ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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101話

 現在夜の七時を回ったところでございます。

 私が立っている場所は、そう! 午前中と同じ場所でございます!

 …………何で一日に二度も同じ場所で待機することになるんだよ。人が少ないからってナイトゲームとか作るなよ。午前中にバトルした俺はバトルした六体をポケモンセンターに預けて、これ幸いと甘えてきたエンニュートとぐーたらしていたからいいとしても、午後の部でバトルして勝った奴が可哀想すぎるだろ。休む時間なんて殆どないんじゃねぇの?

 それこそ、バトルしたポケモンたちの回復も超特急で行われたことだろうし、トレーナー本人もどこまで気が休めたか分からない。それを負けた時の言い訳にしてくるとは思えないけど、世間的にそういう評価になったら最悪だからな?

 リーグ委員会との契約も破棄されるだろうし、即効ガラルがら出て行って、二度とガラルの地を踏もうなどとは思うまい。色々やりたいこともあったのだが、それも諦めるしかないのだろう。

 あー、やだやだ。

 そんなことにならないように相手も全回復していることを願っておこう。

 

『セミファイナルトーナメント決勝戦!! 日中に行われた勝者同士のファイナルトーナメント出場を賭けた最後のバトルが、今始まろうとしています!!』

 

 ナイトゲームだというのにスタジアムは満員っぽいし、外にもチケットが買えなかった奴らが巨大なモニターとかで観ているだろうから、素顔を晒していたら、おちおち外を歩くこともままならなかっただろう。

 そこだけはこの異様な格好にも感謝である。

 

『それでは登場していただきましょう! まずは午前の部で勝利したこの人! エースのガオガエンを筆頭にどのポケモンたちもそれぞれが強さを見せつけ、今大会最も頂きに近い実力を持つ挑戦者! 仮面のハチィィィッ!!』

 

 毎度俺の紹介でハードル上げてくるのは何なの?

 プレッシャーで俺を倒そうとかしてる?

 

『対するは、初心者トレーナーと言われてもおかしくないその背丈に何人が騙されたのか?! 仮面のハチと同じく白い仮面を付けて素顔を隠している謎の少年! 午後の部で勝利したサイレント・ボーイ、オニオンッ!!』

 

 センターサークルに向けて歩き出すと対面側からも白い仮面を付けた少年? 少女? が姿を現した。いや、サイレント・ボーイなんて言われてるんだから少年なのだろう。けど、あっちも白い仮面を付けていて素顔が分からないから少年か少女けの区別も付かないわ。

 ほんと、どっちも素顔を晒してない決勝戦って異様な光景だよな。

 

「えーっと……よろしく?」

 

 対面すると余計に身長差を感じる。

 多分、コマチよりも頭半分程は低いと思う。

 あいつもそんな背が高い方じゃない、というか割と低い方に属するのではないかと思うが、それよりも頭半分程くらい低いともなると、実年齢も本当に初心者トレーナーくらいなんじゃないかと思う。

 うん、それで普通にここまで勝ち上がってきたのだから、見た目に騙されてはいけないタイプってことだろう。

 そんな白い仮面の子はぺこりとお辞儀をして、黙ってそのままトレーナーポジションまで走り去ってしまった。

 …………なんか昔の俺みたいだな。俺の場合はどもって気持ち悪い反応しか出来なかったって感じだけど。

 そうか、敢えて喋らないというのも手だったのかもしれない。

 いや、それが罷り通るのも、どのジム戦も実況がいて流れを使ってくれているから出来ることか。これをカントーのジム戦とかでやっていたら、何がしたいのか分からない痛い子になっていた可能性がある。やれてリーグ大会とかだけだろう。

 とはいえ、こんな大勢の前でバトルしなきゃならないのは、苦痛だろうに。俺も今でも嫌になるし、一応お辞儀をしている辺り、それで許してくれって意思表示なのだと思っておこう。ぼっちは同胞には優しいのだ。まあ、ぼっち………って言うとユキノたちに文句を言われそうだけど、現状ある意味で俺はぼっちだからな。ぼっちで貫き通すぞ。

 

『ルールは日中と同様となっております! それでは、バトル始め!』

 

 俺がトレーナーポジションまで来るとそんなアナウンスが入り、早速バトルの火蓋が開けられた。

 

「ヤドラン、よろしく」

「ーーース」

 

