ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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今年最後の投稿になります。
今年もお付き合いいただきありがとうごさいました。今年はようやくジムチャレンジ編の終わりも見えてきて、来年からはいよいよPixivの方で投稿しているコマチ編の方に入れることかと思います。
来年も引き続き完結に向けて投稿していきますので、よろしくお願いします。
皆さん、よいお年を。


104話

『さあ、いよいよトーナメント戦も大詰め! 最後のバトル、決勝戦となります!! 今年はジムチャレンジの挑戦者たちの中でもセミファイナルトーナメントに出場した四人は特に印象的だったことでしょう! 中でもハチ選手はジムチャレンジが始まってから一ヶ月という期間を空けて、突如ターフスタジアムに現れ、次々とジムリーダーたちを攻略!! その実力はジム戦であろうとジムリーダーが本気を出さざるを得ないこととなり、一気に優勝候補として頭角を現しました!』

 

 夜。

 いよいよ決勝戦ということで、街中は活気付いていた。

 人が人を呼び、スタジアムの外ですら身動き取れなくなるんじゃないかって程だった。

 これで素顔を晒していたら今頃スタジアムに辿り着けていなかっただろう。ホテルからそう距離があるわけでもないのに、人混みで前に進めないんだからな。カロスにいた時ですら、ここまでのことにはなってなかったし、ミアレシティは特に広場が多かったから、余計にシュートシティは狭く感じられてしまう。

 

『そして今! そんな彼がファイナルトーナメントの決勝戦というこの場に出てくるのは偶然か必然か!』

 

 そして、決勝戦だからか前置きが長い。

 前置きで俺のジムチャレンジをさらっと振り返っちゃうんだから、まあ長いよな。

 

『そんな彼を待ち受けるのはこの人! 歳を重ねてもまだまだ熱く燃える、燃え盛っている男、カブ!! 一時はマイナー落ちまで経験したベテランは今年は優勝に王手をかけました! 勝ってチャンピオンに挑むのはどちらか!』

 

 決勝戦の相手はカブさんになった。

 それはもうホテルのロビーで分かったことだ。

 何せポスターが出来上がっていたからな。カブさんが勝利してから短い時間で作り上げたのだろう。

 全く以って力の入れ方が違う。恐ろしいまであるわ。

 

『それでは二人に入場してもらいましょう! 仮面のハチ、アーンド、炎のカブ!!』

 

 そんで、まあ。

 いよいよカブさんとのフルバトルということで。

 俺もいつもはやらないZワザのポーズの確認の動画を見てきた。

 ここまでほぼアクZばかり使ってきていて、他のZワザを使ってないからな。それに決勝戦なのだから、今までと違ったっていいだろう。何なら、パターンから外れた攻撃に頭を悩ませればいいのだ、あのバトルバカは。

 そんなことを考えながらセンターサークルへと向かうとカブさんが向かい側から小走りで出てきたところだった。

 

「いよいよだね」

「うす」

「君とフルバトルするのは初めてだけど、一対一、三対三を経て、これまでの四戦もちゃんと見せてもらったよ。ネズ君もキバナ君もそれまでのバトルで有効的だった戦法を急遽入れてきてたっていうのに、君のポケモンたちは相討ちにもっていくのがやっとって感じだった。強いのはサーナイト……やガオガエンだけじゃないっていうのは知ってたんだけどね。それでもやっぱり僕とバトルした頃よりも、うんと強くなっててびっくりしたよ」

 

 バシャーモとのメガシンカ対決にジム戦と、カブさんとバトルしたのはそう多くはないが、何となくキバナやネズよりもカブさんが強いんじゃないかと思われる。

 ベテランの経験に加えて、マイナー落ちというどん底を味わった上でメジャーに戻ってくるようなトレーナーだ。

 だからこそ、調子に乗ってくる前にカブさんのリズムを崩していかないといけない。

 

「そりゃどーも。俺もカブさんのことは一番警戒してましたよ。一度どん底を経験した上での這い上がってきたその実力は、ジム戦なんかじゃ味わえない。やっと本気のカブさんとフルバトルが出来るのかと思うと、結構楽しみですよ」

「よく言うよ。君は今回も本気は出してくれないのだろう?」

 

 本気、というのはメガシンカのことだろう。

 アレは一応ダンデとバトルするまではお預けってことにしてあるからな。カブさんも何となく察しているのか、そこまで本気で使って来させようって感じはしない。

 まあ、とはいえ負けてしまっては意味がないため、追い込まれれば予定が狂ったとしても使わざるを得ないだろう。そこまでいけばの話ではあるが。

 

「如何にして切り札を使わずにやれるか。バトルってそういうもんでしょう? 使わざるを得ない状況にまで追い込まれれば、俺だって使いますよ。でもそこまでいかないように策を用意してるんでね」

「おや? それは初公開の戦法かい?」

「そうっすね。カブさんが初体験者ってことになるでしょうね。何ならカブさんだからやっと使える手ってやつですよ」

 

 他のバトルで使えたとしたら、マクワ戦くらいだろうが、最初にドラミドロを相討ちで持っていかれてしまって、使うことが出来なかったからな。全てはツボツボのせいってことにしておこう。

 

「それは楽しみにしておくよ。でも僕にもベテランの意地っていうのがあるからね。そう簡単には崩させないし、優勝してこんなおじさんでも強くなれるっていうところを見せるつもりだよ」

「いつまでも貪欲ですね。なら俺も、ここまで来たんだからもう一戦くらいやるためにも本気で勝ちにいくとしますかね」

 

 二人でフフフッと不適な笑みを浮かべた後、それぞれトレーナーポジションへと移動することにした。

 何だろうな、キバナやネズが相手だと面倒臭さの方が上回るのに、カブさん相手だとそれがなく、ちょっと楽しみな気持ちが強くなっている。

 

「それでは! バトル、始め!」

「いくよ、キュウコン!」

「ガオガエン」

 

 セミファイナルからドラミドロ、ヤドラン、サーナイト、キングドラと毎回違うポケモンを最初に出していたので、ここまで来たら全員最初に出すことにしようと至っただけである。そしてダンデ相手に最初からガオガエンを出すのはなー………ということで、度肝を抜くためにもここでガオガエンに先発してもらうこととした。

