験の一つとすることになったんだが、そこで一つ予想外の人物が出てきてな」
予想外の人物。
まあ、十中八九ーーー。
「ーーー俺か」
「ああ、オレの我儘でお前を誘ってしまったがために、マクワがファイナルトーナメントで優勝する可能性がほぼゼロになったという見方がされている」
確かに鎧島でバトルした時、うちの演出家の下、生身の身体の体で俺がバトルして勝ったからな。とはいえ、チート級な黒いのの力を使っているため、あれでマクワの実力を測れたかと言われる怪しいところだが、黒いのに鍛えれたサーナイトがいるからな。最悪メガシンカもあるし、今のところ負けるとは思えない。
となると。
「だから俺に辞退しろとでも?」
「いや? ここで仮面のハチに辞退されてしまっては、それこそ収益面で相当な落ち込みが見られることは間違いないって話だ。それくらい今のお前の存在はこのジムチャレンジにとって必要不可欠なものになっているのさ」
俺がジムチャレンジを辞退してしまえば、マクワがファイナルトーナメントに出られる可能性が高くなり、ファイナルトーナメントで優勝することだってあるだろう。
だが、どうやらその手は既に使えない段階にきているらしい。そこまで俺の人気は高まっていたのか。
となると次に考えられる手としてはアレか。
「んじゃ何か? マクワが勝てるように八百長でもしろと?」
「そうじゃない。恐らくお前はこのままキバナに勝って、セミファイナルに上がってくる。そこでマクワとバトルすることになれば、お前が勝つ可能性が高い。そうなるとマクワでも歯が立たなかったお前の結果次第でマクワの評価も変わってくるだろうと話が進められているんだ。だからそういう面でもお前にはファイナルトーナメントで優勝して、オレとバトルしてもらわなければならないのさ」
………………。
ニヤリじゃないんだよ。
何で俺がマクワのあれこれを背負わなければいけなくなってるんだ。
と言っても俺は普通にバトルしていればいいだけなのだが、なんか解せぬ。
「つまり、お前の中での規定路線に思惑が一つや二つ増えてくるってことか?」
「ああ、そういうことだ。変なプレッシャーをかけるようで気が引けるが、お前には知っておいて欲しかったんだ」
悪いと言いながら嬉しそうな顔をするのはやめい。
絶対それを提案したのはお前だろ。んで、それをローズ委員長が一考に値する案ですねぇ、とか言いながらほいほい決まっていったんじゃないだろうか。
「ただまあ、そもそもの話、マクワがハチ相手にどこまでやれるかって話なんだけどな」
そりゃそうだ。
俺の結果次第とはいえ、俺に対してどこまで抗えるかってところが根本的な評価点になってくるからな。そして相対的にダンデとの仮想評価にも繋がるわけだ。
「確かに。いくら俺がお前に勝ったとしても、俺にコテンパンにされているようでは、ダンデ相手でも同じで、もしかしたらジムリーダー………ジムリーダーでいいんだよな。ファイナルトーナメントのメンツって」
「ああ、近年はポプラさんが年齢を理由にファイナルトーナメントを辞退しているから自ずと他の七人と、セミファイナルの優勝者の八人でトーナメントをやることになっている。そしてファイナルトーナメントで優勝した奴がオレとバトル出来るってわけだ」
ああ、婆さんが辞退してたのか。
あの年齢で現役ジムリーダーってだけで凄いことだし、体力的に考えたら辞退も致し方ないと上も判断しているのだろう。
「しかもファイナルトーナメントでのジムリーダーたちはただの一トレーナーでしかない。だから素の実力を出してくるジムリーダーたちを相手に手こずっているようではチャンピオンはおろか、ジムリーダー試験にも響いてくるってわけさ」
素の実力ねぇ。
俺には既に経験があるような気がするのだが、気のせいだろうか………。
フルバトルではないにしろ、ルリナとのバトルからずっとジムリーダーたちは本気の面子を揃えていた気がするぞ。
特にカブさんなんか、ダルマモードのヒヒダルマを出してくるし。アレは三番目のジム戦の面子じゃねぇよ。
「………なんか、いつの間にか変なものをいくつも背負わされてる気分だわ」
「それについてはオレたちも申し訳ないと思っている。だが、協力して欲しい」
「あーあー、言わんでも分かってるよ。けどまあ、気にするってんなら、今度何か奢れ。それで手打ちにしてやる」
「恩に着る」
こればっかりは仕方ないのないことだからな。
俺は普通にバトルしていればいいだけなんだし、そこに思惑の一つや二つ裏で蠢いていたとしても知らぬ存ぜぬで通しておくべきなのだろう。というかその辺のことには深く関わりたくない。
「それともう一つ」
まだあるのかよ。
「………それも面倒事か?」
「いや、こっちのは思い出話みたいなものだ」
「思い出……思い出ねぇ………」
みたいなものという辺り、そうじゃない何かも含まれているってことか?