 …………そうか。

 マイクにも音が入らないくらい声が小さいのか。

 何てこった。バトルの難易度が妙に上がってしまったぞ。相手の出してくる技も分からないし、後手に回りそうで怖い。

 サイレント・ボーイ。

 そんな通り名が付けられたのもこういうところからなのだろう。

 

「ぉーー」

「ねっとう」

 

 しかも初手からゴーストタイプを出してくるとか、何を仕掛けてくるのやら。ここまで勝ち上がってきたのに一体目からデスマスっていうのが余計に怖い。恐らくアレはガラル地方のリージョンフォームしたデスマスなのだろうけど、進化してないのがな…………。

 進化が全てとは言わないし、進化しなくても強いポケモンだっているが、だからこそこんなところにまで出てくる進化してないデスマスというのが怖いのだ。

 牽制の意味も込めて指示を出すと、早速ヤドランの特性クイックドロウが発動したのか、次の瞬間には熱湯で撃ち抜いていた。

 デスマスは何か技を出そうしたのは見えたが、熱湯に撃ち抜かれたことで技にすることも出来なかったようだ。

 

「ぉーー」

 

 ヤドランが距離を詰めるべく動き出すと再度試みたのか、火の玉がデスマスの周りに出来上がっていく。

 あれはおにびか?

 

「シェルブレードで弾け」

 

 おにびなら水の刃で叩き斬ってしまえばいい。

 次々と飛ばされてくる火の玉を左腕のシェルから伸ばした水の刃で落としていく。

 

「ーーん」

 

 するとデスマスが持っていた何かの破片? 的なものを地面に叩きつけると激しい揺れに襲われた。

 じしんかじならしか。その辺りの技だろう。

 

「サイコキネシスで浮いて躱せ」

 

 それならばとヤドランを超念力で自身を浮かび上がらせて回避させる。

 

「ーぇー」

 

 そのままデスマスを斬り付けにいくと、目の前で消えてしまった。

 ゴーストタイプ特有の消える能力だろう。

 ゴーストタイプのその性質上、姿を消すことが出来るからな。だからこそ、厄介極まりないタイプのポケモンなのだが、さらにじわじわと攻撃してくるタイプのポケモンが多いため、他のポケモンを相手にするより面倒なのだ。

 

「ぉーー」

 

 ヤドランがデスマスの姿を追おうと振り返ると、目の前にデスマスが現れ、火の玉を直接撃ち込まれてしまった。

 

「ーーーめ」

 

 さらに霊力でヤドランを祟るとヤドランは脱力して地面に落ちていった。

 警戒はしていたが、下手な強いポケモンよりも厄介である。しかもエスパータイプを持つヤドランにとってはゴーストタイプは自分の弱点タイプでもある。

 火傷にされてしまったことだし、長居は禁物だろう。

 

「ヤドラン、ねっとう」

 

 反撃を指示するとまたもやクイックドロウが発動したのか、デスマスが消える前に直撃し、撃ち落とすことに成功。

 

「シェルブレード」

 

 デスマスには悪いが攻撃する暇も与えず、右手のかいがらのすずからも水の刃を伸ばして斬り付けていき、トドメと言わんばかりに最後に大きく打ち上げた。

 

「みーーー」

 

 ドサッとデスマスの身体が地面に叩きつけられる直前、デスマスから黒いオーラが発せられるとヤドランを包み込み、次の瞬間にはヤドランが力なく倒れていた。

 

「デスマス、ヤドラン、ともに戦闘不能!」

 

 いやマジか。

 みちづれを使ってくるとは………。

 というか切り替えの早さに驚きだわ。

 みちづれを成功させるためには結構難しくて、戦闘不能になる直前に使わないといけないのだが、それをあの少年はしれっとやってのけたのだ。

 そりゃ、ここまで上がってくるわな。

 

『まさかまさかのみちづれだァァァアアアアアアアアアッ!! デスマス、最後はヤドランを道連れに両者戦闘不能!! 一体目からとんでもないバトルとなっております! 流石セミファイナルと言ったところでしょうかっ!!』

「ヤドラン、お疲れさん」

「デーーー、ーーっー」

 

 いやはや参ったね。

 完全にスタジアムの空気は少年の方に向いている。マクワでもこうはならなかったのだから、この少年の凄さは観客たちも分かっているのだろう。

 

「ウルガモス」

「ポッーーー」

 

 流れを変えるためにもウルガモスを出すと、あっちは急須を出してきた。

 急須のポケモン、ポットデス……とか言ったっけ?