 

「コォォォォンンンッッ!!」

 

 キュウコンが雄叫びを上げると雲が割れ日差しが強くなっていく。

 

「ガオガエン!? 最初に?!」

『な、なんとハチ選手!? エースのガオガエンを最初に投入してきたァァァ!!』

 

 バトルが始めれば、あまり俺たちに聞こえるような実況はしないのに、流石の実況も我慢ならなかったようだ。

 まあ、おかげで観客の度肝を抜くことは出来てそうなので良しとしよう。

 あとはカブさんがこれを受けてどう出てくるかである。

 

「ガオガエン、ニトロチャージ」

「キュウコン、でんこうせっか!」

 

 まずは炎を纏って加速して接近していくと、あちらも高速で距離を詰めてきた。

 ゴチンッ! と頭同士がぶつかり合うとキュウコンの方を弾き飛ばしてしまった。

 

「じしん」

 

 さらに追い討ちをかけるように着地の瞬間を狙って地面を揺らしていく。

 

「キュウ!?」

 

 揺れで着地のバランスを崩したキュウコンは地面に倒れ、激しい揺れに悪戦苦闘している。

 

「キュウコン、一旦交代だよ。………ウインディ、ガオガエンを倒しにいくよ!」

 

 堪らずカブさんはキュウコンを交代させることにしたようだ。

 ポケモンたちにも得手不得手はある。キュウコンは元来接近戦を得意とするポケモンではないため、ガオガエンに詰められてしまうと中々難しいところがあるのだろう。得意とするおにびもほのおタイプのガオガエンには効果がない。ともすればさっさと交代させた方が良断だ。

 

「ウォォォォンンンッッ!!」

 

 キュウコンに代わって出てきたウインディは雄叫びを上げながら威嚇してきた。

 ガオガエンの攻撃力も下げるための交代でもあったということか。

 

「しんそく!」

「ニトロチャージ」

 

 そしてキュウコンよりも断然速い動きで、炎を纏ったガオガエンに急接近してきて、今度はガオガエンが弾かれることとなってしまった。

 攻撃力が落ち、さらに素早さで押し返されたってところか。

 まあ、これで一旦は役割終了だ。

 最後になるまで休んでてもらうとしよう。

 

「ガオガエン、交代だ」

 

 俺はガオガエンをボールに戻して、交代でキングドラを出した。

 

「キングドラ、あまごい」

 

 キュウコンの特性ひでりにより強くなった日差しを、雨雲を呼び寄せて掻き消していくのと同時に雨を降らせていく。

 これでほのおタイプの技の威力も落ちて、逆にみずタイプの技の威力が上がり、さらにキングドラの特性すいすいも発動する。一石二鳥どころか一石四鳥である。

 本当に技を使うタイミングとは大事だと思うわ。

 

「ウインディ、しんそく!」

 

 ウインディが再度目にも止まらぬ速さで接近してくる。

 

「そのままじゃれつく!」

「躱してなみのり」

 

 じゃれつくなんていうけれど、全然戯れじゃないんだよなー。最早ボコボコにしようとしてくる技だからな。

 まあ、今のキングドラならひらりと躱して、ウインディの背後に回ると大きな波を作り出して襲うことも可能なのだが。

 だからしんそくが脅威にはならないのだよ。

 

「しんそくで駆け抜けて!」

 

 タタンとステップを踏んで方向を変えたウインディが再三に渡って急接近してくる。

 ユイのウインディもであるが、空を駆けたりすることも出来る種族だからか、波の上を駆け抜けることだって平気なようだ。

 さて、そろそろ頃合いかな。

 

「じゃれつく!」

「キングドラ、クイックターン」

 

 ずっとやってみようと思っていたが、中々やる機会のなかった戦法。

 水を纏ったキングドラが一直線に接近してきたウインディの首に突撃し、弾いた反動で俺の持つボールへと戻っていく。

 

「ドラミドロ、クイックターン」

 

 そして、交代で出したドラミドロにも同じ技を指示し、出てきたドラミドロが水を纏って、ブルブルして身体の水気を落としているウインディの首に再度突撃していった。

 

「なっ!? 二体連続?!」

 

 弾いた反動でドラミドロも戻ってきてボールへと吸い込まれていく。

 

「キングドラ、なみのり」

 

 そして再びキングドラを出すと、今度は大きな波を発生させてウインディを呑み込んでいった。

 

「くっ……、ウインディ、もえつきる!」

 

 交代しようにも時間がなかったのか、襲いくる大波に対して、ありったけの炎を放出させて、ウインディの周りだけを蒸発させてしまった。

 まあ、あのまま呑み込まれてくれるならそれでいいし、対処してくることも考えてはいるため、問題はない。問題はないのだが、雨が降る中での家事現場って近くではこんな感じのことになっているのだろうか。

 

「キングドラ、クイックターン」

 

 水蒸気が発生する中、キングドラは既に水を纏ってウインディに接近していた。次の指示を既に理解しているとか流石だわ。

 

「ウインディ、げきりん!」

 

 ウインディも最後の足掻きのように暴れ始めた。

 が、それをおくびにもしないキングドラが冷静にウインディの首を狙って弾き飛ばし、その反動で俺の持つボールへと戻っていった。

 

「ウインディ、戦闘不能!」

 

 それと同時に審判の判定が下された。

 

『ウインディ、戦闘不能ォォォ!! 先制したのはハチ選手! 最初のガオガエンの登場から会場は度肝を抜かれ動揺が隠せませんでしたが、それすらも布石だったのでしょうかっ!? 続くキングドラとドラミドロによる連続クイックターンがウインディを翻弄し、見事ウインディを撃破しましたっ!!』

「ごめんよ、トレーナーの僕が翻弄されちゃった。ゆっくり休んでね」

 

 出だしは上々と言ったところか。

 だが、油断しているとすぐに巻き返されてしまうだろう。

 カブさんには調子に乗らせないこと。それが鉄則だろうからな。ペースを渡すことなく最後まで持っていかなければ………。

 

「ドラミドロ、もう一度だ」

「キュウコン、もう一度お願い!」

 

 ………あれま、再登板同士になってしまったか。

 タイプ相性としてはこちらが有利だがーーー。

 

