ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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11話

 現世に帰還し、エーテルパラダイスに運び込まれてから三日も経つと呼吸器が外された。

 どうやら第一段階はクリアしたらしい。

 身体も両腕が動かせるようになり、上半身も起こせるようになった。バキボキ音がなるのは目を瞑っておく。

 

「ゆっくりとお水を飲んでください」

 

 ビッケさんに言われるがまま、コップ一杯の水をちびちびと飲んでいく。

 うん………なんか帰って来たって感じがする。この口を伝って身体に染み渡るような、身体が欲してたという証。懐かしい………。

 

「では、発声してみてください」

「………ぁー………ぁー………あー? ………あー…………あーあーあー………」

 

 なんか水を飲んだからか、喉が滑らかになった気がする。

 喉奥がヒリつく感覚もない。

 これ、単に水分不足だったから声が出なかったんじゃ………。でも呼吸器を外すわけにもいかなかったのだろうし、致し方ないのかもしれない。一編には無理だものね。

 

「あーあー………いけそうですね………」

「よかった!」

「あの、お水………もっともらえませんか?」

「はい! ただいまお待ちいたします!」

 

 水の追加をビッケさんに頼むとコップを持って元気に飛んでいった。

 いやー、それにしてもよかった。一生声が出せないわけじゃなくて。身体も痛いけど起こせるようにはなったし、ようやく筋肉が呼吸を始めたって感じだ。

 まあ、それでもリハビリは必要だろうな。俺の身体が歩き方とか忘れている可能性もある。最初はよくても時間が経つにつれて動けなくなるのでは回復したとは言えないからな。そうならないためにもリハビリはしっかりと受けよう。

 

「あー……あー………。声が出せるって、それだけで喜ばしいことなんだな」

 

 この三日間のやり取りは首を縦に振るか横に振るかしか出来なかったため、思ったように伝えるのが超困難だった。一番まともにやり取りが出来ていたのが、意外にもククイ博士なんだよな………。あんな格好して変態2号の称号が俺から与えられているってのに。

 まあ、それだけ知らない仲ではないということなのだろう。と言っても指で数えられるくらいしか会ってないのだが………。それこそ、クチバでの会議がインパクトを与えているのかもしれない。自分たちの会話について来れて且つ新たな議題にされてしまうようなことを発言する非研究者ともくれば、インパクトだけは強いだろ。

 何はともあれ、カロスで偶々出逢った縁がこうして続いているのだ。ヒトカゲからの縁なのか、それよりもっと前の『親友』からの縁なのか。どれにしたって今の俺の縁はカロス地方に集中している。カロスは美しいという意味合いを持つが、人の縁がカロスに集中しているのも美しいのかもしれない。

 …………うん、何言ってんだろうな、俺は…………。声が出たことで内心超テンション爆上がりなのかもしれない。

 

「ヒキガヤさーん、入りますよー」

 

 そんなことを考えているとコンコンとノック音がして、返事をする前に白衣を着た少女が部屋に入って来た。

 名前はムーン。

 見た感じではルミルミくらいの歳の少女であるが、既に薬学研究者らしい。

 

「あー、とー………今日は何用で?」

「……………」

 

 俺が要件を尋ねると沈黙されてしまった。そして目をパチクリさせた後、ようやく口が開いていく。

 

「ゾンビってしゃべるんですね」

「おい、待て。誰がゾンビだ」

「冗談ですよ。ようやく声が出せるようになれたみたいでよかったです」

 

 ククイ博士曰く、図鑑所有者らしい。

 もう一人いるらしいが、そいつは運び屋を経営してるそうだ。

 何というか、この歳から働いてるなんてご苦労なことだよな。エックスたちにも見習わせたいものだ。

 

「あら、ムーンさん」

「ビッケさん、ヒキガヤさんの呼吸器が取れたみたいですね」

「はい! ようやくですね。あ、お水です。たっぷりありますから、どんどん水分補給してくださいね」

「あ、ありがとうございます………」

 

 ボンとベットに取り付けられている簡易机に水の入ったジョッキが置かれた。

 これを飲めとな。

 あ、あれポリタンクなのでは………?

 えっ………?

