ジムチャレンジに参加してから早一年が経とうとしている今日この頃。
あっという間に時間だけが過ぎ去ってしまった。
結局この一年弱、これと言った迎えという迎えが現れることもなく、仕方がないのでファイナルトーナメントで対戦出来なかったジムリーダーたち、というかルリナの強い要望により、「あたしゃいいよ」と言う婆さんを除く残りの四人のジムリーダーたちとのエキシビジョンマッチをやらされたり、シャドーの奴らが潜んでないかの調査を行ったりしていたら、今年もジムチャレンジが目前にまで迫ってきていたのだ。
何度もカロスに行こうと思う反面、何のアプローチもないのに行っては時間軸に歪みをもたらしてしまうのでは? という思いもあって躊躇ってしまい、結局一度もガラルから出ることはなかった。
正直、件の日まであと一ヶ月を切ってしまっており、内心焦っているのだが、その俺の不安を誰も聞きつけてくれないわけである。そろそろ来てくれてもいいのよ、セレビィちゃん? それともアルセウスさんでも可だぞ?
割と切実な問題となっており、最近ではどこかのスクールの校庭に夜な夜な「わたしはここにいる」って落書きをした方がいいのかとさえ思えてくるのだから重症だと思う。迎えに行く場所が分からないのでは仕方ないもんな。
あるいは情報統合思念体ヒューマノイドインターフェイスさんの家で時間凍結されるのを待つべきなのだろうか。
あ、でも下手するとエンドレスサマーに突入する可能性もあるから、全て却下だな。危ない危ない。
あーあ、俺にもナガモン的なお助けキャラがいてくれたらなぁ…………。
「………………」
まあ、それくらい現実逃避しなければ、未来のこと以上に目の前の出来事を処理出来ないというものだ。
一体何がどうしてそうなるのだろうか…………。
事の発端は少し前、ワイルドエリアの砂漠地帯でとある研究者に出会ってしまったのが運の尽きだったのだろう。
彼女の名前はウカッツ。
今現在、目の前で起きていることの原因である。
「どう? すごいでしょ?」
「ウンノー!」
褒めてと言わんばかりのドヤ顔をキメている彼女は、一応化石ポケモンの研究者らしい。俺みたいに猫背で、ガラル民にしては珍しく団子鼻な所謂平たい顔族である。
化石ポケモンの研究者というとカロスの化石ポケモン研究所のおっさんたちがいるが、あっちはまだちゃんとした研究者だったように思う。
化石を採掘し、DNAを調べて古代のポケモンや生態系について研究していた。その過程で化石からポケモンを復元させたりもしていたが、このウカッツという研究者は化石ポケモンの復元の仕方が独特だったのだ。
「どう見ても復元ミスだと思うんだけど………」
「何を言う。どう見ても素晴らしい復元じゃないか。頭と身体が合っていなくても復元出来てしまう。つまり、ポケモンの化石は組み合わせ自由なんだよ」
そう。
このバカは明らかに違うポケモンの化石と分かっていながら、上半身と下半身を別々のポケモンのものを使って復元させたのだ。
「その結果がこの姿ってのはあまりにも残酷過ぎるだろ。どう見ても中身見えてるじゃねぇか」
そして、その結果。
とても残酷な姿のポケモンが生まれてしまったのである。
上半身はデカい頭だけ。まあ、オニゴーリなんて顔面しかないポケモンもいるのだし、そこはまだいいだろう。
問題は下半身である。
リザードンの尻尾を切り落とし、切り落とした根本近くの方から脚が生え、尻尾の先端の炎があったところにデカい頭がくっついているような感じ、といえばいいのだろうか。
…………どう見ても復元に失敗したとしか思えない。というかこれで成功だなんて、生まれてきたポケモンが可哀そ過ぎるだろ。
しかもだ。
この復元マシンも持ち運び出来るらしい。
見せてもらったら、ちゃんとタイヤが付いていた。
機械を持って来てまで、発掘して早々に化石を復元させるんじゃねぇよ。
「こうして復元出来たということは、かつてはこういう姿のポケモンもいたということじゃないか。ああ、なんて素晴らしい。わたしはこの感動を皆に知って欲しい!」
「別々のポケモンとしてならいただろうけど、こんな尻尾の先に頭がくっついたポケモンなんて生物としておかしいだろ」
こんなポケモンがいて堪るか。
生物全般に対する冒涜じゃねぇの?
「それはどうかな。ポケモンという摩訶不思議な生き物が存在する以上、人間の常識だけが全てではないのだから、完全な否定は出来ないよ」
「だとしても流石に中身が見えた下半身はダメだろ」
「そこはどうしようもない。こっちはただ化石を組み合わせて復元したに過ぎなくて、復元後の姿まで干渉することは不可能。よって、これは偶然の産物。わたしの本意ではない。が、研究のし甲斐はある」
こいつはアレか?