「コォォォォンンンッッ!!」

 

 再び雲が掻き分けられ、日差しが強くなっていく。

 フィールドをキュウコン有利に変えられてしまうと話は変わってくる。

 

「どくびし」

「キュウコン、ねっさのだいち!」

 

 フィールドに効果をもたらされたのなら、こちらもダメージ覚悟で仕掛けを施しておこう。

 毒菱をばら撒くと地面からエネルギーが噴出してきて、ドラミドロを取り囲んで襲った。

 得意な遠隔攻撃でしかもドラミドロには効果抜群のじめんタイプの技ではあるが、これ一発で戦闘不能になることはないだろう。それよりもここで勢いをつかせてしまった方が怖い。日差しの強い状況下での炎技が飛んでくる前に一手を打たなければ。

 

「とける」

 

 まずは身体を液体状にしてキュウコンへと近づいていく。

 

「どこから来るか分からないよ。気をつけて!」

「クイックターン」

 

 そして、キュウコンの足元から伸びた影部分から飛び出して、水を纏ったまま突撃していった。

 

「コォン!?」

 

 キュウコンは左の客席の方へと飛んでいき、ドラミドロは攻撃の反動で俺の持つボールへと吸い込まれた。

 日差しが強い上にドラミドロも物理攻撃が得意なポケモンではないため、ガオガエンが与えたダメージがあるとはいえ、キュウコンは戦闘不能にまでには至っていない。

 

「大丈夫! 出てきた瞬間を狙うよ!」

 

 そしてカブさんはまたクイックターンを連続で使ってくると考えているのだろう。

 だが、一度見せれば学習され、対策をすぐに構築されることくらいは折り込み済みである。

 

「ウルガモス」

「ソーラービーム!」

 

 ウルガモスを出すとキュウコンが太陽光を集めた光線を発射してきた。

 むし・ほのおタイプを持つウルガモスには効果はいまひとつであり、出会い頭に撃たれてもピンピンしている。

 

「ウルガモス………!?」

 

 やっとウルガモスを認識したカブさんは予想が外れたことに驚いているようだ。

 その隙にこちらも動くとしよう。

 

「いとをはくでキュウコンを拘束しろ」

 

 まずは白い糸を顔も含めて身体中に巻きつけて拘束していく。

 

「拘束されたくらいではキュウコンは止まらないよ! フレアドライブ!」

 

 手っ取り早く炎を纏って糸を燃やしてくるのは想定済み。何ならそうするように仕向けたまである。

 これまでのパターンであれば、拘束している間に能力を高めていくのが基本パターンとなっていたが、ガオガエン、ドラミドロとダメージを与えている今、そんなまどろっこしいことはしない。

 

「はかいこうせん」

 

 一撃で屠るのみ。

 禍々しい光線で炎を纏って白い糸を燃やしているキュウコンを撃ち抜いた。

 スタジアム内が一瞬、静寂に包まれ皆が皆息が止まったように感じられ、それが余計に度肝を抜いたのだと物語っている。

 

「………キ、キュウコン、戦闘不能!」

 

 その静寂を打ち破ったのは意外にも審判だった。

 仕事をしないと、という使命に駆られ、いち早く復帰出来たのだろうか。

 まあ、何にせよ審判による判定が下された。

 これで二体目。

 

『ぁ……き、キュウコン、戦闘不能ォォォ!! またしてもキングドラとドラミドロによるクイックターンの連続攻撃が始まるのかという我々の予想と期待を裏切り、ウルガモスに交代してソーラービームを受けるといとをはくで拘束し、ちょうのまいで能力を上げてくるのかという予想も裏切り、はかいこうせんの一撃でキュウコンを倒してしまいました!! 私も今口にしてようやく状況が整理出来たというところです!! 仮面のハチ、ここに来てまだまだ強くなるというのか?! いや、そもそも彼の実力は一体どれ程のものなのかっ?! 未だに測り知ることが出来ません!!』

「ウルガモス、交代だ」

「………やられたね。読んだと思ったけれど、裏をかかれちゃったよ。キュウコン、ゆっくりお休み」

 

 うぉぉぉっ!! とスタジアム内が一気に湧き上がっていくが、カブさんだけは苦笑いを浮かべている。

 さて、カブさんの次のポケモンは恐らくどくタイプを持つエンニュートだろう。他にどくタイプを持つポケモンがいれば話は別だが、多分エンニュートだろうと思っている。

 なので、こちらの出すポケモンも既に決まっている。

 

「いくよ、エンニュート! 毒菱を吸収ーー」

「ヤドラン、サイコキネシスでエンニュートを弾き飛ばせ」

 

 予想通り、エンニュートが出てきたと同時に毒菱を吸収しようとするも、遅れて出てきたヤドランが超念力でエンニュートをカブさんの後ろの壁に激突させた。

 出てくるポケモンが読めていると先手を打つのも楽である。

 

「出すポケモンまで誘導されてたか……」

「もう一度サイコキネシスだ。今度は引きつけろ」

 

 立ち上がるエンニュートを超念力でこちらに引き寄せていく。

 これで毒菱を吸収仕切るのに時間稼ぎが出来ていることだろう。

 エンニュートを出して目的の一つはフィールドにばら撒いた毒菱の吸収だ。こうそくスピンとかを覚えているポケモンがいれば、それで弾き飛ばすことも可能ではあるが、そのポケモンがどくやはがねタイプでなければ毒状態になってしまう。それならどくタイプのポケモンに吸収させた方が被害が最小限に抑えられるわけで、俺はそこを利用して繰り出すポケモンを誘導したわけだ。

 とはいえ、そこの期待を裏切ってくる可能性もあったわけで、その場合はその時に考えるつもりであった。

 

「エンニュート、そのまま身を任せてほのおのムチだよ!」

「そこは耐えろよ、ヤドラン」

 

 とはいえ、何もせずただ攻撃されているような人ではない。

 今この時においてもどういう攻撃が出来るか考えられる人だ。

 だからヤドランにはこの一撃には耐えてもらわなければならないのが心苦しいところではある。

 エンニュートが近づくにつれて炎で出来た鞭をしならせてヤドランに鞭打ちしてきた。

 それでもヤドランは次の一手のために頬を打たれようが身体を打たれようが耐えてくれている。

 

「ワイドフォース」

 

 そしてエンニュートが目の前に迫ると急停止させ、ヤドランがエンニュートの頭を小突いた。するとエンニュートの身体に一気に衝撃波が走っていき、やがてスタジアムを包み込んでいった。

 

「まだまだァ! シャドークロー!」

「ヤン!?」

 

 だが、ただ弾き飛ばされるエンニュートではなく、着地ギリギリのところで身体を捻り、爪を地面に突き刺して、ヤドランの陰から影で出来た爪を伸ばして突き上げてきた。

 これには俺もヤドランも反応出来ず、ベテランの意地を見せられた気分である。

 しかも何故かヤドランが苦しみ出しているし。

 

「どうやら成功したみたいだね。どくタイプだから毒状態にはならない、なんて考えは甘いよ!」

 

 ヤドランが毒状態?