 

「ハチマン様の血中酸素濃度が正常値まで回復しましたから。本当に一時はどうなるかとヒヤヒヤしました」

「………ご心配おかけしてすみません」

「本当に何があったんですか………。ヒキガヤさんから採血した結果にわたしは驚きましたよ」

「というと?」

「何をどうしたら血中にウツロイドの毒が混ざることになるんですか!」

「あー………」

 

 やはりそう来たか。

 採血されていた時点で、こういう結果になってるんだろうとは予想していたが………。

 

「そりゃアレだ。アレがアレしてだな」

「ククイ博士からはあなたが襲撃された日から既に半年が経っていると聞いています。血中のウツロイドの毒はヒキガヤさんの身体に馴染むように溶け込み、量もまた一度や二度と刺されて毒を注入されたにしては多すぎました。それこそ、この半年間ウツロイドに取り憑かれていたかのように」

「………マジで薬学が専門なんだな」

 

 そっちに関しては最早俺は勝てないだろう。ユキノシタ姉妹はいけるのだろうか。ハルノ辺りなら何とかというところか?

 それが弱冠十二歳? 十三歳? でこれとか天才だわ。図鑑所有者という運命を引き当てたのも頷ける。

 

「大体はお前の想像通りだ。俺は襲撃されて腹と背中を刺されたんだが、ウツロイドに呑み込まれることで一命を取り留めた。そしてこのアローラ地方に来るまでずっとウツロイドに取り憑かれたままだったんだ」

「…………」

 

 想像通りの答えだったとは言え、流石に血の気の引く話だよな。

 

「ウツロイドの毒ってどんな感じなんですか!」

 

 ……………はい?

 

「……………はい?」

「ほら、気持ちいいとかゾクゾクするとか痺れるような感じとかいろいろあるじゃないですか! 

「お、おう、おう………おう?」

「ははは………」

 

 いろはすみたいに早口で捲し立てられ、逆に俺の方が血の気が引きそうである。

 何だよ、気持ちいいとかゾクゾクするとか。快楽要素なんてどこにもねぇよ。

 

「えと、取り敢えず一旦落ち着け。な?」

「いいえ! 落ち着けませんよ! こんな興奮する話! 人やポケモンの負の感情を糧に寄生し支配するウツロイドの強力な毒を体内に注入されたのに現状変化なく五体満足で生き延びている人間がいるなんて超興味深いじゃないですか!! わたし、気になります!」

 

 ………………………………。

 

「………ビッケさん。この子の頭、大丈夫ですか?」

「えと、まあ、その………『ミス・ポイズン』という異名がつくくらいの子なので…………」

 

 ………ミス・ポイズン。

 毒女ですか………。

 

「ポッ、チャマァァァ!」

「あばばばばっ!?」

 

 まさかの真実に血の気どころか意識が遠のき始めた時、彼女のモンスターボールからポケモンが飛び出し、泡を吹きかけた。

 無数のシャボン玉が目の前で弾けた時に近い状況か。一応興奮しているこの子を落ち着かせるために加減はされているようだ。

 

「くぅ〜………ポッチャマ、なにするのよ」

「ポチャポチャ、ポッチャマ!」

「落ち着け、本性丸出しでヤバい子だと思われるぞ、だってよ」

「ポッチャマ!」

「えっ?! ポッチャマの言葉が分かるんですか!?」

「いいや全くこれぽっちも。さっぱり分からんぞ。まあ、取り敢えず擬態しろ」

 

 ミウラもエビナさんの暴走に対してこんな感覚を抱いていたのかね。

 そりゃ心配して「擬態しろ」なんて言ってしまうわな。

 

「それ最早あなたの感想でしかないってことですよね。そうですかそうですか。わたし特性の健康に効く毒をそんなに飲みたいんですね」

「分かった、悪かったから勘弁してくれ。これ以上変なもん入れたら俺が死ぬ」

「………冗談ですよ………半分くらいは」

「おい」

 

 怖いよ怖い。マジ怖い。毒を愛する毒女が言うと命の危険を感じる。

 

「ハチマン!」

 

 毒女の恐ろしい冗談ともとれない冗談に悪寒を抱いていると、新たに人が入って来た。金髪で中二病患者を思わせる穴だらけの黒を基調とした服の少年、グラジオだ。

 