「………ハチはメジャーリーグとマイナーリーグがあるのは知ってるよな?」
「ああ、話には聞いてる」
「昔はそれこそ、毎年マイナーリーグで優勝者したジムリーダーが次の年のメジャーリーグに上がってきたくらい、あっちも人気だったんだが。ある時を境に人気がなくなっていってしまってな。今ではマイナーリーグのジムリーダーの成り手がいない状態なんだよ」
なんかそんな話は誰かから聞いたようなかはする。
けど、そうか。今はマイナーリーグの人気どころか成り手もいない状態なのか。言い換えればメジャーリーグの後継問題にも繋がると。
「…………つまり、将来的にメジャーリーグの後継者になり得る実力者がいないってことか」
「ああ。だからこそ、メロンさんも自分の後継者を今からでも育てていこうってことでマクワの話が上がってきたんだ」
なるほどな。それでマクワの話にも繋がるってわけか。
「…………あー、だからあの婆さんは後継者がどうたらこうたら言ってたんだな」
そりゃ、あの年齢でも現役を続けるしかないわな。
「ポプラさんのことか?」
「そうそう、あの魔女みたいな婆さん。ピンクが何たらって言ってたけど、最終的に失格だとよ」
「ははは、オレも言われた経験あるなー」
俺やダンデが後継者として失格と言われた辺り、あの婆さんの好みが多分に影響しているんだろうがな。
それでも後継者不足ってのは手痛い状況に変わりない。
「それで、だ。そのマイナーリーグの人気が落ちぶれ始めたのがな。カブさんがメジャーリーグに戻ってきてからなんだ」
「一時期マイナーリーグ落ちしてたんだっけか?」
「ああ、オレがチャンピオンになった翌年にな。オレはずっとカブさんに憧れてトレーナーを目指していたから、ようやく一緒にバトル出来る機会が出来たと思った矢先のことで、チャンピオンに成り立てのオレには結構ショックだったんだ」
ああ、その頃の話なんだ。
割と最近だったんだな。もっと昔の話だと思ってたわ。
「けど、数年後にカブさんはメジャーリーグに戻ってきてくれた。で、後から聞いた話なんだが、カブさんの成績が落ちていったのはそれまであの人のライバルとして君臨していたピオニーさんがチャンピオンになったと思ったら、すぐに辞めてしまってな。それから燃え尽き症候群というか、共に鎬を削っていくライバルがいなくなったことで負け込み出したんだとさ」
おい、まさかのアンタが原因かよ、おっさん。
「何やってんだ、あのおっさん。カブさんに迷惑かけてんじゃねぇよ」
「ただ、ここからはオレの予想だから本当のところは分からないんだが、実はピオニーさんとリーグ委員長のローズさんは兄弟だって話でな。ただ兄弟仲は悪く、ローズさんがリーグ委員長になったのが丁度ピオニーさんがチャンピオンになった直後で、だから恐らくはって感じだ」
「なるほど………」
……………あの二人、兄弟だったのか。だからローズ委員長を見て、どこかピオニーのおっさんに似ていると思ったんだな。俺の目は間違いじゃなかったってわけだ。
ピオニーのおっさんの口からは一言もローズ委員長の話は出てこなかったしな。兄貴がいるとかって話も本人の口からじゃなくてカブさんからだったかもしれないし。
というかカブさんもその辺りの事情を知っているから、今でも蟠りなくピオニーのおっさんと仲良くしてられるのだろうな。
「それで、マイナーリーグの人気が落ちていった理由とカブさんがメジャーに戻ってきたのとどういう関係があるんだよ」
「単純な話さ。マイナーリーグにスター選手がいなかった。当時、既にメジャーリーグにはオレや新人ジムリーダーとしてキバナ、ルリナが参加してきた頃だからな。二人はネットを通じて人気を上げていき、メジャーリーグの盛況に一役買っているんだ。それがマイナーリーグにはカブさんというスター選手を失ってしまい、全く無になってしまったんだよ」
「………だからそういう意味でも後継者を募っているってわけか」
こればっかりはどうしようもないな。
ただ、怖いのはジムチャレンジ後に俺にオファーが来そうってことか。絶対来るだろ。目を付けられてると思うし、俺が担当者だったら、絶対一声かけるぞ。
て、待て。まさかそれも見越してスポンサー契約を持ち込んできたとか?