 どくタイプには毒が効かない。だが、現にヤドランには効いている。

 

「ふしょくか」

 

 そういえばエンニュートの特性にはふしょくとか言ったのがあったはず。言葉通りなら腐食ーーつまり金属なりを溶かす性質なのだが、事ポケモンの特性となるとはがねタイプだけでなく、どくタイプにまで毒状態にすることが出来るという名前からは読み取れない効果があるのだ。

 いやほんと、エンジンジムでヤトウモリが進化してエンニュートになり、そのまま俺のポケモンになったから詳しく調べたものの、仲間にしてなかったらピンと来なかったかもしれないわ。

 ついでに言えば、俺のエンニュートの特性は未だに分からない。分からないけども、多分どんかんではないと思う。俺に対して妙に好き好きオーラを出してくるんだぞ。これでどんかんだったらどんかんとはなんぞや? って感じである。

 

「そう! 僕はファイナルトーナメントではエンニュートに隙あらば毒を仕込むように指示してあるんだ。そのために技を一つ使わないようにしているしね。でもこれでヤドラン君は猛毒状態だ。ここから巻き返させてもらうよ!」

 

 猛毒………つまりどくどくを使ったってことか。

 だが、丁度日差しが弱まったところだ。

 時間がないのは確かだが、ほのおのムチの威力もさっきよりは落ちることだし、さっさとエンニュートを倒すとしよう。ヤドランの役割を終わらせて休ませないと。

 

「ほのおのムチ!」

「シェルブレード」

 

 炎で出来た鞭で距離を取りながら攻撃してくるところを、ヤドランが水の刃で弾いて走り込んでいく。

 

「エンニュート、シャドークロー!」

「サイコキネシスで浮いて躱せっ」

 

 エンニュートも近づけさせまいと必死だ。

 だが、シャドークローがあるとなれば、折角のサイコキネシスを使わない手はない。

 ヤドランには自身を超念力で浮かせて躱させると宙に浮いたまま大波を発生させるように指示を出した。

 

「なみのり」

「ほのおのムチで拘束するんだ!」

 

 エンニュートは炎で出来た鞭をヤドランに巻きつけると襲いかかってくる大波の中を鞭を頼りにヤドランの方へと距離を詰めてきた。

 ヤドランを支柱として流されないようにした上に、そのまま攻撃するために近づいてくる戦法ってわけか。そして最後に高威力の技が飛んでくるというところだろう。

 

「エンニュート、ありったけのをいくよ! オーバーヒート!」

「サイコキネシス」

 

 今度はこっちが近づけさせないように超念力でエンニュートの動きを止めるハメとなった。

 そのエンニュートは身体から高温の炎を迸らせて、ヤドランを呑み込もうとしていたようだ。

 

「シェルブレードでヴォーパル・ストライク」

 

 危機を回避したヤドランは左腕のシェルと右手のかいがらのすずの両方から伸ばした水の刃を重ねて、一気にエンニュートととの距離を詰めて突き飛ばした。

 

「エンニュート、戦闘不能!」

 

 ズドンと地面に着弾したエンニュートに審判が近寄っていき、判定を下した。

 

『エンニュート、戦闘不能ォォォ!! 高度な読み合いの応酬を制したのはハチ選手です! いやはや強い! その一言に尽きます!!』

「エンニュート、お疲れ様。最初のサイコキネシスで時間を稼がれて、余分な手数を入れなくちゃならなくなったのが痛かったね。それがなければ、日差しが強い内にもう少しダメージが与えられた気がするよ。不甲斐ないトレーナーでごめんね」

「お疲れさん。あとは他の奴らに任せて休んでな」

「ヤン」

 

 お互いにポケモンたちをボールに戻していく。

 

「あっという間に残り半分にされちゃったね」

「言ったでしょ? これでもカブさんのことは一番警戒してたって。最初から度肝を抜くくらいじゃないと隙を見せてはくれないだろうし、戦法もドラミドロが成長したらやってみたかったこととか、ずっと使わないでいたものを出してますよ」

「それは光栄と思った方がいいのかな?」

「そうっすね。そう捉えてもらっていいですよ。これがメロンさん相手だったら、ただただウルガモスが暴れ回っていそうですしね。ここまでのはカブさんにだけです」

 

 ほのおタイプだからっていうのもあるけどな。

 けど、メロンさんが相手だったらクイックターンでの連続攻撃はやってなかったと思う。というかキングドラにしろドラミドロにしろドラゴンタイプを持っているため、相手するポケモンを選ぶことになる。キングドラに至ってはフリーズドライも警戒しなきゃだから、中々出すこともなかったのではないかと思われる。

 それにマジでウルガモスが蹂躙しそうな気がするしな。ドラゴンタイプたち抜きで勝っている可能性だってあったことだろう。

 だからカブさんだからこそ使える戦法ってことには変わりないということになる。

 さて、無くなった方の未来のことは考えることをやめにして、後半戦といこうか。

 

「それはいいね。それじゃ、続きといこうか。いくよ、ヒヒダルマ!」

「ウルガモス、もう一度だ」

 

 四体目のポケモンはやはりガラルのヒヒダルマだったか。

 そろそろ出てくるんじゃないかと思ってウルガモスにしたが、どうやら正解だったみたいだ。

 一見こおりタイプでしかないのだが、カブさんのヒヒダルマは特性がダルマモードとなっており、体力が減るとフォルムチェンジして炎の雪だるまとなる。攻撃力や素早さが上がるため、後半はさらにパワーアップし、ついでにほのおタイプも追加されるので、炎技が効果抜群ではなくなってしまうというジレンマが生まれる。