「声が出るようになったって聞いて急いで来たんだが………ムーンも来ていたのか」

 

 どうやらグラジオもムーンと知り合いらしい。

 

「ええ、まあ。採血結果を尋問しにね」

「え、尋問しに来てたのん?」

「そうですよ? それ以外に何があるって言うんですか?」

「逆にそれ以外の方が重要だろうが。お前は単に毒に関する知的好奇心が爆上げ状態になっているだけだ。さっさと擬態しろ」

「ムーン、お前…………」

「いいじゃない。ミス・ポイズンなんて名前まで付けられているのだから、隠す必要もないと思いますが?」

 

 この子、あれだわ。

 絶対友達少ない系だ。

 

「………オレが言うのもなんだが、友達出来ないぞ?」

 

 交流のあるグラジオですら俺と同意見らしい。

 

「あら、わたしとあなたは友達ではなかったの?」

「うっ………、分かった。オレたちの前では素でいてくれていいから、初対面や知りもしない人の前でだけは隠しててくれ」

「なら、そうするわね」

 

 おっとー?

 グラジオさん、言い負かされちゃいましたよ?

 

「………なんだろうな、この感覚。知り合いのキャラを色々と混ぜれば完成しそうだわ」

 

 ユキノの負けず嫌いなところとかエビナさんの暴走とか。

 操縦が一層難しそうだこと。

 俺はもういいや。ツンデレのんとかアホガハマとかあざといろはすとかで充分よ。あのなんか一癖も二癖もある面倒くささが可愛く思えてしまうのだから、もはや病気である。

 なるほど、恋煩いか。重症だわ。

 話を戻すとムーンという女の子は、まだよく分からないことだらけだがこちら側の七面倒な性格をしている気がする。

 

「あの、それよりビッケさんは何故ニコニコしてらっしゃるので?」

「あ、いえ、ただグラジオぼっちゃまが同年代の方といるというのが珍しいものでつい………」

「おいビッケ。悪かったから。オレだって母さんのことで一杯一杯だったんだ? その辺にしてくれ………」

 

 丸渕眼鏡の奥でくすくすと笑うビッケさんにグラジオが顔に手を当て恥ずかしがっている。

 そして、いちいち動きがザイモクザを彷彿させてくる。

 

「てか俺とはちょっと離れてね?」

「同年代というには些か離れているかもな。特にムーンとは。五、六歳は離れてるんじゃないか?」

「多分、それくらいは離れてると思う………なんだよ」

「いえ、別に。この話はグラジオが中心なのだから上がいても下がいてもおかしくないんじゃないですか?」

「………まあ、そうなんだがな。俺を同年代に加えていいものかどうか、ふと疑問に思っただけだ」

 

 言うね、この子。

 年上相手に物怖じせず、ここまで堂々と会話のキャッチボールどころかストライクを投げつけてくるとは。これだけ肝が据わっていれば、どくタイプのポケモンを入り口としてポケモン全般の知識と研究を進めていくと、次代のポケモン博士にもなれるんじゃなかろうか。

 まあ、性格がそうはさせないかもしれないが。

 

「ポチャー」

「ん? どした、ポッチャマ。って、おい…………」

 

 よじよじとベットに登ってきたポッチャマが俺の太腿の上に乗った。

 

「ポチャー」

「人の上で寛ぐなよ。遠慮ないなー、こいつ」

 

 俺とお前は初対面だよね?

 警戒心とか一切ないだろ………。

 

「な、ん、だ、と…………!」

「どうした、ムーン?」

「ポッチャマが………あのポッチャマが…………超かわいい! ロトム! ポッチャマの写真を撮るのよ!」

「おまかせロト!」

 

 あー…………。

 こいつ、もう隠しようがない程の色々と残念な奴だわ。

 

「あ、ビッケさん。おかわり注いでもらってもいいですか?」

「はい、ジョッキをお預かりしますね」

 

 相手するのも面倒なのでスルーして、ビッケさんに飲み干したジョッキに水を注いでもらうことにした。

 

「ハチマン、声が出るようになったって聞いたから、要人たちを呼んで来たぞー」

 

 ジョッキを待っている間、上半身裸に白衣を着た男がぬっと現れた。

 その後ろからはぞろぞろと人がついて来ている。

 あれ………? 秘匿案件じゃなかったのか?