 進化前が茶器のヤバチャ………だったと思う。茶器に取り憑いた感じの珍しいのもいるんだなーという感想を抱いたのを覚えている。

 確か、見た目は全く変わらないが、茶器や急須のどこかにある印が真作か贋作かの違いがあるんだったか。

 因みにこいつもゴーストタイプ。嫌な予感しかしない。

 

「ちょうのまい」

「かーーーーー」

 

 どう出てくるのか分からないため、ちょうのまいで能力を上げておこうと思ったら、あっちも急須の側を剥がしてきた。多分、からをやぶるで能力を上げてきたと思われる。

 

「ウルガモス、ほのおのまい」

「ーーンーッー」

 

 素早く攻撃される前に炎をポットデスに向けて踊らせると、何故か少年の方に戻っていき、シャンデラと霊力を絡ませていた。

 

「は………?」

 

 おいマジか。

 こいつもバトンタッチを使い回してくるっていうのかよ。

 しかもシャンデラに炎を吸収されたんだが?

 もらいびとかやめてくれよ。

 

「ーャンーー、ーぇー」

 

 さて、どうするか。

 ウルガモスではもらいびが厄介過ぎて技の選択肢が限られてくる。しかもゴースト・ほのおタイプなため、残り二つの技でシャンデラを倒しに行けるかは賭けなような気がする。

 

「ーぃーーー」

 

 ここは素直に下げておこう。

 

「ウルガモス、一旦交代だ」

 

 大の字の炎が届く前にウルガモスをボールへと戻し、次のボールへと手をかけた。

 

「キングドラ、あまごい」

 

 出てきたキングドラが早速雨雲を呼び寄せて雨を降らせ始める。

 無理にウルガモスで倒しにいくより、ほのおタイプの弱点を突いた方がよっぽど効果的だろう。

 

「ーャンーー、ぁーーぃーーー」

 

 シャンデラから鈍い光が発せられる。

 

「躱せ」

 

 効果は分からないが、受けていいものではないのは確かなので、特性すいすいが発動している今、何とか光から距離を取ることに成功した。

 

「ハイドロポンプ」

 

 そして光が治ったのを見計らいキングドラが近づくと水砲撃を撃たせた。

 ポットデスのからをやぶるで速くなったのをバトンタッチで引き継いでいるシャンデラでも、キングドラが背後に現れたのには一瞬反応が遅れ、振り向き様に水圧に飛ばされていく。

 

「ぼうふう」

 

 続けてシャンデラを暴風で呑み込んだ。

 ぐーるぐーるとシャンデラが回っているのが初めの方は見えていたのだが、次第に中に呑み込まれていき、それも見えなくなってしまった。

 

「ーャンーー、ーーぃ」

 

 何か聞こえたような気もするが、気づけば代わりにキングドラがガクンと崩れ落ちて脱力していた。

 

「キングドラ………大丈夫か?」

「ド、ドラ……!」

 

 戦闘不能になっていないところを見るとみちづれを使われたわけじゃなさそうだ。つまり、まだシャンデラは戦闘不能になっていない可能性が高いわけで、そうなると暴風が治ったタイミングって一気に仕掛けるべきだろう。

 ゴーストタイプ………脱力………のろい、とか?

 

「そうか。よし、暴風が止んだら一気に畳み掛けろ、ハイドロポンプだ」

「ドラ!」

 

 そう指示を出すとキングドラは暴風域へと突っ込んで行ってしまった。

 そしてキングドラの侵入と同時に暴風が止み、シャンデラが鎮座しているのが確認出来たのだが、どうやら途中から中央の目の部分に上手く投げ込めていたようだ。暴風に晒されたためか、身体の蒼い炎は弱くなっている。ダメージはしっかり蓄積されていたみたいだな。

 

「ーャーーーール」

 

 キングドラが上から水砲撃を放つと、シャンデラはそれを影の弾丸で軌道を逸らしてきた。

 

「ーぃーーー」

 

 それでも放ち続けるため、今度は大の字の炎で相殺し、水を蒸発させてくる。

 ただ、直後にキングドラがガクンと脱力して地面に落ちていった。先程と同じような感じで、連続で同じような効果がある技となると、やはりのろいとかなのだろう。

 

