「あっ! やっと来やがったぜ!」
翌日。
道中ふらふら〜とどこかへ引き寄せられていきそうになるダンデのマントを引っ張りながら、どうにかナックルシティに辿り着き、そのまま受付を済ませてしまおうとナックルジムへ向かったところ、外でキバナが仁王立ちしていた。
「お、キバナじゃないか。スタジアムの前で何してるんだ?」
「お前を待ってたんだろうが! 昨日オリーブさんから連絡あって、ハチがネズを倒したらしいから急遽お前をこっちに向かわせたって。なのに、全然来やしねぇ!」
「いやー、連絡もらった時にはワイルドエリアにいたんだがなー。気付いたらナックルとスパイクの間くらいにいたぜ」
「ドヤ顔してんじゃねぇよ、この方向音痴! しかもどう考えてもナックルシティを通り越してんじゃねぇか!」
それな。
本当、こいつの方向音痴はユキノシタさん家のユキノさんより重症だと思う。
というか、何故こうも俺の周りにはあいつらに似たところのある奴らが集まるかね。ソニアはユイやイロハに似たものがあるし、ルリナの気の強くて負けず嫌いなところはユキノに似てるし。シャクヤはコマチ似かな。
あー、あと見た目だけはザイモクザなマクワとか? 多分、ザイモクザの方が重そうだし、性格は真反対だけど。
「で、タイミング的に考えて後ろにいるのはハチだよな?」
「残念ながらな。野生のダンデが現れた時はついボールを投げちまったわ」
「いっそ、ボールに入ってくれたら楽なんだけどな」
苦労しているのは俺だけじゃないようだ。
というか俺の方がポッと出なのだから、今更か。
「お前たち、酷くないか?」
「それだけお前の方向音痴が酷いんだよ!」
周りに迷惑かけている自覚がないのだから、余計にタチが悪い。
「んで? ここに来たってことはジム戦の申し込みってことでいいんだよな?」
「ああ、まあ」
「いつも通り夜でいいか?」
「チケットのこともあるだろうし、それで」
キバナはこれまでの俺のジム戦開始時間を把握しているようだ。
スパイクジム以外は全て十八時以降だったからな。それに今受付をしてすぐに始めるなんてことをすれば、チケット販売も出来なければ、買えたとしてもスタジアムに辿り着く前にジムミッションも含めてジム戦が終わってしまうだろう。
しかも八個目の、最後のバッジを掛けたバトルである。興行収入の目玉ともなり得るだろうし、盛り上げることも俺の仕事の一つとなっているのだから、夜までゆっくりしているとしよう。ゆっくり出来ればの話であるが…………。
「いやー、やっと次のチャレンジャーが来てくれたぜ」
「そんなに来てないのか?」
「今年は特にな。ハチでようやく四人目だぞ」
「それは…………」
少なすぎないか?
もう少しいてもいいと思うんだけど。
「例年はどれくらいなんだ?」
「少なくても二桁いくかくらいは来てるはず」
一体何があったというんだ。
「今年はカブさんが滅茶苦茶張り切ってるからなー。最初の難関で半分以上が脱落してるって話だぜ」
「あと、どうにかメロンママンに勝ったはいいが、スパイクタウンに行きたくない奴とか、行ったけどコテンパンにされた奴とかもいるらしい」
おい、カブさん。
何やってんの?
そんな張り切らなくていいでしょうに。
それにスパイクジムは懸念した通りのことが起きているみたいだし。
「ああ、そうだ。オレが送っておいた奴は届いてるか?」
「届いてるぞ。どうせアレもハチのユニフォーム関連なんだろ?」
「ああ、しかも今回は満を辞してのメインのお披露目だ」
やっぱり今回もあるのか。
しかもメインということはユニフォームそのものなのだろう。一体どういう魔改造がされてしまっているのやら。
「人をファッションモデル扱いするなよ」
「よーし、なら中で思いっきり笑ってやろうぜ」
「ハチ、早く着て見せてくれ」
あれよあれよ言う間に受付をさせられ、そのまま控え室へと連れて行かれてしまった。
* * *
案の定というか。
ダンデからの新たなユニフォームはそれはもうフッサフサだった。ガオガエンの毛皮を剥いでユニフォームに仕立て上げただろっていう出来栄えである。
これにガオガエンの覆面とグローブ、レギンスにスパイクを併せると、最早ガオガエンでしかない。いや、ガタイが良くないから弱々しいガオガエンの完成と言った方が正しいか。
それを見たダンデは目を輝かせ、キバナは大爆笑。ちゃっかりスマホロトムに写真を撮らせている始末。即時ポケッターに投稿され、チケット買ってねー、と呟いたらしいが、その後の反応がすぐに万に達したとか何とか。
そのチケットも投稿後数分後には完売。結局、チケット販売開始から十分くらいで売り切れたらしい。
しかもテレビ放映も決まったようで、控え室で半日過ごさせられている間に慌ただしいことになっていたんだとか。
で、ようやく十八時ちょい前となり、二人と別れてミッション会場へと向かったはずなのだが……………ここどこ?