俗に言うマッドサイエンスティストってやつか?
「例えば他の化石と組み合わせるとどうなるのか。上半身と下半身の組み合わせでなければ復元出来ないのか。いろいろやりたいことはある」
まあ、気になるところではあるが、復元出来たらポケモンとして生きなければならないからな。
下手なことはやらない方が身のためだと思う。
「もっと試してみたいのは上半身と上半身の組み合わせならどうなるのか、かな」
「それはマジでやめておけ。最早生物かどうかも怪しくなりそうで怖い」
「バイバニラという顔二つなポケモンもいる。だから大丈夫だと思う」
「こいつを見てそれが言えるのが余計に怖い」
この女科学者にはその辺のモラルというか踏み込んじゃいけない線引きがないように感じる。
復元するまでどんな姿になるのか分からないのに、手当たり次第復元させていては魑魅魍魎が跋扈する未来しかない。
恐ろしい監獄世界でも作ろうとしているのかと思われるレベルである。
「あるいはキリンリキみたいなパターンになるかもしれない」
「話聞けよ」
ダメだ、こいつ。
話を聞いていないどころか、自分の妄想の世界にトリップしてやがる。
理想論だけの妄想程、恐ろしい世界はない。それが現実にしようとする輩なんぞ、どんな手段に出るか分からないからな。
ああ、そういえば、戦争を終わらせようとしてポケモンたちの生命力を使って最終兵器なるものを完成させてしまった王様もいたくらいだ。ポケモンの力というのは今も昔も毒にも薬にもなり得てしまう取り扱い注意のものなんだよな。
「………んで? 復元させたポケモンはどうするんだ?」
とにかく、今はこの女科学者が何をどうするつもりなのかを見極めたかないと、後々面倒なことになりかねない。
「それなんだけどねぇ…………わたし、化石は相手に出来ても生身となると専門外なのだよ」
「無責任にも程があるだろ…………」
だろうとは思っていたけど、いざ本人の口から聞いてしまうと無責任にも程がある。
折角生まれて来た命をほぼ放置するのは俺としても寝覚めが悪い。
でもなー……………。
「というわけで君にプレゼント」
「命に関連することを研究している奴が、そんな軽く扱うべきじゃねぇだろ、バカが。それなら研究者を辞めちまえ」
分かってはいたことだが、十中八九俺になすり付けるつもりだったか。
「それは困る。わたしから化石の研究を取ったら、何が残ると思う?」
そんなもん決まってる。
「搾りかす」
「正解。もっと言えば喪女だよ」
「あっそ…………」
すごくどうでもいい。
見るからにな回答だし、自覚がある分、尚悪い。
「君、人からよく冷たい奴だと言われたりしない?」
「しないな。人が悪いとか悪い人っては言われるが」
「あ、もっとダメな奴だったか………」
搾りかすが遠い目をしているが知ったこっちゃない。
それよりもこの頭のデカいポケモン………ポケモンという認識でいいのかすら怪しいが、こいつをどうするかを決めておかないと、この女が何をやらかすが分かったもんじゃない。
「ウンノー」
「あ、おい、こら。のしかかるんじゃねぇ…………」
「すっかり懐いてるみたいだね」
当の本人は自分のこれからが危ういということすらじかくがなく、ただただ俺に構えとのしかかってくる。
「落ち着け。取り敢えずお前の処遇を決めてから相手してやるから」
こいつの相手をしていて、処遇をどうするか決め損なってはいけないのだ、こいつのためにも。
なので、待てと落ち着かせていると、ウカッツが真面目な顔つきに戻って話し出した。
「真面目な話をすると、別のポケモンの化石をまとめて復元するとどちらでもないポケモンになるということは、ポケモンという存在を構成するDNAはどのポケモンにも共通したものがあるのではないかと考えられる。つまり、そこさえあればどんな組み合わせでもポケモンとして復元出来てしまうというわけだよ」
「それが真実だとして、そうなるとポケモンのDNAにはポケモンをポケモンたらしめるDNAが存在し、各ポケモンの姿になるにはそれぞれ別のDNAが必要といいたいのか?」
「うん、そうだね。そして、その内の一つがタイプを司るDNAだと思っているよ」
ポケモンをポケモンたらしめるDNA。
ある意味、それがミュウの言い伝えにも通ずるものがあるのかもしれない。
「リージョンフォームか」
だからリージョンフォームに至るというわけだろう。
タイプだけが変わり、根本的なところは変わらない。