 だから何か仕掛けを施しておきたいところだが、ドラミドロがばら撒いた毒菱はもうない。ヤドランが猛毒を盛られた後の会話中に、エンニュートに全て吸収されてしまっている。

 あの会話も毒菱を吸収してしまうための時間稼ぎでもあったのかと思うと一本取られた気分だ。

 まあ、そうでなくては張り合いがないのも確か。

 後半にかけて調子付かせないように気をつけないと。

 

「本当に読みが上手いね。ヒヒダルマ、いわなだれ!」

「ちょうのまいで躱して、いとをはくでヒヒダルマを拘束しろ」

 

 ウルガモスの頭上から次々と降り注いでくる岩々をひらりひらりと躱していき、余裕が生まれたところで白い糸でガラルのヒヒダルマを拘束していった。

 雪のように白い身体に白い糸はここまで見えにくくなるもんなんだな。

 

「さっきも見せたと思うけどね! ヒヒダルマ、フレアドライブ! そのまま突っ込んで!」

 

 キュウコンの時にもすぐに対処しただろ? と言いたいのだろうが、生憎これも対処するために炎を纏う技を一つ使うという誘導だ。技の使用個数が決まっている以上、あらかじめ使ってくる技が分かっていれば対処のしようがある。

 

「ほのおのまい」

 

 炎を纏って突っ込んでくるヒヒダルマに、炎を踊らさせて次々とぶつけて、纏う炎を霧散させていく。

 

「ヒヒダルマ、サイコキネシス! ウルガモスを引き寄せて!」

 

 黒い煙を上げながらヒヒダルマが目を光らせた。

 するとウルガモスの身体がヒヒダルマの方へと引き寄せられていく。

 さっきヤドランがエンニュートに初手でやったことを応用してきたのだろう。

 

「取り入れるのが早いっすね。ほのおのまい」

「フレアドライブ!」

 

 こちらもタダで引き寄せられるつもりはなく炎を踊らせていくと、今度はヒヒダルマの方からも突っ込んできた。

 これには対処が間に合わず、突き飛ばされてしまった。

 とはいえ、ヒヒダルマもダメージがゼロというわけでもなく、ちゃんと踊らせた炎のダメージを受けている。捨て身のように突っ込んできたから当然と言えば当然か。

 

「ヒヒィ………?!」

 

 するとヒヒダルマが顔が赤く腫れていて苦しみ出した。

 おっと、これはまさかとは思うが火傷状態か?

 

「………突き飛ばした時にウルガモス君の特性を発動させちゃったようだね」

 

 ウルガモスの特性はほのおのからだだ。

 接触してきた相手を火傷状態にする特性なのだが、発動するところを見たのは物凄く久しぶりである。

 そもそもちょうのまいで攻撃を躱していくのを基本スタイルとしているため、特に物理攻撃を受けることなんて中々なかったのだから仕方ないと言えば仕方ない。

 まあ、珍しいものを目にしたとでも思っておこう。

 

「ほのおのまい」

「サイコキネシスで軌道を逸らして!」

 

 飛ばされたところからヒヒダルマに向けて炎を踊らせると、距離があるためか超念力で軌道を逸らしてきた。

 

「ちょうのまい」

 

 その間に舞いながら距離を詰めていく。

 

「ヒヒダルマ、いわなだれ!」

 

 ウルガモスの頭上からは次々と岩々が降り注いでくるが、素早さが上がっているウルガモスは余裕で躱している。

 

「いとをはくで岩をヒヒダルマに投げつけてやれ」

 

 そこまで余裕ならばと、白い糸で岩を巻きつけさせ、それをヒヒダルマへと投げつけさせることにした。

 

「そういう手も使ってきちゃうのか。ヒヒダルマ、サイコキネシスで軌道を逸らして!」

「ほのおのまい」

 

 ヒヒダルマが目を光らせて超念力で岩の軌道を逸らし始めるが、そこへ炎も踊らせると途端に対処し切れなくなったのか、次々と岩にぶつかっていった。

 そこで炎の軌道操作を優先する辺り、ヒヒダルマ自身も何が自分にとってダメージが大きくなるのか判断出来る賢さがあるのだろう。

 流石カブさんのポケモンだ。

 

「今のは対処仕切れなかったよ。でもそれを見越しての攻撃なんだよね。本当に面白い! それじゃ、第二ラウンドといこうか!」

 

 するとヒヒダルマが光り出し、姿を変えていく。

 いよいよこの時が来てしまったようだ。

 

「来たか、ダルマモード」

 

 燃え盛る炎の雪だるまへと姿を変えたヒヒダルマは………火傷状態のままなんだな。

 これはまた珍しい光景だな。ほのおタイプなのに火傷状態って。まあ、後天的にほのおタイプを得た弊害とも言えよう。

 

「巻き返すよ! ヒヒダルマ、いわなだれ!」

「ちょうのまいで躱せ」

 

 でも流石は燃え盛る雪だるまである。

 落下してくる岩々の数も落下してくるスピードも段違いになっている。

 これまでにちょうのまいを使って素早さが上がっているから何とか躱しているものの、最初からこの速度であれば、横槍を入れられた時点で岩々に呑み込まれていることだろう。

 

「サイコキネシスでウルガモスの位置を操作するんだ」

 

 するとヒヒダルマが目を光らせて、岩々を躱すウルガモスの動きを一瞬止めてきた。

 ひらりひらりと躱すリズムが崩れ、落下してくる岩の軌道の真下に来てしまい、躱しようがない状況にされてしまう。

 

「ウルガモス、いとをはくでヒヒダルマも巻き込め」

 

 落下してくる岩に打ち付けられながらも、ヒヒダルマを白い糸で拘束し引き寄せて、ヒヒダルマも一緒に岩々の雪崩に巻き込まれていった。

 

「くっ、やるね………。だけど、勝つのは僕だ! ストーンエッジ!」

「はかいこうせん」

 