「あの、ここは………?」
「はい? ああ、通常であれば、ジムミッションを行うためのフィールドは別に用意されていますよ。ただ、今回は特別にジムミッションも解放して直接見てもらおうということになったらしく、全てスタジアムのフィールドで行われます。ここはトレーナーポジションの後ろ側の真下ですね」
真下………。
そして見るからに昇降装置的な感じの上に立たされているという現状。
…………そういうこと? なのか?
俺にライブステージのような登場をしろと?
『それでは登場していただきましょう! チャレンジャー、仮面のハァァァチッッ!!』
「あ、時間のようですね。床が動きますから、気を付けて下さいね」
「いやいやいや、ちょ……」
ガコン!
俺の静止も虚しく、昇降装置が作動し、天井が開いた。
危険なのを察知して大人しく昇降装置に身を任せ、上昇していく。
『まずはジムミッションの内容から確認していきましょう。至ってシンプル。これから登場するジムトレーナーの三人とそれぞれダブルバトルをしてもらいます。ルールはこれまでと同じく公式戦に則ったもの。技の使用はジムトレーナーごとにリセットされるものとします。そして、今回のこの特殊なケースを見れば観客の皆さんもテレビの前の皆さんもお気付きかもしれませんが、無事にジムミッションをクリアした暁にはそのまま我らがジムリーダーとの連戦となります』
………はっ?
ダブルバトル?
しかも三連戦……いやバッジ取るには四連戦が必須ってか?
どこまで本来の形ねのかは知らねぇけど、少なくともミッションとジムバトルを同じフィールドでやることは今までなかったし、絶対俺だけに当てられたルールだよな?
急にダブルバトルってのも謎だし…………。
『さあ、一人目のジムトレーナーはこいつだ! カモン、リョウタ!!』
「キバナさんにいいところ見せるッスよ! ペリッパー、ヌメイル!」
まあいい。
とにかく勝つ。
どういう対戦方式を取ってこようが、こっちが全て勝てばいいだけの話。別にダブルバトルをしたことがないわけでもないし、普通にそれ以上を出して指示したりしてるんだし、特に何ら問題はない。
あとはポケモンたちの体力をどう温存していくかだ。
「ペーリッパァァァ!」
「ヌメェェェェッッ!」
最初の二体はペリッパーとヌメイルか。
「特性あめふらしか」
しかもペリッパーの特性はあめふらしときたか。
確かキバナはドラゴンタイプを専門してるっつー話なんだから、サーナイトとガオガエンは確定。あとはタイプ相性的にウルガモスは不利になるだろうから、キバナ戦には持ってこない方が良さそうだし、そうなるとジムトレーナーに当てるとすると相棒は………ーーー。
「ーーーウルガモス、ドラミドロ、よろしく」
キングドラと迷ったが、実力から考えるとドラミドロよりキングドラの方が強いわけだし、ウルガモスを活かすならドラミドロにサポートに回ってもらった方が得策かもしれない。
「ペリッパー、ハイドロポンプ! ヌメイル、りゅうのはどう!」
一見して相性は不利ではあるが、何の捻りもなければ躱すことは余裕である。
「ウルガモス、躱してぼうふう。ドラミドロ、とける」
ひょひょいと躱すウルガモスと身体を溶かして液体になるドラミドロ。
そのままウルガモスはペリッパーに向けて暴風を起こした。
雨が降っていれば必ず発生させられる技だからな。だから相性が不利でもそこまで焦ることはない。
「ドラミドロ、ペリッパーにかみなり。ウルガモス、ヌメイルにいとをはく」
続けて暴風に囲まれたペリッパーへ雷を落とす。これも雨が降っていれば必ず発生させられる技だ。
「リッパァァァ!?」
暴風で見えないが悲壮な叫び声が聞こえた辺り、ちゃんと当たったのだろう。
その間にウルガモスが白い糸を吐いてヌメイルを拘束していく。
「くっ、ヌメイル! だくりゅう!」
なるほど。
ヌメイルを含めてこの系統は雨が降っている状態下の方が力を発揮するドラゴンタイプである。
だから雨パってことでいいのだろう。
「ドラミドロ、みずのはどう。ウルガモス、その後にぼうふうだ」
ヌメイルが起こした濁流をドラミドロが自身に当たった瞬間に支配権を奪っていき、どんどん掻き集めていく。そして集めた側から撃ち出し、ヌメイルへと返している。
うん、お前いつの間にそんな器用なことが出来るようになっていたんだ。
あ、ウルガモスは飛んでいるから濁流は一切問題なかったぞ。
そのウルガモスも暴風を起こし、ペリッパーを呑み込んでいく。