「お見事。一番分かりやすい例がヒヒダルマじゃないかな? 元来のヒヒダルマはほのおタイプ。その体内には炎を作り出す器官があるっていうじゃない? そんなポケモンがガラルではこおりタイプへと変化している。だというのに、ほのおタイプの身体にもあった炎を作り出す器官は健在で、その影響によるものなのか、フォルムチェンジするとほのおタイプが追加される。これをDNAの話に置き換えると、ほのおタイプを司るDNAがリージョンフォームすることで無くなったのではなく、表に出なくなっただけ。あるいはそれより強いDNAが表に出てきて隠れるようになってしまった。ただし、その変換に対応出来たのは特性がダルマモードのヒヒダルマだけだった。ということは、だ。ダルマモードという特性すら、DNAに関わってくるのではないかと考えられるのだよ。ああ、もう! なんて素晴らしい! 古代のポケモンは浪漫に溢れているね!」
段々と早口になっていったウカッツは、遂に叫び始めた。
典型的なオタクを再現してんじゃねぇよ。
自分の得意分野になると饒舌になって声もデカくなる。そして無駄にテンションが高い。
ザイモクザと同じじゃねぇか。嫌だわー。
「ああ、やっぱりいろいろ試してみたい! 化石、化石をもっとわたしに貢ぐのだよ! さあ、早く!」
「いや、何で俺が貢ぐ前提の話になってるんだよ。俺が今ここにいるのもアンタが見ていかないかと強引に連れて来たからだろうに」
「そんなことはどうでもいいのだよ! さあ、化石を! さあでっ!?」
聞いちゃいねぇ…………。
「落ち着け。興奮すると饒舌になるとかオタクの極みだぞ」
「化石オタクだから仕方がない」
「威張るな」
ダメだ、こりゃ。
「あ、それよりあの子、岩噛み砕いてるよ?」
「はっ?」
スッと素に戻ったウカッツが見たを方を見やると、放置していた化石ポケモンがその辺にあった岩を噛み砕いていた。それも一撃で、次々と。
「おい、マジかよ………」
頭がデカい分、口も大きく開くとは思うが、一撃はないだろ。顔面しかないオニゴーリでもそうはならないと思う。
こいつ、見た目に反してあの口からの攻撃は凄まじい威力があるんじゃなかろうか。
「うーん、口みたいな形してるけど、多分あのタイプの頭蓋骨だと反転してると思うし、エラになるのかな…………エラがみ?」
「普通のかみくだく辺りではないと?」
元の姿がどういったポケモンなのかは定かではないため何とも言えないが、一応これまで研究してきたであろうウカッツが言うには、あいつの口はエラなのだそう。
だからエラがみ。
「タブンネ」
ふふんと鼻を鳴らすのが何ともウザい。
「ところで君、何者? こんな話について来れるなんて只者じゃないよ?」
「只の通行人ですけど何か?」
今更何を言っているんだ?
俺は単にワイルドエリアを歩いていただけだぞ?
それを偶々目が遭ったが最後、連れて来られて今なのだから。
「そんなわけ…………偶々引き当てた通行人が超博識だったなんて、何の冗談だい?」
「その冗談が現実だったってだけの話だろ。一生に一度の幸運を今使ったってことなんじゃねぇの?」
「一生に一度の幸運なら、この復元マシンを完成させた時点で使い切っているからそれはない」
「妙なところで強情だな」
面倒くせぇ。
どうでもいいだろうが、そこは。
「んで、こいつのポケモンとしての名前はどうするんだ?」
「あ、そっか。名前も決めないとなのか。面倒だな………ウオドラゴン………なんか違うな……ウオノラゴン………うん、なんか『ノ』の方がしっくりくるからウオノラゴンでいいや」
「適当過ぎるだろ…………」
「ウンノー!」
あ、でも本人は気にしてなさそう。というか理解しているのかすら、怪しいレベルである。
もう本人も嫌悪感出してないんだし、それでいいんじゃね?
「というわけだから、はい」
「マジで言ってる………?」
にっこりとした笑顔でモンスターボールを差し出してくる女科学者。
こいつ、笑顔を作れたんだなと場違いな感想を抱いてしまったが、それで手を引っ込めることもなく、ずっと差し出してきたまま。
「マジで言ってる」
「はぁ…………………………」
選択肢なんて最初から無いに等しいとは思っていたが、やっぱりこうなってしまうのか。
とはいえ、未知のポケモンをどう育てろと言うのだろうか。
あ、いや未知のポケモンで言えばウツロイドもそのカテゴリーに含まれるのだが、そういう系を増やしたくなかったのだ。あいつだけでも充分なのに、さらに増えるとか俺にどうしろと?
「今日一番の深い溜め息だね」
「誰のせいだと思って」
仕方なく。
本当に仕方なく、ウカッツからモンスターボールを受け取った。
あーあ、どうかこの頭デカいの改めウオノラゴンが異常枠になりませんように。