 お互いに地面に転がってしまい、起き上がり様に地面を叩くヒヒダルマと禍々しい光線を放つウルガモス。

 だが、幾度となくちょうのまいを乱発してきたんだ。

 地面から突き出してくる岩々諸共、ウルガモスが破壊してしまうのも当然であろう。

 撃ち抜かれたヒヒダルマはそのままカブさんの後ろの壁に激突した。

 丁度エンニュートが打ち付けられたところと左右対象って感じである。

 

「ヒヒダルマ、戦闘不能!」

 

 審判が様子を確認をすると判定を下した。

 

『ヒヒダルマ、戦闘不能ォォォ!! カブ選手、ハチ選手の戦法を取り入れたりとウルガモスを追い込んだものの、やはり最後の最後、はかいこうせんによって全てをひっくり返されてしまいましたっ!!』

「お疲れ様、ヒヒダルマ。ゆっくり休んでね」

「ウルガモス、お疲れさん。交代だ」

「モス」

 

 お互いにポケモンたちをボールに戻すとカブさんが深い溜め息を吐いた。

 

「中々焦ったい気分だよ。あと一歩が及ばない。追い詰めたポケモンたちも交代させてもう出さないつもりでしょ? そっちにはサーナイト君もガオガエン君もいるからね。無理をさせる必要もないとくれば、本当に焦ったい気分だ」

 

 そう言われても戦闘不能にしないようにしようと思うと、なるべくダメージを受けたポケモンは再登板しないようになってしまうでしょうに。

 

「やっぱり出す順番が狂わされたのが大きいのかもね。でも、次に出すこの子はバシャーモの次に付き合いが長いんだ。その破壊力は抜群でね。いくよ、コータス!」

「サーナイト、よろしく」

「コォォォォスッ!!」

 

 キバナに続いてカブさんも連れていたのか。

 コータスは着地と同時に雄叫びを上げて日差しを強くしていく。

 

「コータス、ふんか!」

 

 そして背中の甲羅からマグマの塊を大量に噴火させてきた。

 日差しが強い中でのふんかとか、そりゃ破壊力は抜群だわ。

 

「テレポートで躱せ」

 

 それをサーナイトがテレポートで躱していくものの、数が多いし一つ一つが大きい。そのため逃げる隙間も狭く、逃げ道がコータスの周りだけのようになっている。

 ただ、そこへ逃げれば再度コータスが放ってくるであろうふんかに巻き込まれるだろう。

 ふんか一つでここまでの攻撃になるとは………。

 

「サーナイト、コータスのところまでテレポートだ」

「サナ!」

 

 仕方なくコータスのところへとテレポートさせることにした。

 恐らくふんかを再び使ってくるだろうが、こちらにもやりようはある。

 

「コータス、もう一度ふんか!」

「サイコキネシスでコータスをひっくり返せ」

 

 超念力でコータスの身体をひっくり返すと地面に向けて噴火することになり、その勢いでコータスが打ち上げられていった。

 ただし、地面にはマグマが広がっていき、とても立てるようなフィールドではない。というかカブさんは大丈夫なのだろうか。

 

「テレポートで戻ってこい」

 

 俺の周りには被害がないため、サーナイトをこちらに戻す。

 

「ジャイロボール!」

 

 その間にコータスがジャイロ回転しながら降ってきた。

 

「かみなりパンチで叩き落とせ」

 

 それを電気を纏った拳で地面に叩きつける。

 

「ふんか!」

「サナッ?!」

 

 するとその直後に甲羅から噴火してサーナイトを巻き込んでいった。

 てか、俺の近くで噴火しないでもらえるかな。

 めちゃくちゃ近くにマグマが飛び散っていくんですけど!?

 多分、俺自身には当たらないと思う。黒いのもいるし、いざとなったら黒いオーラで守ってくれるだろうから、そこは心配していない。していないがこうも近くに落ちてくると怖いものは怖いのだ。

 

「麻痺しちゃったか。でも、それくらいで根を上げる僕たちじゃないよ! コータス、ふんか!」

 

 四度に渡ってふんかを使ってきた。

 だが、一撃目よりは規模も威力も下がっているように思われる。恐らくダメージを与えたことでの威力低下だろう。ふんかは内なるエネルギーを大放出する技だからな。体力がなくなってくるのに比例して威力も下がる、そういう技である。

 

「サーナイト、テレポートで躱せ」

「ジャイロボール!」

 

 日差しが弱まるとそのままジャイロ回転で接近してきた。

 

「そのままヘドロばくだん!」

「テレポートで躱せ」

 

 そしてヘドロを撒き散らしてくるという鬼畜の所業。回転していることで四方八方に飛び散り、サーナイトの逃げるコースがランダムなってしまっている。

 というかこっちにまで飛んできてるんですけど!?

 コータスがこんなサーナイト絶対倒すマンになってくるとは………。

 

「サイコキネシス」

 

 このままでは俺まで被害に遭いそうなので、黒いのの力を見せなくていいようにコータスを超念力で吹き飛ばすことにした。

 お前はそっちのマグマの方に行ってなさい。

 

「コータス、ふんか!」

 

 それでも起き上がったコータスはまたしても甲羅から噴火した。

 威力は下がっているとはいえ、当たればダメージにはなるし、何よりマグマが降ってくるのだ。そんなものをサーナイトに二度も浴びせるわけにはいかない。

 

「テレポートで詰めろ」

 

 安全圏となるコータスの目の前にテレポートさせる。

 

「ヘドロばくだん」

「かみなりパンチ」

 

 そしてコータスが口を開けてヘドロを飛ばそうとしたところを、電気を纏った拳で殴りつけた。

 動作は早かったのに痺れでなのかそこからは続かなかったように見えたが………そもそもコータスの動きってあんなに早かったか?

 考えてもすぐに答えが出るわけでもないので頭の片隅に追いやると、追い討ちをかけるべく次の指示を出した。

 

「トドメだ。サイコキネシス」

 

 トドメに超念力でコータスをカブさんの後ろの壁に激突させた。

 

「くっ、コータス、にほんばれ!」

 

 壁から地面に落ちる前に、最後の力を振り絞って日差しを強くしてくるとは………。

 それにしてもカブさんの後ろの壁が凄いことになってるな。

 これ、最後のマルヤクデも壁に打ち付けないといけないパターンか?