「クイックターン」

 

 しかし、何とか踏みとどまると落ちたことで角度が変わり、今度は水を纏って横から体当たりするとシャンデラを弾き飛ばし、その反動を活かして俺のところまで戻ってきた。

 

「シャンデラ、戦闘不能!」

 

 キングドラがボールに吸い込まれていくのと同時に判定が下された。

 よかった。

 からをやぶるを使っているのだったら、防御力は下がっているはずだからな。

 そこに効果抜群の雨補正も掛かった技を受ければ………と思ったのだが、上手くいったようだ。

 

『シャンデラ、戦闘不能ォォォ!! ポットデスのからをやぶるで上がった能力をバトンタッチで引き継いで、ウルガモスの炎を受け止めたのは見事でしたが、仮面のハチ選手の引き際の良さが功を奏し、キングドラの素早さに翻弄され続けていましたっ!!』

「ーャーーー、ーーっー」

 

 さて、次はどうするかな。

 雨も次期に上がるだろうし、もらいびを持ったポケモンはもういないだろうし…………いないよな?

 ここは仕切り直しでウルガモスに暴れてもらいますかね。

 

「ウルガモス」

「サーーーン」

 

 お、なんか白いポケモンが出てきたぞ。

 それにどことなくサニーゴ………ユイが捕まえた白いサニーゴに似ている気がする。

 となるとアレがガラルのサニーゴの進化形、サニゴーンか。

 サニーゴに比べるとデカく見えるな。

 

「ウルガモス、ぼうふう」

 

「ーーーーン、ぅーーーー」

 

 サニゴーンが霊力を伸ばして暴風の渦を受け止めた。

 ………受け止めた?

 

「ミーーーーー」

 

 おいマジか。

 あいつ、暴風を跳ね返してきたぞ。

 

「ちょうのまいで躱せ」

 

 まさかの出来事にちょっと反応が遅れた。

 だからだろう、ウルガモスの六枚羽の二枚に暴風に巻き上げられた塵が当たってしまった。

 

「ウルガモス、ほのおのまい」

 

 それでもまだ落ちなかったため、気を取り直してサニゴーンに向けて炎を踊らせる。

 雨が上がり、ようやく炎技が使える状況下になったから、そりゃもう存分にって感じで炎が活性化している。

 それに次は跳ね返されたとしても心構えはあるため、対処は出来るはずだ。

 

「サーーーン、ーぇー」

 

 ただ、厄介なことに消える能力も駆使してくるため、中々に捕えることが出来ない。

 

「ーーーーェム」

 

 そして、ウルガモスの背後に姿を現したサニゴーンは無数の岩の破片を操り、次々と飛ばしてきた。

 

「後ろだ、ほのおのまい」

 

 くるりと反転し、炎を踊らせて自分に向かってくる岩の破片を溶かしていく。

 元々はいわタイプを持つサニーゴだったのだ。それがリージョンフォームしてゴーストタイプになり進化したとしても、いわタイプの技が使えるのは変わらないらしい。

 何とも面倒なポケモンである。

 マクワはまだ直球なところがあったからよかったものの、ゴーストタイプは相変わらず相手にするのが疲れるな。

 

「いとをはくで拘束しろ」

 

 ダメ元で糸で拘束してみる。

 両手脚があるわけではないため、ウルガモスも自分と糸を切り離さずにしておくつもりらしい。

 

「連続でほのおのまい」

 

 そして次々とサニゴーンに向けて炎を踊らせていくと、消えて躱すことはなかった。

 

「もろーーずーー」

 

 それどころかサニゴーンが逃げられないように切り離さずにしておいた糸を一旦引き、ウルガモスが耐える力を使って突っ込んできた。

 

「ウルガモス、サニゴーン、ともに戦闘不能!」

 

 うん、流石に躱せないよな。

 拘束した糸を逆に利用してくるとは。

 機転といい、サニゴーン、恐るべし。

 ほんと、もう嫌。

 何でゴーストタイプって動きが予想しづらいんだよ。しかもこの少年、絶対ゴーストタイプ使いだろ。

 

『またしても両者ともに戦闘不能ォォォ!! 優勢であるはずのハチ選手にくらいつくように、最後にはオニオン選手のポケモンたちが相討ちにしています! このままハチ選手のポケモンたちを少しずつ倒し、最後には逆転してしまうのかっ!? それともハチ選手が逃げ切るのかっ?! 目が離せません!!』