あのやり手の二人なら大いにありそうで怖い。
「んで、そんな思い出話を俺に伝えてどうしたいんだ? まさかジムチャレンジが終わったら俺にもオファーがあるかもしれないから気をつけろとか、そういうことを言いたいだけじゃないんだろ?」
「そうだな………その………オレの思い過ごしならいいんだ。ただ………」
「何か嫌な予感がすると?」
「ああ」
何とも歯切れの悪い。という以前に、ダンデも自分で上手く説明出来ないくらいの微細な何かを感じ取ってのことなのかもしれない。
で、これまでの話をした上でってなると………。
「しかもこんな話をしたってことはカブさんかピオニーのおっさんか、あるいはローズ委員長か。まあ、プレイヤーのカブさんやピオニーのおっさんはそこまで汚い社会を知らないだろうし、となるとローズ委員長って言ったところだな」
「っ………!」
委員長の名を口にするとダンデの目が見開いた。
ビンゴか。
そもそもピオニーのおっさんとの接点ってダンデにあるかどうか分からないしな。それよりも接点の多い二人のうち、黒いに近い方となると、ローズ委員長しかないわけだ。
「そりゃ、あれだけの地位を手に入れた人だ。綺麗なままのし上がってきたわけではないだろうし、裏では汚いこともしているとは思うが」
「………それはオレも分かっているさ。だからオレの思い過ごしだと思う。すまん、忘れてくれ」
もしかしたらダンデの本能は優秀なのかもしれないが、今のところそういう証拠があるわけでもないし、何かが起きているわけでもないのだから、俺にも動きようがない。しかもこれだけでは壱号さんに伝えるって程の情報でもないから、現段階ではどうしようとないな。
ま、この話は頭の片隅にでも置いておこう。
それよりも何よりも。
俺にはこれから重大な任務が与えられそうなわけなんだわ。野生のダンデが現れてしまった以上。
「なあ、ダンデ。お前ナックルシティに向かってたんだよな?」
「ああ、そうだが?」
「目的は?」
「もちろんハチとキバナのバトルを観るだめだぞ」
「デスヨネー」
あの秘書さん辺りから俺がスパイクジムを攻略した話がいってそうだし、俺の最後のジム戦ともなれば、ダンデが観にきてもおかしくはない。
「今日はもう無理だし、明日か? 明日だよな?」
「何でそんなキラキラした目で見てくるんだよ、気持ち悪い」
くわっと身を乗り出して、キラキラした目で何か訴えてくるダンデ。非常に気持ち悪い。思わずビンタしちゃおうかと思ったね。流石に我慢したけど。
「明日行くつもりだけど……………まさか連れてけと?」
「ふっ」
「笑って誤魔化すな」
あーあ、思惑やら何やら色々聞かされたが一番面倒なのは、この方向音痴の迷子を無事に連れて行くことなんだよな。
目を離した隙にいなくなりそうで、子供よりも手のかかる大人って………。
やだやだ。