 

「コータス、戦闘不能!」

 

 審判の判定が下されて、これでカブさんの残りは一体のみとなった。

 

『コータス、戦闘不能ォォォ!! これでカブ選手のポケモンは残り一体! 対するハチ選手の残りはまだ六体と誰も欠けておりません!! このまま完勝してしまうのか?! それともカブ選手がベテランの意地を見せつけてくるのか!? 目が離せません!!』

「コータス、お疲れ様。最後までありがとうね。………いやー、悔しいね。サーナイトには大ダメージを与えたと思ったんだけど、やっぱり一撃で倒せない限りは落とすのが難しい」

 

 コータスをボールに戻すとカブさんが天を仰ぎ見る。

 正直、キバナのコータスの何倍も強かったように思う。同じポケモンでも戦闘スタイルや役割が変われば、こうも違ってくるのかと見せつけられたような気分だ。いい勉強になった。

 というか、だ。キバナに天候操作の使い方を教えたのってカブさんだったりしないか? 天候操作自体はソニアがきっかけだったとしても、それを実際に使うとなると分からないことがあり、それをカブさんが教えたからキバナもコータスを連れている、とか。

 有り得ない話ではないと思うが、まあ終わってから聞くとしよう。

 

「おや? サーナイト君は交代させないのかい?」

「ガオガエンがやりやすいように場を整える必要があるんでね」

「そう。何を企んでいるのかは分からないけれど、そう簡単に僕たちを倒せると思わないことだね! いくよ、マルヤクデ! ねっさのだいち!」

 

 さて、ガオガエンに交代する前にサーナイトには最後の役割を果たしてもらうとしよう。

 

「テレポート」

 

 その場からテレポートで移動するとサーナイトが立っていた地面からエネルギーが噴出してきた。

 まずはねっさのだいち。

 

「はいよるいちげき!」

 

 そしてサーナイトがテレポートを使ってくることを読んでいたらしく、マルヤクデが既にサーナイトの背後へと這い寄っていた。

 はいよるいちげき、ね。

 

「サナ!?」

 

 流石にこれは避けられず、地面に叩きつけられてしまった。

 

「スキルスワップ」

 

 それでも当初の目的通り、サイコパワーでマルヤクデと特性を交換していく。

 カブさんのマルヤクデの特性はもらいびだからな。ガオガエンのブレイズキックやニトロチャージを無効化されては困るため、その準備としてサーナイトには最後の仕事が残っていたのだ。

 

「そのまま詰めて! フレアドライブ!」

 

 よし、フレアドライブも出たな。

 となると残りはねっとう辺りを使ってくることだろう。

 ねっさのだいち、はいよるいちげき、フレアドライブ、ねっとう。

 サーナイトとバトルしていてもガオガエンを意識しているのが分かる技の選択である。

 

「サーナイト、交代だ。技は分かった」

 

 炎を纏ってマルヤクデが突っ込んできたので、すかさずサーナイトをボールへと戻した。

 

「なるほど、マルヤクデの特性をもらいびから変えるのと同時に、ガオガエン君のためにマルヤクデの技を調べてたってわけか。情報があるのとないのとでは使う技も変わってくるからね。流石だよ、ハチ君」

「そりゃどーも。最後だガオガエン」

 

 ガオガエンを出すと今度はカブさんがマルヤクデをボールに戻していく。

 

「僕も君とバトルして学んだよ。時には度肝を抜くことも大事だとね。さあ、ガラルを焦がすほのおとなれ! マルヤクデ! キョダイマックス!」

 

 そして、右手首のリストバンドからエネルギーが注がれ、巨大化したボールをフィールドへと投げ入れた。

 出てきたマルヤクデは龍蛇の如き姿へと変わっていく。

 

「目指すは頂点ただ一つ! 烈火の如く勝ち上がるよ! キョダイヒャッカ!」

 

 長い物には巻かれろとか巻かれるなとかよく言うが、あの熱そうなのに巻かれたら火傷するよな、絶対に。というか死ぬ可能性が高いわ。

 巻かれる相手もキチンと選ばなければ身を滅ぼすということだな。

 うん、超どうでもいいわ。

 

「ニトロチャージで動き回れ」

 

 炎を纏って加速して躱していくものの、巨大な炎の渦の前に逃げ場はなく、そのまま呑み込まれてしまった。

 

「ダイストリーム!」

「まもる」

 

 そこへ、炎の渦を貫いて巨大な水砲撃が直撃した。

 次は防壁をと考えていたため間に合ったが、それでも水圧に押されて防壁を破壊されてしまい、ガオガエンが俺の後ろの壁へと打ち付けられてしまった。飛び散った水はフィールドに広がるマグマを冷やしていき、ゴツゴツした岩場へと変化させていく。

 ついでに雨も降り始め、お互いの炎技の威力を下げて、他の技で勝負しようという魂胆だろう。

 だが、まだ一撃ある。

 

「ガオガエン」

 

 俺は立ち上がるガオガエンにZリングを見せて、恐らく一回試し撃ちした程度のジメンZのポーズを取っていく。

 これ恥ずかしいんだよ。アクZとかは比較的まだ許容出来る範囲内だが、ジメンZはくるっと回ってどこぞの特戦隊のような決めポーズになるんだぞ。

 今の俺、めちゃくちゃ顔が赤くなってると思うわ。覆面しててマジでよかった。

 

「ダイアース!」

「ライジングランドオーバー」

 

 そしてマルヤクデが地面に尻尾を叩きつける直前、空間が歪みマルヤクデを撃ち抜いた。みらいよちが発動したらしい。そのおかげでダイアースの軌道が逸れて、ガオガエンが起こした地割れによって掻き消されていった。

 何というか運良く相殺出来たって感じだ。

 やっぱりブラックホールイクリプスの方が扱いやすいような気がする。

 ダイマックスエネルギーが霧散していき、マルヤクデの姿が元に戻っていく。

 

「ニトロチャージ」

「マルヤクデ、ねっとう! 近づけさせないで!」

 

 その間に炎を纏ってマルヤクデへと接近させると、マルヤクデが円を描くようにねっとうを吐いて熱気の壁を作り出した。

 とはいえ、ガオガエンもほのおタイプなため、熱気には耐性があるので、直撃しない限りは強引に突破していった。

 