「ウルガモス、お疲れさん」

「ーーって、ーーーーン」

 

 一応、残り手持ちの数だけで言えば、俺の方が優勢ではあるのだが、何が起こるのか分からないのがポケモンバトルである。

 最悪、サーナイトにメガシンカさせるという手もあるし、負けることはないとは思いたいが、こればかりはな…………。

 まあ、そのサーナイトにはもう出てもらおうと思うんだけどね。

 

「サーナイト」

「サナ!」

「ヨーーーー」

 

 サーナイトを出すと少年も次のポケモンを出してきた。

 また面倒なポケモンを…………。

 ヨノワールは耐久力が高い上に、妙に一撃が重かったりするからな。搦手と併せられると忽ちこちらが不利になることもある。

 

「サーナイト、まずはおにび」

 

 火の玉をヨノワールに向けて飛ばすとあっさりと命中してしまった。

 

「ーゃぃ………。ヨーーーー、ぁーーぃーーー」

 

 するとヨノワールの身体から鈍い光が発せられた。

 

「テレポート」

 

 テレポートで距離を取らせたことで難を逃れたが、ようやくあの光が何なのか検討がついたわ。

 恐らくあやしいひかりだ。光を長く見続けたり、意識が囚われてしまうと混乱してしまう嫌な光である。

 

「シャドーボール」

 

 こうなると危険なので、離れたところから影の弾丸を撃ち込むことにする。

 

「ーぇー」

 

 だが、そこはゴーストタイプ。攻防に余裕がある内は消えて躱してくるのはお手のもの。

 

「ーャーーーーチ」

 

 さらに怖いことに姿を消してからサーナイトの背後に回り込み姿を現すまでの時間が、他のポケモンたちよりも早かった。

 妙なところで変な技術を付けやがって。

 拳の形を影が伸びてきて、サーナイトを殴りつけてくる。

 

「ーぃーーぃーーー」

 

 そして、サーナイトが振り向いて反撃しようとすると既にそこにはおらず、再度背後に回って体当たりをしてきた。

 

「後ろだ、テレポートで躱せ」

 

 ギリギリのところでテレポートして躱すと、逆にサーナイトがヨノワールの背後を取った形となる。

 

「サーナイト、シャドーボール」

 

 そのまま影の弾丸を撃ち込むと頭から地面に落ちていった。

 

「テレポート」

 

 一旦ヨノワールから距離を取らせる。

 

「みらいよち」

「ヨーーーー、ーぇー」

 

 安全マージンを取った上で未来に攻撃を仕掛けるとヨノワールが起き上がって消えた。

 

「ーャーーーーチ」

 

 そしてすぐに目の前に現れて拳の形をした影に殴りつけられてしまう。

 いや、あの距離でも関係ないのか。それともシャドーパンチだからか?

 本当に妙な技術を付けているポケモンだな。

 

「サナ!?」

「ヨノワールを掴め」

 

 殴られながらも何とかヨノワールの腹に抱きついていく。

 

「シャドーボール」

 

 直接ヨノワールの身体に影の弾丸を撃ちつけると爆発が起きた。

 

「ーぇー」

 

 煙が晴れるとサーナイトに抱きつかれていたヨノワールの姿はなく、その背後の空間が歪んでいく。

 

「ーぃーーぃーーー」

「後ろだ、躱せ」

 

 それが見えたからか、忍び寄るヨノワールも捉えることも出来て指示が間に合った。

 

「シャドーボール」

 

 躱したついでに影の弾丸を撃ちつーーーッ!

 

「みーーー」

「外せ!」

 

 嫌な予感がして寸でのところで軌道を逸させ、命中させないようにした。

 何となくだが、みちづれを使ってきそうな予感がしたのだ。

 それが功を奏したのか、影の弾丸はヨノワールから逸れていき、黒い霊力が行き場を失い、代わりにヨノワールの頭上で空間が歪み、ヨノワールを撃ち抜いた。

 みらいよちがここで発動したらしい。

 そしてそれがトドメになったようで、ヨノワールは地面に落ちていき、そのまま動かなくなった。

 

「ヨノワール、戦闘不能!」

 

 審判の判定も下され、ようやく緊張の糸が解けた気分になってくる。

 