 

「キミがハチマン君ですかな?」

「え、ええまあ、はい。そっすけど」

「わしはメレメレ島の島キング、ハラと申します。あの日カプ・コケコが急に雄叫びを上げたものですから、ククイ博士と急いで駆けつけてみればカプ・コケコとウツロイドが一触即発状態で、その傍にキミが倒れておりましたのでここまで運ばせてもらいました」

 

 なんと。

 この膨よかな老人もあの時駆けつけていたのか。

 というか島キングってなんぞ?

 聞いたことあるようなないような………。

 

「その節はどうも。おかけで助かりました」

 

 助けられたのは事実だし、一応礼はね。

 それよりもこの男を問い詰めないとな。

 

「で、ククイ博士。この人の量は? 俺は秘匿案件じゃなかったんですか?」

「ああ、秘匿案件だせ。ここにいるのはアローラ地方の要人ばかりだ。アローラ地方は四つの島で出来ているのは知っているだろ?」

「まあ、そこは」

「島キング、島クイーンってのはその島のトップと思ってくれていい。そして、ここにいる四人がその島キング、島クイーンってわけだ」

 

 なるほど。

 要するにアローラ地方でも最高権力者の四人ってわけか。

 となると何か考えがあるってことか。集めた四人が権力トップとなるとそれぞれの島に箝口令を発布するためとか? そうなれば、秘匿案件という話も通ることにはなるが…………果たしてそれでカバーし切れるか?

 

「そのアローラのトップ権力者を集めて何をしようというんすか? 事情を説明して各島に箝口令を発布するとかなら、カバーし切れないと思いますが?」

「別に箝口令を出すつもりはない。確かにアローラ地方はド田舎地方だし、お前のことを知っているのも少数派だろう。だけど、だからこそお前が一歩外に出れば、他地方出身のお前のことはアローラ全体に広がるだろうな」

「なら」

「まあ、そこはどうにでもカバーは出来る。覆面マスクでも被れば、アローラ中に広まろうともお前の顔を知っている者はここにいる者だけとなるだろ? それよりもだ。ハチマンの本拠地はカロス地方じゃないのか? オレはまだ外には一切情報を流してないぜ。カロスに帰るにせよ、アローラに残るにせよ、お前の意思決定が必要だからだ」

 

 なるほど、覆面か。

 人前でコスプレとか恥辱の何者でもないが、一手段として候補に入れておいて損はないな。

 それよりも何も今更なことを聞いているのだろうか。俺がカロスに帰るかどうかなんて聞かずとも分かるだろうに。

 それでも俺の言葉が必要だってことかよ。

 

「………そりゃ、帰るだろ。一緒にいたイロハが俺をあれで死んだとは判断しないはずだ。なのに、死亡発表したということは何かしらの思惑があってのことだと思う。俺はそれを知っておかなければ、どうにも動けないだろ」

「だが、お前たちを襲撃した犯人たちは半年経った今でも捕まっていない。見つかれば、色んな問題が一気に襲いかかることになるぞ?」

 

 …………ん? 半年?

 さっきもムーンが半年とか言っていたが、半年ってどういうことだ?

 そういえば、襲われてからどれくらい経ったのか聞いてもいなかったが…………はぁっ?!

 

「おい、半年ってどういうことだ! 俺は半年も破れた世界にいたっていうのか!?」

「………は? 破れた世界だと?! ハチマン、お前本当に死んでいたのか!? まさか蘇ったとでも!?」

「え………?」

「ん………?」

 

 ………………………。

 お互いがお互いの新事実に驚いて質問に質問しか飛び交っていない。

 

「ふむ、ククイ君、それにハチマン君。一旦落ち着くんですな」

「そうだな。おじさんたちも兄ちゃんも情報整理しねぇと協力のしようがねぇな」

 

 ハラさんと、もう一人初老? に近いおじさんに諭されてこの半年間? の情報交換から始めることにした。

 それにしたって半年も経ってたのかよ……………。

 

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