「ブレイズキック」

 

 そしてマルヤクデの懐に入り込むと炎を纏った右脚で回し蹴りを入れて、マルヤクデの身体を倒していく。

 

「まだまだ! 連続でねっとう!」

 

 倒れながらも次々とねっとうを吐いてくるマルヤクデ。

 

「ニトロチャージ」

 

 ガオガエンは再び炎を纏ってその場を離脱すると、大きく旋回してマルヤクデの背後へと回り込んでいった。

 

「はいよるいちげき!」

 

 だが、カブさんもそれを読んでいたのか、マルヤクデが身体をぐりんと回し突進してくる。

 

「まもる」

 

 まあ、俺もそう来ることもあるかと思っていたので、驚くことはない。

 しっかりと防壁を張らせて守らせると再び距離を詰めさせた。

 ここで雨も上がり、ようやく状況が整った。あとは僅かな時間を用意するだけ。

 

「くっ………、読まれたね」

「じしん」

 

 地面を踏みつけて揺らし、マルヤクデのバランスを崩していく。

 それと同時に地面に炎を広げて、それを右脚へと凝縮していった。ガオガエン自身もここだというのが分かってきたみたいだな。

 

「最後だ、ガオガエン。ブレイズキック」

「マルヤクデ、ありったけのねっとう!」

 

 何とか踏み止まったマルヤクデがこれまで以上の水圧でねっとうを放出してきたが、躱しながらそのままガオガエンは突っ込んでいき、左脚でジャンプすると軌道を上向きへと変えてきた熱湯の中を右脚を突き出して下降していく。

 

「フレアドライブ!」

 

 ねっとうでは止められないと判断したカブさんは、マルヤクデに炎を纏わせて突撃させてきた。

 あっちも雨が上がったことで炎技の解禁というわけか。

 そのままズドンッ! と両者がぶつかり合うと爆発が起き、黒煙が二体を包み込んでいく。

 

「ガオガエン、マルヤクデ、ともに戦闘不能! よって勝者、ハチ選手!!」

『決まったァァァッッ!! 今年のファイナルトーナメントの優勝者は仮面のハチだァァァッ!! 終始ベテランのカブ選手を圧倒し、最後は相討ちで優勝を掴み取りました! ジムチャレンジのチャレンジャーがファイナルトーナメントを制するのは何年ぶりのことでしょうか!? その快挙を今、この目で見られていることを、すごく光栄に思っております!!』

 

 ふぅ、完勝とはならなかったか。

 でもカブさん相手に最後に相討ちだけで済んだのは上出来だと思う。

 コータスにじばくを使われなかったのも大きいな。

 けど、次はいよいよダンデとのバトルだ。明日は今日みたいにはいかないだろうし、連続クイックターンもダンデなら対策してくるだろうから比重は置けない。

 

「お疲れさん、ゆっくり休んでくれ」

「マルヤクデ、お疲れ様。強かったね、ほんと」

『そして明日はいよいよチャンピオンとのクライマックスバトル! この勢いのまま、チャンピオン交代が実現するのかっ!?』

 

 それはない。

 もしダンデに勝ったとしてもチャンピオンを辞退することになるだろう。というかもうそういう立場は懲り懲りだ。

 俺は元来、表に出ない立場が性に合っているし、出たら出たで面倒な事件しか起きなかったんだ。だからもう俺は裏の方でひっそりとやっていこうと決めている。

 そもそも今の俺がチャンピオンになったら、本来の時間軸に戻るってなった時にどうなるか分からないのだ。

 下手に縛られる立場を請け負うのはリスクが大き過ぎる。今の国際警察のいるかいないかっていうくらいの立場が一番動きやすいんじゃなかろうか。それもいつまでの話か分からないのだし、やっぱりひっそりとしているのが一番だろう。

 

「いや、参ったね。決勝戦で完勝に近いことをされるなんて思ってもみなかったよ」

 

 センターサークルに向かうとカブさんがやれやれって感じの苦笑いを浮かべていた。

 

「キバナやネズとやるよりは手強かったですよ。ただ、やっぱり俺の最初のポケモンもほのおタイプなんでね。馴染みがある分、読めてしまうっていうのはありましたね」

「そっかー………それは何というか相性がいいんだか悪いんだか、だね」

「それでもやっぱりカブさんとのバトルが一番楽しめましたよ。というか明日のバトルが一番気が重い………」

 

 今から既に明日のことを考えたくない。

 

「ははは………、まあダンデ君だからね。それよりファイナルトーナメントを優勝したわけだけど、その辺は特にないの?」

「ないですね。あくまでも俺はダンデが俺とバトルしたいっていうから出場しただけですし、逆に本当にバトルすることになってサボりたいくらいですよ」

「そんなこと言えるの、ハチ君だけだろうね」

 

 そうは言われても優勝したことよりもまだ明日があるのだから、勝った気分にもなれないし、そんなもんじゃないだろうか。

 

「カブさんが優勝した時はどうだったんですか?」

「うーん…………言われてみるとチャンピオンとのバトルがあるから、あんまり喜んでもいられなかったかもね」

「でしょうよ。そんなもんですって」

「まあ何にせよ、明日頑張ってね。君とダンデ君の最強同士の熱いバトル、期待しているよ」

「最後にプレッシャーのかかるようなこと言わんで下さい」

 

 全く………熱いバトルとか、ダンデが聞いたら張り切るだろうが。そうなったら、絶対スタジアムがぶっ壊れると思うわ。

 

「ああ、そうそう。コータスに何か持たせてました?」

「ん? ああ、せんせいのツメだよ。動きが遅いとふんかを使うのに不便だからね」

「ああ、そういうことか」

 

 妙に動きが早く感じられたのは、せんせいのツメを持っていたからか。それなら納得だわ。

 

「さて、最後にみんなに手を振って終わろうか」

「えー………」

「それも仕事の内なんじゃないの?」

「まあ、そうですけど」

 

 仕方ない、仕事として割り切るか。

 カブさんに操られるままに手を振らされ、ワーキャー言われながらフィールドを後にした。

 明日………どうなるんだろうな。

 

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