『ヨノワール、戦闘不能ォォォ!! 最後、みちづれを仕掛けたように見えましたが、ハチ選手の機転によりサーナイトはこれを回避! 逆にサーナイトが仕掛けていたみらいよちにより、ヨノワールが地面に伏す形となりましたっ!!』

「サーナイト、お疲れさん。交代な」

「サナ!」

「ーーーール、ーーっー」

 

 残りは二体。うち、一体はポットデスであり、バトンタッチ要因の色が強い。となるとメインはもう一体の方。

 よく見ればジムリーダーたちがしているリストバンドと同じものをしているようだし、恐らくはダイマックスを使ってくることだろう。

 幸いにもこの少年のパーティーはゴーストタイプに纏められているようだし、あくタイプを持つガオガエンに取っては悪くはない。ただ、油断は禁物だし、ゴーストタイプは他のタイプのポケモンたちとは勝手が違うため、警戒を怠ってはいけない。

 そのためにもサーナイトには休んでおいてもらわないとな。何かあった時にはサーナイトに頼らざるを得なくなるだろうし。

 

「いくぞ、ガオガエン」

「ーッーース」

 

 ガオガエンを出すと案の定、少年はポットデスを出してきた。

 今度は逃げられる前に倒してしまいたいところではあるが………。

 

「ーーーーーる」

「DDラリアット」

 

 ガオガエンが両腕を広げてぐるぐると回転しながらポットデスに向かっていく。

 ポットデスの急須の側が剥がれ落ちていき、それをガオガエンが弾き飛ばし、終いにはポットデスをも弾き飛ばした。

 するとさらに急須の側が剥がれ落ちていき、心なしか急須の艶がよくなっている気がする。

 ………あ、まさかからをやぶるからの特性くだけるよろいという二重構造だったり?

 それは聞いてない。

 

「ーーンーッー」

 

 案の定、ポットデスは少年の方に戻っていき、ゲンガーに霊力を渡していた。

 無駄に動きが速くなっており、阻止するのは無理だったのが悔やまれる。

 

「ゲーーー、ーーーく」

 

 気付けばガオガエンの足下に毒が発生しており、既にガオガエンの体内へと侵食していた。

 指示が聞こえない時の状態異常の技は躱しようがなくて困る。

 

「ゲーーー、キョダイマックス」

 

 ガオガエンが猛毒の回った身体に慣れようと呼吸を整えている内に、ゲンガーがみるみると巨大化し始めた。

 いつの間にボールに戻していたのやら。

 

「ゲーンゲロゲーッ!」

 

 まるでメガシンカしたオニゴーリのように口が大きく開いており、何かのアトラクションなのかと思ってしまうような、そんな姿をしていた。

 

「キョダイゲンエイ」

 

 巨大な机やら椅子やらが浮かび上がり、ガオガエンに向けて次々と飛ばされてくる。

 

「ニトロチャージで躱せ」

 

 何とか物と物との間を潜り抜けるように炎を纏いながら躱していくも、躱した先に急に現れた本棚に身体を打ち付けることになってしまった。

 

「ダイナックル」

 

 地面に着地したガオガエンの頭上から巨大な拳が落下してくる。

 毒の回った身体に無理させているというのに、呼吸を整える暇も与えられないとは…………容赦ないな。容赦ないが………攻めとしては合格だろう。

 

「まもる」

 

 何とかドーム型の防壁で巨大な拳を受け止めはしたものの、保って数秒だろう。

 それが分かっているのか、ガオガエンも転がりながら防壁の中から脱出してきた。

 それと同時に拳が防壁を躱し、地面に突き刺さる衝撃でガオガエンがこちらまで飛ばされてしまった。

 

「いくぞ、ガオガエン」

 

 準備しておいたZリングを見せると腕をクロスさせてからアクZのポーズを取っていく。

 次第ガオガエンの頭上には黒い球体が発生し、周囲にあるものを吸収し始めた。

 

「ダイナックル」

「ブラックホール・イクリプス」

 

 落下してくる巨大な拳もブラックホールに阻まれ、徐々に軌道がブラックホールへと向かっていき、やがて吸収されていった。

 よし、これでもうキョダイマックスタイムは終わりだろう。

 後はこれをゲンガーにぶち当てるだけである。

 

「ゲンガー、あの黒いのを吸い込んで」

 

 はっ?