「ドラミドロ、トドメだ。りゅうのはどう」
撃ち出すものを濁流から竜を模した波導に変え、身動きが取れなくなっているヌメイルへとぶつけた。
「ペリッパー、ヌメイル、戦闘不能! よって勝者、ハチ選手!」
雷に撃たれ、暴風に巻き込まれて目を回して地面に落ちているペリッパーと、白い糸のせいで身動き取れずにあっさりと竜を模した波導を受けてしまった気絶してしまったヌメイル。
審判の判定が下されて第一ミッションは終わった。
「くっ………キバナさん、申し訳ねぇッス」
『第一ミッション、クリアー!!』
ジムトレーナーの悔しそうな声に被せるように第一ミッションクリアが言い渡される。
『さあ、次はこいつだ! カモン、レナ!!』
「絶対倒してみせるんだから!」
交代で出てきたジムトレーナーは今度は女性らしい。
「キュウコン、バクガメス!」
「今度はひでりのキュウコンか」
キュウコンが出てきた途端に雨が上がり、日差しが強くなった。
二体ともほのおタイプを持ち合わせているのを見るに、今度は晴れパってことなのだろう。
ならば、ドラミドロの出番だな。
「ドラミドロ、あまごい。ウルガモス、直後にぼうふう」
雨雲を呼び寄せて強くなった日差しを覆い、雨を降らせる。
それを確認したウルガモスが暴風を起こし、バクガメスを巻き込んでいく。
「キュウコン、ドラミドロにねっさのだいち! バクガメス、ウルガモスにがんせきふうじ!」
キュウコンは前足で地面を叩き、バクガメスは暴風の中からウルガモスの頭上に岩々を作り出してくる。
「ウルガモス、ちょうのまいで躱せ。ドラミドロ、とけるからのキュウコンにだましうち」
それをウルガモスはひょいひょいと余裕そうに躱していき、ドラミドロは液体になってキュウコンへと近づいていく。
「バクガメス、トラップシェルでキュウコンを守って!」
バクガメスがキュウコンを守るようにこちらに背を向けた。
だが、そんな正面からバカ正直に狙う奴がどこにいるというのだろうか。しかもキュウコンを狙っているドラミドロは液体状になっているだから、どこからでも狙えるというのに。
「キュウ!?」
バクガメスの重たそうな身体に隠れてキュウコンの真下から元の姿に戻り、キュウコンを突き上げた。
「下から!?」
「ウルガモス、いとをはく。ドラミドロ、バクガメスにりゅうのはどう」
驚いて指示が疎かになっているのを無視して、追撃を仕掛けていく。
ウルガモスが宙を舞うキュウコンを白い糸で拘束し、ドラミドロがキュウコンに意識がいっているバクガメスの背後から頭に向けて、竜を模した波導を放った。
「ウルガモス、サイコキネシス」
さらにウルガモスが超念力でバクガメスが作り出した岩石を操り、キュウコンへと放つ。
「キュウコン、戦闘不能!」
トレーナーからの指示がないまま、身動きの取れないキュウコウは地面に叩きつけられ意識を手放した。
フレアドライブ辺りを使っていれば白い糸から抜け出せていただろうに。
「バクガメス、からをやぶる!」
さて、残りはバクガメスだなと思ったところでようやくあっちの指示が飛んできた。
何を仕掛けてくるのかね。
「りゅうせいぐん!」
バクガメスが流星を打ち上げると空で弾け、次々と流星が群を成して降ってくる。
まあでも、これくらいならウルガモスの相手じゃないな。
「ウルガモス、ぼうふう。ドラミドロ、りゅうのはどう」
ウルガモスが暴風を起こして流星を全て巻き取り、距離の近かったドラミドロがバクガメスに再度竜を模した波導を放った。
今度は顔面に当たったようで、そのまま背中から地面に倒れていく。
「バクガメス、戦闘不能! よって勝者、ハチ選手!」
「き、キバナさーん、ごめんなさーい………うぅ……」
うん、意外とこの二体の組み合わせも相性がいいのかもしれない。というかウルガモスは万能過ぎるだけか。ほのおタイプを活かす晴れパでも相性が悪そうな雨パの中でもこうして難なく攻撃に徹することが出来るのだから。あとは砂パと霰パに対してだが、最悪ウルガモス自身がにほんばれを使えばいいだけのこと。
相手からすると何とも恐ろしいポケモンである。
『第二ミッション、クリアーッ!!』
よし、これで第二ミッションもクリアだな。
三人を相手にするとか言っていたし、最後のミッションもさっさと終わらせることとしよう。
『三人目はこいつだぜ! カモン、ヒトミ!』
つか、さっきから思ってたけど、ジムトレーナーを呼ぶ時だけキバナの声になってるよな?