 それっ! とガオガエンが投げつけた黒い球体をゲンガーは大きく開いた口で丸呑みにしてしまったではないか。しかもダメージを負った気配がない。

 そのままゲンガーは元の大きさに戻り始めたものの、これで何度目だろうか。この少年に驚かされるのは。

 全く以って恐ろしい限りである。

 

「ゲンガー、ベノムショック」

「ガオガエン、ニトロチャージで躱せ」

 

 元に戻ったゲンガーが毒を飛ばしてきたので、ガオガエンは荒い息のまま、炎を纏って躱しながらゲンガーに近づいていく。

 

「DDラリアット」

 

 その加速を活かして両腕を広げて回転し、ゲンガーを弾き飛ばした。

 

「ガゥ!?」

 

 だが、それと同時にDDラリアットのフォームが崩れ、違和感を覚えたガオガエンが再度DDラリアットを使おうとすると高速回転が出来なくなっていた。

 くっ、今度はのろわれボディの効果かよ。

 ゲンガーの特性は最近の研究でふゆうからのろわれボディなのではないかという結果が出されている。だが、今のこの時点ではまだ研究結果が公表されていないはずなので、少年もゲンガーの特性を勘違いしている可能性が高い。

 そして、その特性のろわれボディは直接受けた攻撃技を金縛り状態にしてしばらく使えなくする、というものである。

 ここに来てDDラリアットが使えなくなるのは痛いが、ゲンガーの特性を忘れていた俺が悪い。

 

「たたりめ」

 

 ニヤリと不適な笑みを浮かべたゲンガーが、ガオガエンの猛毒の回った身体を祟り、一気に脱力させてきた。

 ただし、その直後にメラメラとガオガエンの身体に熱が灯り、辛うじて意識を手放すことはなかった。

 

「ニトロチャージで弾き飛ばせ」

 

 特性もうかが発動したことでガオガエンは活力を取り戻し、お返しと言わんばかり炎を纏ってゲンガーを弾き飛ばしていく。

 そうは言っても、もうかが発動するということはガオガエンの体力も残り少ないということだし、毒も回っていることだから、以ってあと数十秒あればいい方かもしれない。

 ガオガエンもそれは分かっているのか、自ら足元に大きく炎を広げ始めた。

 その間にもゲンガーがフラフラと起き上がり、消えてしまった。

 

「こんな時にそれを使ってくるのか………」

 

 本当にゴーストタイプの相手は嫌になる。

 トドメを刺そうにも消えられては攻撃が届かない。ましてやこちらも時間的猶予は残り少ないため、時間稼ぎをされてしまってはこちらが不利でしかない。

 

「ゲンガー、きあいだま」

 

 それでもガオガエンは周りに意識を集中させながら、両脚に炎を集めている。

 そこへ、背後からぬっと現れたゲンガーがエネルギー弾を撃ち放ってきた。

 

「ブレイズキック」

 

 それをガオガエンは回し蹴りで弾き返し、地面を力強く踏むと一飛びでエネルギー弾を躱したゲンガーの元へ辿り着き、左脚で地面に叩きつけると、くるっと前転して右脚で踵落としを入れた。

 そのままガオガエンは大の字で地面に倒れ伏し、その右脚の下でゲンガーも気を失っていた。

 

「ガオガエン、ゲンガー、ともに戦闘不能!」

 

 相討ちの判定が下されたものの、どっと疲れを感じ始めてそれどころではない。

 というかだ。ゲンガーに驚かされて忘れるところだったが、まだポットデスが残ってるんだった…………。

 

『ガオガエン、ゲンガー、ともに戦闘不能ォォォ!! 両者エース対決となっていましたが、結果は相討ち! しかし! まだオニオン選手にはポットデスが残っています!! ここから巻き返しなるかっ?!』

「ガオガエン、お疲れさん」

「戻って、ゲンガー」

 

 雰囲気的にはバトルの決着がついたような感じなのを実況の方でも感じ取っているのだろう。

 ある意味、注意喚起も込めてコメントを出したように感じられた。

 さて、最後まで残ったポットデスを誰で倒しにいくかだな。

 ヤドラン、ウルガモス、ガオガエンは相討ちで倒されてしまったし、キングドラもサーナイトもダメージを受けているとなると…………つか、ドラミドロってまだ出ていなかったんだっけ?

 …………だましうちとか使えるんだから、意外とドラミドロでいけるかもしれないな。

 

「ドラミドロ、トリは任せた」

「ポットデス、いくよ」

 

 …………今気づいたけど、いつの間にか少年の声が聞き取れるようになっているのだが。

 まさかバトルに高揚していて、声が大きくなっているから聞き取れるようになったとか?

 それともマイクの調整がようやく終わったとかか?

 マイクの方は昼の時点で分かっていたことなのだから、最初から対処してないとおかしいし、可能性としては低いと思う。となるとやはり少年の声が大きくなったのが要因なのだろうな。

 

「ドラミドロ、だましうち」

「ポットデス、からをやぶる」

 

 ポットデスに近づいていったドラミドロがフェイントを加え、それに釣られたポットデスが急須の側を剥がし飛ばしてきたが、上手く躱して体当たりして弾き飛ばした。

 

「ねっとう」

 

 さらに追い討ちをかけて熱湯を浴びせる。

 急須に熱が溜まったのか、上手く火傷状態になってくれたようだ。

 

「サイコキネシス」

 

 だが、ポットデスもただやられているだけではなかったようで、火傷を堪えながら超念力でドラミドロを拘束してきた。

 さて、この場合あの技を使うとどういう感じになるのだろうな。試してみるか。

 

「とける」

 

 超念力で拘束したままドラミドロは身体を液体状に溶かしていく。

 うん、これは絞り落ちていくというか脱皮しているというか………。

 最早みがわりを使ってますと言われても不思議ではない動きを見せてくれた。やっぱりチートな技だな。

 

「シャドーボール」

 

 液体状になりきる前にポットデスが影の弾丸を撃ち放ってきたが、液体状になればなるほど躱すのは容易なようで、あっさりと躱してしまった。

 やべぇな、こいつ。

 

「ドラミドロ、だましうち」

 

 完全に液体状になると地を這いながらポットデスへと近づいていく。

 そして、ドラミドロの形をした液体状の偽物をポットデスの前に作り出すと、ポットデスはまんまとそちらに意識が向かってしまい、背後から元の姿に戻っていくドラミドロを見失っていた。

 そのまま思いっきり地面に叩きつけられ、危うく急須が割れるのではないかと思えてしまったのは、俺だけだろうか。

 

「トドメだ、りゅうのはどう」

 

 最後に真上から龍を模した波導を撃ち付け、地面へとめり込ませた。

 うん、まさかドラミドロがこんな一方的なバトルをするようになるとは。指示を出したトレーナーの俺が言うのもおかしな話ではあるが、こいつも着実にヤバい階段を登って行っているような気がする。

 多分、アレだ。全てはとけるというチートな技が悪い。

 

「ポットデス、戦闘不能! よって勝者、ハチ選手!」

『決まったァァァ!! 最後はハチ選手のドラミドロがとけるを駆使した攻撃でポットデスを地面にめり込ませました!! これを以ってセミファイナルトーナメントの優勝は仮面のハチに決まりだァァァアアアアアアアアアッ!!』

 

 審判の判定が下されると一気にスタジアム内は歓声に包まれた。実況の声も掻き消されるくらい観客が声を上げ、バトルした俺よりも喜んでいるように見える。

 とはいえ、まだセミファイナル。

 明日からはいよいよ本戦というかジムリーダーたちが出てくるファイナルトーナメント。

 例年ならここでジムリーダーたちの本気というか、メインパーティーを出してくるらしいのだが………俺とのジム戦って既にそういうメンバーを揃えていたんじゃなかったか?

 そりゃ、フルバトルとそうでないという違いはあるものの、他の挑戦者たちに出していたメンバーとは明らかに違ったはずだ。

 

「ドラミドロ、お疲れさん」

「ーッーーー、ぁーーーぅ」

 

 あ、もう少年の声が元に戻ってる。

 高揚が治ったのだろうか。

 

「ぁ、あり……がと……う、ござい……ました……」

「お、おう………」

 

 センターサークルに向かうと、少年はぺこりと頭を下げて行ってしまった。

 白い仮面で表情が分からないためどうとも言えないのだが、早く一人になりたいのだろうということにしておいた。

 何はともあれ、明日からいよいよファイナルトーナメントである。

 お願いだからネズとだけは当たらないで欲しいわ。

 

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