あいつ何してんの?
「いくよ、ユキノオー、ジャラランガ!」
「ノォォォォオオオオオオオオオオッ!!」
「ラァァァガ!」
雨パと晴パときて、三人目は砂パか霰パのどっちかだろうと予測していたが、霰パの方だったか。ユキノオーの特性ゆきふらしが発動して早速霰が降り始めた。
とはいえ、こおりタイプとドラゴンタイプを組み合わせるのってなんか不思議な光景だな。まあ、それもジャラランガの特性がぼうじんだからだろうが。
「ウルガモス、にほんばれ。ドラミドロ、とける」
「ユキノオー、ふぶき! ジャラランガ、スケイルノイズ!」
ウルガモスが雨雲を払い、日差しを強くするのと同時にユキノオーが吹雪を起こし、さらにそこへジャラランガの鱗が擦れるノイズ音が響き渡った。
間一髪というか、先に日差しが強くなったことで吹雪の範囲は狭くなり、威力も弱まったためかウルガモスは涼しい顔をしている。
ドラミドロはそもそも液体状になっているからか、全くの影響を受けておらず、相変わらずのチートっぷりを発揮していた。
「ドラミドロ、ジャラランガにじゃれつく。ウルガモスはユキノオーにほのおのまいだ」
そのままジャラランガの足元から元の姿に戻りながらジャラランガに執拗に体当たりしていき、ウルガモスも太陽の下、自身の周りに炎を踊らせ、次々とユキノオーに発射していく。
うん、エグい。
どちらとも超効果抜群な上に抵抗の「て」の字も出てこない程のやられっぷりである。ウルガモスは分かるとして、何故ドラミドロまで圧倒していらっしゃるのでしょうか。
「ユキノオー、戦闘不能!」
あれま、真っ先にユキノオーが倒れてしまった。
「くっ、なんて強さなの………。ジャラランガ、スケイルノイズ!」
「ウルガモス、いとをはくで拘束しろ」
恐らくだが、スケイルノイズ使っちゃうからドラミドロに圧倒されてるのではないだろうか。確かスケイルノイズって反動で防御力が下がったりしなかったっけ?
なんか何も対策されてない使われ方すると自分の知識が怪しくなってくるというね。不思議。
「トドメだ、ドラミドロ。じゃれつく」
うるさいので白い糸で全身拘束してしまうと「んーんー」と藻搔いている白い何かが出来上がった。
そこへドラミドロが突っ込んでいき、ボコボコにしていく。
一方的過ぎて、なんかこっちが悪者になったような気分である。
「ジャラランガ、戦闘不能! よって勝者、ハチ選手!」
「うぅ………強すぎます…………」
そのままジャラランガは気絶してしまい、俺の勝利となってしまった。
なんか三人目が一番歯応えなかったな。
相性の問題なんだろうけど、ダブルバトルで超効果抜群の弱点を持つポケモンを同時に出してくるのも考えものだわ。
『第三ミッションもクリアーッ!! さあ、次は本命! 我らがジムリーダー、キバナとのバトルです!! 四人目のセミファイナルトーナメント出場者になれるのか!!』
いよいよ最後のジムリーダーとのバトル、なのだが。
さっきまで喋ってた相手なんだよなぁ。しかもダンデと三人で。緊張感が全く湧いてこないけど、こんなんでいいのだろうか。